第17回大阪アジアン映画祭2022(+大阪中之島美術館)


大阪アジアン映画祭おもな会場のABCホール・ここは中津藩蔵屋敷跡で福沢諭吉の生誕地

   
   

蔓延防止条例下、いささかの心配もしながらも、3回のワクチン接種も終わったし決行!

3月15日~19日までの大阪アジアン映画祭参加、4泊5日で頑張って16本。間に半日は2月に開館した中之島美術館の開館記念展もしっかり楽しんできました。
開幕・閉幕作品鑑賞券つきのサポーターチケットも買ったのですが、日程の都合で劇場公開待ちにということで鑑賞できず。
21日映画祭は閉幕、受賞作品が発表されましたが、なんと賞に絡んだのは『初めて好きになった人』『アニタ』の2作品のみ…。ウーム,みんないい作品だったんだけどなぁ…。
劇場公開待ちの楽しみが増えたと思うことにします。

①おもちゃ映画で見た日中戦争②ママの出来事③アミラ④初めて好きになった人 (喜歡妳是妳)⑤ノーランズ・マン➅徘徊年代⑦宇宙探索編集部➇赤ザクロ⑨野蛮人入侵⑩修行⑪シャンカルのお話⑫ブルドーザー少女⑬アニタ⑭黄昏をぶっ殺せ(殺出個黃昏)⑮女子學校 デジタルリマスター版⑯縁起よき時 (良辰吉時)【文末番号は今年見た映画の通し番号です】


①おもちゃ映画で見た日中戦争ー黄色い大地からー
監督:太田米男 音楽・ピアノ演奏:柳下美恵 2022日本 モノクロ94分

「おもちゃ映画」とは昭和初期手回し映写機で映写された30秒から3分くらいの短編というよりフィルム片だったり、アニメーションだったりのこととか。
この映画は京都でおもちゃ映画ミュージアムを主催する太田氏が、おもちゃ映画に加えて(というかどちらかというとそちらが中心だが)当時のニュース映画映像とか、ホームビデオとかで大正天皇崩御から敗戦までの日中戦争時代の歴史を字幕で綴りながら(この分量が案外多くて疲れたが)映像を挿入していくという企画。
見覚えのある?映像もあったが、当時のアニメーション、にこにこ笑いながら中国兵を攻撃する日本兵とか歯をむき出した中国兵の造形とかにぞっとしつつ、アニメーションとしての動きとか配置など作り方はかなり洗練されているのを興味深く見る。柳下氏のピアノ演奏つきだが、迫力があってついつい引き込まれると映像の方が飛んでしまって音楽に浸る感じになってしまうのが問題といえば問題かも。それはそれとして映画祭でなければなかなか見られないような映画で、映画祭1本目として印象に残る作品だった。(3月15日 ABCホール インディ・フォーラム部門特別上映 066)


②ママの出来事
監督:彭秀慧(キーレン・パン) 出演:テレサ・モウ ギョン・トウ ジャー・ラウ 古巨基(レオ・クー) 2022香港 127分

始まる前に「製作者の要請で会場内で録画・録音は行われないか監視する。もし疑われるような行為があれば退場を求めたり場合によっては上演そのものを取りやめる」となんか恐ろし気なアナウンス。というのも全編MIRROR(アイドルグループ)ギョン・トウ(姜濤)の歌・ダンスたっぷりでレオ・クーとのデュエットもあったりして、「ママ」(テレサ・モウ 60過ぎとは思えぬすっきりした雰囲気だが、でも昔よりも普通のオバサンぽくなったな…)の物語といいつつ二人のアイドルの成長譚というか親子和解ものみたいな雰囲気もあって、まあ「29歳問題」が難病?ものへとシフトして成功したようには物語としては成功したのかどうか、イマイチな感じも(あとで監督インタビューを見たら、むしろ「女性問題」映画の枠に入れたくなかったのだということで納得したが)。
専業主婦だった女性美鳳が夫の浮気~離婚をきっかけに新たな挑戦として仕事に返り咲こうとするーまあ、彼女は昔はレコード会社で敏腕のマネージャーとしてレオ・クーなども育てたという設定で、最初はなかなかその業界には返り咲けない再就職のむずかしさから話が始まるが、音楽教室に勤めてそこで見出したデリバリーの配達員の青年の才能を見出し、ここからは職業的にはぐんぐんと発展。一方で離婚を隠し、アイドル育成に打ち込む母と高3の息子の関係が悪くなり…、この息子子軒(ヒン)と、アイドル候補の方晴(フォン・チェン)がともに親子に関する問題をかかえ、このあたりアイドルの方を解決することにより、息子のとの関係も修復されていく??なんかご都合主義的な展開の気もしないでもない。
息子とアイドルに入れ込む同級生のギクシャクとか、アイドルと息子の出会いのシーンの包丁の扱いとか、笑いも巻き起こりとても面白く見られたシーンもいっぱいあったのではあるけれど…。(3月15日 ABCホール コンペ 067)


