【勝手気ままに映画日記】2020年2月

2月8日元宵節、台湾で天燈揚げ。これは真下から―つまり揚げた人にしか撮れない映像と、ちょっと自慢!

@基隆『ミレニアムマンボ』(01侯孝賢)の冒頭に出てくる歩道橋で

①リンドクレーン②冬時間のパリ ③ドリーミング村上春樹 ④火口のふたり ⑤光  ➅你的情歌 ➆肥龍過江 ➇ナイブズ・アウト 名探偵と刃の館の秘密 ➈ラスト・レター ⑩影裏 ⑪河豚 ⑫誰もが愛しいチャンピオン ⑬私の知らないわたしの素顔 ⑭夕陽のあと ⑮淪落の人 ⑯ゴールデン・ジョブ 黄金兄弟 ⑰わたしは光をにぎっている ⑱スキャンダル ⑲キング ⑳グレタ ㉑AI崩壊 ㉒ラスト・ディール 美術商と名前を失くした肖像 ㉓娘は戦場で生まれた FOR SAMA

★は3個ー2個―1個の順で印象に残った佳作です。もちろん個人的感想ではありますが…
2月は23本中6本が中国語圏映画。日本映画も6本。なお、末尾( )内の各映画館の後ろにつけた数字は、1月からの通し鑑賞番号です。


①リンドクレーン
監督:ペアレ二・フィッシャー・クリステンセン 出演:アルバ・アヴグスト マリア・ボネヴィー マグヌス・クレッペル 2018デンマーク・スェーデン 123分

『長靴下のピッピ』のリンドグレーンの、まだ物書きになる前の、未婚の母としてデンマークで子を産み里子に出してから、5歳くらいで引き取るまでという、こういう伝記物としては非常に変わった切り取り方―もちろん、宗教的な規律の厳しい保守的な家庭の枠にはまらない奔放な性格、理解のある父、文才を買われて地元の新聞社の記者助手になる、上司(社長)との半不倫的恋愛、妊娠とそれぞれの場面から後の奔放に一人で生きるような少女ピッピを造形するのだろうなあという気配はでてはいるものの、まあ,梗概だけみたらよくある女の子の蹉跌、苦悩、立ち直りみたいな話しだし、デンマークの里親のもとで育つ息子との関係などもなんか悲母ものというより、成り行きっぽいとこともあって、また、苦労しているとはいえ、のちにはある程度の理解を示す親、すばらしい人間性で描かれる里親の女性、そして子持で働く彼女に理解や援助を与える後の上司(名前は「リンドグレーン」子どもの父ではもちろんない、というちょっと意味深な描き方)と、意外にいい人に囲まれ助けも得ながらだんだん幸せになっていく感じで、これが伝記映画でなければちょっとカンベン、となったかも。物語の流れは案外あっさりして画像もとってもきれい、ちょっと白がかかって淡くぼやけたようなフォーカスで描かれる北欧、スェーデンの美しさは見どころというべきか。(2月2日 岩波ホール 25)

②冬時間のパリ
監督:オリヴィエ・アサイヤス 出演:ジュリエット・ビノシュ ギョーム・カネ ヴァンサン・マケーニョ クリスタ・テレ 2018仏 107分

編集者の夫と作家の妻、作家の夫と政治家秘書の妻、女優と作家は付き合い、作家はその経験を虚とも実ともつかぬ形で小説にする。編集者はその小説をつまらないから出版する気はないという…ところから2組の夫婦と彼らをめぐる人々の会話、会話、会話…下世話なというよりは結構芸術論とかペダンティックさも感じさせるような…展開としては特段ドラマティックなわけでもなく、これがフランス流大人の恋愛劇というもになのだろうか。中年女性たちの自然なパリ風ファッションは楽しめるというかけっこう参考になったが、全体としては疲れた!(2月4日川崎市 アートセンター・アルテリオ映像館 26)


③ドリーミング村上春樹
監督:二テーシュ・アンジャーノン 出演:メッテ・ホルム 2017デンマーク 60分

デンマークの村上春樹の翻訳者メッテ・ホルムを描くドキュメンタリー。村上の「完璧な文章などといったものは存在しない」という「文章」の訳し方をめぐってドイツやノルゥエイの女性翻訳者と話したり、日本の街を歩きながら翻訳者仲間や、日本人の知り合い(飲み屋の店主とか)と話したり、飲んだり、ときに踊ったりというような場面で綴られる。間に「蛙くん」のイメージ。バカでかい感じでイメージとは違うし低音のざらついた蛙の日本語語りイメージは、ウーン、さらに私のイメージには合わないのだけれど―翻訳の語句をめぐって村上を探っていこうという試みなのかなとは思うが、どうも村上についての映画なのか、翻訳についての映画なのかわからないのは、翻訳者が何かあまりにステキな中年(高年?)女性だからかも。最後にアンデルセン賞受賞記念の集いで村上を待つメッテの映像まで、村上自身は1シーンも登場しない。(2月4日 下高井戸シネマ 27)


