【勝手気ままに映画日記】2022年9月

 
憧れの?雲ノ平山荘 

9月5日雲ノ平  この日は雲ノ平~祖父岳~野口五郎岳への縦走

祖父岳からの槍・穂高方面
野口五郎岳頂上にて

9月の山歩き

3日~6日 富山(折立)~太郎平小屋~雲ノ平(雲ノ平山荘)~祖父岳(2825m)~水晶小屋~真砂岳(2861m)~野口五郎岳(2924m・野口五郎小屋)~烏帽子小屋~ブナ立尾根(高瀬ダム・大町温泉・松本)
台風に追いつかれないように必死で歩いた3泊4日。初日はやや雨模様でした。2日目太郎平小屋からの薬師沢ルートの険しさにいささか参りましたが、雲ノ平は素晴らしい景色、3日目は祖父岳~真砂岳~野口五郎と12Kmの長い縦走でしたがまあ快調。野口五郎小屋での夕方はブロッケンも見てご機嫌でしたが、最終日はとうとう追いつかれた台風・強風(15~20m)に尾根上でやっと歩きーこのため烏帽子岳は省略してブナ立尾根から下山。ちょっと下がって風がおさまったところでは雷鳥にも遭遇。長い下りを何とかこなして温泉に入って帰京というコースでした。2000メートルを超えたあたりから、ご飯粒がのどを通らなくなった…ビールや汁物は大丈夫なので、それで生きていたという感じです。

一応、ブロッケン(左山影の右麓)わかるでしょうか?

こちらは雷鳥たち‥黒いポツポツにしか見えないけれど


17日~19日 穂高(一の沢登山口)~常念乗越(常念小屋)~常念岳(2857m)~蝶槍~蝶ケ岳(2677m)蝶ケ岳ヒュッテ~まめうちだいら~三股登山口(穂高温泉しゃくなげの湯・穂高) 今回も台風…。懲りずに2泊3日の山行決行。ご飯は相変わらず食べられず、ゼリーとか、のど越しの良い食料持参の山旅でしたが、歩きの方は雨にも慣れてまあ快調、山を下りて温泉でのビールのなんとまあ、美味しかったこと!(山上では酒は飲まず、胃薬も持参して)花の季節はそろそろ終わり?でも天気があまりよくなかったので雷鳥にはしっかりお目にかかることができました。

9月の映画

①ワタシタチハニンゲンダ!②プアン③憂鬱之島④ブレッド・トレイン⑤グッドバイ・クルエル・ワールド➅彼女のいない部屋⑦LOVE LIFE➇靴ひものロンド⑨ウクライナから平和を叫ぶ⑩サハラのカフェのマリカ⑪沈黙のパレード⑫川っぺりムコリッタ⑬NOBODY KNOW チャーリー・パワーズ 発明中毒篇⑭欲望の翼⑮ギャング・カルテットー世紀の怪盗アンサンブル(イェンソン一味)⑯百花⑰さかなのこ⑱アリス・ギイ短編集⑲デリシュ⑳地下室のヘンな穴㉑三つの鍵㉒スワンソング㉓ボイリング・ポイント|沸騰㉔秘密の森の、その向こう(Petite Maman)㉕楽園の瑕・東邪西毒 終極版

日本映画をよく見た月だったかも…①⑤⑦⑪⑫⑯⑰と7本、中国語圏映画は③⑭㉕と見ましたが、②も含めて、いずれも過去に見た映画の再(再々々も)鑑賞でした。100年前、映画の創成期の作品と言ってもよい⑬⑱も楽しかったです。★は納得!★★はさらにプラス1?★★★はおススメという個人的意見。 最後の数字は今年映画館で見た映画の通し番号です。


①ワタシタチハニンゲンダ!
監督:高賛侑 ナレーション:水野晶子 2022日本 114分

出だしから噛んで含めるようなとても丁寧な説明的なナレーションで、このところ多いナレーションなし映像で見せるようなタイプのドキュメンタリーに慣れた目からは少し鬱陶しくも感じたのだが、みているうちに、この映画、カメラアングルとかビジュアルとかよりもとにかく「事実」を強く訴えたいというこだわりに、打たれ椅子に沈み込むような気持にさせられた。
事実としては知っていることが多く意外なことは特にないが(というか424行動ー朝鮮学校禁止を日本政府はした!とか、その反対行動の中で官憲の銃撃により16歳の少年が亡くなったとかはよく知らなかった…そうだったのかとショック)なぜ同じ人間として生まれて、自分の生きられる場所を求めて国を移動したというだけでこんな目にあわされなくてはならないのかという、つらさと怒りと、そして自分は何ができるのか、何もせずぬくぬくしているだけではないかという反省に打ちのめされてしまう。日本(特に政府?)の偏狭性をまたまた今更ながらだが感じさせられ、その気はなくても自分もお先棒を担がされている?という反省もしつつ…というか、人々にそういう気持ちを起こさせるための映画なんだろうな…(9月8日 アップリンク吉祥寺 193)

②プアン
監督:バズ・ブーンビリヤ 製作・ウォン・カーワイ 出演:トー・タナポップ アイス・ナッタラット 2021タイ 129分

実は8月に続いて2度目の鑑賞。今回は吉祥寺の3列しかない小劇場で。王家衛の特集上映を見た後、彼が製作を自ら買って出たというこの映画への彼の影というものを確認して(原稿書きのため)見たいと思い見たのだが…いや、かなり複雑に時間が行ったり来たりするし、ウードの3人目の元カノ訪問シーンを始め幻想?なども織り込まれ、過去から現在へとと時間が飛躍して話が進んで行ったりと、1回目にはかなりそのごちゃごちゃの翻弄されていたのだろうか、見落としたり見損なったりした場面も多かった…この話、特にボスの部分が『欲望の翼』のバージョンっぽいのは、前回8月にも書いた通りだが、ちょっと違うかもしれないのはウードの元カノ達も含め、女たちが自分の仕事と生き方をしっかり見定めているところか。それゆえ糸の切れたような男たちは身軽で、別れることも、最後に女の元に戻ったことによって元気を取り戻す?ボスのような生き方もありで、『欲望の翼』や『ブエノスアイレス』のような切ない切実さや陰影はない代わりに明るく開放的な感じがするし、もう1つ少し子どもっっぽいというか若々しい感じもする?ところかなとも思われた。
時間的にいうと最後の方の「マンハッタン3か月後」でボスは母からの自立を果たすのだが、そのシーンで母が「ウードは残念だった」といい、彼からのメッセージの入ったスマホをボスに残す。このメッセージの載せて語られるのは多分3か月前、プリムの居場所をコースターに残しウードが去り(必ず彼は会いに行くということばあり)実際に海辺の移動バーにボスがプリムを訪ねて行くシーンが幸せな終結になっているあたりの凝りようはやはり王家衛の世界かもしれない。    (9月8日 アップリンク吉祥寺 194)


