10月の映画祭 2019 /10〜11月


10月3つの映画祭で見た作品です。新作、アジア(中国・イラン・フィリピンなど)映画中心ですが、見ごたえのある作品が多かったのに、なぜか私のみた映画が賞を取れない…のは山形に続く今年の傾向です。ザンネン!

2019中国・東京映画週間

⑱銀河学習塾(銀河補習班)⑲最高の夏、最高の私たち(最好的我們)⑳青雲~投げ出した人生の拾い方~(送我上青雲)㉑完璧な他人―スマホが暴く秘密たち―

32回 東京国際映画祭 TIFF

㉕アースクエイクバード㉖ファーストフード店の住人たち㉗ひとつの太陽(陽光普照)㉘ある妊婦の秘密の日記(Baby復仇記)㉙ iー新聞記者ドキュメントー㉚ミンダナオ㉛死神の来ない村㉜50人の宣誓㉝チャクトゥとサルラ(白雲之下)

KAWASAKIしんゆり25th映画祭

㉞赤い雪㉟ワンダフルライフ

映画につけた番号は、山形交際ドキュメンタリー映画祭を除いて10月に見た映画の通し番号になっています。

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⑱銀河学習塾(銀河補習班)
監督:鄧超/兪白眉 出演:鄧超 白宇 任素汐 王西 2019中国 147分

東浙大橋?の設計をしたものの、なぜか開通の日に橋は崩れ落ち罪に問われて刑務所に7年も入れられてしまう馬皓文。息子馬飛は父を慕うが、妻は離婚を要求。7年後に戻ってくるとすでに再婚して息子は全寮制の名門校の落ちこぼれ学生になっていた。というわけで、退学をさせられそうな息子をかばい、父は校長と期末試験に10番以内の成績を取らせると賭けをし、商売で不在の母親夫婦から息子を取り戻し、ものを考える人間になれということで独自に補習や生活指導を始める。そこでの、さまざまや、皓文の求職のエピソード、橋落下にまつわる汚職の疑いなどもかけられ、まわりの住民から排斥される皓文とマヌケといじめられる息子、親子の旅行とその途上での水害への遭遇などなど盛りだくさんに親子の軌跡を描くが、実はこの話、それから20年後?宇宙飛行士になった息子馬飛が宇宙で事故にあい、父との確執を乗り越え父の教えによって障害を乗り越え帰還するという位置から語られており、147分まあ、なんと盛りだくさんなこと。鄧超の大力作!と言ったところで、彼は若く元気な設計士から白髪頭の、宇宙飛行士の父まで出ずっぱりに活躍するわけでもある。とにかくそういう意味でも見ごたえは十分な大作である。あ、馬飛の子役も気弱そうな可愛らしい少年だし。(10月22日 東京写真美術館 東京・中国映画週間)


⑲最高の夏、最高の私たち(最好的我們)
監督:章笛沙 出演:陳飛宇 何藍逗 恵英紅 2019中国 110分

エンドロールに陳凱歌と陳紅の名が並んでプロデュース?かなクレジットされていたのに気づいたが、後で主演の陳飛宇が彼らの息子であることを知る。なるほど!すっきりしたイケメンだが、確かに目元あたり陳凱歌の面影があるわ…。お話は武漢の名門高校にまぐれで?合格した少女耿耿と偶然合格表示で隣り合い、教室でも隣に座ることを求める余准の高校生活3年間、物理オリンピックの入賞者という大秀才、しかもスポーツも抜群で歌もうまいイケメンの彼が落ちこぼれ気味の写真好きな耿耿の面倒を見ると宣言し、勉強の面倒も見るという、幸せシアワセなエピソードが続く中で、耿耿は彼と同じ北京の大学を受けることを決意し、受験する。しかし何か思わせぶりな?言動があった余准は発表の日約束した学校の門前に現れず連絡を絶つ。そして7年、写真家になった耿耿は帰省しクラス会に出る。そこに現れた余准は…というわけで非の打ちどころのないような万能少年の行く末はどんな没落」か、と途中からは思ってしまうような明るく幸せな描き方なのだが、予想通り?彼にとって少々悩みの種?だったシングルマザーの人生が息子の人生も変えていたというわけで……。まあ、少年・少女から20代後半近くまでを演じる若い2人やその友人たちの自然な演技はなかなかで、とてもいい感じだし、それなりに脚本もよくできているとは思うのだが、やっぱりこの定番的な行く末というのがね…。最後はまあハッピーエンド的だが、この先ハッピーではいかないだろうと大人には思えるようなそんなまさに青春映画。(10月22日 東京写真美術館 東京・中国映画週間)

