【勝手気ままに映画日記】2022年10月+東京・中国映画週間

やっと会えた!久しぶりの富士山。ただし下界・富士急行富士山駅から(下に青色の車体がちょっぴり)10月30日
富士山麓五湖山からの精進湖・ほんとうは向こうに富士山が見えるはずなのだけれど…

紅葉はすばらしかった…


10月の山歩き


10月4日~14日 スペイン サンディアゴ・デ・コンポステーラへの巡礼路(114km)を
      歩く旅に参加…旅行記Blogにアップしました。こちらもよろしく!


10月30日 河口湖(車)→精進…五湖山(1340m)…横沢の頭(1465m)…王岳  
   (1623m)…根場→河口湖(車) 縦走 8.4㎞ 6時間
前半のスペイン行11日間のあとは連日の映画祭上映に追いまくられ、なんとか1日は歩きたいと日帰り山行。天気がいいとのことで富士山との遭遇を期待して行ったのですが、なぜか、下界でははっきり見えた富士山、山上ではそこだけ?雲がかかって見えず(残念)。
でも久しぶりの上り下りある山道歩きと、紅葉・黄葉を堪能して、楽しんだ山歩きでした。
最近どこの山に行っても見かける鹿。今回は姿は見ませんでしたが、午後も深まったころヒューッ、ヒューッと物寂し気な鳴き声が聞こえてきました。まさに「奥山に紅葉踏み分け鳴く鹿の声聞くときぞ秋はかなしき」。花はトリカブト・リンドウと紫の花が紅葉に映えて目も楽しませてもらいました。

トリカブト


10月の映画   

①シティ・オブ・ジョイ②わたしは最悪③マイ・ブロークン・マリコ④アトランティス⑤メイド・イン・ヘブン➅建築師(BRICK)⑦穿过寒冬拥抱你( Embrace Again)➇いのちの停車場⑨七人の秘書 TheMovie  
‥‥9本中③⑤➇⑨が日本映画、➅➇は中国映画、⑤➅⑦➇は機内鑑賞でした。

【2022東京・中国映画週間】

①父に捧ぐ物語(我和我的父輩)②母への挨拶(带你去见我妈)③月で始まるソロライフ(独行月球)④トゥ・クール・トゥ・キル(这个殺手不太冷静)⑤宇宙から来たモーツアルト(外太空的莫扎徳)➅奇跡の眺め  (奇迹 笨小孩 NICE VIEW)⑦アンティーク・ゲーム(古董局中局)➇クラウディ・マウンテン(峰爆)

後半は東京・中国映画週間(大陸の最新映画を上映)から東京国際映画祭、東京フィルメックスと映画祭が日を重ねつつ、目白押しで今年はがんばってアジア映画を見られるだけ見る、ことにしたので一般劇場公開は後回しになっています。月前半と、スペイン往復の航空機内鑑賞、それに東京・中国映画週間で見た作品を今回は紹介します。
★は、なるほど ★★は、納得! ★★★は、ウーン、おススメ‥‥いつも通りです。各映画最後の番号は、今年になって劇場で見た映画(一部例外有)の通し番号です。


①シティ・オブ・ジョイ
監督:ローランド・ジョフィ 出演:パトリック・スウェイジ ポーリーン・コリンズ オム・ブリ シャバナ・アズミ 1992フランス・イギリス 135分

アメリカで手術した少女を死なせ医師をやめた青年マックスが、インド・カルカッタにやってくる。一方インドの田舎から家族をあげてカルカッタに出稼ぎにやってきたハサリー家。カルカッタで診療所を運営し、マックスに手伝いを求める女性ジョアン、彼らを搾取する町の支配者とその息子との攻防を通しつつ、最初は町に愛着もなく診療の手伝いなどする気もなかったマックスが変わっていくという、いわば成長譚。そしてハサリー家のほうも様々な圧迫や嫌がらせなどの中で、権力者に立ち向かっていく男の変化が描かれるという、感動巨編なのだが…長い、画面は黄色っぽい色調なのだがなんか暗くて(これは私の眼のせい?)時々の見せ場で目をひかれるアクション映画っぽいところはあるのだが、全体的には沈潜した感じだなあ。最後ハサリー家の娘は恋した相手と結婚をすることになるが、カーストが違う?花婿側の家族は持参金を要求。ハサリーは苦労してそれを作って無事に結婚式のシーンで映画はクライマックスを迎えるが、ウーン、こんな結婚幸せになるとも思えないしなあ、有色社会で白人が頑張って支えるみたいな構造も時代の制約とはいえ、どうなんだろう。下高井戸シネマでの4kデジタル・リマスター版上映(10月1日 下高井戸シネマ 218)


