【勝手気ままに映画日記+山ある記】2025年1月

上州・黒滝山からのぞむ浅間山(1・22)
以下、PCのサイズに合わせて画面をつくっています。スマホ・タブレットなどですとちょっと見にくいかも(写真の配置など)しれませんが、ご覧になることはもちろんできます。

 【1月の山日記】

1月14日  高尾山稲荷山登山口〜稲荷路〜もみじ台〜一丁平〜小仏城山(670m)〜一丁
     平〜もみじ台〜高尾山(599m)~6号路〜高尾山6号路登山口
     5時間20分 11.5㎞  ↗947m↘912m(2024年4月記録による)

年頭にキリマンジャロから戻って、ボーっと過ごしているうちに早2週間。これはヤバいと、今年1回目の高尾山行きを決行。寒いので早出は嫌だなと、7時32分府中発の高尾山口行き特急で。8時10分から一番手近?な稲荷路を登り始める。高尾山登りはなぜかどうしても何時もけっこう早足になってしまうので、まあ、今日はゆっくりゆっくりと、追い越していく人もいるが焦らず道を譲って、息も切れないようにということで…。靴は修理から帰ったラッシュトレック(いつもはハイキングシューズだが修理後の感触を知りたかったので)。登りはストックは使わず、下りのみ一応1本出す。
近年あらたに作られた稲荷路の木道というか階段はあまり登る気にならないので、分岐の前で甘酒一杯のんで水分・糖分補給後、行きは小仏城山方面のう回路にぬけて、そのまま城山へ。朝の街は厳しい寒さだったが、山の上はそれほどでもなく、快晴でもあり、一人歩きを大いに楽しんだ。10時50分城山着。30分、ゆっくりインスタントのうどんとカフェラテで昼食というよりはおやつ。売店は平日なので残念ながらしまっていて、いつもここで楽しむコーヒーは断念!
帰りは展望台・石段などの登りを今日は省略せず全部歩いて高尾山頂上に12時20分。さすがに人の多い頂上…。さけて人の少ない(日当たりが悪くこの季節は寒い)6号路を下って、13時半登山口、清滝駅前で空腹のあまりシリアル・バー1本を補給してから極楽温泉に行って、入浴後、生ビール1杯・つまみは天ぷらというリッチなおやつをしてから家に戻る。富士山の写真をたくさん撮り、久しぶりにソロ登山を楽しんだ。

上(左)からもみじ平から/城山展望台から/小仏城山の頂上から

高尾山山頂展望台から

1月22日〜23日 西上州 黒滝山・四ツ又山〜鹿岳 (下仁田・下仁田館泊)
   Yツアー 女性8人、男性3人、ガイド:KM・OJ/添乗員:ST

22日 不動寺P~不動寺〜黒滝山(872m)〜観音岩〜不動寺P 
   3時間22分(休51分)4.1Km ↗457m↘456m 平均ペース110-130%
23日 四ツ又山・鹿岳登山口〜四ツ又山(899.7m)〜天狗峠〜鹿岳二の岳・一の岳(1012  m)〜鹿岳登山口
   6時間36分(休28分)3.7㎞ ↗569m↘522m 平均ペース不明(ヤマップ不調、
 でも予定よりは30分早かったので「やや速い」ペースではあろう))

久しぶり?の国内ツアー登山は、ほとんど行ったことのない上州の、岩場鎖場連続のルートというのでヘルメット持参、けっこう楽しみにしていった。下仁田の街に泊まり、そこから専用バスで登山口まで、初日は不動寺という黄檗宗の由緒正しい寺院に参り傍の不動滝を見学してから黒滝山まで。往復3時間半ほどの短いコースではあるが、頂上への急登は鎖も、ロープも、細い尾根の「馬の背」もある、なかなかスリリングな往復で、楽しかった。久しぶりなので「岩場は苦手」チーム(隊列前半)に入れてもらったのだけれど、これは待ち時間が長くちょいと失敗。
お昼は持参の湯でミニどん兵衛+蟹雑炊(うどんライス?)、それに甘酒で体もあたため、快調!

左(上)不動寺/滝の全景/そして登り出す…
  
こんな急登馬の背歩きも…/頂上も岩山でした
  
黒滝山から四ツ又山を見る。デコボコ山頂が特徴的

登山後は下仁田の街を歩き、コロッケを食べながらちょっと1杯、さらに夕飯は近くのレストランに皆で行き、しっかりしたステュ―(私は牛タンで)とワインでリッチな夕飯も。山歩き中にしてはしっかり飲んでしまってちょっと心配したがこともなくまあ快調。

2日め、昨日見た四ツ又山〜鹿岳へ 写真で綴ります。面白い道標(四ツ又山)も
四ツ又山(9時半)、4つの各ピークには仏像が建っている。修道の山の険しさ…


↓急登・急降を繰り返し(今日はおもに隊列後半部に陣取ることに)…
↓ロープ・鎖やハシゴも越えて
↓高崎の街?を見下ろす山の上。鹿岳はニノ岳にまず登り(12時15分)、そこから下って
↓鎖・梯子を越えて一の岳へ(12時50分)。ハシゴを下るのはガイドOJさん。

14時半、無事鹿岳登山口下山。その後バスで「かんら温泉」へ(15時20分)

16時半出発し2時間のバス旅行(往復バスは最後部座席で非常に楽だった)ののち、予定通り18時半新宿西口到着・解散となったた。
小さなピーク、急な登り・下りの連続で、めずらしく少々筋肉痛になりかけた登山。近い関東にもこんな面白い山があったのだなと改めで実感した2日間だった。
お土産は季節も終わりという下仁田ネギ、そして名物こんにゃく、それにフキノトウ。それも楽しんだ上州登山。