③アミラ
監督:モハメド・ディアブ 出演:サバ・ムバラク タラ・アッブード アリ・スレイマン ジアド・バクリ 2021フランス・エジプト・ヨルダン・アラブ首長国連邦・サウジアラビア 98分 ★私的衝撃のテーマ賞

いや、衝撃的映像、衝撃事件、救いのない展開というか…。政治犯としてイスラエル側に拘束され20年?、獄中結婚した男は採取した精液を持ち出しての人工授精によって妻が妊娠、生まれた娘アミラは伯父の子として育てられてい高校生に。写真好きで明るく家族に可愛がられという雰囲気。彼女が母とともに面会に行くと父が、二人目の子を欲しいと言いだす。そしてこのあと、獄中・外にいながら愛し合う夫婦の様子もたっぷり見せた後、父が採取し、看守の手を借り外に持ち出された精液で体外受精をする段になり、実は父が先天的な無精子症であるということが判明する。
そこで二人目というより、アミラは誰の子なのか、母ウォルダは誰と浮気をしたのかという問題になり、一族こぞってのDNA鑑定、一族の男どもが寄って他たかって母を監禁、責め立てるということになる。このあたりはイスラムの男性社会の恐ろしさーもちろんどの男も「善意」の人であるのだが、それだけに怖い。
そして娘はどうしても自分の父を探すと、かつて自分を受精させた医者をたずね、そこに巻き込まれ、ともに連れていかれた母は夫の旧友(獄中の連絡係だった)との浮気を認める。しかし、実はその精子は看守が自分のものとすり替えたのではないかという疑いが浮上。看守はイスラエル人だから、娘は浮気の相手の子か、それともイスラエル人の子かという厳しい二者択一に迫られるーこれがまた多分日本人などには想像もつかないような「敵の子」は許されないという思想らしく、そこに突き動かされたアミラは国外に逃れるように言う親族の意見を受け容れるかのようにしつつ、そのイスラエル人に復讐をすると誓って国境を越えるのだが…。最後の皮肉というか衝撃というか、がっくりというか…救いのなさにことばもなく(ネタバレっぽくてスミマセン。イスラエル人も国に帰り娘を持ちいかにも幸せそうな写真を残していた、というのが一つのポイント)あ、しかしやはりインパクトのあるパレスチナ人の映画なのだった。(3月16日 ABCホール コンペ 068)


④初めて好きになった人 (喜歡妳是妳)
監督:キャンディ・ン(吳詠珊)、ヨン・チウホイ(楊潮凱)出演:ヘドウィグ・タム(談善言)レンシ・ヨン(楊偲泳) 2021香港94分 ★ABCテレビ賞受賞

