今年もよろしく!【勝手気ままに映画日記】2024年12月
とうとう登りました!アフリカ大陸最高峰キリマンジャロ(5895m)これは途中のカランガ・キャンプ(4035m)からのキボ峰であまり迫力があるようには見えませんが… |
さあ!どうだ! 同行のTRさん撮影の迫力! ©Takano |
あいかわらず、山と映画に明け暮れた2024年でしたが、11月エヴェレスト街道トレッキング中に調子に乗って?1か月後12月のキリマンジャロ登山ツアーへの参加を決め、帰国後もなにやら慌ただしい準備の日々を過ごしました。12月22日にタンザニアに向かって出発。6泊7日のテント泊で高地順応しながらアタック・キャンプまで登り、現地時間12月28日深夜アタックを開始し、8時間のアタックで29日早朝、おかげさまで同行の若いみなさんに支えられて、意外に順調に登頂成功。満足のうちに新しい年を迎えることができました。
24年には母を亡くしましたので、新年のご挨拶については失礼させていただきましたが、12月の映画日記(キリマンジャロに出発する前の20日まで)をupして、新しい年の皆様のご健康・ご活躍をお祈りしたいと思います。今年もどうぞよろしくお願いいたします。
【12月の映画日記】
①コール・ミー・ダンサー②劇場版ドクターX③海の沈黙④ハンナだけど、生きていく⑤愛と哀しみのボレロ ⑥ラブ・アクチュアリー⑦憎しみ⑧グルン⑨徒花ADABANA⑩ジャマイカ⑪お坊さまと鉄砲⑫市民捜査官ドッキ⑬夜の王たち⑭バネルとアダマ⑮キノライカ 小さな町の映画館⑯私の孫⑰リトル・デューク
東京フィルメックスから、タンザニア出発(22日)までの間の約20日間、寒くなったし、暮れの気分的慌ただしさもあり、そのうえ、高度6000m近く、温度マイナス15度?ともいわれる山の準備は存外面倒で、なかなか映画が見られない…!そんな12月の17本、
日本映画は②③➇⑨のみ(ただし⑧は日本は出てこない)、その他のアジア映画は⑧⑪⑫で、ちょっとサビシイ12月の鑑賞は20日でオシマイ。★1つはなるほどね、★★まあまあ、★★★(今回はない?)はおススメです(あくまで個人的感想ですが。最近映画鑑賞力が落ちたのか、細かい理屈っぽいセリフ映画がみられなくなってきたようです)
①コール・ミー・ダンサー
監督:レスリー・シャンパイン ピップ・ギルモア 出演:マニーシュ・シャンパイン イェフェダ・マオール 2023アメリカ 87分 ★
インドでタクシー運転手の子に生まれたマニーシュは大学生の時に見たボリウッド映画でダンスに目覚める。最初は自力で、やがてチャンスを得てインドに住むイスラエル系アメリカ人の元著名ダンサーのイェフェダに師事し、プロのダンサーへの道を目指して奮闘するという、本人自らが本人を演じている(訳ではないかもしれないが、過去の遅いダンスへの目覚めとか、大学生時代の暮らしとか?を本人自身が追体験的に画面でアクトし、踊っているわけだから…?)ドキュメンタリーで、内容的にすごく目新しいというのではないが安心して見ていられるし、何より彼や他のダンサーたちが踊るダンスの見ごたえはあるしで、「事実」を描いている興味は強い。今や有名なダンサーとなった彼の周りの人々、若い時の望み通り田舎に引っ込んで暮らす両親や、彼の出した持参金で結婚したという妹などが「フツウの人」であるらしいのがエンドロールで描かれそれもまあ、なんかなるほどね…(12月7日 新宿シネマカリテ 269)
②劇場版ドクターX
監督:田村直巳 出演:米倉涼子 内田有紀 岸辺一徳 田中圭 染谷将太 西田敏行
