【勝手気ままに映画日記・東京フィルメックス+山ある記】2023年11月

 

    久しぶりにくっきり大きな富士山に会いました! @高川山 11月23日

 紅葉も最高!の一日でした…


11月の山歩き

11月3日
 伊吹山 1377m  
伊吹山ドライブウェイ→駐車場 
西登山道入り口→頂上周回→東登山道  2.5㎞ 1h24m ↗146m↘149m   90ー110%(ヤマップ標準)
3170歩
下からの登山道は台風により崩落中通行止め。やむなくドライブウェイを上がって、最後の周回ハイキングコースのみ歩く。


11月4日 八経ヶ岳 1915m
  
弥山登山口→弁天の森→弥山小屋→八経ヶ岳→弥山→弥山小屋(往路下山)
9.1㎞ 8h16m(休憩2h36m) ↗1038m↘1042m  90-110%(ヤマップ標準)27600歩
☜下から見た弥山~八経ヶ岳


11月5日 大台ケ原山(日出ケ岳)1695m
大台ケ原ビジターセンター(1573m)→日出ケ岳(周回コース)→大台ケ原ビジターセンター 5.6㎞ 2h51m 262 263 90-110%(ヤマップ標準) 18000歩

↓ 日出ケ岳頂上からの絶景





11月はじめに日帰り山行3日間というツアーに参加して滋賀県・和歌山県へ。泊りはホテルで楽ですが、初日は岐阜羽島まで新幹線で行き、家康ブーム・観光まっさかりの関ヶ原で渋滞、また、1日目から2日目、2日目から3日目の移動距離(バス)の長かったこと!
大台ケ原から帰りの新幹線名古屋までも長かった。山歩きの量?の割にはバスに疲れたツアーとなってしまいました。

11月23日 高川山 975m(むすび山コース縦走)
初狩駅→高川山登山口→(男坂経由)→高川山→尾曽後山→天神峠→峯山→オキ山→むすび山→むすび山登山口→大月駅 9.9㎞ 4h47m ↗659m↘783m 0.9-1.0(ヤマレコ)16000歩
☜祝日、紅葉のまっさかりゆえ、喧噪の高尾山を避けて単独山行。しかしここも頂上にはそこそこに人がいました!
高川山は初狩側から登ると登山口から1時間(駅からでも1時間半)で結構急坂ですが、あっという間に登れてしまう…、しかし今回大月駅に下りたむすび山縦走コースは小さな上り下り続きで案外時間がかかる珍しい?山行経験でした。ただしその縦走下りの紅葉の美しさ!楽しめました。

右から富士山、御正体山 二十六夜山、松山、今倉山…かな

11月の映画日記

①青春の反抗(青春並不溫柔)②愛は銃(愛是一把槍)③7月に帰る(7月返帰)④毒舌弁護人~正義への戦い(毒舌大狀)⑤正欲➅バーナディット ママは行方不明⑦蘭心大劇院 サタディー・フィクション➇人生に詰んだ元アイドルは、赤の他人のおっさんと住む選択をした⑨メドゥーサデラックス⑩ゴジラ-1.0⑪私の大嫌いな弟へ⑫響け!情熱のムリダンガム⑬黒衣人⑭冬眠さえできれば⑮タイガー・ストライプ⑯雪雲⑰Last  Shadow at First Light⑱川辺の過ち(河辺的錯誤)⑲青春⑳命は安く、トイレットペーパーは高い

①②は東京国際映画祭作品(紹介・感想は 東京国際映画祭 へ)
⑬~⑳は東京フィルメックス作品です。中国語圏映画は①②③④⑦⑬⑯⑱⑲⑳(多い!)
日本映画は⑤➇⑩でした! ★は なるほど! ★★は いいね! ★★★は おススメ!の個人的感想です。



①青春の反抗(青春並不溫柔)
監督:蘇奕瑄 出演:リー・リンウェイ  イェ・シャオフェイ  ロイ・チャン 2023台湾 114分

②愛は銃(愛是一把槍)
監督:李鴻其 出演:李鴻其   2023 台湾81分

 ①②については 東京国際映画祭 に記載しました。

③7月に帰る(7月返帰)
監督:ネイト・キー(謝家祺) 出演:アンソン・コン(江熚生) 白霊 2023 香港101分

香港の映画製作会社MM2の新進監督プロジェクトの3本目(先の2本は『香港の流れ者』と『窄路微塵』)のホラー第1作。伯父とともにカナダに移住していた青年ウィンが、香港に残る母が練炭により自殺未遂?をしたとの知らせに香港に戻る。「自分は香港は嫌いだ」という言葉にあるようにここに描かれる香港は全体にくすんで暗く映画の画面そのものの暗さもウーン?目が悪くなったか、と思わせるほどでくたびれる。
帰ったウィンの7日間がなぜか逆算で第七天から始まって(7日前ということか?)ウィンは病院に母を見舞った後、かつて母とともに住んでいた、今も母が住んでいる古い団地の部屋に戻るが、そこに奇妙な行動をする人々や、奇妙な出来事が次々起こる。ウィンは陰と陽が見える目の持ち主で普通のヒトが見えないような霊などを見ることができる―MM2のプロデューサー、マニー・マンが去年はオンラインだったが今年は登壇して質問に答えたが、彼女によれば実際に香港にはそういう目を持つ人がいるらしい。そして他にも映画の中の階上からの不審な物音―階の間に子供が住んで物音をたてると言われるらしい―あるいはテレビに映った花火がどうとかいう都市伝説とかそういうものを組み込み、それを見た人がどういう態度をとるか、見て見ぬふりをするというようなことも組み込みつつ…というのだが、ウーン。ま、最後は沢山の死者のための紙の車とか家財とか、妻までに囲まれここで暮らすことを迫る母や香港住民に囲まれてウィンははっと目を覚ますと…というような生と死の狭間が描かれる??とはいえ、実は私にはどうもなじまない映画で、自身のホラー嫌いを自覚。ひとつ言えるのは、同じような民間伝承や都市伝説的なものをベースにしていても台湾のホラーは自然との近距離が感じられることが多いが、この香港ホラーはあくまでも閉鎖的な団地社会で、これも見ていてつらい。(11月2日 恵比寿ガーデンシネマ香港映画の新しい力 328)