少女マンガ?と思ったら、エンドロールで「普通の女性」がこもごもに女性との恋?というか付き合いを語るので、これってレズビアンの恋がテーマの映画なのかと、ちょっと驚く。ま、全体に白がかかった画面といい、白い壁に青家のドアの学校、白い衣装と白内障の目にはいささかつらいほどのフォーカスも甘くて美しく撮られた映画であったのは確かだし、松井玲奈と井川遥をそれぞれほわッと素朴に、少し強さを抜いたようなビジュアルの二人は、高校生時代はそれなりに微妙な感情表現もよく伝わってきていい感じだったが、20代、30代、父親が亡くなったりとかいう実人生が絡んでくると、どうにもきれいごとっぽくしか見えず、いささか退屈になってしまう。もっともこれは役者というより、ストーリーの問題だとは思うが。ーABCテレビ賞受賞。わが鑑賞眼のなさ?というか老化?かもしれないーを感じさせられてしまった!(3月16日 ABCホール コンペ 069)

⑤ノーランズ・マン
監督:モストファ・サルワル・ファルキ 出演:ナワーズッディーン・シッディーキー ミーガン・ミッチェル   ターサン・カーン  エイーシャ-・チョープラー     2021 アメリカ・インド・バングラデシュ・オーストラリア 101分  

ウーン。これも重い!この時間は休もうとチケット買ってなかったのだが、空きも割りと長く、時間を持て余すのも嫌だしと当日券購入。平日昼間は空席も多く、一般公開が難しそうな気もするので、見てよかった。
パキスタン出身のイスラム教徒のサミール(またはナシーン)がシドニーの海辺の墓地でづきょ中の恋人キャシーの前から失踪する。映画は2年前にさかのぼりアメリカでの彼の就職(イスラム教徒を隠しインド人のヒンズー教徒として就職する。本人が偽ったわけではなく、周りが気を使ってこうなった)、町で過敏神経症の女性にテロリストと騒がれ、足に音声も記録する位置情報測定装置をつけられて、セックスさえも監視下というような状況に置かれたニューヨーク時代、なぜかキャシーにも宗教に関しては隠し、父に関する話をしない、そして12年前にパキスタンを出国して以来あっていなかった妻の存在とか、いろいろの謎めいたというか不信感もあおるようなナシーンの行動が示され最初の時点に。
テロリスト?に殺され、墓を作ることも許されず、他の墓地に移転した父の事件が示され、最後はオーストラリア人の白人至上主義者によってイラン系の人々が何人も殺さるという事件まで、この男が嘘をつき不信を買うような行動もしつつ生き抜かなくてはならず最後に恋人との間で平穏を得たかのように見えたのにさらに…という状況がこれでもかこれでもかと描かれるのである。キャシーの奔放さ・自由さ、寒そうなニューヨークとは対比的なシドニーの景色の明るさの中で、つらさが身に沁みる。(3月16日 ABCホール コンペ 070)

 

➅徘徊年代
監督:張騰元 出演:アニー・グエン(阮安妮)スティーブン・ジャン(江常輝)グエン・トゥ・ハン(阮秋姮)陳淑芳   2021台湾 148分

これはあまりよくわからない映画だった。前半は1990年代、ベトナムから台湾に業者あっせんで嫁いだ若い嫁ヴァン・トゥエの鬱屈した暗い生活。それにもまして鬱屈したレンガ工の夫の生活。それがロングショットの連続で、あまり登場人物の表情もわからないような遠さで、しかも明度も少なく、ウーン。彼女は、ベトナムから嫁ぎ(村内に20人いるとか)店を出した友人に触発され屋台店を出したいというが家族に反対され、姑にいびられ、仕事も生活も思うに任せない夫に暴力も振るわれ、家を出てシェルターに身を寄せ、やがて一人暮らしを始める。
後半は2015年ごろで、ワイドだった画面が35mの幅になって、若い(でも結婚して7年とかいう設定だから30過ぎ?)女性の入社面接シーン。そこから新移民や受け入れた夫の悩みを描きたいと考える彼女が、取材に出て今や舞踊家として名を成しているヴァン・トゥエに会うまでのロードムービー風なつくりになっている。ちなみに後半の主役グェン・トウハンは有名ユーチューバーだそうだが、お団子に結った後ろ髪姿ばかりで顔がよくわからないような撮影のしかた。前半主役のアニー・グエンも新移民で嘉義新麗美歌劇団の女優だとか。夫役のスティーブン・ジャンは明るいイケメン風を封印してここではどうしようもない夫の遠景で、姑・陳淑芳も同様。後半の1シーンのみの出演の存在感はさすがだったが。
で、要はドラマの興味はビジュアル性よりも新移民の生活実態やその頑張りを主張するという、むしろ一種の主張映画、問題提起映画として撮られたのかなという印象だ。しかし、舞踊舞台シーン(ここは後半唯一ワイドに戻る)も含む148分は長すぎるかな…。(3月16日 ABCホール コンペ 071)


