【勝手きままに映画日記】2018年4月

①花筐➁ブランク13③ゆれる人魚④去年の冬、きみに別れ⑤ナチュラル・ウーマン⑥ロープ戦場の生命線(A PERFECT DAY)⑦ジュピターズ・ムーン⑧ペンタゴン・ペーパーズ最高機密文書⑨北の桜守➉スイス・アーミー・マン⑪クソ野郎と美しい世界⑫あなたの旅立ち綴ります⑬ゴーギャン タヒチ、楽園への旅⑭ダンガル きっと強くなる⑮花咲くころ⑯早春(DEEP END)⑰The Promise 君への誓い⑱聖なる鹿殺し⑲しあわせの絵の具 愛を描く人モード・ルイス⑳タクシー運転手㉑ザ・シークレットマン(MARK FELT WHO BROUGHT DOUN THE WHITE HOUSE) 



①花筐

監督:大林宣彦出演:窪塚俊介 満島真之介 長塚圭史 柄本時生 矢作穂香 山崎紘奈 門脇麦 常盤貴子  原作:壇一雄 2017日本 169分 

 

ガンで余命宣告を受けている大林宣彦「戦争三部作」の最後の1本ということで、前にメイキング・ドキュメンタリーやニュースをみていたので興味深く見に行く。夜7時半の1日1回興業の観客は20人ぐらい?で快適だがちょっとさびしい?大変くっきりした絵のような風景とそこに切り張りしたようなくっきりした人物。1941年太平洋戦争前夜の唐津が舞台で、登場人物は大学予科の17,8歳の学生たちと、周辺にいる女学生たち。そして主人公榊山俊彦の叔母で、この一家は瀟洒な洋館・和風の座敷を持つ屋敷に住み、まあ何をして暮らしているのかわからない「お金持ち」の人々で、風俗も戦争前夜というよりは大正ロマンティシズムに彩られている感じ。情報としての戦争は主治医や、家政婦、また学校教師など外からやってくる感じではあるのだが、青春期の彼ら(演者の顔ぶれから見てもわかるように、特に男性陣は、昔の人ということを勘案しても17歳とはとても見えないが)が外からの戦争を自分の内なるものとして取り込み、飲み込まれ、苦しんでいく様子はよくわかる。演技はだれもとってもわざとらしく、セリフ回しも舞台劇のようだし、映像もリアルというよりは一種の様式美を追及している感じだが、これはまあ意図的なものなのだと思う。子どもたちが日の丸を持ってひな壇のような崖?に佇み、歩き、そこに愛国行進曲が流れ兵士の群れが交信をする、というようなコラージュは、ちょっと黒沢明の晩年の作品『夢』を思い出させるようなところもあった。それらが効果を上げているのかどうかはちょっとわからないのだが(その仰々しい映像美に目が行ってしまうところがあるので)とにかくくっきりはっきり印象に残る作品であるのは確か。音楽に関してもうるさいほどにクラシックから、謡曲、それこそ愛国行進曲まで含めて多様に目くるめくというか耳うるさいほどに絶え間なく流れている。好みに合っているかどうかというと断言に躊躇するところはあるが、169分という長尺で、直前に夕飯を食べワインを飲んだにもかかわらず眠気ならなかった、というのはやっぱり大したものなのだろう。(4月5日 ポレポレ東中野) 


②ブランク13

監督:斎藤工 出演:髙橋一生 リリー・フランキー 神野三鈴 斎藤工 松岡茉優 佐藤二朗 原作:はしもとこうじ(実話に基づく)2018日本 70分 


前半は、同姓のにぎやかな葬儀と傍らで営まれる父のわびしい葬儀からはじまり、主人公の幼時の記憶を含む父が家を出ていくまでの経緯と、その父が余命3カ月となり入院しているということが知らされ、そして父の死(家出も死も直接描写されることがないきわめて品のいい描き方)、後半は父の葬儀の参加者が次々に挨拶をし、父がそこで家族に見せていたのとは違った一面を持った「いい人」であったことが明かされるというちょっと舞台劇的なワンシーン撮影。いい人ぶりが案外図式的にお人好しで、自分は困っていても他人の面倒を見る人という方向にワンパターン化して少し単調なきらいがあるように感じたが、前後の火葬場の裏側を写し、最後に待合室で並ぶ兄弟と弟の身ごもった彼女が並ぶという構成は端正で派手ではないが志を感じさせる。葬儀には出ない母が喪服を着て一人葬儀の時間を過ごすシーン(女優の演技)が秀逸で映画を引き締める。隣のにぎやかな葬儀の「泣き女」商売をチラリ見せるところはうまい!というかあざとい?というか‥‥(4月11日 下高井戸シネマ)


