第15回大阪アジアン映画祭2020 /3月 

新型コロナ禍の中、大阪まで行きました!セレモニーや関係者登壇挨拶・Q&Aなどはすべて中止でしたが、映画そのものはすべて上映。時間的にはいつもよりゆったり見ることができて、かえってよかったところも。9日から15日まで、1週間滞在し、短編3本も含め26本の映画三昧の日々をおくりました。行きの新幹線からの富士山(久しぶり!)は残念ながら半分雲隠れ…

会場の一つ、シネリーブル梅田の受付

もう一つの会場、ABCホールは旧中津藩蔵屋敷跡で、福沢諭吉の出生地です。

①チャンシルは福も多いね②サンシャイン・ファミリー③少年の君④白骨街道⑤ハンモック➅アレクス ➆メイド・イン・バングラデッシュ➇メタモルフォシス➈堕落花⑩燕 yan ⑪ミス・アンディ(迷失安狄)⑫ハッピー・オールド・イア―⑬私のプリンス・エドワード(金都)⑭大いなる飢え ⑮春潮⑯散った後⑰コントラ⑱花椒の味⑲愛について書く⑳マリアム ㉑日光之下㉒オッズ ㉓ギャングとオスカー、そして生ける屍(江湖無難事)㉔ノーボディ㉕家に帰る道 ㉖君の心に刻んだ名前               

韓国・中国・台湾・香港・日本・フィリピン・タイ・マレーシア・インド・バングラデシュ・カザフスタン などの作品でした。

(★1~3はあくまでも個人的な好み、最後の数字は2020年の通し鑑賞数です)

①チャンシルは福も多いね
監督:キム・チョヒ 出演:カン・マルグム ユン・ヨジュン キム・ヨンミン ユン・スンア ぺ・ユラム 2019韓国 95分  ★

2年ぶりのシネリーブル4、あれ?こんなに見にくい劇場だったっけ?ちょうど中央辺りでいい席のはずなのだが、さして座高が高いとも思えない前の人の頭で画面が見えない!しかもなんか暗い。この映画のせいかとも思ったが次の映画も??省エネ対策?それとも私の目の老化?(でも他の劇場でそんなことはあまり感じないからなあ)
で、この映画ホン・サンスのプロデューサーだった監督が自分の体験もおりまぜ?職を失って後輩女優の家政婦をする日々、彼女のフランス語家庭教師に恋をしてふられたり、下宿屋の隣室に現れる幽霊―これが『欲望の翼』のレスリー・チャン!白タンクトップにパンツというスタイルで笑える。がどうせなら踊ってほしいものだけれどそれはない―と人生を語り合ったりという、不安でふらついている状況をユーモラスに不思議な雰囲気に描くところもホン・サンスを継承しているような雰囲気で(でも多分ヒロインが作者と等身大ということもあるからだろうか、ユーモアのリアリティはより濃厚な感じ)なるほどね!という映画。後、レスリーも含め小津やクリストファー・ノーランについての語りが出てきたり映画愛に満ちた映画でもある。(3月9日 シネリーブル梅田4 52)


②サンシャイン・ファミリー 
監督:キム・テシク 出演:ノニー・ブエンカミーノ シャーメイン・ブエンカミーノ スー・ラミレス シンウ 2019フィリピン・韓国 88分 ★

こちらはなつかしい?日本の『ひき逃げファミリー』のリメイク。といっても韓国に駐在中のフィリピン人一家の物語になっていて、それゆえ?娘の相手が不倫の上司でなく韓国の若いイケメン警察官であるとか認知症の祖父が隣人であって、認知症ゆえに?車の解体に大きな力を発揮するとか、小学生の息子はオシャレ好きゆえに韓国文化の中で先生にも差別されてしまうとか、そして何より、最後に家族が旅立つ場面の明るさ―彼らは帰るところがあってフィリピンに旅立つ(らしい)とかが、92年の前作に比べるといかにも現代の国際化した、もしくはその中でのいかにも韓国社会での家族再生の物語になっているところが、今30年近くも経ってこの映画がリメイクされた意味なのかもなと思える。
(3月9日 シネリーブル梅田4 53)


③少年の君
監督:デレク・ツァン 出演:周冬雨 2019香港・中国 135分
観客賞受賞作品 ★★★


なるほどな!悪ー罪の存在を許さない(勧善懲悪)の中国体制化、ロマンティックに「いじめ」を描くとこうなるのか!いじめられている少女、優等生だがシングルマザーの犯罪すれすれみたいな生活の中にいるー周冬雨、20代も後半だそうだが、高校生を演じて表情も歩き方も全然違和感がないのがすごい!ーひょんなことから知り合い彼女を助けるチンピラ青年の純愛と言ったら昔の日活映画の純愛ものみたいだが、後半にいたりいじめの首謀者だった少女が死体で見つかる、その謎解きミステリーで一変。その中で「世界を守る人になりたい」というヒロイン、「その君を守る人になる」というチンピラ。彼は身を挺してヒロインを襲うふりをして自分が捕まる。男が服役し、女は大学統一入試を受けるがその後に再会しようということで、刑事の目を欺こうとするが、その後実は…という被害者の死の真相があきらかになり、若い二人の純愛的な自己犠牲的な感動的目論見はつぶれるというところがなるほどね。そしてラストシーン(実はトップも)、培訓班の教師になって「was」と「 use to be」の違いを教えるヒロインが、いじめられているらしい屈託ありげな少女を見つけて家に送るシーン、うしろから成長した少年(永山絢斗風)がついていく、そして中国のいじめ事情とその克服がテロップで出るわけだが、ウーンでもやっぱり20年?たっても解決はされているわけではないのねとも思わせるちょっと皮肉な終わり方。香港生まれ?のデレク・ツァンの慧眼が行き届いている感じもする。
(3月10日シネリーブル梅田4 54)


短編プログラムA (3月10日シネリーブル梅田3 55~57)