⑦宇宙探索編集部
監督:孔大山 出演:楊皓宇 艾莉婭  ロイ・ワン(王一通) チミー・ジャン(蒋奇明) 盛晨晨 2021中国 111分  ★私的特別賞!

北京電影学院の卒業制作をきっかけとして、実際のニュースにインスパイアを得て作られたというのだが、なかなかの着想、シュールだし、シニカルだし、コメディカルだし、面白かった! 地方の村や山中のロードムービー、ロバに乗って駆け回るシーンとかお金よりも体力を使っていると見える体当たりシーンー作者はドキュメンタリー映像っぽく撮ろうとしたらしく、主な出演者が画面のこちらにいる観客に向かって語り掛けるインタヴュー場面?なども織り込んだり、アドリブっぽく見えるようなカメラの動き、ブレ、ピンボケが入ったり、90年代(こちらも古い時代のビデオ映像風に作っている)からを描きながら、その若さにさすがと、ちょっと感動もした。脚本の王一通自らが宇宙人に会った孫一通を鍋をかぶって演じている。こちらも西遊記を彷彿とさせるような映像(精神病院での公演シーン,成都の街角にいる孫悟空)を織り込んだり唐詩を織り込んだりという古典的要素も含んだり、動きや荒っぽさの見せかけながら非常に入念に作られた作品で、楽しむことができた。(3月16日 梅田ブルク7 コンペ 072)


➇赤ザクロ
監督:シャリパ・ウラズバエヴァ 出演:アイヌール・ベルムカムベトワ ボラット・モミンジャノフ カディルガジ・クアンディコフ 2021カザフスタン 113分

前作『マリアㇺ』(2019・20年大阪アジアン映画祭で見た)とちがって、こちらのヒロイン・アナール(ザクロの意とか)はPCを操って仕事もする、身なりもちょっと華やかではかなげなワンピースというような現代的にしとやかな?雰囲気の38歳。夫が失業し、首都から田舎町(撮影はアルマトイ)に引っ越すところから。彼女は多分オンラインワークを続けるつもりだったのだろうがPCが故障。この田舎街では部品も取り寄せられないと、修理屋にも断られてしまう。仕事のない夫は妻の叔父の伝手で炭鉱に働きに行くと家を出るが行方不明に。妊娠中の彼女は夫の連れ子と取り残され経済的にも困窮。希望する事務の仕事はなく、やむなく買い物に行ったスーパーのレジ打ちの仕事を見つける。
ところが、連れ子の少年が出かけたサマーキャンプで、スーパー経営者の息子にレイプされるという事件が起きる。夫に電話をしても通じず、彼女はレイプ犯を断固として許さぬ(彼女自身が幼い時に同じような目に遭い心に傷を受けたという)と警察に訴えるのだが、警察も含め有力者の恥を広めることはできぬので穏便にという対応。、おまけに夫の借金を取り立てるという二人組も現れるが彼女はめげず記者の取材に答えて問題をきちんと解決することを訴える。
そこへ夫が戻って借金の肩代わりと引き換えに彼女の訴えを取り下げるという約束をスーパー店主と結び…と、男が男であるだけで幅を利かせ、金や権力(社会的地位)がものをいう社会で、彼女は追い詰められることになる。もう、見ていて早くこんな男たちと縁を切ってしまえと思うほど、どの男も一見「偉丈夫」で、感じ悪く暴力的に彼女をいたぶるのは『マリアㇺ』と同じ。彼女は自殺まではかる?が、夫はそんな彼女を取引材料にしてスーパー店主と男どうしの密約を結ぶ、あーもう!。
結局黙って訴えを取り下げ夫を救い、一家3人はこの街を離れることに。このあたりから彼女はフリルファッションを脱ぎ捨て黒一色になるのが象徴的。ただし妊娠していると言いながら終始7~8センチはありそうなハイヒールを履いているのは、やはり彼女が縛られているということの表象なのだろうか。このまま彼女は閉ざされた人生を送るのだろうかと思ってみていると、森の湖(池?)のほとりにUFO?が現れ?そして衝撃的な救い?に。
赤ザクロは夫が彼女の健康な出産を願って貧血防止に食べさせるのだが、それもある意味夫の勝手な拘束でもあり、彼女が預けられ、死なせて買い替え最後に湖に解き放つもまた容器に戻される金魚とともに赤がこの映画のシンボルになっているようだ(監督自身赤が好きとインタヴューで言っていた)。
監督インタヴューではこれは少年がレイプされた事件の実話がもとで、それまで多く起こっても表立って問題にされることがなかった少女のレイプ事件も、この少年事件が公になることにより、顕在化するきっかけになったとのこと。(3月17日ABCホール コンペ 073)