③ゆれる人魚

監督:アグニェシュカ・スモチンスカ 出演:キンガ・プレイス マルタ・マズレク ミハリナ・オルシャンスカ ヤーコブ・ジェルシャル 2015ポーランド 92分 


うーん。凝っているのだが今一製作意図?がわからない不思議な、エロ・グロ・シュールリアリズムというふうな、しかもミュージカル映画。それら全体が製作意図と言えばいえるのかな・・・。人魚の姉妹が、なぜかナイトクラブの歌手として雇われ、歌手グループと共同生活?、妹シルバーはグループのイケメン・ベーシスト(これが、まあなんというか金髪のうーんマンガみたいなイケメンで)に恋をし、人魚の下半身切断大手術までやるのだが(あの下半身を提供して魚の下半身と入れ替わった女性は誰なんだろう・・・・)恋は成就せず最後は泡に(この場面は人魚の表情の変化、すばらしく説得力があり、この映画唯一の心に染み入るシーン)。一方姉ゴールデンはあくまで肉食獣としての人魚を貫く。妹は成就しない恋の相手を食い殺せば泡にならずに済むのだが・・・というわけ。そして二人はなぜかつるつるの二本足の人型下半身も惜しげなくさらし、うーんなんていうか、まあやっぱりエロ・グロだわ。おとぎ話の不気味さの方を強調しているのだろうし、少女の案外なしぶとさ、反純情みたいなものも訴えたいのかもしれず、それはまあ興味深いところではあるが、あまり見た後の感触は良いとは言えないかな。(4月12日 新宿シネマカリテ)


④去年の冬、きみに別れ

監督:瀧本智行  出演:岩田剛典 山本美月 斎藤工 北村一輝 2017日本

 

近くのTOHO、最終日というので、レイト・ショーを見に行く。中村文則の原作を確か読んでいるはずだが印象に残っていないと思い込んでいたので、あまり期待していなかったのだが、見てみるとこの原作読んでいないなと気づかされるほどに、新鮮に見られた。前半と後半登場人物の性格付けが「実は・・・」ということでがらりと逆転していく物語なのだが、そういう人物を演じる岩田、山本、そして北村、同じ人物でありながら実は別人のようという陰影をみごとに演じ分けている。ちょっと損をしたのは斎藤工で、エキセントリックさの中での変貌というより底知れぬ不可思議な人物の底が割れていくというような性格付なので、あまり意外性なくというところ。物語も前半の謎が後半、前半にも遡りひっくり返されるというような構成で、これは多分原作の功なのだろうが、面白かった。とりあえず、読んでいなかったみたいな原作を読もう。
と、思って新たに原作文庫本を買って読み始めたら…あれ、やっぱりこれは読んだことがある・・・・2回読んでも「僕」「僕」と自称される何人かの主人公たちの区別がつかず、心理的描写で綴られている感じだし、前半と後半が意外などんでん返しというより別の物語のように乖離している感じ(映画には出てもない人形師やK2という組織など、収束されない感じ終わってしまう)でどうも話の全容がつかみにくい。映画を見ていても、である。それに比べると映画は原作には現れない登場人物を設定したりして、話の筋をわかりやすくしながら、原作の事件の設定そのものは上手に生かして、なるほど、こういう化けさせ方、処理の仕方もあるのねと、感心させられた。ことばで説明されるよりビジュアルで見るほうがリアルさを感じさせられるというけっこう稀有な例かも。(4月12日 府中TOHOシネマズ )