【1月の映画日記】

①型破りな教室②CLOUD クラウド③アングリー・スクワット 公務員と7人の詐欺師④東京上空いらっしゃいませ⑤お引越し 4Kリマスター版⑥オークション 盗まれたエゴン・シーㇾ⑦冬未来⑧正体⑨夏の庭 4Kリマスター版➉ポライト・ソサエティ⑪満ち足りた家族⑫敵⑬トワイライト・ウォーリアズ決戦九龍城砦(九龍城寨之圍城)⑭蝶の渡り⑮ヒューマン・ポジション⑯山逢いのホテルで⑰ゴールド・フィンガー巨大詐欺事件⑱籠の中の乙女 4Kレストア版(DOGTOOTH)⑲映画を愛する君へ⑳おんどりの鳴く前に

日本映画②③④⑤➇⑨⑫7本 前半日本映画から始まった新年でしたが終わってみるとまあ普通。中国語圏映画⑦⑬⑰は数は少なかったもののいずれも力作?私としては珍しく?ドキュメンタリー映画にはあまり気が向かなかった…。
以前は1日3本も4本もハシゴをして月に30本くらい見ていましたが、力が続かなくなってきた。当面はせいぜい月20本くらいにとどめ、いい作品を捜してご紹介していこうかなと思ったりしています。★はナルホド! ★★はイイね! ★★★は見ごたえあり!という感じでしょうか。あくまでも個人的な好み・感想ですけれど…(今年は月に最低1本は★★★をつけたいと思っています)。
(本文中赤字はクリックしてくだされば、その映画の解説回に飛べます)

昨年、東京国際映画祭で見たザ・ルーム・ネクスト・ドア』⑲、1月末から劇場公開中。
昨年3月機内鑑賞にもかかわらず紹介したBrother富都のふたり(富都青年①)これも是非見逃せない1本です。紹介してありますが、それよりどうぞ劇場へ!


①型破りな教室
監督:クリストファー・ザラ 出演:エウへニオ・デルヘス  ダニエル・ハダット ジェニファー・トレホ 2023メキシコ 125分 ★

底辺校に赴任した型破りな教育をする教師が思わぬ?教育成果を上げるというのは映画題材としては珍しくもない実話ベース(2011年のメキシコでの)の物語だが…。実話ベースであるゆえか、生徒たちの置かれた厳しい境遇は変わることなく、一人は死に、一人は母の出産した子の育児をするために教育への道を閉ざされるーこの映画の特質?は教師も弱い人間で、そのような事態に立ち向かえるわけでなく、特筆されるべき教育の成果は教師自身が否定していた全国共通テストでおもに一人の天才生徒によってもたらされるというわけで、全体のトーンは暗い。しかし、型破りの教師をいさめつつ、そのペースに巻き込まれ理解者になっていく校長の造形ー体積を学ぶ授業で水槽に潜らされたりもしてユーモラスな面も見せるーの上手さ、その浮力や体積を学ぶ授業の展開とか、なかなかに工夫され面白く見せる工夫もしている。1月第1弾の武蔵野館日曜夜はこのような映画を見に来る人は少ない。(1月5日 新宿武蔵野館 001)

②CLOUD クラウド
監督:黒沢清 出演:菅田将暉 奥平大兼 古川琴音 窪田正孝 荒川良々 岡山天音 吉岡睦男 2024日本123分

どんよりと薄暗い景色ー湖のほとりの瀟洒な別荘というのにまったく明るさも感じられずーと、わけもわからないままー転売を仕事とし、けっこうアコギな商売でネット上に恨みを買っている人が多々いるというのはわかるのだがー追い詰められ攻撃されていく主人公といういわば雰囲気はなかなか伝わってくるのであるが、彼を追い詰める人々には多分一人一人を見て行けば合理的な理由があるのかもしれないが、それらはまったくというかほとんど描かれないこと、後半は突然に銃撃戦に突入、なぜか主人公を助け銃の扱いも知っているー松重豊らが演じる暴力組織とつながっている?ーアシスタントの活躍でまあ素人集団っぽい敵味方もよくわからないドンパチの末に恋人さえも撃ち殺し(というか裏切ったという設定?)生き残る主人公と、何やら確信ありげなアシスタントの不穏な面持ちのみが印象に残るが、ウーンSNSの恐怖?というのでもないし、イマイチ焦点が定まらない落ち着かない映画だった。まあ、その落ち着かなさがねらいということなのかもしれないが…
(1月8日 下高井戸シネマ002)

③アングリー・スクワット 公務員と7人の詐欺師
監督:上田慎一郎 出演:内野聖陽 岡田将生 川栄李奈 森川葵 後藤剛範 上川周作 鈴木聖奈 真矢みき 、皆川猿時 神野三鈴 吹越満 小澤征悦 2024日本120分 ★

こちらは韓国ドラマ「元カレは天才詐欺師 38師機動隊」が原作だとのことで、なるほど!テンポ感といい、嘘っぽいリアル感といい、なかなかに日本映画離れしている?といっていいかも。内野聖陽(うまいネ、なかなか)が小心者だが10年前脱税を摘発しようとして逆に罪に問われて自殺した同僚の悲しみを忘れず復讐を測る税務署員。彼は中古車販売詐欺に引っ掛かるが、その犯人の若者が金を返すからと謝り、被害届を出さないように頼んでくる。その誘いに乗り、理不尽な脱税をするばかりか権力を笠に着て上司までも取り込んで不正をする脱税王をはめて脱税分の金を奪おうとする…。それぞれの特技や性格を生かした7人のクライム集団が結成され、部下や家族までもを巻き込みそうになりながら、一度は大失敗?のふうもみせるところからドンデン返しの成功までごちゃごちゃしているわりには見せる!ただ岡田扮する詐欺師の若者の親子関係?-がわかったようなわからんようなスタンスでゴチャゴチャ描かれるのは韓国ドラマの影響か?それとも日本オリジナルなのかはわからないが、アジアのウェット感は醸し出しているにしても、不要?じゃない?という気もしなくもない。
(1月8日 下高井戸シネマ003)

