【勝手気ままに映画日記】2025年9月
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| みました!美しいレインボーマウンテン!(9・17) |
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| 実は予定外に降り立ったメキシコシティ・メトロポリタン大聖堂(9・18) |
9月10日~20日、10日間にわたりペルーへ。長年あこがれのインカ道(ハイライトだけですが)、マチュピチュ(というかワイナピチュ登山)、そしてレインボーマウンテンを見にヴィクニンカにも登り、高度順応も順調で、胃腸状態も良好、楽しい旅をしました。帰りにはフライトの関係で1日のメキシコシティのおまけもあって大満足。
旅日記は、以下にUpしました。『電影★逍遥』バックナンバーからもご覧になれます。
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| ペルー行きに備えて、おりしも開催中だったペルー映画祭で予習をしました |
【9月の映画日記】 ペルー映画祭プログラム)
①遠い山なみの光②午後の終わり③ワルテル先生とキピの教室④わたしはタニア⑤ママ・イレネ アンデスの癒し⑥罪なき罰のゆくえ⑦みどりの壁⑧想見你(劇場版 時をかける愛)⑨トワイライト・ウォーリアズ決戦九龍城砦(九龍城寨之圍城)➉ユニバーサル・ランゲージ
⑪ディア・ストレンジャー⑫宝島⑬ブラックドック⑭最後のピクニック
中国語圏映画⑧⑨⑪⑬
日本映画のうち①⑪は他国との合作作品として作られている。
★はナルホド!★★はイイね!★★★はおススメ!のあくまでも個人的感想です。各映画最後の番号は今年になって劇場で見た映画の通し番号。各文中の赤字部分はその作品などに言及したページへのリンクをはったところです。
10日間の海外旅行、その前後は〆切のある原稿書きに終われ、映画をみる余裕もなかなかないままに14本だけの9月でした。
⑭最後のピクニック
監督:キム・ヨンギュン 出演:ナ・ム二 キム・ヨンオク パク・グニョン 2024韓国114分
ウンシムが昼寝をしていると息子がチャイムもならさずやって来て母の引き出しをあさる…ウンシムはもはやこの家しか財産はない息子に援助は出来ないと言い募る。そこに嫁と孫も来て、嫁は孫のカナダ留学資金の確保を夫である息子に迫る。そこにまたチャイム。上品なピンクのチマ・チョゴリでやって来たのは嫁の母でウンシムの60年来の友でもあるグムスン。家で息子と顔を合わせたくないウンシムはグムスンを誘ってハンバーガーを食べに行き、そのまま話がまとまって南海(ナム)のグムスンの家に逃避行?ということになる。というわけで後はこの街での初恋の人テホとの再会、街のリゾート開発に反対するテホたちの集会の打ち上げ?で、ウンシムの帰郷に激しく反発するこれも元同級生女性(この造形ってすごい。どんな恨み―ウンシムの父がらみ恨みみたいなのだがー60年間怨念を持ち続けそれを激しく相手(というかその娘)にぶつけながら、あとのカラオケ場面では自分の踊りたく一人で振りをつけたりしている、こういう人って韓国にはいる?日本では見ないような造型だけど=心情的にはあってもここまで激しく相手を攻撃できるかしらん)とか、ウンシムも息子との確執をかけるわけだが、グムスンの方も息子とは何やらわけありだし、ウンシムはパーキンソン病、グムスンは腰痛(骨粗鬆症)、テホは脳腫瘍と皆それぞれに老いの悩みを背負いながら一人ガンバリ、あるいはその中で友との「最後のピクニック」を楽しむような生活ぶりと事件、そして最後は「キムパ」(巻きずしだね)を作ってオシャレをして二人して海の見える丘へとピクニックと、そうか老いはこういうふうに訪れ、人は一人で乗り越えなくてはならない?けれどそこに分かり合える友がいたらうれしいね、というような文字通り…の映画なんだけれど…。扮する役者たちは1938〜41年生まれで80代か…。80代ってあのくらいよぼよぼになるのか…って(演技だろうが。しかしさすがに達者巧みな掛け合い)
韓国では単館で10代~80代までを泣かせる大ヒットになったというのだが…ま、ちょッとそういうことばに踊らされてしまった…(9月30日新宿武蔵野館234)
⑬ブラックドック
監督:管虎 出演:エディ・ポン(彭于晏) トン・リーヤー(佟麗婭)賈章柯 張毅 2024中国 110分 ★★★
77thカンヌの「ある視点」部門最優秀賞にしてパルムドック受賞、37th東京国際映画祭出品の劇場公開。監督は『ロクさん』(2015)の管虎。主演が台湾のエディ・ポン、それに賈章柯も出演という話題満載作?
