【山形国際ドキュメンタリー映画祭】2025年10月完成版 



隔年の山形、今年も来ました!会期後半の12日~16日まで。フリーパス13000円(公式カタログ付き)を買って。「映画三昧」の5日間、見た映画は13分~30分の短編も含めてですが、19本で、ま、しっかり元は取りました。見た映画の速報してきましたが、最終日16日には受賞作品のうち見ていなかったもの4本⑯⑰⑱⑲を追加して完成版として更新しました。もちろん時間の都合と好みに合わせて「見た映画」だけ…ですが…そして、なぜか私の見た映画があまり受賞しないというジンクス?は今年もだったのですが…(映画祭の好みと自分の好みが相当食い違っているというのは、感じないでもないのではありますが)


①ハワの手習い ②撃たれた自由の声を撮れ ③ダンシング・パレスチナ ④3350キロメートル ⑤ハキシュカ   ⑥烤火房プラーハンで見るいくつかの夢 ⑦髪と紙と水と ⑧Below the Clouds ⑨彷徨う者たち  ➉時は名前を持たない ⑪日泰食堂 ⑫だれかが歌ってる ⑬左手に気をつけろ   ⑭映画の都 ⑮ミラーワークス   ⑯ダイレクト・アクション   ⑰木々が揺れ、心が騒ぐ   ⑱炭鉱奇譚 ⑲ガザにてハサンと

 

各映画アタマにつけた番号は「10月に見た映画ーYDFFで見た映画」となっています。末尾は今年になって劇場で見た映画の総数です。 
★はナルホド、★★はイイね!、★★★は見てよかった! という個人的感想です。

㉔-⑲ガザにてハサンと
監督:カマール・アルジャアファリー  パレスティナ・ドイツ・フランス・カタール 2025 106分


1989年当時反政府運動にかかわった友人の誘いにうなずいたばかりに7ヵ月刑務所に収容された主人公。そこで知り合った友人を訪ねて2001年ガザに入る。映画は基本的にこの時、ハサンという同行とともに歩いたガザやその周辺の、イスラエルの爆撃におびえる人々などの姿を描いているのだと思う(時系列がよくわからない。しかし今のニュースで見るガザの廃墟のような状況までは行ってないみたいなのでやはり2001年の映像?)。画面は揺れるし、乱れるし決して安楽にみられるという感じではないのだが、それゆえに迫力はまああるといっていいのかな…。子供たちが寄ってきては「写真を撮って」というのとおとなは「写真を撮るな」というのが何で、こうなるの?という感じだった。
(10月16日 市民会館大ホール インターナショナルコンペティション 最優秀賞山形市長賞 254)




㉓-⑱炭鉱奇譚
監督:宋承穎(ソン・チョンイン)、胡清雅(フー・チンヤー) 台湾(台湾語・国語)2024 30分


炭鉱の町侯硐(今は猫村としても知られている)の70~80代の元炭鉱夫たちの語る「怖い話」といっても「こんなところで死にたくない」と事故の救援に行かなかった炭鉱夫が1か月後に崩落事故で死んだ、というような厳しい労働環境の反映みたいなエピソードが多かったが、ウーン、画面と話はリンクしていないし、画面は暗いし、話もエキサイティングとは言えないし、かったるい映画ではあった。若い作者は「歴史を語る」とか言っていたが…。ウーン。
(10月16日 市民会館大ホール アジア千波万波でん六賞 254⑰と併映)

㉒-⑰木々が揺れ、心騒ぐ
監督:イ・ジュン 2024韓国 40分


最初の紅葉のソウルの貞陵渓谷、そこの寺?で膝まづいて祈る二人の若い女性の映像には、映画的期待でぐっとひきつけられたのだけれど…。再開発で立ち退きを迫られているこの渓谷の住人達、特に祖父母?に焦点を当ててインタヴューと自然描写で描いているのだけれど…なんか人の描き方も自然描写もちょっと中途半端な感じで、ゴメンナサイ!心にあまり響かない感じでボーっと見られてしまうのは私の方に問題があるのかしらん?アジア千波万波、奨励賞(山形新聞・放送賞)作品ではあるのだが…(10月16日 市民会館大ホール アジア千波万波奨励賞 254⑱と併映)

