【勝手気ままに映画日記+山ある記】2025年5月

 

浄土山頂上から龍王岳方向

雄山からの下り道。前方遠くに燕・大天井・常念/手前はすると野口五郎・三俣蓮華・薬師岳

【5月の山ある記】

5月4~5日  立山:浄土山~龍王岳~雄山 3山周回残雪トレッキング

5・4  扇沢(電気バス)⇒黒部湖(ケーブルカー)⇒黒部平(ロープウェイ)⇒大観峰(電気バス)⇒室堂ターミナル(2432m)➡雷鳥荘(泊)
 この日は室堂ターミナルから雷鳥荘まで約1.2㎞ 20分ほどを歩いたのみだが、真っ白い霧
 と雨模様で前後左右ほとんど見えず、硫黄のにおいを頼みに雷鳥荘まで。
 ここは、温泉付き、洗面所には飲料水しかも温水も出る。乾燥室も万全(まだまだスキー
 客もたくさん)、食事もいいし、二段ベッドではあるが消灯も特になく、ベッドには充電用
 のコンセントもあり、部屋の内外にゴミ箱も完備されたなんとも快適な温泉宿である。

5・5  雷鳥荘➡浄土山(2831m)➡龍王岳(2872m)➡一の越(2705m)➡雄山3000m)➡室堂平
 6h46m 7.0㎞ ↗900m ↘850m コース定数32(きつい)平均ペース130-150%(速い)(データ・ヤマップ)

Yツアー (参加者13名 男性2名 ガイドは社長!のYさん。添乗員はAMさん=女性)
黄色は乗り物利用。青が周回コース。S=スタートは扇沢G=ゴールは室堂ターミナル

Yさん

久しぶり(年末以来)の3000m級登山ということで、高山病(といっても私のは胃腸限定だが)がでないかと少し心配していたが、それより!4日新宿7時集合のはずが目覚めると6時3分前!、16分の電車には乗るはずだったのに、あ、間に合わない。幸いにも荷物は作ってあったので、お湯だけ沸かしてテルモスに詰め大急ぎで家を出る。新宿発のツアーはバス旅で2か所の休憩では朝しそこなった腰と足のキネシオテーピング。扇沢からは電気バス、ケーブルカー、ロープウェイ、電気バスと乗り継ぎ14時半室堂ターミナルに到着する。数日ここに詰めてツアーガイドを続けているというYさんの出迎えを受けて雷鳥荘へ。なんか非常に慌ただしい出発で、高山病?等にかかる余裕もなかったという感じ。温泉に入り、なかなか豪華な夕食をいただき(気持ちはひかれたがアルコールは山から下りるまで自粛。生ビールは1000円だそう)7時過ぎには早々に二段ベッド下段の「個室」で休んだ。

そしていよいよ5日。昨日とはうって変わった晴天!元気に起きたが、共用のセルフサービスのお湯のポットに水を補充したりしてバタバタしているうちに少し吐き気を催す。ヤレヤレ!で、朝ごはんはこれも盛沢山なビュッフェ形式だったがあまり食べられず
7時15分宿を出発し、室堂平(室堂山荘)でアイゼンとヘルメットを装着。浄土山へ。出だしでは白い雷鳥(冬・雪山にしかいない)にも遭遇し、歓声をあげながら…。

実はGW最中のこの期間、昨日の室堂まであがる電気バスや、ケーブル、ロープウェイはどれも満員、駅舎にも人があふれという状態だったのだが、ガイドの采配で浄土山から龍王岳への道筋は人のほとんどいない「快適」コースとなった。
浄土山を仰ぐ
私自身はそんなに快調でもないと、浄土山への坂の途中からはトップ(ガイドの次)にさせてもらい、自分をペースメーカーにする戦略をとる(キリマンジャロと同じ)。片足1Kg?の12本爪アイゼンを履いて、トレースもない雪中を行くのが最近は少しつらくなってきたかなあと内心こっそり弱音も…。しかし、何にもまして励まされるのは山頂からの雪をかぶった北アルプスや白山までの山々に心が開けていくのを感じる。

比較的緩やかな浄土山への尾根を越え(9時すぎ)、さらにゆったりと広がる龍王岳への尾根を楽しみ(風は強い)、龍王岳への登りにほんのすこし苦しむ。それでも最後はよじ登り龍王岳には10時ごろに到着。いったん人がいっぱいの一の越まで下り(10時50分)、そこでの小休止後、アイゼンを外していよいよ雄山へ。こちらもまあ途切れることのない人の列という感じで、おかげでスローテンポ?と思いきや、案外普通の速さで50分ほどで頂上直前の2986m地点に(12時10分)。さらに見える雄山の頂上までは、雪に埋もれた鳥居まで荷物をデポして進む。
昼食は合間合間で持参のパンや黍団子(棒状)、ミルクティなどで少しずつ。


人ごみの一の越山荘/ここから雄山頂上をのぞむ(今年は雪が少ないとか)/雄山頂上神社
頂上三角点/なんとも絶景の展望

雄山はアイゼンをつけずに登ったが、かなりの積雪でやはり下りはちょっと怖い。再びアイゼンをつけて40分ほど、岩と石と雪の間を下り一の越へ13時20分。ここからの室堂ターミナルへのなだらかな斜面のトラバース、広い雪原歩きの30分あまりがけっこうきつかった。若い人々はさっさと歩いていくが、うん?足が進まぬ。一度はトラバース斜面から転げ落ち、14時15分の電気バスに乗らなくてはならないという焦りにやや反省。それでも13時50分には何とか到着。
源流蕎麦
往路の逆をたどりバスからロープェイに乗り継ぎ黒部平で源流蕎麦(1400円)で腹ごしらえ。さらにケーブルカー・バスを乗り継いで15時すぎ?には扇沢に戻る。このあとが休日の難行バスで、中央道の大渋滞に少しもバスが進まず、なんと!新宿到着が23時50分!もう、今日中には帰れぬかと、泊る算段まで考えた帰路の旅になった。
でも、まあまあゆっくりペースとは言いながら、立山3山周回をなし終えた満足の1日だった。

5月18日  高尾山―今年もセッコクを見に行った!