ゴビ砂漠の端にある赤峡とかいう、さびれた町が舞台で、しかもその街はずれの砂漠とか、さびれかけた動物園(こわれて?今や営業されていないバンジージャンプとか)というなんか不思議な寂しさを誘うような街に帰った刑務所帰りの男。友人を誤って殺してしまったというのだが元はこの街でちょっと名の知れたミュージシャン(スター)だったらしい。エディ・ポンはエディ・ポンとは見えないような坊主頭でごついのだけれど、そこはかとなく漂うやさしさとかユーモラスさはやはりエディ・ポンらしさかな。実家に戻るが父は家を空け動物園に住み込んで一人動物の世話をし、やがて倒れて入院。3人の子を抱え来られないという姉に変わり主人公が父の世話をする。そんな中動物園にやって来た雑技団のバンブーダンサーに心寄せられたり…。犬のために手作りのサイドカーを作ったバイクもなんかユーモアが漂う。流されているみたいで破滅的そうなんだけれど案外やさしさや乗り越える逞しさがにじみ出すところが主人公やこの映画の魅力な気がする。
この街、野犬が横溢し(砂漠の野犬の群れがハンパではないすさまじさ)賈章柯演じる街の顔役の指揮で野犬狩りが行われる。刑務所帰りの彼も警官に誘われそこに参加するのだが、彼が殺した友人の家族の蛇も扱う羊肉商の一家が恨んで彼に嫌がらせ、そこを何とかすり抜け切り抜けの主人公は、野犬の群れから離れて狂犬としてお尋ね者になっている黒犬といつの間にやら心を通わせ(双方のマーキング合戦?も笑いを誘う)噛まれたけれど発病せず狂犬ではないとなった犬を自分のものとするのだが…主人公と犬の一見と内実みたいなのは重ね合わされていて、しかも犬は子どもを残しつつ滅びに向かい、主人公は子犬を背負って旅立つ…というわけで、筋を語るとわかりにくいし、暴力もありながらきわめて静か、敵役も含め本当の悪人は一人もいないような、その意味ではむしろリアルなのかもしれないファンタジー世界はブルーグレーの色調で、ホントに不思議な吸引力をもっている。(9月29日 新宿シネマカリテ233)
⑫宝島
監督:大友啓史 出演:妻夫木聡 広瀬すず 窪田正孝 永山瑛太 塚本晋也 中村蒼2025日本 191分 ★★
19日、始まったと思ったら1週間で地元のTOHOシネマズは昼夜1回ずつの上映になってしまい、ありゃりゃ、こりゃ急いでいかなくてはと久しぶりのレイトショー。事前の入りは2〜3人という感じだったが、始まるころにはわらわらと人も増え、なんかちょっと安心した。で、映画はさすがの迫力というか、群集劇の中に主要人物のまあドラマというより人間像を浮き上がらせるというつくりだし、あまりに美しく典型的に作られたVFX映像が逆にインパクトを弱めている?様な気もしなくはないが、沖縄の戦後20年近く(1946年〜コザ騒動の1962年)のまさに社会を描きながら、ミステリー仕立てとも言えるエンターテイメントに仕上げているのはさすがの大友監督。原作の進藤順丈の直木賞受賞長編策の力に支えれている部分もあるのかもとは思うが、原作未読のため?よくわからない設定なども2,3あり、早速に帰り道でkindle版上下合冊を購入ダウンロードしてしまった。これからしばらくは映像記憶と原作で楽しめる???妻夫木聡は甘いマスクにもめげず?社会派中年への道を歩み出している感じだし、広瀬すずは劇場版では『遠い山なみの光』に続き、この夏2本目の「戦後もの」の主演で、いかにも「紅一点」という感じの配役に最初は少し違和感があったが、終わりの方の恋人オンもニイニイと慕うグスクうをも乗り越え凌駕するような体当たり演技には、『遠い山なみ…』はちょっと霞んだかなという気もした大熱演。(9月26日府中TOHOシネマズ232)
⑪ディア・ストレンジャー
監督:真利子哲也 出演:西島秀俊 桂綸鎂 2025日本・台湾・米国(英語・中国語・日本語) 138分
