【勝手気ままに映画日記】2019年10月
やっと見ました!大きな富士山。10月27日山梨県足和田山五湖台から。ようやく天気も回復し、8カ月ぶり高尾山以外の山に行きました! |
紅葉には少し早かった。木の間から見える河口湖 |
①記憶にございません②サタンタンゴ③バオバオ フツウの家族④ピータールー マンチェスターの悲劇⑤ドックマン➅蜜蜂と遠雷⑦アド・アストラ➇ブルーノ・レコード ジャズを越えて➈カーマイン・ストリート・ギター➉レディ・マエストロ(The Conductor)⑪イエスタデイ⑫最高の人生の見つけ方⑬真実(字幕版)⑭田園の守り人⑮5億円のじんせい ⑯マレフィッセント⑰楽園⑱ブルーアワーにぶっ飛ばす⑲ジェミニマン⑳くらやみ祭りの小川さん
今月は山形国際ドキュメンタリー映画祭を前回ご報告。ほかに東京・中国映画週間、東京国際映画祭、それのいつも行く川崎で行われた「しんゆり映画祭」の特集上映もありました。それらはまとめて次回にご報告します。
ほかに家のそばのTOHOシネマで6,000ポイント(1分1ポイント)たまってもらった1ヶ月フリー鑑賞パスで①➅⑦⑪⑫⑬⑯⑰⑲⑳(9月にも少し。『真実』は吹替え版も…)見ました。というわけで…
①記憶にございません
監督:三谷幸喜 出演:中井貴一 ディーン・フジオカ 小池栄子 石田ゆり子 草刈正雄 佐藤浩市 2019日本 129分
トレーラーによれば、悪徳で支持率最低の首相は「記憶にない」と議会で放言し、頭にぶつけられた石によって記憶を失い、というあたりまでなのだけれど、それは本編では極く短いというか小さい部分で、病院で目覚め記憶を失った首相が街をうろうろというあたりから、とにかく記憶を失い自分のひどい首相ぶりに直面する真面目小心な?男というほうが前面に出た作りは、当然このあと記憶を失った首相がいかに過去の自分の悪ぶりを修復しよい政治家として国民の幸せを求めていくかという劇になるのだろうなあと予測できてしまうし、その予測通り映画は進む、という意味で意外性のない予定調和的な展開は安心してみてはいられるが、三谷作品への期待ということからするとウーン。意外に面白かったのはディーン・フジオカ演じる悪徳総理の信頼できる(ということは本人もワル)部下から、誠実さを取り戻していく秘書官、これはむずかしい役柄だと思うが意外性や嘘っぽさも含めなるほどね…。それと映画の中では皆スマホでなくガラケイを使っているのが意外といえば意外。設定年代が古い?(その必然性はないような)、あるいは政界では何らかの事情で皆実際にガラケイなの?(10月1日 府中TOHOシネマズ フリー鑑賞④)
②サタンタンゴ(4Kデジタルレストア版)
監督:タル・べーラ 出演:ヴィーグ・ミハーイ ホルヴァ―ト・プチ デルジ・ヤーノッシュ ポーク・エリカ1994ハンガリー・ドイツ・スイス モノクロ 438分
惹句は「伝説を体験せよ」だが、まったくね…。438分(7時間18分、10分と40分のインターミッションが間にはいって8時間!)狭い?イメージフォーラムの両脇を体格のいい男性に挟まれて腰痛苦痛の長時間鑑賞であったことは否めない。こういう映画に文句をつけるのは映画のわからない、芸術のわからないヤツだと言われそうな権威主義?がちょっと重荷と不安でもあったが、結論から言えば後半、疎外されてさまよう少女が自死するに至る猫とのシーンからあとぐらいはぐんぐん引き込まれて行って、いかにも胡散臭げな美男子(イケメンというよりも)イリミアーシュの少女を悼み村人たちに共同責任?を問うてともに新天地をめざそうと、いわばペテンにかける大演説からあとは映像的にもミステリアス、前半は気になった画面のレイアウトも気にならずすごいすごい面白い…となっていったが、最初の三分の一、見捨てられたように孤立し退廃した村で酒場に集まった人がボソボソ語り、死んだと噂されていた主人公イリミアーシュとその相棒が警察に召喚されて出向くという形で戻ってくる場面、そして最後に物語を締めくくる酒浸りのドクトルのシーンの酒浸り行き倒れシーンなどはなんていうか何がどうなっているにという感じで観念的なことばも続くし時に眠くなり…隣のお兄さんも前のオジサンも船をこぎで、はっきり言って参ったけれど。
438分が150カットだそうで、1カット3分平均。画面の奥に伸びている道を行く人は豆粒になって消えるまで、道の奥から来る人は豆粒からアップまで毎回そうっていうのはさすがにちょっと長すぎない?それにつき合ってくれる人を選んでいるっていうことなんだね?それは傲慢のような気もするし、あるいはさすがタル・べーラというべきか。ともかく「体験」しましたわ! (10月2日 渋谷イメージフォーラム)
③バオバオ フツウの家族(親愛的卵男日記)
監督:謝光誠 出演:エミー・レイズ(雷艾美)柯奐如 蔡力允 蔭山征彦 楊子儀 2018台湾 97分
