第18回大阪アジアン映画祭2023

 

3月15日~19日(おまけで20日に須磨アルプス歩き)行ってきました!

①四十四にして死屍死す(死屍死時四十四)②短編プログラムD③ジソク、映画祭を続ける④流水落花⑤白日青春➅本日公休⑦リメンバー➇黒の教育⑨ライク&シェア⑩私だけの部屋 ⑪香港ファミリー(過時、過節) ⑫深夜のドッジボール(深宵閃避球)

今回見たのは12本、ちょっと少なめ、ゆったりめですがどれも見ごたえがあり楽しめました。 香港映画①④⑤⑪⑫ 台湾映画➅➇ 韓国映画③⑦ 
香港映画『窄路微塵』は人気でチケットが取れず一般公開待ち、で香港映画の活躍が目立った映画祭だったかなと思います。
プログラムに名前の挙がっている映画は50本ほどですが、中国(大陸)の映画はカナダ・USA合作の短編『燕は南に飛ぶ』1本②だけ。この映画祭の方向性を示しているような気も。
見られなかったうちの15本くらいが日本映画でしたが、これは劇場公開待ち(もう始まっているものも)。コンペ部門のグランプリは⑨『ライク&シェア』で、これはインドネシア作品でした。  (各映画の末尾の番号は今年見た作品の通し番号です)



①四十四にして死屍死す(死屍死時四十四)
監督:ホー・チェクティン(何爵天) 出演:テレサ・モウ(毛舜筠)ロナルド・チェン(鄭中基)黄又南 ジェニファー・ユウ(余香凝)2023香港 119分

10日から始まった大阪アジアン映画祭のスペシャル・オープニングはABCホールでの開催初日ということらしい。映画の前に今回の映画愛参加の映画人30人余が登壇してのセレモニー付き。終わりに監督と主演男優黄又南(案外オーラ―が少ない?のでへー)のトーク付きでいかにも映画祭らしく見る。
話しとしては、さすが香港映画は死なない!と希望を持たせてもらえた感じ。ある高層(高級)マンションの14階、義母の購入したマンションに住む配送業者?ミンとCAの妻、それに一人娘、とオタクっぽい妻の兄の一家。夫婦はラブラブでこのマンションから何とか独立して別の家を持ちたいーそのためにこの母の家を抵当に入れてローンを組むというのはあまりに??で母はもちろん許さないーと書くといかにも深刻そうな家族ドロドロだがこの描き方がリアルではないがぶっ飛んでいて上手い!
さてそんな一家の前に深夜突如出現した全裸の男性の遺体。自家の前で発見すると事故物件となり部屋の資産価値が下がると大慌ての一家はその死体を隣家の前に移動することに。隣家は元教師の老夫婦、さらにその隣には禁止されたペットの犬を愛する女性とそのフィリピン人メイド(主人はタイ人と勘違い)、さらに怒りっぽいタクシー運転手と元サッカー選手で気難しいその息子と隣人が次々と巻き込まれ、さらにそこに仕事熱心なこのマンションの警備員までがからんで死体の処置に奔走する一晩の物語(ブラック・コメディ)。
マンション上下・左右を外壁までもを使い動き回りつつの遺体処置はちょっとゴチャゴチャしすぎている感じもあって意外にわかりにくいところもある―多分香港独特のセリフ回しや笑いの取り方もあるのだと思う。後ろに座った香港人らしい女性二人映画の最初から最後まで、どうしてここで?というようなところでも笑い続け、その一部しかわからない自分がウーン、残念でもあり、笑い声が耳につきすぎでもあり。ーが、それぞれの駆け回る思惑が、
トークは黄又南
今日の香港が抱える問題を投影している描き方で、最後に苦労の末に遺体を運んで森に埋め、一人一人が手向ける祈りの言葉が一人一人の置かれた立場や社会への怒りの言葉になって、いわば整理されるのが面白くわかりやすい演出。しかも映画は実はここでは終わらず、遺体の謎も解き明かされ、まあ希望も感じられるような終わり方になるのも娯楽映画としてはいい。途中金髪のバンド歌手?の女の子が登場し、けっこう物語展開においても重要な役を果たすが、唐突な感じもあって全体から浮き上がっている感じもした。案の定?終わってのトークで会場から質問が。監督が言うには「バンドなどが演奏をしようとしても(政治・文化事情により)会場が借りられないなどの苦労がある、そういう香港の今日的な問題を投影したかったとの弁。つまりそういう描き方で検閲をくぐり生き延びようとする香港映画の心意気を感じさせられたのである。とはいえ、広東語映画でもあるこの作品、題名だけは明らかに北京語シャレじゃないのかな??とそこはちょっと複雑な感じ。
(3月15日 大阪ABCホール スペシャル・オープニング作品 74)