②わたしは最悪
監督:ヨアキム・トリアー 出演:レナーテ・レインスヴェ アンデルシュ・ダニエルセン・リー ハーバード・ノ―ドラム
2021ノルウェイ・フランス・スェーデン・デンマーク 128分

アカデミー賞にノミネート、カンヌで女優賞を取るなど、世界の映画祭を席巻しているとして話題になり、7月1日の公開以来丸3ヶ月のロングランを続けている作品だったが、人生の定まらない若い女性の恋と自分探しというテーマはどうなんだろう、と足が向かず、ようやく下高井戸で見る。
北欧の白夜の長い夜を舞台?にヒロイン・ユリアの人生の模索、知り合った40代の漫画家?アクセルとの同居。若いユリアを妻や母の枠に押し込めたくないというアクセルに、ユリアは恋をするのだが、実際に暮らしてみると話が合うはずが、すでにキャリアを持つ男は妻たり母たるをユリアに求め、ユリアは心穏やかではない。
やがて紛れ込んだあるパーティでアルヴィンという若い男性と出会い、ともに恋人を持つ身でありながら一夜の浮気…ま、「最悪」と言えるようなユリアの模索はみていてなんだか苦しくもあり、男も女も恋についてセックスについて縷々真面目に語るのでくたびれる。
やがてアクセルと破局に至った彼女はアルヴィンと暮しはじめ妊娠する(アルヴィンは最初から子どもはほしくないという男でユリアはそこが気に入ったのだろうが、悩む)そこへアクセルが膵臓癌に冒されて治る見込みがないという報せ…、そこでまたアクセルとの関係も描かれ、と迷走するユリアの行くところ知らず。見ていてとってもくたびれる。
それが12章くらいあって終章でユリアはカメラマンとして自立、アルヴィンが別の恋人と子育てをするという皮肉を遠くから笑顔で見つめるという、ウーン。とにかくぐちゃぐちゃ結構くたびれたのは、私が日本人・老人であるからかしら…(10月1日下尾高井戸シネマ 219)

③マイ・ブロークン・マリコ
監督:タナダユキ 出演:永野芽郁 奈緒 窪田正孝 尾美としのり 吉田羊     2022日本 85分  ★

平庫ワカの原作マンガの映画化、話は単純?で幼い時からの親友ーこれがけっこう面倒くさそうで、マリコはトモヨ(椎野)に「恋人を作ったら死ぬ」と脅しまがいの愛情表現?をしながら、自分は暴力を振るうような恋人を作り別れ、をくりかえしている。彼女は幼い時から父の暴力を受けて育って、あきらかにそのような性向の中で自立できないのであろうが、椎野のほうも行ってみればそのようなマリコに共依存してきた?と思えなくもないような関係。
そのマリコがマンションから飛び降り自殺したことを椎野はTVのニュースで知り、ブラック企業の会社を放り出し、マリコの家に乗り込んで父親の暴力を受けながら包丁を突き付けて遺骨を奪い飛び出す。当てはないが、マリコがかつて行きたいと言っていた岬に行こうと出かけるが、目的地のバス停を下りたとたんにひったくりにあい、遺骨以外のすべての持ち物を奪われ、釣り人らしいマキオに助けられる…ということで全編不安の中にありながら妙に疾走感のある(原作由来?)という不思議な作品で、永野の逆上ぶりも見たことのない(でも不安に裏打ちされたことがわかる)演技で印象的。もう一人、この不幸な親子関係から抜け出せず自分に自信がない(が幸福を求める気持ちも多分人一倍強い)女性のふらつきと甘えを演じた奈緒なくしてはこの映画、成立しなかっただろうなと思わせる彼女の演技も特筆に値する気がする。時間の関係で、そんなに期待もしないというか、うざいテーマだよなと思いつつ見たのだが、けっこうよかった。(10月2日 府中TOHOシネマズ220)

④アトランティス
監督:ヴァレンチン・ヴァシャノヴィッチ 出演:アンドリー・ルイマルーク リュドミラ・ビレカ ワシ―リ・アンドニャク2019ウクライナ109分 ★★★