㉑-⑯ダイレクト・アクション
監督:ギョーム・カイヨー ベン・ラッセル 2024ドイツ・フランス・韓国 212分 ★★


環境破壊に反対するフランスのアクティヴィストたちが物理的に占拠した空間。そのZADのコミュニティで営まれる自給自足生活の断片が、息の長いショットで撮影される。材木の切断、畑を耕したりパンを作る労働、さらに庭で子供の誕生日を祝い、大人がチェスを愉しむ様子などにもカメラが向けられていく。牧歌的にもみえるその営みが、しかし、彼らの直接的抗議行動でもあるのだ。農村での暮らしを紡ぐ人々の手は、水道の民営化に反対するデモ隊の手となって警官と衝突し、仲間たちを溝から引き上げ、助ける無数の手にも変様していく。
以上は、映画祭のこの映画紹介の文引用。まさにその通りなのだが、一つ一つのシーンの長さ、パン作りは粉と水を混ぜ合わせ、手でこねそれが粘りをもってパン生地になるまで。種まきシーンでは一本の畝に沿って、数えていたら50個の種を埋める繰り返しがワンシーンで撮られている。チェスも勝負の後半ぐらいからずっと追ってチェックメイトで勝負がつくまでだし、遠くの道から動かない子牛をを追って草原に追い込みロープを張るまでのワンシーンとか。大きなクレープ(直径40センチ?)を焼くシーンでは10枚並んだプレートに油を敷き種を伸ばして3枚ずつひっくり返して10枚焼き上げるまでを2周り近く。非常にフツウの日常生活を追っているが、ただこの場面の長さというのは、昔から伝統的に続いてきたものというよりは、意志的意図的に選ばれた生活を送っている「現代人」―環境に関して強い意志をもって生活を選んでいる人々という感じがする、そんな長さで画面の明るさが際立つ。一方大きな草原で大規模に展開するデモの場面なども延々と畑の中の大きな溝を乗り越えるのに助け合う人々の姿を延々と何百人?にもわたって撮り続けるとか、そういうところには同じような意図が見えるがその畑を覆っていた霧ーいや空砲弾の煙?が晴れると装甲車みたいな警察車両の列が見えるとか、そういう衝撃的な描き方も、場面の切り取り方もなんか、さすがの上手さという感じ。中盤1時間半にたった3分間の短いインターミッションがあるのは?ご愛敬?そして映画の終わりには記者のインタヴューに答えてこの運動の意義や広がりをきちんと語る運動のメンバーの女性たちによってみごとに、それまでの映像をまとめているところもなるほどね、という感じ。長さを感じさせないわけではないが、その長さを意外に楽しめる映像や人々の(顔はあまり出てこないが)手や体の表情などの描き方が秀逸なのだとも思われた。映画祭大賞受賞作としての上映を見る。(10月16日 中央公民館インターナショナル・コンペティション 253)

⑳-⑮ミラーワークス’89山形市中央公民館
構成:大江悠太 2025日本 28分

89年第1回の開会式メディア?として、会場の山形市中央公民館ホールで若い小川プロの面々が小川紳介の演出でミラーワークスという鏡を使った合成撮影での撮影シーンを実況的に撮った現場記録(Hi-8ビデオ)を画質改善し、再構成した短編。興味深い映像だけれど、なんかこの映画祭の技術主義的ードキュメンタリー映画はカメラや撮影技術の変化によって他のドラマ映画以上に大きな影響を受けてきたのだと感じるー側面ばかりが強調されているような気もした。(10月15日 フォーラム5 252⑭と併映)