     <ちょっと一休みして、3月17日午後は中之島美術館に行きました>


2月2日開館。開館準備から40年、収蔵された6000点から400点を選んでの開館記念展

人出もさすが。前庭には大きな猫



設立のきっかけになった山本發次郎コレクションの佐伯祐三《郵便配達夫》1928




マルグリット作品を見る人々。代表的な近現代美術作品コレクションの一つ

ロートレックはじめ19c末~20cはじめのポスター・家具などのデザインもたくさん!

《ミスブランチ》と北欧家具(撮影が難しい)

サイズに注意


建物自体は威圧的で好きとは言えなかった…

⑨野蛮人入侵

監督:タン・チュイムイ(陳翠梅)出演:タン・チュイムイ(陳翠梅) ピート・テオ(張子夫)ブロント・パララエ ジェームス・リー(李添興) ジニー・ウーイ(黃之豫) 2021香港・マレーシア 106分

監督、タン・チュイムイ自ら主演し、1ヶ月の武術訓練を受けてマレーシア版『ボーン・アイデンティ』にカムバック主演することになった女優ムーン・リーを演じているのだが…。武術は進歩したものの相手役に元夫が起用され、出資者の意向で女優も別の人に替えられることに。
ムーンは息子を連れて街を去ろうとするが、そこに突然現れた車が息子を拉致誘拐する。息子を追って犯人のアジトに潜入したムーンは闘うが最後は殴られ昏倒、海に放り込まれ、打ち上げられた浜辺でミャンマー難民?に助けられるものの記憶を失う。浮浪者になって警察に捕まりそうになった彼女を助ける男とともに追手と闘い、息子が誘拐されたことを思い出し、再びアジトに潜入するが、そこで現れた犯人一味に、男は刺され倒れるーというまさに荒唐無稽「ボーン・アイデンティティ」的展開となるが、実は…というまあ、映画作りの映画なわけだ。
最後は海中(いや、海上)を歩く人物のCG映像で終わるという、なんかぶっ飛んだ展開で嘘っぽい武闘映画をたっぷり見せてしまうという、裏もあり表との差異も楽しめる?というかちょっとブラックな感じではあるのだが、そういう映画ではあった。ヤスミン・アフマド作品の関係者が出演し、言語的・文化的にもにもマレー語、中国語・ミャンマー語もかな?多言語・多文化映画で、現代アジア映画の一つの方向を示しているのかと思われる。(3月17日ABCホール コンペ 074)