③憂鬱之島 BLUE ISLAND
監督:陳梓桓 2022香港・日本97分 

これも7月に続いて原稿書き用に再鑑賞。一度目はよくわからなかったところ(いつもほとんど予備知識なしにいくので)がすんなり腑に落ち、今更ながらにすごい映画だと感心した。詳しくはTH(トーキングヘッズ)92号に書きます。(9月8日 渋谷ユーロスペース195)

④ブレッド・トレイン
監督:デヴィッド・リーチ 出演:ブラッド・ピット ジョーイ・キング アーロン=テーラー・ジョンソン ブライアン・タイリー・ヘンリー アンドリュー・小路 真田広之 サンドラ・ブロック 2022日本 126分 ★★

原作は井坂幸太郎の『マリア・ビートル』。舞台を東京から京都に向かう新幹線「ゆかり」に移して、失敗ばかりの運の悪い殺し屋レディーバグをブラピが演じ、日本舞台とは言いながら(多分日本国内の撮影ではなく)いわゆる純ジャパはほぼ登場せず、敵役のホワイト・デスが席を買い切ったとの説明は一応ありながら新幹線内の乗客もほとんどいなくて、ただ1つのブリーフケースとホワイトデスの息子(と娘も)と絡み合い狙いあう9人の殺し屋・やくざの入り乱れの目くるめく展開をあ、あ、あ、と思いながら見るうちに、前半ちょっとだけの出演で物静か、単に友情出演か(原作での位置づけもそんなにおおきくはないし)と思っていた真田広之が最後の方に至って格好良く殺陣姿の大活躍。
新幹線は止まることもできず京都の町に突っ込み(立っている東寺の五重塔?が何ともひょろ高くて、映画全体の日本の光景はいかにもCGで、なるほどね、ハリウッドの描く日本そのものだわという感じ。最後にサンドラ・ブロックが、こちらこそはワンシーン出演というわけで、フーン。いやはやなかなかに楽しめる?そこにちらりと親子の情愛と裏切り?のシビアさ・苦さを感じさせるようなシーンをいれたりしてなるほどね!という仕上がり。
殺し屋二人組のレモンとみかん(タンジェリン)がなかなか不死身の活躍で見せる。ジョーイ・キング扮する女子高校生?風俗のプリンスも、ジェンダー意識とうらはらなミソジニーと父恋?の複雑に絡み合った図形だが、最後がなあ、やむなしとは言いながら、こうしか終われないの?と思わないでもない。   (9月9日府中TOHOシネマズ196)

⑤グッドバイ・クルエル・ワールド
監督:大森立嗣 出演:西島秀俊 大森南朋 斎藤工 宮川大輔 宮沢氷魚 玉城ティナ 三浦友和 鶴見辰吾 奥田瑛二 2022日本 127分

『さよなら渓谷』『そこのみで光り輝く』の脚本家高田亮作品だそうで、西島秀俊はじめそうそうたるメンバーが活躍するクライム・エンターテイメントというのだが…、味わいとしては荒唐無稽っぽい(ドンパチ・ガンガンはいっぱいあるが、警察も来ないし一般社会人もそういう場にはほぼ不在、西島扮する元ヤクザを糾弾する町内会のメンバーというようなところにだけ一般市民が出てくるのは、むしろ『さよなら…』や『そこのみ…』に通じるようなクラさ)のだが、エンターテイメントっぽくぶっ飛んでいるというよりは、やはり「洗いたくて洗えないアシ」「いやおうなしに犯罪者になっていくような社会的な不条理?」みたいなところが強調されている感じで、唯一そういうこと無縁に冷酷な犯罪者を演じているような斎藤工はあっというまに殺されるし、見ていてカタルシスがないのは、まあ大森立嗣の世界だからしょうがない?
そういえば、主役は西島ということになっているが、彼はやはり普段の映画キャラに近い悩める元ヤクザだし、ヤクザ組織と関係をもって立ち回る刑事が大森南朋で、ほぼ主役級というか西島以上の露出度。しかもあまり意外性のない人物設定だし…。ヤクザ組織のマネーロンダリングの現場に踏み込み強盗に成功したグループ(首領が西島)が解散後、そのヤクザ組織に狙われ消されそうになり反撃し、そして最後はほぼ全員死亡みたいな陰惨な話に中で、かわいそうさとやけっぱちの反撃を演じた宮沢氷魚と玉城ティナのカップル、それに政治家秘書からコンビニ店主その後という転落をしていく老人を演じた三浦友和、さらにやたらに強面であちこちに出没する敵役を演じた鶴見辰吾の凄みなき凄みみたいなのはさすが、で印象に残ったけれど…。(9月10日 府中TOHOシネマズ197)

➅彼女のいない部屋
監督:マチュー・アマルリック 出演;ヴィッキー・クリープス アリエ・アルトワルテ 2021フランス97分 ★★

名優マチュー・アマルリックの監督で「家出した女性の物語」と知らされ「彼女に何が起きたのか、映画を見ていない人には知らせないでほしい」との監督弁があったとか、ウーン何なんだ!この惹句、」という作品。
確かに早朝夫と子供とともに住む家からそっと出ていく女性の姿からー子どもを抱きかかえ寝相を直したり、彼らに愛情を失って出ていくのではないことが強調、さらに途中のGSで経営者の友人らしい女性と会って、むしろ励まされるような出発の光景など、最初から伏線はいっぱい張られて、ただ彼女が出て行った後の夫と子どもたちの様子はすごくリアルな感じで???となるのだが、時間軸も同も行ったり来たりしているようで、オレンジ色のセーターに茶色のコートが家出後の彼女ねなどと思いながら見ていくとそれもまた後半何だか危うくなったり…ヒロインの幻想とも回想とも、現実ともつかない光景が入り乱れて現れる。家出後の車はアルプス近くの雪に山(スペイン国境みたい。スペイン語とフランス語で呼びかける二人が、雪の山の立ち入り禁止の場所に紛れ込む彼女を探すシーンもある。そしてこのあたりから雪のアルプスで起こった家族の悲劇が立ち上がってくるしくみ)に舞台を移し、悲劇的展開があったあと、彼女は今や無人の家をもう一度出ていくことになる。細かい家の調度とか、娘と自分のピアノと母子関係を重ねたり、子どもたちの激しいケンカを重ねたりで翻弄されたりするところもあるのだが、その翻弄そのものが目的のような映画なのだなと思う。フランスの田舎町、雪のアルプスの光景は極めて美しい。(9月11日 文化村ル・シネマ 198)