⑳青雲~投げ出した人生の拾い方~(送我上青雲)
監督:謄丛丛  出演:姚晨 袁弘 李九霄 李冠華 2019中国 99分 

これは、私にはちとついていけない展開の映画だった。活動的なフリー?記者が、事件の取材がらみで腹を蹴られ、病院に行くと卵巣癌が発見される。手術療養費は30万元!これを稼ぐためにある人(これが何をしている人かよくわからない。画家?思想家?宗教家?のとにかく李老師)の自叙伝を書くということで山奥に取材に行くが、なぜか母がついてくる。途中川に1500元の棺桶を流してしまったと嘆く老婆に金を与える男、すると老婆は実は3000元だといい、持ち合わせがないということで男は記者に金を貸してくれと言ってくる。―この川に流れる棺というのは最後に出てくるので、一応伏線になっているのだと思われるが、イマイチ私には意味がわからなかった。実はこの男、李老師の娘婿?問い繋がりがあとでわかる。と、まあ前半部分はアクションもあり、物語の動きもありで結構能動的な話なのかなと思っていると、後半は山中での李老師との対話、母と李老師の間におきる関係、記者自身も卵巣癌の手術後には性的な喜びがなくなるとかいう情報におびえて、知り合った男に性的関係を迫ったり、また、そもそもこの自伝話を仲介したボーイフレンド(記者仲間?)に迫ったり、なんだが話の方向も錯綜迷走―妙に哲学ぶっているところが気持ち悪いのだが―という雰囲気で最後、山の青雲に向かってヒロインが吹っ切れた感じでたたずむところまで何がどう起っているのか、何を言いたいのか今一つわからんと眠気をこらえての鑑賞。ただ、仲間由紀恵をもう少し硬質にした感じでワイルドな?記者スタイルのよく似合う姚晨はなかなかに格好良くて魅力的な熱演だった。
(10月23日 東京写真美術館 東京・中国映画週間)

㉑完璧な他人―スマホが暴く秘密たち―
監督;于淼 出演:佟大為 馬麗 霍思燕 喬杉 代楽楽 2018中国 103分

イタリア映画『大人の事情』(2016)のリメイク作品というか中国語版。ある夫婦の家に2組のカップル、独身?の1人が集まってパーティの席上スマホ(携帯)の話題から皆が携帯を公開しするというゲームを始めるという設定は同じ。取り上げる問題は少し違って、嫁姑問題に悩む主婦とその夫とか、フィアンセ(未婚妻)がいるにもかかわらず、他の女性を妊娠させてしまったことが明らかになる男とかはイタリア版には出てこなかった。また、その携帯の向う側にいる相手(姑や妊娠した女性など)の場面があるところも…?最後のどんでんがえし?があるところは同じだが、イタリア版が月食の夜をからめて少しロマンティクに処理してあったのに対し、こちらは一座の1人脚本家(佟大為)の書いた脚本がからみ、少し現実的?上司との関係に悩む?女性も…まあ、結末どうなるものでもないという苦い終わり方をするのがこういう映画の定番かなとも思うと、少し肩透かしという感じもあるのだが、まあまあというところ。(10月23日 東京写真美術館 東京・中国映画週間)

㉕アースクエイクバード
監督:ウォッシュ・ウエストモアランド 出演:アリシア・ヴィキャンベル ライリー・キーオ 小林直己 2019アメリカ(英語・日本語)107分 

