秋の映画祭から【東京中国映画週間】【東京国際映画祭】2023年10月

 


  有楽町駅前の並木  映画祭初日から最終日近くまで、進んだ紅葉 でも、今年は美しさ今イチでしょうか。気候のせいですよね…。

10月はずっと映画祭週間という感じで、何だか長く長くもあり、あっという間でもありでしたが、ようやく映画祭報告をまとめました。
映画祭は一応、中国語圏映画を優先して見ているので、気になったのに見られなかった映画もたくさん…。劇場公開を楽しみにおいおい見ていこうと思っています。
中国映画週間は9本、東京国際映画祭は15本、先にご紹介した山形とその他の通常の映画を合わせて10月はなんと49本も見てしまった! ★はナルホド!★★はいいね!
★★★はおススメです。(もちろん個人的感想、見た映画はみんないいんですけど)

【東京・中国映画週間】

1-㉗長安三萬里〜思い出の李白2-㉘マニフェスト(望道)3-㉙白さんは取り込み中(愛情神話)4-㉚ロスト・イン・ザ・スターズ(消失的她)5-㉛ネバーギブアップ(八角籠中)6-㉜夏が来て、冬が往く(夏来冬往)7-㉝昆劇映画 邯鄲記8-㉞中国卓球~窮地からの反撃~ 9-㊲封神~嵐のキングダム

1-㉗長安三萬里〜思い出の李白
監督:謝君偉・邹靖 出演(声優):楊天翔 凌振赫 呉俊全 宣暁鳴 字幕:加藤浩志 2023中国 アニメーション 167分 ★

安史の乱の数年後、吐蕃軍に攻め寄せられ不利になった老いた節度使高適が、長安?から来た監察使の大監に問われ旧友李白との何十年にもわたるかかわりを語る。若い時からの武人(詩人でもある)高適と、自由奔放に生きた、しかし商人出身ゆえに報われなかった前半生の帥なイケメンぶりが見どころか…。画面の背景その他はあたかもゲーム的CGの世界で現実をさらに美しくしたようなリアリティだが、そこにいる登場人物は上半身が妙に大きく脚は短く、ゲーム的登場人物、アバターっぽい感じで、現代のアニメーションとはこういうものかと久しぶりにアニメをみて感嘆(『ニッツアイランド』と同じ感じ。監督は「人」がいちばん現実っぽくなくなるという)。
たくさん出てくる唐詩が懐かしく、字幕製作の加藤浩志氏はその部分の翻訳、日本風の書き下しを入れるなど苦労されたとのことだったが、よくできていて、日本のフツウに唐詩になじみがあるというような人には懐かしさも感じさせるようないい感じのしあがり。杜甫、王維、孟浩然らたくさんの詩人が出てくるが、李白の帥さもだけれど、気軽な少年~青年の杜甫とかはなんかイメージと違うなあとも思うが、あれが中国人の杜甫イメージ?それとも現代のアニメ的造型なのか。あと黄鶴楼が繰り返し出てくるが、揚州に下る孟浩然を李白が追いかけるアクション的場面(義経の八艘飛びみたいに船を飛ぶ)はあるものの、孟浩然の出現シーンは少なく、そこも??かな。しかし全般的には唐詩と戦場モノを組み合わせてなかなかによくできた楽しめるしかし長い167分ではある。(10月17日 日本橋TOHOシネマズ 東京・中国映画週間 305)

2-㉘マニフェスト(望道)
監督:侯咏 出演:劉烨 胡軍文詠珊  呉曉亮 字幕:井上昌子 2023 中国 112分

「共産党宣言」の初の中国語訳を行い、のちには復旦大学の学長なども長くつとめた陳望道の半生を描く。というわけで1920年代、非合法の共産党活動ー五四運動ー軍閥政府による弾圧の時代、国民党との対立、最後は1949年の共産党政権の樹立までを生きた陳望道(しかし、自らが政治・運動の前面に立って収監・処刑みたいな目にはあわなかったよう。周囲の友や教え子などは銃殺されたりしていくのだが)を中心に取り巻く人々陳独秀、兪秀松、施存統、蔡慕(望道の妻)などが次々と登場して、まあ、歴史的・伝記ドラマとして見ごたえのあるように作っている。何十年かにわたる物語だが劉烨、胡軍、ジャニス・マンらが若い時代から老いるまでを演じている。しかしなあ、こういう映画やはりプロバガンダなんだと思うけど、ここに出てくる共産党は汚職・粛清・独裁の現政権と同じものとは思えない。
エンドロールはインターナショナルの旋律に載せたラップで、ここが今風で一番面白いと言えば面白かった。(10月18日日本橋TOHOシネマズ 東京・中国映画週間30

3-㉙白さんは取り込み中(愛情神話)
監督:卲芸輝 出演:徐峥  馬伊琍  周野芒 2021中国112分 ★

同じ日に、昔と今とはいえ同じ中国を舞台にみる別世界という感じ。上海の旧フランス租界(だと思うんだけど…街並みがなかなかオシャレ)のけっこう大きい(貸室がある)家に住む画家兼何でも屋ーというかミニ通所老人施設という感じで老人たちを中心に絵を教えている白さん(老白)を主人公に、彼を取り巻く3人の女性たち(離婚した元妻ベイベイ、絵の弟子で、夫が失踪中、お金も暇もあるというグロリア、そして白がひそかに心を寄せる子持ちのシングルマザー、ミス・リー、娘の小学生イギリス人とのハーフのマヤ)、同居するイタリア系?青年アレックス、そして白さんの息子とそのしっかり者の彼女、また向かいの上階の部屋に住む白さんの親友で「自由人」?生涯夢を追い求める老呉、それに息子の離婚が不満で白の家におかずを持ってきては,白の家にある女性用のものを引き上げてベイベイに与えたりする母と、多様な人物が入り乱れあれこれというまあ愛情片というよりは、コメディで、料理の上手な白さんのなかなかに達者な料理シーン、出来上がった美味しい料理といい、そこでかわされる会話(さすが徐峥を囲む芸達者な人々でテンポの良いやり取りがうまい)と、ほとんどシングル、自身の好きなように生きている人々で楽しそうなのだけれど、白の母だけは昔風の良き母でその輪からは排除されてしまうというのがちょっとね…。白さんは念願の個展をひらき、それまでちょっと的外れではあったりしたが白を支えてくれた老呉は亡くなり…というわけで必ずしも楽しいばかりの展開でもないのだが、その墓参りや追悼式では白さんの母も参加できる皮肉。あと、老呉が若き日の夢として愛したソフィア・ローレンが出ているとして、追悼にみんなで見たフェリーニの映画が全然面白くないという皮肉とか、なかなか胡椒がきいている部分もある。ほんとにあるのかどうかはわからない上海都会人の暮らしということ?(10月18日日本橋TOHOシネマズ 東京・中国映画週間306)