④火口のふたり
監督・脚本 荒井晴彦 出演:柄本佑 瀧内公美 2019日本 115分 ★★

結婚を前にした女が従兄弟で過去につき合っていた男に声をかけ5日間を共に過ごすという話で、ウーン、ポルノじゃないけどセックスシーンばっかり?(R18指定)とか、火口で抱き合う二人のチラシの写真…心中するのか?と心配?したりしながらーつまりどんな映像を見せられるのかとー見たが、全編けっこうユーモアあふれる明るさのある作品でホ…最後に富士山が噴火して…その時秋田にいた二人は…というところで終わるが、ウーン惹句にあるような世界の終わりという緊迫感はあまりなく、それがまたこの映画のユーモア感を醸し出すとともに、本当に終わるときってこんなかもというリアリティも感じさせる。もっとも、そう感じるのは富士山噴火の救援に行くということで自分の結婚式を延期するという女の婚約者の自衛隊員の側に自分がいるからかもしれないが。その後、この映画キネマ旬報作品賞受賞、瀧内公美は主演女優賞ということで、それはそうだと納得。
(2月4日 下高井戸シネマ 28)


⑤光
監督:郭修篆 出演: 莊仲維, 張順源, 陳子穎 2018マレーシア

台湾へ行くチャイナエア機内での鑑賞作品。通常機内映画はどうしても集中できないし、寝てしまうことも多く映画日記には入れないことが多いのだが、この映画案外な吸引力で、最後まで面白く見たので。帰国後ネットで探してみたところ、マレーシアの華人作品?みたい。ことばも中国語。監督自身の兄との体験から作られたとかで、自閉症で絶対音階と機械工作?にたぐいまれな力を発揮する兄が、ガラス瓶やグラス類を集めて独自の楽器を作ろうとする。一方母亡き後、兄を託されて彼をなんとか自立させようと就職の面接を次々と受けさせる弟との行き違いや葛藤のすえに、兄が楽器を完成させ、ピアノ調律師として自立を果たすという、まあ、人情もの。マレーシア映画であることは見ていてもよくわからず(なんか暖かい地方のが舞台だなとは思えるような画面)へーっと思ったのだが、障がい者は理解されず自立も難しいが実は隠れた才能があるという描き方で、まあ類型的だし、音楽が彼が与えるものとして描かれるわけでもないので、そのあたりは少し物足りなく、日本の劇場映画としては公開はむずかしいかな? でも思わぬ拾いものをさせてもらった気がするアジア作品。(2月12日 チャイナエア羽田→松山行機内鑑賞29)


➅你的情歌
監督:安竹間  出演:柯佳嬿  傳孟栢 謝博安 納豆  2019台湾 119分

花蓮が舞台。台北から来た教師邢、歌唱コンテストに出る少年たちを指導するが自身は花蓮にずっといるのは不本意で「上」をめざしたい。同じころやはり花蓮で邢と同じアパートに住み始める、ピアノ教師の若い女性。彼女も少年たちの指導に加わる。彼女は邢に対してなんか意味ありげで、邢は彼女に心をひかれながらも二人の仲はなかなか進展せず、そしてグループのボーカルの少年の彼女へのアタック、その間でいかにも揺れるかのような彼女。そしてコンテスト、そこまでにすったもんだはあったもののグループはコンテストへの出場を果たし優勝は逃したものの評価されてボーカルの彼は台北進出のチャンスを得る。さあ、3人はどうなるか!? 最後に女性の秘密が明かされ、邢は花蓮に定住、少年は台北に去り成功する…ということでまあ、アイドル映画?(なのかしら?)として話の展開はどうということもないが、宣伝中の女性アイドル柯佳嬿(アリス・クー)はなかなか素敵だし、花蓮の景色のうつくしさも楽しめる。
(2月6日 台北西門丁 喜満客絶色影城 260元 30)


➆肥龍過江
監督:谷垣健司 出演:ドニ―・イェン(瓢子丹) テレサ・モウ 竹中直人 2019香港 97分

題名からはブルース・リー『猛龍過江』のオマージュ作品?ドニ―・イェンはかつてアンディ・ラウもやったようなおデブ特殊メイクで喜劇役者ぶりを見せるが、それでいて切れの良いアクション乱闘場面などで活躍するのはサモハンなみ?この映画『燃えよデブゴン』のリメイクでもあるらしく。舞台は最初の香港場面から移って後半はほとんど東京。歌舞伎町はセットで作ったらしく最後のお約束のエンドロール映像(それにしてもエンドロール最後までちゃんと見せてくれるようになったんだ…平日夜の回で客はきわめて少なく私たちともう一組?という感じだったが)にセットづくりの様子が映し出される。キャストはずっこけ刑事役の竹中直人はじめ悪役のやくざたちも含め日本人。話の内容はともかく香港警察を追われたドニ―・イェンが起死回生の任務として日本への犯人移送を任され、逃げられ、その男は殺される。それを仕組んだ悪の組織と大活劇、東京タワー上での息をのむような(ま、当然CGでしょうが)乱闘ののち、ヘリコプターに彼女と二人でぶら下がり脱出するという展開…荒唐無稽もいいところだから、語るより目くるめく画面展開を目で楽しむということだろう。まあ、私の知らなかったドニ―・イェンの喜劇性を知ったという点でも面白かったのではあるが。
(2月6日 台北西門丁 喜満客絶色影城 260元 31)

『肥龍過江』の看板を出した西門・喜満客絶色影城


➇ナイブズ・アウト 名探偵と刃の館の秘密                    監督:ライアン・ジョンソン 出演:ダニエル・クレイグ クリス・エヴァンズ アナ・デ・アルマス クリストファー・プラマー 2019米 131分