ロシアとの戦争終結から1年後の2025年のウクライナ―ロシアが支配していないからウクライナは戦争に勝利したのだろうが、それにしても国は荒れ果て、地雷の撤去もまだ10年、20年かかりそう、主人公セルビーの住んでいた家ももはや廃墟状態、天気はいつも悪くて画面は灰色がかって暗い。セルビーはタンク車で水を運ぶ仕事しているが、このあたりほとんどセリフもなく機械的に働いている感じ。
あるときセルビーは道で立ち往生している車をレッカーして、その車で遺体収容のボランティアをしている女性と知り合う。遺体収容のシーンは繰り返し出てきて医師が特徴を述べ立てるのが生々しく悲惨だ。遺体はロシア兵もウクライナ兵も、また袋詰めにされて虐殺されたとみられるような遺体もある。
彼は女性を助け自らも収容のボランティアに参加するようになる。というような彼の孤独で淡々と生きているかのような暮らしぶりが書かれるが、地中でタンク車の水で風呂を沸かして気持ちよさそうに入るシーンがあったり、また燃えている車に遭遇して乗っていた人を助けたりというようなシーンが挟み込まれたり、彼の「生」に向かい合う姿が少しずつ示される。クライマックスは、やはり故障して動かなくなった車のレッカーを頼みそれを待つ間のセックスシーンだろうか。これは暗い中で影のように描かれるのだが、終わって車の後ろの扉を開けると雨模様とはいえ白銀の光が四角い枠にあふれ解放感がある、そして暗闇でお茶を飲む二人、セルビーは、死のうと思った戦争中から多くの友人の死を目にして生きようと思うに至ったと語り、ガスコンロの火を消すとふたりが抱き合う姿がサーモグラフィー・カメラで赤く浮かび上がる。
このカメラワークは実は映画の最初にもあって、そこでは穴を掘り、人を叩き落し、そして殴り殺して穴を埋めるという経過がサーモグラフィ・カメラで撮られて、あたかも死と生の対比が描かれ、全体には暗い色調の映画だがそこで人々が新たに立ち上がり自分なりの生き方を求めっ用としている姿が浮き上がってくるのである。『リフレクション』(2021)と一日交代の特別上映だが、そちらは見損ない、やっとこちらだけは見ることができた。
(10月3日 下高井戸シネマ 221)

⑤メイド・イン・ヘブン
監督:丹野雅仁 原作・脚本・製作:カマチ 出演:手塚理美 国広富之 佐々木心音 2020日本88分

若くして亡くなった妻が住むあの世と、老いに差し掛かり気力を亡くした小説家の夫・志田漱石。妻はあの世で夫が来るのを待ちわびていたが、夫はある日知り合った若い女性とともに事故に遭い他界、しかも記憶を失って妻の前に現われるが、若い女性の方と暮すという、怒る妻。一方妻の前にも知り合いの酒屋?の青年が転がり込み、また小説家志望という青年が書いた原稿を読んでくれということから付き合いが始まる。そして…というわけで木更津が舞台だそうだがこの世みたいなあの世の、なんかファンタジーと言えばファンタジー(時空も超えるみたいだし)なんだろうが、現実っぽくもあるへんな後味の映画だったのは機内食を食べながらも含めての機内鑑賞だったせい?
映画館で見たら眠くなりそうなリアル(大した出来事のないホームドラマ)。でも機内や家でDVD/ネット鑑賞だと頭に入りにくい?という感じもする映画だった。(10月4日 エミレーツ航空319便ドバイ行機内鑑賞 222)

➅建築師(BRICK)
監督:丁文剑  出演:韓立 呉可熙   柳秉鈺  2019中国93分

秦州を舞台にシンガポールで成功して帰郷した息子と、レンガ職人の父の息子を思う愛と受け入れがたい確執をもつ息子ーそして父の死までを描いたみたい…。なんか普通の中国の庶民の暮らしそのものような光景・風景で星野源を少し長くしたような顔つきの韓立もあまり共感の持てないというか華の感じられないキャラクター(機内鑑賞のせいかもしれないが)なのだが、とにかくカメラアングルのセンスが抜群で1シーン1シーン絵のような印象的かつ地味だが美しいシーンの連続を堪能した。あとでネット検索をしてみたら、母の死や昔秘かに思っていたガールフレンドに子どもが生まれないのは「九十九间半宾馆」というのが関係があってそれが父子の確執にも絡んでいるようなのだが、機中で映画を見ているときにはそのことは全然わからず。アナウンスなどで中断されたり、こちらが寝てしまったりしたせいか…うーん。(10月5日 エミレーツ航空141マドリッド行き機内鑑賞 223)