4-㉚ロスト・イン・ザ・スターズ(消失的她)
監督:崔睿・劉翔  脚本:陳思誠 出演:朱一龍 倪妮   文詠珊  杜江 黄子琪 2022中国 121分 ★

東南アジアの某所に滞在中の夫婦。妻が失踪したとして警察に駆け込むも冷たくあしらわれる夫・何非(あんな乱暴な官僚的というか冷たい警察ってあり?という感じ、コワい)、そして突然戻って来た妻はいなくなった妻とは別人と主張する夫、しかし周りのだれもが彼女は何非の妻だとし、防犯カメラの映像なども彼女が妻であることを示し、夫は精神的に問題があるとされてしまう。ミステリアスな雰囲気いっぱいの出だしに、敏腕弁護士だという陳麦という女性が現れ、彼女だけが何非の主張を信じて本当の妻捜しに乗り出してくれるーしかし探索の途上何者かに襲われる二人、やがて妻を探すやさしそうに見えた夫、何非が実はギャンブラーで妻に愛想をつかされていたらしいというあたりがわかってきたり、さてさてと最後のどんでん返し的な結末まで、この映画、トニー・レオン+町田啓太?的雰囲気の朱一龍のさまざまなカメレオンぶりを見せてくれる映画のような気がする。いいやつなのか、陰があるだけなのか、実は悪人なのか、どの顔も見せてくれるわけである。去年の秋の中国映画祭でもそういう一面見せてくれたっけと思い出す。相手役の女性たち、陳麦、妻、ニセ妻たちがわりと無表情すっきりの東洋タイプ?の美人なので際立つということもあるのかな。まあ、とにかく終わってみれば黒幕は誰か、悪いのは誰かちゃんと伏線もひかれわかるようになっていて、なるほどね…海の中の檻(ちょっとネタバレ)というのはちょっとわからないけれど…。(10月19日 日本橋TOHOシネマズ 東京・中国映画週間307)

5-㉛ネバーギブアップ(八角籠中)
監督:王宝強  出演:王宝強 陳永勝 史彭元 王迅 2023中国 117分

こちらは2000年代初め元格闘技の選手だったが成功しなかった男が、貧しい少年たちを拾って育てて格闘技を教えるという中国映画っぽくはじまって、成功するが現代に至って、「少年虐待」という動画が炎上して、窮地に追い込まれてジムが封鎖、そこから離れて別のジムに移籍した少年(というかもう青年)のその後や、炎上スキャンダルをいかにおさめたかというような話までを織り込み、最後はその青年が格闘技チャンピオンになる格闘技シーンまで117分にてんこ盛りに盛り込んだという1本。部分部分違う映画を組み合わせたみたいな雰囲気もビジュアルでもあるが、まあ芸達者な出演者(少年たちも含め)で引っ張られたという感じかな。王宝強はコメディっぽい雰囲気よりも、涙も流し苦悩し、表に出ず陰に引く男みたいなかげりもある(あまりイケてるとはいえない)だけど時にやたらに強い中年男をここでは演じてさすがにうまい。あと、中国スポーツ界の薬物汚染みたいなのもちょっと告発しているのかなあとも思えるような…(10月19日 日本橋TOHOシネマズ 東京・中国映画週間308)

6-㉜夏が来て、冬が往く(夏来冬往)
監督:彭偉 出演:雪雯 陳昊明 曾韻蓁 2023  中国98分 ★★

深圳で働き恋人との結婚を考えつつ踏み切れないジャーニーは、養女として育ち実の親が見つかるが、実父が亡くなりその葬儀に参加することになる、そこで出会ったのが同じく養女となった次姉、そして実家の近くに嫁いで、娘がいる長姉に出会う。実家には両親と暮らしていた弟がいるが、彼はなぜかジャーニーに敵意まるだし。そんな中で数日にわたる父の葬儀の儀式、また長姉の夫がよそに作った息子を引き取るとかの騒動も絡み、一人っ子政策の中で、それでも男の子の誕生を求め、家で育てられたものの教育も十分には受けられなかった長女や、養子に出されてしまった二人の娘を通して政策の非人間性や、男尊女卑の伝統的習慣に悩み抵抗しようとするジャーニー。養女として幼い時は父に可愛がられたが妹ができてガマンを強いられるようになったとひがんで育ってきたジャーニーの過去、商売で成功しながら脳性麻痺の息子が生まれ彼を受け容れて生きていこうとする次姉など、おまけに実は弟にも姉には隠したい秘密があったというわけで盛り込み過ぎのような気もするが、それらを通してジャーニーが自分の結婚や人生のありようを考えていくという、社会派のマジメ恋愛ドラマという感じ。この映画だけは字幕がメチャメチャ(中国語字幕と日本語字幕が二段になっているので、大きな誤訳があったりするわけではないとわかるが、文節の切り方とか、妙な口語訳で疑問文なのかそうではないのかがわからないような訳し方とか、要は日本語の問題なので、中国側の字幕なのだろうと思う。字幕担当者の名も出てこないし、エンドロールにはその後の一家の結構重要情報も文字で出てくるのだが、そこは全く字幕なし。中国の葬儀や子供の誕生にまつわる行事の一端を見られたのはちょっと面白かった。(10月20日日本橋TOHOシネマズ 東京・中国映画週間309)

7-㉝昆劇映画 邯鄲記
監督:滕俊傑  出演:計鎮華 梁谷音 張銘栄 2022中国 115分

話は「邯鄲の夢」だから、まあ内容は目新しくはなく、昆劇のいかにも舞台そのままを撮った部分と、セットを組んで実在の建物や景色の中で演じている部分とが混在した(というか概ねセットだが、戦争に行く場面などは舞台装置風)面白さ―映画的工夫はあるし、きらびやかで華やかで、あまり考えなくても楽しめる感じではあるが、それだけに主人公に倣って?つい眠った?場面もいくつか。(10月20日日本橋TOHOシネマズ 東京・中国映画週間310)