④東京上空いらっしゃいませ
監督:相米慎二 出演:中井貴一 牧瀬里穂 笑福亭鶴瓶 毬谷友子 1990日本 109分

懐かしい?相米監督作品でもこれは、多分ビデオでしかみていないはず。キャンペンガールがスポンサーのセクハラをさけようと車から飛び出したところで、後ろからの車にはねられて死亡、天国の入り口で気のいい死神をだますがごとくにこの世に戻っては来るが…というような設定は極めて映画的?なんだろうがその設定を生かすような演技をしているのはセクハラスポンサーと、死神の二役を演じている鶴瓶だけ?この映画がデビュー作という牧瀬里穂は元気よく声を張り上げ初々しさは満々だけど、まあそれだけ、彼女のマネージャーであの世に返したくなくなる雨宮を演じる中井貴一は、この人これほど大根だったかしら?と思えるような単調なぎこちなさ(言い過ぎかな?)で参った。話も割と暗く低迷?している感じで見ていていささか疲れ半分寝落ちーでも筋がわかるところがすごいと言えばすごいがー
明日は名作『お引越し』を見よう(こちらはもちろん見直しだが)と切符は買ったが大丈夫かなあといささか心配になる。(1月10日 文化村ル・シネマ渋谷宮下  004)

⑤お引越し 4Kリマスター版
監督:相米慎二 出演:中井貴一 桜田淳子 田畑智子 笑福亭鶴瓶 茂山逸平
1993日本124分 ★★

カンヌ93年の出品作。さらに24年カンヌの復元映画賞を獲った名作。見ているはずで印象は強烈に残っていたのだが、物語の細部、特に後半レンコの幻想?シーンはあまり記憶に残っていなかった…。あ、でも昨年の作品『こちらあみ子』⑧の終わりの方の海に向かっての幻想シーンはあきらかにこの映画の影響を受けているのだとあらためて思い返す。両親が離婚をする小学生レンコの動揺とそこからの自立を描くわけだが、両親も先生も決して人は悪くないのだが自立性に多分乏しく、というかともに自身の自立にのみ興味が行き、子供の力にはなれないという描き方ーそこで伝統も含めた幻想世界に自分を置くことで自立を果たしていく主人公というのはある意味『あみ子』と同じ構造だが、天才・田畑智子演じるこちらの少女は多弁、おしゃまで『あみ子』のエキセントリックさというか成長不全みたいなところはなく、そこに30年の時代を感じさせるとも言えそう。レンコに好意的な級友ミノルを演じていたのが少年茂山逸平(そうかなと思って見ていたらクレジットでなるほど確認)というのもナルホドね…さすがの配役だと思う。(1月11日 文化村ル・シネマ渋谷宮下 005)

⑥オークション 盗まれたエゴン・シーㇾ
監督:パスカル・ボニゼール 出演:アレックス・ルッツ レア・ドリュッケール ノラ・ハムザウェイ ルイーズ・ショビット アルカディ・ラデフ ロランス・コート 2023フランス91分 ★

エゴン・シーレの名画にまつわる話?ということで興味をひかれて見に行ったが、画そのものの秘密が解明されるとかいう筋ではなく、戦後50年以上たって「頽廃絵画」としてナチスに略奪されたエゴン・シーㇾの『ひまわり』発見にまつわる競売人やその相棒にして元妻、発見者である夜勤工場労働者である青年とか、競売人のもとでインターンとなった女性の父親との確執とか、むしろそういう人間模様を描くことに映画の主眼は置かれている。
上映後クリスティーズ・ジャパンの社長山口桂氏とWeb版『美術手帖』の編集者橋爪氏の対談トーク(というか橋爪氏が山口氏にいろいろ伺うという形)が行われたのでこの回に合わせて見に行ったが、山口氏からはこのオークションや競売人(スペシャリスト)の仕事が「リアル」に描かれているという話もあり興味深く聞いた。
工場労働者の青年が買った家の元の持ち主の遺品にあったエゴン・シーレを見つけ、大切にはしているが巨額の値のついた作品価値に踊らされることなく、最後に持ち主から送られた10%?かの金で自身にはエレキギターを、母親には家を買ったという話が一種の美談的に出てきて金かねで動くようなオークション界の中でホッとさせるような構造にはなっており、主人公の競売人たちもこの青年に好意的であるふうに描かれるが…。庶民のアートに対する愛好と金で作品を売り買いする世界との乖離が感じられるのでもありーそこに一石を投げかけたっていうことなのか…とも感じられる。(1月11日 文化村ル・シネマ渋谷宮下 006)