⑤ナチュラル・ウーマン

監督:セバスティアン・レリオ 出演:ダニエラ・ヴェガ フランチェスコ・レジェス ルイス・ニェッコ  2017チリ・米・独・スペイン 104分 


<ネタばれあります>
自らもトランスジェンダーだという、ヒロイン・マリーナ役の歌手、ダニエラ・ヴェガの圧倒的なインパクト、目力と、ちょっとたくましい顔の骨格からにじみ出るたおやかさ・やさしさ・不安の雰囲気、そして力強く美しい歌声にも圧倒される。年上で家庭持ちの恋人と楽しい誕生日の一夜を過ごした、その夜突然に苦しみだした恋人はそのまま急死してしまう。病院に運ぶマリーナ、しかし恋人が苦しさのあまり階段を転げ落ちてできた傷によって暴力を疑われ、身体検査を強要され、恋人の妻や息子には冷たく葬儀への参列や遺体と対面することさえ拒まれという数日間を描く。そういう状況で自らの尊厳を貫き、恋人への愛と別れを果たそうとする彼女の姿には打たれるが、しかし・・・死んでしまう恋人、家族のえげつない迫害を見ると、単に父や夫の浮気相手に対する以上の差別意識も垣間見えて、この男自体が実はどうしようもない男だったのではないか、なんでこんな男を愛したのか・・と思わせられるところもないではない。ヒロインの幻想の中であらわれる彼が、彼女を導いて家族さえ見られない火葬の現場(それにしてもチリでは火葬するとき、棺から出して直火?で焼くとは知らなかった。棺は日本のものより立派だから?かもしれないけれど、あの棺、あの後どうするんだろう・・・とは余計なお世話だがちと心配)にも立ち会い、彼の死から歩みだしていくラストは、エールをおくりたくなるカッコよさ(ネタバレ失礼)。それと出だしのイグアスの滝はかの『ブエノスアイレス』を彷彿とさせる。この映画でも二人は結局たどり着けないのだけれど。(4月13日川崎市アートセンター・アルテリオ映像館)



⑥ロープ戦場の生命線(A PERFECT DAY)

監督:フェルナンド・レオン・デ・アラノア 出演:ベニチオ・デル・トロ ティム・ロビンス オルガ・キュリレンコ メラニー・ティエリー 2015スペイン 106分


バルカン半島のどこか、と銘打たれた紛争地で水と環境の保護に携わる「国境なき」NPOメンバーの「完全なる」1日は命の危険をも含むトラブル続きだが、それを、それぞれの経験差(ここでは男性陣はベテラン、女性は新米と頭でっかちな国連からの監視役と設定されているのがちょっと気にならないでもないが)によって陽気に乗り越えていき、女性たちもそれなりに成長を遂げていくというふうに描かれる。井戸に入れられた死体を引き上げるためのロープ探しというのが物語の一つの芯になっているわけだが、これにかかわる少年の情に流れすぎない描き方と、おとなのかかわり方の描き方が好もしく、それでいてしっかり印象を残しているのはさすが。役者たちは皆芸達者な人々だが、特にティム・ロビンスなどは今まであまり見たことのないような野性味あふれる人物でカッコよく、なるほど感があった。戦闘地の前線?で活動する活動家の立場から、、机上の論理で彼らを規制する監視官も含めた国連への政治的なモノ申す意識も十分な映画だった。 (4月13日川崎市アートセンター・アルテリオ映像館 )



⑦ジュピターズ・ムーン

監督:コーネル・ムンドルッツオ 出演:メラーブ・ニニッゼ ギエルギ・ツセルハルミ ゾンボル・ヤーゲル 2017ハンガリー・ドイツ 128分 

 

ハンガリーに流入する難民と、国内で問題を抱え難民たちに接する一人の医師を主人公に、ちょっとオカルトというか荒唐無稽なファンタジー?感もありながら、現実の問題?も描いて社会性というかリアル感もあるという不思議と言えば不思議な雰囲気を持った作品だった。シリア難民としてハンガリーにやってきた青年は国境警備隊の違法銃撃で撃たれて、自然に傷が治る力と空中浮揚という能力を獲得。自分の医療事故の賠償金を稼ぎ地位復活を狙う医師は、そのために難民を助け金をとるという闇稼業をしている。二人が出会い医師は青年を金儲けに使えるとにらんで自分の手元に置こうとするが・・・一方で青年とその父のパスポートを盗み名をかたったテロ犯が現れ・・・・というわけで全編追いつ追われつという展開になる。人とは違う能力を身に着けた青年の孤独と哀しみも伝わってくる。(4月13日川崎市アートセンター・アルテリオ映像館)