8-㉞中国卓球~窮地からの反撃~
監督:鄧超・兪白眉 出演:鄧超 孫儷 許魏洲 段博文 蔡宜達 呉京 2023中国 137分

ウーン。1990年代、それまでの世界的強豪の座から転落した中国の男子卓球代表チームに、イタリアから戻った元有力選手(24歳で引退)の戴敏佳が監督になり、2年間で世界一にすると宣言(しかしこれは失敗)有力な若者たちを特訓するというスポコン映画で、中国的なのはこれが国家プロジェクト?として行われるところ?まあ、あまり趣味に合うとは言えないが、それでも見ているとスェーデンとかの卓球試合の展開には興奮するし、不思議にも「ガンバレ中国」と中国チームを応援してしまったりするので、ま、それなりにできている?
出演、監督と鄧超の見せ場で持っているような映画だが、その中で彼がつけているネックレス(というか金鎖)が批判されるが、そのネックレス姿は映画とは関係なく違和感バリバリだった。(10月20日日本橋TOHOシネマズ 東京・中国映画週間311)


9-㊲封神~嵐のキングダム
監督:烏爾善 出演:費翔(クリス・フリップス)娜然 李雪健 黄渤 于適 陳牧馳 2023中国 148分

商王殷寿は狐の妖怪妲己に取り込まれ、父王を殺し王位につく。辺境4国の王子を人質として支配をする。人質の一人姫発は王の息子とともに殷寿に抵抗しようとするがかなわない。国は荒れ民は苦しみ、天帝は殷寿をおさえ民の命を救うために崑崙山の仙人姜子牙に封神榜を持たせて地上に遣わす。姫発の父西伯侯や他の3侯も都にやってくるが、それぞれに理由をつけられ妖狐に支配された殷寿に滅ぼされ…というわけで、ま、封神演義がもとになった話なんだろうが、CGたっぷり、戦闘場面に城塞での乱闘というか仙人や、妖怪が飛び回り舞い上がり、崖から滝へと転落とかまあ、息もつかせぬ中に父子の情のやり取りとか、王を選ぶか父を選ぶかみたいな怖いシーンもあり、いや、映画的スペクタクルたっぷりに楽しめる?(かな、なんか血なまぐさくもあり荒唐無稽でもある)作品ではある。広々とした原野を馬で疾走する画面に、あ、あ中国だからこそのスケールだよなと驚嘆。日本の時代劇ではなかなかこういうスペクタクルにはならないわけだと納得。終わって監督と主演のクリス・フィリプス(1960年生まれというからすでに60歳越え?見えない若さだが)が登壇。観客の中国人女性を始めとして悲鳴・歓声に会場は大賑わい。(10月24日 日本橋TOHOシネマズ 東京・中国映画週間314)


【東京国際映画祭】



1-㉟耳をかたむけて(不虚此行)2-㊱メイ(梅的白天和黒夜)3ー㊳白日の下4-㊴ムービー・エンペラー5-㊵ロングショット(老槍)6-㊶離れていても(但願人長久)7-㊷成功補習班 8-㊸Old Fox (老狐狸)9-㊹年少日記10-㊺西湖畔に生きる(草木人間)11-㊼雪豹12-㊽ミス・シャンプー13-㊾満江紅14-①青春の反乱(青春並不溫柔)15-②愛は銃(愛是一把槍)

1-㉟耳をかたむけて(不虚此行)
監督:劉伽菌 出演:胡歌 呉磊 齊溪 2023中国 119分


ウーン。静かな静かな対話映画で、主人公の未完成作品しか書けなかった元脚本家にして、現在は追悼式に出す弔文を書くことを仕事としている青年が依頼主のさまざまな人と対話を重ねーそこに当然ながら依頼者と個人の持った関係というのも示されるが、これらもほぼすべて「会話」で運ばれ実際に故人が出てきたりすることはない。そして青年の家には謎の青年(主人公と似た雰囲気だがもう少し若い)がいついて主人公に対して遠慮のない行動をとるが、後半にいたりどうもこれは主人公の内面を代弁する非実在の人物らしいことが見えてくる(のかどうかわからないが、私にはそう見えた)。そして終わらない人生を抱えて終わる人生を書く青年の葛藤?のようなものが描かれていくわけだが、いや、もうなかなかにしんどい。玄人受けする映画?かも。画面は北京(やその郊外)の街に終始し建物の中も小ぎれいな近代が多いが、カメラアングルというか画面の切り取り方が大変に面白い、タペストリーのようにかけた毛布に示される持ち主の老女の軌跡を示す地図とか、画面を斜めに左右からⅤ字に区切る白い階段の合間から覗くタバコを吸う青年の顔とか、また区切られた窓枠、画面の下の方に花を飾った葬儀の場面…などなど印象に残るアングルがたくさんあって面白いが、ウーンその意味でもアート志向なんだと思う。終わってるといろいろなドラマがあるんだろうが、すべてことばなのであまり印象に残らず。映画祭好みの映画なのかなとも思える。中国映画の多様性というか層の厚さというもの感じさせられるのではある。(10月23日 シネスイッチ銀座2 東京国際映画祭 ワールドフォーカス312)  