2024日本128分
テレビドラマとして上映中は(できるだけだが)欠かさず見、BSでやっているアーカイブとしてのドラマも見たりなんかして、あの大門未知子の大きく見開いて瞬きしない目玉と、群れない一匹狼性が結構お気に入りなのだが、さすがに劇場版まで見るとは思わなかった、のだけれど、これは東京国際映画祭で女性週間?の呼び物の1本だったことが大きいかも。ま、たしかにテレビドラマとしては彼女を取り巻く医師のほとんどは男性で、女性は看護師か、または権力意識や上昇志向の強そうな女性秘書?あるいは院長のコワい妻というあたりで気になるところではあるのだが、まあ大門と内田有紀扮する城之内のコンビの強固さでよしとするか…。
で、今回の物語は染谷将太扮する新院長神津と、その双子の弟(染谷二役)がからみ若き日の大門や、師としての神原晶(岸辺一徳 大門とともに「若い時代」の映像も)とのいきさつや、その神原と新院長の過去の軋轢も合って最後は複数の臓器移植に大門が挑むというまあ、見せ場たっぷりの中園台本なんだけれど、映画館的見せ場を設けることが内容の拡散?を産み、あれあれ、あの自動車大爆発に関しては映画の中で起こってけが人はでたものの、事件として捜査があったり物語として回収していたかしらん?ー寝ていたつもりはないが―と首をかしげながら帰ってくることになった。(12月8日 TOHOシネマズ府中 270)
③海の沈黙
監督:若松節朗 出演:本木雅弘 小泉今日子 中井貴一 石坂浩二 仲村トオル 菅野恵 萩原聖人 清水美砂 2024日本 112分
倉本聰が長年にわたって構想してきた物語を映画化したのだそうだけれど、なんかテレビで見るとわりとすっきりとしたドラマとして見られる倉本作品だが、なんかなあ、出演者が豪華すぎる?しかもけっこう高齢者に偏っている?せいか、それぞれの登場人物が物語の中で有機的に意味を持って活きているというよりは、見せ場だけある役者の集合という感じで話が生き生きとは動いていない感じ。
若い時代才能はあったが貧しい贋作者の生涯の情熱の物語?―成功した同級生画家たちと対比させながらーなのか、同級生の高名作家と結婚しながら心の中に彼との愛を保ち続ける女性との秘めた愛の物語?なのか、あるいは映画中に彼とかかわりを持って命を落とす二人の男女(とはいっても二人に関係があるわけではないのか)にかかわるミステリーなのか、ウーンも盛沢山な内容を類型的な演技や描写は支えないという感じで、最後までどうにも乗っていけない。
(12月10日 TOHOシネマズ府中 271)
④ハンナだけど、生きていく
監督:ジョン・スワンバーグ 出演:グレタ・ガーヴィック ケント・オズボーン
アンドリュー・ブジャルスキー 2007アメリカ 83分
『レディー・バード』(2017)『私の若草物語』(2019)『バービー』(2023)と骨のあるジェンダー認識が光る映画の監督、それに『わたしはフランシス・ハ』(ノア・バームバック2012)の主演も印象に残るグレタ・ガーヴィックの特集、下高井戸の冬の夜プログラムはちょっとつらいが、思い切って未見の『ハンナだけど、生きていく』だけは見ておこうと出かける。
実験的なプログラムでアメリカの新世代作家(マンブルコア派)が集まって即興的なセリフや行動で、若い女性ハンナの恋と生き方を描いていくというわけだが、やはり観念的っぽくは見えないような観念的なセリフに終始していて、ウーン若い女性はこんなにも恋にとらわれるものか…という感じ?