⑧ペンタゴン・ペーパーズ最高機密文書

監督:スティーブン・スピルバーグ 出演:メリル・ストリーブ トム・ハンクス 2017米


スピルバーグ製作、トム・ハンクス、メリル・ストリーブ主演、物語は1971年ペンタゴンが作成したベトナム戦争に関する文書の漏洩とマスコミ報道のいきさつとくればこんな映画かな?と思った通りの映画で、なんか逆に退屈してしまった。ライバル、ニューヨークタイムズに先を越されたワシントン・ポスト紙の編集長(トム・ハンクス)と、この会社を夫から引き継いだ社主(メリル・ストリーブ)が主人公で。前者はまあ予想通りの活躍(逆に見どころは少なく、トム・ハンクスとしてはちょっとザンネン?かも)だが、後者は懇意の政治家などとの関係の中で彼らの意に反する公開を決意する女社長という態で、まあこの映画、言ってみればメリル・ストリーブの一人勝ちかも。(4月14日 府中TOHOシネマズ)



⑨北の桜守

監督:滝田洋二郎(舞台演出ケラリーノ・サンドロヴィッチ) 出演:吉永小百合 堺雅人 篠原涼子 阿部寛 佐藤浩市岸辺一徳 2018日本


吉永小百合120本目の主演作だそう。1945年、夫を残し母と息子2人で樺太から引き上げて北海道に住み着いた一家の1970年代までの物語。「桜守」というくらいだから桜がどのくらい重要なテーマになっているかと思いきや、ん?。確かに3か所くらいに桜の登場するエピソードがあるにはあるのだが桜でなくてもいいんじゃない?特に樺太では父が内地から持ち帰った「種」を母が育てて桜が咲くというシーンがあるが、桜って「種」からは育てないのでは??、で、要は行違ってしまった母と息子(次男)の再会と和解(理解)の物語ということになるんだろうが、15年間も会わなかったというこの母子の行き違いの理由がどうも説得力がない。実は長男を樺太引き上げ船への爆撃で喪っていて、二人ともそのことに罪悪感を感じていた、とか、母子で暮らす網走の貧乏生活で息子はいじめを受け、つらい生活だったとかはわかるが、それが母が15歳の息子に「帰ってくるな、母を忘れろ」とまで言う理由になるのかどうか・・・。息子はアメリカで良縁を得てハンバーガーチェーンの日本支社長として凱旋して当時はまだ珍しかったはずのハンバーガーショップ兼コンビニを開店するがその上昇志向というか経済志向のすさまじさはまあ、理解できるが、それがアメリカ生まれの妻や、網走から呼び寄せた認知症気味?の母の心情と折り合う折り合い方がちょっと安易すぎて、まあ映画だからなあという気にさせるのもどうなんだろう。それにしても吉永小百合、もう70歳くらい❔ではないかと思うが、小学生の母を演じてそんなに違和感のない若さに驚嘆。60過ぎの認知症気味の田舎の貧しい女にはとてもじゃないけど見えないワ・・・・・(4月15日府中TOHOシネマズ) 


⑩スイス・アーミー・マン 

監督:ダニエル・シャイナート ダニエル・クワン 出演:ポール・ダノ ダニエル・ラドクリフ メアリー・エリザベス・ウイ 2016米 97分 


久しぶり、1年半ぶり?くらいの早稲田松竹。以前に話題になっていたけれど見損なっていた作品。死体に乗って無人島から海を渡って帰還するというサバイバル映画かと思っていたら全然そうでなく、ほとんどが森林でポール・ダノの情けない青年ハンクが死体のラドクリフを背負って歩き崖から転げ落ち、万事休すという側面で死体が水を吐き出したり、斧かナイフか、火炎放射器かというような力を発揮したりして救う。その合間に(ここはちと鬱陶しい下ネタ満載ぽいが)性的欲求に従順な死体と、女性と付き合えないオタク青年の幻想がぶつかり合うといういささか暗い青春論的なテーマが重なって、なんか冒険ものなのか哲学的?なのか、ちょっと中途半端な感じだが、そこが怪作、シュールと評価されるゆえんなんだろう。終わりに案外あっさりと二人は「故郷」に帰り着くが、そこであった人々はやはり二人には冷たく、うーん。死体は体内ガスを発射して海に去り、残されたハンクは???という切ない感じの終わり方(これもネタバレ)。死体役のダニエル・ラドクリフの怪演見もの。ポール・ダノの情けないオタクっぽい青年ぶりもうまい。(4月19日 早稲田松竹)