⑦冬未来
監督:曾 翠珊 2023香港(広東語・英語)102分


新界・西貢
蠔涌村(作者の出身地だそう)で2020年に開催された10年に一度の祭り「太平清醮」の記録。コロナ禍のもと祭りをどのようにやるのか、やれるのかの議論ーさすが、フィリピンから出稼ぎに来ていて帰れなくなった人、また帰国中にコロナ禍発生で戻れなくなった人、街の人の流れの変化の中で新しいつながりを模索してミニコミ誌を作る双子の青年(後のトークで、こういう若者の動きは香港では2019年以後盛んにおこなわれたと言われる)とか、前回2010年の開催後の香港の社会の変動やコロナ禍を含めて大きく変化・変容をしている香港社会とそこに生きる人々を描く。変化も大きく、人々の先行きの不安などもあるはずの社会なのだが、画面は驚くほど静かで、パニックになったりすることもなく状況を受け容れながらその日その日をできる限り楽しみつつ乗り越えて行こうとする人々を描いて穏やかで明るい雰囲気に満ちているのは作者の郷土愛によるものだろうか。伝統を絶やさずに新しい街を作っていこうというような意欲が満ちている感じ。『雨傘革命』とか『時代革命』とか、さまざまに絶望しつつ戦う青年たちの映画を見てきた目としても、そのあたりにこの映画の存在意義があることを感じさせられる。終わって小栗康太氏、監督:曾翠珊のトークが、倉田明子氏の司会で行われ、これが「太平清醮」の記録部分についてはともかく、他の部分ではそんなに目新しい情報があるわけではないが、ナルホドと自分の間隔を整理される感じで納得。ただし通訳女性(香港人?)のお粗末さにはちょっと参った。また、今香港から他国に移民していく人々のことが直接的な描き方になっていないことについては、やはり香港政府の検閲を意識し、香港内での上映を目指したいという監督のことばに納得しつつ、それがこの「穏やかさ」につながっているとすればどうなんだろうと、いろいろ考えさせられてしまった。
(1月13日 東京外国語大学TUFS CINEMA上映会 007) 

⑧正体
監督:藤井道人 出演:横浜流星 吉岡里穂 森本慎太郎 山田杏奈 山田孝之 2024日本120分 ★★★ネタバレあり

11月末に始まったこの作品、いよいよあと3日ほどで終わるということで、急遽1日1回のレイトショーにめげずに見に行く。大河ドラマで横浜流星という人を知ってなるほど、とつながった面もあり。で、意外に、『新聞記者』①の藤井道人テイストの映画であるのにビックリ。早速kindleで読んでいなかった染井為人の原作を購入。読むとははあ…。原作の後書きに「主人公鏑木慶一を殺さないでほしい」という声があったというようなことが書いてあったが、原作で死ぬ鏑木、映画の方では再審請求が通って無罪になるその場面まで描いてエンタメ性を込めた大団円になっている。最後の介護施設に鏑木が同僚の舞と被害者の母由子を人質にして立てこもるシーンもアクション的見せ場(鏑木が撃たれる)や、舞が立てこもりの様子をインスタグラムとして実況中継するという原作にはないきわめて現代的なシーンとして盛り上げる。一方で鏑木がひそかに愛するようのなる安藤紗沙耶香は田中哲司扮する父の弁護士が痴漢の冤罪、それを支えて闘う娘という設定で原作とはかなり違った造型だが、そのことがこの映画に視覚的にも社会性を与えているようにも思われた。原作にはない、拘置所を訪れた刑事に「何故逃げたのか」と聞かれた鏑木が「外の世界がいい世界であることを知り、いい人たちと出会えてよかった」というような答えをするシーンは原作にはないのだが、鏑木自身が「いい人」であることを逆照射しているのでもあり、映画的にはすごく納得できて印象に残った。というわけで、予想外の満足いく映画体験を久しぶりにした気がする。高尾山(小仏城山まで縦走往復)に登った夜の鑑賞であるにも関わらず眠くもならず。なお、身一つで逃げる主人公が身だしなみを整えて新しい仕事を転々とする「非現実」は映画的省略によるものかと思ったが、これは原作の設定でもありーウーン。まあ主人公の有能性ということで納得するしかないのだろうか。(1月14日 TOHOシネマズ府中008) 

⑨夏の庭 4Kリマスター版
監督:相米慎二 出演:三國連太郎 戸田菜穂 坂田直樹 王泰貴 牧野憲一 淡島千景 笑福亭鶴瓶 柄本明 1994日本 113分

1994年初公開時は劇場では見ていないーと思う。湯本香樹実の原作は読んだ。で、映画に出てくる子供たちサッカー少年の3人の個性がちょっと古典的?現代にはいなさそうな感じもなくはなく、なかなかに面白い。特に魚屋の息子で老人から関取と呼ばれるサッカーチームのゴールキーパー山下はなかなかいなさそうなタイプだし、もう一人父が二つの家庭を持つことを悩むトンボメガネの河辺はこの時代から現代への橋がかりになるような少年で、フツウぽい木山のトリオはなんか奇跡という感じもする。老人役三國は名優だけれども、セリフ回しは元気がいいが素人っぽいしかしエネルギッシュな少年たちとの共演(競演?)はなかなか大変だったろうなあとも思えてしまった。三國以外はなんか演技がヘタというか、声を張り上げて昔っぽい感じがするのはまあ仕方ないんだろうけど。ひと夏「死」というものに近づく子供たちの物語。最後の葬儀場面の俗っぽさの皮肉がきいている。子供って今の例えば私たちよりもっと死に近い存在なのかもしれない。そういう子供たちが「死について考える」映画っていうのは子どもにどんな影響を与えるのだろうか。そんなことも考え、30年後の(半分は鬼籍に入り、半分は老人化した)登場人物に感慨を催す。
(1月16日 キノシネマ立川 009)

➉ポライト・ソサエティ
監督:ニダ・マンズール 出演:プリヤ・カンサラ リトゥ・アリヤ アクシャイ・カンナ ユーニス・ハサート 2023イギリス(英語・ウルドゥ語) 104分 ★

