第21回大阪アジアン映画祭2025(8・31~9・4)
ABCホール傍のインド料理店の壁にはなぜかネパール・マチャプチャレの絵が飾ってあるのを発見!
①ミルクレディ②あなたを植える場所③ウィービング④まっすぐな首⑤息子の鑑⑥その間
⑦私立探偵(私家偵探)⑧私たちの意外な勇気⑨世界日の出の時➉紅い封筒⑪万博追跡
⑫進学を拒絶した人生⑬さようなら17歳⑭ワン・ガール・インフィニット⑮寒いのが好き
⑯浅浅歳月⑰ドラゴン・スーパーマン(神龍飛侠)
万博開催にあわせて今年2回目になった大阪アジアン映画祭。真夏は原稿書きも推しているし、山もシーズンだし行けるか?いけるか?と最後まで悩みつつ、やはり行ってしまった。チケットは万博とは違って?割合と取りやすく、それでも暑いからあんまりプログラムを詰め込むのは避けて、短編も含め17作品。楽しんできました。
これは大阪に息子が住んでいて宿泊場所が確保されていることにもよるので、THANKY0U!MY SONです。
①ミルクレディ
監督:宮瀬佐知子 出演:原ふき子 市原茉莉 金谷真由美 佐藤岳人 2025日本 19分
牛乳販売店の販売員たち。そろいの制服で(中年だが高校生の制服みたい)自転車に乗り街にでる。上司は親の力で所長に居座ったという男だが所員に下らない圧迫(これが案外迫力はないのだが、やられる方はイヤだろなと言う描き方)を加える。さあ、いかにリベンジするか。いつも明るく元気よくのリーダー格でう柔道を習う、うまくやってるように見える中年の胸のすくような?陰惨にしてシュールなリベンジ、新手の?フェミニズム映画だ。
(8月31日 中之島美術館 短編プログラムA 204)
②あなたを植える場所
監督:ホ・ガヨン 出演:ソックイ ペク・ソンヒ 2025韓国 17分
魔女としてこれも世間に圧迫されながら、娘を半植物人間として大きな植木鉢の中で育てる女。娘に請われ、最後は彼女を自然に返すことにする。ビジュアル自体はまあ想像できる範囲の平凡さではあるが、発想は妙。人が本当に自分らしく生きられる場所ってどこなんだろうと10数分のうちに考えさせられる「筆力」はなかなか。(8月31日 中之島美術館 短編プログラムA 205)
③ウィービング
監督:チェ・ミンジ 出演:ソックイ パク・ジョンイン キム・テヨプ 2025韓国 27分
ボクシングに励む女の前に現れた美しい同僚。教えを請われともにボクシングをしながら揺らめく心。愛と闘いの共感というか、テーマとしてはガールズラブ?の定番みたいな感じで新しい発想はないようにも思うが、とにかく画面が、人の姿も色も、ボクシングの試合の場面も含めてくっきり鮮やかに美しい。それだけでも見るに十分価するというか、堪能した感じもある27分だった。②に「母」として主演したソックイが、こちらも全然違ったタイプの女性を熱演。挨拶に出た彼女はむしろ楚々とした感じもある小柄な人で寡黙でもあり…(写真)(8月31日 中之島美術館 短編プログラムA 206)
短編プログラムAの登壇者/中央の小柄なソックイさん
④まっすぐな首
監督:空音央 出演:安藤サクラ 2025日本・中国 10分
ロカルノ映画祭の正式出品作となったことが話題にもなった空音央作品。安藤サクラのほぼ独り舞台という感じで、ウーン。ワイルドかつ繊細という雰囲気はさすが。歩道橋から落ちたり?水辺で寝そべったり。話はともかく場面ばかりが眼と記憶に残っている。「首の痛みに悩む」女性が主人公だが、こちらも見ている最中左脇の痛みを抱え、安藤の痛みの表現演技に共感してしまった。上映後トークにはプロデューサーが登壇。(8月31日 中之島美術館 短編プログラムC 207)
⑤息子の鑑
監督:野原位 出演:津田健次郎 吉岡睦雄 中山真悟 2025日本 25分