30余人の関係者が並ぶオープニングセレモニー

②短編プログラムD

騒動 監督:アロック・クマール・ドゥヴィヴェ―ディー 2022インド 23分
緊張と動乱の23分。ヒンズー教寺院に牛肉を投げ入れ侮辱したものを処刑せよと起きた教徒の暴動、息子の誕生日にと羊肉を用意したイスラム教徒の一家は誤解から暴徒に襲われるのではないかと家にこもり恐怖に震え、立ち向かうために出て行こうとする息子を両親は必死に止める。そんなとき娘の部屋で携帯の着信音、ベッドの下に隠れる娘の恋人が発見され、父親は激怒する。恋人は見逃さないと肉の存在を外に知らせると脅し、息子ともみ合いになり、転んだ息子は頭を強打する…とそんなまあどこにでもありそうな一家の団欒とまだ許しを得ていない恋人の訪れが大波紋になっていく様子はなんか絶望的な恐ろしさを感じさせる。最後に遺体が運ばれていく道で、袋が切れて道に散らばった肉片を犬があさっているのが何ともむなしく哀切感も漂う。(特別注視部門)
●燕は南へ飛ぶ 監督:リン・モーチ 2022米・カナダ・中国 17分 
これはすごい。これから先この調子の映像を私たちは何本も見られるのか、それともこれは作者にとって生涯ただ1本の映画になるのか。そんな気にさせられる渾身でつくられたストップモーションアニメは、文革末期全寮制幼稚園で全体主義になじめず苦しむ女の子を淡々と描く。時間を決められ並んでするトイレ、保育士の監視の下で淡々と決められた通りに遊ぶ子たちと、一人木の根元に座り泣き叫ぶ少女の怖れや悲しみが胸に迫る。最後に毛主席が死んだ1976年9月9日の知らせの前でたたずむ少女と、そのあと桃の咲く(ただしくすんだ茶色の光景)原を燕が飛ぶ風景の地味なのだが心に染むような解放感?とともに忘れがたい一作。19日発表で短編賞受賞(特別注視部門)
●海の彼方、それから 監督:黄インイク 2023日本・台湾 17分
令和5年(とあった)『海の彼方に』で忘れがたい印象を残した玉木玉代さんが亡くなった。その前後を描いて、最後は入院先から望んで家に戻り亡くなるまでの臨終シーンから火葬の骨上げまで…ウーン。すごい人生だし、こうして映像に残ることはすごいこと?なんだろうけれど。忘れがたい一本であることは確かかも。(インディ・フォーラム)
●Shall We Love You 監督:田中晴菜 2022日本 7分
体育館の片隅でオスカー・ワイルド『幸福な(の)王子』の劇化について語る3人。ワンシーン、固定カメラの7分間だが上手に登場する人、飛んできたボールを追って画面からはみ出し戻る人など工夫された長回しで、なかなか面白い。そこで意外にマジメな「幸福論:が展開されるわけだが…。(インディ・フォーラム)
●甘露 監督:田中晴菜 2023日本 12分
こちらは同じ監督の次年度作で、同じくワンシーン・固定カメラ。昔駄菓子屋をやっていた祖父の葬儀の後、すでの閉じている店先で兄と弟が語る。年の離れた(おとなになるとなかなかそうは見えないが弟が小学生2.3年のころ兄は高校生だったというセリフあり)兄弟の、主に弟と祖父の間の「甘露」という駄菓子に関する思い出。途中弟は記憶にあったものを探しに画面から消え、すると兄に池袋にいるという弟から電話がかかって、これから間に合わなかった葬儀に行くというような話で、映画を上手く使ったちょっと怪談仕立て?(怖くはないがヘンな気分にはさせられる)短編で人間模様を切り取っていくという点ではなかなかに意欲的と言っていい作品-映画祭特別企画向きとも言えるがー(インディ・フォーラム)
(3月16日 中之島美術館 79)
 