穿过寒冬拥抱你( Embrace Again)
監督:薛暁路 出演:黄渤 賈玲 朱一龍 周冬雨 呉彦妹  徐帆 高亚麟 中国2021 124分

武漢封鎖の2020年冬から春、ある病院を舞台に、ボランティアで働く人々、医師やその家族などの奮闘と人間関係を描く群像劇。ボランティアに打ち込み家族そっちのけで妻の顰蹙を買う男(黄渤)の息子への愛、娘とギクシャクしながら?自身は病院に医薬品を届けるボランティアをする女性(賈玲)と若いナース(周冬雨ー賈玲と渡り合ってさすがにうまい)との交流(と、その看護師のコロナ死)また、彼女を励まし、自らも作曲しつつオンラインで子どもたちにピアノを教える作曲家。こちらもギクシャクしつつともに医療に打ち込む医師夫婦ー彼らには妻の妊娠という慶事がめぐってくる。娘を失って娘婿と孫と暮す老産科医(呉彦妹がきりりと恰好いい。彼女もコロナにかかり死の淵をさまようが、生還するという役どころ)などが入り乱れ?様々な悲喜劇的エピソードで話が進むが、要はあの厳しかった武漢封鎖のコロナ禍、良き市民たちは自らの生活の悩みを抱えつつも誠実にコロナに立ち向かい、自ら倒れたりすることもありつつ、コロナを撲滅したのです、という悪く言えば美談集、よく言ってもこの封鎖の中でネットや、当事者たちの語った「武漢問題」には触れられることもなく、政治がそこに介入するというような状況が語られることもなく、中国政府や国民たちの意識の高さというかすばらしさが称揚され、そこに武漢の美しく近代的な景観があたかも観光案内のように織り込まれるという、まあ、見ていてわかりやすいし、役者たちはみな魅力的で力のある人たちなので思わずフーン、と見せられてしまうが、ちょっとうさん臭さも感じずにはいられない映画ではある。(10月5日 エミレーツ航空 エミレーツ航空141マドリッド行き機内鑑賞 224)

➇いのちの停車場
監督:成島出 出演:吉永小百合 松坂桃李 広瀬すず 西田敏行 田中泯 泉谷しげる 石田ゆり子 佐々木みゆ 2021日本119分

まずはともに1945年3月生まれで誕生日が3日しか違わない田中泯と吉永小百合が親子役というのに驚く。田中泯の年相応の老けメイク?と吉永小百合の驚異的若さ(77歳とは…映画撮影時でも75くらいではあったはず。役の上では50代というところか)。現役の救急救命医が、部下というか出入りの業者?(医師国家試験を3度落ちたという設定)の緊急時の医療行為により、その責任をとって大病院を辞め郷里金沢に戻って小さな在宅終末医療を行う「まほろば診療所」に就職。今までとは全く違う在宅の命の先の見えた人々の医療・介護にあたっていくという映画で、吉永は救急医療現場ではなんとも頼りなさげな主任医師だが、在宅医療の方は「分からない」から始まる設定でもあって、それなりにリアリティをもって演じている。5人くらいしか患者のいない診療所で雇われ医師、看護師、それに押しかけで彼女を追ってきた辞職の原因を作った青年までを雇い、いかにしてこの診療所は成り立っているのかというような疑問は最後まであるが、ま、それはそれとして人の死を扱いながら、なんとなくほわッとした雰囲気に仕上がっているのはやはり、吉永小百合という得難い女優の醸し出す雰囲気なのだろう。小児がんで死にゆく少女を演じる佐々木みゆは『万引き家族』ではネグレクトで捨てられる少女だったが、全体に漂うそのはかなげな雰囲気はこれまた特筆もの。映画館ではあまり見る気がしなかったが、機内鑑賞のような状況ではわかりやすいし、気軽に見られた。(10月14日 エミレーツ航空142東京行き機内鑑賞 225)

⑨七人の秘書 TheMovie
監督:田中直己 脚本:中園ミホ 出演:木村文乃 広瀬ありす 大島優子 菜々緒 シム・ウンギョン 室井滋 江口洋介  玉木宏 吉瀬美智子 濱田岳 笑福亭鶴瓶    2022日本 118分

それぞれの個性と特技を持った6人の女性に男1人という配置、男が結構元締め的なのが気になるところではあるが、一方ラーメン屋を営み、自ら作ったラーメンで女たちの腹を満たしてやっているという設定が面白くテレビ版を時々見ていた、その流れで映画もということに。監督も脚本もテレビのままだそうで、ただ映画らしく、信州・北アルプスの雪景色の中に舞台を移し、牧場と邸宅とを大火災で燃え上がらせというスペクタクル的要素に、1週間の間に起こる2つ3つの恋愛的感情?も含めて、テレビドラマの延長に見せ場を作ったという感じの仕上がり。鶴瓶のドンはどうもなあ、という感じだし、濱田岳は思いのほか出演場面少なく(忙しかった?)玉木宏の陰影というか裏表ある男の一人勝ちというところ。とはいえ、釣瓶を父に玉木、濱田を含む5兄弟、これほど似ていない兄弟(見かけが)もいないんじゃないのという感じはぬぐえず。(10月16日 府中TOHOシネマズ 226)