ニューヨークに住む日本人賢治と中華系アメリカ人ジェーン。賢治は廃墟を研究対象とし、バベルの塔の言語の不通について学生に講義をする大学教師、妻ジェーンは中国移民の両親がいて、老いた父の経営していた店を手伝いながら、人形劇団のアートディレクターとして仕事をしつつ、母の「もっと家庭をかえりみよ」という説教に不満をもち(このあたり両親家庭の典型的なというか類型的な旧家族的描写はちょっと…ジェーンでなくてもうんざり)、そして夫婦はそれぞれ勝手な?興味を伸ばしつつも何とか協力もしてバタバタしながら一人息子の4歳児カイを育てている。そのカイが誘拐されるというのが話の始まりと思いつつ、なかなか誘拐までは行かず延々と夫婦の日常が描かれていくのにはナルホドなという意味があった。夫婦の会話は英語だが(西島・桂ともさすがに達者!)妻は両親とは中国語で話し(台湾語ではなかった)夫も妻の両親への挨拶は簡単ながら中国語。夫婦のケンカというか言い合いの場面で夫が妻がわかるかどうかも問題にせず日本語で言い募る場面あり、この状況からは特に夫の言語状況にはかなりストレスがあるのだろうなとも思われる。いっぽう妻が人形を手にする語りや人形振りはさすがの桂綸鎂というか見ごたえがある。さて妻が劇団の仕事に行き、夫が預けるところもなく息子を連れて行った会議場?から息子は誘拐されて姿を消してしまう。がっくりと落ち込んで自宅にこもる妻と、誘拐犯をもとめて走りまわる夫、この対応にもけっこう夫婦の差は大きい。そして…息子を助けた?女性が彼を帰して?よこすが、息子はケガもないのに血まみれで…。というわけで後半は夫婦が抱えるある秘密、それと誘拐が必ずしも無関係ではないことがだんだんと明かされて行って…、夫婦の心情がすれ違ってい行くことに力点が置かれる心理劇的様相を示していく。秘密のありようの微妙さを体現する夫婦約二人の繊細な演技、そこに突然?加わる、『CUT』(2011アミル・ナデリ)を思わせるような自虐的なアクションシーンが飛び込んだり…終わりももちょっとびっくりという感じで(不死身の賢治?)、これはさすがの娯楽作品に仕上がっているわけだ。画面はひたすらに暗く沈んだ感じの作りでハリウッド映画ぽくないのはもちろん、台湾映画っぽくもなく、日本映画でもない、西島は『ドライブマイカー⑬』+『CUT』だし、桂綸鎂は『薄氷の殺人』(2014刁亦男)+『鵞鳥湖の夜⑲』(2019刁亦男)の暗さだが、案外ミステリアスな感じではなく、ある意味「健康な」妻という微妙に難しそうな役だ。(9月23日 テアトル新宿231)
➉ユニバーサル・ランゲージ
監督:マシュー・ランキン 出演:ロジーナ・エスマエイリ サバ・ベヘディフセフィ ピローズ・ネマティ ダニエル・フィショウ 2024カナダ(ペルシャ語・フランス語)89分★
ペルシャ語・フランス語が公用語となった「もしかの世界」カナダのウィニペグという町の雪に閉ざされた冬。新調したばかりの眼鏡をなくした少年オミットを教師は理不尽に叱り、クラスみんなを物置に閉じ込めて授業を受けさせない、って考えられない暴挙だが…。オミットに同情し眼鏡をなんとか探そうとするネギン(ちょっとユニセックスっぽい少女)は姉を誘い、眼鏡探しをする中で氷に閉ざされた万札(だ、日本風に言えば)を見つけ出し、斧を手に入れてなんと紙幣を取り出そうと奔走するが…、そこに大人たち(無力な感じ)も絡んで、淡々と話は進みというか論理的に進んでいく感じではないし、画像も決してインパクトがある作りではないのだが、なんか吸引力があって最後まで眠らせない(⁉)。ユニバーサル・ランゲージは二つの伝わらないが等価値を持つことばのようでもあるし、お金?、いやいや人を思いやって行動する姉妹のやさしさを指すのかも…カンヌ監督週間で観客賞をとった作品というが、ウーン、観客の鑑賞力がすごい気がするが、眠らせないこの地味な映画の創りもすごいのかも…(9月23日 新宿シネマカリテ 230)
