【勝手気ままに映画日記】2019年7月

夏だ!夏だ!夏がきたぞ~でもあいかわらず遠出できず。
マンションから眺める都心面の空     ©shiori
府中の夕空    ©shiori

①新聞記者②コレット③誰もがそれを知っている④COLD WAR あの歌、2つの心(ZIMNA WOJNA)⑤Girlガール⑥嵐電➆シンク・オア・スイム イチかバチかおれたちの夢➇こはく➈クリムト エゴン・シーレとウィーン黄金時代⑩氷上の王 ジョン・カリー⑪メモリーズ・オブ・サマー⑫巴里祭⑬アマンダと僕⑭天気の子



①新聞記者

監督:藤井道人  出演:シム・ウンギョン 松坂桃李  北村有起哉 田中哲司  2019日本 113分 

東京新聞望月衣塑子記者の著書「新聞記者」に触発されたフィクションだそうで、望月氏自身もTV討論の場面に出演している。東京新聞がモデル?の東都新聞。記者の吉岡エリカのもとに、医療系大学新設計画に関する極秘情報が匿名FAXで届き、彼女は、真相を突き止めるべく調査に乗り出す。一方、内閣情報調査室の官僚・杉原は、現政権に不都合なニュースをコントロールする任務に葛藤していた。そんなある日、杉原は尊敬するかつての上司・神崎と久々に再会するが、神崎はその数日後に自殺をしてしまう。真実に迫ろうともがく吉岡と、政権の暗部に気づき選択を迫られる杉原。そんな2人が出会い、杉原の助力で、エリカが内閣府が認可する医療系大学の秘密をスクープするという話で、そこにエリカの父が自殺した過去や、杉原の妻の妊娠出産ー父になる杉原の決意などがからむ。松坂もシム・ウンギョンも、それに杉原の妻役の本田翼も人気スターのオーラを消してリアルな等身大の人物として演じている感じで、それが地味だが力強い映画の力を醸し出している。シム・ウンギョンは日本人の父と韓国人の母をもちアメリカ育ちという設定で、口数は少なくてぶっきらぼうだが力強い語調はことばのハンディを上手にカバーして、この記者の派手ではないが、しっかりと真実を見据えていこうとする強さとか粘り強さを感じさせて悪くない。とにかく、いかにも東京新聞?という感じで(実名で朝日、毎日、読売が後追い取材を始めたと喜ぶシーンがある)しかも決してハッピーエンドでは終わらせない怖さもあって、印象に残る幕切れまで息もつかずに見せる。平日夕刻近くの映画館は、高年男性や高年夫婦が目立ってほぼ満席! 聞くところによればその後もますます観客増加とか。 (7月4日 新宿ピカデリー )


②コレット

監督:ウオッシュ・ウエストモアランド 出演:キーラ・ナイトレイ ドミニク・ウェスト フィオナ・ショウ エレノア・トムリンソン デニース・ゴフ 2018英・米  118分

1800年代末のフランス。パリ郊外の小さな村の小地主?の娘ガブリエル=コレットが、14歳年上の文筆家ウィリーの妻になり、彼のゴーストライターとして「クロディーヌ」シリーズを世に出し、ベストセラーになって彼らはセレブ夫妻としてパリの社交界にももてはやされる。しかし、夫を愛しながらも、自分を「校長」として、妻をあくまでもゴーストライターとしての立場に閉じ込めて疑問を感じない夫や、彼の浮気癖に苦しめられたコレットはやがて女性との愛情に目覚め、役者として舞台に立つなど自らの活動を始めるというわけで、19世紀末の風俗とが衣裳とかを楽しみつつも、要はこれはきわめて現代的なジェンダー問題とLGBT映画としても見ることができるわけだ。キーラ・ナイトレイ、細身であごの細い少女時代からすこし顔が少し丸みを帯び憂愁の雰囲気とともに意志力を漂わせる20代?の少し年長までもいい感じで演じて格好いい。ただしフランスを舞台にしつつすべて英語人の英語劇なのは…ウーン。意外とフランス風ロマンス的というよりは質実剛健な英国風雰囲気でまとめられているのはそのせいか。こんな題材で作られてフランスは悔しかっただろうなあ。  (7月5日 川崎市アートセンター・アルテリオ映像館)



