【勝手気ままに映画日記+山ある記】2023年10月

恵那山登山道から快晴の飯田方面。後ろは南アルプス(10/22)

10月の山歩き

10月11日 蔵王 地蔵が岳~熊野岳~馬の背~刈田岳(往復縦走)
  9.6㎞ 3h43m ↗424m↘424m 27000歩 ペース0.9~1.0(ヤマレコ)
  詳しくは以下サイトに


10月22日 恵那山 2191m(前日飯田市泊 広河原登山口より頂上往復)
 10.9km 8h35m ↗1135m↘1138m 17600歩 ペース90~110%(ヤマップ)

     紅葉は今一つでしたが、すすきの道は秋の風情です


10月29日 乾徳山 2031m(塩山(タクシー)~乾徳山登山口より頂上往復)
   8.4km  7h42m    ↗1182m↘1182m 18000歩 ペース110~130%(ヤマップ)

乾徳山への道:上の方は垂直?な鎖場もあるなかなかのハードなコースです(10/29)


  1500mでは紅葉もすすみ   マルバタケブキの綿毛   ピンクの実はマユミとか


10月の映画日記

①-1ロスト・キング 500年越しの運命②-2不安は魂を食いつくす(Angst essen Seele auf)③-3マリア・ブラウンの結婚(Die Ehe der Maria Braun)④-4バッド・ランズ㉕-5丸木位里 丸木俊 沖縄戦の図 全14部 6(番外)燃え上がる女性記者たち ㉖-7旅するローマ教皇㊻-8ヨーロッパ新世紀

山形ドキュメンタリー映画祭、中国・東京映画週間、東京国際映画祭で見たもの以外で、8本だけでしたが、タイトなスケジュールに無理やりねじ込んでいったので、それなりの見ごたえある作品ばかりでした。①…は10月の映画の通し番号です。

 

①-1ロスト・キング 500年越しの運命
監督:スティーブン・フリアーズ 出演:サリー・ホーキンス スティーブン・クーガン(脚本・製作) ハリー・ロイド マーク・アディ 2022イギリス 108分 ★

病気を抱えつつ仕事を頑張るも全く評価されず、家では別れた夫が二軒の家を維持するにはお前の給料が必須だと迫る。子どもたちもなんだかいうことをきかないしもう、踏んだり蹴ったりというか自分が正しく評価されず存在意義を見失いそうな主婦が、同じく歴史上で正しい評価を与えられなかったリチャード3世と出会い(彼女にだけ見える王の幻影が彼女をいわば励ますというのがいかにも映画ならでは設定で、この映画のミソかな、リチャード3世の時代劇的コスプレが現代に在現れるというビジュアル的な楽しさもあるし)彼の遺骨の埋まっていた福祉協会の駐車場の発掘にこぎつけーここまでもなんかリカーロキアン?の妄想みたいな扱いをされて苦しいわけだがー掘り当てるという成功譚と、それにもかかわらず彼女の意志を妄想として退けた地元の大学側が突如その功績を自分のものにしようと乗り出して、彼女は蚊帳の外に放り出されてしまう苦さも、いかにもという感じ。
しかしリチャード3世も彼女も映画にもなり、彼女は若者に希望を与えるような講演会の場で話すという、実質的にはなんかほっとするようなところもちゃんと盛り込まれた実話。サリー・ホーキンス、いかにもの、ふつうの、ちょっと報われない、しかし一直線に進む人を演じてさすがにうまい。スティーブン・クーガンはこの映画の脚本に参加しかつ夫役ー酷薄っぽい感じから理解者になっていく様子をよく表して、さすがの演技力だった。(10月3日 キノシネマ立川277)

②-2不安は魂を食いつくす(Angst essen Seele auf)
監督:ライナー・ベルナー・ファスビンダー 出演:ブリジット・ミラ エル・ヘディ・ベン・サレム  1974西ドイツ 92分 ★★★