⑨トワイライト・ウォーリアズ決戦九龍城砦(九龍城寨之圍城)⑬ 監督:ソイ・チェン 出演:レイモンド・ラム ルイス・クー サモ・ハン リッチー・レン テレンス・ラウ トニー・ウー ジャーマン・チャン フィリップ・ン 2024香港(広東語)125分 (2回目の鑑賞)★★
1月公開当初のあと延々と続く上映に、原作本の日本語訳も出版され、ますますの人気についあおられて2回目の鑑賞(最近は時間がもったいない=残り時間が少ない?のであまり繰り返し鑑賞をしなくなっているのだけれど)。1回目と印象はそんなに変わらないながら、ビジュアルの美しさ(構図も印象的)、音楽というか効果音も含めた九龍城の喧騒というか雰囲気の上手さを感じながらの2時間だった。初回はどちらかというと高齢組の老練さというか猛者ぶりに目が行ったが、今回は4人の若手組、特にその後もいろいろな映画でいろいろな面を見せてくれた信一役のテレンス・ラウ(劉俊謙)をはじめとする若者(といっていいのかどうか?)の個性の違いと共通して漂わせる切なさのようなものが印象に残る。原作はまだ「試し読み」しかしていないのだが、その切なさみたいなものはあまり感じられず、黒社会の強面みたいな陳洛軍なので、映画のレイモンド・ラムはなかなかにいい感じ。
原作者によれば、龍捲風(理髪店の親父の元締め)はレスリー・チャンのイメージで書かれているそうだが、ウーンそういえばこの映画の古天楽の静かさと苦しみ方はレスリーっぽく演じているのかな…でもやはり違うかなあと悩ましく?見たり…(9月22日 シネマート新宿229)
⑧想見你(劇場版 時をかける愛)
監督:黄天仁 出演:グレッグ・ハン(許光漢) アリス・クー(柯佳嬿)パトリック・シー(施柏宇)2022香港・台湾・中国 106分
帰国1本目の劇場鑑賞は、旅行中台湾映画愛好仲間のグループlineでけなされていた?この映画。時空を超えた愛というのもなんかはやりのような気もするが、22年製作のこの映画は台湾で人気だったドラマの続編、というか関連作であるらしい。時空を超えてというのだが、それよりも不可思議というか新味?なのは、ヒーロー・ヒロインともに役者が2役で、同じ時空に存在してかかわる二組の男女を演じていること?さらにその二人?(+友人役も)の高校生時代も出てきて、複数の時代を超えて錯綜する人間関係が時代を超えて同一の役者に演じられるていて、豪華配役ながらなんともチープという感じもする不思議な作品。しかもヒーロー、ヒロインはそれぞれが死んでしまう別の時空というのも存在して互いに相手がいたりいなかったりで同じ場面を演じたり、その繰り返しだったり、もうなんか編集使いまわし?という感じさえしてしまい…。これって混乱させるのが目的か??そしてその割にはわからない部分も含めてわかりやすくできているのでもある。
2017年台湾から上海に転勤する黄雨萱は自分を救おうとして死んだ恋人李子維を救おうと、自分にそっくりな子維の高校時代の友人陳韻如に憑依?(意図的にではないのだが)して彼が死んだ2014年に戻る。そこには2014年の雨萱もいて、そのうちには子維にそっくりな王詮勝という男も現れ(この人の存在の意味が最後までよくわからなかった)、子維の高校時代からの友人莫俊傑の韻如への恋心や、韻如と、雨萱の上海での上司の関係も絡んで、とにかくヒーロー・ヒロインは死ぬのだけれど、終わりはなぜかハッピーエンドという、まあなんとも不思議な展開で、こんなの見たことがない、というのが台湾ドラマとして人気がでたわけ?かもね。ドラマは台湾ではたくさんの賞を取り、韓国でもリメイクされているらしい。(9月22日 シネマート新宿 228)
⑦みどりの壁
監督:アルマンド=ロブレス・ゴドイ 出演:フリオ・アレマン サンドラ・リバ ラウル・マルチン 1969ペルー(スペイン語)★