③誰もがそれを知っている

監督:アスガ―・ファルディ 出演:ペネロペ・クルス ハビエル・バルデム リカルド・ダリン バルバラ・レニー   2018スペイン・イタリア・フランス 132分

アスガ―・ファルディの映画としては基本的にはすごくわかりやすいが、そのわかりやすさの中で事件の起こる原因だけがあまりうまく展開も回収もされていない感じがする。同じ家族の中にもヒエラルキーが合って抑圧されている人物がいるということなのかなあ?ヒロイン、ラウラは妹の結婚式のため思春期の娘と幼い息子を連れ、アルゼンチンからスペインの田舎に帰省する。実家には父、姉夫婦、その娘(出稼ぎ中とされる夫がいるが思えばこれが伏線になっていた)と幼い娘、妹と結婚する夫などが入り乱れ大歓迎。そして近所でブドウ園を営むパコ―かつてラウラの恋人であったーも歓迎して迎えてくれる。パコはかつてラウラの実家一家の使用人の息子だったが、ばくちで財を失ったラウラの家の農地を買い取り独立した。しかしラウラの父はいまだにパコに土地を奪われたと感じている様子。2人がなぜ別れ、ラウラはなぜアルゼンチンで家庭を持ったのかは語られない。結婚式が無事行われその夜は大パーティ。その席で突然の停電、体調不良で先に休んでいた寝室からラウラの娘イレーヌが誘拐されるというのが事件。30万ユーロ用意せよ、警察に届けると娘の命はないという脅迫のメールが、ラウラとそれになぜかパコの妻ベアにも届き、パコ夫婦も交えて一家が奔走することに。またアルゼンチンからは仕事で来られないはずだったラウラの夫も到着し、彼が実は失業中で仕事の面接のために来られなかったのだということが判明したり、パコも知らなかった娘イレーヌ出生の秘密が暴露されたり、また仲のよかったパコの夫婦関係が不穏なものになっていったり、その他の人物についても本音があらわになったりとかしていくわけだ。誘拐犯の存在も実は後半で示される、それはそんなに意外性はないのだが、ウーン今一彼らの犯罪の必然性がね…という感じ。いろいろと秘密が暴露されて壊れていく人間関係が怖く、それはヒロインの姉夫妻が向き合うラストシーンにも、これから何が起こるのか…というところはある。パコはやはりラウラが好きで、イレーヌが自分の娘である(ネタバレです失礼)として献身的に自分を犠牲にしてまで彼女の身代金を作るが、助かったイレーヌは迎えに来た両親と当然のこととして南米に帰るし、ラウラやその夫も感謝はするのだが…それだけ。もちろんパコは見返りを求めたわけではないのだが、あっさりと袖にされた感じで一家を見送る場面のなんか身を持て余したような期待外れのような表情がさすがバルデムのうまさ。そして自分が帰ると妻は出て行ってしまっていて…なんか映画の咎を一心に背負わされた感じでかわいそうだ。(7月5日 川崎市アートセンター・アルテリオ映像館)

④COLD WAR あの歌、2つの心(ZIMNA WOJNA)

監督:パヴェウ・パヴリコフスキ 出演:トマシュ・コット ヨアンナ・クーリグ  2018ポーランド・仏・英 88分

1946年ポーランドの歌舞楽団に入団するズーラ、その歌舞団のピアニスト・ヴィクトル。2人は恋仲にーというかずっと年上のヴィクトルを少女ズーラが篭絡するような感じに見える。彼女の魔性というか、金髪童顔なのに漂う不思議な雰囲気が魅力的で、男女ともに人好きがするというのではない、ハリウッド系の美男美女ではないところがいいのかもしれない。さて、ヴィクトルはソビエトの歌舞を演奏するように指導され、パリに亡命。誘われるがズーラは待ち合わせ場所にあらわれず2人は別れ別れに。やがて数年がたち歌舞団のスターになったズーラはパリ公演に参加、つかの間のヴィクトルとの再会を果たす。という感じで何回かこういう場面が繰り返され、10年後?ユーゴスラビア公演を見に出かけたヴィクトルは拘束されてポーランドに送り返されてしまう。面会に来るズーラ、やがて釈放されるヴィクトルと再会するズーラ、というわけで話は間の省略が多く、ただひたすらにズーラを恋うヴィクトルと、何を考えているのかよくわからないがここぞという場面ではヴィクトルの気持ちをとらえて離さないズーラという感じで進んでいく。「冷戦」の中で翻弄される2人というより、その時々の2人の思いがにじみ出ているようなモノクロ画面の妙や、数々挟まれるポーランドや、ロシア民謡、パリでのジャスなど音楽の豊かさを楽しむべきか。35ミリサイズのモノクロ画面もこの時代の雰囲気をやソビエト支配下のポーランドの重苦しさ?を表しているようで、決して派手な映画ではないのだが心を惹きつけてやまないところがある。(7月11日 ヒューマントラストシネマ有楽町)