彼女の周りに集まって愛されるというより付き合わされる男たちが何を考えているのかもあまりわからないし…。グレタ・ガーヴィックがかわいいけどちょっと骨もありそうな「女の子」を演じているのはさすがだけど…。最終、男と一緒に入浴、浴槽で二人でへたくそなトランペットを吹く至福?のシーンの印象っばかりが残った…。ま、これは老いの感想かもと思いつつ。(12月10日 下高井戸シネマ 「グレタ・ガーヴィック」特集 272)
⑤愛と哀しみのボレロ デジタルリマスター版
監督:クロード・ルルーシュ 出演:ジョルジュ・ドン ダニエル・オルブリフスキー ロベール・オッセン ジェラルディン・チャプリン ジェームス・カーン ニコール・ガルシア エブリーヌ・ブイックス ファニー・アルダン マーシャ・メリル
1981フランス 185分
もちろん最初の日本公開時には見たと思うし、その後も1,2回?劇場で見ているような気がするが、久しぶり、これが多分私の人生最後?になるかもとも思いつつ鑑賞。劇場はそう思っていそうな中高年ばかり。バレエダンサー・ヌレエフ(ソ連)、エディット・ピアフ(仏)、グレン・ミラー(米)、カラヤン(独)とその2~3代にわたる家族をモデルにしたという芸術家たち第1次大戦から、アルジェリア戦争を間に挟んで現代(1970年代)までを描いて最後にユニセフと赤十字の主催するチャリティコンサートでダニエル・オルブリフスキーが指揮をし、ジェラルディン・チャプリンが歌い、ジョルジュ・ドンが踊るボレロという最高の見せ場を持ってーそこに他のメンバーも観客として参加したり、家でラジオを聞いたりという総出演。しかし一人一人でも長く重いドラマがあるのを順に短いシーンで流していき、さらに遠く離れた4人とその家族になんかつながりというか因縁があるという描き方でドラマ性を盛り上げるので、全体的にカタログドラマを見ているような、「あらすじ」を見ているようなそんな気分にさせられるのも否めない。ーって昔はこんなことは考えなかったような気もするのだが…。(12月11日 渋谷文化村ル・シネマ宮下町 273)
⑥ラブ・アクチュアリー 4Kデジタルリマスター版
監督:リチャード・カーティス 出演:ヒュー・グラント、リーアム・ニーソン、コリン・ファース、ローラ・リニー、エマ・トンプソン、アラン・リックマン キーラ・ナイトレイ マルティン・マカッチョン ビル・ナイ ローワン・アトキンソン マーティン・フリーマン トーマス・サングスタ― 2003イギリス 135分 ★
こちらも有名役者総出演的な群像劇である年のクリスマス前の数週間の時間に起こるいくつかのラブ・アフェアーを描く。幸せに実るものもあれば、ちょっと苦い恋に終わるというものもあるのだが、最後はダウンタウンの学校のクリスマス会にイギリス首相を含めて登場人物たちが総結集ーコリン・ファース扮する作家は参加しないがーそこからまだいくつかの物語が進んでいくが、苦い恋も含め見る側をわりと幸せな気分にさせてくれるのは、登場人物たちがそれなりに満足しているから?か。英国首相の秘書への恋(ヒュー・グラント)、首相の姉夫婦のいざこざ?と和解(エマ・トンプソン)、その会社社長の夫に言い寄る女性社員(アラン・リックマン)、同じ会社に勤めて同僚に恋心を抱く病気の弟を抱えた女性(ローラ・リニ―)妻を失い義理の息子の恋の悩みに悩む男(リーアム・ニーソンとトーマス・サングスタ―)、同じ教会で結婚式を挙げた女性に恋する花婿の友人(キーラ・ナイトレー)、ポルノ映画?のスタントをする男女の恋(マーティン・フリーマン)とかとか…。それを繋ぐように売れないロックスターのビル・ナイとそのマネージャー、デパート店員のローワン・アトキンスがコメディカルな味を注ぐと、そんな感じ?音楽もすごく豊かで楽しいし、まあ男女観というか恋愛観は20年前の常道でちょっと古い?クイアの恋人同士とかは出てこないし。同じ日にみた『愛と哀しみのボレロ』ほどには大河ではもちろんないけれど成功度は高いと見た。