④毒舌弁護人~正義への戦い(毒舌大狀)
監督:呉煒倫(ジャック・ン) 出演:黄子華(ダヨ・ウォン) 、謝君豪(ツェ・クワンホー) 、王丹妮(ルイーズ・ウォン)、 廖子妤(フィッシュ・リュウ)、王敏徳(マイケル・ウォン)楊偲泳 (Renci Yeung) 2023 香港 133分

政治状況などの変化が厳しい中で、その香港に根差した映画として今年の春節映画として香港の興行記録最高を達成したというので、興味を持っていたが恵比寿の香港映画特集、同時に行われたシネマート新宿の上映ではスケジュールがどうしても合わず、仕事の切れ目にちょっと検索してみると関東圏では唯一お台場で1日一回夕方から、明日まで!というので(しかも今日は映画サービスデイ)急遽出かけることに。我ながらよくやるよとは言いつつも家から1時間半はかからない。
さてそして、判事として「クズにこびない」という信念の持ち主(だそうだが、このあたりやる気なさそうなオーラがムンムンで全然共感できない)ラムは上司ににらまれ不本意な異動。それを不満として判事をやめ弁護士となる。最初に扱ったのが母親が娘を虐待死させたとして起訴された事件で、ラムはしっかりした若手女性のフォン・カークワン(演じている人、見たことはあるが、公式ページにもいろいろな映画案内にも名前が全然出てこないのはなぜ?調べて行きついた!レンシ・ヤン?)と組んで弁護に当たるがここではいい加減な態度・調査であっという間に敗退、被告のツァン(こちらは『アニタ』で主役を演じたルイーズ・ウォン、まったく違った雰囲気で演じている)は禁固17年の刑を受けることになってしまう。
それから2年、後悔と反省に生きていたラムは、新たな証人(というかかつての証人が偽証を告白して死ぬ)の出現によって、再度この裁判を戦うという話で、ツァンのパートナーにして死んだ子の父である医師、その妻で有力な一族の一員(これがフィッシュ・リュウ。酷薄そうなタカビー的類型だが結構はまっている)やバックの一族の不正に立ち向かい、公正・公平を論じるるラム、ファン、そして実は判事(謝君豪)の裁判での主張というか発言がインパクトを持ってせまる、という後半は、裁判としてはかなり嘘っぽくはあるのだが、なるほどね!香港はこういうふうに頑張っていくんだなと納得させられる。監督は『アニタ』の脚本にも参加したというジャック・ンで監督デヴュー作。丁寧に描いているが、やはり少しだれるというかもたれるというか、133分は必要ないという気もするのではあるが。(11月8日 ユナイテッドシネマ・アクアシティお台場 329)

⑤正欲
監督:岸善幸 出演:稲垣吾郎 新垣結衣 磯村優斗 佐藤寛太 東野絢香 2023日本 134分 ★

朝井リョウの原作の映画化。東京国際映画祭の監督賞・観客賞受賞作ということで、映画祭の延長の気分もあり、公開2日目監督・出演者の舞台挨拶中継ライブ付き(たくさんたまっているポイントは使えないのだが)を見に行く。土曜朝9時の開始の自宅そばのTOHOシネマズ。入りは6割ほどか?この劇場のこの時間にしてはさすがというところ。朝井リョウ的群像劇(ただしこの作品は私は珍しく未読)という呼び込みだが、大きくは三ーになり妻もそれをバックアップするが、「フツウ」を求め、妻子と対立する検事啓喜、二つ目は広島。自身が親とも友人とも繋がれないと感じたまま30代に入り、ショッピングモールで契約社員をしている夏月はモールに偶然訪れた中学時代の同級生の強引ともいえる誘いで中学の友人の結婚式に出、故郷を離れたまま音信不通だった佐々木佳道と再会する。
二人はともに中学時代「水」を愛する性癖を通じて(で、実は二人ともどうも「人を愛する」ことができない)共有する思い出がある。交通事故で両親を失った佳道は故郷の実家に戻るものの周りになじめず、「明日生きていたくない・生きる必要がない」というような感覚とともに孤独に生きている。夏月は佳道のことが気になり、ある事故から二人は水を通じて付き合いを取り戻し、「偽装結婚」(舞台あいさつでは新垣が「偽装」とは思わないと発言。そうだよね。私も全然偽装とは思わなかった)して横浜に出る。
もう一つの話は(多分横浜?あるいは都内?)の大学。男性恐怖をかかえる八重子は友達に引きずられるように学祭の委員になる(東野絢香、おどおどした女子大学生の演じ方は類型的で共感を感じられないと思ったがそれをおどおどのままで最後にひっくり返すようなインパクトある演技はなかなか)。ダンスサークルで踊る大地に心惹かれるが大地はダンスをやめてしまい、八重子はダンスサークルのリーダーから同じ学部の大地を気にかけてくれるよう頼まれる。実は大地も人とはつながりを持てない水フェチ。佳道と大地は(もちろんそれぞれハンドルネームでだが)水と戯れる子供達(これが検事の息子のユーチューバーだ)の動画を通じて知り合い、もう一人同じような興味で参加してきた男と3人で実際に会うことになる。彼らは公園で遊ぶ子どもたちとともに水と戯れそれを動画にとる。公開はしない約束だったが…。もう一人の男の抱える性癖からある事件がおき、佳道・大地・夏月は検事啓喜と対峙することになる…。妻子に去られた普通人啓喜に、夏月が「自分はいなくならない」と佳道に伝えてほしいというところがこの映画のメッセージを端的に示しているのだなあと感じ入る。生きることの意味を見出せず人とつながれない人間が、自分のままで人とつながろうとする希望が描かれた作品。場面展開とかは案外タラタラしてそれほどにも思えないが、新垣、東野、それに磯村あたりの表情の演技が映画のインパクトを支えている。(11月11日府中TOHOシネマズ330)