⑤Girlガール

監督:ルーカス・ドン 出演:ビクトール・ポルスター アリエ・ウルドアル 2018ベルギー(フランス語・フラマン語)80分

カンヌでカメラドールをとった若い監督の初長編監督作。テーマは結構センセーショナルなんだろうし、バレエ場面のビジュアルとかも目を引くように作られているが、話は普通に青春の悩みと成長への痛みなどを繊細に描いていて、普遍的な共感を呼ぶ。トランスジェンダーの少女ララのバレエ団(学校)での生活と悩みがテーマだが、彼女の父、まわりの医師やカウンセラー、学校の教師や同級生もみなトランスジェンダーとしての彼女に共感や好意を示すが、実はそこにある無神経とか好意の強制とかがヒロインにとっては悩ましい問題となってしまうところが地味なのだが、わかる描き方。その中で少女として毅然と生きようとするヒロインが美しい。とはいえ、この役者、新人のビクトール・ポルスターは実際にバレー学校に所属するシスジェンダーの少年だそうで、うっそー、15~6でよくこんなふうにこんな役を演じられたというところに舌を巻く。そういうヒロインを見つけ出し演技指導をした若い監督も含め、天才の存在ってあるんだ…。監督はニュー・ドラン(第二のグザビエ・ドラン)と呼ばれているそうだが、同じようにLGBTを描いても、全然視点やタイプは違うように思う。当たり前だけど。
(7月 11日 ヒューマントラストシネマ有楽町)


⑥嵐電

監督:鈴木卓爾 出演:井浦新 大西礼芳 阿部聡子 金井浩人 窪瀬環 2019日本 114分 

5月に見て、よくわからないと思ったので、マジメに再度見に行く。最近2度目以後のほうがよくわかる(私の理解力とか、体調の問題なんだろうねえ…)映画があるように思い、これもその1本。要は別れというより喪失と再会のきざしを嵐電という趣たっぷりの電車にからめて描いたというわけか…。見ていると5月に見たときの記憶にまったくないシーンがいくつかあって、え?私やはり5月にはここで寝ていたのかと愕然…と映画を見ながら思ったのは覚えているのだが、終わって出てくるとそういうシーンがあったことは覚えているのだが、どんなシーンかは忘れてしまっている。あれあれあれ、そもそもが嵐電の車掌の狸とウサギ?が人を化かすというようなコンセプトがあるのだが、私もだまされたのかな…。(7月12日 川崎市アートセンター・アルテリオ映像館)



➆シンク・オア・スイム イチかバチかおれたちの夢

監督:ジル・ルルーシュ 出演:マチュー・アマルリック ギョーム・カネ ブノワ・ボールヴ―ルド ジャン=ユーグ・アングラ―ド フィリップ・カトリーヌ ヴィルジニー・エフィラ レイラ・ベクティ マリナ・フォイス 2018フランス 122分

うつ病で引きこもる男、子どもや認知症の母に悩む男、ミュージシャンにになる夢を追いつつ挫折している男、まったくもてない悩みだらけの男、会社経営しながら現実に向き合えない男、介護施設で老人の匂いに耐えられないと息を止めて仕事をしている男など冴えない中年8人が集まり、かつてペアを組み高い実績を持っていたものの片方は事故で車いす、ペアの怪我に絶望したもう片方はアルコール依存症という女子コーチのスパルタ指導を受けて、男子シンクロナイズド・スイミングに取り組み、世界選手権で優勝するという話で、スェーデンのシンクロ・チームの実話が元になっているとか。ちなみにまもなくどうも同じ実話をもとにした英国版も公開されるようだ。で、話としてはごちゃごちゃ8+2人の日常生活の悩みの方が中心なのだが、8人ということになると場面のエスプリはあるもののどうも散漫な印象。車椅子のスパルタコーチに叱咤激励されるトレーニングシーンは、なかなかだが、しかし皆息も絶え絶え、そして貧乏ゆえに仲間の一人のトレーラーハウスを兼ねたバスで遠征に出かけ、それがミュージシャン志望の男が同輩?に頼んだ効果音や照明効果にも助けられ、なんと優勝というあたりの描き方は意外に安直というわけで、ウーン。男たちみんなの事情をこんなに平等に描き込まなくてもいいのでないかというようないささかの散漫さも感じて、案外疲れる映画だった。シンクロの演技も演出はなかなかだが、オジサン8人それほどでもなく(ま、それはリアル?)。『ウォーター・ボーイズ』(2001 矢口史靖)のほうが見ごたえはあった気がする。(7月15日 キノシネマ立川高島屋)


