【勝手気ままに映画日記】2023年4月

 

春霞の富士山 裏高尾から 4・3

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4月の山歩き


4月3日  高尾山稲荷路を経て裏高尾 一丁平の桜〜小仏城山(670m)
ヤマモモ・レンギョウ・モクレンの花見に 帰りは高尾山頂上(599m)を経て3号路を経て高尾病院裏に下山。一人ブラブラ、その後は温泉にも入り、春を堪能した1日だった。
 12.8㎞   6h17m  ペース130〜150%(ヤマップ) 上り961m下り954m 

一丁平の桜並木はすでに盛りをすぎて…
でも、きれい!
           小仏城山までくると、花ざかり花ざかり!

これはヤマモモ?であるらしい。あざやか!

すみれも頑張ってる…

4月9日 石老山(702.8m) 
相模湖駅(バス)石老山登山口(9:00)〜顕鏡寺〜桜道展望台〜融合平見晴展望台〜山頂(10:40)〜東雲山~大明神山(12:06)〜大明神展望台〜相模湖畔(13:30 渡し舟で相模湖駅下まで湖を横断)
  7.2㎞ 4h41m ペース90~110%(ヤマップ) 上り602m 下り629m 

石老山頂上からの富士山

   ↓これが石老山。右は展望台からの相模湖です。

   

シャガの群落

けっこう変化のある山道を楽しんで頂上へ

いつも高尾山から見ていた石老山でしたが、思い立っての単独行。登ってみると石がゴロゴロの難所?もあれば、穏やかな樹間の道もあり、かといえばねじれた坂とか、変化も大きく面白い山です。見晴らし台からは相模湖が美しく、帰りはバスの予定を変更して、見つけた「渡し舟」の看板にしたがって、相模湖駅の下まで渡し舟に乗って帰りました。船頭さんが見える景色をいろいろ説明してくれ、石老山がこのあたりでは珍しい岩でできた山であることも講義してくれたり…。
湖上から見る雁が腹摺山、奥は滝子山。右は陣馬山方面? 

船頭さんと船着き場


4月16日~22日 とうとう行った!念願の 台湾玉山・雪山2山制覇ツアー! 
だが…
 
   4月17日 塔塔加登山口(2600m)〜排雲山荘(3400m
    18日  午前2時出発〜午前5時玉山(3952m)登頂〜排雲山荘〜下山
  19.3km   16h09m   ペース90~110% 上り1516m 下り1530m

参加者8人(m6f2 75歳~65歳まで!)+添乗員(mガイド資格有)+現地ガイド(m通訳)+布農(ブノン)族ガイド兼ポーターm2人=12人の一行でした。

いろいろあったけれど、まあ無事に行けてよかった!台湾は山のうえでも電波がしっかりあってあちらこちらに登頂のご挨拶ラインを山上から発信できたのに感激!それとヤマップもちゃんと地図がダウンロードできて使えたのも(ただし経過記録については相当大雑把だけど)意外な喜びでした。                                 

 5時前頂上に着いた時にはかすかな朝焼けも見られたのですが、間もなくガスってきて、結局ご来光は仰げず。それでも頂上にはたくさんの人が日の出を待っていました。

4月19日  武陵登山口〜シチカ山荘(2400m バス移動後夕刻から2時間弱の登山)
   20日   夜から続く大雨、小ぶりになるのを待ち8時半、山頂方面の三六九山荘を目指し     て出発するが、樹林帯の終わる3000メートルあたりで、落雷の怖れがあるということで撤退を決める。シチカ山荘はすでに後続の人々が入ってきつつあり、連泊再挑戦もできないということになり、2時頃から往路を下り武陵登山口に戻る。


4月28日~29日 2日連続日帰り 沼津アルプス・天城山系縦走ツアーに参加

4月28日 新幹線三島駅〜徳倉山登り口(9:40)〜 徳倉山(256m 10:15)~志下山(214m 11:20)~志下峠~中条岩〜小鷲津山(328m 12:10)~鷲津山(392m12:47)~多比口峠(13:00)~  多比バス停(14:12)
   7.8㎞ 4h39m ペース1.1~1.2(ヤマレコ) 上り782m 下り797m

山の上からは海も見えて気持ちがいい!


4月29日 天城ゴルフ場・縦走路入り口(7:13)~万二郎岳(1299m 8:34)~ 石楠立(1251)~天城山(10:21)~万三郎岳(1405m)~ヘビブナ〜戸塚峠(1149m)~ 八丁池(1177m 13:48)~見晴台(14:02)~天城峠(823m16:27)~ 天城バス停〜ゴールバス(16:51)
   19.8㎞ 9h42m ペース1.1~1.2(ヤマレコ) 上り1196m 下り1618m
  今回はじめてヤマレコ利用。ペースはヤマレコによる。写真は後の日付のほうで…
八丁池から上がった見晴台からの展望


4月の映画 
  
①流星(流星語)②欲望の翼(阿飛正傳)③デヴィッド・ボウイ ムーンエイジ・デイドリーム ④赦し ⑤トリとロキタ ➅ナワリヌイ ⑦郊外の鳥たち ➇生きる ⑨少年 ⑩わが映画人生 黒澤明監督 ⑪天草四郎時貞 ⑫流麻溝十五號 ⑬劇場版〜ドキュメンタリー映画 センキョナンデス ⑭太陽の墓場 ⑮日本の夜と霧 ⑯パリタクシー ⑰最高の花婿ファイナル ⑱幻滅 ⑲メグレと若い女の死 ⑳サイド・バイ・サイド隣にいる人 ㉑飼育 ㉒日本春歌考
中国語圏映画①②⑦⑫
日本映画④⑨⑩⑪⑬⑭⑮⑳㉑㉒ ただし⑨⑩⑪⑭⑮㉑㉒は大島渚特集
珍しく⑤⑯⑰⑱⑲とフランス映画もたくさん見ましたー偶然だけど。
★はナルホド! ★★はいいね! ★★★は是非ともおススメ!(月1~2本にしています)という個人的感想ですが、旧作にはつけていません。