④白骨街道
監督:藤元明緒 出演:プー・プール・ポー ラン・ザ・コップ 2020日本 16分 ★★

かつての日本軍の遺骨収集に携わる現地の人々の姿を描く。最後に遺されてさびた鉄のかたまりとなった鉄兜や銃器は出てくるが「白骨」はまったく現れず、ただ掘り続け、そこに戦中の日本軍の傲慢さを若者に告げる現地のリーダーの話が入るというもの。景色は墨絵のような青さでなかなか静謐な美しさなのだが、そこでの重い事実は短編と言えど、さりげないゆえに心に沁みる。

⑤ハンモック                                  監督:岸建太朗 出演:岸叶会 江間直子 岸カヲル フィリップ・エマール 皆木ヒューゴ 2018日本 30分


夫ケンタローを失ったモモコが新しい伴侶のアダムとその息子ジョセフを連れて、夫の母カヲルのもとに帰省する1日の話。カヲルはモモコの娘カナエを預かり育ててきたという関係。モモコはカナエを連れてアダムとアメリカに移住することを考え、またケンタローの遺品をカヲルに見せようとする。ま、その両者の心の動きを描くというわけだが、それをつなぐのがカヲルが語るパレスチナで見たアブラハムの墓の異宗教の信者がともに礼拝をする景色というもので、異文化のつながりというか理解を描こうとしているのだろうが、なんか観念的な感じで、妙におどけて親し気な態度を取るアダムと、最初は抵抗的だが、すぐに笑い顔になる少女(6歳)のカナエ、逆に仏頂面というか、逡巡の気配の強いモモコのアンバランスも含め、ウーン。
映画を作るために無理に設定されたシュチュエーション?(要はリアルさ欠如?) 私には、なんか違和感というか異物感の残る映画だった。

➅アレクス                                   監督:エメットジャン・メメット 出演:メルハバ・イスライル エクレム・エーメット イーサン・イマーム 2019中国 12分 ★


今回今まで見た中で最もアート志向の一篇かな。新彊ウイグル自治区出身の監督で、舞台もそのあたりの風光。旅行から帰って妻に飼い犬アレクスの行方を問う夫。妻はなにやかやと言い逃れのような言いわけのような…、で夫は妻が犬を預けたという叔父の家に。そこで夫と叔父が犬を探しに行った後の妻と叔父の息子(甥)の内緒タバコを吸いながらの会話という、それだけの12分なのだが、登場人物は基本的に相手に向かってというよりカメラに向かって演劇的?な会話を交わしす。ウーン。まあけっこう内容的には面白かったりスリリングだったという印象はあるが…。

➆メイド・イン・バングラデッシュ                        監督:ルバイヤット・ホセイン 出演:リキタ・ナンディニ・シム ノベラ・ラフマン パルピン・パル ディパニタ・マーティン      2019仏・バングラディシュ・デンマーク・ポルトガル 95分 ★★★


バングラデシュの縫製工場で搾取されるシムという若い妻、工場では男の監督に人間扱いされないような言動をされ、家では彼女を愛してはいるが、最初は無職で彼女に寄食、職を得てからは男権主義をふりかざし彼女を支配しようとする夫に抑圧されながら組合作りに奔走する。彼女を支援する労働団体の女性のきりりと最初は結構対比的におずおずという具合だが、同僚が上司に結婚でつられて愛したものの不倫がバレると誘いをかけたあばずれ扱いされてクビになったり、組合結成を危ぶんだ上司の持ち物検査で資料を持っていた同僚が突然に失職したり、そして彼女自身も夫が職場に呼ばれたり、休みを取るように説得されたりという中で、それでも労働組合結成の認可が通らない、労働局の担当者自身が何だか腰が引けているという状況でどんどん追い詰められて、最後は…同僚たちと一緒に乗り込み、それでも会わせてもらえずあたかも押し入るように直接の担当者に談判してやっと会った上司は、上の圧力だと平然として彼女の書類にサインしようとしない。そこで彼女は…それまで黒のヒジャブをかぶりおとなし気な物言いだった彼女が、ヒジャブを取り相手をくっきり見つめてものをいう姿の変化は感動的。ただし、その内容は相手の不正やいい加減さを逆手にとって、そこを暴露して無理を通すというものだから、こうしなくては言い分が通らない状況が苦く感じられ、映画も必要なサインを得たというところで終わって、このあと彼女たちの行く手は決して平坦ではないと思わせて終わるところがすごい。見ごたえあり。(3月10日シネリーブル梅田4 58)

➇メタモルフォシス                               監督:ホセ・エンリーク・ティグラオ 出演:ゴールド・アゼロン イアナ・ベルナディス リッキー・ダバオ イヴァン・パディリア     2019フィリピン 99分 ★★


夜9時から開始の回は遅いし、見る気もあまりなかったのだが内容的にもちょっと気になりプログラム解説者(杉山亮一氏)の「いいよー」の声にも押されて急きょ見ることに。結果としてはよかったです。生理が始まったことによって自らがインターセックスであることに気づいた少年アダムの困惑と自分が何者なのか(男か、女か?)に揺れつつ、自分らしさを模索していく姿を描く。全体に明るい陽光に満ちて、映画自体がアダムの模索と行く末を暖かく見守っていく感じなのは少年の母親や、24歳の転校してきた同級生エンジェル―本人も秘密を持ち、秘密を持つものどうしとしてアダムに共感し受け入れていくーの存在の描き方によるのだろう。一方であたかも理解者のごとく少年を診る医師アレックスや、そして何より牧師の父の無理解―優しいのである、しかし少年の状況を「異常」として手術によって「正常」に戻そうとする姿勢がアダムを苦しめるーアダムの父母の描き方も含め、この映画が一種のジェンダー視点によって描かれたものであることも言えそう―その部分は『ある少年の告白』(2018米)の牧師の父の、ゲイの息子に対する宗教的無理解に共通するものも感じられるがこちらの父はそれに比べればずっと穏やかで、同僚?の牧師の電話で諭されると急な手術を思いとどまり、アダムとも和解するのだが…、ただ、彼は「手術は急ぐことはない、時間をかけてゆっくり決めればいい」という言い方をし、アダムは父を抱擁するという展開だが、やっぱり決めなくてはいけない?映画全体はそう描いてはいないように思われるので、ここは作者の妥協?かしらとちょっと気になるところではあった。 (3月10日シネリーブル梅田4 59)