1989年東京を舞台にしたミステリー味の恋愛ドラマだが、場所と時の必然性が感じられない。女友達が行方不明になり死体で発見される。ヒロインは拘束され取り調べられるが、この時の刑事のいかにも芝居という学芸会並みのセリフ回し。そもそも発端となる日本人男性との出会いと付き合いというのがまたウーン。男はどうしてこんな男にひかれるのと思えるチープさというかダササで、ヒロインはなかなかかわいいし、きりッとしてもいるし、家族とのトラウマを抱え遠く離れて1人日本にやってきたスェーデン出身の女性としての吸引力とか共感性はあるのだが、結局三角関係的もつれの中で二股かけた男が女を絞め殺そうという感じで、そう見るとこの男の軽薄な酷薄さは案外はまり役(というか演技としたらなかなかかも…)ではあるのかも。妙にくっきりとした陰影の映画で、そのビジュアルは好き嫌いはあるだろうが印象に残る。
映画開始時間になっても始まらず。やがて開演前の舞台挨拶をするとかいうアナウンス。それからまた待たされてようやく、監督、主演女優,男優が舞台に並ぶが、司会者がダラダラ挨拶のうえ1人ひとりに繰り返し3回、映画の底まで見えてしまいそうな(自分だけは見ているという感じの)質問をはじめて30分。かなりイライラした。次の映画の時間もあるし、ネタバレを先にするのかとも思えてしまう。ようやく始まったのは30分遅れで、いくら映画祭とはいえ、もう少し観客を大事にしてほしいと気分をそがれることこの上なし。珍しくエンドロールの途中で次の会場への移動を始めなくてはならなかったので、終わりにも挨拶があったかどうかは未確認。(10月29日 TOHOシネマズ六本木・スクリーン7 東京国際映画祭特別招待作品)

㉖ファーストフード店の住人たち
監督:黄慶勤 出演:アーロン・コック ミリアム・ヨン アレックス・マン 二ナ・パウ 2019香港 114分


原題は「麥路人」「麥」は要はマックドナルド。というわけで、香港の24時間営業のハンバーガーショップで、深夜コーヒー1杯?で泊まり込むホームレスの人々の、アーロン・コック扮する元バリバリの金融ブローカー、蹉跌を踏んで刑務所生活後、家も仕事も失い、でありながら人の面倒を見る男が一応主人公で、その周辺に集まる人々の姿を描く群像生活劇といったところ。貧しい人があふれているけれど、街の様子は今の落ち着かない香港状況とは違い、面白いのはフードバンクとか、高齢者?への無料給食とか、日本ではあまり見ないような福祉施策が香港ではやられているのかな?24時間営業の店が客を真夜中寝ていても追い出したりしない(ついでに言えば、監督によれはこの映画のハンバーガーショップシーン、実在の店で無許可で撮影を敢行したらしい)そういうことがまだまだ許されるとすれば香港社会も悪くないかもね…と思わせられるような作品。いっぽう、映画の初っ端、妊娠中の兄嫁とケンカした少年が家出してしまうところとか―いくら妊娠中、かつ息子のほうはぐうたらとはいえ、この兄嫁のデカい態度は日本ではちと許されそうもないーとか、夫を事故で失い、幼い娘とシングルマザーとして世に放り出された若い母が、自分の身を削るようにして、息子を失った悲しみからギャンブルに狂いつぎつぎ借金をこしらえる義母の借金を返すために働いたあげくに義母に罵倒されるとかー義母にとって嫁は憎くても娘は孫だろうにと思われるのだがそういうところ血より水でちょっと理解できないところもある。まあそんなこんなで、この若い母が突然幼い娘をに残して突然死んでしまうとか、絵の上手な浮浪者が突然姿をけすとかそして、主人公が肺がんになりと、終わりまで含め笑わせる場面もありながら、決してハッピーエンドでなく、重い人間劇であるところもいかにも香港映画らしいウエットさ…と思ったら終わってある友人が言うには「大陸向けに香港社会は貧乏人につらく、嫁姑関係もシビアで、という香港状況をアピールしている」のだそうな。
(10月29日 EXホール 東京国際映画祭アジアの未来 ワールドプレミア)