ロンドンで働くジョアンと画家のシンディ、ジョアンの取引先のチャールズと植物学者のティムは、それぞれ同性のカップルだが子どもがほしい。シンディの妊娠を画策?してあれこれ、がなかなうまくいかず、とうとう4人は二人の精子と2人の卵子を合わせて人工授精、シンディの胎内に着床、双子を妊娠する。男の子はジョアンたち、女の子はチャールズたちにという約束だが、シンディが1人を流産、そこからいろいろと問題が起ってくる。映画はシンディが1人英国から台湾に傷心で戻って幼なじみの警察官タイに頼るところから、時間をあちこち行ったり来たりするので、最初はなんだか物語に入っていけず苦労した。後半ジョアンが台湾に戻り、あっと驚く事実(えー、だが男ふたりの突然の事故死)が明かされ、面倒くさい問題は回避されたかと思われるのだが、ティムの台湾の自宅を訪ねたシンディとジョアンに伝統家族的な?価値観が示されてシンディが涙するとか、ジョアンがシンディの出産に際して家族と認められず双方(男二人とシンディ。なぜかジョアンの家族は現れない)の親まで現れてごちゃごちゃとか…そのあたりもちろん結局は女性2人にとってはハッピーエンドというか新しい歩みにと進んでいくのだが、ウーン、なんかすっきりしな展開でもある。リアルな妊婦体形どうやって撮っているの?妊婦水泳までしてすごい。それと原題のなかなかの露骨さ?全体的にはなかなか品よくまとまった映画ではあるのだが。珍しくK’sシネマ、ガラガラ。(10月3日 K'sシネマ)
④ピータールー マンチェスターの悲劇
監督:マイク・リー 出演:ローリー・キニア マキシン・ピーク デヴィド・ムーアスト ピアース・クイグリー2018英 155分 💮(見ごたえあり!でした)
「ピータールーの虐殺」は1815年マンチェスターで起こったのだそうだが、イギリスでは教科書にも載らず歴史の中に埋もれて忘れられた事件なのだそうだ―で、もちろん日本人の私も事件としては初めて知ったわけだが…。ワーテルローの戦いに勝利し将軍は多額の報奨金を得たイギリス。しかし穀物法の影響もあり庶民は経済的には疲弊し、貴族政治家の圧政に苦しむ中、庶民院の選挙権の獲得を叫び摂政王太子に嘆願書を出そうと動き出す。著名な活動家ヘンリー・ハントを招きマンチェスターで集会が開かれることになり、6万人とも言われる女性子どもたちも含む人々が集まる。恐れ弾圧をしようとする判事たちは義勇軍に命令を出し、集会に騎馬隊が突入大勢が殺されるまで。国王や体制側の貴族院議員たち、権利を叫ぶ活動家から、彼らを地元に招き集会を開こうとする地元の活動家、それぞれが入り乱れるいわば群像劇的な様相もあるが、この映画のさすがのうまさは、ワーテルローでラッパ兵として生き残った一人の青年兵士がマンチェスターの家に帰還し、貧しい暮らしにあえぐ母ら家族に迎えられ、兵士の赤い上着をまとったまま仕事を探して歩くも得られず、恐る恐るの面持ちで父や兄と演説会などに参加し、最後の大集会でも家族とちょっとピクニックにでも行くような面持ちで出かけてあっけなく刺殺されてしまうまでを、いわばちょっと距離をおいた視点人物として描くことにより、演説や、活動の描写で話しが進んでいく歴史物語に、それこそ渦中にあってしかしそれを自覚するまもなく殺されてしまう側の悲劇を描き出したことだろう。活動家の側ではカリスマ的な指導者でありながら自己中心的な気難しさで支援者を切り捨てるようなヘンリー・ハントとか、追従するマンチェスターの地元の活動家の俗っぽさとか、白いドレスに着飾って最も生き生きと見えるが実はここではまだ女性参政権の獲得にも至っていない、中には活動家の夫の傍に寄り添ってニコニコというふうな風情の夫人もいたりする女性群像(ピータールーの集会に参加した女性は参加者全体の10%だが、死者の1/4は女性だったとか。つまり狙われたわけだ)とか、必ずしも苦しみ真面目な庶民が手を取り合って立ち上がったというふうに描いていない距離感が、マイク・リーらしい。でも粉をこねてパイを作って売り、卵売りの女と物々交換しながら助け合う元兵士の母(マキシン・ピークが好演)、彼女をさりげなくちょっと助ける卵売りとか、そういうあたりのさりげない描写や、家の門前で歌う女とか,そう言うところが映画を引き締め、いいのよね~。155分の長尺だが長さを感じさせない。タル・ベーラが純文学なら、こちらは吉川英治っぽいかなと思いながら引き込まれる。
あいかわらず続く香港の問題を思い起こさせる。200年たっても民主主義の危機はあいかわらず?この日とうとう覆面禁止法が…。日本だってそういう点では他人ごとではないし、と心寒く劇場を出る (10月4日川崎市アートセンター・アルテリオ映像館)
⑤ドックマン
監督:マッテロ・ガローネ 出演:マルチェロ・フォンテ エドアルド・ベッシェ アダモ・モティオジーニ 2018イタリア・フランス 103分