➈堕落花                                    監督:李卓斌 出演:アイリーン・ワン ケニー・クァン エディ・チャン アリス・チャン 2019香港 96分


香港の覚せい剤を密売している組織の先代(先生)が亡くなり、ずっと片腕だった男と、一家の中で唯一クスリとは無縁だったが野心満々の養子との跡目争い、そこに20年前から姿を消していた娘「雨」が現れ、「婚外子」だと自ら名乗る妹「雪」もからんで、延々とセックスと暴力という映画で、だめだ!私にはついていけない…。「雨」が警察のスパイらしいのだが、それが物語展開にどうかかわっていくのかも追っかけられず、ただくたびれて見ていたという感じ。公式カタログの解説によれば並べられた展開を見失わせそうなストーリーが伏線として最後に回収される、らしいのだが、そこまでの鑑賞力がない…(3月11日 ABCホール 60)

⑩燕 yan                                                                                                                                              監督:今村圭佑 出演:水間ロン 山中崇 テイ龍進 一青窈 平田満 日本86分


劇場公開も決まっているようなので今回は見るつもりではなかったのだが、当日券がいっぱい残っているらしいのと、舞台挨拶がないおかげでABCホールからシネリーブルもちょうどいい散歩コース、というわけで見てみました。
幼い時に台湾人の母が7歳上の兄だけを連れて台湾に帰ってしまい、父のもとに残され(父が再婚した義母もいる)、母や兄に捨てられたと感じながら生きてきた23歳の青年燕(つばめ、幼名イェンイェン)。病と借金を得てそれを子どもたちに背負わせたくないと相続放棄を求める父に頼まれ、すでに母亡き台湾・高尾へと旅立つ燕と兄やその同性の恋人?離婚した妻との間の息子そして兄と出会い、台湾に戻った母の実像を知るまでが、ウーン、意外性はまったくない展開で穏やかに描かれていく。
最初は弟に会おうとしない兄、子供の置き引きにあって追いかける中でそのフィリピン人の子に中国語を教えているという兄の恋人との出会い。その大陸から来た恋人の「他と違うことを受け入れられない苦しみ」と燕の「他と違いたくなかった」という語り合いとか、最初の夜、屋台で母が台湾人ならあなたも台湾人だと言われて席を立つ燕とか、兄の小さな息子の「オジサンが台湾人でも日本人でもどちらでもいい」ということばがうまい具合に心に残るようにちりばめられている。そこが出色と言えば出色。母はずっと日本に残した息子を想っていたことに気づいて息子が涙する、母と帰った兄の苦しみに気づくと、ま普通のことよね。ボッとした主人公を含め雰囲気はまあまあとてもいいし、南国の温度を感じさせるような高雄を映すカメラもさすがにカメラマンの監督らしく、いいけれど。(3月11日シネリーブル梅田3 61)

⑪ミス・アンディ(迷失安狄)                          監督:陳立謙(テディ・チェン)出演:李李仁 林心如(ルビー・リン)陳澤耀(ジャック・ダン) 塗愷哲(カイザー・トウ)2020マレーシア・台湾 108分 ★★


『トレイシー』(2018香港ジュン・リー)の後日談?みたいな映画。妻の死後女性として生きることにしたアンディはそのために家族も仕事も失う。
最初は客を取ろうとして失敗し警察につかまり屈辱的な目にあわされる、さらに同じ仕事をしていた仲間が客に殺されるという非常にショッキングな事件からはじまり、これはトランスジェンダーの生き方の困難さを描く映画的手法なのだと思うが、どうだろう、主人公イヴォンと名乗るアンディの性格からするとこういう仕事や生き方は選ばない感じがして、ちょっと全体から浮いている?あと連絡もなかった娘の結婚式に出かけ、式後に娘から罵倒されるシーンも、こちらは娘の行動がちょっと映画的フィクションかな?実際だったら娘は父を徹底無視するだろうし、そのほうが多分父も傷つくわけだがそれでは映画としては見どころの山場がない?というような不自然さというか作為がちょっと目立つのだが、アンディの厳しいけれど平凡な日常を描くためにはやむを得ないことかもとは思える。
とにかくヒロイン・アンディはいい人でなんとか幸せになってほしいと、見ているうちにどんどん思えてくるのだが、最後はショック!血縁ではない「家族的関係」をせっかく作れそうだったのにまた一人に…。でも幸せな部屋のインテリアを孤独な部屋の中に幻想している彼女をみると、また同じようなことをしながら生きていくのだろうなあと、そんなあきらめなさというか、粘り強いいい人さを感じさせられ、不思議に希望も持てるような映画なのだ。(3月11日 シネリーブル梅田4 62)

⑫ハッピー・オールド・イア―                          監督:ナワポン・タムロンラタナリット  出演:チュティモン・ジョンジャルーンスックジン サニー・スワンメーターノン 2019タイ 110分 最優秀作品賞受賞 🔱!