⑪クソ野郎と美しい世界 

Episode.1 稲垣吾郎×園子温『ピアニストを撃つな!』出演:浅野忠信 満島真之介 馬場ふみか  Episode.2 香取慎吾×山内ケンジ『慎吾ちゃんと歌喰いの巻』出演:中島せなEpisode.3 草彅剛×太田光『光へ、航る』出演:尾野真千子  Episode.4 クソ野郎★ALL STARS×児玉裕一『新しい詩(うた)』 2018日本 


2週間限定で、解散したスマップの3人、稲垣吾郎が恋に落ちたピアニストを、香取慎吾は歌を喰われたアーティストを、草彅剛は息子を亡くした父親をそれぞれ演じ、4本目はそれらの総まとめ?的なショーのような構成のオムニバス。作られ方の問題?もあってか、前評判はさんざんだったみたいだが、出来上がってみると??うーん。最終日のTOHOシネマズ、最終回は完売で、そのひとつ前夜7時過ぎからの回をみたが、これも8割?くらい。それなりの人気は元スマップの3人ということもあるが、園子温や太田光という監督陣、それに何と言っても浅野忠信、満島真之介、馬場ふみか、それに何と言っても迫力の尾野真千子らの共演陣がしっかりしていることにもよる??エピソード1は園子温で、神楽坂恵とかでんでんとか園映画の常連も出ているが案外物語として今いちなのは稲垣吾郎のすかした?ピアニストというのがあまり意外性がないからかも。エピソード2はヒロインの少女に似合わない汚い話なんだけど、それが汚くなくかわいらしく?まとめられているのはなるほど、の面白さ。エピソード4も含め映画全体としては香取慎吾のエンターティナー性が目立つしくみ。そして草彅剛は演技力だろうか。尾野真千子との夫婦の掛け合いは互いの妙が絡まり合い(といってもやはり尾野真千主演ぽいが)は迫力があった。(4月19日 府中TOHOシネマズ)




⑫あなたの旅立ち綴ります

監督:マーク・ベリントン 出演:シャーリー・マックレーン アマンダ・セイフライド 2016米 108分



人が死んだら訃報を地方紙に載せるというのいうのはアメリカ的習慣?。やり手で意欲的な人生を送ってきたが、敵も多くて今は孤独なイジワル?老女になり果てている老女ハリエットが、訃報を生きているうちに書いてもらおうとかつてスポンサーを務めた新聞社を訪れ、エッセイスト志望の訃報記者アンと知りあうところから話が始まる。より良い訃報のためにアンとケンカしつつあたらしい生き方を求めていくという、まあなんというか定番的な展開をするアメリカ的な高齢者映画。新味はないし、孤独で意地悪でさえある老女があんな風に簡単に変われるの?とも思わないでもないが、が、シャーリー・マックレーンの人好きのしない老婆演技もはさすがで、安心して見られる。最初(と最後にも)彼女の幼い時からの年を経ての写真が次々に現れるのが興味深い。(4月20日 川崎市アートセンター・アルテリオ映像館)




⑬ゴーギャン タヒチ、楽園への旅

監督:エドヴァルド・デルック 出演;ヴァンサン・カッセル マリック・ジディ ツィー・アダムス  2017仏 102分

 

フランスで妻子に反対されながら彼らを捨てるように旅立ったゴーギャンでのタヒチでの生活を丁寧に追って描いている。タヒチの暑苦しい、濃密な空気感とその中で最初は楽しみ、だんだんに追い詰められていく様子を現地での恋人?との関係を重ね合わせて描いているのだが、なんかだんだんみじめに、しかもわがまま勝手な男のみじめさに見えてくるのは、視点がゴーギャンの側にも彼女の側にもしっかりとはなくて外から見ているからという感じがするのだが・・・うーん。ゴーギャンの絵の世界をそのまま文字通りコピーして映像化したような印象だ。(4月20日川崎市アートセンター・アルテリオ映像館)




⑭ダンガル きっと強くなる

監督:ニテーシュ・ティワーリー  出演:アミール・カーン ファーティマー・サナー   サニヤー・マルホートラ サークシー・タンワルインド  ザイラー・ワシーム   2016インド 140分 