ボリウッド・マサラムービーの乗りで作られたイギリス映画。監督はインド系英国人で、描かれる家族もロンドン在住のインド系である。カンフー大好きスタントウーマンになりたいと願う高校生が、見合いでとんとん拍子で決まっていく姉の結婚相手(とその母親)を不審に思い、友人を巻き込んでなんとか結婚を阻止しようと結婚式当日までガンバル話。で、チラシなどによれば家父長制・ルッキズム・スクールカーストに立ち向かう、とかバラク・オバマの23年度のお気に入り映画に選出されたとか、なかなかに社会制も十分?な感じの惹句に満ちているが、ウーン。確かに少女とその姉に立ちはだかる社会は女性を差別するような厳しい伝統社会に基づくのではあろうけれども、彼女たちもある意味ではそこに乗っかり映画もむしろきらびやかな伝統的な花嫁衣装や、その妹として晴着に身を包んだ妹が「悪人」の花婿の母(これがまた何とも怪異的な描かれ方)にカンフーを駆使して立ち向かうきらびやかなビジュアルの方がむしろ売り物という感じで???まあ、それはそれで楽しめなくはないけれど…自らの才能に疑問を感じ絵をかくのをやめた姉に何としてももう一度絵を描かせたいと考える妹の善意の強引さも気になるところ。「クローン」が絡んだ花婿一家の「謎」はやはり現代映画らしく、なるほどルッキズムもこういう感じで描かれるのねとちょっと感心というかビックリ。ユーニス・ハサート(英国のスタントウーマン)はヒロインのあこがれるスタントウーマンとして本人役(ただし写真と電話だけ)で出演とのクレジット(1月20日 下高井戸シネマ 010)

⑪満ち足りた家族
監督:ホ・ジノ 出席:ソル・ギョング チャン・ドンゴン キム・ヒエ クローディア・キム 2024韓国 109分 ★★

ホ・ジノが、というべきかあるいは韓国映画はやっぱりというべきか、なんかうまいんだよなあ…。兄は弁護士で依頼人にたとえ非があっても依頼を受け支払いを受ける限りはその役に立つという心情の持ち主、弟は外科医で「助ける」ことに全力を注ぐ。実生活でも妻亡きあと再婚した若い妻と生まれた子、高校生の上の娘と豪邸に住む兄、弟の方は妻に認知症の母の介護をさせながら高校生の一人息子を育てる。二人の子供たちは同級生で、意外に仲良し?だが娘の方が従弟をリードしている感じ。両夫婦は月に1回食事を共にするーというのが「満ち足りた家族」の設定だが、ある食事会の日、両親の留守に遊びにでかけた子どもたちが事件を起こし、それがSNSで拡散されてしまう。そのことから夫婦たちの間、兄弟の間に広がる見解の違いや対処方法についての差がやがて…、というわけだが、要は「恐るべき子供たち」ー親たちのようには良心のかけらも持ち合わせない現代の子どもたちに戦慄しつつ彼らのために道を記してやることもできない親の苦痛や不幸を描いたともいえてーそこに絡む弁護士としてまたは医師としてかかわる他の犯罪者や被害者の事件がからみ、兄弟の対応が途中から逆転し最後の悲劇へと突入するまでが煽情的な音楽とともに息もつかせぬ感じで描かれるのは、やっぱりさすが!韓国映画!という思いを禁じえずに見る。(1月21日 渋谷ユーロスペース 011)

⑫敵
監督:吉田大八 出演:長塚京三 瀧内公美 河合優実 黒沢あすか 2023日本 108分

昨秋東京国際映画祭で賞をたくさん?獲った作品の公開。原作は筒井康隆だが、その原作の老人と比べるとだいぶスキッとした長身でそんなに老いたという雰囲気を感じさせない元大学教授の渡辺儀介(長塚京三)がモノクロ画面の古びた住宅内で静かに丁寧に暮らしていく様子から、絡んでくる教え子、行きつけのバーでバイトをする店主の姪という立教大仏文科の学生ーなんかいい気分?になっていると現れる亡くなった妻、そしてやがて現れる「敵」と、先の長さを持っているカネの額で測っている老人というのはなんか身につまされる気もしながら見ていたのだけれど、どんどん妄想世界に入っていく感じでウーン、これが老人の心情なのか…。遺言で甥?に家を残すが、この家を売るな、大事に守れというのはなんかなあ、いまどきの老人の心情としてはむしろレアかも…。まあ思い出を大事に生きている人という設定なのだろうが、このあたりは全然共感できない感じも…(1月21日 渋谷ユーロスペース 012)

⑬トワイライト・ウォーリアズ決戦九龍城砦(九龍城寨之圍城)
監督:ソイ・チェン 出演:レイモンド・ラム ルイス・クー サモ・ハン リッチー・レン テレンス・ラウ トニー・ウー ジャーマン・チャン フィリップ・ン 2024香港(広東語)125分 ★★