①流星(流星語)
監督:ジェイコブ・チャン 出演:レスリー・チャン エリクソン・イップ(葉靖嵐) 呉家麗 狄龍 琦琦 1999香港115分

日本公開時に劇場で見て、その後DVDでも何回か見たので内容は大体わかってはいたが、4月1日にみられること自体が喜び?会場は満員売り切れ。女性が9割8分(いつも通り)主人公と拾われた子が住む建物の下階は呉家麗扮する女性が経営する私設の老人ホーム。しかし彼女は病になって亡くなる(こんなシビアな孤独死の話でもあったんだなあ)。彼女をひそかに愛していた警官(狄龍)が「彼女がいないところで、もう生きていたくない」とぼやくとレスリーが「生きていなくちゃ。きっと希望はあるんだから」とか言って励ます。彼の自死の4年前の作品。なんかなあ、切なく悲しくなってしまうような…・。全体の色調としては決して暗い映画ではないが、ウーン。貧しさと豊かさは紙一重?で常に?反転するものとして描かれているが、ほんとにそうなんだろうか…。子どもを貧しさゆえに捨てた母の4年後のセレブぶり、「中国のバックアップがある」と強気で押し切ったトレーダーのレスリーが全資産を失うという展開(この中国のバックup云々は今回初めて気づいた。皮肉だね、今思えば完全に)なのだけれど。(4月1日 渋谷文化村 レスリー・チャン 没後20年特別上映 97)

②欲望の翼(阿飛正傳)
監督:王家衛 出演:レスリー・チャン マギー・チャン カリーナ・ラウ アンディ・ラウ ジャッキー・チュン トニー・レオン レベッカ・パン 1990香港97分

こちらは、もう何回見たかわからないのだが…。今回気づいたというか、気になったのは母レベッカ・パンは上海語で、息子レスリーは広東語でしゃべるという親子の会話。母は多分移民として大陸から来て「成功」(多分金持ちを捕まえて?)した人なのだろうが、それにしてもあれでは親子の会話はなりたたないだろうなあ、それがこの二人の関係か…と、今までは多分レスリーのビジュアルにうっとり?ワガママ放蕩息子ぶりにムカムカ?みたいなところばかり見ていた気がするが、この母の持参金付きの養子を得て豊かな暮らしを維持するという人生にも少し想いが行ったのは、私が母親視線の方に近くなってきたからかな?
(4月1日 渋谷文化村 レスリー・チャン 没後20年特別上映 98)

③デヴィッド・ボウイ ムーンエイジ・デイドリーム
監督:ブレッド・モーゲン 出演:デヴィッド・ボウイ 2022ドイツ・アメリカ 135分 ★


デヴィッド・ボウイ財団初の公式認定ドキュメンタリーだそうで、全編これボウイの歌と語り、そしていくつかのツアーを中心とするその時々のパフォーマンスで綴られていて、ボウイ堪能という2時間余り。その合間に彼の歌の世界を彷彿とさせるような宇宙?(月世界がはじめと終わり。曲も初めと終わりが『スペースボーイ』)映像や、同時代以前の映画映像とかがさしはさまれ、ボウイの独白はなかなかに哲学的でやはり天才を感じさせる。とはいえ前半の化粧・奇抜な衣装でのロックスターぶりと、後半のもちろんファッション的にはトラディショナルとはいえないが比較的落ち着いた雰囲気になるアーティストぶりをみると、やはり人間は年を取ると変わるし、ボウイはうまく変わったんだなという気も。もっとも映画に描かれるのは45歳くらいまで?でまだまだみずみずしくしわもないボウイだけれど。ベルリン時代は丁寧に描かれるが、その前のファシズムへの傾倒?などはもちろん描かれず、これはやはりボウイが自ら遺して見せたかったボウイの人生なんだろうな。くしくも坂本龍一の訃報を聞いた日(亡くなったのは3月28日)、『戦場のメリークリスマス』を思い出しながら。(4月3日 キノシネマ立川 99)


④赦し
監督:アンシュル・チョウハン 出演:尚玄 MEGUMI 松浦りょう 藤森慎吾 生津徹 清水拓蔵 真矢ミキ 成海花音 2022日本98分

20年大阪で大変印象的に見た『コントラ』のアンシル・チョウハン作品。話としては前作よりずっと「ふつう」の?話で、7年前に娘を同級生に殺され、未成年であったにもかかわらず20年の刑を受けた犯人の再審が行われるということで、証言を頼まれた元夫婦の心理と行動を丁寧に追う。尚玄という人はもともとモデルだそうだが、ウーンいささか風貌の濃すぎるというか迫力がありすぎて、娘を殺した相手を許さないというのが心理的な苦しみというより暴力的な恫喝に見えてしまうような感じだ。別れた妻(殺された少女の母)はMEGUMIで、尚玄もそうだが7年前に17歳で死んだ、つまり生きていれば24歳になっているはずの娘の母とはとても見えない若さーいや、全般的に現代の親は若いのかな…実年齢的にはMEGUMI41歳(息子は子役で中学生ぐらいらしい)尚玄45歳?くらいみたいなので、まあ若い親には違いないが24歳の娘が絶対無理というほどの年ではないか)とヘンなところが気になってイマイチの集中度ではあったが、MEGUMIは、かつて母だったが、今は再婚して子どもはいない、つまり母というよりは現役の女である女性という狭間にいて、殺された娘に関する証言をしなくてはならないそういう立場の苦しみというか、それが「赦し」にもつながっていくような曖昧さをすごくうまく演じている。父役の尚玄の方はその濃い風貌でモテそうなのに、すごくストイックにただ娘を殺した人間を許さないと思い込んでいる男というのが、ちょっとに合わない感じがする。娘は犯人の少女をいじめていたということがあかされるが、それに対してこの父はあまり傷ついた感じがしないがそれゆえ犯人を許す?母親の方は娘のいじめに、自分の娘への対応によっては彼女を死なさずに済んだと悩むのだが…。そして犯人の少女役(と言っても映画の時点では24歳)の松浦りょうの何を考えているのかほんとのところはどうなのと思えてしまうような、ポスターにも載っている悲し気でかつ酷薄という表情もすごい。
弁護士役の男の功利的ないやらしさとか、定式通りのことをすぱすぱいう裁判官とかウーン、なんか日本の普通の法廷劇とはちょっと違った感じがするのもこの作者らしさ?大阪アジアン映画祭の開幕作品だったが、すでに映画祭中から劇場公開されていたので今回みることに。(4月4日 渋谷ユーロスペース 100)