立山のあと、5月はいろいろと生活の悩み?が立てこみ体調もイマイチ、山にあこがれつつ体は動かぬという状況だったのだが、これはいかんとばかりに、天気もまあまあ(暑そうだが崩れはしそうもない)の日曜日、思い立ち10時出発の遅出ながら高尾山に(今年3回目かな)。もちろん今回もソロ登山。(写真は上から人ごみの展望台/ケーブル駅のセッコク)

10:50高尾山口駅➡清滝ケーブル駅入り口のセッコクを見る➡11:05 6号路より登山開始
日曜なので、ボーイスカウトの子どもたちの一団はじめいつになく?多くの人々がこの6号路を歩いている(稲荷路が通行止めになっているせいもある?)➡11:28 6号路途中で向かい側の杉の木にカメラを向けている男性に遭遇。聞いてみると、中空の杉の枝にピンクのセッコクの花群れがついているのを教えてくれた。おー!写真を撮ってみるが、これは何となく全体
がボヤッとした空気のせいもあり、今一つ。通りかかる何人かには花の存在を教えたりしたが、気にもせず素通りしていく人も…。その少し先、セッコクの看板の下、昨年は低いところでの花群れを見た場所はきれいに刈られて気配なし。➡12:03沢を越え、木段の登山道へ➡12:10頂上下の広場?ベンチで休憩・黍団子とミルクティーで軽く腹ごしらえ➡12:25人でいっぱいの頂上へ。展望台からの富士山は曇り日の中に霞んでいるとはいえ一応まあまあ見えて、登ってきた甲斐があった。/12:40~13:10頂上下「やまびこ茶屋」で一番安い「冷やし蕎麦」(800円)をいただく。➡13:15 4号路下山➡随神門➡13:50ケーブル分岐の茶屋でアイスコーヒー(500円)を一杯。さすがに暑くて。➡琵琶滝上までの急坂(高尾山唯一の中級斜面と思っている)を下り高尾病院の裏へ14:20到着。➡再度ケーブル駅に行き、セッコクの写真を撮り直し(そこにいた男性とストック談義)極楽温泉に。温泉後はビール一杯飲んでから高尾山口駅から高尾経由で立川に回り映画1本鑑賞のなかなか実りたっぷり?満足の休日を過ごせた。
富士山もなんとか見えた!

5月22日 箱根 神山~駒ケ岳

8:50小田原駅集合・9:20バス→10:30湖尻➡10:46防ヶ沢登山口➡13:42神山(1437m)14:13➡15:25駒ケ岳(1356m)箱根本宮・駒ケ岳ロープウェイ(7分)⇒箱根園駅・15:35バス→小田原  4h58m 6.1㎞ ↗884m↘260m(ロープウェイ駅まで) コース定数14(普通)平均ペース90-110%(ヤマップデータ)
(Yツアー 参加者:13名(女性12名、男性1名 ガイドKHさん、添乗員OJさん=お二人ともおなじみのスタッフ)

箱根・神山へのルートは2015年以来火山活動の影響で封鎖されていたが、今シーズン?から再開とのことで組まれたツアーに参加。各地で梅雨入りの中で雨が心配されたが、途中ガスったり、陽がさしたり、おおむねは薄曇りという感じではあったが、幸いにも一滴の雨にも降られず、ぬかるみの道ながらゆったりペースで、2山に登頂、駒ケ岳上のロープウェイで一気に下山する。駒ケ岳からの富士山、芦ノ湖方面の絶景はいつもながら(といっても箱根に行ったのは何年ぶりかしらん…)絶景を楽しんだ。

↓ヤマップのプレミアム(年割)にとうとう申し込んだ!何しろ無料版は5月から地図を月1枚しかダウンロードできず、これではどうにもならないということで。特典割引で年割が1年6ヵ月有効(5700円)とか。これで心おきなく地図が見られる。と思ったら、なんとこの版のルートは色分けされていて黄色は速く、青の部分はゆっくり目だとか。へー!? / 駒ケ岳上からの芦ノ湖

神山から下りてきて、次は駒ケ岳へという休憩ポイント。ミツバツツジ?が美しい。よくしゃべる(壊れたラジオとはご自身の弁)ガイドのKHさん↓
曇り日ながら富士山もくっきりと見えた…/ロープウェイからの「海賊船」



5月30日 班根石山~古賀志山

7時新宿集合(バス)⇒9:30宇都宮森林公園駐車場登山口➡11:34班根石山(559m)➡
12:52富士見峠➡13:07古賀志山(582.8m)➡14:32宇都宮森林公園駐車場登山口(バス)⇒15:00湯処あぐり16:00(バス)⇒17:30新宿

5h04m 6.6㎞ ↗545m ↘545m コース定数13(ふつう) 平均ペース90-100%(ヤマップデータ) Yツアー 参加者11名(男性1人) ガイド KM&OJ (最強コンビ!)

↓本日のルートと、スタート地点近くの池?のほとりからみた古賀志山方面

栃木県の古賀志山は600mに満たない山ながら100以上の登山ルートを持つ、岩場もありトラバースもありなかなかに変化の富んだ山道が楽しい山とのことで、楽しみにしていたのだが
この日雨!ウーン。おまけに2~3日前から鼻風邪?気味で体調も今一つだし、朝までキャンセルするかどうするか実は悩んだ。でも今日のガイドはYツアーでよくお世話になるOJさんとその盟友KMさん(彼女は私のアンナプルナ周遊エベレスト街道、それにキリマンジャロとお世話になったまさにそのかた。しかも来週からのヨセミテツアーも…)というわけで、がんばってみよう!と出かける。
「雨なので最初に予定していた岩場続きを変更して、安全度の高いルートにするが、それでも難所はあるので気を引き締めて。今日は修業の山と思って」という前振れで雨の中歩き出すが、意外にも、栃木を本拠地とするKMさんの例によってのペース割の絶妙によってか、苦しいともつらいとも全く感じないままに、やや急登もこなし、変化の多いしかし下りもあり、ちょっと険しい岩場も越えという感じでいつの間にか距離を稼ぎ(距離的にはまあ稼ぐというほどではないが)、雨もいつの間にか小降りに、やがてほぼ上がり班根石山古賀志山と二つのピークに立ち、間ではゆっくりお昼(今回は雨だし気温も低めということでポットに詰めたお湯でフリーズドライのミネストローネとお粥中心。パンとミルクティ、前回に続き葡萄も持って行き美味しく食べる)も食べて、帰りには温泉も、というわけで何だかラクラクの楽しい山登りとなった。
若い頃はちょっとの風邪くらいなら山に登った方が(空気がいいから?)元気になるなどと思っていたが、最近はそうでもないなあ、やはり具合の悪い時はダメだわ、などとも思っていた。それがけっこう大丈夫で、なんか若返ったぞ~!バンザイ!