こちらも最近露出度高い津田健次郎主演作品(息子の養育費に苦しむが、他に特に際立った特徴があるわけでもない配送会社社員)。配送品が壊れたとのクレームに上司ととも客の家に出向き、そこでちょっと特異な?育ち切っていないような性格を見せる、壊れた品をアート作品として手掛けている「息子」に出会う。この息子とクレーム客である父との関係が徐々に見え、二人の配送会社員が彼らをうらやむというか、子どもとの関係にちょっと希望を出すみたいな展開がなかなかユニークにして繊細な感じで描かれて「納得」させられる。女性が一人も?出てこない作品だった。(8月31日 中之島美術館 短編プログラムC 208)
⑥その間
監督:アマル・ファウジャダール 出演:アニンディタ・ゴーシュ ソムナート・モンダル
2024インド モノクロ54分
監督はコルカタにサタジット・レイを記念して作られた映画学校(SRFTY)の卒業生で、その映画学校?のオリエンテーション過程に参加した、いずれも社会人ーエンジニアの男性と、既婚の女性が知り合い、互いの合否が分かれてすれ違っていくまでのひと夏を描く。モノクロ映像、今の時代っぽくない若者風俗、映画のテンポとか、これはやはりサタジット・レイを踏襲しているわけで、雰囲気は見た途端に伝わってくる。プログラム解説によれば『臆病者』(1965)の世界らしい。8月末文化村でやっていた「サタジット・レイ特集」の『臆病者』はどうにも時間が取れず見られなかったが、見ておけばよかった…と思った。
(8月31日 中之島美術館 短編プログラムC 209)
右から『まっすぐな首』プロデューサーのシャオさん、『息子の鑑』息子役の中山真悟さん、話しているのが野原位監督
⑦私立探偵(私家偵探)
監督:ジョナサン・リー(李子俊)周汶儒 出演:ルイス・クー(古天楽)クリッシー・チャウ(周秀娜)劉冠廷 レイモンド・ウォン(黄浩然)レンシ・ヨン(楊偲泳)2025香港(広東語・華語)103分 ★★
前売りオンライン発売の時には、挑戦し続けるも5,6回座席をおさえ手続きに進もうとすると「この座席は他の方が買った」との表示ではじかれて発売から5分で満席に、結局買えなかった…のだけれど、今日見てみると、当日発売の残席が若干残っている、というのでABCホールの窓口に行ってみたら、残席約10席?まだあって、ちょっと後ろだがまあまあの席を確保。急遽参加したホンコン・ナイトの一作。セレモニー後の上映。登壇した監督の一人、若いチョウ・マンユウが、「クライムサスペンス」というだけでなく「愛について」描いた作品だと強調していたが、ナルホド。マレーシアで浮気調査や犬探しなどしょぼくれた私立探偵事務所を営む主人公のもとに偶然持ち込まれた3件の浮気調査は、いずれも男性が持ち込んだ浮気したり失踪したりした女性についての依頼で、そのうち一件はなんと探偵自身の妻の浮気相手が彼女の浮気を疑って相手を探してほしいと持ち込んだもの(えー!黙って引き受ける主人公もなんかまあ、とここまでは思うわけだ)。一方である女性が無残に殺される事件が起こり、ここにかかわっているのがいかにもわけあり気な刑事(これは『1秒先の彼女』『オールド・フォックス』の劉冠廷。優しげだがわけありげというのが似合う役者だ。さてこの殺人事件と3つの浮気調査が実は絡み合い、なかなかすさまじい愛憎のというよりは愛のクライムサスペンスが成立するという、全然カタルシスは感じられないのだが凝った展開をするというウーン、通好みかもね。香港映画というが資本はマレーシアもタイトルバックに寄れば中国企業もたくさん名を連ねているし、出演者も香港人のみならずマレーシアの多元化を象徴するような多元化で、それってこれからの香港映画の方向性をしめしている?