⑤トリとロキタ
監督:ジャン・ピエール&リュック・ダルデンヌ 出演:パブロ・シルズ ジョエリー・ムブンドゥ 2022ベルギー・フランス 89分 ★★★

社会の弱者を主人公にシンプルにして(とはいえ近年の作品はあまりシンプルとは言えない複雑な物語も多くなってきた気はするが)衝撃的な展開とその中にほんの少し救済の気配もありつつしかしやはり救いようのない現実を突きつけるという、ダルデンヌ兄弟のらしさが、彼らの生まれたベルギーの社会の難民問題によって突きつけられる。短いけれど強い作品。ベルギーの児童施設で暮らす外国人登録のできている(しかし孤独・貧しい、成人すると滞在できなくなる)トリと、実の姉ではないのだが姉として暮らしてい不法滞在者ロキタ。二人は全く理解のない、というよりむしろ迫害的立場に立つ大人たちに囲まれて、ロキタは大麻の運び屋―売り子をして家族に送金し、トリはそれを助けて暮らしている。ロキタは移住の手配をした組織からそのタネの借金の返済を迫られながら、偽造ビザを手に入れたいと、より稼げる手段として危険な仕事ー秘密の大麻農場に拘束されて大麻を栽培するーに携わることにし、シムカードを取り上げられトリとの連絡も取れなくなってしまう。しっかり者のトリは知恵を働かせ彼女の居場所を突き止め侵入するが…。なんとも悲劇的な終わり方なのだが、最後にそれでも生きていくと決意するかのようなトリの表情が印象的。いかにも力強いという感じではないのだが芯が通っていると同時にそこに立ち会っている施設職員とかそういう善意の側の無力さも感じさせるのである。
(4月5日 キノシネマ立川101)

➅ナワリヌイ
監督:ダニエル・ロアー 出演:アレクセイ・ナワリヌイ ユリヤ・ナリヌワイ クリスト・グローゼフ 2022米 98分 ★★

何故見落としたのかわからないが、昨年6月の公開時には見落とし、いよいよ残り数日となった文化村の特別上映を見に行く。ロシアの反プーチンのカリスマ政治家・弁護士のナワリヌイは2020年8月シベリアへの遊説の帰りの機内で毒物を盛られて昏倒・人事不省に陥る。近くの空港に着率、緊急入院するが、そのまま抹殺されることを恐れた妻や支援者が彼をベルリンの病院に移送し、彼は一命をとりとめた。
カメラはすでにシベリアからナワリヌイの撮影をしており、この事件の顛末を撮影するだけでなく、その後リハビリ中のアレクセイが、ブルガリア人のジャーナリストで合法的ハッカー?技術でこのような調査に長けたクリストフ・グローゼフの申し出を受けて調査チームを作って自ら犯人を捜し電話での証言も得るという過程を追っていてこれ、けっこう衝撃的。なにしろスマホのメール履歴があれば病院の予約データ、乗り物やATMの利用履歴など何でもわかり、当人にたどり着くことができるというわけだから…。こうして犯人をまさにあぶりだしたナワリヌイは21年1月にロシアに帰ることにするが、帰国した途端に収監、20年の刑を言い渡されてしまう。プーチンはこの経過に関しては無視?、しかしロシアでナワリヌイ支持、プーチンを批判するデモが起き、映画はその様子も撮っていくわけで、このあたりはプーチンに屈しないロシア市民もいたのだ(少なくともこの時は)と、ちょっとほっとする。かつてナチスや極右を支持するような言動もあって批判されたことがあるナリヌワイだが、この部分についてはプーチンを倒し新しい体制をつくるためには協力できるものとは協力すると自らを説明。ウクライナのゼレンスキー大統領もだが、現代の指導者たる人物は、見かけも含め弁が立ち、カリスマ的に人を引っ張る力を持っていることが必須条件なんだなあと感じさせられる。その点から見ると日本の総理大臣級は???。さて、ウクライナ侵攻から1年以上過ぎ、彼ら反プーチンのロシア市民はどうなっているのか。20年獄中のナワリヌイの今後は?そして私たちにできることは??といろいろ考えさせられる。(4月7日文化村ルシネマ 102)


⑦郊外の鳥たち
監督:仇晟 出演:李淳(メイソン・リー) 黄璐 龔子涵  鄧競 2018中国 114分 

チラシでは「中国第8世代のあらたな才能」となっているチウ・シンの長編デヴュー作で、ビー・ガン(ロング・デイズ・ジャーニー)、フー・ボー(象は静かに座っている)に続くとあるのだが、ビー・ガン、フー・ボーまでは第7世代?ちょっと気になって調べてみたがよくわからない。ともあれ中国の最新の才能の発露となれば観ないわけにはいかない。
この映画しかし、ちゃんとした竜のマーク付きで主役のメイソン・リーは李安監督の息子、ホアン・ルーはインディーズ映画の有名女優ではあるが、この映画はまさに現代中国のメインストリーム?として作られている?
再開発によりあちこちで建物が壊され瓦礫の山、地盤沈下の起こっている町にやってきた測量隊?の一員のハオとその仲間・付き合うことになる燕子という女性の物語と、ハオが廃校になった学校の教室で見つける同じハオという名の生徒の日記ーの記述であるらしいハオ少年とその同級生仲間の日々の物語が、どちらが過去とも未来ともあるいは同時期ともとれる(測量装置を置いたまま測量隊のメンバーが寝込み、そこにやってきた子どもたちが測量機のレンズにガムを貼り付ける。目覚めた測量隊員がそれを見つけ慌て、怒るというシーンがある)ような円環的な構造で描かれる。子どもたちは「登校拒否になった」らしい胖子(太っちょ)の家を訪ねてキツネという少女の先導で出かけていくが、胖子の家はいくら探しても見つからず、子どもたちは怪我をしたり、高い塀を乗り越えられなくなったりして一人一人この「旅」から脱落していくー『スタンドバイミー』に模されているー。いっぽう測量隊のほうはいつまでも仕事不調という感じでまあ『城』(カフカ)の地図作りに迷い悩む主人公そのままという感じだし、ウーンとにかく「物語」というより不思議な「詩」の世界として楽しむべきか?すごく理屈っぽい映画であるのも確かで、それが楽しめるかどうかが評価の分かれ目かしらん。(4月8日 渋谷イメージフォーラム 103)