⑩修行
監督:錢翔 出演:陳湘琪  陳以文 黃柔閩 2021 台湾85分

ウーン。打って変わってリアル?な台湾家庭映画(台湾の現代家庭の問題を描いた映画はとてもリアルに見えるのはなぜなんだろう)。夫婦関係は「修行」という意味か。すべきことはきちんとするが夫に心通わず不機嫌そうな妻ーヨガ?を中心とする身体運動を伴う新興宗教に打ち込む。一方、職場ではだらだらお茶を飲み、帰りにはコンビニで時間をつぶし、家に遅い時間に戻るとものも言わず出された食事だけを食べて寝てしまう、これも不機嫌で自堕落っぽい夫。間もなくできちゃった婚をする息子と、老愛犬テリーだけがまあ夫婦を繋いでいるのだが、その関係さえも夫婦間には大きな落差があってギクシャク。そこへ執拗にかかる国際電話。もと夫の秘書だった入院中の孫柯蓉を見舞ってやってほしいという、その姉からの電話で、秘書はつまり夫の浮気相手だったということ?で妻は電話を断固拒否するのだが…。しかし、様子見のあと、やがて妻は夫を連れて孫のいる精神病棟を見舞い、老犬の性病・不妊手術騒ぎがあり、妻が予約し犬を入院させた病院から、犬を連れ出した夫が出奔、行方をくらます。妻は探偵を雇って夫を探し、最後は夫を探して乗り込んだ安ホテルで、そこだけはなかなか衝撃的な展開をする。息子の結婚式にそろって出席する夫婦…。展開的にはあまりドラマティックとも言えず、場面的にも日常的な家庭とその周辺。妻は宗教に打ち込み、映画では節目節目に鈴の音が鳴り響くーこの宗教組織がある日封鎖されることが妻の行動の転機にもなってはいるのだが、しかし、ウーン宗教が描かれる意味もあまりよくわからないなあ。で、驚くべきは不機嫌な表情を崩さず繊細に心情を演じ分けていく陳湘琪の演技か。妙に老成した中年婦人でもあり、そこに安住はしない不安や揺らぎも見せる「若さ」も取り交ぜて、すごくリアルに繊細に迫ってくるのである。さすが!(3月17日ABCホール 台湾電影ルネサンス2022 075)


⑪シャンカルのお話
監督:イルファナ・マジュムダール 脚本:ニタ・クマール 出演:ジャイヒンド・クマール シュリージャ・ミシュラ アドヴィク・マートゥル  グラーム・ピール・ムハンマド  アルヴィンド  2021インド 93分

1960年代、インドの上流階級のお屋敷(監督の母の生家だそう。脚本はその母による。そして主人公の少女の母は監督自身が演じているというわけで、いわば自伝的映画?ともいえる)に住む9歳の少女アンジェラの目を通してみた社会。特に家事を担い、育児役でもあり、いろいろな「お話」をしてくれるシャンカルという男の姿(クローズアップはなく、遠くから見た映像が多いのも、少女の目を通してということだろう)を中心に描く。アンジェラの父母はリベラルな人であるのだが、無意識的といってもいい差別性が目に付く。
シャンカルには郷里にアンジェラと同年齢・同月同日生まれの娘がいて、病気になって亡くなるのだが、その見舞いと診察のための休暇・帰郷を申し出て、彼はアンジェラの母に厳しくけん制される。言いつけられた通り3日で帰ってきて何事もなかったように勤めるのだが、娘が死んだという報せに再び帰郷する。その留守アンジェラ自身も病に倒れる(子供の病が流行った?)娘を亡くし帰ってきて、アンジェラの世話をし、求められるままに(娘にはしてやることができなかった)お話をする姿に、悲哀を感じさせられる。差別的な制度を批判するというよりは、その上に乗っかって知らず人を踏みつけていた人間の後悔も含むような悲哀が、淡い緑に彩られた瀟洒な屋敷の中でしみじみ伝わって印象的な映画だった。(3月18日 シネリーブル梅田4 コンペ 076)