➇こはく

監督:横尾初喜 出演:井浦新 大橋彰 木内みどり 遠藤久美子 鶴見辰吾 石倉三郎 鶴田真由 2019日本 104分

父が遺したガラス工房を経営する弟と、無職で虚言癖のある兄が、兄が見たという(これが本当かどうか弟は疑うわけだが)昔兄弟を捨てた父親を捜して、琥珀色の長崎の街をさまようというか捜し歩く話。弟は妻の妊娠がわかってまもなく父になるはずだが、すでに別れた先妻との間に2人の息子がいていわば自分の父と同じような行動をとってきたわけで、ほとんど記憶にものこっていない父を探し出して知ることにより、自分の足場を探したいというような気持が描かれる。兄のほうは…? その間の2人を育ててきた母が病気になり亡くなり、父と付き合いがあったらしい女性がその葬儀に現れと…、とても丁寧に繊細に描かれているとは思うのだが、イマイチ物語の世界に溶け込めない気がしたのは、弟が自分の仕事をほっぽり放しで兄につき合って父親捜しをするが、ウーン、自営業だから大丈夫?でもな。それと、兄弟の母がどのように子どもたちを育てたのかなというあたり…ずっと自分で仕事しながら子供2人を育て、小さいながら1戸建てにすんでいる61歳にしては老け込み方が早いのではないかとか、兄の虚言癖も「父を見た」というところ以外は底が割れそうで取ってつけた感じがする。弟の妻(監督の妻遠藤久美子が演じている)もこんなに優しく物分かりがよくていいの?という感じ。そういう背景のステュエーションにリアリティが感じられないところだろうか…。心情のほうに寄りすぎて、現実にあり得るかどうかということは少しおろそかになっているという感じがしたのである。
地味な映画だと思うが、舞台挨拶のせいかシネマート1の前半分はほぼ満席。後ろはまあそこそこ? 若い女性が断然多い。登壇したのは井浦新(よくしゃべる)、木内みどり(若くて素敵!話の軌道修正役)大橋彰(すごく謙虚?)監督横尾初喜(役者にリードされている感じ)   (7月18日 シネマート新宿 舞台挨拶あり)


➈クリムト エゴン・シーレとウィーン黄金時代

監督:ミシェル・マリー 出演:ロレンツォ・リケルミー 柄本佑 2018イタリア 90分

1800年代後半から1900年代の初めのウイーンの作家たちを描きながら、なぜかこの映画はイタリア作品。俳優がナビゲータとして自分の顔を出して語るという形式は、先日みた『ヒトラー対ピカソ』と同じで今回はシーレが死んだのと同じ28歳だと自己紹介する若手のロレンツォ・リケルミーが、あたかもエゴン・シーレを思わせるような雰囲気の美形の黒づくめの服装語る。この吹替えが柄本佑で、他の美術史家、作家、学者などが何人か出てきて語るがこれも全部吹替え(原語はイタリア語?であるとすればそれもなんだか違和感があったかもしれないが)でその調子と饒舌さにどうにもついていけない感じがした。映画はクリムトとシーレのほかに当時の音楽の状況とか、文化状況?さまざまに盛りだくさんに網羅しているようでありながら、例えば絵画でいえばクリムト、シーレのほかはほとんど描かれないし、この時代のウィ-ンの建築とか、工芸のようなものも案外上っ面を撫でているような感じで散漫な感じもして、ウーン。実は私は都美術館のクリムト展も、新国立美術館のウィーン美術館展も見に行ったし、昔は住みたい街はウィーンと広言していたこともあるくらいのウィーンファンのつもり、何だけれど、だからか、いや、なのにかあまり楽しめなかったのはなぜかなあ。
(7月19日 川崎市アートセンター・アルテリオ映像館)