建物は見るからに重厚というよりはおどろおどろしい雰囲気もまとったゴチック様式、そこを駆け抜ける犬のどう猛さも19世紀的? しかし中に住む住人や調度装飾の類には現代的な色合いをまとってちょっとちぐはぐな感じなのだが、それがこの映画の物語のちぐはぐさというか、アガサ・クリスティ時代にはないような移民問題とか、医療ミスとかを組み込んだ大家族の中の犯罪のミスマッチ?がこの映画の面白さのような気がする。出てくる人々もみな現代的にワルそうなのだが、犯人は意外性のある人物というのがポワロやミス・マープルの定番であろうが(『ねじれた家』みたいな…)この映画では、ウーン、ネタバレごめんで言えば、犯人の意外性がない(登場時からいかにもワルそうな人物)なのが、どうかな…そして屋敷内では話がとどまらず、ヒロインのカーチェイスまがいの逃亡?や冒険?もあったりで、そのあたりもいかにも現代アクションぽいし。探偵ブノワは謎の依頼人によってこの屋敷に招かれるが、とぼけて有能なのかそうでもないのか地味なイメージで、このへんはダニエル・クレイグの新境地? シリーズ化されて行くんだろうか。(2月15日 府中TOHOシネマズ 32)


➈ラスト・レター
監督:岩井俊二 出演:松たか子 福山雅治 広瀬すず 森七菜 神木隆之介 2019日本121分

最初のほうに緑の鮮やかな街を俯瞰した映像、あれ、岩井俊二のこういう俯瞰はみたぞ?あちらは秋の黄金色だったっけ??と、そこに現れる葬儀帰り女性と家族、えええ、これって見たような、そうだ一昨年上海でみた岩井俊二の『你好,之華』? えええ、ストーリーも一緒、手紙のきっかけになるスマホを中国版は夫がシャワーで、日本版は浴槽にぽちゃんというぐらいの違いはあるが、基本同じ話だった。これは全然知らなかったのだが、あとで調べてみると中国版も『チイファの手紙』という邦題で今秋日本公開されるらしい。ウーン、中国語版ではシュチュエーションがちょっとわざとらしくて人物の性格との絡みが悪いと思ったが、その意味では日本版もそういう感じがなくはない。ただ何を考えているのか、それでいて夫婦仲に問題があるようでもないという夫を庵野秀明が演じているのはなかなか面白いキャスティングで意外に説得力がある?それと中山美穂と豊川悦司の夫婦のシーンも面白かった。(これって中国版はどうなっていたかな、あまり覚えていない)それとやはり少女部分、広瀬すずと森七菜のシーンは『花とアリス』などを思い出させるようなみずみずしさが満ちていて、さすが岩井映画という感じがする。
(2月15日 府中TOHOシネマズ33)


⑩影裏
監督:大友啓史 原作:沼田真佑 出演:綾野剛 松田龍平 筒井真理子 中村倫也 國村隼 安田顕 2020日本134分

綾野剛、松田龍平というなんか一癖二癖ある芸達者の、しかも東日本震災がらみのミステリーということで、興味を持ったが、行く途中、紀伊国屋で原作の文庫本を買ってちょこっと読みながら、終わってまた読み、で、ふーん。原作の映画化、という意味ではすごく達者な映画で面白かったが、たとえば視点人物である今野(綾野剛)は原作以上に書き込まれて最初の地味目な、ジャスミン?の花を一人めでているような単身生活と、キャンプ用の道具を買いそろえて今風のキャンプファッションで夜釣りに赴く場面とか、中村倫也扮する元恋人?との絡みとか―原作よりも同性の恋人と別れて空っぽ、というような部分が強調されているので、キャンプスタイルがなんか異様な感じがしなくもない。
一方松田扮する日浅は原作はともかくとして松田が演じてピッタリという感じであまり意外性のないミステリアス人物(彼の言う「影」「裏」も映像で見ると案外たいしたこともなくーただ彼が「死ぬはずはない」と評されるような人物であるという演技には説得力はある)、とこう書くとなんかずいぶん変な映画という感じもしなくもないが、変なんだけど、そしてやたらと長い、2人の蜜月的カラミのシーンが長くてミステリーにはなかなか行きつかないのだが、まあ、吸引力はある映画ではある。これはやはり繊細な演技をこなす出演者たちの力だろうか。(2月16日 新宿TOHOシネマズ 34)