⑳-⑭映画の都
監督:飯塚俊男 1991日本 16㎜ 99分

1989年第1回のYIDFFの記録で、91年に製作されたものを4年前(2021?)にデジタル化したそう。89年当時、開催前に市内の小学生のマーチングバンドが歓迎演奏の練習をするシーンから、航空機、バスを乗り継いで山形入りをする各国の映画作家たち、バス車内のインタヴューや、各上映後のトークのシーンとかもたっぷりで、小川紳介とアメリカ人監督のバトルっぽいと言ってもいいほどの討論的なシーン、そして当時上映された様々な映画の断片や、参加作品のリスト(田壮壮『盗馬賊』、陳凱歌『黄色い大地』がドキュメンタリーとしてノミネートされているのに驚いた)などなど。後半は各国の作家たちのパネルディスカッションで、マレーシアやフィリピン、韓国などの作家たちがこもごもに自国のドキュメンタリー映画の不調というか、そこにかかわる自分たちの孤独を語る。最後にアジアのドキュメンタリー映画の発展のために協力しようと声を掛け合う場面までー小川紳介が最後に若い作家たちをほめ、励まし伸ばすような映画祭でありたいと述べて映画は終わる。なるほど、このころまだ私は、小川紳介くらいは聞いたことはあったが、見たのはずっと後で、幼い子育ての真っ最中でドキュメンタリー映画までは手が回らなかったーこの年の作品では先の中国映画の他に何本か、特に『老人の世界』の足の悪い老人がいざりながら動物の世話をするシーンはそのずーっと後にどこかで公開されたのを見たなと思ったくらいーなので、ただただフーン。そうだったんだと、感心するばかりではあったが、映画のあとのトークでこの年『家族写真』という映画でコンペに参加した監督(手塚氏?)から、当時の山形は1000万の賞金を出すほどお金があった―日本の経済状況(バブル?)の元で他のアジアとの間で格差が大きかったこと、山形がフィルムの映画しか認めていなかったことがアジアの作家の参加を阻んだのだという発言があり、確かにその後ビデオ作品がどんどん出来る時代に中国のセルフ・ドキュメンタリーがはじけ、王兵なども出てきたのだとするなら、うなずけることもあるなあと思う。いずれにせよ、そろそろ40年(次回で20回だそう)のYIDFFを見直していく時期なのだろうとは思わされた。ーこの映画に戻ると前半89年第1回の立ち上げ記録のような感じから後半アジアドキュメンタリーの不調に話が行ってしまう「ねじれ」のようなものも感じられ、手作りで意欲・熱意が先走ったけれど、ウーン。理念的にはどうなんだろうと思わせられる部分もなくはない…(10月15日 フォーラム5 252⑮と併映)

⑲-⑬左手に気をつけろ
監督:井口奈己 出演:名古屋愛 北口美愛 松本桂 細海魚 2023日本 43分

⑫⑬はドキュメンタリーではないが、今回「アジア千波万波」の審査員として招かれた井口監督の作品として特別上映。名前は知っていたものの未見だったので見ることにしたのだが。多分コロナパンデミックを機に作られた、左利き、12歳以上だけがかかる感染病の撲滅に子ども警察が出動し左利きとわかった大人を拘束する(拘束してどうするんだかは??)20XX年の日本が舞台…というんだが…。まあ、物語自体はいなくなった姉を探してあちこち訪ねていく妹の話で⑫に出てきたカフェも訪ねていく先、そこで出会う女性とまたまた偶然会うとか、彼女が左利きらしいとか、つながりはあり、見覚えのある「下高井戸シネマ」やそのあたり?の道なども出てきて一種親しみはあるのだが…。ウーン。あの子供警察の暴力的喧噪(プロデューサをつとめた金井美恵子が高く評価したらしい)とか、なんかついて行きにくい設定に、これもまた、こういう映画が楽しめない自身の老いかしらと悩ましい。
登壇した井口監督はエリック・ロメールの影響を受けたと言っておられたが、私もエリック・ロメール好きだけれど…もう理解できなくなっているのかしらんと心配にもなる。
(10月14日 フォーラム3 251⑫と併映)