(12月11日 渋谷文化村ル・シネマ宮下町 274)
⑦憎しみ
監督:マチュー・カソヴィッツ 出演:ヴァンサン・カッセル サイード・タグマウイ
ユベール・クンデ 1995フランス モノクロ95分 ★
例年行われる現役日藝生による映画祭の今年のテーマは『声を上げる』ということで、その1本として上映されたこの映画、すでに日本での上映権は切れ、配信などもないとかで、2回の上映中トーク付きだった1回目は売り切れで買えず、2回目最終日のこの日、3日前にチケットを取ろとしたらすでに8割がた埋まっているということで満員。
若きヴァンサン・カッセル(意外と帥なイケメン?で、もちろん今の顔立ちと基本は変わらないが、ビックリ。目と目の間がまだそんなに離れていないから??)と監督のマチュー・カソヴィッツの出世作となった、パリのバンリュー映画の祖?的な作品。要は移民で貧しい郊外族の青年たちの荒々しい先の見えない彷徨の一日を描いている。ユダヤ系・アラブ系・アフリカ系の3人の青年たちのうちカッセル扮するヴィンスが銃を拾ったことから、3人は次々と不本意にして思いもかけない暴力的な被弾圧状況に追い込まれ、最後の悲劇までーこちらは残念ながら吸収力が落ちているなと受け入れられないようなシーンもなくはなかったが、若い人たちは非常に集中して見ている感じがした。その意味では映画を見る若者たちに希望が抱けるかなという感じもしながら見た。(12月13日 渋谷ユーロスペース 日藝映画祭『声を上げる』275)
⑧グルン
監督:森野継偉 2022日本(ネパール語・グルン語)51分 ★
こちらは、2015年ネパール地震後、ネパール中西部ゴルカ(グルカ兵の、グルカビールの…)からさらに山間部に進んだ1800m地点のグルン族の村(最初に村人たちが名乗るシーンがあるが、皆〇〇グルン、という名であるーこれはシェルパなんかも同じだね)に住む姉妹の現在を描く。姉は顔も見たこともない人と親の言う通りに結婚を決め、その結婚前にカトマンズを見に行きたいと妹を連れて親戚を頼りながらカトマンズ観光や見たかったダンスレッスンなどを見に行く。ーついこの間見たばかり、今年は2度も行ったカトマンズの観光地や街並みが懐かしいー一緒に行った妹は、結婚ではなく、学校を出たら英語をさらに勉強し村で英語教師になりたいという夢を持ち、最後は彼女が「村を出る」という決心をするまで。村の日常や、家族の様子、祭りの踊り、えらく強圧的な学校生活とか淡々と描いて、声高に何かを叫ぶという映画ではないが、娘たちの置かれた状況やそこで生まれる意志などが、意外にひしひし伝わってきて心に刻まれる感じがする1本ではあった。(12月13日 渋谷ユーロスペース 276)
⑨徒花ADABANA
監督:甲斐さやか 出演:井浦新 水原希子 三浦透子 斉藤由貴 永瀬正敏
2024日本 94分
2010年に映画化もされた『私を離さないで』(カズオ・イシグロ原作マーク・ロマネスク監督)は人のために臓器提供をするべく育てられた立場からクローンとしての苦しみを描いて印象に残るが、この映画は自らのクローンと出会った人間の側から「自分が生き残るために他者を殺す」というような自身の生き方に疑義を持った人間の側の視点で描いている。出てくるクローンたちは自らの運命を受け容れてむしろ超越しているがごとく純真無垢な存在として葛藤などは持たない存在として描かれているので、生きている人間の側の苦しみが逆に浮き彫りになるのだが、しかしこの主人公、そもそも自身のクローンを作れるほどの、しかも一般的には決して許されないことになっている(設定されている)自身のクローンとの対面を自らの地位や特権で押し通してしまっている存在なのでんんん?