③ジソク、映画祭を続ける
監督:キム・ヨンジョ 出演:キム・ジソク 2022韓国 116分

BIIF(釜山インターナショナルフィルムフェスティバル)の創設メンバーで、20年近くにわたってこの映画祭をけん引しアジアのフィルムメーカーたちとの交友で、彼らを繋いでも来たキム・ジソクは2017年カンヌ映画祭に参加していたときに心停止で急逝した。その彼についてアジアの多くの映画人や妻なども含む周囲の人々の追想で綴る。
釜山映画祭は2014年セォウル号沈没を題材とした映画をめぐって政治的な介入があり、運営委員長が退任を迫られ運営委員会にも亀裂が走った、その苦悩の中で修復を図りつつの途上の死だったということで、ウーン。それにしても是枝裕和・アピチャッポン・ウィーラセタクン、パナヒ、マフマルバフ、蔡明亮+李康生とかアジア映画人が口を極めてほめ懐かしみ、最後はジソクが構想していた「月の映画」をそれらのメンバーが映し、さらに、という感じで意欲・熱意で全編貫かれ、ちょっとこれでもかこれでもかという感じさえもある見ごたえのある1本ではあった。(3月16日 シネリーブル梅田 特別注視部門 80)

今回シネリーブル梅田での鑑賞は1本だけ。そのあと次のABCホールへの移動前にはじめて(今まで何度も劇場のあるスカイビルには行っていたのに)空中庭園に行ってみました。


  


   

展望台には世界のbeersellerあり。懐かしのガリシアビールでちょっとPC…。やがて夕刻展望台内部はきれいなライトが並んでなかなかステキでした!             


④流水落花
監督:カー・シンフォン(賈勝楓) 出演:サミー・チェン(鄭秀文) アラン・ロック(陸駿光)2022香港 92分 

香港の『オリジナル処女作支援プログラム』で選ばれた作品。今まであまり描かれたことのない新界を舞台に、描かれたことのない里親制度で子どもたちを預かり育てる夫婦を描く。実親と子ではなく養親と子の関係というのは結構映画でも描かれるが、この場合はむしろ職業的にさまざまな子を一定期間預かり育てる親と子で、子どももたくさん出てくるし、それぞれとの関係やその中での困難や喜びも濃淡はあってもそれなりに描かれるが、子との情愛が深まっていくことを主眼とせず、ある日突然その関係が終わっていくということがブラックアウトの(違和感はあり、これについては監督トークで会場からも質問が出たが、意図はよくわかる)画面でセンチメンタルを排除するように描かれていく。
この夫婦、夫は実子がほしいというが妻が頑なに拒むのは、実の息子を心臓病で失い、その病気が母方のーつまり妻の遺伝的な形質によるものだというわけだが、そのような中で里親制度を選ぶ夫婦の、むしろその後の夫の浮気とかも含む関係の危機などの方に主眼はあって、最後は(時の流れはわかりにくいがサミー・チェンの髪型の変化が何年もの経過は感じさせる描き方)妻が心臓病で倒れ…時の流れに命を浮かべはぐくまれていくという「流水落花」(本来の「落花流水」とは意味を変えているよう)を描いた静かな落ち着いた(私の眼にはちょっと暗い)映画。サミー・チェンは今まで何を演じても「サミー・チェン」とぱっと見わかる雰囲気だったが、ここではすっかり香港の田舎の普通のオバサンで、香港電影評論会最優秀女優賞をも獲得したとのこと。香港では3月2日公開。政治的にも描けそうなテーマをセンチメンタルに陥らずこう書けるというのも、現代香港での映画製作の一筋を付けた作品といえるかも。(3月16日 ABCホール ホンコン・ガラ・ナイト81)
登壇は監督と主演のアラン・ロック