もう一人の監督ジョナサン・リーによれば香港人の「外へ向かう」意志だというが、まあ香港内部では描けない状況があるのだとも思われる(この映画、警察内部の犯人=ネタバレ失礼)が登場するが、そのこと自体が香港では(実は日本で撮影する意図も最初はあったらしい。しかしさる日本の有名俳優が「日本の警察にはそんな犯罪者はいない」と言ったとで場所が変更になったとか)撮影できない窮屈さにつながっているのではと思わせられる節もなくはない。ただ、まあ粘れ粘れがんばれがんばれとは思わせられるような、じっくりした作品に仕上がっているのはよかった!(8月31日 ABCホール 香港ナイト スペシャル・フォーカス・オン・ホンコンEXPO2025 210)
ホンコン・ガラ・スクリーニング/香港政務局長と両監督/司会は宇田川幸洋氏のトーク
⑧私たちの意外な勇気
監督:ショーン・ユウ(游紹翔) 出演:レネ・リュウ(劉若英) 薛仕凌 李霈瑜 呉念軒2025台湾 111分
敏腕芸能マネージャー(45歳)とCMディレクター柏然(32歳)のカップル。それぞれに活躍しながらも柏然は年上のパートナーにとってはちょっと頼りなく、彼女に甘えてもいる…。年の差もあり二人は結婚には踏み切れずにいた。そんな45歳の誕生日彼女の妊娠4か月が判明、しかも前置胎盤とかで出産まで絶対安静の入院生活をしなくてはならなくなるという話。レネ・リュウは出演場面の8割がベッドに横たわり、9割までが病院内の描写。シュエ・シーリンはオロオロ悩みつつも彼女を愛し付き添いながらだんだん自身も成長していく男を好演。『1秒先の彼女』⑱のリー・ペイユーが、不妊治療を受け双子を妊娠するも…という保育士役。友人の結婚式(これが同性婚であるところも台湾らしい)に招かれた柏然はその実況動画を病床の彼女に送るがその最中、突然の急変、そして…。此の物語は実は監督自身の実体験がベースとかで、エンドロールには「彼女」と15歳になった息子の「勇気」の姿も映し出され、感慨を呼び起こすような仕組みだが…ウーン。医学が進歩した故に成立した物語かな…というのは意地悪な見方だろうか。(9月1日 ABCホール コンペティション 211)
⑨世界日の出の時
監督:祝新 出演:王科 陳燕 王音潔 周佳琦 馬越波 2025中国 101分
「人類の祖母」と言われる320万年前の最初の「人」ルーシーの「言語」について研究する大学院生馬科(マーコ―)、1人暮らしの彼をリンゴをもって訪れては世話を焼く母は、あるとき彼を梅嶺鎮?なる村に買ったという古い家に連れて行く。ことばの全く通じない土語(方言)のこの村に馬科は疎外感を感じる。馬科の指導教員の李教授は彼の研究に懐疑的だが、ある時いなくなった飼い犬を探すと称し、馬科を伴って犬のために林にリンゴを捲くが、実はいなくなったのは犬ではなく彼女の娘であった…。馬科の母は重い病を患い、梅嶺鎮を訪ねた李教授は馬科と瓜二つの男を仲立ちに不思議な老人に出会う…とここまで書いてきて自分が本当にこの物語の筋を追えているのかがわからなくなってきた。何しろ画面は一貫して薄暗く、主役の馬科はお世辞にもイケメンとは程遠く、彼の母子関係もなんか我儘なマザコン男とその母という感じを免れ得ず、作り物っぽい毛皮のルーシーまで登場して、話はどこに行くのか、ーまあ、満たされない母の愛とか、親子のコミュニケーションの齟齬とかがテーマになっているのかとは思うのだが、残念ながら「映画祭向きすぎて」?全然楽しめず。母子関係を描いたという点では『西湖畔に生きる』10-45なんかを思い起こさせるような鬱陶しさがあるが、あちらはまあ主人公がイケメンだったから何とか我慢できたが、こっちは悪いけどダメだわ…(9月1日 ABCホール コンペティション 212)