ここからいよいよ【2022東京・中国映画週間】
会場は日本橋TOHOシネマズ(チケットはスペイン滞在中にバス車中でスマホGET)地球が小さくなった?ことを感じながら、数日の日本橋通いでした。


①父に捧ぐ物語(我和我的父輩)
監督:呉京・章子怡・徐峥・瀋騰  出演:呉京 章子怡 徐峥 瀋騰 呉磊 黄軒 宋佳2021中国 157分 字幕:加藤浩志


 今を時めくというか、今や中国を代表するといってもいい4人の俳優が監督を務め、自ら主演した4本、時代は1945年までの抗日戦(『乗風』呉京)、69年初期の事故の多かった宇宙ロケット開発に挑む夫婦(『詩』章子怡)、改革解放の90年代(『鴨先知』徐峥)、そして2050年から2021年に来たAI(『少年行 バック・トゥ2021』)。いずれも父と子をテーマにしていて、相変わらずの中国の名子役の活躍(しかも美少年・美少女ではないところがなんともリアリティ)する中国称揚のオムニバス大作。
最初の抗日戦は騎馬隊の戦闘シーンの迫力(もちろん人民解放軍の参加)ばかりが目立ち、大人になった息子(呉磊)と同じ隊に属する父というドメスティク戦場映画、あたかも書き割りのごとくにくっきりとした背景は何らかの意図とは思われるのだが、どうも人物ばかりが浮き上がって見えて濃いけど疲れるし、二本目も章子怡と黄軒の夫婦が宇宙開発に勤しむ中での夫婦愛みたいな話で(この映画の冒頭の子どもたちが広場で入り乱れて遊ぶさまの長回し?映像は、子どもたちの演技力も含めてなんかすごく迫力があった。色調としては1本目とは打って変わってセピア系)役者たちの健闘は目立つものの、話としては陳腐とは言わないまでも、まあフツウ。
3本目はさすがの徐峥映画で、先を見てもうけようと動こうとするが、必ずしもうまくはいかない変わり者と言われて母からも家をたたきだされるような父が、電話もコードレスになり、黄浦江にタワービルが建つ未来を信じて健闘し、中国最初のCM撮影と放映に成功するまでを小学生の息子の目から描くというもの。2本目では大人になった息子を陳道明が演じているが、この3本目には張芸謀がワンシーン出演で「わたしも映画人のはしくれで…」みたいなことを言っているのが笑いを誘うというおまけも。
4本目は2050年に開発されたAIが時間旅行の実験として21年に送られ、そこで父のいない発明好きの少年の父代わりとなるという話で、最後に息子が50年のAI開発者になっているというのは、けっこう先が見える、シュテュエ―ション的には難しかったろうなアと思われる出来におさまってはいるが、それにしても我が国の父は立派、家族関係は麗しく,こうして社会(というより技術)は発展してきたのだみたいなものがけっこう見え見えの押しつけがましい力作という感じがしたのは確か。題名「父に捧ぐ」は?「捧げる」かせめて「捧ぐる物語」じゃない?(10月18日 日本橋TOHOシネマズ 227)