⑱-⑫だれかが歌ってる
監督:井口奈己 出演:森岡美帆 川井優作 秋谷悠太 北口美愛 2019日本 30分  


町を歩きながら誰かに追われていると気づく女性、リンゴをかじりながら歩く青年。
二人の出会いがしら、女性は追ってきた不審者と間違えて青年を突き飛ばし逃げる。そこに彼女を迎えるようにやってきた恋人?らしき青年(これがリンゴの青年と同じ雰囲気で見分けがつかず困る)と去っていく。別の日、恋人とカフェで待ち合わせをする女性。も現れない彼。女性はカフェの店主にもらったリンゴと、自身が見つけたハート形の鳥の絵を恋人に送ろうと彼の家を訪ねるが、そこには別の女性が…あれ?これって、最初にリンゴの青年を倒した後逃げた女の子?って、たった30分の短編なのに人がみんな同じような感じで見分けがつかず話が見えない。自分の鑑賞力の減退にショックを感じた1本。最後はリンゴの男の子と振られた女の子がハート鳥を介して出会う?という話で、まあ人の縁の妙を描いているのだろうが…ウーン。(10月14日 フォーラム3 251⑬と併映)

⑰-⑪日泰食堂
監督:フランキー・シン 出演:肥美 萍 丈  2024台湾・香港・フランス(広東語・北京語・英語)83分 ★★★


香港長洲島の小さな食堂(小食)を舞台に、この食堂を営む老夫婦、娘ではないようだが単なる店員でもないみたい、不思議な立場と魅力?の「肥美」を中心に、この食堂に集まる人々の、2019年民主化運動〜立法院議員選挙〜そして20年コロナ・パンデミックが始まった中での社会とかかわりながら、日常を過ごしていく姿を丁寧に描く。この島では社会のできごとはほぼテレビ報道で届いていて店主萍や肥美がそれについて討論のような言い合いをいたり、肥美はフェリーで積極的に行き来して香港島でのデモにも参加し、また友人の結婚式への参加など個人的な行動も描かれるが、常に自分が生きていく香港の未来を気にしている(返還50年一国二制度が終わるとき58歳だと言っているので、映画の中では30歳を越えたあたりか)。店主夫婦は意見はあっても直接抗議行動に参加したりはしないが、そんな「娘」を心配しながら見守っているという感じ。今まで香港のこの10年ほどを描いた作品は沢山あって、そこに常に香港人のあきらめない意思や行動を見てきたが、実は、この映画に出てくるような立ち位置の香港人がもっとも一般的というか、多くの香港人の姿なのではないかと思われ、なるほど映画もこの切り口があったか…と感心させられる。つまり描かれるのは情報はマスコミやネットで手に入れ、デモには参加するが自身が捕まえられるというほどの行動はしない、あるいは家族や知人のデモ参加を支持しながらも、心配のあまりつい口を出しケンカになるとか、選挙の行方も気にするが自身が立候補したりするわけではない、そんな感じで今まで通りの日常を維持していこうとする、ごく当たり前の人々の姿で、そんな人々こそが今後の香港を支えていくのだろうと、強く思わされるのであった。
(10月14日 市民会館大ホール インターナショナルコンペティション 250) 