ある夜、中東の音楽に惹かれとあるカフェに入った掃除婦(60代?演じたブリジット・ミラは1910年生まれで同時64歳)がモロッコからの移民労働者アリ(本名は長い。40代くらいの設定?)と出会う。ダンス、帰宅途上の雨から自宅での雨宿り―1泊をアリに勧めるエミ、というところから恋が始まり、周囲が受け容れない状況、子どもたちの逆上、掃除婦仲間の排撃と余すところなく描き、やがて二人はその状況を逃れるように旅に出るが、帰ってくると案外にも周りは二人を受け入れ始める。しかし今度はアリがいわばエミの束縛に耐えかねるかのように外泊し、二人の間はギクシャクする。
一貫してエミよガンバレと言いたくなるような、自立した女の恋がどうであったって周りは気にすることはないじゃないか(と、今の感覚だから言えるのかもしれないが)と思わせるような描き方は別に「戦闘的」ではないのだが、人間の喜びや悲しみがにじむような感じで、この作品がアキ・カウリスマキに影響を与えたというのは大いに納得できる。エミは若い時父がナチス党員であり、自分もそうだった、あの頃はみんなそうだったと語る場面があり、それと移民労働者に対する偏見のなさ(他の登場人物は皆偏見まみれ)を考えると、主張はしないが社会的視点もただものではないと思わせられる。
(10月4日 川崎市アートセンター・アルテリオ映像館 278)

③-3マリア・ブラウンの結婚(Die Ehe der Maria Braun)
監督:ライナー・ベルナー・ファスビンダー 出演:ハンナ・シグラ クラウス・レービッチェ イバン・デニ ギーゼラ・ウーレン エリーザベト・トリッセナー 1979年 西ドイツ 120分

最初が、結婚式の現場への空襲、そのなかで瓦礫に舞った結婚証明書の用紙を拾い上げ係に署名を求めるというマリアの壮絶な花嫁姿から。そうして結婚した相手はすぐに戦地に行き(1日くらいで)生死も不明になり、戦後のマリア・ブラウン(夫の姓だ)は背中に夫の名を書いた看板を下げて、夫の行方を尋ね歩くことになる。
やがて戦地から帰った兵士によって夫の死が知らされ、そこからマリアの戦後生活が始まるわけだ。知り合った黒人兵と親しくなりやがてマリアは結婚するがそこに夫が戻ってくる。裸の黒人兵に瓶?を振り上げるマリア、しかし…波乱騒動の末、夫が刑務所に入ることになり二人はまたまた永の別れということになる。
そこから後はなんか事業家に雇われて頭角を現しガンガンと自立した女になっていくマリア・ブラウン。獄中の夫もなんかそれを承知している感じなのだが、やがて夫が出てくると…。ハンナ・シグラ演じるマリアはどんどん美しくなっていく感じ?夫が離れていることが女を自立させつつ夫への愛も失わせないという考え方?最後は第三者的にはなんで?という感じの悲劇なのだけれど、ウーン。
(10月4日 川崎市アートセンター・アルテリオ映像館 279)

④-4バッド・ランズ
監督:原田真人 出演:安藤サクラ 山田涼介 生瀬勝久 宇崎竜童 吉原光夫 大場安正 江口のりこ サリngROCK 前田航基 岡田准一 2023日本143分 ★

のんびりゆっくりやって来た山形。来る途中で知ったオープニング・プログラムの整理券配布。見るつもりだったが新幹線を下りて改札口のインフォメーションを見るとすでに「整理券配布は終わりました」。で空いてしまった夜をどうするか…ということで、映画祭の会場にはなっていない映画館ソラリスの出し物をしらべて、東京に居たら多分見なかっただろうと思われるこの作品(長い143分もある)に行きつく。
広い立派な見やすい会場になんと3人だけで、クライム・サスペンス?の143分。前半はなんか話があまりわからなくてー特殊詐欺罪を生業としている血のつながらない姉と弟、その元締め(実は姉の父)をめぐるぐるぐると、一方この詐欺罪を追う刑事たちが交互に描かれ、姉弟が仕事がらみで行った賭場で弟が借金を作ったりのすったもんだのあげく、姉弟は元締めを殺し彼の大金を手に入れようとするも暗証番号がわからず金を手にすることができないという感じに、死にかけた元ヤクザとか、賭場の元締めならぬ掛け金取りの不思議な雰囲気の女性とか、何やかやと人がからみ、最後は弟の犠牲?で…。というよりかこのサイコパスの弟相当にドジ?な面もあったりして姉にとっては目を離せない存在という感じを山田涼介好演。もちろんこのぐちゃぐちゃ、ついていくのが難しい(私にとっては)話を吸引力で引っ張るのはなんといっても安藤サクラということで、彼女ゆえに見たところあり、そしてそれは裏切られなかった感じかな。鋭く相手を恫喝するような凄みと、気持ちを開いたた柔らかな笑みのコントラスの同居がなんといっても印象に残る。(10月5日 霞城セントラル ソラリス 280)

⑳アンダーカレント
監督:小泉力哉 原作:豊田徹也 音楽:細野晴臣 出演:真木よう子 井浦新 永山瑛太 江口のりこ リリー・フランキー 中村久美 康すおん  2023日本143分