⑦LOVE LIFE
監督:深田晃司 出演:木村文乃 永山絢斗 砂田アトム 山崎紘菜 嶋田鉄太 神野三鈴 田口トモロオ 2022日本 123分 ★★

4年前夫が出て行った妙子は息子を抱え、1年前に職場の同僚(部署は違う?)二郎と再婚、公団住宅に住む。窓下の広場を挟んで向かい側の棟には夫の両親が暮らすが、特に夫の父は二人の結婚を快く思っていない。そんな中、息子の敬太6歳が、オセロ大会で優勝、夫婦は同僚も招き、夫の父の誕生祝いも一緒にということでホーム・パーティを開く。夫婦とも市役所の福祉関係の職員ということで、地域の人々や福祉の利用者などとの間に開かれた関係を持つ(特に妻妙子はその傾向が強く、人に頼られ、人にために働くことによって自我を確立しているような感じ)。
そのホームパーティの席上思いもかけなかった悲劇(息子の事故死)が起きる。茫然自失状態の妙子の前に現われたのは行方不明だった元夫のパク。彼は韓国人の聾者で妙子のもとに駆け寄るとものも言わず妙子を殴りつける。というようなところから、戻ってきて市役所に生活保護申請をするが話ができないので、妙子が手話通訳にかり出される。そこから、彼女はパクの面倒を見るようになり、夫の両親が引っ越して空いた(売れるまでは電気も水道も通しておくと父が言う)部屋に元夫を住まわせる。
一方の二郎は両親の引っ越しの手伝いに行き、その近くに住む元カノ(妙子との結婚直前まで付き合っていた)の山崎と何回かの逢瀬を持つーそんな中で妙子と次郎の関係はどうなっていくのか…。元夫のパクは韓国手話でしか、つまり登場人物では妙子としか話が通じないという設定だし、実際に聾者であるという演者の好感度が高い感じなので観客はつい、妙子の立場に立って共感してしまうのだが、考えてみれば幼い妻子を捨てて家出し、適当な時に現われて依存し、最後まで妙子を振り回すというとんでもなく自己中心的な人物だし、妙子は自立したシングルマザーであったのに、行動全体が相手本意(相手を思いやると言いつつ、ウーン)で自分があるのかないのかよくわからないところがある。
面白いのは夫の二郎で、まじめで人のために働き、理性的な、連れ子の息子を愛そうとし、彼を失ったときには思わず「本当の自分の子どもを持とうと思った」などという極めて誠実というか率直な人柄で、もしも何もなければ「かわいそうな夫」として映画の面白さは半減だったろうと思われるが、結婚前にしっかり同じ課の別の女性と付き合い、自分の都合で捨て、さらにまた会うようになるというようなワガママさというか破壊っぽい人格に描かれていて、つまりはみんながラブ・ライフを求めつつ、ワガママによって孤独にすれ違うというような様相が、職場の若い同僚があたかも兄のように慕う?休日付き合いするようなサークルを作る明るさとうらはらの明るい寂しさに満ちた孤独な空っぽ世界という感じがうまく醸し出されていて、なるほどさすがの深田作品。「ラブ・ライフ」は矢野顕子の楽曲から。
(9月11日 文化村ル・シネマ 199)

➇靴ひものロンド
監督:ダニエーレ・ルケッテイ 原作:ドメニコ・スタルノーネ 出演:アルバ・ロルヴァケル ルイジ・ロ・カーショ ラウラ・モンテ シルヴィオ・オルランド 2020イタリア 100分 ★

久しぶり見た「イタリア映画らしいイタリア映画」? 娘と息子のいる夫婦、1980年代、ナポリに住み、夫はローマに通ってラジオで朗読やパーソナリティを仕事としているが、職場の女性と不倫、それを妻に打ち明け二人の関係はぎくしゃく離婚に至る。面白いのはその後の妻の苦闘とかに話がいかないこと(もちろん苦闘はあり、精神的に不安定になった妻は自殺まで図るというシーンもあるのだが)。
話はその後40年近く後の現代に飛び、別れたはずの夫婦は一緒に住み、二人はなんかギクシャクしつつもともに夏の休暇の旅に出たりなどしている。若い時の妻を演じたアルバ・ロルヴァケルと老年期のシルヴィオ・オルランドは全然顔立ちが違うし、シルヴィオはむしろ不倫相手の女性を演じた女優に近い顔立ちでもあり、最初は老年期の夫の暮している相手は結婚した不倫相手の女性かと思ってみていたのだが、どうもそうでもないということが途中でわかる。となると、なんで夫婦はよりを戻し、不倫相手の女性はどこに行ったのかがーこの夫のなんていうか身勝手さが堂々とまかり通るイタリア文化?の不可思議さというか男女関係(しかも夫婦も不倫相手も日本人とは比べ物にならない理屈っぽさで自身の心情をとうとうと述べるのである)が気になるところだが、ま、とにかく老いた夫婦はぎくしゃくしながらもバカンスに出かけ、帰ってくると部屋の中が荒らされている。
後半はその謎解き…、幼い頃からそれぞれの時点で両親や、そこに絡む父の愛人の姿も見て、翻弄もされてきただろう子どもたちが、最後にはやはり中年の男女になって登場。彼らは両親が留守の家の猫の世話を頼まれていて…というわけ。そこに父が愛人の写真を封じた寄せ木細工の箱とか、夫の心情を反映したような名前をひそかに付けられていたという飼い猫(とその行方)なども絡んで、な、るほどね!の映画的展開というよりか戯曲的展開?全然共感できる人物は登場しないー多分すごく客観的に描かれているが、皮肉っぽくもあり面白く見た。(9月14日 立川キノシネマ200)

⑨ウクライナから平和を叫ぶ
監督・撮影:ユライ・ムラヴェツJr. 2016スロバキア(スロバキア語・ウクライナ語・ロシア語) 67分 

2013年ウクライナのユーロマイダン(親ロシア派のヤヌコーヴィチ大統領の追放、親欧米派政権の樹立)~14年の分離派によるドネツク人民共和国・ルガンスク人民共和国の樹立を経て、15年スロバキア出身の写真家ユライ・ムラヴィッツがこの地域の人々、やがて入国禁止令を受けてウクライナ側の人々、また旧ソ連下各国を回って戦火のもとにある人々の写真を撮りインタヴューを綴ったドキュメンタリー。
新ロシアであれ、ウクライナ側であれ、またその他の地域の老若男女、顔つきとしてはほぼスラブ系の人々で、語る内容は戦争と政治によって生活苦を強いられ、親しい同胞を亡くしたというような話で、説明を注意して見たり聞いたりしていないとどちらの側の話かわからなくなるほどに、戦争が一般の庶民や兵士を打ちのめしている状況が見えてくる。それこそ静かだが生活がにじみ出てくるようなモノクロの写真がまた、インタヴュー以上に迫力をもって迫ってくる。
ユーロスペースでの長い上映を気にしつつ結局見損ない、吉祥寺まで。映画館ロビーでウクライナ人の女性がウクライナの料理(キノコ・肉などの入ったクレープやウオツカなど)を販売。それを買ってお昼にして、午後一での鑑賞だった。(9月15日 アップリンク吉祥寺201)

⑩サハラのカフェのマリカ
監督・撮影:ハッセン・フェルハーニ 出演:マリカ チャウキ・アマリ サミエール・エルハキム 2019アルジェリア・フランス・カタール 104分