↓KM&OJ/こんな岩場も/昼食を食べた小ピーク
↓古賀志山山頂/班根石山からの眺望




【5月の映画日記】

①ゲッペルス ヒトラーをプロデュースした男 ②けものがいる③ブルータリストカウントダウン(焚城)⑤青春―苦―⑥青春―帰―⑦新世紀ロマンティクス(風流一代)⑧MUMU不説話的愛ミステリアス・スキン➉自由光州ー1980年5月ー⑪はじけ鳳仙花ーわが筑豊わが朝鮮ークイア⑬リー・ミラー 彼女の瞳が映す世界 ⑭OKAは手ぶらでやってくる  ⑮娼生(鳳姐)⑯未完成の映画 ⑰ミッション・インポッシブル ファイナルレコニング 宝孜達⑲半路出家⑳幸存者㉑唐探1900

中国語圏映画④⑤⑥⑦⑧⑮⑯⑱⑲⑳㉑(意外に中国語圏作品の多い月でした)
日本映画・すべてドキュメンタリーでした!➉⑪⑭
★はナルホド! ★★はイイね! ★★★はおススメ!(個人的感想です)
各映画の最後の番号は今年になって劇場で見た映画の通し番号。
各文中の赤字部分は、その作品などに言及したページへのリンクをはったところです。
今月から見た順に下から上に(新しいものほど先にみられる)形にかえました。
また、すでにご覧になった方もあると思いますが、新しい映画や山の情報が入り次第ページを更新していく形にしました。いかがでしょうか?

㉑唐探1900
監督:陳思誠 出演:劉昊然 王宝強 周潤發 ジョン・キューザック 張新成 白客 太保 2024中国(英語・中国語) 136分 ★

なるほど、こう来るか!中国映画、というところ。
1900年のアメリカ・金山(サンフランシスコ)では中国移民排斥の嵐吹き荒れていたが、そこに興中会の孫文・鄭仕良を捕えるために清朝の高官費洋古の一行がやってくる。おりしも下院議員グラントの娘アリスと、巻き添えを食ったのか先住民の老人がチャイナタウンで殺され、アリスの恋人の白辰邦が犯人と疑われる。費洋古の迎えを頼まれていた唐人街にくすぶる?(天才との触れ込み、これってもしかして『デクリプト③』から?陳思誠、劉昊然、ジョン・キューザックと、かの映画のメンバーがそろっている)探偵?秦福と(今回は叔父ならぬ)先住民に育てられた中国移民遺児の阿鬼(殺された老人を父と慕う)は、白辰邦の父、唐人街を仕切る協盛堂の長・白軒齢の依頼で犯人探しに乗り出す。
女性の出てこない映画で殺されたアリスぐらい。男性の方は張新成、白各、劉昊然あわせて若きイケメンそろい踏みという感じだし、王宝強(セリフが少ないせいか例のキンキン声もこの映画ではあまり気にならない)も、それになんといっても白軒齢を演じる周潤發のほどよく年を重ねて品も出てきて貫禄もありというインパクトは何とも言えず。中国人と西洋人の結婚を禁じていたという当時の法律に翻弄される若い二人、鉱山の爆破事故で両親を亡くす阿鬼など、当時のアメリカで中国移民の置かれた位置・立場についての問題提起が盛りだくさんな中(なお、次に移民排撃の標的になったのが日本人だ)息子が裁かれる法廷で父親白軒齢が打つ演説ーなかなかすばらしい英語で行われるーは中国移民がこの国のインフラなどを作り上げるのにどれだけ貢献しどれだけ報われていないかを打ち上げて迫力があり、単にこの時代だけでなく時代を飛び越えて今、移民排撃を露骨に始めているアメリカ政府(トランプ大統領)への批判がはっきりと示される。なるほどね、中国もこういうやり方でアメリカに対抗するんだ、と面白く思う。とこう書くと深刻な人道映画?とも思われてしまいそうだが、全体としては王と劉の凸凹コンビは健在のコメディ映画であるのに変わりはない。(5月27日 ヒューマントラスト有楽町 金鶏海外影展155)

幸存者(Lucky)
監督:于思茗  出演:毛雪雯 2023中国30分

夫に面倒を見てもらっていた愛犬ラッキーを引取りに、3カ月ぶりの単身の仕事(脚本家)から自宅に戻った木子(ムーズ)は久しぶりに夫に再会するが、夫との間もぎこちない。夫にいろいろと話しかけていく木子となんかそれをはぐらかしつつ、思いやりを示すようなようすで木子の自分勝手や能力の足りなさを責めていく夫の話法?というのはなんか「見たことがあるよう」な感じで、類型的なんだがけっこううまく進んでいくセリフ劇。最後は犬を連れ家を出ていく木子で、全然意外性はないし、夫婦どちらの言い分もわかりつつイライラさせられ、どちらにも共感は抱けないが、そういうふうに作ることを意図した実験映画なんだろう。北京電影学院の卒業制作?として作られたらしい。
(5月26日 ヒューマントラスト有楽町 金鶏海外影展短編3本一挙上映の1本154)

半路出家
監督:孫華巍  出演:劉学 2023中国15分 

指名手配中の荒くれもの阿貴は、僧侶の姿になって母の葬儀に潜り込む。読経する僧たちの集団の一員としてその場にいるが母の棺の傍までは近づけない。その後、葬儀場に一人たたずむ彼は他の葬儀の喪主に本物の僧と間違われ、読経を頼まれる。困惑しながら自身の知っている言葉?でなんとか読経らしい片を付けると、遺族の青年に感謝される。そんな中で自らを振り返り、母の死への悲しみを確認し…阿貴の心の動きを静かに追っていくような映像が心にしみる。(5月26日 ヒューマントラスト有楽町 金鶏海外影展短編3本一挙上映の1本 153)


宝孜達(バオズタ)
監督:克冉·阿布卡斯木(コーラン・アーブーカースームー)出演:哈斯鉄尔(ハースーティエアル)2024中国25分 ★

端正な画面構成ー1枚1枚が静止しても十分に見られる絵のよう。色合いも青みがかった白や黒のクールさで、心地よい。物語は田舎の親戚に逗留する街の少年クランが親や伯父叔母の留守中に、そりを羊にひかせたいと従姉に迫るが入れられず、こっそり羊を橇につけて雪原に繰り出す。しかし羊に逃げられ、従姉とともに探しに出るが、すでに交通事故?で瀕死状態になっていた。従姉に死んだ羊のために「バオズタ」をするのが「男のつとめ」だと迫らる。現代の感覚と伝統との間で困惑する少年の戸惑いが描かれている。(5月26日 ヒューマントラスト有楽町 金鶏海外影展短編3本一挙上映の1本 152


ミッション・インポッシブル ファイナルレコニング
監督:クリストファー・マッカリー 出演:トム・クルーズ ヘイリー・アトウェル ビング・レイムス サイモン・ペッグ イーサン・モラレス アンジェラ・バセット 2025米 169分 ★