➅バーナデット ママは行方不明
監督:リチャード・リンクレイター 出演:ケイト・ブランシェット ビリー・クラダップ エマ・ネルソン 2019米 106分 ★

チラシや、それから映画の出だしも南極にいる主婦バーナディットの姿からで、これって家を出た主婦の旅のロードムービー?と勝手に思い込んでいたら全然違って、前半は元天才建築家、しかしある裏切りにあい、極度の人間嫌い、外出嫌いになり夫と娘との小さな家族の世界に生きているバーナディットの陰鬱、不機嫌、隣人とのトラブル、夫の浮気?、あげくはロシアマフィア?まで絡んだようなカードの不正取引に巻き込まれというような踏んだり蹴ったり状況が続いてみる方も少々くたびれる。
家族旅行としていくことになっていた南極行きを彼女はそれでも切望するが、夫や周りの人々は彼女は精神科治療が必要だから夫と娘が南極に行っている間治療を受けるようにと勧められる。怒ったバーナディットのそれからは、さすが!で痛快、痛快、追いかける娘のと夫の優しさもなかなかに身に沁み、まあ、甘いいと言えば甘いがハッピーエンドまで一直線。まあ要はこれも才能を封じられ行き場を失った女性のジェンダー問題映画というわけだ。リチャード・リンクレーターっぽいというか、いや、今までとはちょっと違う?ケイト・ブランシェットとうまい具合に溶け合ったというべきかな。(11月14日 川崎市アートセンター・アルテリオ映像館 331)

⑦蘭心大劇院 サタディー・フィクション
監督:婁華 出演:鞏莉 趙又廷 オダギリ・ジョー パスカル・グレゴリー 王傳君 黄湘麗 張頌文 中島歩 2019中国 中英仏日 127分モノクロ
原作:虹影『上海の死』横光利一『上海』 ★★

1937年12月1日~7日までの1週間、未だ日本の支配の手が伸びていなかった上海・フランス租界を舞台に、そこで演じられる『サタディー・フィクション』という芝居、その主演女優にして実はフランス?(孤児としてフランスの諜報員に育てられた仕込まれた)側のスパイ)ユー・ジンと演出家のタン・ナーの恋、同じ芝居のプロデューサー、モー・ジーイン(実は南京側のスパイ)と、ユー・ジンを慕い芝居に加わる女優白雲香(こちらは重慶側)、そこに日本の暗号更新のために日本からやってくる古谷海軍中尉(彼の妻はユー・ジンに似た美人だったが、誰かに殺害されたらしく行方不明)と迎える上海に駐留する日本軍の梶原(黒メガネの中島歩、冷たくばしばし殺して強く色気なし)がからみ、誰かが誰かを陥れ、騙し合いのはてに派手派手しい銃撃戦、その合間にタン・ナーの演出する芝居のシーンがはさまり、ただしこれも注意していないと当時の上海を舞台にした芝居らしく、どこからどこまでが劇中劇なのか翻弄するような感じに作られているのはやはりロウ・イエ流というものだろう。
コン・リーは女優役だが、モノクロ画面の中では、美しく着飾った場面などは少ないし、またカメラ映えもしない感じで、むしろ劇中劇のワイシャツ(というかカッターシャツというべきだろうか)にサスペンダーでつったパンツ姿、髪も乱れ化粧もナチュラルという感じは、最近の大女優ぶりというよりか、かつての『紅高粱』のワイルドささえ感じさせるようで、なんかすごい!ただモノクロ画面って、そういうコン・リーの「老い」をかくし若く見せる効果もあるのかな?とは少々うがちすぎか。本当に1週間の期間に日本軍も含め、さまざまな立場の人物が入り乱れるので、話の筋を理解するのはちょっと難しく、理屈で見るよりはそのように入り乱れざるを得ない、そして殺し合いまで発展してしまう人間の哀しみみたいなものをロマンティックに味わうほうが楽しめそうだし、役者たち(特にオダギリジョーはその気配濃厚)の芝居もそういう感じに傾いている?アップリンクの公式HPから入れる小谷賢氏の寄稿を読むと、当時の政治情勢とスパイたちの立場がまあ、わかる。で、ともあれ楽しめたのは確か。(11月14日 新宿武蔵野館 332)