『あの店長』『フリーランス』の監督が『バッド・ジーニアス危険な天才たち』の主演女優とともに作った「断捨離」映画。
フィンランド留学から帰ったジーンは、もともと父が経営していた音楽教室券自宅ー父が去ったあと、母が元事務室のソファーにテレビを見ながら居座り、物があふれるーを北欧風のすっきりしたスタジオ兼住宅にリフォームしようと考える。家で洋服を作りネット販売している兄は賛成するが、母は猛反対。設計を頼んだ友人にはものを整理することと、それを母に納得させることがまず第一の仕事だと諭され、ジーンは家にあふれるものの処分を断行することにする。お手本は日本で出された「断捨離」本の翻訳版。
で、目次に従って「思い出は断ち切る」とか「中を見ないで捨てる」とかみたいな章立てがされて映画も進んでいくわけだが、実際には建築家の友人にもらったCDをそのままゴミ袋に放り込んだのが見つかり、あわや絶交?となったり、留学前に恋人だった男性エームが「フィンランドの写真を撮ってきて」とくれたのに、そのまま連絡もせず別れてしまったために残ったカメラとフィルムの処分に困ったことから、元カレとの連絡が復活したり…とものを介して捨てたはずの過去が立ち返ってくるー自分の意志を貫くためにある意味身勝手だと承知しながら身勝手な行動をしてきたヒロインが、ここでもいわば「身勝手」に断捨離しようとする中で身勝手ではいられない、身勝手ではない部分で行動することによって少しずつ変わっていく様子が描かれる。
その彼女、最後の選択が父が残したピアノの処分で、父に電話をしてみるが、すでに捨てた、といわばヒロインばりの身勝手さで返されたジーンは母の猛反対にもかかわらず、兄に母を連れ出して外出させたあとにピアノを売ってしまう。ウーン。そして部屋はジーンが雑誌で見てイメージした通りの真っ白な北欧風になるのだが…。まあ、想い出のピアノを残して母を喜ばせるというような展開にしないところが断捨離ですっきりの真骨頂ではあるのだろうが、香港映画や台湾映画ではありえない?展開のドライさにちょっとびっくりしたのは日本人の私?母が別れた夫の残したものにこだわり、子どもたちがさっさと断捨離というのは、年を取って想い出の品よりも、後につまらないものを残したくないという気分が濃厚になってきた自分からみると、ちょっとリアルさに欠けるようにも思え、作者の若い視点を感じないでもない。映画祭グランプリ受賞作で、確かによくできているが、そのへんもあって私的には、ま、★2個というところ?(3月12日 ABCホール 63)

⑬私のプリンス・エドワード(金都)                       監督:ノリス・ウォン(黄綺琳)出演:ステフィー・タン(鄧麗欣) ジュ―・パクホン(朱栢康) 金楷杰 2019香港 91分 ★


香港・太子にある金都商場はビル全体にウエディング関係の店がつまっている。そのレンタルウェディングドレスショップに勤めるフォンとウェディングカメラマンのエドワード。二人は同棲中で結婚の話も進んでいるが、実はフォンはエドワードに出会う前の10年前、大陸・福州の、香港のヴィザ(ID)がほしい男と偽装結婚をしていた。仲介業者が中に入っていわばアルバイト感覚だったが、仲介業者が倒産して行方不明になったこともあり、その後の「離婚」ができていないことを、結婚を前にしてフォンは知ることになる。相手が行方不明として単独で離婚を申し立てると離婚までに2年かかるというので頭を抱えるフォン。そこに彼女を探していたという偽装結婚の相手が現れ、10年たったので結婚が正式だと認められれば香港のIDが取れるので、福州の公安まで一緒に出頭して証明をしてほしいと頼まれる。そうすれば2週間で手続きが済み離婚できると言われ、彼女はやむなく、福州へ。
こう書くとこの映画いかにも香港―大陸をめぐる社会的問題を描いたドラマのようにも見えるが、実はここで問題になるのは恋人エドワードとフォンの関係で、フォンが大好き、心配でもあり、一々に指図・心配をし、しかもそれはエドワードと母との関係、また母からフォンへの干渉にもなるという関係の中で居心地がよくはないが、抵抗もできず文句いいつつ頼ってもいるというフォンの、支配からの脱皮の過程として描かれるジェンダー映画?
福州の「夫」には恋人がいて妊娠、それにより彼は香港移住をやめて結婚することにし、フォンとの離婚も成立する。めでたしめでたしだが、そうでもなく、映画はその後フォンが福州にかつて「夫」から渡された金を返しに行く姿を描く。それはエドワードには内緒でGPSも解除して出かけ、彼からはたくさんのメールが届くがフォンは「帰るところ」の一言だけ、という場面で終わる。さて彼女はエドワードのもとに帰るのか帰らないのか。そこは観客にゆだねられているのであろうが、「My Prince Edward」とはなかなかにしゃれた題名で、まあ彼女の行く末も暗示しているのだろう。(3月12日 ABCホール 64)

⑭大いなる飢え                                 監督:謝沛如 出演:蔡嘉茵 柯淑勤 張耀仁 張恩瑋 2019台湾 90分 ★ 


こちらは台湾のダイエット映画。映画祭らしく?1日で、断捨離、結婚、ダイエットと現代社会問題の一端を並べてみた感じ。体重105㎏、性格はストレートで料理上手。母親の経営する保育園で給食を作るヒロイン・インジュン。彼女はまあ、満ち足りているわけだが、太りすぎと仕事もパート?のそんな状態なのを心配する母は誕生日にダイエットクラスの入学をプレゼント。気乗りしないインジュンだが、宅配便ドライバーの好青年呉浩仁に親切にされたことから淡い恋心が芽生え、元は肥満児だったという呉の励ましも受けダイエットに励むようになる。一方職場の保育園でひょんなことから一人の男児の女装への興味を知った彼女は、ありのままでいいと男児の母の目を盗み自分の幼い時のドレスを着せたりして男児を励ます。
この二つのストーリが最初は幸せな展開につながりそうな気配を見せるが、なかなか…インジュンは呉の秘密を知り、優しい彼の本当のところの価値観も知ってーというか彼も揺れている男なんだろうー絶望。効果の上がらないダイエットに、通っているダイエットクラスの勧めもあって、母にも内緒で胃の縮小手術を受けるがそのことにより食欲も味覚も失う。男児には保育園の発表会で女装で踊らせるが、来ないはずだった男児の母が来て、そのことが発覚し母親は保育園を訴えるとし、子どもをやめさせ引っ越すことに…。
ある夜彼女は酔ってダイエットジムの表のガラス戸を破り侵入。そこでジムの宣伝ガール(映像とかで見ていた写真のモデル)と決闘ーこのあたりがとても映画的ななかなかの展開だー酔いつぶれてねてしまう。朝になり騒ぎになって駆け付ける母ーここで母と娘は抱き合うのだけれど、それは娘にとって幸せな展開、賢い母ではあるが、う?物語としてはちょっと安直?そんなふうに行くか?という気もして、でも、じゃどう展開するのがいい?ともあれ彼女はダイエットをやめ、ありのままで生きることになり、呉との仲も取り戻し、男児にもちょっとした幸せを与えて大団円ではあるのだが。
(3月12日 ABCホール 65)