⑯-➉時は名前を持たない
監督:ステファン・ヤール 1989スウェーデン 35m61分 ★★

89年山形の特別賞受賞作品。山形ドキュメンタリー・フィルムライブラリーに収蔵されていたフィルムのデジタル化がおこなっわれたもの。近作の緊密性というかカメラワークの自在さによって見る方も緊張が強いられる?作風にいささか疲れ?35年近く前のドキュメンタリーの再確認?に。
始まりは美しい海辺の日の出で、希望に満ちた感じもするのだが…スェーデンで老夫婦が営む牧畜農家の日常、夫はトラクターで牧場内を走り回って、ひたすら乳をしぼり、牧草を収穫して納屋に積み上げ、鎖をつけて牧場に放った牛(食む草がなくなると?鎖につけたクイを移動するのだが、その拍子に逃げ出した牛を追いかけ、この穏やかな農夫にしては?という感じで牛をひっぱたいたり)を追い、牛や豚に餌を与えという繰り返しが丹念に映し出されていく。妻の方は家事、ケーキ?造りをしたりという感じ。セリフも対話もほとんどないし、断片的な夫婦の会話には日本語字幕もついていなくて、ことばよりもただ映像に写される事実を描くという感じだが、時に夫が撮影者?を相手に断片的な昔語りをする。今の苦しさ昔はもっとこうだったというような話。そして終わり近く画面はのどかな牧場風景から寒い雪景色、あるいは波の高い海―そこに打ち上げられる鯨?(セイウチとかかな?)などを映し出し、夫が語る彼らの未来の暗さを裏打ちするような…一々の画面の構成は緊密で工夫計算がされている感じ。解説によれば監督は自作を「映画になったブリューゲルの絵」といっているそうで、ナルホドね…
この紹介批評は、次の上映を待ちながら市民会館のロビーで書いた。ここはフリーWi-FiもOKでありがたい。(10月14日 フォーラム3 再訪やまがたクラシックス249)

⑮-⑨彷徨う者たち
監督:マロリー・エロワ・ペスリー 2024フランス・グアドループ 93分


こちらはカリブ海に浮かぶグアドルーブ(すいません、こんな国があることさえ知らなかった)のある街。再開発が進んでいるというが、どちらかというと廃墟化しつつあるような街をバックに若い薬物中毒のラッパー、中年の詩人、そして今や肺がんを患う元キューバ革命の士の老人、それに取り壊される集合住宅に住む若い女性が主な登場人物。女性はほとんど語らないが、他の3人はこもごもにそれぞれに思いを語るのだが…。まずは女性の発言がほとんどない?(寝ていたのかな、いや、そんなことはないと思うのだが)こと。男たちのそれぞれの語りが、立場が違うから当然ではあろうが接点があまり見出されず、勝手に言いたいことを言っているという感じもあって、部分的には納得したり共感もできなくはないのだが、全体像につながっていかない感じ。フィデロやチエをあたかも仲間のごとくに呼び、昔を語る老人には少々懐古的なつらささえも感じてしまった。正しい観方ではないんだろうなあ、とも思いつつ、疲れて本日の鑑賞は終わり…映画祭スペシャルメンション受賞作品
(10月13日 市民会館大ホール インターナショナルコンペティション 248)

⑭-⑧Below the Clouds
監督:ジャンフランコ・ロージ 2025イタリア 114分モノクロ ★★★


え?あのロージ監督作品がコンペに出るの?というので、まあ多分劇場公開もあるのだろうとは思いつつ、やっぱりここで見ておきたい。
今回はベスヴィオ火山のふもと(映し出される火口の迫力も十分)のナポリの街やそこに暮らす人々を描く。出てくるのは町の消防隊のコールセンターの対応で火山や自身への不安だけでなく夫婦喧嘩(夫の暴力)とかの救急依頼とかに対応する署員とか、街の本屋?で子どもたちの勉強を見る老人、博物館の保管庫の暗闇で懐中電灯の明かりで保管された収蔵品の世話をする女性職員、遺跡発掘をする東京大学のチーム(ここの会話は基本すべて日本語)、港でウクライナからの小麦を船から下ろすシリア移民、あるいは何直かよくわからないが大きな建造物の基礎工事?みたいなところで働く移民労働者?とか、そういう断片が繰り返し出てきて、特に説明などはないのだが、火山の威力にさらされるこの街での歴史を含む暮らしの姿が浮かび上がってくる。その意味では描き方はかつての『ローマ環状線、めぐりゆく人生』(2013)(多分これが私がドキュメンタリー映画にはまるきっかけを作った一本かも)を思い出させる描き方で、その後の『海は燃えている』(2016)、『国境の夜想曲』㉞(2020)、『旅するローマ教皇㉖』(2022)とある特定の人物の生き方を描くようなドラマティックを目指す?ような路線から回帰した感じで、私としてはとってもお気に入りになりそうな1本だった。(10月13日 中央公民館 インターナショナルコンペティション 247) 