経済的な理由によりレスリング界で果たせなかった国際大会でのエースの夢を息子に託そうとして、息子には恵まれず、男の子にケンカで勝つような娘二人に託して、娘を国内大会優勝、国際大会での金メダリストに育て上げる父親を描く、まあスポコンもので、話の展開にはあまり新味があるとは言えない。しかし若いレスリングのエースだった時から、でっぷり太った白髪の父親までを演じるアミール・カーンの芸達者と、特に後半大人になってからの長女ギータのレスリングシーンの「実写的」迫力にはひきつけられる。「女のために戦え」という父親の教えは、映画の中ではいかにも取ってつけたような感じもするが、女の子は親のいうとおりに結婚するしか生き方がないというインド社会では映画の芯になる強いメッセージ性を持つのだろう。だが、この父親結婚は強要しないが、娘の髪型から生活までレスリングのために非常に厳しく管理する。姉は家を離れ世界大会を目指す選抜チームの一員となった時、コーチの方針に従い父に抵抗するが、その結果「勝てなくなる」という描き方。選抜チームのコーチを悪者にして、娯楽的にはうまい具合にまとまっているが、でも、どうなんだ?彼は娘のために他の家族をいわば犠牲にし、語り手の甥っ子もなんだかふがいない存在になってしまっているし…。一方、下の娘バビータは後半にはレスリングの見せ場はほとんどなく、チームメイトとして姉の勝負に一喜一憂するような存在として描かれる。と思ったら、エンドロールの実在の本人映像で、姉に負けぬレスリング選手としての実績を上げていることが示され、ほ…(そのへんはなかなか行き届いている)。突っ込みどころはさまざまにあるのだが、結局父の迫力で見せられてしまうというところ?(4月21日 立川シネマシティ2)



⑮花咲くころ

監督:ナナ・エクフティミシュヴィリ、ジモン・グロス 出演:リカ・バブルアニ マリアム・ボケリア スラブ・ゴガラゼ 2013ジョージア・独・仏(ジョージア語)102分 


1992年内戦後の春から夏にかけての首都トリビシを舞台に友人どうし二人の少女の姿を描く。ちょっと小柄で真面目?なエカは父が収監中、母と姉のもと抑圧された感じで暮らす。親友ナティアはスラっと華やかな雰囲気だが、アル中の父親とケンカの絶えない母、祖母、弟の家族に中で不安定にもまれ、二人の青年から好意を寄せられている。そんな中でナティアがボーイフレンドからプレゼントされる弾を込めた銃で、自分を差別しいじめる少年たちに立ち向かうエカ、ボーイフレンドの留守中もう一人の男にさらわれるようにして奪われ結婚してしまうナティアの姿を通して、戦争もだけれどそれよりも女性を抑圧する男たち、あるいはそれを当たり前とする女たちの姿にエカが地味に抵抗していく姿、そして途中では面会を拒否して会いに行かなかった父を自ら訪ねるようになる「成長」を丁寧に描いている。途中でエカがナティアの結婚式で踊る場面があるのが、とても印象的。二人の少女の話だったりするところからも先日深夜TVで久しぶりにちょっと見た『花とアリス』(岩井俊二)を思わせられたが、あちらのような伸びやかな世界への広がりというより、こちらはぐっと内省的で縛られている部分を感じさせられる(家族がでてくるからかも)。(4月25日 下高井戸シネマ)

⑯早春(DEEP END)

監督:イエジー・スコリモフスキー 出演:ジェーン・アッシャー ジョン・モルダ-=ブラウン ダイアナ・ドース 1970英・西独 92分


うーん。主人公マイクを演じるジョン・モルダ-=ブラウン、美少年だけどいかにも70年代っぽい美少年で今となっては少々鼻につく。ヒロイン、スーザンのジェーン・アッシャーも案外素朴な感じ・・。で、二人のからみはけっこう喜劇的で、笑いを誘わせるようなナサケナサとかもあって、単純な美しい初恋とはいかないが・・・だいたい15歳の少年が公衆浴場(プール付き)に勤め、親もそこに来るという設定自体がなんかなあ…ラテン的というべきかもしれないが、これポーランド人が作ったイギリス映画だよね・・・そうはいっても笑いを誘うような外し方に切なくなるようなところはあるかな・・そして終わり方の、まあそれまでのナサケナサは引き継ぐもののシュールな終わり方!「DEEP END]はわかるけど、これに「早春」という邦題をつけたセンスがよくわからない。 
4月25日 下高井戸シネマ) 