ちょっと自己矛盾的ではないか?とま、一種の寓話として設定されている物語で、作者の視点はクローンを作れる側と決して作れない側ー病気になっても自身のクローンの臓器などをもらうことによって生き残れる側と、そのようなこと自体が許されない例えば映画の中の移民の親子、またオリジナルとその犠牲になることを最初から運命づけられて存在するクローン、とそのような人に与えられた差別を告発することにむしろ興味があり、自らのクローンによって生かされ生き残ることに疑義を抱いた主人公の過去を振り返った生き方に対する苦しみなどが描かれて、最終的な選択がされるわけだけど、どうもこの過去のトラウマ(父の鳥を殺した?とか、過去に付き合った?海の女性とのいきさつ)あたりがどうも私の心にはすんなり落ちてこなくてそういうあたりが眠気を誘う原因ともなったみたい。実は監督と望月衣塑子さんの対談トーク付きということで見に行ったのだが、このトークも兵庫県知事問題から差別される人々への視線、あるいは新聞界、映画界の女性の置かれた立場というあたりに終始し、映画の内奥に踏み込んだ話がきけたという感じではなかった。ただ話の中で水原希子が日本映画界で最初にインティマシー・コーディネータを導入したという話は興味深く聞く。(12月15日 下北沢トリウッド 277)
⑩ジャマイカ
監督:アンドレアス・モルフォニス 2017ギリシャ 98分
EU加盟国の映画特集『EUフィルムディズ2024』の一本として時間が合うからみたギリシャ映画。兄は借金まみれのタクシー運転手、弟はテレビの人気司会者(なのだが、映画の中では末期の膵臓癌の宣告を受けて悩んでいるという設定)というずっと疎遠だった兄弟が母の葬儀の席で出会い、特に兄のほうは確執がありつつも借金苦を救ってもらうために弟との関係を復活し、互いに知らなかった相手と新たに出会い、最後は子どものころともに過ごした海岸での記憶によって(これがなぜか「ジャマイカ」)つながっていくというか、主に兄の人生(美しい妻は弟と関係があったのではないかと兄は疑ってきた、その妻は夫の借金=どうも妻の事業の失敗も原因の一つみたいだが=に家を出ていくというまさに苦境)が変化していくという話で、ウーン新味はないし、帰結も想像できてしまう。女性の描き方が存外保守的な感じで妻はあくまで「悪女」だし、弟のマネージャ―女性が力を発揮するのはマネージメントより、彼の身辺の世話みたいなのも気になるところだった。(12月17日 渋谷シアター・イメージフォーラム EUフィルムデイズ2024 278)
⑪お坊さまと鉄砲
監督:パオ・チョニン・ドルジ 出演:タンディン・ワンチュク ケルサン・チョルジェ
2023 ブータン・フランス・アメリカ・台湾(ゾンカ語・英語)112分 ★★
2006年、国王が自ら退位、政治の民主化をはかり初めての選挙が行われることになったブータンで、模擬選挙によって国民に選挙を教え民主主義への意識を高めようと農村に入る役人?たち、選挙に関心を示さなかったり、逆に家族を悩ませるほど選挙に打ち込む村の男、選挙の話を聞いて弟子の若い僧に満月までに銃を手に入れるように指示するラマ(高僧)、そして時を同じくしてアンティークの銃を手に入れたいとブータンにやって来たアメリカ人(なんでブータンなのかよくわからなかったが)と病気の妻を家においてそのアメリカ人の通訳兼ガイドとして銃の入手(これは違法で警察が追う)も手伝う男、彼らの話が交差したり閉口したりしながら村の選挙騒ぎの話が進み、僧が供物として手に入れた古い銃を手に入れたいアメリカ人は違法な銃の密輸までして僧の手に入れた古い銃と交換しようとするが…。最後は仏塔(ストゥバ)の下での宗教儀式でなぜ高僧が銃を手に入れたかったの種明かしも含め、映画としてはユーモアに満ちた、コレクターのアメリカ人や彼に取り入って自分の取り分を得ようとしたガイド役には苦い、しかし全体としてなるほどね!の至福の終わり方である。ブータンという国の平和志向が称揚されている結末は甘いけれどまあ心地よい。監督・制作陣は『ブータン山の教室』⑬(2019)のメンバー。映画に描かれた時点がはっきりしているせいか、かの作品のような登場人物の心情や境遇のアンバランスはあまり感じなかった。(12月17日 新宿武蔵野館 279)