⑩氷上の王 ジョン・カリー

監督:ジェイムス・エルスキン 出演:ジョン・カリー ナレーション:フォン・ディックス 2018イギリス 89分 

とにかくスケート映像(ホームビデオしか残っていないものも惜しげなく)の見ごたえ、ジョンカリーの美しい演技の雄弁さにただただ引き込まれる。オリンピック優勝後、自分でカミングアウトしたわけではないがゲイであることが公表されてしまい、そういう目で見られる、ゲイコミュニティなどでの生活も経て最後はエイズで亡くなるという、そういう部分がどうしても張り付いてきてしまう生涯だったというのだが、オリンピックの演技、その後のプロとしてのショーの演技(途中は資金繰りにも苦しみ、スケートへの情熱を失うこともあったらしいのだがそのあたりはナレーションだけであっさり)、そして彼の美形を見るだけで至福の時を味わえる映画鑑賞。男らしくないとしてバレエを習うことを父に禁止され、スポーツとしてのアイススケートならOKということで始まったスケート人生のようで、ゲイであるのかどうかは別にしても60年代70年代のスポーツ界のジェンダー規範の厳しさみたいなものが痛々しい感じも。多くの友人や関係者、そして母がこもごもに彼について語るのもみな好意的、生きているときもそうだったんだろうか…。(7月19日 川崎市アートセンター・アルテリオ映像館)


⑪メモリーズ・オブ・サマー

監督:アダム・グジンスキ 出演:マックス・ヤスチシェンスキ ウルシュラ・グラボフスカ ロベルト・ヴィエンツキェヴィチ  2016ポーランド 83分

1970年代末のポーランド。父はソビエトに出稼ぎ中、家に残る母と12歳の息子の親密さから…。冒頭新学期?に真っ白なワイシャツを着て、母と並んで学校行く息子が、踏切の中で1人立ち止まり近づいてくる列車を見るという、スリリングに心が震えるシーンが出て来る。息子はこうして死んでいった?と思わせておいて、のどかで美しい田舎町、美しい川辺で水着姿で遊ぶ母子から、仕事と言いつつ帰りが遅くなる母、何が起こっているのだろうと思いつつ、不安をおさえ一人待つ息子。1人で遊びに行ったプール?でおぼれる少年、隣にやって来る同年代の少女とその母の不穏な雰囲気、やがて少女と近づきになり、一緒に母と遊んだ川に彼女を連れていくが、帰り道で大きな不良青年に取り囲まれる2人、いつの間にかその青年と近づきになっていく少女、そして母を訪ねて来る見しらぬ女性など、少年のどうにもできない状況の中で女たちがそれぞれ勝手に?ふるまい、ますます追い詰められていくかのような少年の心情が丁寧に、不安な雰囲気、しかし辺りはすばらしく美しい夏のポーランドの田舎の風景に中で描かれていく。何度かの電話(これも不安な描き方)の後、矢が突然に父が帰って来るが…。大きなドラマティクな事件が起こるわけではないのだが1つ1つ繊細に描かれ少年の心を自分ではどうにもならないような不安に落とし込む事件とクライマックスのあと、踏切の中であたかも母を試すかのような行動に出る少年の表情と母の表情が秀逸。小品の印象はあるがとても端正でうまくできていて、少年の感情に移入しやすい描き方なんだが…それにしてもこの作家女性に関しては不信感があるのかなあ。 (7月19日 川崎市アートセンター・アルテリオ映像館)


⑫巴里祭

監督:ルネ・クレール 出演:アナベラ ジョルジュ・リゴー レーモン・コルディ 1932(20194K版)仏 86分

私たちのなんとなくイメージする花の都パリではなく、貧しい人々も暮らす下町の花売り娘とタクシー運転手の恋に、彼の元恋人のファム・ファタール?が介入し…。まあどこにでもいそうな男のどうしようもなさと、母を失って健気にしかしシュっとして弱そうには見えない女の姿は定番的?だけど、なるほど。なんといっても下町の階段を利用して駆け回る子供たちと女性を絡めて彼女の置かれた境遇を示したり、また母の亡くなったシーンを、斜め上から見る葬列や、門に貼られ忌中?の張り紙で示すとかいう、直接的ではないんだけれどぐっと心に迫るような描き方をしているビジュアルがすごい。そこはかとなく漂うユーモアセンスも言うまでもなく…。(7月24日 川崎市アートセンター・アルテリオ映像館)