リマでの現代的・文明的生活に倦んだマリオは結婚するデルバの親の反対を押し切り、なかなか進まない法的な手続きにもくたびれながらも、彼女とともにジャングルを切り開いての新生活を選ぶ。電気も水道もないみどりの壁の中で、自身が建てた高床式?の簡易的な家屋だがー灯油で動く冷蔵庫を置いたり、コーヒーの木を育て、牛も飼い、愛し合う夫婦には子どもラウロも生まれて、来年は学校という年まで育ち順調な暮らしぶりだったが、ある日境界線問題でやってきた見知らぬ男たちがコーヒーの木を勝手に折り、測量を始めていたことから、マリオは急遽、町の役所に土地問題の解決に出かけることにする。おりしも町には大統領一行が「開拓の状況の視察」にやってくるということで、彼ら一行の車(何代もの砂埃をあげ猛スピードで現れる)のための交通規制や歓迎会などで町は込み合い、マリオも街に行ったものの巻き込まれ困惑…というような政治や法律と実際の開拓者の置かれた矛盾がそれとなく描かれていくが…。留守宅では父に作ってもらった水車に、屋根裏で見つけたワイングラスで音を出すなどして遊んでいたラウロが毒蛇に噛まれる。応急手当をし町の病院に子どもを連れて走る妻デルバ。途中で普段から協力をしてくれる村の男や老人が助けてくれ、車もつかまえてくれ街に向かった母子はフリオにもあえて病院に走る。ちょうど血清が届いたところだったが、その保存庫の鍵をもつ院長は大統領の歓迎会に出ていてマリオは院長を探してまた街に走る…しかし結局間に合わず少年はなくなる悲劇。ここでは開拓を奨励すると言いながら実際の力にはならず、むしろいろいろに開拓者を阻むものとしての政治や政治家・官僚の存在を告発すると同時に、亡くなった少年の棺を積んでアマゾン川を帰る小舟を沢山の小舟に乗った地元の少年たちが悼むように舟を並べて埋葬にまで付き添う詩的なシーンとか、少年を助けようと手を尽くしてくれる地元の人々(開拓者仲間?)とかの気持ちが夫婦を励まし、彼らがこれからも開拓を続けていくのであろうと思わせるような、とても印象的な描き方をした作品。みどりに囲まれた目の大きな少年のポスターとか印象には当時から残っていたが、やはり見てはいなかったみたいで、たった1本残ったフィルムからのレストア版だそう。(9月8日 新宿K’sシネマ ペルー映画祭VOL.3 227)
⑥罪なき罰のゆくえ(Este fue nuestro castigo)
監督・撮影・編集:ルイス・シントゥラ 2023ペルー・スペイン(スペイン語・ケチュア語)89分
ペルー南部ヤクチョ県ワリャは標高3000mを超える山岳地帯。そこを1980年代毛沢東系の反政府組織「ペルー共産党―輝ける道(センデロ・ルミノソ)」ゲリラ運動の拠点としてが武装闘争を展開したことから政府(軍)との内戦になり、地域に住む人々が、どちらかの組織の一員と目されると反対側から殺害されるということで多くの人が命を失い、墓の場所もわからない(というかない)ままに35年が過ぎた。2019年〜22年に長い沈黙をやぶり住民たちは事件について語り、亡くなった家族を追悼し、遺体の発掘も行われ、記憶に向き合う。その過程ーというか主には父や兄たち家族の生や死を語る人々(モチロンかなり高齢に達している方が多い)の映像や、山を背景とした土地(あまり緑などはない)に集う姿、遺骨の発掘などで綴っていく。
まあ、すごい勉強になったというか、こういうことがペルーでもあったのだと地球の裏側の南米的事件を知ったということではあるし、語る人々の穏やかな風貌からは、この人々の体験がいかに過酷なことであったのだろうなどと思いつつ見るのではあるが、ほぼその人々の語りだけで綴られる事件は、ごめんなさい、昼過ぎの時間には集中力を発揮するのが難しく、時に眠気さしハッとするというようなことの繰り返しで、いささか疲れた。(9月8日 新宿K’sシネマ ペルー映画祭VOL.3 226)
⑤ママ・イレネ アンデスの癒し
監督:べッティーナ・エアバルド エリザベス・モールマン 出演:ママ・イレネ プマ・フレディ・キスべ・シンゴナ(ママ・イレネの大甥・治療師・通訳)2022ペルー(ケチュア語・スペイン語・英語)72分 ★