⑮春潮                                     監督:ヤン・リーナー(楊荔納)出演:ハオ・レイ(郝蕾)エレイン・ジン(金燕玲)2019中国 124分 ★★★


社会部記者の建波はシングルマザーで母と同居、小学生の娘の面倒を見てもらっているが、母とは常に意見が合わず対立する。職場でも性的ハラスメントをした教師の取材で居直られるような言動に思わず殴りかかったり、上司にいやみを言われたり、やり手だが必ずしもうまくいかず、恋人もいるが結構身勝手・支配的でもあるような愛し方にかならずしも心を開けるような状況でもない。多分外から見るとバリバリやりたいようにやってわがままな女に見えるのだろうが本人自身は周りにも自分の状況にも我慢屈託が多いわけである。
一方の母は地域では信望もあり、地域合唱団のリーダーなどもやり、同年代の優しい恋人もいるが、かつて死に別れた夫への不満が反映しているのか、娘に対する不満や苛立ちは大きく、生き方そのものにも批判的で激しく娘や孫娘を非難することも多い。孫娘に対してはいわば非難と猫かわいがりの行ったり来たりで、そういう状況も娘を不安にさせるわけである。この映画そのような救いのない母子関係がずっと続いて、見ているほうもどうなっていくのかと不安に思わされるのだが…すごい「解決」?でリアルだな…と思わされつつ宙ぶらりんのまま母子関係がおわってしまう。
最後のほうで「今がもっとも心の安定を得た」と、夜の窓に向かって独白するそのガラス窓では意識不明のままベッドに横たわる母の姿がぼんやり移るコワさ…。そしてさらに母が率いていたが中高年の合唱団が赤いドレスで並んで毛首席を讃える合唱をする場面、地面には水が湧き出し街を浸していく…そこにヒロインの娘が朝鮮族の友人と一緒に駆け出し川の流れに身を浸す。これは解放なのかあるいはさらなる母子呪縛へのとらわれなのか、サスペンスだ!(3月13日 ABCホール 66)

⑯散った後                                   監督:陳哲民 出演:ソフィー・ン ウィル・オー ヨーヨー・ファン ジョスリン・チョイ チャン・リッマン 2020香港 96分 ★


まずは香港映画の真面目な世界を見たという感じ。2014年雨傘運動の中、香港大学の学生だった4人とそのうちの一人との義妹?5人の若者たちの恋愛や家族とのかかわりなどを描く。そして5年後、反送中デモの中で、議員になっているマリアンヌ、彼女の元カレでビジネス界で活躍する父を持ち祖母の死などもからんで活動から身を引きアメリカに留学して戻ってきたイン、その従兄弟で5年前には頼りない新入生だったものの活動家に成長し、最後に亡命したとテロップが出るトー、彼の義父の娘でカメラマンになるジェシカ、そしてアメリカでインのパートナーになるシー(名前はそれぞれちょっとアヤシイ。入れ替わっているかもしれません)の5年前の日々と5年後の再会、軋轢、葛藤とまたそれぞれの道に進んでいく姿を描く。若者にとっては大きな変化や変動の5年間なのだろうが、こちらから見ると5年間なんてねえ…、役者たちはもちろんちょっと髪型や服装が変化はしているものの同じ人が演じているわけだし、どちらも社会との対置のしかたが主題なわけだし、デモ場面はドキュメンタリー映像も使っているらしいが雨傘がたくさんあるかどうかくらいでそんなに違うわけでもないし、ビジュアル的に5年間の変化を微妙なところで見分けなくてはならないので、いささか疲れる。でも20年(人生の大きな変化があるだろう)でなく5年の長さで香港の若者のさまざまな生き方を過程として社会との関係の中でとらえようとするエネルギーの真面目な若々しさに打たれる。とはいえ、監督は俳優・プロデューサー・舞台演出家として20年以上の活動歴のあるベテランとかで、この映画にもインの父親の実業家?役で出演もしている。(3月13日 ABCホール 67)

会場前にはこんな看板『散った後』

⑰コントラ                                   監督:アンシル・チョウハン 出演:円井わん 間瀬英正 山田太一 小島聖良 清水拓藏 2019日本 145分 ★★


モノクロの145分という長さにちょっと不安を感じつつ見たのだが、長いことは長い。でもまあ145分は必要な長さなのかもしれないと思わせられるような映像展開だった。ストーリーとしては、岐阜を舞台に父・祖父と暮らすソラという高校3年生が、祖父の死に際して見つけた祖父の戦争中の古い手帳、そこにかかれたことからいわゆる「宝探し」をはじめる。一方、この町(というか街にも続く村かなあ)には後ろ向きに歩く不思議なホームレスが出没。ある日父と娘は叔父の家に招かれるが、そこで祖父の残した遺産問題からケンカになり、怒った父、飲酒運転で帰宅途中にそのホームレスをひっかけてはねてしまう。ソラはしり込みする父を叱咤してホームレスを家に連れ帰り介抱するところからつながりが生まれ、結局彼はソラの家に住み着く。そして叔父が自分の土地への不法侵入だと怒る中、不思議なホームレスの不思議な援助もあってソラ親子は山林の土中から旧日本軍の銃を掘り出すーそして…。と話しとしてはシンプルだが、ホームレスとソラのかかわりとか、ソラの不機嫌で不安な心情の展開とか、あるいはそれらが解除解放される?場面とかがわりと意味が感じられるように映像になっているので、飽きることなく長さもまあまあ楽しむことができた。監督は日本在住のインド人、撮影監督も同じく日本に住むエストニア人マックス・ゴロミドフという人で、前作が『東京不穏詩』(見損なっている。予習してからこようかと思ったがすでに近くに上映館なく)、この映画はエストニアのタリン・ブラックナイト映画祭でグランプリと、音楽賞を受賞したのだそうだ。(3月13日 ABCホール 68)

⑱花椒の味                                   監督:ヘイワード・マック 出演:サミー・チェン(鄭秀文) メーガン・ライ(頼雅妍) 李曉峰 ケニー・ビー リッチー・レン アンディ・ラウ 2019中国・香港 118分★