➇生きる
監督:オリバー・ハーマナス 脚本:カズオ・イシグロ 出演:ビル・ナイ エイミー・ルー・ウッド アレックス・シャープ 2022英 103分

いうまでもなく黒沢明の『生きる』の英国1953年に舞台を移した作品。戦後復興さなかのロンドンの景色がじっとり落ち着いたビジュアルで印象的。ビル・ナイは、ちょっとふてぶてしい感じもした志村喬(それゆえに官僚的なお役所仕事の体現者としての存在感もあった?)に比べると、いかにも病弱・気弱だが恰好だけはつけている英国庶民紳士という感じでスマート。同じ話だが受ける印象も黒澤作品に比べるとすっきりで、ふつうのヒトが出てくるという感じ。律儀真面目に悩む人々の物語はカズオ・イシグロの筆の冴えもあってかイギリスにあっているのかなという感じにさせられる。もう少し明るく悩みそうなフランス・イギリス、がっちり病苦を論理的に受け止めそうなドイツあたりだとしっくりしない話かも??もっともそもそもこの話、トルストイ『イワン・イリイチの死』が下敷きだそうなので、ロシア人の生き方としてもはまる?昔『生きる』をみたときにはあまり心に残らなかったのだが、今回気になったのは息子との関係の描き方かな。主人公は余命宣告を受けて、それを息子に打ち明けようとするも、自分たち夫婦の生活にしか興味のない息子夫婦の前で言いだせず(息子も父を気にしても妻の前ではそれを父に言いだせないふうに描かれる)数日失踪中も会社の無断欠勤中(3週にも及ぶ?)にも、また「遊び場(と字幕が)」建設に動き出して後も、死ぬまで息子には話すこともなく、死んでいく。息子との関係を完全に切ってしまった主人公だなと感じ、これは理解できるが、死後そこに傷つく息子を見ると、さすがに失踪も無断欠勤も息子の父への働きがないというのはどうなのかな??と、「子どもの悲しさ」を感じないでもないー原作も同じだけど。黒沢作品では『ゴンドラの歌』だった主人公の愛唱歌はスコットランド民謡『ナナカマドの木』? (4月9日 府中TOHOシネマズ 104)

            大島渚特集@国立映画アーカイブ 開始
       以下の大島特集の画像は会場に掲示されたポスターを撮影しています。

⑨少年
監督:大島渚 出演:阿部哲夫 小山明子 渡辺文雄 1969日本(アートシアター)97分

本日より開始の国立映画アーカイブ『映画監督・大島渚』初日1回目の上映(チケットは完売、ただし520円・310円とかの入場料のゆえか、当日不来場空席も若干) 
映画は、劇場では見ていないのは確かなので…。噂に聞いた?よりはずっとなんか品がいいというか…少年役は実際に孤児の少年で薄幸そうな雰囲気で選ばれた(上映後小山明子氏・樋口尚文氏のトークあり)そうだが、根はおっとりした顔つき?性格?そうで、きつそうだが品の良さげな小山明子の母、ウーンな渡辺文雄の父とともに全国を当て逃げしながら渡り歩くという周知の話なんだが、面白いのはやはり特異な映像美の戸田重昌の美術で表される黒い日の丸とか、不思議な異様な慰霊碑とか、旅館の部屋?に並ぶ遺骨と位牌の列とかで、父親が「傷痍軍人で働けない」という設定も含め戦争・天皇制に対するアンチテーゼなんだろうけど…、でもそれがわかるのはこの会場にいる世代くらいまでで、ウーン80年代生まれとかにも通じるのかな??と、思わないでもない。2歳児の雪中での名演技も含め力のある、全然眠気は誘われないけれど極めて観念的かつ情緒的でもあるという不思議な映画ではあるーアートシアターっぽいんだと思う。(4月11日 国立アーカイブ 映画監督・大島渚 105)


⑩わが映画人生 黒澤明監督
製作:日本映画監督協会 出演:黒沢明 大島渚(インタヴュアー)2002日本 115分

1993年8月1日大島渚監督が黒澤明監督に話を聞くワンシーン(一続き?)のインタヴュー。黒澤は青〜赤グラデュエ―ション模様のアロハシャツでリラックス、一方の大島はクレー系のきちっとしたスーツ姿で、インタヴューの言葉づかいも一貫して穏やか丁寧で折り目も正しい敬語。立場としては当然?かもしれないが、大島渚監督のイメージとはちょっと違ったイメージ(トークで息子大島新氏が登壇、彼もそんなようなことを言っていた)。話はもちろん黒澤中心になるわけだが、2時間近くを感じさせないというか、ずっと同じシーン(角度は若干変えている)で互いの対話(黒澤の独話)だけで綴られているが全然眠くならない(しかも直前夕飯でビール1杯飲んだのに)。戦前から戦後にかけての黒澤自身の経験談もだが、最後に映画監督次世代への言葉として「とにかく書くこと」「助監督が(習作の)脚本をあきらめたら、そこでお終いだ」というのは結構響く。考えてみれば自分は途中であきらめた人生だったかもしれない。もっともあきらめずに続けたとして今どれくらいのものになっているかという自信ももてないところが、老いの悲しみというかあきらめなのだなあ…。終わってのトークは大島新氏と樋口尚文氏。現役ドキュメンタリー作家としての新氏の話は興味深い。また樋口氏の黒澤『生きる』は、カズオイシグロの『生きる』と同じ話だが、より怪作じみているということばには共感。(4月11日 国立アーカイブ 映画監督・大島渚 106)
樋口尚文氏・大島新氏トーク


⑪天草四郎時貞
監督:大島渚 出演:大川橋蔵 大友柳太郎 三国連太郎 丘さとみ 千秋実 花沢徳衛 加藤嘉 河原崎長一郎 佐藤慶 戸浦六宏 1962日本(東映京都)101分 モノクロ