Q&Aの登壇は自らルーシーも演じたというプロデューサー氏(中央)。「監督が何を考えているのかわからない」という発言も…
➉紅い封筒
監督:チャヤノップ・プンプラゴーブ 出演:ビルキン(プッティポン・アッサラッタナクン)PPクリット(クリット・アンムアイデーチャコン)2025タイ 128分 ★
映画は『僕と幽霊が家族になった件』③(2023台湾 程偉豪)のタイリメイク版、ビルキンは3月の大阪アジアン映画祭『おばあちゃんと僕の約束』④(2025タイパット・ブーンニティパット)に続いて2回目のこの映画祭主演作品で、そういう意味では新味はない?が、イケメン二人が並んでコミカルに演じつつ、陰惨な(タイの冥婚は台湾以上に陰惨かも。なにしろ台湾では埋葬前の棺を開いて死者の髪の毛を切ったのだが、こちらは墓を掘り返して暴くのだけでも、うわ、タイっぽい)冥婚を明るいノリで描く。しかも先にグレッグ・ハンが演じた警官役は、よりイケメンナンパっぽい?PPクリットで、それに合わせて彼は万引き前科のある警官希望の潜入捜査員というなんかありそうでなさそうな役回り、彼のあこがれの女性警官はなんと悪役(ネタバレ失礼)だし、ウーン、見かけの明るさに反する設定の暗さはこれもまたタイ風ということかしらん…(9月1日 ABCホール コンペティション 213)
⑪万博追跡
監督:廖祥雄 出演:ジュディ・オング(翁倩玉) 馮海 1970台湾(2025 2K レストア版 中国語)97分
1970年万博を舞台に、日本生まれの台湾人雪子の因縁の恩人(実は…)探し。協力するのは恋人の藤本哲雄で、雪子は万博台湾館のコンパニオン、哲雄は食堂?の従業員として万博に職を得て、仕事の合間に、一度会ったきりあってはもらえない恩人?山崎を探して万博の書くパピリオンを駆け回るという、前半はほぼ観光映画の様相。今回2025年の万博では正式な出品を認められていない台湾が当時は中国の代表として「中華民国館」を設営出品し、黄色いドレスの女性たちが台湾から日本から案内役として勤めていたというのもなんか50年、隔世の感がある。観光映画的ビジュアルとしてはきれいに撮れてはいて、当時(今もかな)「そんな国策行事なんて…」と見向きもしなかった70年万博の全貌?をみられたけれど、もっとも解説らしい解説などはほとんどなく。雪子と哲雄が腕を組んで会場を駆け回るだけ。
後半、会場で偶然見かけた山崎と連れ立っていた台湾人と知り合う機会を得て、その伝手から、雪子の父の死に絡んでいるらしい日本人を追って雪子と同僚たち、哲雄は日本の地方に出かけるというわけで、今度は国内規模?の観光映画になるわけだ。そして途中、戦中の大陸・上海での雪子の父の受難とそれに絡んでいた人々が明らかになり、なんだかトンデモない展開の日本人加害者劇とその反省・贖罪へと話はご都合主義的に進むのでびっくり!映画中何回も「蒋介石のおかげで今日の台湾がある」みたいなセリフが流れるのも、ナルホドね。現代だったらとてもではないけれど作れない映画だろうし、それをあえて2Kレストア版にした台湾文化部と、大阪の開幕作品(日程の都合でそちらでは見られず)にした映画祭に快哉を叫ぶべき?舞台は日本だし、きちんと和服(らしく着ている)や日本家屋に住む70年当時の中年日本人もたくさん出てくるけれど(エキストラはいざしらず)多分役者はほとんど台湾人、セリフは吹き替えもあるのかもしれないが国語(普通話)。ジュディ・オングは昔子役時代に4か国語ペラペラとか聞いたような気もするが、この映画ではきれいな普通話をしゃべっている。出だしは彼女のワンマンショー?の体裁で始まるのもなるほどねのアイドル映画だが、脚本・セリフはちょっと学芸会レベルを思わせるような…あ、ちなみにタイトルロールなどの横書きはすべて右から左へというのも昔っぽい。(9月2日 テアトル梅田 214)