㉗ひとつの太陽(陽光普照)
監督:鐘孟宏 出演:陳一文 柯シューチン 2019台湾156分


一家の物語なのだが、最初は次男が悪い仲間とつるんで起こした傷害事件で少年院に送られるところから。父はそんな息子はいない、いらないと収監を望む冷たさ。母は心配するがその母のもとに、次男の子を妊娠しているという少女を連れて、その叔母という女性が訪ねて来る。親がいないという少女を預かり自分の美容師の仕事を仕込む母。一方一家の長男は悪ガキの次男とはうって変わって医学部を目指す真面目な浪人生だったはずだが、この事件前後落ち着かず、ガールフレンドに司馬光の故事を話したり、ちょっと哲学的?(映画ではここに唐突にちょっと不気味なキャラのアニメ映像がでてきたりする)妊娠した妹の彼女を少年院に面会に連れていったりして親切だし、父のほうもこの息子には目をかけ授業料の払い込みに学校まで行ったり、自分が勤める自動車教習所発行の格言入り日記帳などを渡して励ましたりなどする。ところがこの長男唐突に飛び降り自殺!「ひとつの太陽―あまねく照らす陽光―(というのが原題『陽光普照』)はたまには日陰に入りたい」ということばを残して。
ここまででもなんかかなりの長さで、しかしこの映画誰が主人公で、何が言いたいのかどう転がっていくのか全然わからん…、と思ってみていると、院内結婚をした次男は1年半で出所、なんとか真面目に働き始める。父親は口も利かずに家を出て、というあたりの展開で、ああこれは父の葛藤と息子への和解の話か…とわかってくるが、息子のかつての悪仲間で、傷害事件の主犯だった男が出所後次男や家族に付きまとい始め、息子を脅かすというのが後半で、その解決はまあ、ある意味意外な展開でもあり父の偉大な愛?しかし母は怒り半分父を殴りそして泣き抱き着くという感じー台北郊外の陽明山?で多分撮られているのかな?いい景色。心が広くなる山景。そして母は最後に次男の手を借り長男の遺品を片づけると、たくさんの父から与えられた日記帳が白紙で出てくる…。まあ、終わりのほうはナルほどなんだけれど、ダラダラ進む前半はいささかくたびれ一体この映画、何を言いたいんだと思いつつ見た。ということは鐘孟宏の「映画の技」に見事乗せられてしまったということなんだろうな…うん。
(10月31日 EXホール 東京国際映画祭特別招待作品 ワールドフォーカス )

㉘ある妊婦の秘密の日記(Baby復仇記)
監督:陸以心(ジョディ・ロック)出演:ダダ・チャン ケヴィン・チュー キャンディス・ユー 2019香港

都市型コメディ? キャリアを築きつつある女性が妊娠する。夫はプロバスケットボール選手。普段から彼と、子どもはいらないと話し、キャリアの中断も恐れもする彼女はひそかに中絶も考えるが…、夫に妊娠がわかり、いやいやながら?出産をすることになると、夫の母が、カリスマ妊娠・育児アドヴァイサーという男性を高額で雇って連れてきて、ハイヒールやスリムなドレスを売り払ってしまうとか、びっくりの「正論」子育て指導がはじまるというわけで、まあその展開のこっけいさとか展開の軽妙さはいいが、意外性というものがまったく感じられないドラマで、ウーン。なんていうかなあ。これから妊娠出産をしようというような若い人々に対する一種の楽しい啓蒙的映画としてなら意義があるかもしれないという感じ。(10月31日 TOHOシネマズ六本木・スクリーン2 東京国際映画祭アジアの未来 ワールド・プレミア)