⑪河豚
監督:李啓源 出演:潘之敏 呉慷仁 陸弈静 姚安琪 2011台湾

台湾のデパートのエレベータガールをしている小尊、仕事もそれほどのこともなく、同棲している恋人は自己中心的で、彼女の留守中に別の女性を部屋に連れ込む。彼女は彼が買っていた河豚をネットオークションに出し、買い手のもとにビニール袋に入れた河豚(ハリセンボンだそう)1つ(ハンドバックひとつ持っていない)をもって出かけていく。
田舎道のバス停でバスを降りて待っていると長髪の男が現れる。彼女は水槽に自分で河豚を話したいと言い、男とともに彼の家に。そこで突如?男は彼女を抱き寄せ、彼女もあたかも誘うかのごとくに体を合わせる―となんじゃ?こりゃという感じは確かにあって、ウーンだが、ことが終わって飛び出していく男に彼女は「あなた、誰?」と声をかけ男は「野球のコーチだ」とだけ答える。男が出ていったあと、彼女が二階にあがると、そこは寝室で色とりどりの女物の洋服がところせましとかけ並べられている。とっかえひっかえ身に着けてみる彼女―ウーン、この展開もなんか気味悪いよなあ、誰の衣装よ、-そこに窓からのぞく盲目の中年女性。彼女をリュ―ファと呼び、帰ってきたのねと懐かしがる。そしてそのままこの家にいつく小尊。あとは互いに体を合わせながら心を開くでもない男と、なんかすり寄っている感じの小尊の日々が描かれ、やがて男が少しずつ?変貌していく―これって心を閉ざした男が小尊によって体を開き、心を開かれ彼女を愛していく過程を描いた映画?-ウーン。実は男の妻(男は最後のほうまで左手に指輪をしている)はトラックの運転手と逃げたらしい。最初は小尊がしまった衣装をドレッサーから取り出しかたくなに部屋に戻す男、野球場の練習風景では子どもたちの後ろからけだるげに走っている男が、そのうち、彼女に髪を切ってもらってさっぱりし(斎藤工風ふてぶてし気な長髪男が、突然童顔すっきりの普通の男になった)野球練習では子どもたちの先頭を走り、盲目女性のダンス練習に付き合うなどして互いになじんでいく―ウーンホントにこれでいいの?感はあるんだが、そこにある日男の妻が突然帰って来る…そしてここでも河豚がらみの繊細なやり取りがあって最後は小尊と男の金針花の咲き乱れる野原での至福へと…。
特に小尊は裸だったり挑発的だったり、エレベータガール時代とはうって変わって見かけ清純ファムファタルっぽいし、どうなんだろ、という感なくは見られなかったが、どうもこの映画物語の合理的展開というよりは心理描写のなかで心の繊細な動きを追いかけて評価された「アート作品」?らしい。ま、そう思ってみれば、場面の配置小道具の使い方、背景の景色、それぞれ目を楽しませてくれ、セックスシーンもそいういうふうに楽しむことはできるのかも。男が練習後に入り、小尊が裸でエレベータガールの礼をするという印象的な場面の大浴場(大きな丸い浴槽が二つ)は友人某氏によれば台北・台鐵(台湾鉄道)松山工廠(車両検査・修繕・改造などを行っていた)の職員用の浴場ではないかとのこと、今は使われていないがやがて公園になる予定で整備中とか。金針花の咲く田舎は花蓮?あたり(エンドロールに花蓮市とあったが、かの某氏によればもう少し南の感じとか)だが、この映画の撮影後訪れた監督?によればもうそのようなのどかな風景は消えてしまったとのこと。河豚は唐突な気もするが棘をもって水槽に潜むメタファー?ま、印象的な美しさのある映画であったのは事実。4月~の台湾巨匠傑作選(Ksシネマ)で上映予定だそうだ。
(2月16日 東中野ポレポレ坐上映会 35)


⑫誰もが愛しいチャンピオン
監督:ハビエル・フェセル 出演:ハビエル・グティエレス 2018スペイン 118分

プロバスケットチームのサブコーチ、妻とは別居中のマルコ(バスケ選手になるのは無理と言われたほどの小男)は試合中にメインコーチと衝突、相手を殴って退場に。やけくそで酒を飲みパトカーに衝突、公務執行妨害もあって逮捕される。裁判で女性判事(格好いい)に刑務所に入る代わりの奉仕活動として知的障がい者バスケットボールチームのコーチを90日間することを命じられる。いやいや、差別意識も丸出しでチームを訪れるところから、選手たちとの出会い(全スペインから600人ものオーディションを経て選ばれたという実際の障がい者たちが演じているとかー結構皆芸達者で「選手」やその私生活ぶりを演じていて楽しい)まあ、予想通りのいろいろごたごたあって、わけありそうなスタープレーヤー、ロマンが抜け、元気いっぱいの女の子が入団し、マルコの妻も運転手として参加し(この映画の基本コンセプトの一つは家族愛?マルコと妻や、母との関係の描き方はスペイン社会での男性が家族(母・妻)という強いきずなの中で生きていることを感じさせるし、チーム選手を応援に来る家族や、マルコの妻が最初試合に来ないことをいぶかる選手の姿にもそれは感じられる)全国大会で勝ち抜いてとうとうカナリア諸島で行われる決勝に行くことになるが、お金がなくてあきらめざるを得ないーそこで障がい者雇用で税金対策しながら選手には過重労働を強いていた雇い主に交渉して全員分の旅費やその選手の15日間の休暇を勝ち取った面々は強豪チームとの決勝にのぞみシーソーゲームを展開するが…。
チラシの惹句には「予想を裏切るエンディング」とあってなるほど…。まあただのスポコンものとはひと味違う選手面々の個性や暮らしの中でのガンバリぶりが出てくるので、このエンディングも至福の者として描かれるわけだが、「障がい者」ものに寄り掛かっているという意味ではちと、フェアではない気もしなくもない。それにしてもラストでマルコは妻と再度結ばれ母も応援に駆け付け、またマルコ自身がコーチとしての成長ぶりも見せチームの選手にも慕われるというわけで、まあ予定調和的ではあり、家族映画でもあるとは思うが、うまくまとまって惹きつける作品に仕上がっている。
(2月18日 川崎市アートセンターアルテリオ映像館 36)


⑬私の知らないわたしの素顔
監督:サフィ・ネブー 出演:ジュリエット・ビノシュ ニコール・ガルシア フランソワ・シビル シャルル・ベルリング 2019フランス 101分 ★★★