⑫進学を拒絶した人生 2Kレストア・ディレクターズカット版
監督:徐進良 出演:彭雪芬 王復室 2025(オリジナル1979)台湾(華語)94分
オリジナルは1979年というから、そんなに古いわけでもない。原作は当時21歳だったという呉祥輝の小説。脚色には若き呉念真も参加し、監督は当時30代後半に入ったくらいで全体に若い人々の創った作品のはず?だが、そして出てくる高校生たちの日常風俗もまあ当時を思い出させて納得、なのではあるが、しかしこの高校生たちの馴れ合い方のなんともオジサン臭いのに辟易という感じ。当時見ていたらアホくさくて最後まで見ていられないとなったのか、あるいは案外共感できたのか、すでに当時の自分の感情さえも遥か彼方に感じさせられるような作品ではあった。原作者と同名の呉祥輝=級長は勉強もラグビーも優秀活発で、友達の信望もあり、顔もまあイケメン、ガールフレンドもできて順風満帆というところだが、なぜか大学受験に疑問を持ち、統一入試を受けることをやめるーこの流れが映画の中心テーマのはずだが、セリフ劇で全然アタマに入ってこず、いつの間にか爆睡?成績の下がったガールフレンドは母の怒りと嘆きに会ってボーイフレンドと会うことを断念、受験に専念することに。そして主人公は親にも受験をやめたこと言わず、級友たちの受験のバックアップをし、皆が試験にそれなりの成果を上げた後は兵役に就く(大学に行かないと兵役が免除または延期にならなかったということか)。大人の目から見ると(いや、見なくとも)なんともあほくさい、坊ちゃんの道楽に見えてしまうのだが…ウーン。その前貧しい、大学に行くことが社会的な上昇につながると信じられた時代が終わった1970年代終わりの台湾の世相を描いたということだろうな(日本で言うともう少し前?ちょうど私たちの青春時だ)。(9月3日 テアトル梅田 台湾電影ルネッサンス 215)
⑬さようなら17歳
監督:辛奇 出演:何玉華 藍琦 洪洋 李鵬 素珠 2025(オリジナル1969)台湾(台湾語)モノクロ 91分
目張りくっきりの濃いメークアップの悪役母娘と、楚々たる風情に作ったヒロイン母娘の間に立つかつての恋人、今や悪役側と結婚している社長の父というまあなんというか典型的な母娘2代にわたる恋のメロドラマ。悪役側現在の妻の画策というか陰謀で恋人には死んだと思われ、残された娘を女手一つでそだてて来た母は、ひょんなことから娘を介してかつての恋人に再会するが…。娘も卒業を介して(ってまだ17歳だろ?)偶然にもその男性の甥と恋仲結婚をしたいと願っているが、甥っ子は母の恋敵だった現妻の娘と許嫁?とまあぐちゃぐちゃの中でーでも案外娘たちの風俗付き合い方考え方は「現代(70年ごろ)」風で、やけになって飲んだりダンスに行って図式通りに男に襲われたり、そのへんのアンバランスが現代の目で見ると結構奇妙だがーウーン。ローカル色漂う台湾語映画の域を踏み出し現代(当時)の若者の観客も視野に入れた現代劇志向だそうだが、ナルホドね。確かに当時の現代はこうだったのかもとも思わないでもない。(9月3日 テアトル梅田 台湾電影ルネッサンス 216)
⑭ワン・ガール・インフィニット
監督:リリー・フー(胡嘉頴)出演:陳宣宇 胡嘉頴 陽博 2025アメリカ・シンガポール・ラトビア(中国語) 100分 ★★