見ていて心地よくないというよりか、どんどんつらさが迫ってくるというのは自分のうちにもこの主人公マルチェロと共通する部分があるからか?いや、そんなことはないよな…こういう生き方しかできない人がいることには理解はできるが、自分の周りにいたら「バカなヤツ」とか切り捨てそう。つき合うのがつらくなる。自分の息子がこうだったら多分バカヤローといいつつ、心を痛め何とかならんかと悩むんだろうな…と人々のそういう感情を揺さぶるのでしょう。犬のトリミングサロンを営むマルチェロ、チビであまり頭もよくなさそうな感じ?こっそりコカインなどを仕入れて人に分けたりなんていうこともしたりして完全な善人というわけではないが、昼には隣の金売買商人はじめ友人とワインを飲み、夕方からはサッカーをするというような男。離婚しているが娘とは仲が良くいっしょにダイビングにいったり、この辺は日本にはあまりいないような幸せ者?で、唯一の問題は地域の鼻つまみ者でもある暴力的なコソ泥シモーネという男に付け込まれ縁が切れないこと。本人も困る困ると言いつつ誘われればなぜか悪事に加担したり、女性のいる酒場?に遊びに連れて行ってもらってやに下がっちゃったり、この辺はしょうがないようなとイライラするようなそんな感じで映画鑑賞。シモーネのせいで懲役1年を食らってでてきても、まだシモーネに金を返せとつきまとい自分も近隣から鼻つまみ者になり、さあどうするのよ、というところで一大決心。復讐というより、なんとかシモーネを変えたい?みたいな感じなのだが犬の檻に閉じ込めるところから…この辺は息もつかせぬようなマルチェロの逆襲。最後に…サッカー場で遊ぶ元友人たちになんとか認めてもらおうと声をかけるが聞こえない様子に自分を顧みず思い切った行動をとる。ところが…。この終わり方がなかなかすごくて、ここでなんかマルチェロのバカさが人間の悲しさに一挙ひっくり返る感じもある。ウーン。ダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞(イタリア・アカデミー賞)9部門とか、カンヌの主演男優賞とかすごい賞を撮っているのもまあ、なるほどという感じ。(10月4日川崎市アートセンター・アルテリオ映像館)
➅蜜蜂と遠雷
監督:石川慶 出演:松岡茉優 松坂桃李 森崎ウィン 鈴鹿央士 斉藤由貴 鹿賀丈史
ピアノ演奏:河村尚子 福岡洸太朗 金子三勇士 藤田賀央 2019日本 119分
とりあえず、雨だれとか海とかの映像の微細な美しさ、プロのピアニストの演奏に当て振りしたのだという4人のピアニスト役の演奏ぶりのビジュアルと、そこにかぶって来るプロのピアノの美しさ・迫力といったものを堪能して過ごす2時間。物語は?というと、これも原作ものだからまあ安心して?見ていられるが、面白いのは4人の天才たちの、わりとまっとう、天真爛漫な性格、悩みぶりというか、審査委員長のプロピアニスト役たち、協奏曲のコンダクターたち「おとなの」天才たちがなんかギラギラして競争意識とかを丸出しに迫って来るのに比べると(物語としてはそのほうがリアリティがある気がしてしまう)悩むと言っても常に自分の内側に目を向けている感じだし、あまり悩まず4人は競争意識も希薄で、自然によく助け合うし、そんなんでコンクールに出て勝てるのという気がしてしまうほど、「いい人」たちなのが、心地よくもあり、少し物足りなくもあり。なんか凡人にも理解しやすい天才であるところが、物語のユニークさなのかなとも思った。刺激的ではないがよかった。(10月5日府中TOHOシネマズ フリー鑑賞⑤)
⑦アド・アストラ
監督:ジェームス・グレイ 出演:ブラッド・ピッド トミー・リー・ジョーンズ リヴ・タイラー ドナルド・サザーランド ルース・ネッガ 2019米 123分
地球外生物探索にために海王星方面に旅立ったまま消息を絶った父から送られて来ているのではないかと考えられる不審な電波?(サージ)によって宇宙ステーションが影響を受ける。息子の宇宙飛行士が秘密のミッションを受け、火星から海王星にむけて父への呼びかけをするために月の基地を経て火星に行くまでが前段。すでにそこで月の利権を狙う?不審な集団に襲われたり、火星へ行く途中に救難要請を受けた宇宙戦に立ち寄ったところ、実験動物のゴリラ?に襲われて一緒に行った船長が死んだりとか小さくはいろいろと苦難が重なる。ようやくたどり着いた火星での海王星への呼びかけは成功せずミッションは終了と言い渡されるが、納得できない主人公ロイ、父と同行していた両親を失ったという火星基地の長の助けを受けて海王星行の宇宙船に密航する。見つけられ乗組員に襲撃され相手を倒して1人海王星に向けて旅立ち父と出会い別れるまでが後半。家族を捨ててミッションに命を懸け、消息を絶った父への思いと不信にさいなまれる息子が、自省しつつ父に巡り合い、海王星のはてで、未知の生物を求めて身近な関係よりも孤独な探索を選んだ父の信念にぶつかり、父離れ―自立を果たすという、主題は案外伝統的で、地味な家族ものという感じ。孤独な息子の1人芝居という感もあるブラッド・ピットだが、難しい役をさすがに派手さ、ヒーローっぽさを抑えて好演。(10月7日府中TOHOシネマズ フリー鑑賞➅)