50代、離婚して二人の息子を育てる文学の大学教授50代のクレールは、ボーイフレンドのリュドの新たな同居人アレックス(ちょっと二人の仲を邪魔するというか、クレールを無視する感じ?)に興味を持ち、SNSで24歳の女性クララのふりをして連絡を持つ。それが彼女の生活に張りと喜びを与えるが、SNS上の彼女を愛したアレックスの会いたい攻撃?の中で彼女はだんだんに追い詰められていく。この過程がクレールと彼女の主治医(カウンセラー)ボーマンとのセラピーでの彼女の語りとして前半は綴られる。追い詰められてとうとうアレックスに別れを告げた彼女はその後リュドからアレックスが失意のあまり自殺したことを知らされる。リュドは電話の声をアレックスから聞かされクララ=クレールであることに気づいていたという。ここでクレールの精神が崩壊して話が終わる?と思うとそうはならず、次はクレールの書いた手記として、クレールが身の上を隠してクララを失ったアレックスに接触して今度はクレールとして付き合いはじめ、しかしやがてあることからクレールがクララであることにアレックスが気づき、彼がそれをクレールに告げようとするときにおこる事故…手記の中でのクレールはここで死ぬ?…でこの手記を読んだボーマンはリュドに会って、実はアレックスが死んだというのはリュドの嘘であったということを知る。そして…というわけで、ウーン。
話の展開としてはまあよかったと思うべきなのかもしれないが、実体のない不安の中で苦しみつつ孤独に生きていくのであろうクレールの後ろ姿、水中に没する顔で終わるこの映画のコワさって…。彼女の一歩は、言ってみれば性愛の中で、それが失われつつある50代の不安といういかにもフランス的?なものゆえのものである、と思われるが、若い男との疑似恋愛はともかくとして老いへの不安という意味ではだれにも共感できるし、美しくはあるのだが老いの兆候をしめしてぎりぎりというジュリエット・ビノシュの面持ち、演技はけっこうすさまじく濃密で、さらにより老いの兆候(しかしまだまだ仕事面では現役的な)濃厚なニコール・ガルシアとの対置は息詰まるようなところもあり、ものすごく見ごたえのある、中身の濃い映画にしあがっていて、全然期待はしていなかっただけに拾いものをしたようで驚嘆。これをみると『真実』(是枝裕和)や『冬時間のパリ』ののビノシュなんて、まだまだ甘いなという感じ。
(2月18日 川崎市アートセンターアルテリオ映像館 37)


⑭夕陽のあと
監督:越川道夫 出演:貫地谷しほり 山田真歩 永井大 川口覚 松原豊和 木内みどり 2017日本 135分

鹿児島県長島を舞台に、里子を育て特別養子縁組をしようとしている一家と、かつて子供を捨てたが、探し求めてこの島にやってきて1年、母とは名乗らず遠くから子を見ている実母を描く。特別養子縁組の手続きの中で実母を知った養母の葛藤苦悩がどう回収されていくのかが見ていもっとも気になったところだが、養母は上京して、実母が子を捨ててから自殺未遂、子どもの遺棄によって執行猶予3年の時を過ごしたその経過をたどり、その過程で実母の苦しみや子を求める気持ちに共感することにより、実母に対して子を手放せないと主張し、またほとんどの子が島を出て行く状況の中で、子どもが島を出る時には実母に任せたいーつまり子育ての共有?-それは島の大人が実母も含め皆で子どもたちを見守り育てていく―そのことを子供たち自身も自覚しているという島の状況に沿うものでもある(とはいえ、島の男の結婚して一緒にこの島で子どもを見ていこうという申し出でに対してはさすがに断る実母)という、その意味でこの映画「島」の懐深さというか島自体を描いた映画でもあるのだろう。最初の方、家族の話しているセリフとかなんだかわざとらしいなとも聞こえるところがあったが、全体としては流れに引き込み共感させる。それは貫地谷(実母)に微妙な表情の変化を見せる演技、山田(養母)の迫力と迷いの狭間にいる表情、そして亡くなった木内みどりの包容力ある島のおばあちゃんぶり(亡くなる直前?いろんな映画に出ていて大活躍だったのに…)などにもよるのだろう。
(2月20日 下高井戸シネマ 38)


⑮淪落の人
監督:オリヴァー・チャン 製作:フルーツ・チャン 出演:アンソニー・ウォン(黄秋生)クリセル・コンサンジ サム・リー セシリア・イップ 2018香港 112分 ★★

評判にたがわず、いかにも香港?、の人情ものに仕上がり、しかも中年になってからの事故で半身不随(というか胸から下は感覚もないというのだから2/3不随かもしれない)というつらい境遇にある男を描き、彼は最後まで決して彼自身の未来が大きく開けるということはないにせよ、写真家になりたいというフィリピンからきた家政婦の夢を後押しし、PCの画面でしか会えないアメリカ在住の息子の後押しをしつつ自分の心を開いていくという、助けられるものではなく助けるものとして自分の人生を作っていくというところが明るくてうれしい。最初の方では英語もしゃべれず、頑固で心閉ざしているかのようなシーンもあるにはあるが、それは多分おおぜいの家政婦とうまくいかなかったから、そして彼自身はこわもての見かけ(何しろアンソニー・ウォンで迫力十分)にもかかわらず多分本来すごく優しい思いやりの人でもあったのだろうことは、大陸からやってきて、今たびたび彼を訪ねてスープを届けたり、彼の用を足したり、将棋の相手になったりしている友人(サム・リーがなんかこれも見違えるようないい人ぶりの好演)の存在からも察することができる。とはいえ、主人公の妹の態度や、休みごとに集うフィリピン人家政婦たちのグループの描き方からはこの映画、単なる夢がかなう物語でなく、フィリピン人など移民に頼る香港社会の、しかし彼らに差別的でもある香港社会の状況はしっかりと見据えている。  (2月20日 新宿武蔵野館 39)