アンデスでペルー伝承の治療師をする84歳のママ・イレネのドキュメンタリー。もっとおどろおどろしい雰囲気かと思ったら、そんなことは全然なくて、かわいらしさ?とともに、異文化や異質の人々にも非常に寛容というか、親和性が高くて、新しいものも受け入れていく酔うようなこの人の性格は、例えばスペインの激しく厳しい侵略を受け容れてキリスト教文化を自分のものとしてなじみながら、ペルーの伝統や文化・風俗を自分らしく残して暮らしているように見えるペルーを体現しているようにも感じる。それは日本人の欧米文化に対する受容の感覚と共通するものもあるように感じるが、しかし同じではない。それはどうしてか、あらためて日本人の異文化受容ということについても考えさせられてしまう。アンデスの高山、自然もおおいに楽しめて、旅心も誘われた70分。終わりに監督の一人エリザベスさんのオンライントークあり。(9月7日 新宿K’sシネマ ペルー映画祭VOL.3 225)
④わたしはタニア
監督:ベネディクト・リエナール、メアリー・ヒメネス 2019ベルギー・オランダ・ペルー
(スペイン語)85分
タニアはペルー北部に住む少女。閉塞した村の暮しから逃れようとしてアマゾン川を下り川沿いの街に売られ?借金をかかえて、恋人?のレベンとも会えず、親しくなった友人は去り(焼けた頭部が見つかったとかいう恐ろしいモノローグ)、「白人男」に搾取され、妊娠中絶を強制され、その傷の言えぬままにさらに体を売ることを迫られるというような暮らしぶりが、ただ静かで、自然はもちろんスラムでさえも美しく撮られた川の景色の中でのクローズアップされた女性の表情とともに淡々とモノローグで語られていくという、ドキュメンタリーにフィクションも掛け合わせた映像として語られていく。引き込まれるような淡々とした美しさの画面(女性たちも美しいし)と裏腹に語られる人生のすさまじさだが、ウーン。どう見たらいいのだろうか。本当に苦しい場面汚い場面として言葉通りに描くよりは若い美しい女性の置かれた陰惨な立場の美しさとしてインパクトはより強い?でも、自分の中にペルーのその景色を楽しんでしまっている自分もいて、どう見たらいいのかわからない気持ちになった。(9月7日 新宿K’sシネマ ペルー映画祭VOL.3 224)
③ワルテル先生とキピの教室(Mision Kipi)
監督:ソナリー・トゥェスタ 出演:ワルテル・ベラスケス キピ 2024ペルー(スペイン語・ケチュア語) 81分 ★★
コロナ禍で学校に来れなくなった山間部などに住む生徒たちを心配した理科教師ワルテル先生は、古いラジオを修理しUSBを組み込んで作った教材ソフトを生徒たちに配って歩き、やがて廃材の石油タンク、古いラジオなどを利用して、そこに最新のAI技術や、ソーラーシステムを組み込んで作った女の子のロボット・キピ(ケチュア語で荷物・包みなどの意味らしい)を作り上げて、いろいろな共同体(村?)に出前授業をしながら、キピも村から学び、この地方のケチュア語や伝統的な行事や伝承を伝えていこうとする。ペルーには48もの先住民言語があり、それぞれの先住民の伝統的な行事などもあるのだが、同時に統治者のスペイン語が公用語ともなっていて、また伝統行事にもサンディアゴの名がついていたり、「聖体祭」だったりと後から来て支配したスペインの影響も根付き、文化的な複雑性をあらためて実感させられる。それらを文化的な差とせず総体的に伝えていこうとしている映画姿勢であり、教育姿勢?ワルテル先生もコルカバンバという一地方の小中学校の理科教師だというが、マサチューセッツ工科大学への留学経験もあるとかで、最新のAI技術をもっておとなにも講義しているような相当な知識人だし、コロナ禍では家で学んでいた子供たちも今や大学生になっているとは、上映後のオンラインで「舞台挨拶」をされたワルテル先生自身の弁でもあったが、それでも女の子の教育は後回しというムキもあり、このロボットは「少女」になっているとか、今やキピは50体にふえて50の学校で教育に従事しているとか、感動する話もいっぱい。(9月6日 新宿K’sシネマ ペルー映画祭VOL.3 223)