②母への挨拶(带你去见我妈)
監督:藍鴻春 出演:鄭潤奇 鍾少賢  盧珊 鄭鵬生 連錫龍 2021中国 100分 ★


出だしは汕頭の肉屋の朝、てきぱき働く母とわりとホワンとしている祖母・父・弟の家族からだが、主人公は深圳で働く息子ズーカイとその恋人でバツイチのジンサン·。汕頭の母は息子の見合い相手を深圳まで送り込んでくるほど息子の結婚を心配していて、そんな母にズーカイは恋人との結婚を言い出せない、が一大決心、家族の祭事に彼女を連れて実家に戻り家族に引き合わせることにする。とこんな設定はどうもなあ…、古くさい中国の母とそれに遠慮する息子が私の生活感覚にはなじまなので半身引きながら見ていた感じ。しかし、その後映画は汕頭の生活習慣や伝統行事や食事などのあたかも観光案内のような様相も呈し、それを案外楽しむジンサンも親しみを感じられるようになってきて楽しめる。子作りを進める祖母とのやりとりなどもなかなかに露骨でこんなものかと面白い。
但しこのやりとり家族は基本的にジンサンの理解できない汕頭方言で、若い人が年寄りとの通訳に立つという設定。一方ジンサンはが海外からの客と英語でやりとりをして母に感心される場面などもあって、人々が全国規模で移動する中で、言葉さえも通じ合えない中国社会の状況がもたらす混乱というようなものも垣間見えて興味深い。母はジンサンを「外省人」と呼ぶがそれなりに気にいる。しかしズーカイはなかなか母に恋人の離婚歴を言い出せず、それは深圳から帰省した母の弟の口からもたらせられ、途端にこの恋人関係は破綻してしまう…とまあ、中盤まではタラタラ疲れ、後半に入って意外と洗練された話の運びにちょっと見入ったあたりで予想通りの悲恋的結末化と思いきや…最後は母が深圳へ、そしてお定まりの空港でのすれ違い的別れシーンもあって、場面がジンサンの故郷杭州まで飛ぶところが、なんとも現代的。この母も外聞や伝統を気にする割に、厚ぼったいお釜のような後ろ刈り上げのボブカットもなんとも愛嬌があるというか特異なスタイルに、現代風ファッション(ただしオバサン的)も時にあり「母モノ」に出てくるような感じの母ではまったくなく、そこがやはり時代というか、現代中国の変化?を感じさせる一本で、意外に楽しめた。午後上映で会場は端の席のみ埋まるという感じのガラガラ(10月20日 日本橋TOHOシネマズ 228)

③月で始まるソロライフ(独行月球)
監督:張吃魚 出演:瀋騰 馬麗 常遠 李誠儒 黄才倫 辣目洋子 黄子韜 2022中国122分


①でも活躍の瀋騰主演の月世界に一人取り残された男のサバイバル劇というと『オデッセイ』(2016リドリー・スコット作品マット・デイモン主演 ただしこちらは火星)を思い出させられるが、こちらは彼の深刻さはあまりなくて―話としては決して深刻でないわけではないし、ハラハラドキドキのサバイバルアクションもあるし、最後にネタバレだが主人公は身を犠牲にして地球を救うというヒーロー劇でもあるのだが)さすがは瀋騰?お金をかけて特撮もばっちりでありつつ、コメディアクションに仕上がり…劇画が原作らしい…なるほどね。
人よりワンテンポ遅れみたいな整備士孤月(宇宙飛行士ではない)を見捨てて隕石の迫る月から脱出する隊長・馬藍星(孤月は片思い)を演じるのが馬麗だが、この人ってカリーナ・ラウに似ているなと思った。7時からの上映で会場は結構な入り、中国人女性が多くて、中国語の会話もだが、映画中は笑いが絶えず、という映画だった。(10月20日 日本橋TOHOシネマズ 229)

④トゥ・クール・トゥ・キル(这个殺手不太冷静)
監督:邢文雄 出演:馬麗 魏翔 陳明昊 黄才倫 2021中国109分


三谷幸喜作の『マジック・アワー』を下敷きにしたということで、そのことはエンドロールでもきちんと示されているが、うん?見たところのイメージはかなり違うかな…佐藤浩市演じた売れない役者村田は、こちらは魏翔が熱意空回りのエキストラとして演じ、妻夫木聡演じた備後は、黄才倫?だが最初から映画監督、その姉ミラン役の馬麗(華麗な衣装のとっかえひっかえ)と役を分け合って主人公の魏成功を映画の主役として殺し屋役にしたてヤクザのボスとの取引にもつれ込むというのは原作を踏襲しているが、どちらかというとその役者の自分を映画の主役と信じて演じる殺し屋ぶりの方がメインで、三谷作品にあったと記憶する様々な人間が絡むようなエピソードの類はカットされて、ひたすらに魏翔と馬麗のビジュアル、それにこれは原作を踏襲しているとも思える舞台となった架空都市のいかにも架空的なおもちゃのようなセットなどを楽しむ作品かな。
魏翔は亡くなった親友の盲目の父の前で、親友を演じて父に息子は死んでいないと思わせる嘘のような演じ手として、まあ人情もの的演技への打ち込みようが描かれるわけで、そうい意味では役者であることの喜びや悲哀を原作よりは強調するような描き方という気も。(10月21日 日本橋TOHOシネマズ 230)