⑫ブルドーザー少女
監督:パク・イウン(박이웅) 出演:キム・ヘユン(김혜윤)パク・ヒョックォン(박혁권)イェソン(예성) 2021 韓国 113分

左腕にドラゴンタトゥを入れたヘヨンが、中華料理店を営むもギャンブル好きで頼りない父を叱咤し、弟の面倒を見ながら暮らしている。ある日店を援助してくれたチェ会長に会いに行った父が盗んだ車で事故を起こし脳死状態に、そこに店の明け渡しを求める会長の部下?も現れ姉弟は大ピンチ、というわけで、ヘヨンの反撃が始まる。
思ったより現実的。もっとバリバリに「ドラゴンタトゥの女」ぶりを発揮するかと思ったが、そうでもなく。悪役チェ会長の自宅にブルドーザーで突っ込むまではよかったが撃たれて、そのまま捕まり懲役。で、チェ会長の方は本当に懲らしめられる結果になったのかどうかわからないまま、仮釈放になった彼女が小学生の弟と暮し、飲食店で働くところに郵便が来て彼女に幸福?をもたらす、というのはウーン、勧善懲悪でもなくややご都合主義的なまとめ方でもあるような。もっとも超人的に描かれずタトゥも普段は隠して「若気の過ち」風に描かれるのが韓国的シニカルというかまとめ方かな…。主役もたくましいとか鋭いというよりむしろ「かわいい」タイプ。(3月18日 ABCホール コンペ 077)

⑬アニタ(Anita 梅艶芳)
監督:リョン・ロクマン(梁樂民)出演:ルイーズ・ウォン(王丹妮)テランス・ラウ(劉俊謙)フィッシュ・リウ(廖子妤)ルイス・クー(古天樂)林家棟 中島歩 岩城滉一 楊佑寧 楊千華  2021 香港 137分  ★観客賞 コンペ部門スペシャル・メンション

香港民主勢力が潰されつつあり、主権はもはや何処にという厳しい状況の中、「私は香港に生きる」と言い切り最後まで香港人エンターティナーとして生き切ったアニタ・ムイを今映画化するということに、香港人の気骨を感じる。
1960年代、姉とデュエットでどさ回りをしていた少女時代から、歌謡コンテストに応募してAから始まる英名をつけ、姉アンは落選アニタだけがデビューを果たすという初期。キャバレー出演で観客の注目をひきつけ、受けなかった共演者レスリー・チャンを励まし、将来互いに無料で香港コロシアムのコンサートに客演し合おうと決意を分かち合う場面。『ルージュ』でのレスリーとの共演シーン。(レスリー・チャンを演じたテレンス・ラウ。ウーン横顔などは確かにレスリーを彷彿させるがレスリーの愛嬌と色気というか華にはやはり欠ける?)。そして他の人々は実名で出てきてそのたびに会場ではふっとため息や笑いが起こっていたが、ここだけは「後藤雄輝」という名で出てくる中島歩演じる日本のアイドル。二人のシーンは日本の古風な庭園付きの旅館のシーンでとても背景が美しく撮られているが、その美しさを入れるために、この頑張る偉大な歌手アニタの少しチープというかお手軽にも見える日本人との恋愛に説得力を持たせるために入れた気がする。そして互いの社長などの介入もあって別れた二人の終わり近くの再会場面も…。さらにマフィアとのかかわりが取りざたされタイに隠れ住んでいた半年(ここでの相手役は楊佑寧)と復活。そしていよいよ2003年、サース禍の始まった香港でのレスリーの死(このあたりの映像は葬儀シーンなども含めほぼすべて実物映像。アニタとレスリーは同じ事務所だったので、レスリー映像や歌の版権使用は問題なかったとか?)そしてその後のアニタのガン闘病、その中で香港を励ますために企画した最終コンサート(死の45日前)、昔からついているデザイナー・エディ(ルイス・クーの熱演、だけどどうなんでしょうあまりデザイナーという雰囲気ではないよね。ルイス・クー。実物のエディさんもあんな感じなのかなあ。一方アニタ・レスリー両方のプロデューサーだったフローレンスを演じているのはミリアム・ヨンで、こちらは本人の感じをよく出していた気がする)が作ったウェディング・ドレス(これは実物映像も出てきたが、微妙にデザイン違いで、しかも本人アニタと役のアニタの雰囲気にちゃんとあわせてあって、実物映像を使いつつ配慮すべきところはしている?ーデザイン権の問題で同じデザインは使えなかったのかもしれないが)で「夕陽之歌」を歌って去っていくところまで、本人の迫力ある映像と、若い時はいいのだが晩年近くにはやはり本人映像には迫力負けという感じはするが、でもかなり頑張って、役者ルイーズ・ウォンが演じるアニタ・ムイをちゃんと造型していたルイーズの好演も印象的。どの場面も印象的ーそしてアニタ、レスリー、その他の人々の実物映像もしっかり入れて一種ドキュメンタリー仕立てにすることによって往年の彼女・彼のファンをも納得させ、ウルウルさせてしまうような構成ぶりもなかなかすごい。やはり迫力・迫真の一本というべきだろう。わざわざ大阪に見に行った甲斐があったと感じさせてくれる作品でもあり、満席、熱に満ちた会場反応でもあった。当然の?観客賞。
ただしコンペティションというには他の作品とは規模違い?そういうわけでスペシャル・メンションだそうだ。(3月18日 ABCホール コンペ 078)