モノクロ画面は暗く、特に初めの方キリシタン百姓の一家が弾圧される場面あたり、画面の中を人がうごめくのはわかるのだが遠景的な固定カメラ映像で、セリフでしか誰が何をしているのかわからない感じーーなのは私の眼のせいか、画面のせいか、やがて天草四郎が登場しその相棒的な侍も登場し、キリシタン弾圧に幕府から兵が派遣されてくるがどう対応するべきかみたいな討論が延々。大川橋蔵が天草四郎だが、この人まだ若い時?なのか藤井フミヤみたいなコロッとした感じもある、よくいえば愛嬌はあるが、なんかイメージの天草四郎よりはうんと泥臭い造型でーというかほとんどの登場人物は歴史ドラマの登場人物というよりは現代劇の闘士とか庶民とかいう感じで、衣装とか舞台とかは泥臭い歴史的舞台のようでありながら、そこで演じられているのは現代セリフ(というか討論)劇という感じが、ユニークでいいというべきなのか、このころの東映時代劇の雰囲気には当てはまらなかっただろうなあ、と観念的な討議や、三国連太郎扮する画家のアート論(作品も現代画みたい)?にちょっと眠くなりつつも興味深く見たのではある。(4月12日 国立アーカイブ 映画監督・大島渚 107)

⑫流麻溝十五號
監督:周美玲(ゼロ・チョウ) 出演:余佩真 徐麗雯 連兪涵 2022台湾 109分 ★

1953年、白色テロ・戒厳令下の台湾で、緑島の政治犯収容所に入れられ番号で呼ばれた女性囚たち3人を中心とする物語。
高校生の余杏惠(杏子と呼ばれる)は生徒会活動の中で自分では政治活動などをした覚えはないのに摘発される(『返校』を思い出す)。収容所生活に戸惑う彼女を助け導く巌水霞は元看護師、2歳の息子を残して収監された。もう一人ダンサーの陳萍は収容所長(大隊長)に気に入られ、見返りに労働を免除されたり物資など特権を得ているが、当然周りの囚人たちからは批判され仲間外れ。ただし、杏子だけが陳萍のダンスに心酔し描いて、彼女に近づいていく。という中で妊娠した女性の処遇や、同じ島にたくさんいる男性の囚人たちの様子や、ひそかな交流、また男性囚人と島の少女の恋とかも描く。
物語のメインはそのような囚人生活の中で新聞などで外の情報を得て共有し隠していた行為が摘発され、それにかかわったとして主犯とみなされた囚人が処罰・処刑された「緑島再反乱案」という事件で、巌が主犯として台湾の軍事法廷に送られ死刑宣告を受け、杏子も島のトーチカに閉じ込められ処罰されるというような状況を描いている。当時は『牯嶺街少年殺人事件』でも描かれたように外省人も例外ではなく検挙されたとのことで、この映画で山東訛りの中国語をしゃべる陳萍は山東出身という設定(山東事件というのがあり、大勢の山東出身者が赤色分子として検挙されたとか)、杏子や巌は看守に聞かれてもわからないようにしばしば日本語でしゃべる。53年当時の高校生世代以上であれば45年まで(小学校時代)は日本語教育であったわけだから、まあありうる設定で、蒋介石とともに大陸から渡ってきた外省人の看守には日本語はわからない、ということでけっこうリアルな設定ではある。ただし、映画の中の日本語は子ども時代から日本語で教育を受けたとはとても思えないぎこちないものではあるが(これは山東語や他に聞かれた泉州方言?なども)現代の台湾の役者たちが努力してしゃべっているのだから、まあ、その努力の方を評価すべきだろう。このコンセプトは原作者・曹欽榮や、この映画作りを推進したエクゼクティブプロデューサー姚文智の目指したもののようで、できるだけ史実に忠実に描きたいー―若い人々に知らせたい歴史ーーという点では成功していると言ってよいと思う。
この映画は「日本李登輝友の会愛知県支部」というところがお知らせを出した日本台湾連合会主催の上映会に申し込んで見に行った(無料)。会場はだから台湾人一杯、トークショー付きだがそこには原作者、エクゼクティブプロデューサーそして台湾連合会代表の謝氏?が並び、会場からも中国語・台湾語の質問が飛び交い、予定時間を30分もオーバーして、まあなんとも熱気のあふれる会ではあった。
(4月12日 渋谷ユーロライブ 東京特別上映会 108)
賑わった上映後トークセッション


⑬劇場版〜ドキュメンタリー映画 センキョナンデス
監督・出演:ダースレイダー×プチ鹿島 2023日本 109分 ★★

⑩を見た時のトークで大島新氏(この映画のプロデューサー)が会場に「見ましたか?」と呼びかけた―あ、見てなかったし見ようと思っていた映画だったんだ…ということで見に行く。YouTube番組『ヒルカラナンデス(仮)』で人気を博している二人の芸人が掛け合いによって時事・政治ネタを語るという自らのYouTube番組(の形式?)も織り込みつつ、2021年衆院選〜2022年参院選の選挙現場をめぐって候補者や周辺にインタヴューをする。
前半の中心は小川淳也批判を本人には取材せずに公けにした四国新聞へのプチ鹿島の切込みとそれに対する四国新聞の反応。「野党」日本維新の会への批判ともなる中盤は菅直人の「たたかうリベラル」が立憲民主党(上層部)自体への批判でもあるのではないかという視点とそれに対するおもに辻本清美への密着。その後、リアルタイムでの安倍元首相襲撃に映画もいわば遭遇する。その段階ではその後明らかになった原理運動と安倍元総理のかかわりとか、容疑者の動機とは明らかになる中で、生まれてきた同情的感情のようなものはまだないわけだから、民主主義の破壊への不安や批判などが直接伝わるような臨場感、特に安倍の死亡を知らされた辻本清美が絶句する場面など、よく撮ったという映画的エネルギーに満ちている。
森達也は「良質なドキュメンタリーではないが、面白い、見る価値がある」(NewseWeak私的映画論)といい、プロデューサーの大島もチラシに「こんなものはドキュメンタリーではないという声が聞こえてきそう」というコメントをしているが、つまり「ドキュメンタリー」とは?自身を主人公に自身の企画した場面をとっているから??二人のインタヴューにさまざまな反応をする候補たちやその周囲の人々(好意的な反応から脅しじみた恫喝まで)の反応を楽しみしつつ、今一度ドキュメンタリー映画とは何かを考えてみたいという気にさせられる。(4月13日 ポレポレ東中野 109)