⑰The Promise 君への誓い

監督:テリー・ジョージ 出演:オスカー・アイザック シャルロッテ・ルボン クリスチャン・ベイル ジェイムズ・クロムウェル ジャン・レノ 2016スペイン・米 英語(ドイツ語 アルメニア語)134分 


1914年第1次大戦中にトルコで起こったアルメニア人への抑圧・大量虐殺を題材に、地方からコンスタンチノーブルに出て医学を学ぶ若者の翻弄されていく姿と、家族はじめかかわる人々とを描くが、クライマックス、モーゼス山にたてこもりトルコ軍に反撃する人々と、それを救いに来るフランス艦(艦長がジャン・レノで2シーンぐらいの出演だがさすがの貫禄)の攻防シーンが手に汗握る。普通の村人たちが立ち上がり、女子供も含めて戦おうとするそういう戦いなので(元医学生の主人公は銃を手に取るが撃つことができず、怪我人を助ける側にまわるとか・・)「プロミス」は、直接的には婚約者の持参金で医学を学ぶために首都に出る主人公が婚約者にした約束だが、映画全体を貫いて死なないことが復讐だとして生き抜いた主人公の未来にまでかかわるものとして描かれる。また主人公が首都で知り合うアルメニア人女性、その恋人であるアメリカ人記者、また二人の友で、彼らを助けることがもとになって銃殺されてしまうトルコ人有力者の息子などの配し方もさすがで、クライマックスまでが長いのだがそれも必要と思わせるような厚みもある作りになっている。トルコの話だが、ことばは基本的に英語・・・ま、しかたないんだろうけれどトルコ人やアルメニア人が見ると違和感があらうかも。(4月25日 下高井戸シネマ) 



⑱聖なる鹿殺し

監督:ヨルゴス・ランティモス 出演:コリン・ファレル ニコール・キッドマン バリー・コーガン 2017アイルランド・英 121分  


出だしは心臓手術場面で切られた胸郭で動く心臓のアップ・・・うーっという感じで始まる。心臓外科医スティーブンの過去の手術における過誤と患者の死、あらわれたその息子マーティンに何かと気を遣うようすからはじまる。マーティンは風貌もちょっと東洋っぽい雰囲気も混じり-多分西洋人から見ると何を考えているのかわからなそうに見えるのだろう-登場するごとにキーンと金属音のような音響をともない、その他の音楽もおどろおどろしい感じで、この映画の不条理さというか不気味さをもりあげていく。一方しばらくは夫婦と長女、長男のさりげない「幸せな」日常を描いていくカメラ。しかし、少年は妙にしつこくなつき、家を訪ねてくれと迫り、出かけていくと今度は母親が迫るというふうで、この家に忍び寄る不穏な雰囲気が描かれ、夫婦がどう反撃するかということも含めてハラハラドキドキが高まっていく。少年を演じたバリー・コーガン(まったく美少年でないし、鼻も変に大きくてむしろ特異な風貌というべきか)がなかなかの迫力。ヨルゴス・ラモスは『ロブスター』で愛する相手を期限までに見つけないと動物に変身してしまうという共同体を描いた人。前作もこれも不条理で説明などできない結末で人がいかに選択するかを迫るわけだが、今回主人公夫婦は普通の会話の中の自己中心的な身勝手さをにじませながら、ことにあたり絶望していくというさまがやはり見せ場といえるかな。(4月26日 新宿シネマカリテ)