➇人生に詰んだ元アイドルは、赤の他人のおっさんと住む選択をした
監督:穐山茉由 出演:深川麻衣 井浦新 松浦りょう 河合青葉 柳ゆり菜 猪塚健太 原作:大木亜希子  2023日本 114分

元アイドルが、引退後順風満帆を主張する最初、精神科医にもっとゆっくりしゃべるようにと言われる。順調なつもりだったが出勤途上に突然足が動かなくなったことから、自らの職なく、家賃5万の風呂ナシアパート暮らし、預金残高10万円に追い込まれ、友人の勧めで56歳の「おっさん」の家(このひとが戸建てのまあまあの持ち家の他に、軽井沢に別荘をもち、かつては赤いポルシェを乗り回していた、そして休日はピアノで「別れの曲」を弾き、趣味は「特捜」もののテレビ鑑賞という、しかもきちんとスーツ・ネクタイのサラリーマンという、まあ、そういう点で謎の人物。妻と離婚して今のようになった…とかいう「本人」の説明ではとても納得できない暮らしぶり?多分家屋敷は親譲り、かなりの自己中心的な生活から妻とも破綻した?とも思えるが、それにしては井浦新演じるササポン(という呼び名)のホンワカ・のんびりぶりは生来ではないの?とも思えるのだが…)
しかしこの映画はそのような「おっさん」との同居によって自分を見直す機会に恵まれ「再生」を果たす主人公(元アイドル)を描いているのであまり気にすべきではない―気にするのはほんとにオバサンということだろう。たしかに人生に「つんで」いるのではあろうが、そもそもにアイドルにもなり、ライターとしても安い稿料ながら声をかけてくる編集者もいるというのが、そんなに追い詰められた暮らしなのかなとも思えなくもなく、要は足が動かず、貯金が10万円というのはウーン、なるべくしてなったのではないというのは、それこそオバサンのいじわるかしらン (11月15日 府中TOHOシネマズ333)

⑨メドゥーサデラックス
監督:トーマス・ハーディマン 出演:アニタ・ジョイ・ウワジェ クレア・バーキンス ダレル・ドゥシルバ デブリス・スティーブンソン ハリエット・ウェッブ カエ・アレキサンダー ルーク・パスカリーノ 2022英 101分

ヘアデザインコンテストが行われるというある劇場の一夜、3人の美容師がモデルの髪をいじったりしながら階上の部屋で死んで頭皮をはぎとられていたという美容師の話、ちょっとケンカまがいの言い合いもあったりなかなかの迫力で―をしている。やがてそのうちの一人が席を外し廊下に出て、彼女の視点でカメラは動き出会う人と会話、今度はその相手をカメラは追い、視点が変わってという繰り返しで3人の美容師、4人のモデル、主催者とその恋人(男性)、二人の養子という赤ん坊、警備員の男、さらに主催者の恋人とともに薬物密売に関わったとかいう男などに次々視点が移っていき言い合いや,なだめたり、ケンカもあったりみたいな感じで、殺された男のナゾが解かれるというよりは、混迷が深まっていくというワンショット撮影の一本。激しい取っ組み合いとか、霧に盛られたモデルの髪にタバコの火がついたりとかいうようなドキリシーンはあるものの、話としては展開の筋道があるようでもなく、その場にいるような気にさせられるから意外に眠くなったりはしないのだが、終わってみると、駄目だ!犯人は(ほぼ予想通りの展開で)分かったけれど、なぜそうなるのか話の筋は全然見えず、一人一人の不安とか怒りとかが交錯することが描かれた??A24が北米配給権を買い、各映画祭で話題になった作品とかいう、意欲作だとは思えるが…。最後登場人物が勢ぞろいして踊るショーっぽいエンドロールがいちばん楽しめたかも。(11月17日 渋谷イメージフォーラム 334)

⑩ゴジラ-1.0
監督:山崎貴 出演:神木隆之介 浜辺美波 山田裕貴 青木崇高 吉岡秀隆 安藤サクラ 佐々木蔵之介 2023日本 125分 


ゴジラ前作『シン・ゴジラ』はゴジラ対政府の戦いという感じだったが、敗戦直後に設定したこの『マイナス1』では政府はアメリカ(マッカーサー)との関係で動けずゴジラ退治は民間まかせ、「だれかが犠牲にならなければ」という合言葉?のもとに行われる。
ゴジラの出現は、最初の南海の孤島での主人公敷島と整備兵立花の体験部分のほかは銀座をなぎ倒す、あとは海中の民間船のゴジラとの闘い場面ぐらいで、しかも何となくハリウッドのゴジラとか、ジュラシックパークとかを思わせるような恐竜対人間という雰囲気。一方力を入れて描かれるのは帰還兵敷島のトラウマとか、子どもを拾ってしまい育てる典子ーこの造型はなかなかで人情部分も、(夫ではない)敷島を励まし、自らは最初のほう、市電の中でゴジラに襲われミッション・インポシブルかインディ・ジョーンズかという感じで空中に振りまわれ、銀座では行方不明になりつつ何故か復活したり、見所?満載の大活躍。
一方大活躍はないものの、いかにもありそうな中年婦人の行動と変容をさすがにうまく演じている安藤サクラ。そして神木も、トラウマをかかえ自らに悩みつつ、ゴジラとの戦いに挑む飛行機乗りを、ちょっと今までにない大人の雰囲気も漂わせつつ演じて印象に残る。まあ、人情部分は敷島の同僚付きあいも含め、『三丁目の夕日』バージョン(でもいいのかな?『ゴジラ』がこんな人情映画で?)。そして激しくは描かないが、最後に海中で息を吹き返す??ゴジラの予感の怖さ…。ゴジラが戦争の表象であるとすれば、今の世情の様相を暗示しているのかもと、幸せそうな一家の映像の陰でちょっと悩ましい… (11月18日 府中TOHOシネマズ 335)