⑭太陽の墓場 
監督:大島渚 脚本:大島・石堂淑朗 出演:佐々木功 炎加世子 津川雅彦 河津祐介 渡辺文雄 小沢栄太郎 北林谷栄 藤原鎌足 左卜全 佐藤慶 戸浦六宏 浜村淳 伴順三郎 冨永ユキ 1960日本(松竹)88分

カラーというより総天然色という色合いで、戦後釜ヶ崎のドヤ街に住む人々ーこれが、のちにテレビなどでもずいぶん顔を見せていた人々の若き日の姿ということだろうが、まんま私の知っているすでに中年に達した顔もあれば、全然別人のような若き姿もありで、そこは面白いが個性強烈なメンバー列席という感じでしかも、男は一部を除いて汚らしい、女はスリップ姿という感じでちょっとう…というふうに思うのは、今の私の感覚だろうな…。
その中に紛れ込んだ甘いマスクの青年(多分佐々木功なのだろうが、この人も後の姿に比べるといかにも少年の面影を残した甘さ)と、絡んでくる素性不明?しかしインパクトのある、底に純情そうなものもありそうな女性(これが「話題」となった炎加世子?でも私には知らない人。テレビに出ていた記憶もないような。それはちょっとだけ出演してこの映画では暗いオーラを発揮している『愛と希望の街』のヒロイン冨永ユキも一緒だが)の抒情に絡む画面の印象的なアングルや背景・抒情的な音楽などが別の映画みたいだが、まあそこが万人向けというか、チンピラヤクザ映画でもなく恋愛ものでもなくという世界を作っている?それにしてもなかなか荒々しいセリフが飛びかうが、その割に殴り合いの迫力はなく(後ろ姿で叩きのめすシーンなんかも殴っていないのは見え見え)そのわりにパッと相手が殺されたりして、映画作法も隔世の感かもねと思わされる。(4月23日 国立アーカイブ 映画監督・大島渚 110)

⑮日本の夜と霧
監督:大島渚 出演:渡辺文雄 桑野みゆき 芥川比呂志 小山明子 津川雅彦 佐藤慶 戸浦六宏 吉沢京夫 1960日本(松竹)107分

超有名作品だけれど、実は未見。へー!こういう映画だったのかという驚きで見る107分。1960年「女子学生も死んだ」安保闘争の中で結ばれた新聞記者野沢(それ以前52年の破防法闘争経験世代)と後輩女子学生令子の結婚式ーまあ、出だしから沈鬱で結婚式というよりは葬式の雰囲気で描かれているーでの参加者の「祝辞」?から始まり、そこに現れる警察に追われているさなかという学生太田の、新婦の友人だったという北見という学生の失踪についての糾弾、さらに破防法世代の学生運動リーダーだった中山と同世代の女子学生だったミサコの結婚式を重ね合わせ、全世代にの学生寮で起こったコソ泥=スパイ事件、自殺した学生高尾、そして野沢とミサコの関係までが暴かれながら世代も、が塗生運動に対して少しずつ立場や意見が違う学生・元学生たちの討論というか批判・非難の応酬が、演劇的に描かれる当時の学生運動映像や、寮内での討議や歌って踊っての交流や、などと重ね合わされながら進んでいくという構成はなかなかのアート的試みだし、セリフ量のあまりの多さに107分の現代から言えば「短編」と言ってもいい短さには思えず。しかし大胆な長回しをしたということで、セリフの滑りー言い換え、つっかえて言いなおすーなどがあまりに多く、これってリアリティ?と思いつつやはりセリフとしてしゃべっているんだなという感もありウーン。さすがに芥川比呂志は「演劇の人」だからか?すべらないのが逆に目立つ。話の内容は「70年に遅れた学生」としては先輩たちが交わしていた生硬な、観念的な議論を聞いているという感じで、「若者よ体を鍛えておけ」とか「国際学連の歌」などの響きの懐かしさ?とともにタイムスリップした感もあり、それをタイムスリップと感じる自分の老いも感じで、会場には団塊世代があふれ、なんか異様な雰囲気でもある。(4月23日 国立アーカイブ 映画監督・大島渚111) 

⑯パリタクシー
監督:クリスチャン・カリオン 出演:ダニー・ブーン リーヌ・ルノー 2022フランス 91分 ★

不如意続き、見るからに不機嫌そうなタクシー運転手シャルルが偶然載せることになった93歳のマドレーヌは、骨折して一人では暮らせなくなりパリの反対側にある高齢者施設に入所するため(それにしては荷物はトランク一つと小さいが、これも伏線になっているよう)にタクシーを呼んだのだという。彼女との半日、その過去の話を聞いたり、ゆかりだという場所に寄り道をしたりする中で二人の間に新しい関係が生まれ、シャルルの不機嫌のタネも新しく展開していくだろうというのは、概ね予想通り、と言っていい展開だが、この映画の新しいところは、白髪なかなかに生き生きしたお茶目、おしゃれな雰囲気の老婦人(有名なシャンソン歌手のリーヌ・ルノー)が物語る過去が現代にも続く問題をはらみ、50年代女性が自身では口座も開けず、離婚など考えられず、裁判でも男の裁判官、陪審員の法律的無理解に囲まれて孤立無援だった時代の壮絶な行動を描いてウーン。終わりはちょっと甘いような気もするが25年の禁固刑、13年で時代が追いついて出所するも、母(祖母)に育てられた息子は彼女の意に反して?報道写真家としてベトナムに旅立ち半年後には死ぬ…と、時代も映して社会派作品となっているのがよかった。なによりパリの景色の美しさだけでも見るに値するかも。(4月24日 新宿ピカデリー 112)

⑰最高の花婿ファイナル
監督:フィリップ・ドウ・ショーブロン 出演:クリスチャン・クラビエ シャンタル・ロビー メディア・サドゥン フレデリック・チョウ アリ・アビタン ヌーム・ディアワラ フレデリック・ベル 2022フランス・ベルギー 98分