監督は『恋の紫煙』の脚本家だそうで、テンポの良い展開、多様な見せ場でひきつけて楽しませてくれるが、物語としてはウーン?香港島大抗で火鍋店を営む父(ケニー・ビー! 1953年生まれという設定)が急死し、父とはうまくいっていなかった一人娘、如樹が残されるが、彼女が父のスマホを見ると、なんとそこには2人の妹とのメールやり取りが!というわけで、一人(如枝)は台湾から、一人(如果)は重慶からと、妹たちが葬儀にやってくる。という、まあある意味トンデモナイ男のトンデモナイ行為の後始末?という話。店舗の賃貸契約が残った店の契約解除には多額の金がかかるということで、如樹は従業員の懇願もあって契約の満期まで店を続けることにするが父のレシピも残っていず悪戦苦闘。そこにいったんはそれぞれの居場所に帰ったもののいろいろと家族との屈託もある妹たちが手伝いに来る。ま、店の経営がうまくいったというよりもそのような協業の中で3人がそれぞれ長女は父、次女は台湾で再婚して新しい家庭を作っている母、末娘は再婚してカナダに移住した母にいわば捨てられるような形で別れたあと育ててくれた祖母(演じているのは『相愛相親』でシルビア・チャン演じるヒロインと渡り合う田舎の、父の先妻を演じた呉彦妹)を理解し心理的な和解を得ていく方に主眼はある。
ヒロイン如樹にかかわるのはリッチー・レン(かつて父を知り、シリアで医療にかかわることを励まされた麻酔医)とアンディ・ラウ(ヒロインの長年の結婚にいたらない婚約者)で二人とも如樹の父のある面を娘よりよく知り、娘を諭すというような役回りだが、二人って?という感じも。役者が役者だからオーラもあってつい見せられてしまうが、なんかヒロインが父を批判しつつ自分も二股かけているようにも見えてしまうし、役者優先で作った役柄?(なにしろアンディなどはサミーを助手席に乗せて運転している同一アングルの上半身シーンしかない)とも思えてしまう。そう、全体にオーラのあるステキな役者たちが活躍しているので見せられるてしまうが、話としてはどうなんだろう?という思いも残る。最後に如樹は頑張った店を閉めて解散というところで終わるのも、この後の彼女の人生は?という気にさせられてしまうし…。(3月13日 ABCホール 69)

⑲愛について書く                                監督:クリッサント・アキーノ 出演:マイルス・オカンボ ロコ・ナシーノ イェン・コンスタンティーノ ジョエム・パスコン  2019フィリピン 105分


若い駆け出し脚本家女性が、自作の脚本の映画化に際し、製作者から、ちょっと年上 (31歳)の男性脚本家とともに見直して1ヶ月での改変することをを求められる。あとは二人のやり取り(スタンダードサイズ)と、やり取りされる脚本によって演じられる劇中劇(ビスタサイズ)が交互に展開していくというわけだが、脚本家二人があれこれ講釈するわりには劇中劇は陳腐なすれ違いと難病モノで全然面白くないし、脚本家二人の関係の進展も、最後に劇中の内容をちょっと絡めたひねりはあるものの、ほぼ予想をはずれず、最後は大団円という感じで、全然面白くない。だいたい、いかに駆け出しとはいえ、年上男に威張られる?感じでの脚本作りも、ニコニコはいはい、家族は婿候補?みたいに見る男女観もちょっとね…。ただ最後のほうに出てきた「サダカ」?と呼ばれた山の景色は超スバラシイ! (3月14日 ABCホール 70)

⑳マリアム                                   監督:シャリバ・ウラズバエア 出演:メルエト・サプシノヴァ アルマス・ペクティバエフ ハムザ・コクセベク 2019カザフスタン・ドイツ 75分 ★★


カザフスタンの田舎、突然失踪した夫、残され生活に困窮していくマリアムと子どもたち。何回も警察に足を運び捜索状況を問いただす彼女の姿からはじまって半年たっても夫は戻らず、前半で「遺体の確認」を言われる場面、戻って泣く彼女の場面があって夫が死んだのかと思うと実はそうではなく…(この辺の惹きつけ方はうまい=少々あざとい?)この間ずっと外は雪の平原というのもつらさ倍増。母子手当は寡婦でなければもらえないという制度に困り果てた彼女に、役人をしている元同級生という男が声をかけ、彼女は夫が死んだとして葬儀をして母子手当をもらうようになり(元同級生に幾分かのお礼をする)ようやくほっと息をついたところに、突然夫が戻って来る…夫が生きていたとなればもらった手当は返さなくてはならない(ひどいしくみ!)。さてどうするか…。
とりたてて美人というわけでなく皮膚の厚そうな農婦タイプというか、ちょっと映画のヒロインには珍しい容姿のマリアムを演じた女優の、夫の失踪・死の予感におびえ苦しむやつれ気味から、母子手当がもらえて期待してはいないのだが役人の男との付き合いもできて脱皮するように活気を取り戻す様子、そして夫が戻った驚き・かすかな喜び・困惑などの微妙な表情の演技がすごい。かたや登場する男どもはみな結構偉丈夫にして行動は卑劣・勝手というどうしようもない連中で、こんな男たちに女が蹂躙されるなんて、という作り手の怒りが伝わってくる。(3月14日 梅田ブルク7 71)

㉑日光之下  Wisdom Tooth                                                                                                                 監督:梁鳴 出演:呂星辰 呉曉亮 王佳佳 王維申 陶海 2019中国 105分 ★★★