⑪私の大嫌いな弟へ
監督:アーノルド・デプレッシャン 出演:マリオン・コティヤール メルヴィル・ブポー ゴルシフテ・ファラ二 パトリック・テムシット 2022フランス110分

題名からおおいに期待、というのはウーン、まあ私も弟妹から疎まれハンパものの姉であった期間がン十年、なので身につまされそうと思ってみたが、全然なんかよくわからない姉弟関係で終わってしまった。弟は姉をエキセントリックな怒りに満ちた人物だと言い、確かにそういう精神的不安を見せる場面もあるのだが姉が弟を疎む理由も、またそのような姉をいかに怒ったとて自身の著書でこき下ろすまでに憎む弟の心情もイマイチわからん。なぜなら姉も弟も女優として詩人として自身の仕事でも成功し、伴侶にも恵まれているわけできょうだい間で争いがおこるような嫉妬心とか親の愛を奪い合うとか、逆に親の介護を背負わなくてはならない不公平とか、財産争いとかそういうものは何もなく、もっとも傍からはわからず、合理的な理由もないのに憎み合ってしまうというところがこの映画のミソなのかもね…。だから解決もえええ?という間に終わってしまう気がした。ちなみに私の場合は母が意識不明の重態に陥ったことをきっかけに、なんか表面上は弟妹との関係が復活したのだけれど…でも多分こちらも、あちらも皆々すっきりしたわけではもちろんなくて、母が亡くなったあとはどうなるのだろうなあ…。(11月21日 川崎市アートセンターアルテリオ映像館 336)

⑫響け!情熱のムリダンガム
監督:ラーシーヴ・メーナン 出演:G.V.ブラカーシュ・クマール ネドゥムディ・ヴェ―ヌ アバルナ―・バーナムラリ ヴィニート 2018インド(タミル語)132分

ムリダンガムとはインドの伝統的な両面太鼓。その職人(カースト的に演奏者より下)の息子ピーターは、今風、フラフラ遊んでいる?大学生だったが、父の作った太鼓を届けた巨匠の演奏を聞き、自らも太鼓奏者になりたいと思うようになる。巨匠に入門を願うが、そこに身分の壁が立ちはだかり、巨匠の一番弟子に冷たくあしらわれ、しかし巨匠が彼の太鼓(子どもと遊んでいる)を聞くチャンスがあって入門を許されるが、この門下ではテレビなどの演奏コンテストに出てはならないという掟あり、今度はそこで誤解から破門されというような難関連続。
後半は看護師の恋人に励まされ、打楽器の世界行脚の出るピーター、この部分は世界のいろいろな民族打楽器が出てきてすごく楽しいロードムービー風になって面白い。やがて主人公が認められ師とも和解、テレビの打楽器競演でも優勝というのはまあお決まりのハッピーエンドだが、この映画の音楽を担当したA.R.ラフマーン(『スラムドッグ$ミリオネア』でオスカー受賞)、その甥で自らも音楽家というG.V.ブラカーシュ・クマールの演奏、ダンスの熱演で、だが意外におとなしくまとまった感じがしたのは、ダンスシーンが少ないからか??音楽映画であると同時に色濃くカーストによる主人公の苦悩を描いて社会派映画でもあるからか?? 2018年東京国際映画祭で好評だった作品のアンコール上映だそうだが、私は未見だった。(11月22日 渋谷イメージフォーラム 337)

ここから3日間集中して8本(+短編2本)の東京フィルメックスに


1-⑬黒衣人
監督:王兵 出演:王西麟 2023仏・英・米 60分 ★


1936年生まれ、2017年フランスに居を移した現代音楽作曲家の王西麟が、ピアノを1台置いた劇場の暗い舞台に全裸でパフォーマンス、トイレに行き、帰ってくるとピアノの弾き語り、それから貧しい家に生まれ13歳で軍隊に入るところから自らの音楽家としての人生を始めたこと、認められて音楽学院に入学し当初は政治的にも熱心に学んだが、やがて疑問を持ち技術を重視する方向を選び学校側と対立したこと、その中での交響曲作曲(バックに大音響で楽曲が流れるのが迫力満点)、文革時代に糾弾されて苦境にいた思い出などを86歳とはいえさすがの朗々とした音声で語る60分。全裸なのは語りやパフォーマンスとともに王西麟という人のすべてを表現しようということなのかとも思うが、こんな全裸を見せるのは彼が90近い老人だからということ(若い壮年なら性器まで丸出しの全裸だと違う意味が見えてきてしまいそう?第一『黒衣人』という題名は???)かと思うと、ここまでやる必要があるのだろうかという思いもやや、禁じ得ない。映像の切り取り方ワンテイクの緩急などは素晴らしくて吸引力がある。
伴映はペドロ・コスタの『火の娘たち』という8分の小品。画面を三分割して歌一曲分を3つのテイクで見せ、登場人物に歌わせる―なにしろ3分割一つ一つに字幕がつくが、小さくて目を凝らさないとわからない。そして最後に???の風景。これがなんか素人撮影のビデオみたいな頼りなさで、監督の手すさび?というか素人の頑張り作品みたいな印象。カンヌで特別上映されたというが・・・巨匠ゆえなんだろうなあ・・   (11月24日 有楽町朝日ホール 東京フィルメックス特別招待作品 338)