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| あまり画像はよくないが、ワルテル先生のオンライントーク。会場は残念ながらガラガラ?オンラインでは切符はけっこう売れていたが、夕方のせいか売れた空席も目立った。 |
②午後の終わり
監督:ジョエル・カレロ 出演:カテリーナ・ドノフリオ ルチョ・カセレス 2016ペルー・コロンビア(スペイン語) 81分 ★★
正式な離婚届をするためにリマの役所で19年ぶりに再会したクスコ在住のラモン(47歳)と、リマに住むラウラ(42歳)の元夫婦。ラウラは母からの不動産引き継ぎのために離婚書類のコピーを求めるが、彼女自身の遅刻にもより、判事は別の審議のために退席し、夕方4時半から5時でなければ戻らないので書類が必要なら二人にそれまで待つようにと指示される―時間的にはちょっとわからないところもあるが、こういう設定をして二人に数時間、話をする機会をつくる脚本の妙。さて、二人は最初は「川のほう」へ歩きながら、後半はタクシーに乗り、あるいはラウラ自身の車に戻るとちょうど車をこじ開け盗みをする青年に遭遇などと言う現場で、ラモンが観客にとっては思いがけない(ラウラにとってはやっぱり、まあ)行動をとったりで、警察の調べを受けたり、あれこれしながら結局午後いっぱいを共に過ごし、そこで過去の話、今のたがいについて話しながら、元ゲリラ兵士として政治運動を闘いながら、突然ラウラが姿を消したわけ、その後のラモン、など彼らがすごし、今もそれぞれに生きている19年
が互いにも観客にも明かされていく。セリフ劇で、かなり長回しの場面もあったりするが、81分という割合コンパクトな中で、うんざりしたり、驚いたり、過去の互いに再び遭遇したりという変化がぎっちり詰め込まれ、午後の長い時間を共に過ごしたような感じにさせる作劇術の妙に驚く。その中に19年間のペルーの人々が置かれた政治の変化の状況なども打つし出され、二人の現在の境遇の差と素に中での感覚差なども見えて、とても興味深いアート的にも完成度が高い作品だった。知らなかったペルーの現代都市人の姿。
(9月6日 新宿K’sシネマ ペルー映画祭VOL.3 222)
①遠い山なみの光
監督:石川慶 出演:広瀬ずず 二階堂ふみ 吉田羊 カミラアイコ 鈴木碧桜 松下洸平 三浦友和 柴田理恵 渡辺大知 原作カズオ・イシグロ 2025日本・イギリス・ポーランド(日本語・英語)123分 ★
台風15号来襲、午後は電車が止まっても困るので遠出は控え自宅近くの映画館で初日のこの映画をみることに。『ある男』⑰の石川慶監督の「料理」だが、映画comの解説には「ヒューマンミステリー」とあってなるほど!全体にゆったりゆっくりした流れでちょっとだけ前半では眠気も催したのだが、吉田羊と娘・ニキのカミラアイコのパートは全部英語で母娘それぞれがちょっと変わったインパクトというかアクセントになっているのと、戦後部分の悦子と佐知子のつながりというか重なりを映画らしいビジュアルでいわば「種明かし」的に出していて、まあ観客の目を開いているのだと思われる。引っ越しを考えている80年代イギリスの悦子の家には写真などはともかく古い牛乳箱とかが残っていてちょっと安直な気もするが映画的なわかりやすさではあろう。カズオ・イシグロ作品って目から入る光の明るさというか色合いというかに独特なものがあるようで、『日の名残り』(1994ジェームス・アイボリー)とかとも共通するような色合いというか光の間合いがこの映画にも満ちていて、ゆったりとしたペースとともに戦後のナガサキ(あくまでもカタカナ書き)の世界に引き込まれる。(9月5日 府中TOHOシネマズ 221)



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