㉙iー新聞記者ドキュメントー
監督:森達也 出演:望月衣塑子 2019日本120分

東京新聞 望月衣塑子記者の1年を追ったドキュメンタリー。劇映画『新聞記者』の、最初は監督をするはずだった森達也が下りて、こちらのドキュメンタリーを作ったこと、劇映画版のほうの藤木監督が本来まったく新聞を読まない人だったこと、そういう人にこそ作ってもらいたい映画であり、そういう若者たちにみてもらいたい、とは両映画のプロデューサー川村氏の言。この映画は元気でいきがよく、小さな娘の母(タクシーの中の電話)、弁当を作ってくれる夫(そういうあっさりした、でもこの人にも生活があるのだと感じさせるところがいい)もいる記者望月にあれよあれよと見ていると、終わりにナチスからフランスが解放された1944年、ナチス協力者として裁判にもかけられず殺された市民が1万人いたという映像が流れ、うーん。そういうことか。どちらかの意見を代弁するというのでなく、疑問点を質問しつつ、権力や政府の立ち位置を見極めていくというジャーナリズムのありかたに、今更ながら納得する。森達也のドキュメンタリーがシネコンで上映されるのは初めてと、森氏の弁。そうか…確かに。(11月1日 TOHOシネマズ六本木・スクリーン2 東京国際映画祭 日本映画スプラッシュ作品賞受賞 ワールドプレミア)

㉚ミンダナオ
監督:プリランテ・メンドゥサ 出演:ジュディ・アンサントス アレン・ディソン ユナ・タンゴック 2019フィリピン123分

ミンダナオ紛争の中で、夫は軍隊に、妻は、4歳でガンに置かされ、脳への転移が進行中の娘とともに、「希望の家」といういわば子供ホスピス入所するという状況にあるムスリムの夫婦。それぞれの生活や思い、苦しみを、母が娘に語るミンダナオに伝わるドラゴン退治の伝説のアニメーションとともに語る映画。このアニメ―ションが可愛らしくはないが自然なタッチで故事を語るという感じでとてもいいし、アニメに実写が重なっていくというような工夫もなかなかで、子どもを失いつつある、戦闘で手足を失いつつある、そして宗教紛争では信教の危機にさらされているというような喪失の気配の中で抗いつつもそれに身をゆだねようとする感情が画面全体にいきわたっていて、胸に迫る感じ。でもアニメはちょっと気を抜く感じもあって…。片目がつぶれ脳を腫瘍におかされつつ、母の物語を喜び、父を慕い、家に帰りたいと言いつつ激しい発作を起こし、最後は死に至る4歳の少女を演じる子役のリアルさ自然さに舌を巻く。ミンダナオ紛争ってまだつづいているのでしょうか?2016年和平合意ができたんじゃなかったっけ?時代設定がそういう意味ではちょっとわからない。(11月2日 TOHOシネマズ六本木・スクリーン7 東京国際映画祭ワールドフォーカス )

㉛死神の来ない村
監督:レザ・ジャマリ 出演:ナデル・マーディル ハムドッラ・サルミ サルマン・アッパシ 2019イラン(ペルシャ語・トルコ語) 85分


アゼルバイジャンとの国境近くのイランの村の景色の壮大さにまず圧倒される。ここに住む元死刑執行人のアスランと彼の周囲の老人たち(男ばかりで共同生活をし、村の共同温泉につかり―この辺は日本の湯治感覚?)。彼らはアスランが村に来てから45年間、1人も死なない、この村では老いても(父の介護を20年続けているという老人も出てくる)死なない村という寓話的世界を、この村に駐在する軍隊の比較的若い男の視点を合わせて描いている。アスラン役は映画出演経験はない舞台俳優(声が大きくて調整に苦労したとは監督の言)他の老人たちは地元や周辺の村の素人だそうだが、まあ、なんというか見ていて楽しい美しいという感じではないね,しわもあり杖も突きだし。ただし皆なかなか貫録もありユーモアもあり、で、大きな事件は起こらないが死にたい人々、アスランがいるから死ねないのだと思う人々の日常が描かれる。彼らは互いに温泉に頭をつけ合って死のうとしたり、アスランは毎日高い岩山の上に立ち身を投げようとしたり、また1人湯船に顔をつけて溺れ死のうとしたりするわけだが、死ねない。その皮肉はイスラムの戒律を破るに破れない姿とも見え、それでも生きていこうというメッセージが入っているという歌とともに、なんか元気も与えてくれるような不思議な雰囲気の映画だ。ただし、座席がなくて前から5番目くらい、QAの監督の顔はよく見えて写真もアップでとれたが、映画の画面は大きすぎてつらい。(11月2日TOHOシネマズ六本木・スクリーン2 東京高裁映画祭アジアの未来 ワールド・プレミア 国際交流基金アジアセンター特別賞)