「ファイナルレコニング」で前作「デッド・レコニング」は実は見ていないのだけれど、まあどうせ細かい細かい話はあまり問題にしなくても見られるだろうし、ファイナルということで見られる映像もあるかなと、今回どちらかというと日常生活からの逃避?的意図を満たしてくれる映画ということで見たのだが…。うん、期待には十分応えてくれた気がする。
このシリーズの作品の断片的映像がたくさん出てきて、ああ、あれ見た見たという感じで楽しめるし、ルーサー(ビング・レイムス)やベンジー(サイモン・ペッグ)ら、トム・クルーズ(62歳だって!)も含め高齢者層が話の中でも映画でも若手をリードして話の中核にいるのが面白いし(ただしルーサーはこの映画で死んだみたい?だからこのシリーズも終焉?ということかなあ)、また大統領(アンジェラ・バセット=格好いい!)や海軍の潜水艦の責任者とか地位の高い役を女性が占め、またイーサン・ハントのチームもグレースはじめ複数の女性が活躍するし、男女の語らいみたいな場面は少ないけれど(というかほとんどない)軍隊場面なども含め女性(と黒人や少数民族)の露出が意外に多く、なるほど現代のアメリカ活劇か…。AI支配の世界からの脱却をはかる大統領の苦悩の決断は、ひそかに現代トランプ政権への批判が隠れているような気も。もちろん、イーサン・ハントの海中、空中、手に汗握るというかこちらの忍耐力が試されるようなスタント・シーンの数々も健在で、それを楽しめるだけでもいいかなという休日の1本になった。(5月25日 TOHOシネマズ府中151) 

⑯未完成の映画
監督:婁  出演:秦昊 毛小睿 斉渓 黄軒 梁鳴 曾剣 2024シンガポール・ドイツ 107分(2024東京フィルメックス鑑賞作品⑭-⑥) ★★★

すでに、東京フィルメックスで見たのではあるが、フィルメックスでの観客賞、金蟹賞でも作品賞、そして劇場公開という流れに、時間もあったし一応もう一度見よう!あわよくば次の「よりぬき中国語圏映画」に取り上げようなどと、久しぶりに吉祥寺まで。
うんうん、前回と基本的には同じ感想だが、前回あまり気にならず今回は強い印象を受けたのは、コロナで封鎖されたホテルに滞在するメンバーが春節を迎えオンラインパーティーをする場面(要はZoom画面だ)、婁映画のスタッフ・キャストでもあるメンバーがここでは毛暁叡(監督の役名、婁は自分では演じず、あえて自らのスタッフに監督役を演じさせている)映画のスタッフ・キャストとして、それぞれのホテルの部屋でそれぞれに歌ったり踊ったり(中国人はホント踊りが好き?)そしてその合間に封鎖中の各地の病院?などで防護服姿の人々が集団で踊っているシーン(スマホで撮影された実際の映像?)などが織り込まれ、そのエネルギーってスマホ撮影ながら画面から飛び出す感じ。秦昊演じる江(ジャン)のホテル室内のひとり芝居、その彼の妻役でスマホでのテレビ電話場面のみですべてを演じる斉渓の吸引力もなんかすごくて、フィルメックスではたくさんの映画の隙間?で見ているせいか印象が薄くなっていたかなとやや反省。
ちなみにこの映画の中で10年前の未完成の映画は『スプリング・フィーバー』(2009)らしき?クイア映画で、しょっぱなに黄軒と梁鳴が抱き合っていた!(この部分は『スプリング・フィーバー』ではカットされたものらしい)(5月24日 アップリンク吉祥寺150)
 

⑮娼生(しょうふ 原題:鳳姐)
監督:邱新達(ブルース・チウ) 出演:ジーン・カオ(高宇蓁)黃冠智 段鈞豪 蔡嘉茵 2023台湾(北京語・台湾語・日本語)100分 

1980年ごろの台湾、歌手にあこがれ台北郊外の田舎からでてきた鳳の娼館「飲氷茶室」での暮し、日本帰りゆえに日本人の客の相手ができることで、女老板からは拒否された娼館に潜り込み、自らの居場所を隠して故郷の老祖母と弟への仕送りをする。そして15年後、警官になってこの街にやってきた弟は姉を探し、娼館で鳳というそれらしき女に出会うが、彼女は姉であるとは認めない。という最初のあたりで日本人男性が女性を買いに来るあたりは、当時の日本男性旅行者のありようの批判ともとれ、また食堂で露骨にセックスワーカーへの差別意識を見せる母娘の姿などに、女性をそのような場に追い込みつつ差別をする社会に対する批判が感じられないこともないが、基本的にはなんというか娼婦になった女性と弟の邂逅とその後の悲劇のメロドラマという感じかなあ。
映画の最初の方で田舎の家で少年の弟にご飯を食べさせてもらい「おばあちゃんがお漏らしした!」と叫ばれていた祖母が、15年後悲しい帰還をする姉弟を迎えて15年前と変わらぬというか、もっと元気になっている?様子に老婆のしぶとさ?みたいなのを感じてしまった。
主演のジーン・カオは台湾の夜8時台のテレビドラマの女王だそうだが、この映画では主演のほかに製作にもかかわり、主題歌も歌っているという活躍で、この映画に打ち込む姿を見ることができる。騙されて売られてきた16歳の少女が台湾語を解さないということで、娼館の面々が彼女にわからないように台湾語で話すという場面があって、台湾の戦後時代のことばのありようが見られるのが興味深いし、日本語の使われ方もなるほどという感じではある。(5月24日 シネマート新宿149)

⑭OKAは手ぶらでやってくる
監督:牧田敬祐 挿入歌:友部正人 2024日本90分

1951年生まれの栗本英世氏は14歳からボランティア活動を始め、カンボジア・クメール政権下でタイに越境し帰国した元難民の子どもたちが親に売られていく状況から、カンボジアに多数の「寺子屋」を作り教育を授けることから子どもたちの救済を始める。2005年頃に脳腫瘍に冒され、長年の闘病ののち22年に71歳でなくなったこの人が残した言葉「ボランティア活動は誰でも(怠け者でも、お金がなくても、異端者でも云々)できる(但しお金や地位?のある人はダメかもということばもついていた)を惹句に見に行ったのだけれど、ウーン、やはり「誰でも」といっているのはご自身だけで、なんかすごーい人だったんだ…。腹話術の人形を使って子どもたちに講演したり、指笛を吹いたり、歌ったりすごくそういうアート系のセンスもあった人みたいで、とても人を引き付ける人だったのがわかる。近江商人の出?でお金はなくても集める力はあった人で、現地の人にはOKA(チャンス)と呼ばれたとのこと。
最近いろいろあって、今後の自身の生き方の見直しを迫られている感じがする。今は人の役に立つようなことは何もしていない自分が、これからのそんなに長くはないと思われる残りの人生、何ができるのか何をしたらいいのか…。ただ自分のために遊んでいるようなのも気が引け悩ましく、一方でもう「老後」なんだからそれでもいいじゃない?と思う気持ちも…でももしかしたらまだ30年くらいは生きるかもしれないし…??とそんな思いで上映最終日、見に行った1本なのではあるけれど…。(5月23日 新宿K’Sシネマ 148) 