2-㊱メイ(梅的白天和黒夜)
監督:羅冬 出演:陳玉梅 2023中国 85分

上海郊外の小さな部屋には雑多なものが積み上げらている。その部屋で一人暮らしの72歳のメイには娘がいるが疎遠らしく、毎日キャリーバックをひいて街に出、友人に紹介された男性(こちらも同年代の老人)とデートというか「婚活」的行動。ダンスホールに行ったり、雀荘にいったり、カラオケをしたりと動き回る。大声で初対面のデートの相手に料理の注文を指図しおごらせながら、持ち家かどうかを確認し、罵倒まがいに相手を批判したりする(さすがの相手がむっと鼻白むのも演技なのか本気なのか)みているほうもちょっと辟易。相手に振られたのかどうか、しかし本人は「ケチな男だ」「自分には合わない、付き合わない」「映画を撮っているから忙しい」と電話で話すシーンがあるので本人は映画として演技をしているのかも…。エネルギッシュで功利的というか、楽しいことを追及しているように見えるのはたいしたものだが、ウーン。自分ももしかして紙一重の域にいるのかもしれないと思うと、ちょっとなあ楽しんで観ることができず、共感もできず。こういう映画を見て楽しむのはどういう人か?若者世代が高齢者を(実は内心バカにしつつ)レスペクトのふりをしているような視点をつい感じてしまう。20年前ならそういう感じでこの老女に親しみというかレスペクト(のふり)ができたかもしれない。それにしてもこの老女、うまそうにタバコを吸い、そういえば前に見た㉟では若い登場人物が、昔の日本映画や今のフランス映画みたいにタバコをふかし、中国って今またそんな感じなのかなあとちょっと疑問も感じた。(10月23日 シネスイッチ銀座2 東京国際映画祭 ワールドフォーカス313)

3-㊳白日の下
監督:簡君晋(ローレンス・カン) 出演:余香擬(ジェニファー・ユー)デビッド・チャン ウー・フォン ボウイ・ラム 2023香港 106分 ★★

さすが、ただものではない香港エンターテイメント。社会の動揺の中で、作家たちはますます気を吐いているという感じで、社会の普遍的な問題を描いて見ごたえのある映画をつくりあげている。実在の事件がモデルで、介護施設での虐待や性暴力などの問題を施設を民間任せにしている行政のへの告発も含めて描いている。
主人公は新聞記者のケイ。彼女は入所者の孫を装って施設に潜入、まずはそこで見たことから描かれていくのだが、ウーン、認知症の老人たち(恐るべし全裸で車椅子に拘束されまとめてシャワーを浴びせられる情景)知的障害のある青年を殴っていうことを聞かせようとする女性職員、知的障害のある女性をアイスクリームで誘って事務室に誘い込む施設長ー彼自身が弱視で社会から疎外されてきたとし善意で入所者たちの役に立とうとしているのである。事件そのものは女性への性暴力事件から動くわけだが、そこへ行くまではこれでもかこれでもかという感じで、しかも事件後も入所者(ケイが孫を装うことにより心が通じる認知症のふりをした老人)の撮った動画映像などが出てきたにもかかわらず、公訴を取り下げてしまう検事とか、周りの見て見ぬふりや老人を邪魔にする家族などもたっぷりあらわれていささか散漫な感じも盛沢山すぎて話がどこに行くのだろうと思えてしまうフシもなくはなかったのだが、見終わるとなかなか。このまとまらなさこそが映画の主張なのかもしれないと思えてくる。日本にも介護施設での殺人とかそういうテーマの映画はあったが、語り手(主人公)の個人的事情などがからむこともありウエットな感じが強い作品が多い気がするし、香港映画こそ一昔前はそういうウエットさが売り?だった気もするのだが、この映画は主人公の家族とか祖父の死とかを最低限には描くが、あくまでも彼女の記者としての姿をフォーカスしていてそこが、意外にいい感じ(ただし、これは演じたジェニファー・ユーの意外に硬質にして少女っぽさも残るキャラクターに負うところが多いかもしれない。この人『縁路はるばる』のヒロイン、また『七人楽隊にも出ていたみたいだが、こちらはあまり印象に残っていない。(10月25日 ヒューリック・ホール 東京国際映画祭 ワールドフォーカス315)


4-㊴ムービー・エンペラー
監督:寧浩 出演:劉達華 寧浩 パル・シン リマ・ゼイダン 2023中国(広東語・北京語) 125分

ウーン。満席のヒューリックホール、期待のアンディ・ラウ主演ニン・ハオ作品、アンディはダニー・ラウという名の香港スター、ニン・ハオはリン・ハオという名の監督役で、映画作りの映画というのはいかにも本人たちと錯覚させてしまうが、コメディと言いつつ話は苦く、ニン・ハオ風?の皮肉にも満ち、アンディはスターとしてインタビュー(や謝罪会見)に出るときはにこやかだが、後は豚農家に紛れ込んだり、落馬したり、車のウインドをたたき割ったり、映画シーンは頭にかつらをつけての農夫姿と体を張っている割には表情も苦々しい感じの場面ばかりで、なんか生気もないような皮膚の色だし、見ていてあまり楽しくなく、ちょっと眠気もさしたりで、なんかな…。この映画作りたかったのは監督か?アンディか?それとも映画人というのはこういう皮肉に満ちた映画作りの映画を作りたいものなのかなあ。(10月25日 ヒューリック・ホール 東京国際映画祭 ワールドフォーカス316)

5-㊵ロングショット(老槍)
監督:高朋 出演:祖峰 陳海璐 ジョン・ジンジエ 紹兵 2023中国 118分 ★★★

最優秀芸術貢献賞を受賞しました!

40になろうとしている若い監督の長編第1作だそうだが、90年代の東北地方(という作者にとっては少年時代)の雰囲気の描き方といい、国営企業の衰退の中での小盗まがいの不正の横行と、それがエスカレートしていく様といい、キャスティングの妙…当時を彷彿とさせるようにちゃんと演じているのだがエンターテイメント的「花」というか現代性もあってすっきりした役者陣(祖峰、この映画では大森南朋をもう少しすっきりさせたような雰囲気で静かに悩みつつも暮らす男の静かな爆発を演じている)も含め、そして国際試合にも出た(90年代当時では国家に育成された特別な存在だった)射撃の選手が難聴になって代表チームから外され国営企業の警備部で勤めている。失意で孤独な暮らしながらある種の正義感というか義侠心で、仕事をし、ティーンエイジャーの子持ちのシングルマザーに慕われる感じにもなり、盗みの見張り役をしていたその息子(オーディションで選ばれた大学3年生だそうだが、熱演だしうまい)の面倒も見るようになりというような中で、90年代思い出される国営企業の衰退の中で苦しむ人々の様子もしっかり描かれ、最後のやむにやまれず、自ら作っていた改造銃をもって銃撃戦に立ち向かうという大アクションまで、よく練られて、登場人物の心情もけっこうストレートに伝わってくるような完成度の高い見ごたえある作品に仕上がった。監督としては音楽面など、まだまだ不十分なところもあるバージョンを時間の都合で出してしまったというので、劇場公開はまた違った部分も楽しめるかもしれないとちょっと期待。(10月26日 ヒTOHOシネマズシャンテ1 東京国際映画祭 コンぺティション 317)