⑤白日青春
監督:劉國瑞(ラウ・コックルイ) 出演:アンソニー・ウォン(黄秋生)サバル・ザマン エンディ・チョウ キランジ―ト・ギル 2022香港・シンガポール 111分 

かつて大陸から海を泳いで香港にわたり、その過程で妻を亡くしたチャンは酒に溺れワガママで警察官である息子との関係もうまくいっていない。彼と借りた車のトラブルでもめるのが元弁護士のパキスタン難民。彼はカナダへの移住を願っているが難民申請は通らず、息子ハッサンの父は学校もうまくいかず盗みとか悪の道へも歩み出しそうな雰囲気。チャンはハッサンの父ともめる中で交通事故を起こしハッサンの父は亡くなるが、チャンは怪我はしたものの相手が不法滞在者であるがゆえに罪に問われることはなかった。しかし相手の死を知った彼はその家族のことが気になり始め、特に息子ハッサンに目をかけるようになる。夫の死後妊娠中の母は胎内の子を里子に出すことを条件に出産援助が認められるが、さもなくば逮捕・国外退去と告げられる。彼女はハッサンだけはなんとか自由な地に送り出したいと願い、チャンもまたハッサンの処遇を考える。一方定住が認められた父の友人もハッサンに救いの手を延べようとするが、その現実的な選択よりは、ハッサンはカナダに行くことを望み、チャンは自分のタクシーの営業権を売って彼の密航費用を作り送り出す。そこで映画は一応終わりだが、この少年、行く末はギャングになるか、あるいはカナダにもたどり着けず死ぬかしかないような不安を伴う終わり方だ。それがこの頼りない向こう見ずでワガママな運転手としては選ばざるを得なかったこととして、アンソニー・ウォン、少々風貌が立派過ぎてそぐわない感じもありながら説得感のある演技でさすがに印象を強く残す。それにしても土地の狭さゆえだろうが、移民も多い香港でもこんなに深刻な難民問題があるのだね…
(3月17日 ABCホール コンペ 82)

➅本日公休
監督:傳天余 出演:陸小芬 傳孟柏 施名帥 陳庭 方志友 陳柏霖 林柏宏 2023台湾 106分 

監督自身の母の理髪店をロケ地として使い、独立した3人の子どもを持ち、夫はすでに亡い60代の理髪店主のいわば老いの自覚の中でどう生きていくのかという物語と言ってよいか。
20数年ぶりで映画に出るという陸小芬(66歳)がその理髪店主アールイを演じて、さすがにうまい。映画の中では昔のイメージよりぐっと普通の優し気なオバサンという雰囲気を演じ、後のトークでは年齢をまったく感じさせない可愛らしい若々しさに驚く。
話は最初スタイリストをしている末娘?が母が留守の台中の実家の店に帰ってきて、家にいる「ビジネスをしている」という息子に迎えられる場面から。彼女にはもう一人離婚した娘がいて美容師をしているが、アールイは娘の元夫で気のいい車修理工との方が気が合い娘との復縁を願っている。話は顧客だった医師が故郷・彰化に引っ込みもはや死の床に伏している、そこにアールイが出張理髪にいくというロードムービー、そこで彼女自身も老いからくる失敗を重ね若い人に助けられというような経過を経て(時間の行ったり来たりでの説明があったり、途中ちょっとゴチャゴチャ感がなくもないが)、年末元娘婿が新たな相手と再婚をすると彼女に告げる、ちょっとほろ苦いが若い人の生き方を応援し、古い顧客がいる限り自分はここで理髪店を続けていくというような、あらたな歩みを感じさせるようないい作品だった。観客賞受賞。これは陸小芬のオーラかも。(3月17日 ABCホール コンペ 83)