ヒロインかなえが、夫が失踪して閉めていた銭湯を再開した日、銭湯組合の紹介として堀という男が職を求めて現れる。一方偶然再会した学生時代からの友人の紹介で、かなえは山崎という探偵に夫の捜索を頼むことになる。また、映画に繰り返し現れる水の中で首を絞められ沈んでいくかなえ自身の幻影…、というような誰もが抱える?誰にも話せないような内面をテーマに、進む数か月143分。
大変丁寧に描いているし、謎の人物堀、あるいは失踪後妻の知らなかった事実が山崎によって明かされその嘘で塗り固めたような人生が明らかになる夫、そしてかなえ自身も知らなかった(というか記憶を封印していた)幼いころの友の死などが思い出された衝撃(真木よう子、うまい)などが順次種明かしされそれぞれが抱える心の闇が見えていくような過程なのだが、さすがに143分は長いし、その割に暴かれる「謎」はそうたいしたものでもない??ー特に堀の過去はタバコ屋のオジサンに簡単に見破られてしまうし、私は堀は妹殺しの犯人?とまで思って期待していたのだが、単に妹のかつての友にひかれて…というのならストーカーじゃんとさえ思ったーそうか、それが彼の隠した謎かもー。嘘つきな夫という一種のサイコパスを演じた永山瑛太の頼りなげな嘘っぽさの演技もナルホドだけれど、彼が妻に語る失踪の理由というのも結局ウソ?と思わせる頼りなさで、なんていうかね…。
映画祭の合間、公開されたが東京では見に行く暇もなさそうだしと夜8時半、宿が近いので安心感もあり出かける。レイトのフォーラム1、1時間も前に開場しているが、入場はノーチェック。切符はもちろん買ってあったんだけれど、入っていいのかどうかいささか居心地悪く鷹揚なものと感心。観客は女性5人の男性が1人というところだった。(10月9日 山形フォーラム1 296)

㉕-5丸木位里 丸木俊 沖縄戦の図 全14部 
監督:河邑厚徳 出演:新垣成世 平仲稚菜 石川文洋 佐喜眞道夫 丸木ひさ子 ナレーター:ジョン・カビラ 朗読:山根基世 2023日本88分

映画祭の流れのような気分で見に行った2本のドキュメンタリーの1本。内容的にはほぼ想像の範囲内だが、今更ながら、「沖縄戦の図14作」を丁寧に見せてくれるのがありがたい。1枚1枚の絵に関して当時の体験者の生き残りの方とか、沖縄の関係者とか、佐喜眞美術館関係の方とか、丸木夫妻の世話をした姪の方、また東松山の原爆の図のある方の美術館(ここは40年近く前に何回か行った)の方とか、丸木夫妻の絵に対する姿勢とか取材のときの事とかを語る見ごたえのある88分。彼らが描き始めたのが80年代後半、佐喜眞美術館は94年創立だそうだが、私が行ったのは2000年前後、仕事がらみで何回か沖縄に通ったっけなあ。見覚えのない絵もあるのだが、来年1月末まで全14図の展覧会をやるらしい。(10月13日 川崎市アートセンター・アルテリオ映像館303)

●燃え上がる女性記者たち 
監督・製作:リントゥ・トーマス  スシュミト・ゴーシュ  出演:カバル・ラハリヤ記者 ミーナ スニ―タ シャームカリ 2021インド 93分 ★★★

これは、9月に見たのだが、21年?(オンラインのはず)の山形の市民賞受賞、というのと、今年の山形、大賞が『何も知らない夜』、市民賞が『わが理想の国』とインドの女性監督が受賞したこともあり、時代的にも内容的にも同じ事件を別のサイドから見て重なるところもあるように思え、珍しく再度鑑賞することに。2019年モディ再選政権にまつわるヒンズー教至上主義が、国内に神への帰依によって救われる雰囲気を生み出し、電気もガスも、道も整備されていないような下層民を圧迫しているという状況は、いわば『何も知らない夜』や『わが理想の国』で描かれたインドの状況を同じ時期、ちがった角度から見ているわけで、映画祭での二本の映画を見た結果、この映画への理解がたかまったのは確かで、今回は眠くなることもなくしっかり目を開いていわば勉強させてもらった感じも…。それにしても山形で気を吐くインド勢。
(10月13日 川崎市アートセンター・アルテリオ映像館 番外=再見)