6-㊶離れていても(但願人長久)
監督:サーシャ・チョク(祝紫嫣) 出演:呉慷仁 サーシャ・チョク ヨウヨウ・ツェ アンジェラ・ユン 2022香港 114分 ★★★

1997年は香港が返還された年だが、8歳の少女視点で描かれたこの年の香港にそのような気配はない。刑務所の父に面会に行く母娘の場面から映画ははじまり、やがて出所した父との暮らし、3歳下の妹もどういうルートでか湖南の祖父母の家から引き取られ4人での暮らしがはじまる。湖南から密入国した父は貧しく暮らしつつ、気はよくて子煩悩でもあるが、万引きした菓子を娘に与え、自らはクスリに溺れるというけっこう危うい男。娘圓は香港人ではなく、最初はことばも通じないゆえにクラスでは仲間外れにされ、旧友のキティの腕時計を盗み母に折檻される。
そして2007年これも刑務所にいる父を娘が面会に行く場面から。高校生になった圓はバイトをし、ほしい服を買いーなのだが、高い服を試着しようとして断られ、しかしあとでその服を着ているシーンがあるのでひょっとして万引きした?と思わせるようなシーンもあり、このあたりから母は画面には姿を見せなくなる。妹の方はマジメな優等生として描かれ、クラスで仲間外れ的な扱いをされる移民の友人に寄り添う場面もあり、すっかり香港人となっているふうなのだが、続く2017年のシーンには裁判所から書状が届く場面があって(初回QAの監督説明によれば不法滞在ゆえの召喚ということらしい)。この2017年シーンはすでに雨傘革命も経て香港は中国・習近平体制の強硬支配にあえいでいる頃なのだが、姉妹の暮らしにその影響は描かれない。姉は旅行会社の添乗員として日本で中国・香港人を案内し、同じく東京でアウトサイダーとして暮らすらしい「セフレ」と、都内のホテルでベッドを共にしつつ、彼と置手紙一本で別れて香港に戻るという暮らし。このころに獄中の父を見舞い、出所した後を見舞うのは妹の方ー大学は出たらしいのだがどう暮らしているのかはわからない描き方ーである。母は父とは別れ再婚、今や時差の大きい外国住まい。そして出所し、60歳になりクスリとはようやく縁がきれたらしいものの、体を壊して相変わらずの貧しい暮らしの父と、娘二人の久しぶりの飲茶。湖南の祖母が怪我をして入院という報せが届き、湖南に里帰りする決心をした父と、圓の久しぶりの対面…というシーンがあって後、帰郷の準備をしていた父が突然に亡くなり、圓は父に代わって湖南の実家を訪ねていく場面まで。
ネタバレになってしまうが物語の筋よりは、大陸から渡ってついには香港人になり切れない父と、香港人にならざるを得ない暮らしをしながらやはりそこには安住できず香港からさらに外に飛び出す道と一方大陸の故郷への志向も生まれる娘という、激動の20年間の香港・中国関係の中でかなりの香港人に占める境遇ながら、対中国の政治運動の中ではあまり顧みられることがなかった立場が、その政治運動そのものは描かないが、この社会の一角を占めて「フツウ」の暮らしをしているのだという主張が滲みでているような作品であった。
主演呉慷仁は台湾人で、広東語もできないので撮影には苦労もあったというが、それだけに香港社会を泳ぎつつなじめないアウトサイダーの気配も、また20年にわたる青年から老いの姿まで、今まで見たことがない感じの彼の姿を演じてさすが。今回のQAは監督と、高校生の圓を演じたヨウヨウ・ツェだったが、監督より頭一つ分背が高い顔も小さい細身の美少女ヨウヨウに、同一人物を演じさせて違和感のない映画的カメラワークに驚嘆という感じ。大人の圓を演じた監督・サーシャ自身ももちろん、すてきなんだが美人度が違うのだ。(10月26日 TOHOシネマズシャンテ2 東京国際映画祭 アジアの未来 318)
なんとまあ、足の長いヨウヨウ・ツェとサーシャ監督(間は通訳)



7-㊷成功補習班
監督:藍正龍 出演:懐雲 チウ・イータイ シャーリーズ・ラム 2023台湾 118分 

2018年に亡くなったドキュメンタリー監督陳俊志(ミッキー・チェン)に捧げた一本ということで、かつて補習班(要は進学塾)の同学の41歳を演じるのは監督自身と陳伯霖
だが、まあなぜわざわざ役者をかえるのかと思うほど若い時を結婚する30近く?まで演じる役者たちもイケメンだし、なかなかいいのに…という感じ。塾が立ち並ぶ台北の一角にある成功補習班という名の塾での三剣客と称される3人。張翔は家庭事情で知り合いのジェンハンの家に同居しており、二人は極めて仲が良く張翔は実はジェンハンが好きである。がジェンハンの方は同じ補習班の女子陳スーをひそかに愛して夢中という関係。三剣客のもう一人和尚(和禾)は学習班の厳しい主任(経営者)の息子だが実はトランスジェンダーで、女装の欲求をもっている。そんなバタバタ状況の中に赴任してくるのがミッキー先生で彼も実はゲイである。それを隠すことなく、性教育の授業などもする先生。いろいろといたずらが過ぎ学校を追い出されそうになる二人の張を海辺で励ます先生は二人の仲を誤解しているようなのだが、それでも3人組と陳スーが自身に素直になるのを助ける。しかし、彼自身は同性愛者であることから学習塾にはいられなくなる。
その後何年もたってからの話としてジェンハンはスーと結婚、張翔は日本に旅立ち、和尚は両親にカミングしたあとタイに手術に出かける展開を挟み、さらに10年くらいもたっての再会と先生の死(その前に先生の父の死というのもある)まで延々と引っ張るのは少々疲れるが、まあ、先生へに捧げたいという作者の感情からすると後日談まで書かないわけにはいかなかったのだろうとは納得できる。
それにしても顔を見知った役者たちがよく演じているものの、制服姿で駆け回る台湾の高校性は補習塾でも変わることなく、また補習塾だからこそ成り立つ話なのだとは思えるが、雰囲気は高校そのまま。現在の結婚まで認められた台湾状況からすれば、90年代というのは時を得た選択でもあり。監督の恩師ミッキー・チェンがファンだったというレスリー・チャンの『モニカ』が突然流れてドキリとするが、これも胸に迫ってきてしまい、なにもかもOkという気にもさせられてしまう。Q&A、通訳のひどさ(半分しか訳さず、なんかピントもボケて)には疲れたが。(10月27日 丸の内東映 東京国際映画祭 台湾ルネサンス2023 319)
若々しい監督