⑲しあわせの絵の具 愛を描く人モード・ルイス

監督:アジュリング・ウォルシュ 出演:サリー・ホーキンス イーサン・ホーク 2016カナダ・アイルランド 116分 


金曜日(女性デイ)上映最終回のアルテリオ。30分前に到着して55番。その後もどんどん人が増え、ほぼ満席状態に。人気があるのだな・・・こういう映画は。カナダの実在の女性画家モード・ルイスと、最初は彼女を家政婦として雇い後に夫となって彼女を支えた夫の絵ベレットを描く。ここのところ『パディントン』のママとか、『シェイプ・オブ・ウォーター』でお目にかかることの多い、ちょっとエキセントリックなところもあるはみ出し者みたいな女性を演じさせたら抜群という感じのサリー・ホーキンスはここでもリウマチで体が少し不自由、家族から持て余されながら、絵への情熱に邁進して、真面目にしてユーモアたっぷりという女性を魅力的に演じている。対するはイーサン・ホークで、魚の行商で生計を立てる孤児育ち、無学、武骨な男というのがどうなんだろうと最初は思ったが、さすが!で、その後文句を言いつつ少しずつ妻と打ち解け、家政婦として雇ったはずだった女性のために家事を始めるという男の優しさを印象づけていく。エンドロールには実在の夫婦の残された映像が現れるが、それを見るとだいぶイメージが違い映画の二人の方がずっと現代的というか都会的な感じがするが、それでも違和感なく、後味よく楽しめたのは物語の故でもあり、演技の故でもあるのだろう。(4月27日 川崎市アートセンター・アルテリオ映像館)



⑳タクシー運転手 

監督:チャン・ファン 出演:ソン・ガンホ トーマス・クレッチマン ユ・ㇸジン リュ・ジョンヨル 2017韓国 137分

   

1980年光州事件の時、日本から現地に入って報道をしたドイツ人記者ユルゲン・ヒンツペーター(ピーター)と彼をソウルから光州に送り届け、またソウルまで脱出させたタクシー運転手の実話をベースに作られた物語。ソン・ガンホ扮する運転手は妻を亡くし男手一つで11歳の娘を育てるシングル・ファーザー。光州への送迎も滞納している家賃10万ウォンを稼ぎたいということで、他の運転手を抜け駆けするように奪い、危険を回避して早くソウルに、戻ることばかりを考えているが、光州で若い学生やタクシー運転手経たちと知り合い、学生や女性たちも含む民衆に銃を向けて🉅夏する警察や軍隊、報道することもできない報道機関を目の当たりにして、人々を救い、ピーターに報道させようと、体を張って光州からソウルに脱出するという話だが、サスペンス的な私服警官との攻防、カー・チェイス、助け助けられる光州の運転手たちとの連帯、またソウルに残した娘や家主でもある隣人との人情ドラマ的な部分もたっぷり描いて、社会的メッセージも、娯楽性もたっぷりという、さすがの韓国ドラマという出来上がり。一度、飛行機で英語字幕版を見たのだが再度見に行った。劇場版ではエンドロールに実在のヒンツベーター記者(生前)が「助けてくれた運転手に会いたい」と語る(機内版ではなかったように思う)。つまり実在の運転手は名を隠し現れていないということで、映画の運転手の造形は基本フィクションということね。それゆえ自在に描けたという感じはする。(4月28日 立川シネマシティ)



㉑ザ・シークレットマン(MARK FELT WHO BROUGHT DOUN THE WHITE HOUSE) 

監督:ピーター・ランデスマン プロデュース:リドリー・スコット トム・ハンクス 出演:リーアム・ニーソン 2017米 103分

  

1972年ウォーターゲイト事件を題材に、大統領の陰謀をリークしたFBI副長官マーク・フェルトの決断を描くというもの。内部情報をマスコミに渡すというのが決断なので、カー・チェイスも撃ち合いももちろんなく、主演のリーアム・ニーソンは終始スーツ姿で苦虫噛みつぶしたような表情で、昨今の『96時間』などを見慣れた目には地味すぎて物足りない感じも…?。この人『シンドラーのリスト』とか歴史実話ものにはもともと出演しているが、あの頃は若くてまだまだ地味な?実在人物を演じても華があった。『96時間』と比べても顔はごつごつ?だし野性味は押し殺しという感じ、それを補ってか、エピソードの中に家出してヒッピーのコミューンに参加し出産した娘との確執と和解を組み込んでいるのが、実話なのかどうかわからないけれどわざとらしい感じも‥‥。ニクソンは実物写真で登場。エンドクレジットには実在のマーク・フェルトのその後と写真も。うーん、まあこういう映画は作られる価値というのはあるのだとは思うけれど、題材から言っても楽しむというよりはオベンキョーという感じもなきにしもあらず。したがってところどころ眠くなったりして。(4月30日 川崎市アートセンター・アルテリオ映像館)


コメント

このブログの人気の投稿

【勝手気ままに映画日記+山ある記】2023年9月

【勝手気ままに映画日記+山ある記】2023年7月

【勝手気ままに映画日記+山ある記】2024年3月