➇ブルーノ・レコード ジャズを越えて
監督:ソフィー・フィーバー 出演:ハビー・ハンコック ウェイン・ショーター ノラ・ジョーンズ 2018スイス・米 85分
第二次大戦前夜、ナチス統治下からドイツからアメリカに移住したアルフレッド・ライオンとフランシス・ウルフ(獅子と狼!)が設立したレコード会社「ブルーノ・レコード」の軌跡を創立者やかかわったアーティストのインタヴューや当時の写真や音源を並べて綴る、というわけで、ジャズ好きにはこたえられないのだろうけれど、悲しいかな門外漢としては音楽を楽しむことはできるのだが、話には今いちついていけず、ふーんそうなんだというしかない映画でした、残念ながら。ジャズが公民権運動や、政治的思想と結びついているのだなあということは、おぼろげながら分かった。(10月8日 川崎市アートセンターアルテリオ映像館)
➈カーマイン・ストリート・ギター
監督:ロン・マン 出演:リック・ケリー ジム・ジャームッシュ ネルス・クライン カーク・ダグラス チャーリー・セクストン 2018カナダ 80分
NYグリニッジ・ヴィレッジの「カーマイン・ストリート・ギター」はニューヨークで取り壊されるビルなどの廃材を使ってギターを作る店。店主のケリー(1969年大学入学とか言っていたからおよそ70歳近く?)とその母(90歳か…)、パンキッシュで可愛い弟子のシンディ(25歳。この店に5年とか)が営む工房兼店の様子と、そこに入れ代わり立ち代わり立ち寄るアーティストたちが店主や弟子と話し、飾ってあるギターのうち好きなものを選んでつま弾くという映画で、こちらも世界としては私には少し縁遠い感じはするが、店で作られるギターの意匠の面白さなどもあって、楽しめる。ジム・ジャーッシュが「扇動者」としてクレジットされていて、客としてただ1人クラシックギター?をもって現れリックに弦を張り替えてもらうシーンあり。この店の他のギターはほぼすべてアンプにつなぐ電気ギターみたいなので、それがちょっと面白かった。あとシンディの誕生日にボーイフレンドが贈る実物大?のギター型のケーキとか。ビジュアルがすごく楽しめた。
(10月8日 川崎市アートセンターアルテリオ映像館)
➉レディ・マエストロ(The Conductor)
監督:マリア・ペーテルス 出演:クリスタン・デ・ブラーン ベンジャミン・ウェインライト スコット・ターナー・スコフィールド 2018オランダ(英語・オランダ語)139分
実話をもとにした世界最初の女性指揮者、アンドニア・ブリコの物語。1920年代後半~30年代前半を時代背景に、貧しいオランダ移民の家庭の娘(実は養女―オランダでの実の母探しも絡む)が、指揮者になるためというか、なってからも含めて奮闘する話だが、最初に劇場の座席案内をしていたときに、コンサートを聞こうとして放り出されクビになる、その劇場主の息子フランクとの偶然の再会と数年にわたる恋がからみ、また、彼女が職を失い行き場を失ったときに拾って、その後も援助を続けてくれるトランスジェンダーのピアニスト兼ベース奏者ロビンとの共感とか、最初の指導者のセクハラ・パワハラによる音楽学校の退学、ベルリンにわたり少しヒネた感じで意地悪そうだけれど「オーケストラを支配しろ」と教えるカール・ムックとか、彼女卑しめたり、助けたり、表立っては敵対しつつ実は…とか、そういう男性との関係に結構映画のテーマが置かれている感じ。彼女の才能とか努力とか音楽的な方面に力が置かれているわけではなく、要は指揮者としての成功譚とか音楽的な方向にではなく、ちょっと極端にいえば恋愛映画風衣装さえまとったジェンダー問題映画という感じがする。冒頭エルガー『愛の挨拶』を指揮する彼女が映し出されるが、言ってみればそれが象徴的な感じ。それにしても現在20のトップ交響楽団に女性の首席指揮者は存在せず、世界トップ50人の識者の中にも女性はいないというエンドロールに暗然という状況だからしかたないのか…(10月9日 渋谷文化村ル・シネマ)
⑪イエスタデイ
監督:ダニー・ボイル 出演:ヒメーシュ・パデル リリー・ジェームス ジョエル・フライ エド・シーラン ケイト・マッキン 2019英 117分