2-⑭冬眠さえできれば
監督:ゾルジャルガル・ブレブダン 出演:バッドスージ・ウールザイフ ノミンジグル・ツェンド トウグルドゥル・バリザイサン モンゴル・フランス・スイス・カタール2023 98分★★★ 

ウランバートル、15歳の少年は2年前に田舎から出てきてゲル地区の住居住まい。水道はなく水を汲みに行く様子が描かれる。父はすでに亡く、母はアル中気味で、2人の弟と妹1人。物理コンクール(なぜかモンゴルでは数学コンクールではなく物理コンクール。この映画の監督も高校生のころ出場したと最初のオンラインのあいさつで言っていた)への出場を勧められるほどの秀才だが、日常的には家計を助けてバイトしたり、弟妹の面倒もよく見るが、悪い友だちとつるんでタバコも吸うし(ってモンゴルでは15歳の喫煙フツウ?大人にせびってタバコを貰うシーンがある)酒も飲む。母は息子の勧めにもなかなか職を探そうとしない―実はこの母読み書きができないという設定で、このあたりにもモンゴルの教育問題がチラリと現れているのだと思われる。―が、結局田舎に帰って働くと言い出し、都会の学校で勉強したい息子と衝突することに。母は末の幼い弟だけをつれ、出稼ぎに田舎に戻り、子ども3人が残され収入もなく残されて、特に長男の苦闘が始まるわけである。深刻なこの話、Q&Aに出たプロデューサーの話ではモンゴルでは事実だそうで、カンヌ同時上映された是枝の『怪物』も引き合いに出してしかしこの教育問題は世界にも共通することなのだという話になるほど。映画で少年の置かれた状況は深刻だが、その割に彼の身なりはきちんとして場面によって違う服装もしているしと思ったら、身なりを整えることは遊牧民のプライド(汚くはないということを示す)なのだという話にフーン。
少年は隣人夫婦に助けられ、物理コンクール全国大会にも出るが、その結果や彼の将来がはっきりと語られることがない仕上がりとともに、映画内容の深刻さのわりに、派手ではないが画面のみずみずしくリリカルでさえある上品なアングルにちょっと驚嘆。音楽もちょっと感情盛り上げ的ではあるが、モンゴルのホーミー?調も含め印象的。そういう意味でもステキな印象に残る映画だった。(11月24日 有楽町朝日ホール 東京フィルメックスコンペティション 339)
母役の女優とプロデューサーQ&A  監督は日本留学経験者で日本語も流暢


3-⑮タイガー・ストライプ
監督:アマンダ・ネル・ユー 出演:サフリーン・サイリサル ティーナ・エズラル ピカ シャヘイジー・サム 2023マレーシア・台湾・仏・独・オランダ・インドネシア・カタール(マレー語)202395分 

マレーシア、マレー系8割くらい、中華系もちらほらという女子中学校の3人組のマレー系女子の物語?主人公のザファンたちはスカーフに白地やブルーの体を覆い隠すような制服を着て(中華系は普通のシャツ・ベスト・スカートという感じ)いるが、ザファンが友人にこっそりしてきたブラジャーを見せて興ずるトイレシーンから楽し気に始まる。制服の束縛から逃れ水遊びなどを無邪気にする少女たちだがザファンに誰より先に初潮が訪れたことから状況は一変、彼女には手足にみにくい湿疹が現れ、だからというわけではないのだろうが、体調不良で教室で失禁したりすることもあり、友人たちから汚いとさげすまされるようになる―少女たちの残酷さ,だれでも来るはずの生理なのに毛嫌いするというのは要は近親憎悪みたいなものか?で、追い詰められたザファンが森に逃げ?けだもの化していくホラーパートと、女の子たちの憎悪・仲たがいや、あるいは理解・和解が、要はけっこう厳しい成績管理をしている学校と、さらに宗教的な戒律・伝統などの桎梏と絡んで描かれた、わりと直球勝負という感じの社会派というか生理派?ホラー。森の音が効果的に背景音として流れ、音楽も印象的で、ウーン。監督によれば1970年代の日本のホラー映画『ハウス』に触発されているのだということ。(11月24日 有楽町朝日ホール 東京フィルメックスコンペティション 340)
迫力ある監督(右)トーク



4-⑯雪雲
監督:ウー・ラン 出演:李康生 李夢 任可  2023中国102分 ★★★

この映画の上映前に、題名表示やエンドロールも仰々しい?12分ほどの『短編故事』上映。主演は同じ李夢(夫役は『ロングデイズジャーニーーこの夜の果てへ』の黄覚)で子どもがほしいが夫の気持ちがわからない妻と、ただ無言の夫を様々な角度から撮った短編で、セリフは妻の一言だけだが、描写がなかなか繊細で気持ちを映し出したような(夫婦がいつも相手を気に掛けながらそっぽを向いているような)映像が印象的だった。