⑤宇宙から来たモーツアルト(外太空的莫扎徳)
監督:陳思誠 出演:黄渤 栄梓杉 姚晨 範偉 2022中国 136分


『僕はチャイナ街の名探偵』の陳思誠作品で、話としては地球にやってきた宇宙人と地球の少年が交流をするという、ま、いわば『ET』みたいな作品なのだが、ウーン、なんとも中途半端な感じがする。少年は栄梓杉で千葉雄大をもちょっと美形にしたような、雰囲気としては成田凌+周冬雨?(どういう形容?)みたいな印象的な美少年ではあるが声変わりはしっかりして身長も父役の黄渤をはるかに超える、というわけで13歳という設定も、その「少年」が、異父弟にもらったパンダまがいの見かけは幼児向きという感じの外形をした「地球外生物」を抱えているというのがなんとも異様な感じがするが、こういう可愛い系が受けるというのは現代青年の特徴?
話も、見果てぬ親の夢(少年の父は元ロックシンガーを目指し、ジェイ・チョウのバンドに誘われたこともあるが、台湾には行きたくないと断ったとか)をかなえるべくピアニストを目指すべく英才教育をされている少年が、実は本人は宇宙や天文に興味があり、親の押し付ける未来に反発する…という設定なのだが、その親は、息子の教育をめぐって対立し離婚して母は再婚、息子にとっては異父弟がいるという設定とか、父親にもさらにその父親から押しつけらそうだった未来がある(この祖父が範偉で、なんで出てくるかわからないようなワンシーン(+α)出演。と親と子のワンパターン的な確執(冒頭カメラは高層ビルの下から上へと上がっていき、勉強や、さまざまな特技の英才教育をされる子どもたちを映し出していく、そして最上階でピアノを弾く少年ということで、そこだけ見ると教育や社会の価値観に対する社会派的視点も盛り込んでいるみたい)。
一方空に敷いた本の上を歩いて移動し、落ちれば宇宙人が救うとか、アトラクションの船に乗り万里の長城に飛ぶとか、妙にファンタジー的世界が展開されたり、なんかいろいろこてこて盛り込んで楽しませようという気分はあるものの、ヘンに中途半端に終わってしまっているという感じだろうか。ウーン。しかも宇宙人が宇宙に戻ったあとも話がなかなか終わらず延々136分。黄渤もわりと見せ場なく宝の持ち腐れ的感じもあるし、なんかもったいない感じがする作品だった。(10月21日 日本橋THOシネマズ 231)

➅奇跡の眺め  (奇迹 笨小孩 NICE VIEW)
監督:文牧野 出演:易烊千璽 田雨 陳哈琳 齊渓 公磊 2021中国 106分 ★★

2021年の中国宣伝部国家電影局重要映画プロジェクト作品はともかく、共産党創立100周年祝賀作品という看板まで背負っている本作品、少々身を引いてしまうような感じも。恐る恐る見たのだが、結論から言うとあまり共産党臭さというか中国社会称揚みたいな雰囲気はなくて、苦境に置かれた青年が自らの意志と知力と、そして同じように貧しい恵まれない立場にある仲間のバックアップで苦境を乗り越え成功し皆が幸せになるという、一昔前の『頑張って仲間が力を合わせれば幸せになれる』みたいなわかりやすいコンセプトなのだが、それを携帯電話の修理と再活用事業という現代的なテーマの中に置いて、さらに青年(『少年の君』でのチンピラ純情ぶりが記憶に残る易烊千璽)と妹(相変わらずの子役の達者さ)の関係、彼らを支える人々の貧しさ・健気さ・優しさみたいなものもたっぷり見せ(田雨、ロウ・イエ作品に出ていた齊渓、それに妹の学校の校務員役は田壮壮?というさすがの豪華配役)それでいて、やはり中国社会にも他人を陥れたり盗んだりまた差別するような人もありそれと戦う主人公は苦い目にもあうが最終的には彼らを乗り越え見返し、その途中には派手なアクション的シーンやお定まりの大雨シーンなどもあって起伏もあって見ごたえもあり、後味も悪くない作品に仕上がっている。どう見ても共産党を身に背負うというよりは資本主義的な社会で生きていきそうな主人公たちだが、おりしも第3期の続投に入り対抗勢力?を駆逐しつつあるような習近平体制が決まった日、この映画の主人公のような、また文牧野らのようなある種共産党的価値観に距離を取りつつ、しかし決して敵対しない(というかむしろ党にも価値を認められる)ような映画人はちゃんと生き残っていくんだろうし、それゆえこういう映画が作られた価値はないわけではないと思うのだが、中国社会はますますの分断差別の中に落とし込まれていくのではないかという恐怖も感じざるを得ない。(10月22日 日本橋TOHOシネマズ 232)