⑬リー・ミラー 彼女の瞳が映す世界
監督:エレン・クラス 出演:ケイト・ウインスレッド アンディ・サムバーク アレクサンダー・スカルスガルド ジョシュ・オコナー マリオン・コティヤール アンドレア・ライズボロー 2023イギリス116分  ★

ケイト・ウィンスレッド自らが製作・主演した報道写真家リー・ミラーの生涯を描く。映画は70年代老いたリー・ミラー(特殊メイク?かしらん。しっかり老いている)が若いジャーナリストのインタヴューに答えて半生を振り返るという構成になっていて、その振り返る人生というか活動の迫力というのは主演のウィンスレッドの迫力とも重なって、かつ出てくる写真は実際にリー・ミラーが撮ったもの?(あるいは同じ構図で後から作られた?)で解放されたユダヤ人収容所に潜入して撮られた死体の山とか、難民になった人々とか、そしてチラシの図柄にもなっているヒトラーの死の日にその浴室でリー自身を撮影したポートレートとか(これもエンドロールに実物と、映画のと2枚並べて映し出された)そのものの迫力も相まってぐいぐい迫ってくる見ごたえがある。面白いのは、なんか最初は思わせぶりな感じで登場するリーと若いジャーナリスト・トニーの関係で、これが最後の場面であっという感じで語り全体を貫くキーになっていくのが、ナルホドねのドラマティク。 リー・ミラーには彼女が写真家として戦地に赴くよりは自分が養うという芸術家の夫がいて、彼との間には一人息子のアントニーも戦後生まれていたという話なのである(ネタバレ失礼!)。 (5月18日 キノシネマ立川147)


⑫クイア
監督:ルカ・グァ二ダーノ 出演:ダニエル・クレイグ ドリュー・スターキー ジェイソン・シュワルツマン レスリー・マンビル 2024アメリカ・イタリア 137分 ★

1950年代のメキシコシティ、駐在員?(ウィリアム・S・バロウズの自伝小説が原作だとも。すれば「作家」ではないの?とも思うが…。実際にタイプライターや資料の書籍がつまれた部屋は駐在員というより作家に見えるが…)ウィリアム・リーが美しくミステリアス青年ユージーンに一目ぼれして追いかけ、ユージーンが誘いに乗って二人の逢瀬が始まるが、気まぐれなユージーンの態度にリーがますます孤独を募らせるのが最初1時間20分あまりの出だし。
単なるBL映画?という感じの男同士の抱き合い場面が続き?少々(かなり)疲れるが、このあとリーはユージーンを誘って南米の旅に出る(バックに浮かぶ富士山型の山はチリのオソルノ山(2652m)?あるいはエクアドルのサンガイ山(5260m)か)ここではアヘンの禁断症状が出たリーがユージンに病院に担ぎ込まれるシーンとか…。そしてリーはある種の幻覚症状を起こさせる植物(ヘマ?といったかな)を求めて、ユージーンを連れて南米のジャングルに踏み込むというのが3部。意外にすぐに目的の、薬物?を研究する女性コッター博士にたどり着くのだが、そこでガラガラ蛇に襲われそうになったり??ーなんかコンラッドの『闇の奥』とか『地獄の黙示録』とかのような雰囲気になってくるなあーコッターを演じているのがレスリー・マンビル(『ミセス・ハリスパリへ行く』⑦2022アンソニー・ファビアン)でいつものどちらかというと可愛らしい?雰囲気とは全然違って額は抜け上がった長髪で薄汚い?特殊メイク(かしらん)野性味あふれるコワいオバサンを怪演している。そしてここで意外にもカンタン?に謎の植物は手に入りリーはユージーンとの間に不思議なテレパーク?状態を体験、そしてジャングルから帰っていくのだが…ま、とにかく最後まで孤独な初老を演じるダニエル・クレイグ必見かも。BL映画というよりはなんかオカルト映画的おおもむきもあってウーン。作者は『君の名前で僕を呼んで』⑨(2017)のルカ・グァニダーノだけれど同じ男同士の恋の映画といっても全然味わいが違う(1部はやや踏襲?)のにこちらも幻惑された感じもあり、なかなかに楽しめた。原作者ウィリアム・s・バロウズ自身もゲイであったが妻子もいるということ。あまりに堂々とデートしているこの映画の男たちにとって題名は「クィア」でセリフでも自分がクィアであることを喧伝するような場面もあるが、実際のところ、本当にそんなふうだったのか??ちょっとわからない。
(5月16日 新宿ピカデリー146)


⑪はじけ鳳仙花ーわが筑豊わが朝鮮ー
監督(構成・編集)土本典昭 原案・絵・詩(出演):富山妙子 語り:李礼仙 音楽・演奏:高橋悠治・三宅榛名 1984日本48分 ★★

こちらは画家自身の創作中の映像や、監督・土本(なんか40年も前の作品とはいえインタヴューの言葉に??「女性として、どうか…」とか)のインタヴューに答えて自身の捜索について語る場面も含まれて、社会問題として描くというよりそれを富山自身がどう見てどのように絵画化したかというような富山自身について描いているという感じ。彼女にとって筑豊やそこに強制的に連れてこられて地下に閉じ込められるようにして働かされ死んでいった多くの朝鮮人炭鉱夫や、それにかかわった日本の普通の男たち(同じ炭鉱夫)の問題は避けて通れない自身の問題であったのだということがぼーっと生きている私に反省を迫るかのように立ちはだかる。そんな映画であった。偶然時間のあいた午後東中野で。
(5月16日 ポレポレ東中野 画家富山妙子と2本のドキュメンタリー 145)