8-㊸Old Fox (老狐狸)
監督:蕭雅全  出演:劉冠廷 白潤音 ユージェニー・リウ アキオ・チェン 門脇麦 ★

自分よりも他人を思いやる(が、もちろんうだつは上がらない)父と小学生の息子・廖界の二人暮らし。レストランでボーイ(接客係)をする父は将来理髪店を持ちたいと貯金をしながら、理髪の練習などをしている。息子の方はさらに強く理髪店の開店をねがうー夢のシーンが出てきてそれによれば母(祖母か?)が理髪店をしていた??しかし、この映画なぜか若々しい父が息子を抱えてシングルであることの理由は描かれないー彼ら父子のわびしさやたよりなさをより強く感じさせる??で、90年代台湾でもバブルがはじけ地価は高騰、店を持ちたい親子の夢は遠のき、同じ大家の持ち家でその秘書の「美人のお姉さん」リンが家賃集金にくる住宅・店舗群の中でも、契約更新ができず立ち退きを迫られたりする人が出てきている状況が描かれるのが前半。そんな中で老狐狸と言われる大家・謝の目に留まった少年は、最初は彼を大家とは知らず交流ができ、途中少年の階下の店舗の主人が追い詰められて自殺するという出来事があり、この店が事故物件となり安く借りられる(買える?)と知った少年は父をせっつき、この店舗をかしてほしいと自らも大家と知った謝に頼み込む。謝も貧しい中で他人を押しのけようとはできない親に育てられ、親を敗者として批判するところから成りあがった男で、貧しくて夢を持ちつつも人を押しのけて退けることはしない少年の父とは対照的な人間として、思春期にさしかかり自身の位置に疑問を持ち始めた少年の心をひくのである。
劉冠廷(『一秒先の彼女』の「ストーカー青年」(私に言わせれば))が静かなたたずまいでつましく暮らし、息子のハレの白いスーツまでミシンで作ってしまう父を淡々と演じるが、勤めるレストランに息子を立ち寄らせ息子が宿題をさせていると他の従業員がおやつをくれたり、店の残り物を貰って食事にしたり、病に倒れるとリンがかいがいしく面倒を見てくれたり、決して他人を押しのけたりワガママではない暮らしぶりは周囲から一定の信頼を受けていて、映画の視点はもちろんこの父を息子も含めて受け入れていくという姿勢。事故物件を手に入れることをあきらめた父子だが、映画の最後は2022年で成長して建築家になりコロナ禍の下リモートでランドマークのような目立つ邸宅建設を求める顧客に「目立たないことの住みやすいさ」を説く廖界であるという結末で救われる描き方(ここまで必要かなとも思われるが)。門脇麦が見たこともないような厚化粧の「奥様」姿でレストランで「一人豪遊?」をする。これは父の昔のガールフレド(謝夫人なのかな?)、裕福だが夫の虐待を受け目の周りにアザという役.リンも殴られて顔にアザというシーンがあって、結構ジェンダー問題も内包しているようなのだが、なにぶん子ども視点なので描き方は視覚の範囲という感じで、イマイチわかりにくく、そこまで盛り込む必要あるのかな??対処できない主人公(父)の無力を表しているのかとも思われる。(10月27日 丸の内東映 東京国際映画祭 台湾ルネサンス2023 320)
登壇した子役の達者さというかプロ意識にビックリ!


9-㊹年少日記
監督:ニック・チェック(卓亦謙) 出演:ロー・ジャンイップ(盧鎮業)ロナルド・チェン(鄭中基) ショーン・ウォン 2023香港95分 ★

中学教師鄭は、教室で自殺をほのめかす生徒のメモをみつける。校内で暴力を受け与える生徒、リストカットの後を隠す生徒、それらに心を痛め寄り添おうする、鄭自身の苦い少年時代の思い出で話は始まる。自殺をしようとするかのように屋上のふちにたたずむ少年エリ(良傑)はピアノ上手、成績もいい弟(双子なのかな?体のサイズはほぼ同じだし、同じ教室にいるシーンもある)に比べ、ピアノも成績もパッとせず、両親は小遣いにも差をつけるという露骨な差別をする。映画は常に叱られ謝ってばかり、その上父は母を殴り、新しい進学校を勧められる弟の傍で才能のなさを責められ気に行ったオモチャさえも捨てられる兄の哀しみの視点に寄り添う。そして…。エリを演じる少年はすっきりした東洋風風貌で、そのまま大きくなると盧鎮業演じる鄭老師になりそうな雰囲気。一方の弟アランは結構精悍な顔つきで対照的な少年期なのだけれど、実はアランがおとなになって鄭老師になっているというミスリードを誘うように作ったなかなかの凝りよう。
兄の苦境にいわば知らん顔して死にまで追いつめたアランはそれを心の傷として、同じく兄の死後家を出てしまった母のあと父子家庭になるが父にも心を開けず、自らのアイデンティティも揺らいだ不安定な状況のまま、結婚もするが相手に心をさらけ出すこともできず離婚して(小学生の時疑いもなく目指していた香港大学進学、医者か弁護士という進路も捨て)中学教師をしているというわけなのである。そのような展開が腑に落ちるまでは病の父の病床に駆け付ける鄭に兄のほう?では弟は?などと思ったりもするが、弟が父とともに残された唯一の家族ということがわかるとすべてが納得のいくような伏線になっているわけである。学校の中で(あるいは家庭で)居場所を失った少年が死に至る話は日本にも台湾にもあるけれど、さすが香港、この作劇は意表をつき中々のもので感心させられる。盧鎮業は昨年暮れの香港映画祭で見た『風景』で主演、占拠運動にも参加していた人だというが、登壇した彼はなんか両方の映画のイメージとは全然ちがって活発でよくしゃべる(当たり前か…)こちらはニック・チック監督デヴュー作だが、プロデュースは爾冬陞。若手を大物が応援するというパターンも今年の映画祭では目立つ気がする。(10月28日 ヒューリックホール 東京国際映画祭 ワ―ルドフォーカス 321)