世界中に起きた12秒の停電、その間に交通事故にあい意識不明に陥った売れないシンガーソングライター、ジャック(インド系イギリス人。イギリスの多民族性を伺わせる)。目が覚めるとそこは、ビートルズのいない世界(タバコも、コカ・コーラも、ハリー・ポッターも…)だったというわけで、自分だけが知っているビートルズの曲を歌うことにより世に出て行くジャックの混沌と、喜びと、そしてまた混乱・困惑そして絶頂の帆t生まれた町でのホテル屋上での大コンサートまで、彼を囲む両親、ずっとマネージャーをつとめ、彼を支持してきた数学教師のエリー、有名な歌手エド・シーラン(彼自身が自分の役で出演)元薬中?どうしようもなくだらしないヤツだったが、有名になるジャックを支えてマネージャーをするロッキー、そして彼を見出し売り出そうとする凄腕エージェントのデボラらとの絡みの中で描いていく。要は盗作なわけだしもてはやされればもてはやされるほど、マジメな主人公デュークにも、観客の中にもこれがどう回収解決されていくのかというハラハラ感が増していくのだが、終わりのほうでジャックが海辺で幸福に暮らす元船員、78歳のジョン(つまりビートルズではなかったジョン・レノン。ただ彼にたどり着くまでの過程が一部私にはよくわからなかったのは、ビートルズの曲=歌詞への不明ゆえ?)に出会う至福?でほっとし、それでも彼がビートルズのコピーから降りてエリーを選ぶ…うーん、ここもな、エリーの新しい恋人がとてもいい人で彼女をジャックに返し?他の女性と親しくなるというのはなんだかご都合主義的。というハッピー・エンドがいかにもダニー・ボイル映画?という気もするが、過程がおもしろいし、その状況とビートルズの歌詞を重ね合わせたうまさなども感じるだけに、なんだか惜しい気もしないでもなかった。(10月16日府中TOHOシネマズ フリー鑑賞⑦)
⑫最高の人生の見つけ方
監督:犬童一心 出演:吉永小百合 天海祐希 ムロツヨシ 満島ひかり 前川清 鈴木理央 2019日本 115分
ジャック・ニコルソン+モーガン・フリーマン、ロブ・ライナー作品の日本版リメイクは女性2人が主人公。余命宣告をされ入院中に、境遇が違い合うはずがない2人が出会い、しかもそこに糖尿病を患う少女がからんでという展開。スカイダイビングをしたり、ピラミッドを見に行ったりという豪華絢爛?からももクロのコンサート参加、日本一大きなパフェを食べるという少女らしい夢になり、そして老いた父や、物分かりの悪い夫や家族との関係修復というか、後半は妙に現実的な(日本の女性問題、家族問題的に)テーマにと進んでいき、涙と笑い。最後はまたもや大スケール(宇宙旅行)にと。それにしても専業主婦女性の「死ぬまでにしたいこと」リストは少女のものだし、お金のかかる部分はすべて部屋数5万をほこる大手ホテルチェーン経営者の女社長のお金と、その有能な秘書の手配(ムロツヨシがいい感じで演じている)によるわけで、え、死ぬまで他力本願でいくの?といささか、ウーン…。映画の芯を作っている、妻を顧みず寝てばかりいる夫や忙しい中で年下の部下の子を妊娠する娘、引きこもりの息子との関係修復が肝心部分なのだが、これも結局他人の金でやっているの?という思いがどうも離れず…。涙も笑いも、ももクロシーンのような若い人向け?場面もあり楽しく見られるには見られるのだが、やっぱりなんだか割り切れない映画なのだ。(10月17日 府中TOHOシネマズ フリー鑑賞➇)
⑬真実(字幕版)
監督:是枝裕和 出演:カトリーヌ・ドヌーブ ジュリエット・ビノシュ イーサン・ホーク 2019フランス・日本108分
フランスの老大女優が自伝出版、それを祝ってアメリカに住む娘一家が帰省するという話を、老女優が出演中の映画『母の記憶に』と重ねて描いていく。是枝の家族への帰省物と言えば『歩いても歩いても』や『海よりもまだ深く』辺りを思い出すが、ここでは母は大女優、自伝には本当のことは書かない、私生活では娘の父とも縁を保ちつつイタリア料理に凝っている男性と同居中ということで、樹木希林演じる母とはだいぶ造形が違うし、娘と母というところもね…。ま、もちろん違う話だからそれでいいのだが、気になったのは是枝作品の人間関係にしては、終わりがちょっと甘すぎない?フランス映画としても甘すぎない?という感じ。皮肉っぽくわがままな母と、確執を持つ娘が、母は娘を演じ(『母の記憶に』の中で)母を演じるのはマノン・クラベル演じる登場しないもう一人の女優エヴァによく似た女優であるというところから、母が変わり、娘も理解しっていうのはちょっとなあ…。お互いに確執は消えないままに表面は仲良くみたいなのは日本での是枝作品独特の世界なのかしら。日本語版も見て見るべきかもと思わされた。ケン・リュウは今や世界的なマークなんだねえ。
実はTOHOフリーパスが切れる直前24日に、吹替え版のほうを無料鑑賞。でも、これはウーン。ブリジット・バルドーに宮本信子の顔が重なり、ジュリエット・ビノシュには宮崎あおいが最後まで離れずという感じで、しかも吹替語調だし、それに仏語版ではフランス語が達者でない夫ハンクの英語とフランス語が一応わかるので「伝わっていない」ということがわかるが、全部日本語でやられると、多分初めて見たら意味がよくわからないかも。ただ、字幕と違うのは裏でしゃべったり、相手の話を遮るようにぼそりと重ねて言うみたいな発話はわりとチャンと吹き替えていて、それは是枝(日本)映画の特色でもあり、そのあたりの微妙なニュアンスは字幕版よりは伝わってくる(フランス語・英語が達者であればもセリフをきいてわかるのだろうけれど)