⑬アマンダと僕

監督:ミカエル・アース 出演:ヴァンサン・ラコスト イゾール・ミュルトリエ  スティーシー・マーティン グレタ・スカッキ 2018仏 107分

シングルマザーの姉をテロで失い、残された7歳の娘を引き取ることになった24歳の青年の悲しみ・困惑から少女のために頑張る中で生き直すようになるまでを描く「感動作」だがトレーラーではわからなかったのは、姉が死んだテロで青年自身のガールフレンドらもケガをし、腕を怪我したピアノ教師の彼女にとっては職業生活の差し支えるようなことだっということートレーラーの中で彼女が「今の私はあなたの力にはなれない」というシーンをなんだか冷たいように思ってみたが、それならそうだよな…。青年自身もアパートの管理人とか、公園や街路樹の剪定などを仕事にしていて勤め人や学生ではなかったこと―これならまあ、少女を育てる時間的自由はある程度あるかも。そしてトレーラーではあたかも行方不明のように言われた彼(と死んだ姉の)母がイギリスにいて、ウインブルドン観戦に行く青年と少女が、母(祖母)との再会といわば和解を果たすこと。また、青年と少女を助ける父の妹(叔母)の存在も描かれること。これらの要素が青年の生き方の中ではけっこう重要な要素を占めて彼の自立と再生を助ける感じなので、少女に対する困惑と愛のみをクローズアップしたトレーラーはなんか、ズルいよ?という感じ?もちろん本編のほうがリアリティという意味では何倍も上だけど…。トレーラー的にはあまり興味をそそられないテーマだったが、見てよかったかも。
(7月24日 川崎市アートセンター・アルテリオ映像館)


⑭天気の子

監督:新海誠 出演(声):醍醐虎太朗 森七菜 本田翼 吉良咲良 小栗旬 平泉成 2019日本 114分

島の実家から家出してきた16歳の少年帆高が東京で「今までで一番おいしい夕飯(3日間の空腹の果てのハンバーガー)をごちそうしてくれたハンバーガ・ショップのアルバイトの少女陽菜は母を失いモテモテの小学生の弟凪と暮らしているが、母の死の直前に不思議な体験をして、祈ることで晴を呼ぶことができる力を持つ「晴女」。雨続きの東京で帆高は暮らしに困る彼女を助け、その能力を利用して、ウェブサイトを立ち上げ希望する人に短時間・局所的に晴れをもたらすアルバイトを考え出す。大好評のアルバイトだが忙しくなりすぎて仕事を辞めるまでが前半。後半少し接ぎ穂がはっきりしない感じだが、「晴女」としての陽菜は人柱になることによりこの世界の異常気候を元に戻せるという話、未成年の姉弟が暮していることに警察や児童相談所が介入してくるという話、また捜索願が出されている帆高、また彼が偶然拾った拳銃がらみの事件などが起きて3人、そして帆高の面倒を見る零細編集プロダクションを営む須賀とその姪などにピンチが訪れ、彼らは警察に追われ、陽菜は人柱として天空に消え、取り戻したい穂高は補導した警察から脱走して、代々木の入ビル(陽菜が不思議な力を得た場所)へと急ぐ…突然に彼らを襲うピンチがなんか唐突というか、イマイチ…なんで前半ではなく後半に集中するの?とか?天空に陽菜を助けに飛び出す帆高のシーン、二人が出会い戻るシーンはビジュアル的にはいかにもという雲の上の世界でさすが…なんだが、戻ってきて問題は解決しないどころか、現実的に3年後に持ち越され、好天よりも陽菜を選んだ帆高の選択のおかげ?で東京の半分は200年前のように海に戻って当然、みたいな最後も、大雨災害などに悩まされている日本の各地の人々には受け入れがたいのではないかという、ウーン、アニメには求めたくないような暗い結末という気もして、なんか愛の勝利?みたいには感じられず…ウーン。3年降り続ける大雨の中、人々はどんな暮らしを選べるのかが全然現実的ではないし…アニメだからといってその辺は許されないんじゃないかなあという思いから逃れられない。
(7月29日 府中TOHOシネマズ)

7月の長雨と学期末をやり過ごしやっと行った高尾山
猛暑晴天にもかかわらず、夏の空気は霞んで山はみえず景色イマイチ😞


     次回多摩中電影倶楽部は8月17日に行います。詳細は以下のblogで。ご参加歓迎します。

        https://tamachu-huayingtiandi.blogspot.com/


コメント

このブログの人気の投稿

スマホ写真で綴るアンナプルナ・ダウラギリ周遊シャクナゲの道 ある(歩)記 2024/3・30~4・7

【勝手気ままに映画日記+山ある記】2023年9月

【勝手気ままに映画日記+山ある記】2023年7月