⑫市民捜査官ドッキ
監督:パク・ヨンジュ 出演:ラ・ミラン コンミョン ヨン・ヘラン パク・ビョンウン チャン・ユンジュ アン・ウンジン 2024韓国(韓国語・中国語)114分 ★★★
やっぱり韓国映画は面白い!2016年に実際に起きた事件がベースだそうだが、経営するクリーニング店が火事で焼けたシングルマザーのドッキは、融資を申し出た銀行の「ソン代理」という男に騙されなけなしの3200万ウォンを失う。警察は詐欺の元締めを見つけ出すのは難しいだろうとドッキに冷たく、住むところもなく、託児所に預けるお金もなく職場に子連れで住み込むドッキのもとに福祉事務所員が訪れ子供を虐待しているとして連れ去る。と前半は火事・詐欺被害・追い打ちで官の無理解ーで、ちゃんと官を批判もしているわけだーにさらされるドッキが痛しくかわいそう…だが、ここで話は一転、詐欺組織の側、監禁されてだます役を割り当てられている青年「ソン代理」は自らのいる場所を中国・青島の春和楼の傍と目星をつけ、助けてくれるようドッキに電話する。電話を受けたドッキは警察に駆け込むがやはり刑事は乗り気でなく、ドッキ自ら情報集めを始めるーここは、分かるんだけれど何人もの被害者を出して語らせる必要迄あったかな??-そして青島では「ソン代理」ことジェミンが必死の情報集めをするハラハラの活劇。ドッキはクリーニング工場の同僚で中国語がうまく、妹が青島にいる(好都合なことにタクシー運転手をしている)という女性を相棒に青島の「春和楼」を捜そうとするが、若い元気な同僚が観光気分でついてくる。というわけで後半は青島での4人の女性が結束しなが春和楼のそばの縫製工場さがしや、タクシーでの張り込み、詐欺師のアジトを見つけその前で洋服修理をしながら監視するー中国語が堪能というヨン・ヘランが全体的に「通訳」をしながら笑いを誘う朝鮮族のボンリムを演じるーシーンから、またジェミンがハラハラするような行動後400枚に渡る資料をドッキ宛に警察に送ってきたことによりようやく刑事が重い腰をあげて中国出張をする、そして最後の大活劇、大団円かな?までいい感じのスピード感と、あまりにひどすぎない暴力シーン?4人の女性のグッド・ジョブともいえる連携など、飽きることなく最後までもっていかれ、後味もすこぶる良い映画といってよい。(12月18日 シネマート新宿 280)
⑬夜の王たち
監督:フィリップ・ラコート 出演:Bakary Koné スティーブ・ティアンチュー 2020コートジボワール フランス、カナダ、セネガル 93分
コートジボワールの監獄「ラ・マカ」に収監された若者ロマンが赤い月が上る夜、囚人たちに名指しされ、夜通し「物語」をすることを命じられる。物語が続けられなければ命を奪われるという、千夜一夜物語。ロマンが語るザマという男の物語と、ロマンを含む囚人たちの様子が交互に描かれているみたい?なのだが、なんか特にザマの物語ー寓話の方が私の頭には入ってきてくれず、喧噪と混乱のうちに映画が終わってしまったという感じ。全体の印象的イメージだけがなんか強く頭に残ったのではあるが…日本初上映作品(12月18日 シアター・イメージフォーラム EUフィルムデイズ2024 281 特別上映)
⑭バネルとアダマ
監督:ラマタ・トゥレイ・シー 2023フランス セネガル、マリ 87分 ★★