10-㊺西湖畔に生きる(草木人間)
監督:顧曉剛 出演:蔣勤勤 呉磊 王佳佳 閆楠 王宏偉 2023中国 115分 ★

いなくなった夫の死の知らせを受けても無感情(に見える)母・呉苔花、父の不在の理由を知りたく母を責める息子何目蓮の出だしから、杭州・西湖湖畔の茶畑や山の目に染みるような緑の風景の美しさ、そこで繰り広げられる母子情愛もの?と思いきや、住み込みの茶摘み仕事をしながら見下されたと感じ続けてきた母は友人にさそわれてマルチ商法に走り、自らもいったんは年金詐欺まがいの高齢者施設の仕事についてしまった息子は、気づかぬままにマルチ商法の罠にはまっていると感じる母を何とか引き止め、勇めようと苦しむという話。息子の名は美しい蓮の花の描写とともに「父がヘドロの中でも咲く蓮の花のように」とつけたという由来が語られるが、これは母を餓鬼道から救ったと言われるモッカラーナ(目連)と名前をかけているのは確かで、そういう古典的な要素とけばけばしくきらびやかなマルチ商法の集団(バタフライ社)の客引きパーティ?とか「研修会」とかのシーンをこれでもかこれでもかと描く喧噪、そこにはまり込み息子の止めるのも聞かず「今の自分の幸せはこれ!」と叫び踊りまわる母(茶摘み時代の「おとな」の風情から一転して化粧も演技もものすごい蔣勤勤、さらに一転して気がふれてしまう?そして…というぶっ飛び演技に度肝を抜かれる)、この映画『山水絵巻2』と最後に出てくる『春江水暖』続編の3部作として作られているのだが、『春江水暖』当時にあの一家の誰かのその後みたいな感じで2部が作られるのかなと思ったような期待をも裏切り、プロのしかも「中国の弟」と言われるくらいのイケメン・アイドル?を使い、描き方も(自然美だけはまあ同じで、西湖の風景もたっぷり楽しめる)全く変わって、まあ、いい意味で観客の度肝を抜いたかなとは思えるが、ウーン、『春江水暖』のあの素朴な人々が懐かしいと思われるような「達者さ」に満ち満ちているのでもあった。原題「草木人間」は「草と木の間に人がいる意で「茶」の字を表している。終わってQAは主演の4人と監督が登壇。音楽は梅林茂で日本人の心もくすぐるしっとり系。(10月30日 TOHOシネマズシャンテ1 東京国際映画祭 コンペティション 322)


11-㊼雪豹
監督:ペマ・ツェッテン 出演:ジンバ ジョン・ズーチー ツェテン・タシ 2023中国(チベット語 北京語)109分 ★

雪豹が生息するチベットの山村に取材に行く一行。案内するのはレポーターの旧友で僧侶になったが雪豹の写真を撮るために野山を歩いていて「雪豹僧侶」と呼ばれている若い男。彼の村では父と兄夫婦が迎えるが、昨日羊の群れを襲い9頭も殺した雪豹が柵に囲われた中にいる。実は雪豹は国家の特別保護動物で、勝手に殺すことは禁じられている。それゆえに放さなくてはならないのだが、僧侶の兄はヒツジを失ったことに怒りおりるはずの補償がおりなことにいら立ち、雪豹を柵から放そうとはしない。とはいえ、同じ柵の中に殺されたヒツジの死骸、生きたヒツジの群れも一緒に入れられていて、周りに見張る村人たちはいるとはいえ、なんかすごく混沌として緩ーい光景っだなあ。僧侶の兄の緊迫感だけがなんか不釣り合いに浮き立つのである。取材一行が底に滞在し取材しつつ行く末を見守りつつ、BBCの雪豹の動画に皆で見入ったり、若いカメラマンの誕生日を祝って大きなケーキが出てきてそれを皆で分けて食べるシーンとかそんなところに、この寒村の雪豹など動物を身近な存在として暮らす人々に持ち込まれた都市文化のありようをみることもできるようだ。それにしても柵に囲い込まれた獰猛な雪豹シーンはともかく、遠景とはいえ放たれた雪豹を待っていてついていく子豹とか、まして回想の幻想的なシーンとはいえ、山で修業後に行き倒れた僧侶を雪豹が救う場面とか、雪豹がいかにも可愛らしい表情でなんかCGというのかVFXというのかがありあり見え見えのような感じもあって、思えば、このような素朴な暮らしぶりのチベット自治区の映画に最先端の映像技術が使われること自体が混沌(ハイブリッドというべきか)という感じもとても強い。ペマ・ツェテン監督は5月に急逝。本作が遺作となったが、そのあたり(ま、映画にすること自体がすでにそうか…)を本人に聞きたかった気もした。QAには兄役ジンバ、僧侶役のツェテン・タシ、それに中国人でチベット語を熱心に学ぼうとする若いカメラマン役のジョン・ズーチーが参加、こもごもに監督への思いを語る。ツェテン・タシはなかなか流ちょうな英語で。(10月31日 TOHOシネマズシャンテ1 東京国際映画祭 コンペティション 324)
コンペティション・東京グランプリ受賞!!