親もなく戸籍もなく、兄は漁師、妹は近くのホテルに雇われて働くグーリャン(顧亮?)とグーシ(顧希?)。血のつながりはないのかもしれない、そして兄は妹に優しく背中まで流してやるような親密な関係…油田からの原油流失によって漁ができなくなってしまい、戸籍調査があることによって妹が職を追われるかもしれないという危機に陥った黒竜江省冬の物語。二人は漁業会社の社長の娘で韓国から戻ってきたチンチャンと親しくなり、兄は彼女の世話で見張り所の監視の仕事を得、妹の方も家に招かれて洋服や、壊れてしまったカセットレコーダのかわりにとチンチャンの持っていたものをもらったりと好意を受ける。
妹はホテル支配人姜に直談判して職をなんとか維持し、兄は友人を通じて持ち込まれた「アブナイ話」を断ることができた(妹を働かせれば仲介料はいらないと言われて怒る、その職をやめたの妹への愛だ)しかしその「アブナイ」話の結果殺人が起こって、しかももらったカセットレコーダで偶然に録音してしまった、チンチャンの父が殺人を命じ、しかもその罪を姜に背負わせようという相談の音声を妹は手に入れてしまい、親しくなっていく兄とチンチャンへの嫉妬?の思いも抱えつつ葛藤する…ということでおもに妹視点で描かれた幻想や、想像などの映像も織り込みながら物語はどんどん不安な様相を増していく。これもほぼ全編雪の中で黒くうごめく人々、妹を時々苦しめる親知らずー親を知らない子供たちのメタファーでもあるのだろうーととともに、不安の高まりとともに使われる音楽の効果もすごく目がななせない。妹はカセットテープを公安のパトカーに放り込み、チンチャンは韓国に去り、殺人犯はつかまり、兄も参考人として警察に連れていかれたあと、一人親知らずを抜く妹…いやあ、なかなかにミステリアスでもあり美しくもあり、中国片田舎の貧しい生活の中で刹那に楽しもうとする若者も描かれて、私としては今回屈指の1本だった。(3月14日 梅田ブルク7 72)

㉒オッズ                                    監督:メーガ・ラーマスワーミ  出演:ヤシャスウィニ・ダヤマ カランヴィール・マルボートラ アパイ・デーオール 2019インド 96分 ★★


ヒンズー語奨学金のための統一試験(なんてあるんだ!インドには)の日、意図的に会場を抜け出した女子高校生ヴィヴェークと巻き込まれて試験を受けられず一緒に街に出ることになる首席学生アシュウィンの1日をポップにファンタジック?に描く。
受付の試験官にカンニング生徒として追われ、まずは街に。そこで老人ダンス隊?と遭遇、バーバーと称するバーに飛び込み酒を注文するが断られて酒びんを1本盗んでエレベータに。その中で包帯ぐるぐる巻き妙な赤ん坊と出会いその母に怒鳴られる。屋上まで上がって酒を飲むがアシュは酔っ払い、屋上で小便をしようとしていた男を飛び降りるのと勘違い。酔っぱらったアシュにゲロをかけられ、2人はヴィヴェークの家で洗濯。「ムンバイに雪が降る」と言い張る認知症の祖母(老人ダンス隊でも踊っていた)と話し、アシュはヴィヴェークのカセットレコーダーにさわって怒られ(ここがあとの伏線になっている)客室乗務員の母が買っているという空腹の金魚にえさをやりすぎて殺してしまう(口をきく金魚!こういうポップさ)。
金魚の埋葬のために二人はアシュのレディと称する人体実験?中の女性のもとに行き(アシュの母=生物学者なのかなあ?)バイクを借りて森に金魚を埋葬し弔辞を読み歌い。森や川辺で過ごすーそこに老人ダンス隊の指揮者だった男が樹を模した着ぐるみであらわれて二人のバイクを奪う。-このあたりまでにヴィヴェークとその友人がかつてぞっこん、出入りをしていた40歳の男性バンドボーカルとの挿話、ヴィヴェークの作った曲、そしてボーカルとその恋人へのヴィヴェークの嫉妬などが差し込まれ―やがて何とか街に戻った二人が男性ボーカルの新しいバンドでヴィヴェークがかつて作った曲が演奏されているのに出会い、アシュが盗作だとねじ込んで逆に殴られる、
母に新しい金魚を買うためにペット市場に行った二人が檻の中の小動物を逃がし、自分たちも逃げ回ったあげくに警察につかまり留置場へ、そして…、最後はムンバイに雪が降るシーン。といわば現実と非現実の境目で脈絡なく話が進みながら若い二人の現実に抱えるもやもやから飛び立ちたいというような心情を描くが、さまざまな脇の登場人物が皆とても妙なんだけれど心惹かれるような造形がされていることもあってなかなか楽しい、不思議な気分の96分。これって台湾映画にありそうなテイスト?『熱帯魚』の冒頭潜水艦シーン(少年の幻想)とか、『祝宴シェフ』の現実と非現実の境目にあるような誇張的表現とか、『52Hz+1』の場面展開のポップさとかを思い出させられるような、そんなイメージでもあった。  (3月14日 梅田ブルク7 73)




㉓ギャングとオスカー、そして生ける屍(江湖無難事)               監督:高炳櫂 出演:ロイ・チウ(邱澤) 黄迪揚 姚以禔 龍劭華 顔正國 2019台湾 105分 ★★


幼いころから一緒に育った若いプロデューサーと監督が、やくざのボスの資金を得て(やっぱり黒社会と映画界ってつながってる?)あたためてきたゾンビ映画の企画を映画化できることになる。しかし女子高校生役なのに主演女優はボスの彼女を出演させなくてはならない、と思えばクランクイン前にはしゃいだ彼女はプールにダイビングして水死!しかし映画は彼女を主演として撮り続けなければならない、というわけで特殊メイクのプロを呼び、大型冷蔵庫を買うなどして遺体をなんとか出演させるというドタバタに。さらに彼女にそっくりな女優を代役として探したところ現れたのは女装男子!しかもなりゆきで映画にはボス自身も出演することになったので彼女の死を隠していた二人と映画関係者は大慌て。一方彼女の胸にはダイヤモンドが埋め込まれていてそれの取り合いをめぐるやくざ間の争いもあり、二つが交差錯綜して大騒ぎの東京ロケから波止場の大爆破まで、息もつかせぬか感じでゾンビ映画の見せ場も含めて突っ走る。ゾンビ映画つくりについて描いた映画ということで『カメラを止めるな』(2019)を意識している?という話もチラリと聞いたが、お金のかけ方と複雑な展開をする脚本作りのエネルギーは日本映画の比ではなく、いや、なかなかに楽しめる。(3月15日 ABCホール 74) 