アメリカで学んだ若い女性の監督が、アメリカ時代の恩師エリック・ロス(『フォレスト・ガンプ』などの脚本家)をプロデューサーに、撮影監督はこれもアメリカ時代の学友ということで、中国・長沙を舞台にしながら製作・出資も中国抜きというガールムービーに自ら主演、裸もトイレシーンもセックスシーンもあり、でありながらさすが美しく撮れている、ウーンなかなかの作品ではあった。親もなく「家族」は監督演じるトントンのみと慕うインジャーはトントンの家に住み、万引きをしたりしながらトントンを慕うのだけれど…。赤毛にこれも家はあっても根無し草の暮しのトントンは、薬物を介して元締め的立場?にいる御曹司?の青年と知り合い、彼とともにアメリカに行くことを夢見る。なんとかトントンのアメリカ行きを阻止しようと自らの身を投げ出すトントンというわけで、まあ考えてみれば無軌道、バカさ加減もほどほどにという大人センスから見ればどうしようもない青春映画ではあるが…。意外に魅力的な登場人物の雰囲気(ドラッグディーラーの不良青年も含め)、遠距離で俯瞰するような長沙の街の雰囲気、邪魔にならずかといって時に煽情的でもある音楽と、アート的には完成度が高い作品に仕上がっていることもあり、彼女たちの青春のヒリヒリのやるせなさは案外よく伝わってくるのであった。わりと真面目少女のビジュアルのインジャーの造型がいいのかもしれない。あとは監督の体当たり演技も…。とはいえ、これってガールズムービーなのであまり感じさせないけれど、男と女であったなら、観る気にもならん痴話げんかムービーかなあ。上映後のトークは撮影監督のショーン氏。(9月3日 ABCホール コンペティション217)
⑮寒いのが好き
監督:ホン・ソンウン 出演:パク・ユリム パン・ウンギ キム・テゴン 2025韓国 107分 ★★
登壇した監督とプロデューサー、二人の女性によれば、この映画は韓国の国家人権委員会が2003年から続けている人権映画プロジェクトの第16作として作られたものだそうで、コロナ禍を経てパンデミックの中での感染者の人権問題に触れたという事らしく、さすがに芯の通った娯楽作品として仕上げる韓国映画の力を感じさせられる。30代コロナ禍ならぬ人がゾンビになるというパンデミックが4度目の終息を迎えようとしている、いわば近未来の韓国。ゾンビ掃討チームの契約社員だが、パンデミックの終息により職が危うく、また彼女を支配しようとする身勝手な恋人にもほとほと嫌気がさしているナヒは街に隠れる記憶は失っているものの理性のあるゾンビの青年に助けられ、低温で生命?を維持できるゾンビの彼を助けて冷凍車などを手配してアラスカに向かう船の出る釜山に向かう。その過程で知り合った(冷凍車の持ち主でもある)ゾンビを助けようとする青年、逆に掃討の先頭に立とうとするその姉、もともと聴覚障害があったらしいゾンビ化した女性ーゾンビ化はさまざまで理性を保つものもそうではないものもいるらしく、また記憶の在り方も様々、ただ寒さを求め暑いと腐るなどは共通して、「健康人」からは忌み嫌われるというような存在として、まさに人権というものを、生きる権利というものを考えさせる存在として描かれ、そこにかかわることによって目が開かれていく女性ーいわば自分の苦境とゾンビの苦境にも共感できるようになる人びとの一人ーとして描かれていくところがなかなか秀逸。姉に撃たれて死にそうになった支援者の弟は特別な方法によって命が救われゾンビになってアラスカへ。そして3年後ゾンビ化を直すワクチンが開発されめでたしめでたしの恋物語の成就まで、ナルホドね、よくできている。(9月4日 ABCホール コンペティション218)
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監督(左)とプロデューサー(右)真ん中は通訳さん |
⑯浅浅歳月
監督:ドロン・シウ(肅冠豪)原作・脚本:謝淑芬 プロデュース:フルーツ・チャン
出演:セシリア・イップ(葉童) 謝君豪 ヴァノラ・ホイ(許月湘) ヒミ―・ウォン(黃定謙)2024香港 109分 ★