⑯ゴールデン・ジョブ 黄金兄弟
監督:陳家楽 製作:成龍 曾志偉 ほか 出演:鄭伊健 陳小春 陳家楽 マイケル・ツェー(謝天華) ジェリー・ラム(林曉峰)2018香港 99分 ★


ウウウ!これぞ香港エンタメ人情アクションムービー、男の世界! けっこう50代近辺になっているかつての「古惑仔」の面々が、阿爸のエリック・ツァンを囲んでバンバン撃ち放し、香港からブタペスト、熊本・福岡、そしてモンテネグロまで世界を駆け回り大暴れ。ま、日本をはじめどこでバンバン撃ちあってもカーチェイスをして車が何台も大破してもなぜか、最初のほうでのビルの裏切りにより獅王が逮捕され収監されてしまうところ以外は、全然警察も現れず、誰一人捕まることもなくというのはまあ、あんまり嘘っぽいけれど、これはアクション映画のお約束と、我慢すべきなんだろう…。で、話は孤児として阿爸に引き取られ育った5人の男、何でも多数決で決めるはずが中の一人の抜け駆け的裏切りによって獅王は収監、彼の出所を待って4人はビルを探して取られた金塊の奪回をはかるというような展開。で最後は撃ち合い撃ち合いで阿爸も彼を助けた日本の支援者(倉田保昭がシブミと強さで大活躍)も死に、さらにモンテネグロの孤島に金塊とともにいるビルとその仲間との撃ち合い、そして…という展開。最後の最後に実はビルが単純に裏切っただけでなく仲間への貢献もしていたことがわかって…というのはきわめて香港的だなあと思った。とにかくウエットで楽しめる。(2月20日 新宿武蔵野館 40)


⑰わたしは光をにぎっている
監督・脚本:中川龍太郎 出演:松本穂香 渡辺大知 徳永えり 三石研 樫山文枝 2019日本 96分

両親を失い祖母に育てられた20歳の女性澪が祖母の病気入院を機に東京に出てきて、父の旧友?の銭湯主のところに世話になる(田舎の家も旅館?風で大きなお風呂があり、銭湯がらみの旧友だったのか?)。仕事を見つけるまでの居候という約束だったが、この女性というかむしろ少女?口下手?だしもっさとしていてバイトもなかなか勤まらない感じでクビになったりする。それでも銭湯の常連らしい若者たちと親しくなったりなどしながら、やがてこの銭湯を手伝って暮らすようになる。そして…、彼女の面倒をそれとなく見ていた店主がなんか酔っぱらって荒れ気味と思ったら後半、この銭湯のある商店街が再開発事業のために立ち退き取り壊しを迫られその期限が近付いていることがわかる。おりしも祖母の死が伝えられ葬儀に田舎に帰る澪、そして銭湯店主も…この場面もまた、街の居酒屋やラーメン店などで飲んで正体をなくし、吐いたりするような店主(三石研)の様子はリアルに演じられてはいるがこの男よほどの屈託があるんだろうなとも思わされて、なんか重苦しい。全体にフォーカスが甘い?そしてロングショットで人々のアップなどもない色合いもくすんだ映画で、マジメな話なんだなとは思わせるが、ちょっとついていくのがつらい感じ。祖母愛読の山村暮鳥の詩からとったという「光をにぎっている」場面は銭湯の透明な湯のきらめきに手を入れる主人公の様子に投影されているのかな?とも思えるがウーン。それほど心はじける感じにはならないし、最後に澪が新しい道を見つけたという1年後もなんだか唐突?顔も見えないロングショットで、澪よりも彼女を見つける店主の方を心配してしまうような映像で、ウーン、ちょっとくたびれたなあ。ま、重くつらい部分もあるテーマなのは確かなんだとは思うが。それを重苦しく描くっていうのは芸がないんじゃない?(2月21日 下高井戸シネマ 41)


⑱スキャンダル
監督:ジェイ・ローチ 出演:シャーリーズ・セロン ニコール・キッドマン マーゴット・ロビー ジョン・リスゴー  マルコム・マックスゥエル アリソン・ジャネイ2019 米・カナダ 109分  ★