㉜50人の宣誓
監督:モーセン・タナバンデ 出演:マーナズ・アフシャル サイド・アガカニ ハサン・プールシラズィ 2019イラン(ペルシャ語)85分


帰りが遅くなる夜9時過ぎからの上映で、QAには参加できなかったのが残念だったが、実は今期TIFFで見た中では、私には一番面白い1本だった。5年前に妹をその夫に殺されたラズィエは、被告が無罪になったことを不服とし、被害者の父方の親族50名が宣誓すれば判決を覆して被告を死刑にできるという、イランの法律にのっとって、親族を集めバスを仕立てて裁判所に向かう。これがけっこう長旅で2日がかりぐらい?の、そのバス車中を中心とする人々のさまざまな心境や行動を描いていくロードムービーになっている。イランの法律では女は男の半分の権利しかないらしく、この宣誓も直接の家族以外は男しかだめとか、何かと女性の権利について考えさせられるような発言も出てくるのだが、実際にこのバスを仕切り、わいわいがやがやと意見ばかりでいがみ合ったりむくれたりする男をなだめすかして動かそうとするのも女たちであるのがおもしろい。話は途中ラズィエの夫が車で追いかけてきて、ラズィエに、被告を死刑にするような宣誓に反対し損害賠償をとればいいと主張するところから、彼をめぐる問題が最初はラズィエには見えない形で夫と、車の運転をしているその兄の間でのもめごと?のようにおこり、夫はバスを下りて行方不明に、やがて2日前に起こったひき逃げ事故の犯人として夫が追いかけられているという情報が届き、その情報が正しいのかどうかというようなことに車内が紛糾するうちに、今度は釈放された被告が車で追いかけてきて、カーチェイス、バスは大きな水たまり?に飛び込んで水没する(こういう一種アクション的な見どころもある)、さてそして…というわけで、終わりはラズィエにとってはものすごく苦い、思ってもみなかったような展開になる皮肉まで、たった1台のバスの中の人間模様でありながら実にハラハラドキドキ、主張いっぱいで面白かった。(11月2日TOHOシネマズ六本木・スクリーン2 東京高裁映画祭アジアの未来)

㉝チャクトゥとサルラ(白雲之下)
監督:王瑞 出演:ジリムトゥ タナ イリチ トゥーメン 2019中国(モンゴル語・中国語) 111分

内モンゴルの街に比較的近い?草原で牧畜を営む夫婦。夫のチャクトウは街に出たい、またはここではないどこかに行きたいといつも思っており、妻に無断で出かけたり、飼っている羊をトラックと交換したりと落ち着きがないが、いっぽう、妻を求め、彼女が一緒に街に移住してほしいと思っている。妻のほうはこの草原以外では生きられない、ここにいたいと願い、腰の定まらない夫に不安を感じつつも彼をこの地で支え日常生活や牧畜の仕事を守っている。そういう日常を美しい、本当に美しいモンゴル草原の夜明け、日没、季節折々、雪景色、空の色、それに馬や羊の群れ、観光映画みたいなビジュアルで撮られている。途中吹雪の日に妻が流産し、夫は二度とそばを離れないと叫ぶにもかかわらず、やがて、妻には置手紙のみを残し遠くに出かける運転の仕事を引来受ける。帰ってきた夫が見たものは…。
若い二人の体でのつながりは丁寧に描かれるが、心がなかなかつながらない彼らが唯一まとめて心を打ち明けられるのがスマホを介して隣室同士で映像電話するときだけというのがなんだかおかしくも哀しい。東京国際映画祭芸術貢献賞受賞。
(11月5日 TOHOシネマズ六本木・スクリーン4 東京国際映画祭コンペティション ワールド・プレミア)