㉖-6旅するローマ教皇
監督:ジャンフランコ・ロージ 2022イタリア83分  ★★

2013年の就任後、9年間に世界53か国を訪問した266代ローマ教皇フランシスコの旅をアーカイブ映像と最後(2022年)のマルタ・カナダの旅だけは同行して撮影しながら作られたドキュメンタリー。『ローマ環状線の人々』(2013)『海は燃えている』(2016)『国境の夜想曲』(2020)に満ちていたロージのカラーをこの映画からもたっぷり感じることができる。
もちろんロック教皇とも言われるくらいに吸引力というか魅力と力に満ちた教皇自身の人々とのふれあいや演説(とはいわないね、説教か)もなのだけれど、それぞれの訪問国が抱える問題や紛争などの映像によって教皇の旅がそれらの問題に対峙するために行われているということがシッカリ伝わってくるのがロージ流だ。
で、キリスト教司祭のレイプ問題に関する発言(証拠があれば対処する)を後で恥じて謝罪をする場面の長さ、また自ら参加したからだろうかカナダの先住民との邂逅とかが印象的で、監督の視点のありようを感じるが、2019年の日本訪問については原爆のキノコ雲、当時の被災者たちのアーカイブ映像にプラスして、一瞬だけ慰霊式でミサをあげる教皇といった具合であっという間に次のカナダ?訪問に行ってしまった。多分アーカイブではない映像としては飛行機のタラップで帽子を飛ばしてしまった場面とか、それに70代半ばから80代半ばの教皇、恰幅の良い立派な押し出しで、精力的な旅の姿だが、足が悪いのかちょっと引きずってつらそうに歩く場面もあっておいたわしいという感じも漂うのであった。(10月16日 キノシネマ立川 304)

㊻-7ヨーロッパ新世紀
監督:クリスティアン・ムンジウ 出演:マリン・グリゴーレ ユディット・スターテ マクリーナ・バルデラーヌ マーク・ブレニッシ 2022ルーマニア・フランス・ベルギー(ルーマニア語ハンガリー語 フランス語英語ドイツ語)127分 ★★

ルーマニア・トランシルバニア地方の村、何処もここからは西だというセリフが出てくる、要はヨーロッパ東端の村で、住民はルーマニア人ハンガリー人その他が入り乱れているのに心情的にはトランシルバニアの古い習俗なども残した伝統的な文化を維持している?、住民たちはかつて栄えた鉱山も閉鎖したあとヨーロッパ各地へ出稼ぎに出ており、主人公のマティアスも出稼ぎ先の食肉工場で「ジプシー」とののしられて相手を殴りクビになって故郷にヒッチハイクで帰ってくるというのが出だし。
故郷の村では不仲な妻、森で何かを見た後口がきけなくなった息子ルディ、そして衰えた老父がいて、マティアスはうつうつとして楽しむことなく、心はかつての愛人シーラのもとに向かう。シーラは勤めるパン工場がEUの補助金を得るためには拡大が必要で従業員を求めるが安月給?に応じる村人はなく、スリランカ人の出稼ぎ労働者を雇うことにするが、これが村内で大紛糾、よそ者排除、異人種は汚いなどの声が渦巻き、SMSには殺人予告、シーラが彼らを招いた自宅には火が投げ込まれ、工場が作ったパンの不買運動が起こる。
そんな中で今はそれどころでなくマティアスへの思いもないシーラにマティアスは言い寄り(ストーカーだね)、息子を甘やかしているとして妻には不満をさらに募らせ、息子には「殺して強くなる」ことを教えようとする―作者自身が主人公に全く共感を持っていない描き方で、ちょっと気の毒なほど。
宣伝予告で言われている17分長回しの村内集会(いかによそ者を排除するかという議論というか主張が噴出し、ただ排撃しないとする人間も少数ながら意思表示をするところはさすがの西欧?いや、しかしやはり最終的にはここでは民主主義は死に、異端のものは熊のかぶり物をかぶった伝統習俗の悪魔に襲われる???結論を出さない描き方はなかなか意味が深そうで、観客を不安のままに映画は終わるという、さすがのクリスティアン・ムンジウ作品。今のヨーロッパの実態かもと思わせられる。
シーラはチェリストで一人夜チェロを弾くシーンもあるが、ハンガリアン・ラプソディなどとならび(多分彼女がハンガリー系であることを示す?ハンガリー系はルーマニア系ほどには排他的でないような描き方)梅林茂の『夢路』?が繰り返されたのにはびっくり。これって『花様年華』のテーマ曲?つまりシーラはこの映画のマギー・チャン(張夫人)に模せられている(不倫の恋に悩んでいる)?っていうことか?(10月30日 渋谷ユーロスペース 323)

書きました! よければ読んでください!


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 次号は「東京・中国映画週間/東京国際映画祭」報告になります。
 どうぞお楽しみに!

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