➉自由光州ー1980年5月ー
監督(構成・編集):前田勝弘 画:富山妙子 1981日本 25分 音楽:高橋悠治  ★    

画家富山妙子は2021年に100歳で亡くなった。その彼女が60代のはじめに描いた絵(リトグラフ)をもとに構成した2本の映画がデジタルリマスター版として公開中ということで見た、その1本目。⑪と2本立てで上映されている。光州事件を中心として韓国での民主化運動とその弾圧を実写と彼女のリトグラフで綴った1本。画家の目や手を通して作られた画像が、実際の当時の映像以上に迫力をもって訴えてくることに今更ながら打たれる感じがする。全体が一片の詩のように?構成されている。
(5月16日 ポレポレ東中野 画家富山妙子と2本のドキュメンタリー 144)

⑨ミステリアス・スキン
監督:グレッグ・アラキ 出演:ジョセフ・ゴードン=レビッド ブラディ・コーべット ミシェル・トラクテンバーグ  ジェフリー・リコン 2004アメリカ 105分 ★

1981年アメリカの片田舎、リトルリーグの監督の常習的な性暴力被害を受けた8歳の二人の少年の10年後まで。内気な母親っ子のブライアンは自身の被害の記憶を忘れ宇宙人に襲われたという妄想というか夢を抱いて生きていく。一方けっこう意識的に監督を受けいれたニールの方は監督の面影を求めて年上の男と関係を持つ男娼としての生活を選んでいく。2人とも「父」不在の生活であること、ブライアンには同じく宇宙人に襲われた記憶を持つという少女の友だちができ、一方のニールにも幼時からのGFや、友人エリックがいて意外に孤立した少年ではないところが、ウーン「今」的ではないかも。ともに自身の状況への失意や見直しを迫られ19歳で二人は再会する…そして? 少年への暴力的な性行為とか、カルト的な友人関係とか不健康な要素満載?なのだけれど映画自体の構成がきちんとしていて明解で、清潔感がある仕上がりになっているのが意外というかすごいというか。
今はしっかり中年?の主演俳優たちの20年前の初々しさからも目が離せない。(5月16日 新宿シネマカリテ143)


⑧MUMU 不説話的愛
監督:沙漠 出演:張芸興 李珞桉 黄尭 ヴィヴィアン・ティエン 2025中国(英語・中国語字幕版)111分

題名の「MUMU」は「木木」でヒロインの少女(8歳)の役名・愛称。中国映画の子役の常でなんとも達者な演技をする少女は何となく少女時代の周迅みたいな雰囲気。聴覚障害をもつ父が同じく耳の聞こえない仲間のコミュティで学齢期に達した娘を育てる話で、かつて夫と娘を捨てた母(妻)が再婚し、経済力も持って娘を迎えにくる。親権をどちらが取るかという話で貧しい父は、最初は弁護士の紹介を受けるという話から、保険金詐欺(車でわざと事故を起こし車両保険?を詐取する)に巻き込まれ実行犯として加担することになる。まあ、要は貧しい障がいのあるイケメン(なにしろEXOのレイだ)の体を張った父の愛、という話で、これを大きくなり、手話通訳として容疑者の援助に携わる娘の視点からの回想として描いている。おとなになった娘が面倒をみる「容疑者」の女性は聾の俳優とか。また実際に父を取り巻くコミュニティの人々も多くは耳の聞こえない人たちみたいで、それらが実名顔出しで並ぶエンドロールは映画中もっとも見ごたえのある場面?しかし、ことば(中国語)の問題かもしれないが「残疾人努力している」とか「聾人」「听人」とかいうのは漢字字幕で見るとなんかちょっと…日本語感性から見ると??というところも感じなくもない。
なぜか1週間だけの夜(19時過ぎから)限定上映(しかも中英文字幕)だが、観客はほとんど女性で30人くらい??  (5月13日 新宿ピカデリー142)


⑦新世紀ロマンティクス(風流一代)
監督:賈章柯 出演:趙濤 李竺斌 周游  潘剑林 2024中国 101分

『青春』⑤⑥が現代の中国をある一都市の青年労働者の暮しに寄り添い眺め続けた9時間でるあるのに対して、こちらは2001年の山西省大同から2006年長江沿いの奉節、そしてコロナ禍の2020年大同へと、一組の男女の軌跡を追いつつ二人がその中で生き、二人を取り囲んでいたそれぞれの街の人々の様相や、街自体の変化を、賈章柯自身の旧作『青の稲妻』(2003)『長江哀歌』(2006)などに使われたり使われなかった映像をちりばめ織り込んだ101分。一つ一つの場面に現れる人々の様子や営みは『青春』に比べあっさりしていて説明的部分も少ないし、主役の2人の演技も部分的には旧作のものそのままだったりもしながら、省略というか見せない部分で語らせてしまうようなあっさりしたと言えばあっさりした描き方で、若い男女の別れから追う女、最後は逆に老いの弱さを見せつつ故郷に戻った男にいたわりも見せつつ、自らは自らの道を歩んでいく女の姿へと昇華させていく感じで、ウーン。追う女という点では『帰れない二人』(2019⑤)を踏襲?しているようでもあるが、あれほどにドラマティックにはせず、街に飲み込まれている人間の営みとしての関係という形で描き切っているのもすごいすごいと思いながら見たのだが…考えてみればこれって、自分が彼の旧作ほぼすべて見ているから、その世界に違和感なく入っていけたんだけれど、もしかこれが賈章柯作品初めての鑑賞というような人にわかるのかなと、ちょっと考えさせられてしまった。(5月13日 新宿武蔵野館141)