⑬-⑦髪と紙と水と
監督:チューン・ミン・クイ、ニコラ・グロー 2025ベルギー・フランス 70分 ★


こちらはベトナム・ルック族という少数民族の女性を描く。洞窟生まれの彼女は、出産する娘の手伝いのために上の子(10歳くらいの少年)の世話をしながらルック語を教え、髪を刈り、小舟で少年を連れて水辺に行く、その自然の中での暮らしぶりとか語ることば―特にルック語でさまざまなものを彼に示すーとか、なんとも静かでのどかで自然と一体化しているような、自然の中に揺蕩うような暮らしぶりが心にしみて、なんか引き込まれはまるという感じになった。
(10月14日 フォーラム3 アジア千波万波 246)


⑫-⑥烤火房プラーハンで見るいくつかの夢
監督:サユーン・シモン  2024台湾(タイヤル語 普通話(国語)) 98分 ★★


烤火房(プラハ―ン)はタイヤル族の「ストーブ部屋」、特に民俗的な建造物というより、普通の薪ストーブを中央に末、周辺に座るベンチというか台などをしつらえた、ナマコトタン張りのバラックで、何コレ?という感じもある。そこに座って火をくべる祖母と周辺に集まる親族たちのタイヤル族の暮しを10年間にわたって追ったという力作-実は祖父のほうがもともとの主人公として意図されたのだそうだが、撮影2か月目に亡くなり方向転換したとは上映後登壇した監督の話―16歳で30歳上の男性と結婚した祖母は、同じ16歳でパイワン族の青年と付き合って妊娠した孫娘に猛反発、そこから
烤火房で両家の親族が集まり互いの伝統を話し合いながら二人の結婚をまとめていくあたりが物語?の一つの芯として興味深い。ガガという、伝統的な考え方?(しかしそれがどういうものか、今もわからないとは監督の言)霊の世界?によって祖父とつながっているという感じが濃厚だが、まあそれよりも台湾原住民の生活と意見とこれからへ向けての生き方というものを濃厚に感じさせられる。あたかもそれを表すように会場には監督(+共同監督格の二人の女性)に加えて映画ヒロインの祖母も姿を見せて和やかな雰囲気だった。
映画はタイヤル語を十分ではないと言いながら語る監督ナレーションで始まるが、描かれる世界はタイヤル語とパイワン族のことばに通訳?が必要だったりということも描かれるが公的には概ね中国語が使われ、その中で「長老(ちょうろう)」など日本語も埋め込まれるという感じで、それだけでもこの人々の置かれた複雑状況(しかも日本統治時代などとはすっかり変わった言語環境)を感じさせられる。(10月14日 フォーラム3 アジア千波万波 245)