そしてこちらは海南島を舞台に刑務所帰りの于と、10年前の恋人で今シングルマザーので理髪業を営む紅の復縁の物語。開発の中で新しいマンションを買い、娘を良い中学に入れたいと願う紅。于は高層マンションの開発と販売を手掛ける旧友のカイの誘いに事業を手伝うことになるが、カイはマンション建設途中で資金をもって所在不明に。紅も購入手続きしたのにも関わらず家の入手は絶望的という状況になる。終わりは建設中のまま廃墟のごとくたまった水の上に立つマンションのコンクリ―トの骨組みを舞台に、絶望的とも希望の表れとも思えるようなドラマ?が展開する。なるほどね…紅の赤を強調した衣装、建てかけの部屋に掲げられた白と赤のカーテン、暗くくすんだ風景の中での赤がその希望というか、未来への道筋を示しているようでもあり、暗い話で、二人の行く末というか紅の于への気持ちもどうなるんだろうと思わせつつ、なんか案外後味は悪くなくて、中国映画の社会派アート系映画を見たという気がした。(11月24日 有楽町朝日ホール 東京フィルメックスコンペティション 341)
ヒロイン役の李夢さん(右)


5-⑰Last  Shadow at First Light
監督:ニコール・ミドリ・ウッドフォード 出演:永瀬正敏 白田迪巴耶 筒井真理子 ピーター・ユー 2023シンガポール 日本 スロベニア フィリピン インドネシア(日本語 中国語 英語)108分

シンガポールに中国人の父と住むアミは、震災後ボランティア兼両親の行方を探して日本にもどったまま、1年後には行方が分からなくなった母を訪ね、日本にやってくる。東京でタクシードライバーをしている叔父の勇とともに陸前高田に母探しの旅に出るが…。叔父の勇も震災で妻失い、忘れられずにその幻影を見るという設定。けっこう乱暴、投げやりなところを見せる(というかアミの父も含め、この映画の男たち、非常に暴力的というか上から高圧的にアミの当たるのはどうして??感じ悪い)が、めげずに母探しを貫くアミ。彼女も時に母を夢に見、また現実か幻影かわからないが一人遊びをする少年と出会うなど、ロードムービー+ちょいホラーという感じで話は進むのだが、どうもテンポの遅さ、一場面一場面のくすんだ暗い色合い(おまけに隣の席の女の子映画が始まってもスマホの手を休めず、まぶしく映画の暗さとのコントラストがつらい。断続的に2回までは我慢したが3回目にとうとう注意する。しかしその後もチラリと1回、エンドロールが始まる早々にまた、ということで反発されたのかな…。招待券で指定された席はI17(真ん中)という考えようによっては最上席だが、両隣がいるというのは案外きつい)場面にかぶる音楽の仰々しい重苦しさ、そしてすべての登場人物の最後までの不機嫌、しかもけっこう怒鳴り合ったり、殴ったりみたいで不機嫌の表し方があまり日本人的でないのは、シンガポール人の女性監督(祖母?は日本人とか)演出の故か。とにかくついていくのが大変。
「忘れることの方が、忘れないよりも大変」というのが若い主人公の独言で、この映画の一つのテーマでもあるらしい。が、ウーンやはり観念的な感じでこれもなあ。ところで筒井真理子演じる母は生きていたのか死んでいるのか、やはり死んで幻が現れたのだろうなあ。でなければアミがあんな風に引き下がれるわけはないかと、これが私のネタバレ的結論。最後海から登る光の柱は私には死者の魂のようにも思えたが、監督によれば希望の表象らしい。(11月25日 有楽町朝日ホール 東京フィルメックス メイド・イン・ジャパン 342)
出演者フォトセッション


6-⑱川辺の過ち(河辺的錯誤)
監督:魏書鈞 原作:余華 出演:朱一龍 クロエ・マーヤン(曾美慧孜)侯天来 2023中国 101分 ★★

『永安鎮の物語』(2021フィルメックス)の監督の次作、主演は今を時めく?朱一龍でと『3人の夫』(フルーツ・チャン)のクロエ・マーヤンと、話題にも引き付ける魅力に満ちた警察ものアクション?と思いきや原作は余華で(ただし監督によれば単に原作をなぞって映画化するというよりはそこから想像力を働かせ新しい視点で物語を描くというような話だった)例によって朱一龍はカメレオンぶりを発揮する。1995年の中国江蘇省沛県が舞台で、まずは河辺での老婆殺害事件の捜査をリードする、署長の信頼も厚い刑事主任・馬哲。捜査は意外にスムーズに進み犯人として老婆の養子だった知的障害のある男が捕まる。家庭生活も身重の妻と睦まじく…と思いきや、検診で胎児が突然変異の遺伝子疾患の可能性があって1割くらい知的障害を持つ可能性があると知らされる。馬哲は妻に中絶を勧めるが抵抗する妻、一方職場でも捕まった容疑者が逃げたり、馬哲はその被疑者が犯人ではないのではないかと疑い出し、あるいは職場での自己評価で彼自身がかつて雲南で得たはずの表彰が記録されておらず、証書も探しても見つからないという、不安状態も…、そして後半は私生活にも悩み、捜査上も不安の中で仕事をやめるかとまで追い詰められていく、心理劇的展開になっていくわけで、実のところ犯人は誰なのかということが帰着先ではない、朱の内面の幻影に観客も惑わせられるというような文学的展開になっていく。まさに朱一龍適役!という感じ。登場人物がタバコスパスパ(馬哲、身重の妻の前でもタバコ、まあ、時代を映している?ただ、94年頃の中国東北地方で暮らした経験から言えば、タバコを吸う人はそれ以前に比べて激減したという感じだったんだけれど。映画の中は別世界?それとも私のいたのが大学だから?)も含め、30年近く前の風俗・雰囲気をよく出している。当時映画館が次々つぶれ娯楽場などに転用された(余華の故郷でも同じことがあったそう)が、この映画では、閉鎖されることになった映画館を警察の事務室に転用する(そうそう警察には制服の女性警官もいるのだが、お茶くみをし、引っ越しの掃除をしているのもほとんど女性だけというのも時代だから仕方ないのかとは思うが、ウーン)という設定。これが、馬哲の幻想をあたかも映画のようにスクリーンに投影するシーンなどにうまく生きている。16㎜で撮られているそうだが、これも時代を映している雰囲気を作っている。最後は突然1年後で、仕事をやめ生まれた乳児を妻とともに入浴させているいかにも温かいハッピーエンドシーンになるのだけれど、ウーン?まあ、ほっとはさせられるけれど…。
(11月25日 有楽町朝日ホール 東京フィルメックスコンペティション 343)
監督のQ&Aセッション