⑤青春ー苦ー(2部)⑥青春ー帰ー(3部)
監督:王兵  2024フランス・ルクセンブルク・オランダ ⑤226分(途中休憩有)⑥152分 ★★

1部の『青春-春-』は私は2023年東京フィルメックスで鑑賞、2024年4月の劇場公開は見なかったが、今回その2部、3部が同時公開されて、『青春3部作』が完成したことになる。かつてたった一人でデジタルカメラを構えて撮った9時間の話題作『鉄西区』(2003・これは私は山形ドキュメンタリー映画祭で見た。私自身の山形初参加でもあったし、当時は王兵の名ももちろん知らず、ただその約10年前の94年頃私自身が瀋陽・鉄西区にある大学で日本語を教えていたという縁で見に行った。初めての9時間もの上映で上映環境は決して良くなく2部などは緑色の線というか影が入って往生したけれど、内容的にはもう打ち砕かれた!という感じだった。その後2013年に劇場公開されたときにももう一度見ているはずだが、やはりあの1回目の衝撃を越えるものではなかった)それ以後の9時間3部作ということだが、カメラを構えて何時間でも被写体に寄り添うというような作者の姿勢は以前と変わることがない、というか王兵の映画にいつも共通する姿勢といえるが、今回の作品はさすがの到達度、『鉄西区』の時には暗い中にモゾモゾうごめく人々という印象の場面もあったりしたが、今回1場面、場面の吸引力がハンパではない。もちろん素人の織里で働く人々の日常や会話をカメラ密着という感じで追っているのは変わりないのだが、ほぼ眠くなることもなく(体調は決していいというわけでもなかった)特に2部では、仕事がヘタで同世代(皆20歳前後)の同僚からぼろくそに言われ、叔父に連絡をとり贈り物(牛乳らしい)を持って他の工場へのあっせんを頼むに行くものの結局受け入れられず冷たくあしらわれてしまう少女(成人女性というほどの感じはとてもない)や、自身の仕事の記録であり給料支払いの原簿となる「帳簿」をなくして社長に頼むものの受け入れられないという青年のドジとか、そういうちょッとしっかりしろよと声をかけたくなるような「苦」から、社長が突然夜逃げをして取り残されてしまった従業員たちの苦しみまで、ナレーション的説明はなくてただ登場人物の言葉のやりとりだけで話が進んでいくのだが、あたかも自分もその場にいるような感じで胸が迫り、「苦」は観客の身にも届くという感じ。⑥「帰」はそんな彼らが春節前、1年(実際には後半期?)の仕事に区切りをつけて故郷に帰省する様子中心で始まる。荷物をまとめ稼ぎを携えて帰っても、家では決してのんびりできるわけでなく、女性は家事に追われ、男も老いた父ではできない仕事を頼まれたりで、寒村で手に息を吹きかけながらする作業の様子。この休みを利用して結婚式を挙げるカップルとか、妻に子どもが生まれて、赤ん坊の世話をする父親なども出てくるのだが、印象としては貧しさの再生産という感じは否めない。1部から2~3部を通じて出で来る青年(と彼女)が町工場(縫製工場)街を歩いて職探しをするが結局みつけられず茫然というあたりもなんかつらくてというか身につまされる?感じもあって、ただ楽しんでは見られない(楽しんでみることを作者自身が考えていない)とにかく、つらさも感じながら、自分が今更ながらの無力感を持ちながらも、目をはなしてはいけないなという長い1日の鑑賞ではあった。それにしても日本に悠々観光に来るような富裕層の一方でこんな中国の貧富の差、習近平の中国ゆえだろうね…。なんかなあ…(5月9日 渋谷シアター・イメージフォーラム139・140) 

④カウントダウン(焚城)
監督:潘耀明(アンソニー・プン) 出演:アンディ・ラウ(劉徳華) カレン・モク(莫文尉) 白宇 呉彦妹 イヴァナ・ウォン ルイーズ・ウォン フィッシュ・リウ ジェフリー・ガイ ケニー・ウォン マイケル・ウォン ホ・カイ・ワ 2024香港136分 ★

香港新界の工場火災?から始まり、そこに高濃度放射性物質セシウムの漏洩が疑われる状況、さらには間もなく台風が到来するという気象状況、台風で雨が降るとセシウムは香港に蔓延して700万人の命を脅かすばかりか100年は回復できないほどの環境的なダメージも、というわけで、10年前やはり大きな火災?で采配の不備から責任を取って辞め、環境汚染の防止を研究するファンが呼ばれ、政府の責任者セシリアとともに対策に立ち上がることになる。10年前の火災事故で消防士だった姉(ファンの妻でもある)を助けられずに失った後悔からファンともうまくいっていないキットは今回も前線の消防士のリーダーとして若い部下とともに対策に走る、というわけで香港映画らしいこの家族の確執と和解を組み込みながら、ファンがセシリアの政治的対応を批判しつつ二人がなんとか互いに折り合いをつけ香港を救う道を探るという「会議室」側と、全面火と爆発に包まれた「焚城」側の緊張と、その中での消防士の愛とか友情?犠牲や協力の姿をいくつかのエピソードで見せる場面とが往ったり来たりという典型的なディザスター活劇。ファンも途中一度、セシウムの捜索と回収に消防士たちの先頭に立って現場に入るシーンはあるが、この挑戦自体は失敗し映画の中の大きな見せ場とはなっていない。アンディ・ラウとしては活劇的見せ場よりセリフ劇的会議室場面が中心で、さすがそれはそうだよな…というお年頃?バイ・ユーはじめ、アニタ・ムイを演じたルイーズ・ウォン、香港映画に顔を見ない日はない?ようなフィッシュ・リウら、若手の、実行部隊員やそれを支えたり命令を下す側の女性はなぜか1990年生まれのオンパレードという感じもあり、ナルホドそれが今の香港映画界を支えているわけか…。
この映画龍のマークこそついていないが製作は北京電影廠とか大陸側も関わっており、バイ・ユーはじめ大陸出身の役者も出ている。ただ物語は香港に限定され、大陸出身の役者が演じる人物も香港人で、映画自体は少なくとも日本公開版までは広東語(大陸には当然北京語版があるのだろうが)。そして面白いのはこの映画の時代設定が2007年ごろになっていることだ。映画の最後機密漏洩的行為によって香港を救う決断をするファンは問題解決後3年間投獄されて出所する場面あり、また他の人物もそれぞれ罪に問われる事象があり、どのような処遇だったかが語られる。ここには当時国家安全条例による中国側の介入もなくそれに先立つ雨傘運動もまだ起きていない、司法の独立?が保たれていた時代ゆえの香港の良識や自治がそれとなく示されているのではないかなと感じる。香港映画、頑張っている!と改め感じた。(5月9日 シネマート新宿138)


③ブルータリスト
監督:ブラディ・コーベット 出演:エイドリアン・ブロディ ガイ・ピアーズ フェリシティ・ジョーンズ ジョー・アルウィン 2024アメリカ・イギリス・ハンガリー 215分