監督(左)と陸小芬

⑦リメンバー
監督:イ・イルヒョン 出演:イ・ソンミン ナム・ジヒョク 2022韓国 128分 

梅田ブルク7の看板

2015年の『手紙は覚えている(原題『リメンバー』)』(カナダ・ドイツ アトム・エヤゴン)のリメイクというのだが、ウーン、これもリメイクと言えるのかな…原作はわりと深刻な感じのサスペンス映画で、出てくる老人も90歳でかなり認知症が進みヨタヨタで人に助けられながら復讐の旅に向かうという感じだったが、こっちはそれを完全に昇華しイケメンだが頼りない若者の成長記的要素まで配し、彼には真っ赤なポルシェを運転させカーチェイスもあればアクションも、という完全エンターテイメントに仕立て上げた韓国の映画力には驚くばかり。
元版では復讐される相手はナチス収容所の看守だが、韓国版では当然ながら日本の植民地支配のお先棒をかついで人々を弾圧し、日本への徴用に送り出し、また女たちをだまして従軍慰安婦へと送り出したような、当時の朝鮮人ー今も韓国社会でのし上がり権威をもっているような人々ということになる。日本人も一人?現在自衛隊で高い地位にいる「トージョー」という男が、韓国で開かれる自衛隊記念の式典に招かれーそこでは植民地称揚や、平和憲法を間違いとして一刻も早くきちんと戦争ができるような日本を作るべきだというようなトンでもスピーチが堂々となされる。右翼が内内で行うような儀式ならばともかく、現在の韓国であのような式典が行えるというのはあまりに荒唐無稽な発想で、要はここでは日本帝国主義は戯画化されているわけだ。トージョーはじめ日本人はすべて韓国人が演じているのも、日本人から見るとやはり嘘っぽく見えるから、日本人の一部はいざ知らず、一般的には韓国に対して過去の罪を感じているような日本人をある意味慰撫するような描き方で反日意識をエンタメ化している巧妙さ―よくも悪くも―を感じさせられる。主人公は元版と違って認知症も出ているとはいえ自分の行為の意味をしっかり認識して5人のターゲットを一人ずつかなり巧妙に殺し始める。この手際の良さが映画のタネの伏線となっているのは原版と同じ。ただし元版で手紙で操られる復讐の旅に出る認知症の老人自身が実は復讐のターゲットだったー「手紙」の題名の由来でもあり。「記憶」の不確かさを示す原題でもある―はこちらではしっかりした主人公の記憶の中でターゲットとしての自分が認識されており、それが創氏改名とも絡んで観客には提示されるところは、なるほどの韓国版これもうまさである。
(3月17日梅田ブルク7 特別招待作品 84)

➇黒の教育
監督:柯震東 出演:ぺラント・チュウ(朱軒洋) ケント・ツァイ(蔡凡熙) エディソン・ソン(宋柏緯) レオン・ダイ(戴立忍) ダニエル・ホン 黄信堯2022台湾78分