赤い雪
監督:甲斐さやか 出演:永瀬正敏 菜葉菜 井浦新 夏川結衣 佐藤浩市 2019日本 106分


ウーン。わからない。最初は家々の間に積もった雪景色の中を歩いていく子ども。足元の雪に赤い水たまり?-30年後、漆塗り職人の男。孤独に1人漆を塗るが、その漆の赤も印象的というわけで題名はそのあたりから来ているのだろうとはわかる。一方、夜元刑事?を訪ねてくる「記者」と称する男。彼は30年前の男性が何人も殺された保険金殺人を調べているといい、その過程でいなくなり、殺人現場の焼け跡から焼けた骨となって発見された子供の兄としての漆職人を訪ねる。一連の事件の犯人だったと目される女の娘は、初老の男に暴力を振るわれながらともに暮らし安ホテルでパートをしている。彼女を訪ねあて過去に目撃した事件の証言をしろと迫る記者。漆職人は最初は知りたくないと言いつつ、後半は1人で女を追い、知っていることを話せと迫り…、ウーン。結局何が起こったかははっきり書かれるわけではないが30年前から現代まで傷ついた人間たちが、さらに自分の心の暗闇を追い、傷つけ合い…というあたりに焦点が合わされていく。その中で記者としての使命だけで自らの瑕を持っているようではない男は、女にも、またその相手である初老の男にも傷つけられ命を落とす??ま、雪景色なのだが暗いし、人々はみななんか薄汚い雰囲気ーその薄汚さの演技は抜群。特に菜葉菜の女とその相手の元母の愛人、今は娘を拘束する初老の男佐藤浩市の闇はさすがの演技。でも映画としてはなんか救いもなく、子どもの虐待(漆職人兄弟の遭遇した事件も実はそのあたりが発端?)がテーマ?だし、長くて長い106分だった。(10月30日 川崎市アートセンター・アルテリオ映像館 しんゆり映画祭)


ワンダフルライフ
監督:是枝裕和 出演:ARATA 小田エリカ 寺島進 内藤剛志 谷啓 伊勢谷友介 内藤武敏 香川京子 阿部サダヲ 木村多江 原ひさ子
由利徹 1999日本

20年ぶりの鑑賞(20年前にはスクリーンでも、DVD=当時はビデオテープか、で何回か見ていたが)。当時の私は多分是枝監督も、ARATAもノーチェックで、映画として純粋に印象に残ったという感じだろう。当時のARATA、現井浦新はこの映画の時には黒目勝ちの大きな目の持ち主という感じでバタ臭い印象で、その後よく見るようになった彼とは全然印象が違った気がしていた(私がチェックを入れたのは多分『ピンポン』ぐらいから?)が、今回見るとやはりその印象で、その後の彼の役柄(すごい振幅はあるけれど)とも違いい、ぎこちないイケメンだった。彼と同じくこの映画がデビュー作であるという実名「伊勢谷」で出てくる伊勢谷友介も何か可愛げもある、そこらにいそうな青年の風貌で、後、高齢者は鬼籍に入った人もいて、本当に時の流れを感じさせられるが、一方是枝演出のドキュメンタリー性が色濃く出ている―話としては本当に架空の物語であるにもかかわらずー作品で、前半はインタヴュースタイル、後半は映画作りの現場を描いているのだったし、と改めて思い出す。ARATA扮する望月が、許嫁に心を残しつつ22歳で戦死した兵士で、彼女の夫に出会いその思い出の中の許嫁の姿を見て「あちら」に行く決心をするという終わりはなんか俗っぽいよな…、それと「あちら」に行く人々(つまり死に行く人々)が会する集会室?のしつらえがなんか仏教というか新興宗教染みた装飾構えなのも…昔見たときにはあまり思わなかったことだったが…。                  トークには井浦新氏登壇、当時をたっぷり語り、舞台上から是枝監督に電話をして、客席から質問があった谷啓扮する所長のこの世への心残りについて見解を問う(ミュージシャンとしての心残りだそう)など大サービス。今回しんゆり映画祭の『主戦場』が上映できず、若松プロが出品をとりあげた件では彼も大いに翻弄されているはずだが、観客に誠実に向き合ってくれたという感じがした。その夜帰宅後深夜CSで『蛇にピアス』(2008蜷川幸雄)体中に刺青とピアス、スキンヘッドで眉毛も剃るという風体で吉高由里子と全裸で絡む彼の映像に役者っていうのはしんどく面白い仕事だなと今さらながら…     11月3日 川崎市アートセンター・アルテリオ小劇場 しんゆり映画祭)









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