「アルジェリアで誕生した21世紀の〝バグダッド・カフェ”」というのがチラシの惹句で、ならば見にいかざぁなるまい、というのが『バグダッド・カフェ』を忘れられない1本とするワタシ…というわけで出かけたが、ウーン、確かに砂漠のなかに通る1本の道路と、その傍らといってもアメリカも、サハラ砂漠ももちろん道から100mくらいはありそうな傍らではあるが、そこにポツンと立つ1軒のカフェ、という点では同じなのだが、中身的には全然非なるもので、最初はナニコレ?と思った。なんか集中力のない感じの砂漠の映像についていけなかったせいもある。しかし、まあドキュメンタリーとして幹線道路沿いで商売をする女とその顧客たちの様相や語りを撮るという意味ではもちろんこれはこれで面白い映画といってよい。
映画に出てくるのは小さな窓が切られ、テーブル2つ、電源を切った冷蔵庫が白く光る小さな店に陣取って、顔は見せないがときに主人のマリカとことばも交わしたりしながら住み込み?でこの映画を撮影しているらしい。昼は訪れる様々な客と話ー決して愛想はよくない。むしろぶっきらぼうー夜はランプ?をつけラジオを聞くマリカは、ここで暮らしているというが映画の中には彼女の暮らしの様子はほとんど描かれずどうなっているの?と思ってみていると、最後近くにカメラはこの店の建物の周りをぐるりと回る。すると一見小さなこの建物の裏側にもう一部屋くらいはありそうな奥行きがあり、そして一瞬だが彼女のなかなか広い立派な厨房が映る。なるほどね、ならば多分画面に現れないベッドルームもドレッサーもあるわけだと、なんか妙に納得、というほどこの体型はD字型、手足は丸太のごとき老女の暮らしぶりにも、それと夫も子供もいなくて孤独だというこの老女に、親戚らしい男たちが現れて一緒に暮らそうと誘うシーンとか、娘を亡くしたと悲し気な話をしながら最後は「冗談だよ」といなすシーンとか、厳しい砂漠の民のしたたかさ?も感じて、はぐらかされたような不思議な気分にもさせられるのである。(9月15日 アップリンク吉祥寺202)


⑪沈黙のパレード

監督:西谷弘 出演:福山雅治 柴咲コウ 北村一輝 飯尾和樹 戸田菜穂 檀れい 椎名桔平 村上淳 2022日本 130分

東野圭吾原作。題名はなるほど!のうまさ。前半1人の高校生少女の死をめぐる人々の群集劇の様相は「オリエント急行殺人事件」みたいな話なのかなと思い見ていたが、最後まで行くとかかわった人々のほとんどすべてが罪には問われないかせいぜい微罪という扱いになる、え?と思うような毒のない結末は、なるほどとも、ナニコレ?とも。悪いヤツはなんか自然に罰を受け、手を下した人間はなんか罪を潜り抜けてしまうみたいな展開はどうなんでしょう。すごく深刻そうな顔をしている北村一輝とか、よくこんな役を引き受けたというような「悪人」にして被害者役の村上淳とか、思わず「お疲れ様」と言ってしまいたくなる配役ぶり。(9月16日 府中TOHOシネマズ203)

常念乗越からの槍が岳夕景

   
常念~蝶が岳縦走路からの山景(パノラマで撮ってみました)

常念が岳全景
                
大文字草ーあまりない中でやっと見た花

⑫川っぺりムコリッタ

監督・脚本:荻上直子 出演:松山ケンイチ ムロツヨシ 満島ひかり 吉岡秀隆 緒方直人 黒田大輔 江口のりこ 柄本祐 2021日本 120分 ★

富山のとある町?気の抜けたような感じでやってくる山田、彼はイカの塩辛を作る工場で働き、その社長の紹介で「ハイツ・ムコリッタ」という築50年のアパートに住むことになる。隣人の島田は図々しく上がり込み風呂を貸してくれといい、アパートの前で育てた野菜をもってきて、ご飯を食べていく。5年前に夫を亡くした母子家庭だが、今も夫を愛し続けているという大家南、父子家庭で子連れで墓石のセールスに歩く溝口、近くの寺の住職ガンさん、2年前に亡くなっているという岡本という女性の姿を見る山田、というわけでおもに島田を通してかかわりができ、なじんでいくという、まあ『カモメ食堂』的テーマ?も含みつつ、この話、4歳で生き別れたきりという山田の父が孤独死し、遺骨の引き取りを役所が言ってくるという出来事から、親しいものの死、そして自らの死?というテーマに突入していく。
何しろ山田君最初から半ばくらいまでは食べるシーンの連続連続で、牛乳を飲み、胡瓜やトマトを頬ばり、ご飯を食べ、塩辛、アイス、それに半ばの墓石の売れた(200万円の犬の墓石!)すき焼きシーンとか、食べることと死が直結している?とさえ感じさせる食べっぷり、そんな中で彼が父の死とどう向き合い、母に捨てられ、多分詐欺のお先棒を担いで前科者となった彼が、これからどういうふうに幸せになり生きていっていいのか、というような結構哲学的な命題をひょうひょう軽々と描いていく。
電話の並ぶゴミ捨て場とか、そこで拾って動き続けるきれいな扇風機とか、売れない墓石売りの息子は学校に行っているのかとか、なかなか家賃の入らないアパートの家主母子はどうやって暮らしを立てているのかとか、微妙には首をかしげるような設定もなくはないが、死者の姿が出没したりというようなこのアパートそのものが一種ファンタジーの世界だから、ま、いいか。なるっほどね!の映画だ。実直で親切な役所の無縁仏係の柄本祐が、これもこんな公務員いないだろうなとは思わせつつ、いい味を出して演じているのが心に残る。江口のりこはマスクで顔を隠しほとんどだれかわからないようなビジュアルながら、ちゃんとそれらしく、その墓にもワンシーン出演の豪華メンバーが続々、でぜいたく。(9月21日 渋谷ユーロスペース 204)