秋の東京国際映画祭、同時期に行われた香港映画祭の上映作だったが、時間も合わず、チケットも取れずで、すでに劇場公開が決まっていたのでそれを待っていた話題作。
1980年代の九龍城をセットに組み(5000万香港ドルだそう)、そこに老若の男たちが入り乱れる活劇ー香港映画らしくちょっと30年前の父子の因縁もからみーである。老若といっても老世代の(サモ・ハンはともかく)ルイス・クー、リッチー・レン(白髪たてがみのカツラがすごい!)と、息子世代のレイモンド・ラムの実年齢差は10歳ほどだし、他の若者世代も信一、十二少、四仔を演じた役者たちは30代も半ば?という感じの人々で、いずれにせよアクションの切れはよく、高層の九龍城から落ちたり、壁伝いに駆け上がったり、もちろん闘ったり、適宜ケガもするものも皆不死身?で、息もつかせず見せる。ネタを知っていればチラリと笑える「日本語通」や「日本びいき」ー田原俊彦似の(ずっと覆面、医師なのでブラック・ジャック風?を最後に取るが実は全然似ていなかった)四仔とか、敵役王九の超絶気功アクション(ホントに不死身)とか彼がカラオケで歌う『MACNICA』の替え歌(オレ様感満載)とかも香港映画っぽく、とにかく懐かしい感じもするもするのは、やはり題材が返還前、ベトナムからのボートピープルがたくさん移入していたころの時代を描いているから?そして九龍城が単に悪の巣窟みたいな怖い場所としてではなく、そこで魚をさばいたり、食堂をしたり、さまざまな商売をしている人々の普通の姿を描いているからかなとも思う。女性は主な登場人物としてはまったく出てこないが、その九龍城の住人の中にチラリとセシリア・チョイとかフィッシュ・リウとかが出てくるのもなんかすごく贅沢な使い方で印象に残るように作られている。
クッレジット等によれば浙江省とか上海とかの映画公司の名も出てきて、当然?香港上映可能な映画は大陸資本で作られているのだろうが、そこで「香港」を描くとすればこんなふうな「時代劇」風になっていかざるを得ないんだろうなと、それがだんだん洗練されていくのも感じ、それは香港映画の逞しさ?でもちょっと淋しさでもある?(昔の香港アクション映画に比べたらCG技術などの差もあるんだろうが、全体にとんでもなくお金がかかっている感じもする)アクション監督と日本語字幕の監修は日本人谷垣健司、音楽も日本人川井憲次。ただし、邦題、日本版のポスターのビジュアルなどはあまり感心しない(ので冒頭には香港版ポスターを掲げてみた、意外に暗いけれど…)。(1月24日 立川シネマ2 013)

⑭蝶の渡り
監督:ナナ・ジョルジャゼ 出演:ラティ・エラゼ タマル・タマタゼ ナティア・二コライシュビリ 2023ジョージア(ジョージア語・英語・イタリア語) 90分 ★

『金の糸』⑧(2019)で79歳のヒロインを演じたナナ・ジョルジャゼ(1948年生まれ)は自身が著名な映画監督で、そのいわば集大成的作品がこの映画だそう。
出だしはスターリンの像をかが倒される1991年当時のモノクロのドキュメンタリー映像で、このころ若かった仲間たちのビデオ映像を、27年後(2018年?)に中年というか老境に差し掛かった同じメンバーが見ている映像が重なり、この時点での仲間たちの集まりの様子が、主人公の画家コスタの半地下の家をおもな舞台として描かれていく。人物の出入りが演劇的で、その場での人物の行動や会話で綴っていく感じなので、何となくとりとめない感じもし、長年の恋人が絵を買いに来たアメリカ人のコレクターとともに去ってしまうコスタの状況の受け入れ方とか、同じように?イタリア人の蝶学者と共に去ろうとする(しかしイタリア人の方はジョージアの蝶が面白いからここに住むと食い違うのだが)もう一人の女性の姿とかも間に通訳が立つ丁寧な場面として描かれていくのもウーン、要はよく注意して見ていないと物語の語りではないのだけれど、しかし、それぞれの場面から彼らの91年当時のいわば解放の喜び(何度もモノクロドキュメンタリーは挟まれる)と、それにもかかわらずそれほどすばらしい点かにはならなかったのかもしれない27年間、そしてそれでもより良い生活や生き方を求めてフットワーク軽く生きて行こうとする意志のようなものが浮かび上がってくるのは、ものすごく映画としては成熟していて面白いと思えた。ジョージアは残り少なくなってきた「行ってみたい国」だなあ。(1月27日 新宿武蔵野館 014)

⑮ヒューマン・ポジション
監督:アンダース・エンブレム  出演:アマリエ・イプセン・ジェンセン マリア・アグマロ 2021ノルゥエー 78分 ★★

公開は昨年9月。気になりつつも優先順位は高くなく見逃していたが、いよいよラストチャンス?というわけで夕刻からの下高井戸シネマへ。平日夜近いので若い人が多いかなと思ったが意外に人も入っていた。映画としては好みがわかれる?出だしはノルウェーの港町、丘の上から港を眺めるあたかも静止写真?と思われるような長い時間のあとに女性が一人画面に歩いてくる点景から。全体がそういう感じでとても工夫されたアングルの静止画的背景に登場人物が入って(また出ていくことも)行くという画面がとても多い。また人物が最初から登場しているシーンもそんなに大きな動きはない静止画的長回しで、これって好みは別れるだろうなあという感じではある。一場面一場面、そんなに派手さはないが、北欧的オシャレさで物が配置されていたりして、落ち着いた穏やかな心地よさはある。登場人物女性二人も派手な言動はないのだが、お互いを大切に思っている感じは満ちていて、主人公アスタ(腹部の手術をして休職明けのローカル紙記者)のイライラ?も彼女の表情や、動きのない動作のみであらわされ、それが解消し、前に向いていく様子も決して具体的に示されるわけではない。難民申請をして10年、職場がつぶれ難民申請が却下され強制送還された?人の事件を彼女は取材する。その人が残したイスが一つのキーにはなっているのだが、それで事件が劇的に展開するわけでなく、全体に画面構成の妙と「雰囲気」によって納得させてしまうのはなかなかかな。パートナーの椅子職人にして音楽家の女性ライブ(という名も)がいいのかもしれない。(1月27日 下高井戸シネマ 015)

⑯山逢いのホテルで
監督:マキシム・ラッパズ 出演:ジャンヌ・バリバール トーマス・ザーバッハ― ピエール=アントワーヌ・デュペ 2023スイス・フランス・ベルギー92分