『あの頃君を追いかけた』(2011)の主演俳優の監督デビュー作だが、ギデンス・コー(九把刀)が製作、『大仏+1』の監督が出演、その映画にも出たケント・チューが主演の一人、そしてレオン・ダイが優しげな表情に凄みと色気を讃えたヤクザの親分役でサーモンをさばいて刺身を作る、となんか、豪華版のバックアップもあってか、内容の好き嫌いはあるようだが、完成度は高い作品ーブラック・コメディ、スプラッタ(何しろ主演のイケメン高校生役3人の3人とも指が飛ぶ!)、追いつ追われつのアクションもある中で、善人でも悪人でもない普通の高校生のホンのちょっとした心の動きで物事がどんどん転がり、彼らの内面の弱点や悪人性もさらけ出していってしまうという、台湾伝統?の陰惨な学園ホラー・サスペンスの気もちょっとある、なかなかに興味深い作品。卒業式の打ち上げに盛り上がった高校生の仲間3人、一人が、自分たちの秘密を暴露し合いそれによって友情を保とうと言い出し、自分は校内で学校職員の娘をレイプしたと言い出す。もう一人は河原でホームレスを撲殺した話を打ち明け、3人め、その中では唯一、裕福な家の子で大学の推薦入学も決まっている青年は、二人に見合うだけの悪の経験がないことは許されず、同じような悪をせよと二人に迫られる。このあたりの犯罪シーンは陰惨でいかにも台湾学園ホラーで嫌な感じ。そしてヤクザを襲うことを課せられた彼は…このあとヤクザに襲われ逃げつつさまざまに行き当たりばったりで3人はとんでもない目に遭っていくわけだが…。終わり方、最後の一人が切れてヤクザをも黙らせるようなトンでもない行動に出たあとの夜明けでこの映画が終わる。私の周辺では賛否というよりむしろ否定論が強かった終わり方だが、私はちょっとなんか(絶望的なのも含め)未来が見えるようななるほどの終わり方だなと思った。さすがに非現実的ではあるが…19日発表で「来るべき才能賞」受賞
(3月18日ABCホール コンペ 85)

登壇は悪を迫られるマジメ高校生役ケント・ツァイ。その長身にビックリ


⑨ライク&シェア 
監督:ギナ・S・ヌール 出演:オーロラ・リベロ アラヴィンダ・キラナ オーリア・サラ ジェローム・ウルニア ケヴィン・ジュリオ 2022インドネシア112分

セクシーな食事シーンの動画を配信する二人の高校生リサとサラ。
リサはイスラム教徒と再婚し自身もムスリムに改宗した母にお祈りなどを強制され厳しく生活や行動を制限されて家が面白くない。彼女は動画のセックスシーンを見ながら自慰をしているのを母に見とがめられケンカに。また、その動画の女性(敬虔なムスリム?)に出会い、パン酵母を分けてもらいパンの焼き方を教わったりしながら彼女に傾倒していく。
サラは両親はすでに亡く、兄と暮らすがその兄も結婚に向けて自分の生活に忙しく、その意味では寂しいが自由な生活。その彼女が知り合った27歳の男性と付き合うようになるが、彼女はまだセックスをしたくはない、というのにも関わらず、18歳の誕生日、無理やりにセックスを強要されしかもそれを動画に撮られるという事件が起きる。サラの兄はそれを知り警察に訴えるが、17歳までは未成年へのレイプ行為として有罪になるが18歳はおとな扱いという法の規定もあり、合意だったとうそぶく男。さてそれでどうするか、二人が友情を保ちつつ、この状況に立ち向かい、動画の女性も励ますというようなシスターフッドのありようが描かれる。彼女たちの動画も彼女たち自身も、またそのインテリアとか動画に出てくるお菓子とかもポップで明るく可愛らしく、画面全体がとってもきれいでいかにも現代。しかしその中でその可愛い女の子たちの苦しみや意志のありようがしっかりと描かれて、骨のある映画にも仕上がっている。19日発表でグランプリ受賞(3月18日ABCホール コンペ 86)
映画について熱く語る監督