⑪-⑤ハキシュカ
監督:ナルゲス・ジュダキ、イマン・パクナハード 2024イラン(アゼルバイジャン語) 49分 ★


夜9時からの上映。こんな時間に来る人はそれほどいない?と高をくくって、それでも15分前に劇場に到着すると、すでに長い長い(階上に続く…3階分くらい)行列。94番の番号札(整理券ではないらしい)をもらって並ぶ。入場は立ち見も入れて190人だそう。で、映画、「ハキシュカ」という女だけの祭礼ー丘の上に集まり歌い踊るーがある村で、最初はいわば締め出された感じでこの祭りについて噂する男たち、ついでおしゃべりしながら祭り用の菓子をあげる女たち、この祭りの宗教的意義?(要は寛容というこ)を語る高齢女性などからはじまって、女たちが歌い踊る祭りの様子や人々が車を連ねて(老人はいなかったが少年や青年はいてーここに来るのは女だけだよーといわれていた)丘に集まる様子などが描かれていく。監督は男女二人。会場から「このような祭りが行えることへの女の意欲と男の理解」に関しての言及があったが、女性のナルゲスが「男の理解がなくてはこのような祭りができないのはおかしい」と言い切ったのが印象的。ただし、このQAは通訳(前にどこかで通訳されたのをみた有名な?研究者だと思ったが)が何となく意訳をしているみたいで、会場の質問と答えが何となくチグハグな感じがした。さらにそれを支えるかのような英語通訳の解釈の仕方が納得という感じで不思議なQA?なお、「ハキシュカ」にはそれ自体には意味はない?そうで日本の「ワッショイ・ワッショイ」のような掛け声と同じではないか(これは通訳氏の解釈)。また女性監督は現地語がわからず男性監督が撮影中に通訳を務めたというのも驚きの不思議映画ーというか現代では少しも不思議ではなくなっているのだとは思うが。
(10月12日 フォーラム3 アジア千波万波 244)


➉-④3350キロメートル
監督:サラ・コンタル 2023シリア・フランス 13分


この映画を作った若い女性監督は留学中にシリア内戦により国に帰れなくなり母のいたフランスに亡命した娘。その彼女が未だシリアにいて国外に出られない父親とのオンライン通話を記録した13分の小片であるが…切実悲痛な感じのする父の声にかぶるのは一部は父の自撮り映像みたいだが、全体にぼやけて輪郭も定かでなくシリアの映像なのではあろうが、ウーン。こういうものしか送れないシリアの社会に思いをはせるべきなのかもしれないが、ウーンと思ううちに映画は終わってしまった。これもとっても若い女性監督のQAあり。
(10月12日 フォーラム5 アジア千波万波 243③と併映)

⑨-③ダンシング・パレスチナ
監督:ラミース・アルマッカーウィー 2024パレスティナ・イギリス 37分 ★


自身の住む土地から追い出され、パレスチナ人というアイデンティティも危機に瀕している?パレスチナの過去から現代にいたるさまざまな人々の静止写真の映像を挟んで、民族舞踊「ダブケ」のステップを踏む4人の男女。彼らは特徴的なスカーフの他は民族衣装を身に着けるわけでなく、Tシャツにパンツという日常着スタイルだし、間にちょっと入るさまざまな人々ーワイシャツにタイ姿の青年たちもいれば、学校制服?スタイルの女の子たちも…特にこれといってっ定まった民族衣装のようなものはないみたいだし、音楽も必ずしも決まった伝統音楽という感じでもなく、そのような外形で統一感を出すのでなく、持たざる民が純粋にタップだけでつながっている?でもそれがなんか写真で現れる風土や人物を繋ぐ「力」として感じられる、不思議なダンスであり不思議な映画の描き方という気がする。
(10月12日 フォーラム5 アジア千波万波 243④と併映)

⑧-②撃たれた自由の声を撮れ
監督:ザイナブ・エンテザール 2024 アフガニスタン 70分 ★


こちらはタリバン政権復活のもとで、女性としての権利や生き方を奪われた女性たちの抵抗運動(デモを組織する)の姿をスマホの隠し撮りなどを含めて記録する生々しく、迫力のある映像。顔が露出し家族にまで影響が及ぶのを恐れながら、それでも抵抗運動を続けていこうとする女性たちの迫力、とにかくしゃべるしゃべるー必死ってこういうことなんだろうと、暫く生温湯に使っているような自身の状況の中で忘れていたものを思いださせられ、なら、自分はどうする、何ができる?と考ええさせられる。監督QAがあったが、次の映画の上映時刻との間に空きがなく、これは失礼した。映画自体の迫力にもう十分という感じもなくはなく。
(10月12日 フォーラム3 アジア千波万波 242)