敬虔なカトリックのフランス人夫妻マリーとクロードの4人の娘婿がユダヤ人、アラブ人、中国人、アフリカ人のそれぞれ移民であるというシリーズ、第3作は夫妻の結婚40周年記念パーティに娘たちがそれぞれの夫の両親をイスラエル、アルジェリア、中国、コートジボワールから招き、5組の中老夫婦と4人の息子たちとその妻が絡むという群像劇の様相。さらに娘たちの中で唯一、画家として自分の仕事を持っているとして描かれる三女セゴの個展に現れた図々しいドイツ人画商のマリーへのアタックも配して物語的にはいささかゴチャゴチャ。
ここで見えてくるのは、むしろ人種・民族・宗教が異なるものの文化的ギャップというよりは、個性の差によるギクシャクや高年代夫婦の夫婦間に垣間見られる女性観の違いや、また高齢者そのものへの差別とかそういう感じで、異民族の共生はもはやあって当たり前というフランス社会の中で一昔前までの人種問題も含む価値観が「あがいている」とさえ感じさせるような、で、軽いギャグ的場面も連続するんだが意外に底抜けには楽しめない、笑えない映画だった。(4月25日 新宿K’sシネマ 113)

⑱幻滅
監督:グザヴィエ・ジャノリ 出演:パンジャマン・ポワザン セシル・ドゥ・フランス バンサン・ラコスト グザヴィエ・ドラン サロメ・ドゥワルス ジェラール・ドパルデュー 2021仏 149分 ★★

原作はオノレ・ド・バルザック『人間喜劇』中の『幻滅-メディア戦記』という作品だそう(私は珍しく多分未読)。「メディア戦記」といえばまさにそういう感じであることないことほんとも嘘も策略であったり気ままであったりで書き立てる当時の黎明期?の新聞界の様相は、まさに現代のSNS状況を彷彿とし、そこでのし上がり記者としての名声は得ながらも詩人になる夢は潰え、虚飾の生活の中で真面目に自らの道を歩もうとする恋人の女優をも潰して田舎に撤退するリシュアン(なんとまあ美男のパンジャマン・ボワザン、何処か軽薄さをも漂わせながら才能のありそうな様子も見せ、この男の貴族への執着がなんか情けなくもあり、という感じをよく出している)田舎の社交界の花形でリシュアンと駆け落ちのような形でパリに出てすぐに彼を見捨てる貴族夫人のルイーズがセシール・ド・フランスで、彼女にしてはどっちつかずのはっきりしない性格のような感じの女性をこれもリシュアンがひかれるのも納得いく感じで演じる。グザヴィエ・ドラン演じるナタンは原作では3人の人物だったのを一人に合体させたそうで、それだけにウーン、まじめな文学の探究者であるような書き手の部分と、社交界にもちょいちょい顔を出し結構うまく立ち回っている部分、そして記者の世界でもそれなりに行動して編集長にまでなるような部分、さらにリシュアンの助言者であり続ける部分など、すごく複雑というか、むしろ相反するような性格・人物造型を併せ持った人物になってしまい、なんかイマイチ受け入れにくく感じたが、この映画全編語りはこのナタン視点みたいで、そうなると『神の眼」の持ち主としてしかたがないかという気も。そして誰より魅力的だったのは街頭に立って足を見せるような「女優」からリシュアンのバックアップを得て彼に貢ぎつつ、稽古に励んで自身の劇場での地位を勝ち取りつつ、しかしリシュアンのせいで演じた劇は叩かれ、自らは結核で死んでしまうという悲劇に見舞われつつめげずに自分の思いを貫き通そうとするコラリーかな。この人物は原作でも最も人気の高い一人だったらしい。なにより19世紀前半のパリのコスチューム・プレイが楽しめる。(4月26日 新宿ピカデリー・ポイント鑑賞 140)

⑲メグレと若い女の死
監督:パトリス・ルコント 出演:ジェラール・ドパルデュー ジャド・ラベスト メラニー・ベル二エ オーロール・クレマン アンドレ・ウィルム 2022フランス 89分

なぜか、フランス映画続きの4本目はパトリス・ルコント監督、ジェラール・ドパルデュー主演という話題作の「話題」につられて。内容は言わずとしれたジョルジュ・シムノンの原作で、時代設定などは原作のままなので、ま、古典的風味満載。こんなに年取ったの(というか特殊メイク?)というジェラール・ドパルデューのメグレ警視は単独で、ものもあまり言わずにしんしんとあちこちに出没していつの間にやら謎解明。画面の古典的?暗さ(それとも私の眼のせい?)とメグレの巨体が画面を横切る嵩には少々重苦しく辟易ともするが、まあ、楽しんで観られる。ただ「殺された女」が殺される経過や犯人の意図?はわかるのだが、果たしてそんな意図で殺すような原因を被害者は作ったの?というあたりがイマイチわからない。「存在」するだけであるものには脅威になるようなこの時代の男女関係を反映しているのかな?とも思ったり。田舎から志を抱いて?出てくる貧しい女の子たちに対する警鐘?というのもなんかなあ…。(4月26日 川崎市アートセンターアルテリオ映像館 141)

⑳サイド・バイ・サイド隣にいる人
監督・脚本:伊藤ちひろ 出演:坂口健太郎 齋藤飛鳥 市川実日子 磯村アメリ 浅香航大  2023日本 130分

大阪アジアン映画祭のクロージング作品だし、家のそばのTOHOシネマズでも見られるしということで見に行くが…。ウーン。非常にアートっぽい?作品で画面はきれい、セリフはボソボソ、口数少なく長回し、全体的にもスローテンポで、ウーン。市川実日子と磯村アメリの親子シーンはまだいいんだが、坂口、斎藤のパート、あるいは坂口、浅香のパートは登場人物が何を考え何をしたいのかもイマイチわからず、大きな劇場の空間に観客は3組5人という感じで、いささか疲れた。すごい意欲作なんだとは思うが、残念ながら観客を選ぶようだ。(4月27日 府中TOGOシネマズ 142)

4月28日 沼津アルプス
                                朴の蕾も↓

富士山も見えた!