⑬NOBODY KNOW チャーリー・パワーズ 発明中毒篇 ★

チャーリー・パワーズは1889年頃~1946年、アニメーターを経て自身が主演する無声短編映画の制作をしたが、長く忘れられていて1960年代フランスで発見されたことから世に知られ眠っていたフィルムがあちこ地で発見され、21世紀に入ってデジタル化されたとのこと。いや、びっくりその完成度の高さ、見かけも含めチャプリンを彷彿させもするがもうちょっと現代的?な感じかな。今回見たのは4本の彼主演の実写フィルム(最後の『怪人現る』だけはバワーズ方式による別の監督作品とタイトルが出た)と2本のアニメーション。どれも面白かった。
1.オトボケ脱走兵(1918・6分アニメーション)
2.たまご割れすぎ問題(1926・23分)
3.とても短い昼食(1917・6分アニメーション)
4.全自動レストラン(1926・23分)
5.ほらふき倶楽部(1926。21分)
6.怪人現る(1928・22分)
発明中毒篇中「たまご…」は割れない卵を作ろうとする話で、大掛かりな機械そのものは完成するのだが、売り込んだ卵輸送株式会社のために実験用の卵集めに奔走するがうまくいかず、結局失敗という話だが、「全自動レストラン」では1週間で従業員が去ったレストランを全自動機械化し流行らせるという意味では大成功、『ほら吹き倶楽部』は吹いたほらの中の話だからまあ当然と言えば当然だが植物を成長させ万物が実る薬を発明した男の成功譚だが、どちらも報われず愛した女性を失うという結末で、ここには例えば『モダンタイムズ』にあったような批判性はあまりないが科学技術信仰みたいなものも感じられて、但しそこに皮肉は加味されていうという感じで面白い。
最後の『怪人現る』はスコットランドヤードからNYに派遣されたキルトを履き、妙なマスコット?(鬼太郎の目玉おやじみたいな?)をつれた刑事が、ある家に現われた怪人を相手に闘い全くうまくいかないのだが、実は怪人はこの家の元の持ち主の「おじいちゃん」というわけで、刑事もこの家で出会った意中の人と結婚し、マスコットの方も結婚し、キルトを履いた妻や子どもたちとNYの町を歩くハッピーエンド?になっているのは、バワーズ自身が監督しなかったから??ちょっと肌合いが違う感じで、ウーン、でもまあ、これはこれで面白かったのだが。しかし100年前こんなシュールな映画があったんだなということ自体に感動する。(9月21日 渋谷ユーロスペース 205)


久しぶりに上野にー「芸術×力 ボストン美術館展」《吉備大臣入唐絵巻》《平家物語絵巻 三条殿夜討巻》見ました!



⑭欲望の翼                                    監督:王家衛 出演:張國榮 張曼玉 劉嘉玲 劉徳華 張学友 梁朝偉 1990香港 100分

王家衛特集、シネマートでは『欲望の翼』の上映はないようなのだが、アップリンクと、ここ立川にはあるのを見つけ久しぶりに立川シネマシティ2に(『東邪西毒楽園の瑕 終極版』もやるよう)。何回目というか十回くらいは見ているだろう映画で、特に新しい感想もないのだが、なかなかドラマティックに作ってあることに今さらながら。レスリーのワル(というか自己中心・マザコン)ぶりに対して、アンディ・ラウ、ジャッキー・チュンは純情いい人だなあ。そしてトニー・レオンのなんか格好はつけているが貧乏っぽい色っぽさにフーム。幸せな1時間40分。(9月22日 立川シネマイティ2 206) 

⑮ギャング・カルテットー世紀の怪盗アンサンブル(イェンソン一味)
監督・脚本:トーマス・アルフレッドソン 出演:ヘンリック・ドーシン(脚本) ヘタ・スターンステッド ダーヴィッド・スンテン アンダース・ヨハンソン 2019スェーデン(スェーデン語・フィンランド語)122分 ★★

スェーデンでは、日本の『ルパン三世』のように人気のある『イェンソン一味』という4人組の強盗団の映画化だそうで、作ったのは『ボクのエリ200歳の少女』『裏切りのサーカス』の監督、というのも面白く?さらには首都圏でも文字通りの単館上映で、新宿・渋谷などでも上映館がないみたいなのでなぜ?という不思議作品。
で、内容は?最初は先の2作品なみの画面の暗さ(ただしこれは私の「目」のせいかもと最近は思うことが多いが)にあれあれだった。この4人組はボスのシッカンが持つ廃工場に1組の夫婦?と乳児まで含む数人の子どもたちが同居、1人は大会社?の後取りで父に拘束されていて、そのすきに泥棒稼業という、なんか設定からして、またその画面からして面白いのだが、大掛かりな仕組みを作りそれぞれの持ち場で協業しながら金庫破り(これがシッカンの持ち場で本職)をするわけだが、最初に暗い夜のその窃盗シーンとその失敗、シッカンのみが捕まって刑務所送りになって9か月(といったかな)後の出所からいよいよ本筋の物語が始まるが、この時点で残り3人はそれぞれのこの一味を脱退して窃盗稼業から足を洗うと宣言、シッカンが一人取り残されてしまう。
物語はスェーデンの博物館で発見されたフィンランドの王冠と、それにまつわる「石」の伝説、二つをそろえて共和制フィンランドを王制に戻そうとする人々の陰謀と暗躍にシッカン一味がからんでいくという、なかなかにスケールの大きな話(フィンランド側はこういう映画見てどう思うのかしらんと思われるようなところもある)で、盗みに関してはその技術というか作戦を楽しませるようなところはあるが、全然罪の意識とか、陰惨な人物の私生活や情がらみという所はなくて、明るく楽しめてしまうところがいい。そしてこの盗みは成功しても一味が「儲かる」わけではないのだが、最後のところで最初に失敗したと思われた盗みのせいかではないと思われていた大量の古銭が実は…という落ちもあって、後味のいい泥棒劇(日本にも『ルパン3世』『ルパンの娘』みたいなドラマはあるが、何となく裏側にじめッと陰惨な罪の意識みたいなのが張り付いていて、登場人物がそこから自由ではない。それは今月見た、『グッバイ・クルエル・ワールド』『ブレッド・トレイン』そしてこの映画と並べてみるとよくわかる。農耕民族と、ほしいものは自ら取りに行くという狩猟民族やバイキングとの感性の違いかなあ)(9月22日 立川キノシネマ 207)

⑯百花
監督:川村元気 出演:菅田将暉 原田美枝子 長澤まさみ 永瀬正敏 神野三鈴 2022日本104分 ★

逆光の中で母百合子がピアノを弾いている。すると玄関のほうから物音が、不審に思った彼女は立ってうろうろ。すると玄関からは百合子が入ってくる、彼女が進んでいくと部屋の中では百合子がピアノの前に…。というなんかミステリアスなというかちょっとホラーっぽいような場面から始まるこの映画、もう少し後、スーパーで買い物をしている百合子が、店内を駆け回る二人の少女を契機に何度となく同じ売り場をめぐって同じ品―卵や肉をかごにあふれるほどに入れ、それから入り口で知人(昔の男)の姿を見たと思って店を駆け出し、万引きとして捕まるというあたりも、百合子を襲う認知症の脳内描写がなるほどで身につまされる。
息子菅田はまあ普通だけど、その意味では原田美枝子の「忘れ行く」母、その中で神戸大震災前後息子を捨て、神戸に妻子ある大学教授の恋人を追って移り住み、結局震災の中で追い求めたのは息子であり男ではなかった、男のほうももはや帰ってきたり来なかったりのようで、震災の朝も一人で寝ていた百合子の過去(もちろん映像処理もしているのだろうが、原田が3~40代の女性を演じてやたらと若い)。すべてを忘れていく母に息子(とその妻)は寄り添おうとして寄り添えず、母の最後に残った記憶の『半分の花火』とは…その前のシーンで諏訪湖の水上スターマインに息子が母を連れていくが、実は母の『半分の花火」はそれではなく…というわけだが、この最後の母の半分の花火、ビジュアル的にはこんな角度こんなふうに花火が見えるってあるのかな、と思わないでもない。ともあれ、予想通り?の展開ではあるが、静かに丁寧に音も画面も美しく作られた映画であるのは確かである。104分緒長さもちょうどよく、心地よい。  (9月23日 府中TOHOシネマズ 208)