90年代、香港から大陸にわたり起業した男性の中には大陸の女性を妻や、愛人にした人が少なくなかったのだという。幼馴染で結婚したチンファンとケイツァンもそんな夫婦で、ケイツァンは愛人を作り子どもも生まれて、チンファンは離婚を決意、二人の子供を1人で育て、退職を迎える。文学を勉強したりダンスを習ったりのチンファンの退職生活あたりは、よく言えば等身大に描かれているせいか、いささか退屈で寝てしまった気がする。そのうち元夫のケイツァンが病に倒れ香港で入院、現妻と小学生になっている一人息子もともに香港にやってくる。後半はケイツァンの療養中の病院に現妻と元妻がともに詰めて火花を散らすというか…その合間にいて悩むケイツァンとかの丁々発止を喜劇味も込めて描き、元妻でともに香港で育った幼馴染同士の立場から、病院を抜け出した元夫を現妻よりも先に探し出してともに幼い時のようにアイスを食べながらトラムで人生を語るみたいなしみじみと香港人同士の共感を語るみたいな場面もあってじんわりさせるし、主題歌はなんと「雪中情」(さすがにレスリーの声ではなかったが)でなんとも煽情的にはつくっているが…。そもそもどうしようもない男を元妻が許して愛し、現妻が押し出されそうになりながらも自己主張するというような構図は、なんていうか受入れられないよな〜と思いつつみる。香港人の元妻と、自己主張も強い大陸人の現妻の関係に現在の香港と中国の関係を投影?しているのかもしれない。全編アイフォンで撮ったとか、葉童が今までと違ったノーメークの自然体演技をしているとか、見どころはあるのだけれど、とにかくそこに流れる思想が「男の子バンザイ」じゃないの?という思いから離れられない。(9月4日 ABCホール コンペティション219)
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ドロン・シウ監督(中央) |
⑰ドラゴン・スーパーマン(神龍飛侠)
監督:小林悟 卲寶輝 出演:桂治邦 柳青 呉敏 白沙 頼徳南 2024(オリジナル1968)台湾・日本(台湾語)モノクロ 90分
台風15号が来る!というので、予定を1日繰り上げ今日中の新幹線に乗って帰ることに。この映画どうしようかと迷ったのだが、「どんなものか…」と一応確認だけはすることにした1968年の台湾。日本合作映画。50年以上前の映画だから古いと言えば古いのだけれど、でも例えばこの時代のフランス映画もイタリア映画も、小津や黒沢明も市川崑も、もちろん本家『スーパーマン』もここまで古臭くはないんじゃない?という、驚きのB級娯楽映画で、晩年の日野正平氏をデフォルメしたような仮面をつけた宇宙団とかいう悪役集団に、可愛いと言えばかわいい感じもする新聞記者が変身するスーパーマン(これは本家と一緒か…)が立ち向かい、インカ帝国のダイヤ(金ピカのランプ台も一応出てきた。文字のないはずのインカの古代文字というのも(笑))の争奪と美人姉妹…ガス室で殺されそうになったスーパーマンがなぜか助かって次の場面で活躍とか、まあマンガ原作だから仕方ないが、ご都合主義的な展開にむしろ笑い。というわけでおよそ2/3のところで時間も気になり珍しく退席。聞いたところによれば最後は「つづく」で終わるらしい。まあいくらでも続けられそうな話ではあるが。まあこういう作品が見られるというところが映画祭の楽しみではあろうが。
ちなみに、これらのレストア作品の宣伝短編(台湾文化部製作)が毎回上映されて、これはなかなかの工夫作で、最初に見た時はちょっとびっくりしたが、おもしろくみた。(9月4日 テアトル梅田 台湾電影ルネッサンス 220)
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