⑩私だけの部屋
監督:イオセブ・“ソソ“・ブリアゼ 出演:タキ・ムムラゼ マリアㇺ・フンダゼ ソビオ・ぜラキア 2022ジョージア・ドイツ(ジヨージア語・英語) 106分

こちらはなぜか(そこが最もこの映画の弱いところかもなのだが)無職で、離れた恋人と再会しともに恋人の母の家に住むことを考えつつ、それまでの期間(1ヶ月ぐらい)を部屋を借りて住むことにする女性ティナと、彼女に自分が借りているマンションの1室をシェアするメギの関係を描く。家賃を要求されて払えないティナは、元夫の家に家族の留守を狙って(この家族夫婦もなんか一瞬ではあるがスゴイ男性優位に描かれている)忍び込み、結婚時に夫に贈られた宝石類(新居にないヤカンも)を盗み出しお金を作る。実は彼女の現恋人は元の夫の友人で、その関係が夫に知られていて離婚したのだと彼女が語るシーンあり、彼女は元夫の母からも電話でなじられるし、実はトリビシにきて再会した恋人からも「母の家に住むのは母が同意しない」と言われてしまい、結局訣別。そのうえ実家の父親ともうまくいかず、姉から母の死を知らされ出かけていくが追い返されてしまう、というわけで上の世代とはどうもうまくいかない、その意味で非常に現代的なのかもしれないがただし自立ができているわけでもないという、ちょっと??悩ましい性格でもある?よう。その彼女に家賃の折半と、最初の月の請求を直ちにぶつけ、家にはしょっちゅう友人が出入りし、パーティ参加も多いという、ま、いわば派手な暮らしぶりで仕事の方もそれほど裕福ではないがとにかく英語を使ってなんとかやっているメギはニューヨークに行く計画を持ち実現にこぎつける。二人はまあ正反対の性格だが、ティナにはっきりものを言いつつ遊びにも誘い、また彼女が気を失うという持病を持っていることもありティナがそれを助けたりして打ち解けあい、二人のレズビアン的愛情によってティナが少しずつ苦境を乗り越え、終わりの方では職に着いたりして、メギが去った後、残った家で新しいルームメートを迎えるというのが最終場面。心の動きとか行動と彼の意味はそれなりにわかるし、ウーン、こういう愛の形で乗り越えるというのもあってもいいとは思うが…、ティナの造形など意外と男目線な映画だなという気もしないでもない。(3月18日ABCホール コンペ 87)

⑪香港ファミリー (過時、過節)
監督:エリック・ツァン・ヒンウェン(曾慶宏) 出演:テレサ・モウ(毛舜筠)謝君豪 イーダン・ルイ(呂爵安)ヘドヴィック・タム(談善言)アンジェラ・ユン(袁澧林)2022香港 112分

初っ端は家族で向かう祖母の家、そこでの一家全員不機嫌のケンカ的応酬の果てに、叔父は祖母と言い合い、立ち去ってしまう。母に離婚を切り出された父は包丁を持ち出し母に向け、止めに入った息子と決裂というような事件?ののち8年後(この時間の飛び方は案外わかりにくい。違うのは母テレサ・モウの髪型くらいで、突然訪ねてくるジョイという女性が8年前の小学生くらいの姪っ子、祖母の家に行けないことを嘆いていた少女であることを理解するまでが)、息子は家を出たまま大学・海外での大学院には奨学金で進み、今やゲーム製作者になっている。妹の方は8年前にはもうすぐ結婚などという感じだったのが、すでに結婚・離婚を経て実家に戻るも無職で、休職中。妻(母)は家政婦として勤めた家で小学生の息子に頼られ、一家にも重用されているが、雇い主が移住することを知らされずショックを受ける。8年前失業中で妻にさんざんこき下ろされていた夫(父)はタクシーの運転手をしているが、妻とは相変わらず家庭内別居という感じ。その彼は家のローンを返済し終わったところで佛山に移って友人と事業をする計画を持っている。というような一家バラバラな状況から、8年後ジョイの帰還の1週間余り、一家がそれぞれに悩み苦しみ、ちょっと飛躍?も経験しつつ、冬至(一家がそろって食事をする習慣がある)を迎える日まで。うまいのは(面白い)のは完全な和解劇には仕立て上げられず、隠していた叔父の死は祖母に明かされるし、父母はこれから別居して別々の道を歩むだろうし、娘は面接の日に目の前で倒れた老人を助け面接を棒に振ったときに知りあった「自由人」の男と付き合いが始まるが、自由なその男にすっぽかされワーキングホリディに行く決心をするし、息子も仕事のゲーム作りを通じて知り合った老人のゲーマー?と孫の苦いいきさつを聞かされ…というわけで、最後はそれらの思いを持ちながら偶然会った父と息子が逡巡した挙句一家の食卓ではなく、それをすっぽかして二人で食べに行こう…という、なかなかになるほどと思える、苦みも現実味もそしてその中での希望も感じらるような結末に感心する(監督自身あえてそこを狙ったらしい)(3月19日ABCホール コンペ88)