我が家の窓から見える多摩川のスターマイン 下半分はけっこう高い建物なのだがそれでも「半分」っていうのは難しい…?気がするのだが。

⑰さかなのこ
監督:沖田修一 出演:のん 柳楽優弥 磯村優斗 岡山天音 夏帆 井川遥 三宅弘城 2022日本 139分

「さかなクン」の自伝?の映画化ということだが、映画の冒頭「男でも女でもどっちでも」いいという文字が入り、これは「のん」というキャラクターを得て作られた映画という側面も持つのかも。じっさいにこの映画の主人公ミー坊は女の子?なのだが幼時から男の子と同じような短パンスタイル、高校生の時は学ランである。その高校時代地域の不良グループ2派に釣った魚をさばいて振る舞い、両者のケンカに巻き込まれつつ、いつの間にか牛耳ってみたいなシーンはとても面白くできているとは思ったが…その後、卒業してもなかなか魚に関する仕事につけず、水族館の実習なども受けてもうまくいかずみたいな、その後の苦闘?篇も含め、ウーン、ちょっと長くてたるみ勝ち?な感じで、ミー坊が善意の人であればあるほど、139分はいささか長くてくたびれた。
井川遥が、小学生の理解ある母から和服姿でミー坊が壁に魚の絵をかき(ようやく世に出るきっかけとなる)旧友のすし屋の店に現われる中年シーンまで、なかなかにステキな演じっぷり。ただ気になるのは初っ端ミー坊が魚の水槽一つとともに目を覚ますベッドが豪邸の一室という感じで、しかしそこはそれまでの彼女の生活の一度も現れることはないので??有名になって豪邸にすんでいるということ?ちょっと腑に落ちない感じ。母と父の関係や兄と母なんかも…。なんかいびつさが影に隠れているのかななどと思えてしまうが、映画設定的にはそんな必要があるようにも思えない。(9月24日 府中TOHOシネマズ 209)

⑱アリス・ギイ短編集
監督:アリス・ギイ ★★★

1898年~1907年に作られた1分~12分の映画の初期の短編13本特集。ただの映像断片のようでもありつつ、アリス・ギイの才知や時代を見る目を感じさせ、それぞれの作品個性も際立つ傑作集だ。
●『催眠術師の家で』Chez le magnétiseur(1分/白黒)1898年
 催眠術師の家に施術を受けに来た婦人、コマ飛ばしで彼女の服を脱がせたり別の服を着せたり、そういう映像の変化を楽しむ 1分というべきか。
●『世紀末の外科医』Chirurgie fin de siècle(2分/白黒)1900年
 手足を切って、新たな手足をつけるという外科手術の一部始終を、一部患者は人形と入れ替えたり、見え見えではあるけれど「特殊撮影」なども使って撮っている。
●『オペラ通り』Avenue de l’Opéra(1分/白黒)1900年
 オペラ座正面に置いた固定カメラでの1分間の逆回し映像。これって自然を撮ったのか、それとも馬車やエキストラの人々を 配置しているのか。不思議な気分にさせられる。
●『全自動の帽子屋兼肉屋』Chapellerie et Charcuterie mécaniques(1分/白黒)1900年
  先日見たチャーリー・パワーズを思い出させるがそんなに大掛かりではなく、機械の中から色尾(といっても映画は白黒だ が)形もさまざまな帽子が次々と飛び出してくる面白さ。
●『カメラマンの家で』Chez le photographe(1分・白黒)1900年
  自分の撮られたい姿がある被写体の男性と、「正しく」撮りたいカメラマンの攻防は??
●『フェリックス・マヨル 失礼な質問』Questions indiscrètes(3分/染色 → 彩色)1905年
  これのみ、彩色・トーキー?フェリクス・マヨルの独唱を淡々と?。
●『マダムの欲望』Madame a des envies(5分/白黒)1906年
  妊娠中のマダムの旺盛な食欲。子どものキャンディ、男性のワイン、浮浪者のニシン、??のパイプと次々に奪って楽しむ 表情がいかにも楽しく、乳母車に赤ん坊を乗せておろおろフォローする夫がまた面白く。最後はキャベツ畑でマダムが赤ん坊 を産み落とすというのは『キャベツ畑の妖精』を思わせる。
●『フェミニズムの結果』Les Résultats du féminisme(8分/白黒)1906年
 スカートの女たちがたむろして談笑、一方ネクタイにズボンの男たちが家事や育児にいそしむという逆転劇
●『キャスター付きベッド』Le Lit à roulettes(4分/白黒)1907年
  街を走るキャスター付きベッド。まだ自動車なく馬車だけの時代ののどか?な光景?
●『ソーセージ競争』La Course à la saucisse(5分/白黒)1907年
  こちらも犬がくわえた長い長いソーセージを追っかけて肉屋のおやじ?から人々が追いかけ追いかけ、いろいろな人が加わ って大騒ぎという映像。
●『ビュット=ショーモン撮影所でフォノセーヌを撮るアリス・ギイ』Alice Guy tourne une phonoscène(2分/白黒)1907年
  固定カメラを据え、前方で集まり談笑し踊る映画出演者たちと、それにカメラの横で指示を出すアリス・ギイの後ろ姿とい う面白い映画作りの映画かな。
●『バリケードを挟んで』Sur la barricade(5分/白黒)1907年
  街角にバリケードを築いて(といってもとってもチャチ)闘う人々と、そこに取り締まりに来る警官隊。母のために牛乳を 買いに出た若い男(というか少年なのだろうか)はそこに引っ掛かりあわや銃殺刑?となりそうに…。短いけれどちゃんとハ ラハラさせられる。
●『銀行券』Le Billet de banque(12分/白黒)1907年
  銀行券を手に入れた浮浪者が豪遊しようとして、そのみすぼらしい風体のせいで信用されず、川?で泳ぐ男の脱ぎ捨てられ た洋服と自分のボロを入れ替えるが、銀行券もそこに残してしまい…12分でハッピー・エンド?にまとめているのはさすが。
(9月25日 下高井戸シネマ 210)

⑲デリシュ
監督:エリック・ベナール 出演:グレゴリー・ガドゥボワ イザベル・カレ パンジャマン・ラベルネ ギョーム・ドゥ・トンケデック 2020フランス・ベルギー(フランス語)112分 ★

毎月1回『映画で見つめる世界の今』を楽しみにしているが、今月藤原帰一氏が紹介したのがこの『デリシュ』。レストランの始まりを描くとかであまり気にもしていなかったのだが、勧められて急遽その気に。
何しろ光と影の美しい映画で、貴族の軽薄な明るさと、暗がりそこに射す光の中で働く料理人たちの対比とか、フランスの田舎の自然の美しさと科。そしてそこで働く中年男のシェフと、近代青年にならんとしている―でも学者とかになるわけではなくレストラン経営者の方向に進んでいきそうなところがなかなかいい。公爵の城を辞して故郷のさびれた元旅籠に帰った主人公に弟子入りをのぞむ謎の女性とのからみもあり―ただ、何だろう、この女性の造形って―公爵にいわば騙されて自殺に追い込まれた貴族の夫の仇をとる?ーって18世紀だから仕方ないのかもしれないが、リアリティには欠けるかな…とはいえそれゆえドラマは成り立つわけだが。そして最後はバスティーユ襲撃の直前、それと知らぬ間に自らの優位を信じむさぼり追い払われていく貴族を戯画的に追い詰めて社会性も加味してなかなかよくできた映画だった。(9月27日 立川キノシネマ 211)