こちらはぐっとわかりやすく、しかもきわめて美しく撮れた砂漠の村の景色…。バネルとアダマは結婚1年の夫婦で、周囲は子どもが生まれないことへのいら立ちも。アダマは村長の血筋だが、村長になることを拒み、二人は二人だけの生活をすることを夢見て村はずれに埋まっている家(一夜にして砂嵐で埋まったという言い伝えがある2棟の家)を掘り出している。ところが村を日照りが襲い牛などの家畜は倒れ、アダマは村長職をこばみつつも、まずは村のためにという感じで家の掘り出しや、バネルとの生活よりも干ばつへの対応を優先せざるを得なくなる。取り残された感じでいら立ちがつのるバネルへの周囲からの風当たりも強く…映画はおおむねバネルの視点から無理解で伝統的な因習に満ちた周囲からアダマを引き離し自分との愛の生活を貫かせようとるバネルの姿を描く。アダマはすらりと格好良く,着ているものも村の他の女性とちょっと違う今風のTシャツだったりする。胡坐をかいて座る彼女に「その座り方は女性にふさわしくない」(言うのは彼女の双子の弟で、理性の人。バネルは心の人ということになっている)とか、夫が自分の方に心が向かないのを気にするバネルに、結婚前アダマには許嫁がいたが、その女性が死んだからアダマはバネルと結婚したのだとわざわざ告げる女性とか、ま、この村になじまないバネルへの批判・非難はさまざまに行われるが、「許嫁が死んだのも運命の定めだ」と言い切って動じないバネルもなかなかのもので、ちょっといびつな描き方と思えないでもないが、アフリカにも新しい風が吹いているのだとも思わせられる。こちらも日本初上映。セネガル系フランス人監督のデヴュー作だそう。(12月18日 シアター・イメージフォーラム EUフィルムデイズ2024特別上映 282)
⑮キノライカ 小さな町の映画館
監督:ぺリコ・ビダク 出演:アキ・カウリスマキ ミカ・ラッティ ジム・ジャームッシュ 2023フランス・フィンランド 81分
出だしは車に乗る後ろ姿のアキ・カウリススマキとパートナー?流れるのが日本語の演歌調での曲で、いかにもカウリスマキっぽいけれど、この映画の監督は別の人。歌っているのはフィンランドのこの街カルッキラに移住して、フィンランドの歌曲に日本語訳をつけて歌うという篠原敏武という人で、自身もこの映画に登場し(チェス場面でうたってはいないが)何曲も歌を提供している。カウリスマキも住むというカルッキラの古い鋳物工場に小さな映画館を作るという彼の活動を、彼自身の映画館の工事をする姿や、友人たちと映画や映画館やこの街について語る姿(彼自身は出ていなくて、友人間の会話になっている場面も多い)で綴っている。アキ・カウリスマキの映画愛を語る映画としてはなるほどね、だが、彼の知人・友人といっても知らない人同士の会話は興味をひかれるところもそうでもないところもあって、ウーン。知っている人ばかりが出ていればそうでもないのだろうが、やや疲れた!という感じも…ちなみに「ライカ」はカウリスマキの愛犬の名で、かつてのライカ犬にちなんでつけられたらしい。その意味でもすごくドメスティクというか内輪の雰囲気が漂う映画でもあった気がする。(12月20日 渋谷ユーロスペース 283)
⑯私の孫
監督:クリストフ・デアーク 出演:Gergely Blahó タマーシュ・ヨルダーン カーボル・ヤースベーレニ― 2022ハンガリー 115分 ★