⑦アンティーク・ゲーム(古董局中局)
監督:郭子健 出演:雷佳音 李現 辛芷蕾 葛優 郭濤 2021中国 123分 ★

かつて日本人が買い去った仏頭の返還を、現在の持ち主である女性・木戸佳奈がかつての発見者であり持ち主であった許家の当主に返したいと希望する。しかし許家は没落、当主の行方は分からず息子許願は(実はすぐれた古代文物への知識を持ちながら)飲んだくれて電気製品の転売で暮らしている。骨董会権威の五脈派の当主の孫娘が許願を探し出すが、彼は返還を持ちかけられた仏頭が偽物であることを見抜く。そこからライバル一家のエリート跡取り息子も絡んで、許願の父が隠して暗号?暗示で許願に行方を示しているらしい仏頭の行方探しが展開していくという物語。
父親の残した骨董品の真贋によるモールス信号からたどり着いたのが謎の男(葛優がいかにも謎めいてヘンなオジサンを好演-最後涙を誘う?までー)そこから仏頭が隠されているらしい秘境の村?へ。寺院とかその奥にある洞窟?とかインディー・ジョーンズばりのサスペンスアクションへとどんどんエスカレートして、とうとう仏頭のホンモノ?にたどり着くがそこでまたライバルとの駆け引き奪い合い、許願が父と別れる前に教わった囲碁の知識とかそういったものが次々と繰り出され、あたかも亡き父に導かれるように話が進むのだが…。
でもどうなんだ?仏頭が偽物とわかったら、木戸が返還するということの意味もなくなるのでは?と思っていると最後のところで実は仏頭のありかは…というところでアッという解決策、木戸は救われる?のだが、なら何であれほどの活劇、人の命も失ってまでの冒険劇が必要だったの?とも思えてしまうが、まあ、父の足跡を探るというところが主眼かもね…。『燃えよ爺ドラゴン』のデレク・チュウは香港新界生まれの香港育ち、香港映画界で活躍してきた人で、この映画も中国古来の文物をテーマとしながら香港映画っぽいテイストが感じられる。(10月23日 日本橋TOHOシネマズ233) 

➇クラウディ・マウンテン(峰爆)
監督:李駿 出演:朱一龍 黄志忠 陳教 焦俊艶 2021中国 114分

お金はある。国力発揚には、まず世界規模の地殻変動、突然に起こる高鉄トンネル工事現場の地下水大流出、当時に近くの町で起こる地盤陥没、そこに技術者の主人公を訪ねてくる元鉄道部隊の父親、主人公と父との確執、主人公の恋人の調査隊調査員、それと隊長と働く女性たちを絡ませ、事件としてはご都合主義的な設定という気もするが怒涛の2時間近くを見せきり、非リアリズムにも有無をいわさない迫力に圧倒された。
主役の朱一龍は先日航空機内で見た武漢危機の映画で音楽教師件作曲家を演じていた人だと思うのだが、どうも同一人物が演じているとは思えない雰囲気の差…ていうことは名優なのかな?概ねCG(やスタント?)なんだとは思うが大健闘の垂直岩壁のクライミングとか洞窟探索シーンとか車での山道下り(ごろごろ転がるごとく、最後は川に突っ込み車大破)、岩壁からヘリコプターへのジャンプとかあらゆる見せ場を詰め込んでこれでもかこれでもかという映画。爆薬を大量に使いお金のかけ方も半端でなく、中国映画界の「国力」をまざまざと感じさせられて、興奮しつつもちょっと疲れた!(10月23日 日本橋TOHOシネマズ234)

★ここまでで中国映画週間は終わり。
年々再々中国映画へのお金のかけ方のすごさに圧倒されてきましたが、今年はさらにそれに「洗練」が加わった感じがします。字幕ももはやかつて感じたような「ヘンな翻訳、ヘンな字幕」の片鱗もなく、これからが、ますます興味深く感じられます。
★東京国際映画祭・東京フィルメックス報告は次々回に。

★先月、検診で肺の要精検になったことを書きましたが、スペイン旅行帰国10日後(海外に行った人は帰国して10日しないと検査はしませんとのことで)に肺のCT検査。肺の輪切り映像は生まれて初めてでしたが、古い肺炎の痕とかはあったものの、特に問題になる箇所はなく無事に放免されました。あー、よかった。またも「マグロ体質」が頭をもたげ、次はどこに歩きに行こうかな…

書きました!よかったら読んでください。

よりぬき【中国語圏】映画日記
「香港に流れる時間の記憶とともにー『2046』(王家衛的世界)と『憂鬱の島』」
 TH(トーキングヘッズ)(2022・10)アトリエサード・書苑新社

根場からみる雪頭ヶ岳と紅葉の林(10・30)

寒くなってきました。今年は冬が来るのが早い?  どうぞ、皆さま、お元気で

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