9月27日大國魂神社祭礼(我が家の隣!?)久しぶりに見た夜神楽

⑳地下室のヘンな穴
監督:カンタン・デュビュー 出演:アラン・シャバ レア・ドリュケール ブノワ・マジメル アナイス・ドゥムースティエ 2022フランス・ベルギー(仏語・日本語)74分

中年夫婦が買った家の地下室にはマンホールのような穴が。そこを下りていくと下には上と同じ部屋があり、時間は半日先に進み、しかしなぜか3日若返るという不思議…妻は当然のごとく繰り返し地下から穴に入りたがり、夫はそれを不安に感じる、一方偶然近くに住んでいて訪ねてきた夫の会社の社長とそのパートナー。彼らの打ち明け話がまたすごく「日本で電子ペニスをつけた」というもの。演じるブノワ・マジメル、まあなんていうか俗物の社長のとんでもない好奇心と、途中でそれが不調に陥り慌てて日本まで行って再手術という場面(この場面では3人の医師・看護師が一応日本語で話していて、何を言っているのかわからず患者(社長)が戸惑うシーンも)をいかにも嬉々として演じている感じで、この妙な、話も時間軸が飛ぶのだけれど、登場人物にも観客にも何が何だかわからんという時間設定の中でほとんど意味のないというかばかばかしい行動を演じつつしっかり映画を引き締めているのはさすが。
ま、そういうわけで首をひねるというのが多分この映画のコンセプトであろうが、理屈っぽいのに思わせぶりな会話の進行に少しイライラさせられつつも翻弄された74分(この長さがちょうどいい。130分ももしやられたら本当に目も当てられないだろう)だった。もちろん最後はあまり楽しい結末にはならず。それにしても若返っていくマリー役のレア・ドリュケールの化けっぷりもなかなか。 (9月28日 新宿ピカデリー 212)

㉑三つの鍵
監督;ナンニ・モレッティ 出演:マルゲリータ・ブイ リッカルド・スカマルチョ アルバ・ロルヴァケル アドリアーノ・ジャン二ーニ エレナ・リェッテ ナンニ・モレッテイ 2021イタリア・フランス 119分 ★★★

ある夜、3Fの裁判官夫婦の息子が酒酔い運転で路上の女性を跳ね飛ばし自宅の入ったマンションに突っ込み、本人も怪我をする。同じとき路上には夫の出張中一人で出産を迎えた妻が病院に向かおうとしている。一方車に飛び込まれ仕事場が崩壊してしまった階下の夫婦は隣家の老夫婦に7歳の娘を預け後始末に…、という一夜の3家族の姿から、それぞれにことが紛糾して登場人物たちは大きな悩みを抱え、蹉跌もありで、5年後、さらに5年後までに話がつながっていく。3家族は同じ建物に住むから顔見知りではあるが、特に事件が3家族の中で絡み合っていくということはなく、それぞれが最後まで別々の方向を向いたまま話が進んでいくーのだが例えば思い込みや信念の頑固さとか、親子(やパートナーの)のわかり合いにくさとか、だれもが抱える悩みという点では普遍性・共通性があるわけだ。イタリア映画の上手さを感じさせ、見ごたえのある、そして少女たちの美しい(だからこそ、それが一つの問題にもなるのだが)一作。さすがの監督も、3Fの息子に厳しく、我々の道で妻をも縛る裁判官を演じている。(9月28日 アップリンク吉祥寺 213)

㉒スワンソング
監督:トッド・スティーブンス 出演:ウド・キアー ジェニファー・クーリッジ マイケル・ユーリー リンだ・エヴァンス 2021アメリカ 105分

実在のヘア。ドレッサー、パトリック・ピッツェンバーガーの晩年を描いたという。現役を退き老人ホームで暮らすパットの生活ぶりから話がなかなか進まない?のだが、ある日旧友にして仲違いもしたらしい元顧客、町一番の金持ちのリタが亡くなり、遺言に従いそのヘア・メイクをしてほしいと弁護士が2万5千ドルを提示して訪ねてくる。いったんは断ったパットだが、思い立ち、ホームから歩いて(途中からヒッチハイクも)元住んだ街を訪ねて行く。まずは90年代にエイズで亡くなったパートナーのデイヴィッドのの墓を訪ね(その墓石にはパットの名も並べて彫られている)昔住んだ家の跡地(デイヴィッドが遺言を残さなかったことからその甥がすべてを相続しパットは放り出された)や、元顧客が開いた用品店でジャージから薄緑のスーツを手に入れ、元弟子の開いた、いまや流行りの美容室でその元弟子といささか険悪なやりとりをしながら昔ながらの整髪剤を手に入れたり、昔通ったゲイバー(本日閉店。ゲイの青年店員が何とも可愛らしい)に行き、またとうに死んだ友人が現れて会話をするというようなパットの幻想の中でのシーンも織り込まれたりしながら、なかなかリタのもとにはたどり着かないのだが…。
トレーラーでは化粧をして派手な羽飾りのようなのをつけて踊るパットの姿が強調されいたが、実際にはそういうシーンから始まるものの映画前半はジャージだし後半もまああまりオシャレとは言いかねる薄緑のスーツ姿、最後のほうでゲイバーでダンサーの髪を直してやり、自身も古いシャンデリアをかぶって踊るシーンはあるが、そういう芸の部分は少なくて、もっとずっと地味な、ちょっと変わっていて地域ではよく知られているものの普通の老人のロードムービーという感じに仕上がっている。スワンソング(白鳥の歌)とは白鳥が死に際してうたう歌だそうで「有終の美」を意味するという。なるほど。ゲイムービーの世界もいよいよ高齢化して現役の恋よりも回想・追憶の恋を描く時代に突入しているのだと思う。(9月28日アップリンク吉祥寺 214)

㉓ボイリング・ポイント|沸騰
監督・脚本:フィリップ・バランティー二 出演:スティーブン・グレアム ヴィネット・ロビンソン ジェイソン・フレミング レイ・パンサキ マラカイ・カービー ハンナ・ウォルターズ 2021イギリス ★★ 