12-㊽ミス・シャンプー
監督:ギデンス・コー(九把刀) 出演:ダニエル・ホン(黄信堯) ビビアン・ソン(宋芸樺) 柯震東   2023台湾 120分

ウーン。出だしのタイから来たヤクザ集団の何とも陰険な顔つきと雨の夜、ビビアン・ソン扮するアーフェンが練習台に使う人形の顔のなんか不気味さにひいてしまう。雨の夜そのヤクザに追われた別のヤクザ集団のアータイが3か所も腹を刺されてアーフェンの店へ逃げ込むところから。出会った二人は美容師の卵(シャンプー係)のアーフェンがカスタマーの要求で先輩を差し置いてアータイの髪をカットするところから、腐れ縁的?に付き合いが進んでいくが。後取りとしてヤクザの親分になりながらなんか屈託のあるアータイ、頼りになりそうなイケメン相棒の柯震東、アーフェンの家族とアータイのとぼけてずれたやり取りとか、ウーン。台湾任侠道を描いたコメディということなんでしょうが…。実は本日体調というより精神的に不調で、こういう世界をどうも楽しめない。終わり乱闘場面のバットを振り回す荒々しさも、その後のご都合主義的な結末も、元気な時にみたらもう少し楽しめたかなとは思いつつ、ゴメンナサイ!だ。ヤクザ社会を描くという意味では柯震東の『黒の教育』を思い出したが、あっちのブラックさに比べてこちらは、話としては他愛もなくまとまりも今いちかなあ。(10月31日 シネスイッチ銀座1 ワールドフォーカス台湾ルネッサンス2023 325)

13-㊾満江紅
監督:張芸謀 出演:沈騰 易 烊千璽 張毅 岳雲鵬 2023中国 157分 ★★


舞台は南宋の王城、張芸謀が映画用に建てた屋敷?なのかな、石壁の狭い通路を兵士やその他の登場人物が走ったり、闊歩したりを前から撮ったり、俯瞰するように上から撮ったりというのが繰り返されそのたびにいかにも印象的にその登場人物を表すような、時にはラップ調だったりする音楽がかぶりなんとも様式的というかビジュアル的というかなるほどの張芸謀映画だわ。もちろん合間には王城の見下ろすようなテラスとか、在任が押し込められる牢とか、中庭の処刑場面、あるいは駆け引きたっぷりのお茶会とか、双子のようにふるまいつつ強い聾者の侍女とか、なよやかに見えて意外にしぶとい女たちとか、、飽きさせずに引っ張るが、ここで重視されるのは権力闘争というよりは、殺される金の使者の密書であり、岳飛が書いたと言われる謎の詩であり、それーつまり文字を求めて奔走する王(の影武者―これは意表をつかれ面白かった)をはじめとする登場人物で、権力面でも罪人としても入れ替わったりもしながら駆け引きしながら進んでいく、フラフラしているようで意外にも知恵も力もある張大(沈騰、みればみるほどムロツヨシにそっくり。コミカルな行動も含めて)出ずっぱりの実直な青年武将、張大のおじ(三叔とか言われていた。年齢逆転の若い叔父だ)易烊千璽の活躍ぶり、裏のありそうなずるそうな宰相張毅とか、群像劇なのに案外登場人物のキャラクターも際立って、なかなかに楽しめる作品だった。157分という長さはあまり感じさせないのもさすが。(10月31日シネスイッチ銀座1ガラ・セレクション326)

14-①青春の反抗(青春並不溫柔)
監督:蘇奕瑄 出演:リー・リンウェイ  イェ・シャオフェイ  ロイ・チャン 2023台湾 114分

ウーン。なんともかったるい映画だった。1994年戒厳令解除後の台湾が舞台だからしかたがない?最初の方で「ポケベル」が出てくるあたりは時代を映し出そうとしたのだろうが、後の展開にそれが生きるわけでもなく。今までとは一転して若者に自由を求める気風が起こりヒロインの通う美術大学でも教授の厳しい弾圧的支配(これが文字通りの「学校の先生的」でいくら台湾の90年代とは言えあんな美術学科の先生=つまりアーティストなはず)がいるかしらん?に抗して、学生の運動が起こるがそのリーダーの一人チンが、なぜか問題のおきた美術学部の学生ではない(何科なのかそこで彼女が何を専攻しているかは不明)。しかも父が有力者で大金持ち、彼女自身も生活には困らずその住む家が運動のたまり場になったりしているわけだがパトロン?みたいな嘘っぽい設定。そこで学生運動のリーダーの青年に言い寄られ…。この男もそうだが、ヒロイン・チーウェイに近寄ってくるクラスメートも「女の君はいざとなればいい男を見つければ(絵で認められなくても)生活は困らない。それに引き換え自分には生活がかかっている」とかほざいてチーウエイを鼻白ませる。リーダー青年もそうで、要は保守的であれ改革派であれ、どうしようもなく男本位で古臭い観念を持った男に飽き足らない女たちが心と体でつながっていくというジェンダー問題を描いた映画なのか…。男女のベッドシーンの生臭い動きと、女性同士の美しい?ベッドの描き方もそれを示している?運動は何とか収束するが、最後のところで参加した学生には学校から処分が下ったというテロップ。なぜか無傷?(なのかどうかわからないが)の女二人のツーショット的海辺の散歩がこの映画の結論。
(11月1日 TOHOシネマズシャンテ1 東京国際映画祭 ガラセレクション台湾ルネサンス2023 326)

15ー②愛は銃(愛是一把槍)
監督:李鴻其 出演:李鴻其   2023 台湾81分

監督・主演の李鴻其は、2015年フィルメックスのチャン・ツォーチ『酔、生夢死』、その後の『ロングデイズ・ジャーニー』(18)などで見てきている役者なのだが、どうも私にとってはインパクトに欠けるというか、あまり印象に残っていなかった。その彼が監督・主演(出ずっぱり)という作品で、主人公は今回も今も行く手もはっきりせずに状況に流されているような青年で、この作品ではラリッて傷害事件を起こし?刑務所に行った青年が出所するが、博打で借金まみれの母に請われ、過去のヤクザ界のしがらみからもなかなか抜け出せず(というか本人はクスリもやめそれなりに真面目に生活を律しているんだが)あちこちさまようというような話だが、イマイチ話の流れがつかめず、ロングショットばかりなのでキャラクターのインパクトも薄い感じ。しかし逆に背景となる風景、瑞々しい緑の林や、海や―この春行った台湾東北部?(台北まで1時間くらいの東海岸)の亀島のあたりみたいで懐かしく見るー荒れた海の景色も含め何とも美しく、目も覚めるような引き込まれるような風景描写は特筆に値する。(11月1日 丸の内東映 東京国際映画祭ワールドフォーカス 327)


というわけで、長く感じた映画祭期間、ちょっとくたびれたけれど、収穫もたっぷりで終わることができました。長らくお付き合いありがとうございました。


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