2016年、アメリカで保守系の支持が高いTV局FOXニュースで実際に起こったスキャンダル、契約を切られたベテランキャスター、グレッチェン・カールソンがCEOのロジャー・エイルズを訴えた事件を「実際のニュース以外は俳優が演じている」と銘打ったドラマ化。つまり実際のトランプ大統領(当時はまだ候補)やオバマ大統領、それにニクソンやレーガン元大統領も生の顔で出演ーニュース映像と言っても当然映画のシーンに合わせて編集されているーそこに美しい(日本人メイクアーティスト辻一弘がシャーリーズ・セロンの特殊メイクを担当したというが別に彼女モンスターなみの特殊な風貌というわけでなく、きわめて美しく、ウーンこれって特殊メイク効果?それとも実際には特殊メイクは必要なかった?)3人はじめミニスカートを強要されみせることを求められているアンカーの女性たちの、絶対権力者たるCEOに抵抗できない姿の群像―決意をするがなかなかに仲間を得られないグレッチェン、抵抗感を持ちつつ彼の要求に従うケイラ(これは実在の人物ではないらしい))花形メーガンの保身と正義感の間で揺れつつ踏み出す決意にやはり焦点が当てられていくが、3人は手を取り合うというわけでもなく、遠くで共感を持ちあうという感じ。で、このあたり人間ドラマというより、社会構造の中で女性を貶め性的存在としてアイドル化しようとする社会のグロテスクさとかそういう構造そのものを描くことに焦点が当てられている感じがして潔く、実在のTV映像もそのドキュメンタリー性をバックアップしている感じがする。こういう映画がすぐに作れるハリウッドはやっぱりすごい。  (2月23日 府中TOHOシネマズ 42)


⑲キング
監督:デヴィッド・ミショッド 出演:ティモシー・シャラメ ジョエル・エガ―ドン ロバート・パティソン リリーローズ・デップ  2019米・豪 140分

ティモシー・シャラメのキング・ヘンリーⅤぶりやいかに、という感じで見に行った、ネット・フリックスの、でもやはり大画面で見たかった映画。
王位に興味なく庶民の中で遊び暮らしていたハルが王位継承者だった弟の戦死とそれに続く父の死で、急きょ王位をつぐことになる。父のフランス制圧には批判的で講和の道を探っていた彼だが、フランス皇太子のプレゼント(ボール)による挑発、彼の暗殺がたくらまれたという情報に、とうとうフランスに対して戦争をすることを決意する。仕える諸侯を信じられない彼は、街で暮らしていた当時の仲間ジョン侯を呼び寄せ参謀としてフランスを攻略するージョンの戦略に従い見事に戦いに勝つが、ジョンは自らを犠牲にするごとくの攻略で戦死、フランス王はイギリスに従う交換条件として王女を妻にすることをヘンリーに要求し、彼は勝利はしたものの友を失い一種の失意のうちに帰国する。しかも戦勝記念祝賀の最中にフランスとの戦が、長年イギリス王に使えてきた側近の画策によるものであったことがわかり、ヘンリーは側近を殺し、誇り高いフランス王女には「真実だけを語ってほしい」と告げるという…、つまり周りを信じられない人にばかり囲まれた中で唯一の友を失った王の、王として生きる道を描いたという、シェークスピアらしいテーマに貫かれた悲劇である。で、そう言いつつ繰り返されるヘンリーの1対1の決闘場面とか、泥まみれのフランス攻略戦とか、現代映画ならではの見ごたえあるアクション?シーンにも満ち溢れ、断頭台の首が飛ぶシーンとかエグイ映像もほどよく混じり、なかなかの見ごたえある飽きさせない2時間半近く。ティモシー・シャラメは「らしさ」を保ちつつ、苦難の中で成長しようとする、決闘しても強いキングを演じて頑張っているし、父親似の高い頬骨にプライドを漂わせたジョニー・デップの娘リリーローズのフランス王女としてのちょっと野蛮そうなたたずまいも印象的。
(2月24日 下高井戸シネマ 43)


⑳グレタ
監督:ニール・ジョーダン 出演:イザベル・ユベール クロエ・グレース・モレッツ  マイカ・モンロー 2018アイルランド・米 98分

ま、なんと怖いイサベル・ユベールのサイコパスぶり。付け込まれつきまとわれ最後は監禁されてしまうのはクロエ・グレース・モレッツだが、ウーン。前半のグレタに興味を持ちつつからめとられていく過程は共感しつつハラハラできるのだが、後半はちょっと弱々しすぎない?―まあ、そう追い込まれて行くのがグレタのコワさでもあるのだがーそしてそのフランシス、母を失い父との間にも確執がありそうというのが伏線になっているわけだが、最後に心配した父が雇った(金額交渉1日250ドルとかいう)探偵はグレタにあっけなくやられてしまい、フランシスを助けるのは同居の女友達エリカであるというのがおもしろい。ここでは家族の絆よりも友情と女どうしの力が勝つというわけか。そこで家族の絆を失って精神のバランスも失ったグレタの悲劇も強調されるわけだ。ある種ニューヨークという街のコワさも―ちなみにグレタはフランス人のふりをしてフランス語を振り回すハンガリー出身の元看護師という設定。  (2月24日 下高井戸シネマ 44)