邦題名は「私の孫」だが英題は単に「The Grandsun」で、内容的には「私の」というよりは「私は」というべきだろう。つまりこの映画の視点はオレオレ詐欺にあって意気消沈し、やがて死を迎える祖父よりも彼を見守り、奪われた腕時計だけでも取り返したいと、あてにならない警察を尻目に一人捜査に取り組み最後は立ち回りさえ演じて犯人を摘発する、普段は大分「ヘタレ」の孫息子である。この八の字眉をひそめたしかし押し出しはなかなか立派そうなヘタレぶりは会社(これがまたコールセンターといいつつ詐欺まがいの勧誘もしているという設定で、この孫息子はその中ではコピー係とかCP修理?とか雑用まがいの仕事をしている)での様子が、きりりとした同僚というよりむしろ上司格の女性と対比しつつ描かれるのだが、そういう男だから、被害者の老人たちのセラピーグループに参加して彼らのバックアップも得ながら、自ら追いかけた犯人にせまるというのも説得力があって面白いと言えば面白い。概して女性は(犯人役も含め)みなきりりとして行動力に富むのに対して男たちがすっきりしない?これがリアルなハンガリーなのかな?ただ主人公ルディは犯人を追い詰める後半にいたってだんだんすっきりした面持ちになっていくので、ヘタレぶりは(モチロン)演技なんだろうけど…祖父が詐欺に引っ掛かる場面の臨場感もなかなかで勉強になる。映画の前にオンラインによる監督挨拶があって、これって自身の祖父が詐欺に遭った時の経験をもとにも描いているとのこと。日本初上映。(12月20日 シアター・イメージフォーラム EUフィルムデイズ2024特別上映 284)
⑰リトル・デューク
監督:アンディ・バウシュ 出演:アンドレ・ユング ルック・フェイト バレリー・ボドソン 2023ルクセンブルク 100分
「ケン・ローチの流れを汲む」というチラシの惹句に冬の夕方~夜にかけての鑑賞。「リトル・デューク」はルクセンブルクの再開発地域に残る古い、古めかしいさびれたパブの名。オーナーが倒れ、面倒を見るのは店の面倒もずっと見てきたミル。彼の相棒的立場のシュミは、楽天的というかいい加減なところもあり、ベルギー?で適当に働いているが、オーナーの危篤にリトル・デュークに戻ってくる。客もつけで飲む老人の常連ばかりで店は危うい。ミルの娘はシングルマザーだが薬物中毒で息子の子育てはミルに依存。ミルも孫息子をとてもかわいがっているが、福祉事務所員がきてミルに子育てを任せるわけにはいかないと孫息子を保護しようとする。いっぽう、戻って来たシュミはミルを手伝って孫息子の面倒を見たりもするが、間もなくフランスからの移住者で夫を亡くした女性と恋仲に。一方そんな父と絶縁中のシュミの娘はやり手の弁護士。そんな中でオーナーは二人に店を残すが、それは借金を残すということでもあり、また、ミルの娘は自身に絶望して半ば自分で命を絶つような感じで亡くなる。そして孫息子は本当に福祉事務所員(もうみるからにヤな感じの魔女っぽい?オバサンとして描かれているのがどうもね…)に連れ去られ、ミルは、シュミの娘の力を借りて孫息子を取り戻す訴訟にいどむ…。最後はみんなが一緒の大団円的展開になっていくが、それまでのさまざまな事件が入り乱れ、法廷劇の様相もあり、なるほどケン・ローチね。とにかく主人公が二人の老人(60代くらい?)で、二人の中年の娘とそれに孫息子以外の登場人物は多分ほとんど60代以上という高齢映画 なんだけれど、それでもけっこうエネルギッシュー適度に老いて穏やかになっているのがまたなんともラクな感じも…ーでなるほどね!出演者はけっこう見たことがある顔なんだけれど、名前のクレジットが公式サイトにもチラシにもなくて…。(12月20日 シアター・イメージフォーラム EUフィルムデイズ2024特別上映 285)
【書きました!】
『昭和の女性のことば―家庭内ヒエラルキーと〈女ことば〉の定着』
研究誌『ことば』45号 現代日本語研究会(J-stage登載)
昨年の『〈おばあさん語〉とその話者』(『ことば』44号)の続編です。楽しんで読んでいただける内容かなと思っています。どうぞよろしく。
以上ーーー25年も元気に過ごしていきましょう!
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