7-⑲青春
監督:王兵 2023フランス・ルクセンブルク・オランダ 215分

3時間半あまりの長尺だが、最初に「春」という小題がでて、なんと最終的には9時間あまりになるというので、まあ、王兵だから当然と言えば当然なんだろうが、ウーン。
浙江省湖州市織里鎮」というところには子供服中心の縫製工場が1万8千軒というかオシャレな服装、アクセサリー、タトゥの青年も。タバコは中学生からすっていたという男の子たちは布類が積み上げられた職場でもタバコをふかし、フーン。映画の中には妊娠した娘の親が工場に休暇をもとめ中絶手術を受けさせようとする場面、また男の子が彼女を妊娠させてしまったが結婚はできないとうそぶくシーンもあり、紙一重っぽく工場の片隅で愛を語る?(だいたい女の子が冷たく、男がべたべた甘える風なのは中国劇映画の世界と一緒かな)場面も複数あって、なんか保守的感性のおばさんからは、ずいぶん享楽的な貧しさというふうに見える。この繰り返しに意味があるのかとも思えるが、まあ、そういう人々の集合というか群像性をえがくところに王兵映画の真骨頂があるのであろう。なお、彼が描いてきた『鉄西区』『苦い銭』などのいかにも貧しくいかにも労働も厳しくという世界のとは、すこし異質な、しかしノルマの中で機械のようにミシンを操作しながら、音楽を聴いたり、しゃべったりもしているような、ベッド一つの出稼ぎ暮らしは決して豊かという感じではなくこれが現代の貧困労働なんだろう。教育により高収入にのし上がっている中国人の若者との対極にある農村出身の青年たちの貧しさというものは画面の中から滲み出してくる。工場にはもう少し中年の女性たちも働いていて、賃金交渉の場面が何度も出てくるが、交通費はいらないが1枚当たりの工賃をあげろという彼女たちと、若者たちの間にはそのあたりの働き方の感性にも違いがあるようで面白く、彼らが手にするのは何万元(5000~3万元くらいの価値観)ではあるのだが…。で、最後の方で故郷の家に女性を案内する青年はなかなかの豪邸を母が建てたと言い、このあたりもこの30年くらいの中国の変化と若者の生活の変化―それでも豊かな生活という感じがしないのが、やはり王兵視点なのだろうと思われる。Q&Aに出てきた王兵、白髪交じりの長髪の、しっかり中年大家の風貌になっていてこれも少し驚きというべきかなあ。映画の中と外両方の時の流れを感じさせられるのであった。すでに来年のイメージフォーラム公開が決まっているそう。(11月26日 有楽町朝日ホール 東京フィルメックス特別招待作品344)
貫禄のついた王兵監督


8-⑳命は安く、トイレットペーパーは高い
監督:ウェイン・ワン 出演:チャン・キム・ワン ジョン・K・チャン チェン・クワンミン(陳君綿) アレン・フォン コラ・ミャオ  ヴィクター・ウォン ロー・ウェイ 1989香港・USA(2021ディレクターズカット・リマスター版) 85分

日本公開は香港返還にあわせて1997年6月末ユーロスペースだったようだが、なぜか未見。もっともこのころはフルタイム労働者だったから気になってもとても時間が取れないという映画は多々あった…さて啓徳空港に下りる飛行機から始まり、九龍城も、1989年当時の香港の風景がいっぱい出てきて、なんかなあ、なつかしさを誘われてしまう。話はブリーフケースをビッグ・ボスなる人物に渡すように託されてサンフランシスコから香港にわたってきた青年、ビッグボスに会えないまま、香港での様々な人々とのかかわり?が描かれる。登場するのは香港ヤクザや、ファムファタル、またアヒルを血まみれにして殺す屠殺業者?とか、正体不明の黒メガネの男で、物語としてそれがなんか論理的かかわりを持つわけではないようで、シュール・キッチュに懐古(とはいえ30年前だが)の気を混ぜて話が進んでいくのか行かぬのかよくわからないうちに強烈な印象のみを残しロマンティクエログロのふうも見せつつ過ぎて行った85分だった。ウーン。でも意外に面白いには面白いのだが。(11月26日 有楽町朝日ホール 東京フィルメックス・クロージング作品345)
ウェイン・ワン監督

各賞受賞者と審査委員
各賞受賞者(表彰式)

審査委員長王兵氏

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