そして…見ているうちに、そうかこの和解は『歩いても歩いても』なんかにもあったのだ、と思えるのはやはり日本語セリフのニュアンスの中に理念による和解ではなく割り切れないものもありながらもとりあえずは相手の心の一端がわかり頭ではなく気分で理解するような是枝映画の和解が、字幕の限られた文字面ではあらわし切れていなかったのかなと、これはフランス語版のほうを振り返って思ったところ。
(10月17日・24日 府中TOHOシネマズ フリー鑑賞➈ ⑫)
⑭田園の守り人
監督:グザヴィエ・ボーヴォワ 出演:ナタリー・バイ ローラ・スメット イリス・ブリー 2017フランス・スイス 135分
1915年から数年、対独戦争(世界大戦)に2人の息子と、娘婿を兵士として送り、母娘で家と農業を守る一家。母娘だけでは人手が足りないということで、孤児院出身?の若い娘フランシーヌが雇われる。彼女はとても働き者で誠実で気が利き、母親にも娘にも、また、ひそかに次男坊を思う娘婿の娘(ローラ・スメット扮する一家の娘には子供はいない)にも気にいられる。面白いのは、収穫機などに合わせて兵士になった男たちはそれぞれバラバラに休暇をもらって帰って来ること―この辺は戦時下の日本の軍隊とは違う―、しかし、最初に帰ってきた長男コンスタンは早々に戦死、娘婿のクロディスは捕虜になってしまう。そして休暇で帰った次男ジョルジュは雇われた娘フランシーヌと恋仲に。また夫が捕虜になった娘ソランジュも村にやってきたアメリカ兵と親しくなってしまい村の噂になったりする。母は家族を守るため、フランシーヌとアメリカ兵が話している場面を戦地に帰る途中の息子に見せ、ソランジュとアメリカ兵の噂をもみ消し、誤解したジョルジュは、彼女を解雇するよう言い残して去る。何も知らずにジョルジュに手紙を書き続けるが音沙汰のない中で、解雇された彼女は自らの妊娠を知る…というわけで見る側としてはいつ誤解が解け2人は和解をするのかと思いながら見るわけだが、話はそうはならず。洗礼式の日、着飾ったフランシーヌと赤ん坊の姿を見るオランジュは決して近づかず、ただ厳しい目つきで彼女たちを見る。戦争が終わり帰ってきたジョルジュと、クロディスは土地と森の耕作権を巡って議論をし、そこにクロディスの娘が大きな顔をして(まさにここではそれまでのつつましい雰囲気が一変する)口をはさむ…というわけで母娘が苦労して守ってきた農場はどうなっていくのだろうと思わされる終わり方なのである。ジョルジュとフランシーヌもついに邂逅することなく、家族を描いてこの苦さ、この皮肉な厳しい結末。これこそフランス映画という感じ。それを考えるとやっぱり『真実』はちょっと甘いかなあ。家とか土地とかに縛られた旧弊な生き方がからんでいないからだとも思われるが…。(10月18日 川崎市アートセンター アルテリオ映像館)
⑮5億円のじんせい
監督:文晟豪(ムン・ソンホ)出演:望月歩 山田杏奈 森岡龍 松尾諭 平田満 西田尚美 2019日本 112分
なんかちょっとギクシャクして、若者たちもヘタクソだし、映画の世界に入るまでに時間がかかったが、設定自体はなるほど!だ。幼いころ5億円の募金によってアメリカでの心臓移植をすることができ命を救われた高校生望来(ミライ)。その後も毎年「その後」を追われてテレビに取材されたり「励ます会」が開かれたりで常にそれに応えるいい子でいなければならないという重荷を背負い続ける人生のしんどさ。人が一生に使うお金と稼ぐお金のトータルはどちらも2億円ちょっとで収支トントンだとか。それをすでに超えてお金を使ってしまった自分が同額を稼ぐには171年かかると計算して暗澹とする彼。自殺しようとするとSNSで批判され、5億円稼いでから死ぬということにし、夏休みに家出し旅に出て稼ごうとする話。ま、家で語の生活に関しては運がいいというか、ありえないというか、というところもあるが、「人に助けたいと思わせる資質」によって5億円を稼ぎ出し、しかしそれで問題が解決するわけではなく、SNSの批判の主がわかると…、というような展開で、ウーン。(10月18日 川崎市アートセンター アルテリオ映像館)
⑯マレフィッセント
監督:ヨアヒム・ロー二ング 出演:アンジェリナ・ジョリー エル・ファニング ハリス・ディキンソン サム・ライリー ミッシェル・ファイヤー 2019米 118分