⑦-①ハワの手習い(Writing Hawa)
監督:ナジバ・ヌーリ、ラスル(アリー)・ヌーリ 出演:ハワ・ヌーリ ザハーラ・ハイダリ2024 フランス・オランダ・カタール・アフガニスタン 85分 ★★★


映画祭1本目にして、見ることができたのを幸せに感じた作品。若い女性監督とその兄弟の共同監督だが、妹ナジバは女性迫害の中ですでに国を離れてフランスに住み、妹が国を出たあと兄アリーが引き継いで母の撮影を続けたもの。かつて伝統的な家父長社会で女性は教育はいらないとされた母は中年に達してから子どもや孫に教わって(小学校4年の教科書を使うところが出てきた)読み書きを覚えながら、得意な伝統的な刺繍製品を仲間とともに作ってビジネスを展開しようとする前半の意欲に満ちた明るさ―ところが2021年アメリカが撤退し20年ぶりにタリバンが政権を奪還すると、ビジネスどころか学校の閉鎖をはじめとする女性の地位や仕事、教育からの締め出しが始まり、抵抗するものへの迫害も…ということで後半はその中で家族を心配し、それでも女性の教育を大切にしたい母子の姿へとテーマが変わっていく(監督QAによれば、決してそれは意図した方向ではなかったよう)。監督たちの姉の娘ザハーラは、離婚によって彼女への親権を失った母親の手を離れ父方で育つが虐待を受けて家を飛び出しカブールの母・祖母(ハワ)の元に身を寄せる。彼女の教育に心を砕き、世話を焼くハワだったが、タリバンにより若い身寄りのない(母が親権をもたない)娘の都市在住には摘発の危険があるということで父方の田舎に還されるが、そこで若年結婚させられてしまうというエピソードとその若い姪を丹念にとらえた映像が、全体に明るく向学心に満ちたこの映画の女性たちの姿が厳しい状況への抵抗であるということを生々しく厳しく感じさせられる。フランスから訪日した若い女性監督のQAあり。写真も撮ったのだが、主催者から写真×、SNSにあげないようにとのコメント。映画祭の最初の画面表示に「様々なバックグラウンドを持つ人が参加しているので互いに尊重を」と他の映画祭で(山形でも)見なかったような注意が出て、そうだよなあ、そうだったと改めて認識を新たにしたのだった。
映画祭市民賞受賞作品。(10月12日 フォーラム3 アジア千波万波 241)


以下、映画祭HPからのコピーです。

YIDFF 2025 受賞作品

インターナショナル・コンペティション
審査員:リシャール・コパンス(審査員長)、エドウィン、アッザ・エル・ハサン、石井岳龍、クリスティーナ・ピッチーノ
ロバート&フランシス・フラハティ賞(大賞)
ダイレクト・アクション監督:ギヨーム・カイヨー、ベン・ラッセル
山形市長賞(最優秀賞)
ガザにてハサンと監督:カマール・アルジャアファリー
でん六賞(優秀賞
公園監督:蘇育賢(スー・ユーシェン)
フレックスインターナショナル賞(優秀賞
愛しき人々監督:タナ・ヒルベルト
審査員特別賞
亡き両親への手紙監督:イグナシオ・アグエロ
スペシャル・メンション
彷徨う者たち監督:マロリー・エロワ・ペスリー

アジア千波万波
審査員:井口奈己、タイディ
小川紳介賞
パラジャーノフ、ゆうべはどんな夢を見た?監督:ファラズ・フェシャラキ
山形新聞・山形放送賞(奨励賞)
木々が揺れ、心騒ぐ監督:イ・ジユン
東北電化工業賞(奨励賞)
炭鉱奇譚監督:宋承穎(ソン・チョンイン)、胡清雅(フー・チンヤー)

市民賞
ハワの手習い監督:ナジーバ・ヌーリ、ラスール(アリー)・ヌーリ

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