監督トーク。司会は宇田川幸洋氏

⑫深夜のドッジボール(深宵閃避球)
監督:イン・チーワン(應智) 出演:イーキン・チェン(鄭伊健) キャサリン・チョウ(周家怡)クラディス・リー(李靖筠)2022香港 93分

まじめな社会福祉士・ヨンが心配する深夜の体育館使用枠の存立の危機、これを維持するために毎晩集まってくる少女たちのドッジボールチームを作ることにしたヨンは学校時代の先輩で自由人だがちょっ1本釘が抜けたようなラウにコーチを頼む。ドッジボールなど知らないラウだが、弟宅の居候生活や、失業状態に追い込まれコーチを引き受ける。映画は、ラウがコーチとしてバリバリやるよりも、自身の生き方を振り返りつつ少女たちに逆らわれたり、相手にされないような状況もある中で、頑張るほうに主眼がある感じで、こういうだらしない?スポーツコーチがなぜか似合うイーキン・チェン。主眼はドッジ・ボールというところで、内野にいれば狙われて逃げたり避けたり問題を受け止めて…というような迫られた状況から反撃をするというところが現在の香港情勢をまさに反映しているという監督の弁に深く納得した。検閲に通るこういう抵抗?の方法もあるのかも。元気にガンバル香港映画をたくさん見られてよかった、というその1本。(3月19日ABCホール 特集企画 89)
監督とドッジボールチームの一人が登壇トーク

今年の大阪アジアン映画祭はここまで。最終日19日午後は、中之島美術館『大阪の浮世絵』展に。



美術館側から見た映画祭会場ABCホール

さらにそのあと20日は須磨浦公園〜鉢伏山〜袖振山~の須磨アルプスルートを歩いてきました。標高は250メートルぐらいですが10メートルぐらいから上がるので結構歩きがいもあって、何より絶景の須磨ノ浦‥‥これについては詳細は次号「【勝手気ままに映画日記】3月」でご紹介します。 
21日朝東京に戻りましたが、戻った途端に発熱・腹痛・下痢でダウン。いっときコロナかと焦りましたが、熱はすぐ下がったものの胃腸の調子最悪で食中毒!?(山用に買ったパンが残ったのを賞味期限切れなのに食べた⤵😞😞😞)2日ほど珍しく寝込んでしまい、映画祭報告が遅くなってしまいました。スミマセン!

トップにある「バックナンバー」から過去の記事を簡単に読めるようにしました。よろしければ飛んでみてください。    






コメント

このブログの人気の投稿

スマホ写真で綴るアンナプルナ・ダウラギリ周遊シャクナゲの道 ある(歩)記 2024/3・30~4・7

【勝手気ままに映画日記+山ある記】2023年9月

【勝手気ままに映画日記+山ある記】2023年7月