アンジェリナ・ジョリー自らが製作総指揮に名を連ねているというほどに力の入った作品。妖精国に1人紛れ込んだ人間のオーロラ姫と、人間の王国から求婚に訪れるフィリップ王子。2人だけでは話が進まないということで(ね、この辺欧米も「古い」のね)両家が顔合わせをする。そこで息子のこの結婚には内心反対、妖精国を滅ぼして自分の国を拡張しようともくろむ王子の母と、娘の結婚になんかいやいや、おろおろ、娘の言うがままに大きな角まで隠して出かける「ゴッドマザー」マレフィセント。ここがなんか笑える。妖精であれ人間であれ同じように人間臭いのね。で、席上もめて、両国の親睦を願う父王は呪いにかけられ意識不明、マレフィセントは傷つけられ妖精国のかなた、彼女と同じ姿かたちの妖精たちが追い詰められて暮らす洞窟のような世界へと迷い込み、そこから彼らの人間王国への反撃が…。一方フィリップの母后は、結婚式にとオーロラの住む妖精国の面々を招待する。喜んで誘い込まれる妖精たち。しかし…というわけで後半は人間が妖精に仕掛ける大戦争という、まあいかにもディズニー映画らしい俯瞰図がいっぱい入ったCG、CGの息もつかせぬ展開になり、最後はオーロラとフィリップの活躍で両国和解という、話はわりと単純だが、妖精(姿かたちはさまざま)も人間も仲良くできるはず、というメッセージは、人間離れした魔力はあまり使わず人間臭いおろおろ姿勢を見せてやられるマレフィセントに姿とも合わせて、アンジェリナ・ジョリーの見せたかったものななんだろうなあ。それはよく伝わってきた。(10月18日 府中TOHOシネマズ フリー鑑賞➉)
⑰楽園
監督:瀬々敬久 出演:綾野剛 杉咲花 佐藤浩市 柄本明 村上虹郎 黒沢あすか 片岡礼子 根岸季衣 石橋静河 2019日本 129分
村の老人たちの酷薄さ、排他性。最初の場面でやくざ?に殴られるタケシの母、おろおろ見ていていなくなる少女愛華の祖父母に助けを求めるタケシ、助けてやる祖父母辺りから見ていると嘘みたいに、愛華が行方不明になってからの父母はもちろん祖父母も、村人も傷をなめ合うように肩を寄せ合い、一見親切そうに始まりながら外から来た人間、たとえば妻を亡くして親の介護に帰省しその親も失ってひとり養蜂をし、山に木を植える善次郎を排撃し、タケシのことも20年後別の少女が一時行方不明になると犯人だと決め込み追い詰める。愛華と最後にいた同級生の紬は彼女の行方不明に責任を感じ、それも嫌で村を出て行く。同じく外へ出て行く彼女の同級生は都会で白血病になり…というわけで明るさが一つもないような人間の悪意に満ちたような、しかもそれが決してモンスターの行いではなく、普通の人が異質と思うものをさらに追い詰めるという瀬々的世界の展開。いなくなった少女探しというとミステリーかと思われるが、そうではなくて、これは完全なる?サスペンス。排撃する側、追い詰められつつ排撃される側、どちらも宙ぶらりんの恐怖感に満ちている。タケシの母を演じる黒沢あすかがいい。タケシの綾野剛も追い詰められていく人間らしくうまい。ちょっと希望の部分を担う村上虹郎も、いつもながらという感じだが頑張っているし、杉咲花の表情の陰影も初めて見た感じにうまい。後味は決して良くはないが、見逃せない。(10月20日 府中TOHOシネマズ フリー鑑賞⑪)
⑱ブルーアワーにぶっ飛ばす
監督:箱田優子 出演:夏帆 シム・ウンギョン 渡辺大知 ユースケ・サンタマリア でんでん 南果歩 2019日本 92分
若い働く女性の生き方を探るというふうな話は結構大流行り?TVドラマでも結構そんなのばっかりだし。でも意外にワンパターンかな…。この映画のヒロイン砂田は30歳。CMディレクターとして、常に仕事ができる女として無理してバリバリ、結婚もしていて、ちょっとオタクっぽい雰囲気の家庭的?そうな夫ともうまくやる一方で、職場の上司とは不倫、というわけでそんな自分にひそかに疲れ果て、突然の帰省をするという展開。
きっかけはフリーランス風の友人清浦が買った車。彼女の運転で急きょ茨城の実家に。大雨に遭遇予定外に実家に泊まって過ごす1泊の旅を描く。実家には骨董狂いの父、中学教師でありながら引きこもりで、もともと砂田とは気が合わず会話もなかった兄、一家の面倒を見ながら、どこか壊れてしまったような陽気さの母がいて、夜は昔祖母と暮らした離れに泊まり、食事もビールもないので近くの?スナックに行くと近隣のおっさんたちがあつまり店の女と下ネタ話で大盛り上がり(伊藤沙莉がいかにもそれらしく好演)、翌日は大盛ご飯に水戸納豆で朝食。午後には入院している祖母の見舞いに行き爪を切ってやったりしてちょっと心を和ませて都会に戻って来る、とまあそれだけの映画だが、この映画の魅力はもちろん、砂田の友人としてちょっと舌足らずな若者ことば「~す」を連発しながら、彼女と行動をともにしつつなんか独自のスタンスで彼女に寄り添う(というのでもなく寄り添う)シム・ウンギョン扮する清浦の吸引力だろうね。実在の友(車を持ってて運転してくれなければ故郷にも帰れないわけだし)でありながら、上下白シャツ白パンツの姿で浮世離れしたような雰囲気は実はこの友人、砂田にだけしか見えない?と思わせるようなところもあり、砂田の心に現れているのだろう、幼いころの彼女の田舎での生活風景の心象とともに、なんとも非現実な雰囲気を映画に与えているところが、まあ、同じような女性の生き方を探るドラマ群と一線を画しているところかもしれない。(10月24日 テアトル新宿)