ABCホールは会場の外に看板を置いているので、後ろにビルも見えます。

㉔ノーボディ                                  監督:林純華 出演:簡扶桑 呉亜鄀 2020台湾 83分 ★★


今回映画祭で見た映画の中でももっとも哀しい!つらい!「おとな」はみんな自分を正当化し、人を責めて、秘密をもって生きている。父の不倫の場面を映像に撮り、気づかぬふりをして娘の自分にばかり干渉する母に見せたいと、父の恋人の部屋の向かいに住む老人に接近しようとする高校生。きっちりとスーツに身を固めヨタヨタと街を歩き、そこら唾をまき散らすことによって顰蹙を買う老人。唾をまき散らすのは多分彼/彼女への社会への無関心に対する呪詛なのだろうか。きっちりとした暮らしぶりには似合わない行為とも思えるが、話の中で若い時のレズビアンの恋人への干渉と別れ、彼女の死までが老人の中でフラッシュバックする。高校生は老人に最初は敵対する感じで接近するが互いに疎外されたどうしということかだんだん心を開くが、それもまた周囲から見れば老人の変態行為ということになる。夫の不倫を見ぬふりする、少女の母も実は自分がピアノを教えているアイドルの青年にひそかな関心をもつが、そのアイドルとふだん妹と比べていい息子と溺愛している長男が同性愛関係であることに気づかされ…。と皆々自分をいわば守り他者を責め疎外するような関係の中で、追い詰められていく老人と少女が屋上で向かい合う最後のシーンは希望なのか、絶望なのか。なるほどねえーという映画で、つらく哀しいのだが、台湾映画の成熟と力強さも感じさせられ印象に残った作品。
(3月15日 梅田ブルク7 75)

㉕家に帰る道                                  監督:パク・ソンジュ 出演;ハン・ウヨン チョン・ソッコ チョン・ダウン 2019韓国 113分  来るべき才能賞 受賞 おめでとう!!★★★


まもなく新居(夫の両親が住んでいた家。両親は地方に引っ越すと)に移る準備をしている若い夫婦、夫は妻の叔父のもとで家具作り、妻はスイミングクラブのインストラクター。妻は子どもがほしいが数カ月前に流産した、でも経過は順調で医師は妻を元気づける。妻は自分の母親からの干渉をうるさがっていて足が遠のいている(何年も前から叔父の家の寄宿していた)ようだが、まあまあ全体としては幸せに暮らしている二人のもとにある日かかってきた一本の電話、そして突然やってきた警察官。実は10年前妻はレイプの被害にあい、その犯人が捕まったので再度事情聴取に応じてほしいという知らせであった。
被害にあったこと自体を妻は夫に言えずにきた―そしてその事件に関しては実家の母や妹ともかかわりがあるらしく妻の実家との縁の薄さもそれと関係があるらしい。一方、夫は妻の力になりたいと思いやりつつも妻が自分には隠して言わないことへのいら立ちや不安もあって、二人は一見変わりない日常を過ごしながらもギクシャクしてしまう。そこに大学受験の妹が上京してきて二人の新居に泊まることに。妹の面倒を見て叔父の家での団らん、その後二人は仁川のバスターミナルまで妹を送っていくが疲れて車の中で寝込んでしまった妹に、夫は実家までこのまま妹を送っていこうと提案する。ここまでの心がわだかまりながら普通に暮らす日常の夫婦の描き方も穏やかながら心理的な機微をしっかり感じさせられるものですごくよく伝わってくるが、この実家への旅のシーンの流れと感情の描写の繊細さ、そしてヒロインを包み込むような故郷の景色や母、妹、そして支えつつ支え合う感情を示す夫の姿がそれぞれの行動を通してリアルに描かれ、派手ではなく自然にヒロインの心の中の理想や喜びを表すような描写が深く心に残る。なんかとても上品さを感じさせられる映画だ。(3月15日 梅田ブルク7 76 )

㉖君の心に刻んだ名前                              監督:劉廣輝 出演;エドワード・チェン 曾敬驊 レオン・ダイ(戴立忍) 王識賢 フォビオ・グランジョン ミミ・シャオ 2020台湾 113分 ★薬師真珠賞(最もかがやきを放っている俳優)レオン・ダイ ★★

映画祭最後の1本。台湾らしい明るい(でももちろん苦さやつらさもいっぱい)な同志映画。戒厳令が解除された直後、蒋経国総統が亡くなった1988年ころの台湾のある高校が舞台で、ブラスバンド部で知り合っ阿漢(張家漢)のバーディ(王栢達)への恋と、思いを残しつつ女子部が統合された学校に入ってきた下級生女子のバンバンとの付き合い、嫉妬に苦しみ告白する阿漢とつき合ったり離れたり思わせぶりな態度とも言えるバーディの日々、そしてこのような関係をもちろん認めない学校側と、その中で理解しようとしているようでもあり、恋を阻む態度を見せるカナダ人?でブラスバンドの顧問教師の姿もからめて描かれるのが前段、最後のほうに至って30年後、ブラスバンドの同窓会に出席したことをきっかけにバーディを探し先生とも会おうとする阿漢のカナダ?(トロント?)への旅とバーディとの再会至福として描く。
まあ、見どころは、少年たちの絡みあいと葛藤の美しい場面展開と終わりの方アジアを離れた町の美しさと、中年になった二人を堪能する情景描写の美かな?この映画題名は『君の名前で僕を呼んで』をちょっと意識?それと最後にスケール壮大なナイアガラ瀑布を阿漢が一人見に行くシーンがあるが、ここは一人イグアスの滝を見に行ったトニー・レオン(『ブエノスアイレス』)を想わされてしまった。阿漢は青年期はエドワード・チェン、中年は戴立忍で名演?だが、エドワードってどちらかというと金城武系の目鼻立ちなんで??と思わないでもない。でもとにかくビジュアル的にすごくよくできていて楽しめるすてきな映画だった。(3月15日 梅田ブルク7 77)

以上‼ おつきあいありがとう。お疲れさまでした。


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