90分をノーカット・ワンシーン(ワンショット)で撮ったということが話題になり、そればかりが話題になっていたので公開時はちょっと敬遠、しかしやっぱり見たいと下高井戸へ。オーナーシェフ・アンディは妻と別れ事務所に寝泊まりしているがようやく部屋を見つけ引っ越した翌日の遅刻の場面から。ロンドンの実際のレストランを使って撮影されたのたそうで、厨房ではスー・シェフのカーリー(給料に不満を持っているという設定。これがなかなかリアルに格好いい)が取り仕切り、店には衛生検査官の抜き打ち検査が入る。新人の従業員が手洗いを注意されたり、アンディの書類の扱いが問題になったりと朝から大変、おまけに彼は仕入れを忘れ、仕入れた高級魚に規定のラベルを貼り忘れ、検査官がこの魚を廃棄したりとか、その合間に息子ネイサンに掛ける(かかる)謝り電話、ということで彼がすでに崖っぷちということがわかる。その中でも厨房・フロアとそれぞれの担当が行き交い、100組を超すという予約客はすでにテーブルに座りということで実際の90分という時間の中で客は注文し、文句をつけ、それぞれの個性を示し(文句を言ったり、差別をしたり、メニューにないステーキを焼けと強要したり、果てはアレルギーで倒れたり)フロアではこの店のオーナーの娘である支配人が采配を振るうが、客からクレームのついたラム肉の焼き直しの件でカーリーと支配人(エミリー?)の猛烈な言い争いとか…。また友人でこの店の出資者の一人でもあるらしいスカイという売れっ子シェフが、有名な料理評論家を連れてこの店に現れ、好意を示すようなふりでチクチクとアンディを追い詰め、アンディにとってはとんでもない脅迫まがいの提案をしてくる。というわけでアンディはにこにことこなしつつもそのストレスは最高潮、という所でアレルギー客が救急車で運ばれる事件のあと、従業員からの思いがけない(というかアンディにとっては十分に批判される覚えがある)批判を浴びる。
アンディはいつも白いペットボトルから水分補給?をしながら店内を駆け回るわけだが、実はこのペットボトルが秘密の一つで…頼りになるスーシェフ・カーリーはアンディを励まが、一転して店をやめると宣言(この展開あれよあれよとい感じだが実にうまい)というわけで打ちのめされたアンディはバックヤード(事務所?)に引っ込んで…、最後はなるほどの展開で、納得できる。
カメラはそれぞれのエピソードの主人公を追って移動、時に裏庭や、トイレ野あたりや、バックヤードに移動しつつ又次のエピソードの主がそこに登場しという感じで目まぐるしいが、そこには出演者やスタッフ(カメラに映らないようにいどうしているはず?)全体の共同作業があるはずだ。実際に製作陣には役者も含む多くの人の名があがっている。しかも共同作業しつつ、ちゃんと物語のある映像をつくりあげるんだからすごい。自分もそれこそこの映画のレストランにいるような臨場感もハラハラ感もあり、驚くべき90分だった。(9月29日 下井高井戸シネマ 215)

㉔秘密の森の、その向こう(Petite Maman)
監督:セリーヌ・シアマ 撮影:クレア・マント 出演:ジョセフィーヌ・サンス ガブリエル・サンス ニナ・ミュリス マルゴ・アバスカル 2021フランス73分★

出だし、祖母が亡くなったらしい老人施設で入所している何人かの老婦人に別れの挨拶をして回る少女ネリー。やがて祖母の居室に戻り、そこにいて荷物をまとめていた母と一緒に出発し森の傍の祖母の家に戻る。次は夜になり父母とともに祖母の家に戻ってきたネリー。一晩明けてむすっとしたまま起きだしてシリアルを食べる…あとはこの祖母の家と23年前の同じ家、そして両方を繋ぐ黄葉の美しい森を舞台に、二人の少女とその母たちのみの物語が展開していく。とはいえ、母を喪った悲しみに31歳の母はこの家を去って(多分家に戻ってしまったわけだ)祖母の家を片づけるのは母の夫である父と、8歳の娘ネリー。この設定は幼い母と現実の母を1日の中でネリーに出会わせないため?かと思われるが、あの森の中にいた8歳の母マリオンがおとなになったにしては、ウーンなんか不自然な感じもある。と、いえば幼い日母は祖母と同じく足が悪く(と言っても、見かけは何ともなく元気そのものなのだが)このまま行くと祖母と同じく将来は杖をつかなくてはならなくなるということで数日後には手術のために出発することになっているー祖母の杖は最初の施設のシーンでネリーがもらい受ける伏線がひかれている。こういうほとんど言葉だけで語られる仕掛けが物語を秘密めかし、ドラマっぽくしているのだろうが、そんなものが必要なのかどうかはわからない。単に感覚の世界で二人の少女が森の中に枝を使った家を作り、池にボートを浮かべというような世界だけで堪能できるほどに端正・静謐・美しい、それで十分な感じがする。余計を言えば、現代の母の不在は母がかつての少女時代、森であった自分の娘と名乗る少女の存在を覚えていないのかという疑問をも封印してしまうのだが…母の側から見たらこれってどんな物語になるんだろうか。(9月30日 立川シネマシティ1 216)

㉕楽園の瑕・東邪西毒 終極版
監督:王家衛 撮影:杜可成 出演:張國榮 梁家輝 梁朝偉 林青霞 劉嘉玲 楊采妮 張学友 張曼玉 2008香港94分

ああ、これも至福の90分。砂漠の居酒屋親父にして殺しの仲介人というのがレスリーの役どころで、このワルっぽさと、それにもかかわらずのぞかせる孤独というか喪失、すべての登場人物が去った後、砂漠を見つめてたたずむ姿がズシリ。金庸原作の舞狂映画でありながら、武侠はとにかく様式美?ストップモーションの多様であたかも劇画をみているかのよう。そしてそれぞれのエピソードの登場人物は思いつつすれ違い、恋するどうしが一緒にいるというシーンも極めて少ないのも王家衛映画の特色、というか2年間もかけてそうそうたるメンバーをそろえたためこれも一堂に会するという場面はつくれなかったということ。終極版ではレスリーの出番が増えたこと、最後のちょっとだけの闘い場面が美しい。トニーレオンパートの武闘場面の整理、何故戦うのかはわからないが、これもウーンの色っぽさ。そして音楽は相変わらずに印象的だが、ここでヨウヨウ・マの演奏が際立っているという、なんか私は大好きな世界にまた出会えた…。『欲望の翼』は女性観客が多かったが、これは夜の回ということもあってか、男性が目立った。(9月30日立川シネマシティ2 217) 
画像最悪ですが、立川シネマシティ(外の壁)の王家衛特集掲示

ちょっとコロナも下火?帰国前の検査や、帰国後の自宅待機などもなくなり、とうとう待ちきれず…10月4日から10日間のスペイン サンティアゴ・デ・コンポステーラへの巡礼路を歩く旅に出ます。(一方特定検診で肺に影があるから検査せよとの通知も来て、なんとか検査予約をとってからと、電話かけ続け、でもつながらない・お話し中の連続の中でいささか参りつつ)すべての顛末は10月末ということに…どうぞお楽しみに?
10月下旬はいよいよ東京で開催される映画祭のシーズンにもなり、ますます忙しい日々になりそうです(なるといいんですが)。
では、皆さまもどうぞお元気で。



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