            

 4月29日 花と木。苔も楽しんだ天城山縦走

  左:アマギシャクナゲ  中:ヒメシャラとブナの森   右:ギンリョウソウ

コケも教わる。左:ツヤゴケ、中:ヒツジゴケ 右は赤白交じったアセビの木
ブナヘビというのだそうです。
八丁池。後ろに富士山が見えるはず、だけど…

          
  

        

㉑飼育                                      監督:大島渚 出演:三国連太郎 小山明子 沢村貞子 浜村純 戸浦六宏 ヒュー・ハワード 1961日本(大宝)モノクロ105分 

1週間ぶり日曜、山帰り翌日の午後の大島特集は娯楽というよりは「お勉強」の気分。今回は大江健三郎効果もあってか、満席の会場には案外若い人も一人で来ていたリ、友達同士で会話していたリだった。で、まあとにかく60年代初めに描かれた終戦間近の信州の田舎の村という感じは大いに出ているとは思われるが、因習に縛られ野獣性にまみれた男たちと、差別される疎開もの、問題をなあなあ感覚で弱いものにつけを負わせるような感じで片づけてそのあとは酒盛りみたいなのには全くついていけない。寝た切りではないんだが、それらしく装って下男の男に下着の洗濯などをさせているばあさんの化け物性?この女が息子?と別の女性の関係子までなしていることを知って行った裁量を自慢げに語るとか、その息子の方は女の亭主にたかられて10年とか、もう、勘弁してよの世界だが、これってやはりリアティなのかな…。出てくる子供たちの日本の古典的な野趣っぽい面立ちは、なんか自分が子供のころ田舎にいた少年たちにも通じる感じがあるが、しかしなあ。内面のリアルというものを具象化した???カメラアングルの工夫というか構図の妙(特に最初の木橋を下から撮るとか)がところどころに目立つ。(4月30日 国立アーカイブ 映画監督・大島渚143)

㉒日本春歌考
監督:大島渚 出演:荒木一郎 伊丹一三 小山明子 田島和子 吉田日出子 串田和美 佐藤博 岩渕孝次 宮本信子 益田ひろ子 1967日本(創造社)103分

雪の大学構内?にたたずむ4人の受験生は、試験会場で一緒になった受験番号469の女性に心惹かれ探しているというところから。彼らの「先生」(これって高校の先生っていうことか?伊丹一三)は彼らと女子生徒3人を誘い居酒屋で打ち上げ?(男子は皆学ラン、女子はなんとセーラー服姿)生徒たちにも飲め飲めと勧め、宮本信子扮する生徒が先生にお酌もしつつ自分もぐいぐい飲むのが、なんというかなあ。リアル追及でなく幻想として見るべき?
遅くなった7人の生徒は先生の世話で先生のアパート(と言っているが座敷と次の間の書斎つきのなかなか立派なしつらえ)近くの宿屋に男女それぞれに別れて泊まる。夜中に万年筆を忘れたことに気づいた主人公中村は先生の部屋を訪れ、ストーブのガス管がはずれた部屋で高いびきの先生を派遣するが放置。翌朝生徒たちに先生の死が伝えられる。その前に先生と付き合いがあるらしい場面のある「謎の女性?」(谷川)があらわれ、座敷で葬儀が執り行われ…、そこから後は中村はじめ青年たちの妄想全開?階段教室での受験場面で469番を皆で犯したり、その彼女は後半フォーク集会での歌姫として現れたり。春歌は先生が酒席で歌う数え歌をはじめとして、この歌は何回も繰り返し歌われるし、葬儀の場面では国際学連歌ー学生運動の中で歌われた歌や、その後フォーク集会では「ウイシャルオーバーカム」や「500マイル」?「風に吹かれて」などが歌われ、さながら歌合戦的様相になるが、なかでもすごく可愛らしい吉田日出子扮する「金田さん」という学生が何度も歌う朝鮮語なまりの日本語の朝鮮人慰安婦をテーマとする歌の哀切さが印象に残る。なお、この映画舞台の時期はちょうど受験シーズンから卒業期の2月~3月で、『紀元節復活反対』のデモシーンとかもあったりして、建国記念の日が制定された1966年以前反対運動があったし、子どもながらそれに関心を持ったよなと、時代も感じる映画鑑賞。今ちょっとあり得ないような観念的な映画で、こういうものを娯楽として見ていた当時の若年層って??(まさに私もその世代なんだが、想像がつかなくなっている)。(4月30日 国立アーカイブ 映画監督・大島渚144)

書きました! よかったら読んでください!

●よりぬき【中国語圏】映画日記「大陸の社会派映画はいかに検閲を潜り抜けるか―『ワン・セカンド永遠の24フレーム』『シスター・夏のわかれ道』『奇跡の眺め』TH(トーキングヘッズ)94(2023.4)アトリエサード・書苑新社

同書掲載の以下の記事もあわせお読みいただけます。
「中国語圏映画ファンが選ぶ2022年”金蟹賞”は『七人楽隊』に」(小谷公伯)
「「雨は雲となり風に漂う」-フラッシュバックで描く、四角関係殺人事件と不動産開発の腐敗」(藤井省三)



レスリー・チャン@香港・この20年  シネマジャーナルAnnually Vol.6(通算106号2023・4)テス企画
レスリー・チャンが亡くなって20年(嗚呼!)ということで追悼しながらこの20年の香港 について映画から考えてみました。


お誘いです!
友人(都立高校時代の元同僚)井上佳子さんが合唱に出演されます。楽しみつつ頑張っている人に会うのを楽しみに私も出かけたいなあと思い、微力ですが、皆さんにもお声かけ。
よければ、ぜひお出かけください。私にお声かけ下されば、チケット手配などをいたします(先着1名様 招待状あります)。


音楽の集「ナスカ」演奏会ー酒井良一音楽生活50年を記念して
ヨハン・セバスチャン・バッハ ロ短調ミサ曲
指揮:酒井良一 ソプラノ:山中さゆり アルト:小川明子 テノール:鏡貴之 バス:浦野智行 ヴァイオリン:塗矢真弥 オーボエ:広田智之
管弦楽・合唱:音楽の集「ナスカ」
2023年6月10日(土)開場12:30 開演:13:00
響きの森文教公会堂(文京シビックホール大ホール)
全席自由4000円(出演者価格2000円でお世話できます)

以上、長々とお付き合いいただきありがとうございました!

天城山のシャクナゲ























    








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