「山逢い」という邦題はシャレか?とうさん臭さを感じながらもあえて見に行ったのは、確かNHK(地上波に変わった)ワールドニュースで藤原帰一氏が紹介していたのを覚えていたのと、アルプスの景色がとーっても美しいという惹句にひかれ?内容としてはウーン、見る前から趣味じゃないような気はしていたが、やはり…。
障がいのある息子と暮らしながら(もはや育てながらの域を超えた大人の息子)毎週、白いドレスに身を包み山間のホテルに出かけ、偶然会った男性と一時の逢瀬を持つ女、ってきちんとしたリゾートホテルだと無理じゃない?と思ったら、やはりチップで男の客を「紹介」するフロントマンがいて(モチロン、闇だが)ま、そうだろうね。しかしそうまでして男との関係を持ちたいって、まあ、人にはいろいろな趣味嗜好があるから性愛もその一つであって、毎週出かけるっていうには、毎週山に行ったり映画を見に行ったりする自分と同じとみればいいのかなとは思いつつ、なんか肉食獣的世界?(肉食獣に失礼か)のような気も。
その女性が、一人の男性と一時ではない関係を持ってしまい、家を売り息子を施設に入れて旅立つ男について行こうとするわけだが…。映画紹介等では献身的母の自立への旅立ちみたいな評価をしているものもあったが、むしろ息子に依存していた母がようやくその依存から立ち上がろうとするがやっぱり…しかし息子も自立へ歩みだし、家も仕事もないしどうするの?みたいな感じの方が強い気がして主人公にも相手の男にも全然共感が抱けない。中年の激しいベッドシーンも久しぶりに見たが、それもなんか類型的な描き方で「男目線」の映画という感じもする。ただスイスアルプスの山々だけはわりとリアルな(絵葉書っぽくない)美しさというか迫力で、これはまあまあ。撮影は『トリとロキタ』⑤などタルデンヌ兄弟の作品を手掛けたブノワ・デルボーという人。(1月28日 シネスイッチ銀座 016)

⑰ゴールド・フィンガー巨大詐欺事件(金手指)
監督:荘文強(フェリックス・チョン) 出演:梁朝偉 劉徳華 蔡卓妍 任達華 方中信 太保 姜皓文 マイケル・ニン カルロス・チャン 2023香港・中国 126分 ★★

1974年香港にわたって
来た程一言は知り合った曾剣橋と組んで、悪質な違法取引によって足場を築く。雇った秘書張嘉文の名を冠したたくさんの会社からなる「嘉文集団」を作り、法の隙間を縫って財を作っていく。当時警官の汚職を摘発するために作られた廉政公署(ICAC)の捜査官劉啓源は程の罪を摘発するために彼を追い続けるが…ということで96年返還直前まで、その攻防というか程のすり抜け具合や、途中では劉が家族ぐるみ命をねらわれるようなハラハラシーンもあったりして、話が終わるまで20年近くが描かれる(それだけ追って懲役3年の判決というのもなんだか…だが)。
とにかく20年近くを演じるトニー・レオン、アンディ・ラウ、それにサイモン・ヤムの「若さ」からやや老いというか中年への変化にまずは驚くー撮影技術なのか化粧?なのかサイモン・ヤムなどは「細面」でビックリ。いずれも60代に入っていて、サイモンなどは70近いというのに…。もう一つ言えば、返還前の金融都市香港の雰囲気や、当時からのベニンシュラホテルとか金門大厦とか香港の市街というのか街並みも再現されている映像にウーン。前回見た『九龍城砦』と同時期、しかし住む人も街もまた違う一角というのが楽しめる。で、この映画、当時マレーシア華僑陳松青という人と彼の会社「佳寧集団」がひき起こした巨額の詐欺、汚職、殺人事件などがモデルになっているとか。なるほどね!
フェリックス・チョン自身が脚本に参加した『インファナルアフェア』(2002劉偉強・麦兆輝)以来のトニーとアンディの共演作としても話題になっているが、繰り返し二人の若さ、トニーのかわいげ(色気?)、アンディの生真面目がほんとに昔以上っていうのもすごい…
実は昨年11月ネパールへの大韓航空機の中で日本語字幕版(多分普通話版。今回は広東語版だったが、クレジットには普通話吹き替えの役者名がずらり)を見たのだがやはり機内では集中しきれないというか、お金が飛び交う話について行けずほとんど頭にはいっていなかった。で、劇場で再鑑賞。平日午後にもかかわらずけっこう満席に驚く。(1月29日 TOHOシネマズ新宿017)

⑱籠の中の乙女 4Kレストア版(DOGTOOTH)
監督:ヨルゴス・ランティモス 出演:クリストス・ステルギオゲル ミシェル・ヴァレイ アンゲリキ・パプーリア マリア・ツォニ クリストス・パサリス アナ・カレジドゥ 2009ギリシャ 96分