97回アカデミー賞の中で何部門にもノミネートされエイドリアン・ブロディが2回目の主演男優賞をとった作品としてマークしていたので、下高井戸シネマ1週間の上映プログラム最終日に出かける。2部仕立てで、間に15分のインターミッション。前半、主人公のラースロー・トートが命からがら祖国ハンガリーを逃げ出しアメリカに渡る。ダッハウの収容所に入れられていて彼とは別れ別れになったままだった妻の手紙、妻と一緒にいた姪が尋問されるというシーンから始まるが、物語そのものはトートの人生を追う。すなわちペンシルバニアで家具店を営む従兄に受け入れられ、そこでそれまで培った家具やインテリアのデザインで店を助け、実業家ハリソンと知り合うーこの出会いはハリソンの息子のサプライズのインテリア改造がハリソンには気に入らず怒りとともに金も払ってもらえず追い出されるところから、実はその作品が非常に評価されハリソンがラースローを迎えに来るというようなけっこう劇的な(そのあたりはハリウッド的?)な描かれ方もして、特に前半女性もほとんど出てこない男同士の世界みたいな物語の吸引力になっている。彼はハリソンに認められペンシルバニアの彼の邸にほど近い丘の上にコミュティーセンターを建てるという事業を任される。従兄の妻との関係を疑われて従兄との縁を断つというような展開はあるものの、概ね順調なアメリカでの出発が描かれる。後半は栄養失調からの骨粗鬆症で車椅子に乗った妻と、姪がアメリカにようやくわたってきてともに暮らす愛と軋轢、苦しみ?にもみちた生活。妻エルジェーベトは大学出で英語の達者な才媛で記者として原稿を書いていた近代女性として描かれる。映画は全般に暗く抑えた色調なのだけれど、二人のセックスシーンはモノクロに近い色合いで影のような感じで描かれるのであるがとても美しかった。あと、自然を写す色合い、特に明け方の茜色と群青の空の対比とかも…。そこにブルータリズム様式の飾りを廃して打ち放しのコンクリートの垂直壁とかむしろ窮屈さ、非解放(要は収容所のユダヤ人たちの不自由の象徴?)が浮かび上がるのも映像としては面白く…。体調イマイチ(夜全然眠れない)で大丈夫かなと思いながら見たが寝ることはなく、なかなかの迫力で迫ってきた作品。ただし隣のオジサンは始まりからグーグーいびきで参った!(5月9日 下高井戸シネマ137)


②けものがいる
監督:ベルトラン・ボネロ 出演:レア・セドゥ ジョージ・マッケイ ガスラジー・マランダ グザビエ・ドラン(声・共同製作) 2023フランス・カナダ(仏語・英語)146分 ★

整理しないと書けない…、かなりのネタバレ ゴメンナサイ!
2044年AI中心の社会では仕事に人間の感情は不要とされ、重要な仕事に就くためには感情を消去するプログラムを受けなくてはならない。感情消去に疑問を抱きつつも職を得るためにプログラムを受ける決意をしたガブリエル。プログラムの中で彼女は1910年社交界で生き夫を愛しながら満たされない思いや不安を抱くピアニスト・ガブリエルとしてルイという青年に会い愛され、恐れながら自らも彼を愛する?が、やがて悲劇的な結末に至って火災の中水を張ったプールのようになった建物でおぼれ死ぬ―この時代のパリが水害にあって水に沈むイメージが何度も繰り返される。さらに2014年家主が留守の邸宅の管理を任された駆け出しのモデル・ガブリエルが家を襲うけもの?(獣というより鳥のイメージ?これは1910年にも現れる)と、女性に愛されたことがないルイのストーカー的現れ方におびえながら決してつながらない人間関係(感情)の中で殺されてしまう悲劇ー2014年若くして死に、すぐに転生して2044年(30年後)に再び若い女性として職を求めるわけか…ーを生きなおし、44年のプログラムでそれらの時代の感情を乗り越え消去して再生復活するということになるはずだったのだが、わずか0.7%の失敗例として感情は失われなかった。そしてプログラムの実施前センターで偶然出会った、彼もプログラムを受けたはずの青年ルイと再会するが…(ここまで書くと結末はほぼ予測できてしまう)。1910年は見るからにアール・ヌーヴォー的装い?だし2014年について言えばPC(ネット・SNSとか)が駆使された現代だし、そしてAIが支配する2044年というちょっとかなりオソロシイ時代をそれぞれの時代の装いでその時代の人物として演じる二人の役者の妙。時代をつなぐ鳥(鳩)とか占い師とか、カフェ文化の中の排他性とかを共通項としてつなぎ、44年感情消去プログラムの面接官(声)はグザヴィエ・ドランと、話題性にも満ちて、またビジュアルも1910年は35m、2014年はスマホ画質、2044年はスタンダードサイズと画質も変えて、骨子はシンプルながら複雑な雰囲気を盛り上げて飽きさせない。ことばは基本フランス語だが、ルイとガブリエルのシーンだけは英語(ジョージ・マッケイがイギリス人だがら?)。この映画はもともとはレア・セドゥとギャスパー・ウリエルが共同企画したのだがウリエルが22年にスキー事故で亡くなり、フランス人以外の役者ということでマッケイが起用されたのだそうだ(映画com批評)。(5月8日 新宿シネマカリテ 136)

①ゲッペルス ヒトラーをプロデュースした男
監督:ヨアヒム・A・ラング 出演:ロベルト・シュタットローバー フリッツ・カール
フランツスィカ・ワイズ 2024ドイツ・スロバキア 128分

2人の役者の演じるヒトラーとゲッペルスの映像の合間には実際のヒトラーやゲッペルス、当時の人々が現れ、ユダヤ人の累々たる死体や瓦礫となった街とか、当時のナチス兵とかも出てくるモノクロの実際の映像なども交え、例えばゲッペルス夫妻や家族のやり取りのようにドラマ化しているところもあるが、けっこう多くがヒトラーやゲッペルスらの実際の演説を忠実にたどった?感じの演説場面で話が進んでいくので、なんか歴史の教科書を見ているような感じもするのだが…。大写しなんかはないけれど、それぞれ実在の人物の映像と違和感なく続くような演じ方でこれもナルホド…。戦争やナチス政治のプロバガンダ的側面というかゲッペルスがになった部分の大きさが当然だがわかるように描かれ、自分が命じ主導した映画が100年後には人々の心に残る古典?になるはずという彼の信念も現代にも通じる?ものとして、なるほどこの映画が原題に作られた一つの意義がわかるような気もした。
(5月7日 新宿武蔵野館 135)  


最後までのおつきあいありがとうございました。
6月は2日から9日までアメリカ・ヨセミテ国立公園のハイキングツアーに行きます。なんで今アメリカか(トランプの排外政策の中で)というお声もありそうですが、だからこそ観光客としてみておきたい?というのも言い訳じみている?
ともあれ鬱屈した日常を少しでもはらして元気になりたいという思いで…。ガイドKMさんからのお誘いでもあり決心しました。
したがって、6月の「電影★逍遥」最初のアップは10日過ぎ?になりそうです。どうぞよろしくお願いします!      
                                                     小林美惠子xiaolin091@gmail.com
           

     



コメント

このブログの人気の投稿

スマホ写真で綴るアフリカ大陸最高峰・キリマンジャロ登頂記2024・12 .22~2025・1.1

【勝手気ままに映画日記+山ある記】イスラム映画祭2025 2025年2月

【勝手気ままに映画日記+山ある記】2025年6月