㉑AI崩壊
監督:入江悠 出演:大沢たかお 賀来賢人 岩田剛典 広瀬ありす 三浦友和 松嶋菜々子 田牧そら 玉城ティナ 芦名星  2020日本 131分

人々の生活情報から遺伝子情報まで、個人情報を把握することにより適した医療を供するためのAI「のぞみ」を妻ののぞみと開発した天才科学者桐生は政府の認可が下りなかったため妻を喪ったあと、娘と2人シンガポールに移住してAIとは無縁に暮らしていた。日本国内ではのぞみの弟・西村が「のぞみ」を管理するHOPE社の社長となっていたが、彼から開発者の桐生に総理大臣賞が贈られるとの連絡が入り、気の進まない桐生だったが娘の懇願もあって日本に一時帰国する、というところから話が始まる。
そこでの突然のAI暴走、娘が低温の管理室に閉じ込められ、警察でも開発中のAIシステムにより、犯人とされた桐生がAIの目をかいくぐりアナログに逃亡しつつ、システムを復帰するためのプログラム開発をするという、まあ予想通りの展開だが、プログラム作りなどはほとんど外からの「ようす」でしか描けないわけだから、この映画「ミッション・インポシブル」ばりのアクション逃亡映画であり、主役の大沢たかお(50歳を超えてるのね!!)もトム・クルーズを意識した?フシもあるようだ。で、展開としては途中義弟への疑惑があり、しかし実はというところで犯人も含め予想ができてしまうし、そこにアナログ派の老刑事と新米刑事がからむとか、桐生を助ける人々が、AIに救われた人だったりしかも助け方はアナログっぽいし、何よりこの、天才科学者かもしれないが、その生活を捨て日常を娘と生きてきた主人公の超人ぶり(弾丸もゼッタイに?当たらない)もいささかアリエル?という感じだし、彼をいわば罠にかけた犯人も、意外性がないし(話としてはありえそうですごく怖いけれど)お話としてはお粗末な感じもなきにしもあらず。もっとも寝ないで見られる娯楽性は十分だし、なにより個人情報により人を選別し生死をも決めるAIというのは結構現実を感じさせる、その怖さはじゅうぶんだった。
(2月25日 府中TOHOシネマズ45)


㉒ラスト・ディール 美術商と名前を失くした肖像
監督:クラウス・ハロ 出演:ヘイッキ・ノウシアイネン ビルヨ・ロンカ アモス・プロテルス ステェファン・サウク 2018フィンランド 95分  ★★

心に残った佳作『こころに剣士を』(2015)のクラウス・ハロの新作。全体的に地味に地味に抑えめの、老いて取引がうまくいかなくなっている画商の心象そのものを表すようなくすんだ映像だし、展開も抑え気味だが、心に深い印象を残す佳作である。
老いた画商の祖父のもとに、「窃盗」の前科があって学校で義務化されている職業体験プログラムの行先が見つからない孫の15歳の少年が、その母親からいわば無理やりに送り込まれる。前後して画商はオークションの出品作の展示会で画家の名が入っていない男性の肖像画に心惹かれる。ロシアの画家イリヤ・リーピンのものではないかと考えるが、確証はない。その調べものに没頭するために画商は孫をいやいや引き受けるが、店番をさせた彼が意外な商才を発揮したことから、肖像画のルーツ探しを手伝わせることに。
このあたり、少年は祖父には使えないインターネットなどを駆使し、絵の元の持ち主(すでに亡くなっている)にたどり着き、絵がリーピンのものである証拠を突き止めるという映画の中で唯一アクションっぽい場面で、少年の「映画的」な行動に快哉!というところ。
後半はこの絵をオークションで競り落とした老画商の資金作り苦労と、その過程で明らかになる離婚した娘親子のたどった苦労ーかたくなに堅実性を求める娘ーと娘から見ると不本意どころか怒りさえ感じるような孫を巻き込んでの資金作りの結果手に入れた肖像画だが、落札後にこの絵が価値あるものであったことを知ったオークションのオーナーのいわば横やり的ないやがらせによって画商はこの絵を売れず、店を手放すことになり、やがて死ぬという悲劇的な結末に一気になだれ込むが…。老人と孫が共同して肖像画の謎を明らかにしていく過程も楽しめるし、その結果どうしようもない子と思われていた少年が賢く行動力があることが見えてきて、その母である画商の娘と画商、また少年と母が和解していくというさまざまなことを95分に盛り込んでいるにもかかわらず、煩雑さ長さ(短さ)も感じさせない、非常によくできた構成の映画で、引き込まれ楽しめた。(2月29日 KINOシネマ立川 46)


㉓娘は戦場で生まれた FOR SAMA
監督:ワアド・アルカティーズ エドワード・ワッツ 出演:ワアド・アルカティーズ サマ・アルカティーズ ハムザ・アルカティーズ 2019英・シリア アラビア語 100分
★★★

シリアの包囲地区で2012年~16年、爆撃の犠牲者を看る病院を仲間とともに運営するハムザ(妻子とは別居、離婚)と、ともにその場にあって撮影し、記録するワアド。二人の結婚、長女サマ(空、爆撃のない、の意だそう)の誕生と成長の様子が空爆時の避難や、犠牲となった死傷者―助け出す様子や医療や、あるいは並べられた遺体なども。悼む家族や、「子供より先に亡くなった親に嫉妬するー子供の死を見ずにすんだから」というような作者自身のナレーションとともに綴られるドキュメンタリー。なにしろ題材が緊迫していてすごいし、映画ができたということは死なずに済んだということではあるが、それにしても常に死と隣り合わせというような状況で、映像も時にゆがんだり跳ねたりということもあったりするのだが、それにもかかわらずこの映画が単に忌むべき悲惨な状況を描いたというふうではないのは、過去のことでなく今のこととして、確信をもって立ち向かい乗り越えていこうとする両親の姿、そしてその中でどんなに悲惨な状況の中でも愛され、大切にされていることがわかる娘の笑顔や、まわりの大人たちの子供への愛も満ち溢れているからだろう。小さな子供を抱えた働く母親であった時に感じた使命感や高揚感のようなものを久方ぶりに感じさせられたのも、この映画が戦争の悲惨さを描くことを超えて普通の生活の中での子どもを育てること、子どもの未来をつくっていくことへの決意の普遍さを持っているからだと思われる。  (2月29日 KINOシネマ立川 47)

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