⑲ジェミニマン
監督:アン・リー 主演:ウィル・スミス メアリー・エリザベス・ウインスレッド クライブ・オーエン ベネディクト・ウォン 2019米 117分
ウーン、伝説的に有能なスナイパー・ヘンリーは情報ミスで誤った人物を殺し、自分の老いを感じて引退を決意するが、なぜか自分が属していた組織ジェミニから命を狙われる。彼は監視者ダニーを突き止め彼女を味方にし、また旧友バロンの助けをかりて世界中を飛び回り自分を狙う相手に立ち向かうのだが―実は彼を狙うのが彼のクローンで、若いころの彼にそっくりという話。ま、その戦いぶりと和解ぶりを2人のウィル・スミスのビジュアルで見るというのがこの映画の面白みに尽きる?クローンの「ジュニア」はパフォーマンスキャプチャーとCGで作られたというのだが、並んで立つても見分けがつかない、片方は昔のウィル・スミスを見ているみたい。すごいねえ、その技術。ぜひメイキングフィルムを見てみたいものだ。画像も特別な輩フレームレートで作っているとかで画像の精密度というか現実感もすごくて、まあそこを楽しめばいいということなのでしょう。ストーリーも悪くないし、バイクアクションなんかもすごくよくできていて、しかもちょっとアジア的な父子ものみたいな雰囲気もあって楽しめるが、そちらの方は後半わりと単純だしまあ、際立ったス作品佟う感じほどでもないのだが。
(10月25日 府中TOHOシネマズ フリー鑑賞⑫)
⑳くらやみ祭りの小川さん
監督:浅野晋康 出演:六角精児 高島礼子 佐津川愛美 蛍雪次朗 斉藤陽一郎 柄本明 水野久美 2019日本111分
府中が都会に残る田舎町?であることをつくづく思い知らされ、新住民(住んで15年あまり)としては、なんか居心地が悪いなあと、映画の最初から最後まで、そして終わってあった舞台挨拶(QAがあるわけでない、巫女姿の司会者の思い入れたっぷりな質問でシラケてしまう。出演者はさすがのトーク上手で高島礼子さんよく支えているが)にまで感じ続ける。府中市が町をあげて製作に取り組んだということで、大國魂神社をはじめ氏子会?、奉賛会? 府中の商工会関係とか観光関係者とかの名がずらりと並ぶ理事会メンバーがチラシにもエンドロールにも並ぶ。
物語は会社を早期退職することになり時間も体力も持て余すものの再就職もかなわない小川さんがひょんなことから大國魂神社の祭礼くらやみ祭りの運営にかかわり、さまざまな人間関係にも恵まれて新たな人生を見つけるというような…祭りの運営にかかわれるのは府中に3代以上住んでいるものだけとか、神輿を担ぐには祭りの運営委委員長?の了承がいるとか、毎年ものすごい数の人を集めて5日間そこには住めなくなってしまうような祭りなのだけれど、実は参加には厳しい制約がある(ことは前からうすうす知っていたが、これほどとは…)。格式と伝統を重んじるといえば格好いいが、要は町内会組織が結束する中で、そこに入れないものもいて、その人々は極端に言えば排除されるという村構造の社会なのだ。都会のこういう古い町の難しさなのだけれど映画の中では全然そのような視点はなくて登場人物が口々に「府中の男なら祭りに燃えるべきだ」「府中の女はおせっかいだ」「府中の住むならくらやみ祭りを知らないなんで」みたいな発言をするのがどうにも気にいらない。ま、しかたないんだけれど…。
そして小川さんが抱える問題も古い家を建て替えるかどうか、とか、離婚して実家に転げ込んで中途半端な感じに美容院の受付の仕事をしながら娘を育てる長女(佐津川愛美は力演)の恋愛問題とか、認知症の母と、パートをやめて介護をする決意をする妻とか、なんかよくありそうだが(つまり類型的)で、予測通りに話は進むし、あまり面白いとは感じられず…。初日舞台挨拶付に行ったのはフリーパスの最終日でちょうど時間も合ったからだけど、終わって出てくると劇場入口にスーツ姿のオジサンたちが何人も並んで(女性はいない)「ありがとうございます」というのは地元の関係者?これもいささか居心地悪く(何しろタダで見ているんで)。ローカルな個人的感想でしたね!スミマセン!
(10月25日 府中TOHOシネマズ フリー鑑賞⑬)
以上ーーー東京・中国映画週間、東京国際映画祭、しんゆり映画祭3つの映画祭で見た作品は次号にて、ご紹介します。
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