女王陛下のお気に入り㉚」(2018)「哀れなるものたち㉚」(2023)「憐みの三章⑧」(2024)と(モチロンその前の『ロブスター』(2015)『聖なる鹿殺しキリング・オブ・セイクリイド・ディア⑱』(2017)と、なんか気持ち悪いし、決して好きな世界というわけではないのにも関わらず、むしろ怖いもの見たさという感じで見続けてきたヨルゴス・ランティモスの3作目、日本最初の公開作(1,2作は未公開)これは未見だったので、出かける。
ギリシャのある家族、父は一人車で出かけ家内の用足しはすべて行う。家は広々として居心地のよさそうな庭もプールもあるが高い塀で閉ざされ、中には生まれてこの方外に出たことがない長男・長女・次女(3人とも20歳前後の成人だが、いずれも名前がないようで、長女は後半「ブルース」と自分の名をつける)と、事情は分かっているようだが子どもたちとともに閉じ込められた生活を送る母とが暮らす。
素直な子どもたちは父母の言うがままに暮らしているようだが、その遊び方(熱湯に誰がいちばん長く指をつけられるか競う、とか刃物を持ち出してのケンカとか)はやはりけっこう不安をかきたてるし、成人した息子のの性欲処理に父親が外から目隠しをさせて女性を連れてくるーこのショッキングシーンが映画の出だしで、雇われた女性がこの一家に持ち込む外の世界が波乱を起こすことになるのは予想どおり。長女は雇われた彼女とある交換条件でビデオテープを手に入れる。
この家ではテレビはないようで(ま、当然)ビデオ装置はあるが映すのは家族の過去の映像、音楽を聴く場面もあるがフランク・シナトラの楽曲は父親がこの家族に合わせた翻訳をいれて聞かせる。ことばも「高速道路」は「強い風」とか「電話」は「塩」とか外の世界につながるものには別の意味を教えるというーこういう環境で暮らす子どもたちについては映画で語る範囲で納得できるが、父の狂信的狂暴な支配性(伴う労力がものすごい)の異常さの方がどうも勝っている感じ。こうまでして家族・子供を守るという名目で支配することは意味というより情動の世界なのだろうかとも思われる。
長女が手に入れたビデオテープで、『ロッキー』や『ジョーズ』、『フラッシュダンス』を知り影響を受けて目覚める過程が後半ということになる(長女が一家のパーティで踊るフラッシュダンス?が何とも不気味にユーモラス)が、まあ少し前の「現代
的」なんだとは思うが、これでは父の異常さには太刀打ちできないだろうと思われる。そして、やはり太刀打ちできなかった?という結末も…。原題の『DOGTOOTH』は、「犬歯が生え変わったら外の世界に行ける』という父の(モチロン嘘の)教えから…。子どもたちはそれを素直に信じるわけである。
最初の上映やネット配信ではそこら中にぼかしが入っていたらしいが、今回はぼかしなしの「丸出し映像」でそれが全然エロティックさのない不気味さでもあり、効果を上げている感じ。そして後の作品で多用される不気味な効果音?がなくてとっても画面が静か(子どもたちの犬の吠え声とかはすごいが)なのも意外だったが、効果をあげているランティモス世界だった。(1月30日 文化村ル・シネマ渋谷宮下 018)

⑲映画を愛する君へ
監督:アルノー・デプレシャン 出演:ルイ・バーマン ミロ・マシャド・グラネール サム・シェムール サリフ・シセ フランソワーズ・ルブラン ドミニク・バイーニ ショシャナ・フェルマン(本人) ケント・ジョーンズ(本人) マチュー・アマルリック(本人) 2024フランス 88分

『そしてぼくは恋をする』(1996)『あの頃エッフェル塔の下で』(2015)でマチュー・アマルリックが演じた主人公ポールの6歳、祖母との映画見物体験から始まり、14歳、22歳。30歳(アフリカ系のサリフ・シセが演じている)のポールのエピソードをそれぞれの年代の別の役者が演じ、1章は映画の創成期ということでエッフェル塔が立ち上がっていく様子を時間の経過で表す「映画」の始まりをエジソンやリュミエールから説き起こし、各時代のさまざまな50作品以上の見せ場と映画に関する批評家や哲学者などのことばも織り込みながら、7章?(だったかな8章かな?)にわたり作者自身の考える映画について語っていくという半ドキュメンタリー?(上記(本人)は本人が本人として出演し本人を演じて?いるドキュメンタリー的部分)的盛沢山映画。引用された映画は時代も製作国も多岐にわたりカンフー映画も含まれる。なかで『フローズン・リバー』(2010コートニー・ハント)に出ていたネイティブアメリカンのミスティ・アッバムのこの映画以外の映像とかを沢山織り込みその死を惜しんでいたのが印象的。確かに主役のメリッサ・レオよりずっと印象に残ったけれど、デプレッシャン、よっぽどこの人に心をひかれていたのかななどとも思う。映画好きがとにかくひたすら映画について語るというので心はひかれるが、とてもじゃないがついては行き切れないとは思える。
(1月31日 新宿シネマカリテ 019)  

⑳おんどりの鳴く前に
監督:パウル・ネゴエスク 出演:ユリアン・ポステルニク パシレ・ムラル アンゲル・ダミアン クリナ・セムチウク 2022ブルガリア・ルーマニア 106分 ★

始まる前に(若そうな)監督の映像で、面白かったらSNSで広げてください。つまらなかったらウソをついてね、と人を食った挨拶(笑)。で、どうでしょう。まあ「おんどり」というか「にわとり」はこの小さな閉塞的(村長たちにとっては決して閉塞的ではないかもしれないが)排他的な村の殺人事件と、そこにかかわることを有形無形に許されない警官自身の目に映る光景の象徴ということか…。本人自身もあまりやる気なく、警官の仕事より、街に持っている小さな家を売って果樹園を買い結婚して子供を持つことを願うというより寂しいから気持ちがそっちに行くという感じ?のイリエ(服装も風貌もいかにもやる気なさそう)という男の意外な良心が、被害者の妻が村から排除されて行こうとすることや、熱心に事件を調べていた新任の見習い警官が半殺しに会うことなどで、目覚め葛藤していく様子がじっくりと描かれて、終わりの(制帽をきちんとかぶり、シャツの第一ボタンもはめて)死地に赴く場面の血みどろまで、なんか一種の現代西部劇のような構造を感じさせる。批評の中にはコーエン兄弟(「ファーゴ」1996だろう)と比べているものもあり、納得しつつウーン、いや、イマイチかな。フランシス・マクドーマンドの持っていた迫力がこの主人公にはない。それが現代的というものかもしれないが。それと犯人像とその行動のいやらしさもなにより現代社会的かも。
(1月31日 新宿シネマカリテ 020)

書きました! よかったら読んでください!


●よりぬき【中国語圏】映画日記
「移民的世界」と無言で語る李康生ー秋の映画祭から『白衣蒼狗』『ブルー・サン・パレス』『黒の牛』

TH叢書NO.101アトリエサード/書苑新社 2025・2

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