⑭黄昏をぶっ殺せ(殺出個黃昏)
監督:リッキー・コー(高子彬)製作:林家棟 出演:パトリック・ツェー(謝賢)フォン・ボーボー(馮寶寶)林雪 鍾雪瑩 サム・リー(李燦琛) 2021 香港 99分

香港特別行政区政府駐東京経済貿易代表部(香港経済貿易代表部)代表の英語での挨拶の後上映の「香港ナイト」作品。
もともと敏腕でならした殺し屋3人組が老いて、いまだ殺しを請け負っているが、病み着いた夫婦に頼まれての自殺ほう助のような殺しとかで、実際に手を下すチャウ(謝賢)は嫌気がさしている。そんな時に請け負った殺しの現場に踏み込んで見つけたのは一人の孤独な女子高校生。彼女はチャウにつきまとい、話が妙な展開に。仲間のフォン(馮寶寶)は息子夫婦に援助をしつつ家族からはないがしろにされ、経営している家も店も息子が売り払い老人ホームへと入れられてしまう。もう一人の仲間運転担当のチャウ(林雪)は太った体に病を抱えつつ、通う風俗店の若い女性に新たな恋を求めて貢ぐが結局彼女は別の男との結婚を決める…というわけで、それぞれに不如意な老後を送っているわけだが、実は妊娠しているにもかかわらずボーイフレンドに捨てられたこの高校生を助けるというかかわりを通して、まあ、3人が新たな生きがいを見出していくという展開。
女の子鍾雪瑩と、祖父と言い寄られ困惑する謝賢の関わり具合の妙、馮寶寶の華麗なアクション・カンフーと、おしゃれに歌で決めるシーンとか、老いているとはいえ相変わらずの長身、足の長いサファリルック風オシャレに決めた謝賢の格好良さ、それに刀削麺削りは全然だめだがナイフさばきはすごいというような喜劇性も含めた演技など、ちょっと切ない老いを描きつつも見どころいっぱいで、いかにも香港映画らしいウェットさも含めていい出来だと思う。それにしてもこう来るか‼香港映画。という感じ。(3月18日 ABCホール コンペ 079)



⑮女子學校 デジタルリマスター版
監督:ミミ・リー(李美彌)出演:秦漢 恬妞 周丹薇 沈雁 林南施 1982 台湾92分

屏東女子中学を舞台に撮ったというが、実際には高雄なども含め台湾南部らしい景色とそれにもかかわらず暑すぎずー(とはいえ、映画のすべての場面で中学生は夏制服姿だが)さわやかな雰囲気に撮られている学園ドラマ。とはいえ内容は全然さわやかではなく、二人の女子中学生(というか日本風に言えば高校生)の友情が、クラスメートの「同性恋(同性愛)」ではないかという密告、教師(一人は当事者の姉というのが、まあこういう設定でないと、女性教師を悪者にせず介入させるのは難しそう)の不当というより、善意とはいえ不要な介入により二人が傷つき、その修復にはとんでもない犠牲を払わなければならなかったと、簡単にいえばそういう話だ。当事者二人のうち一人は父母が離婚家庭ををかえりみない父と暮す廖智婷、もう一人は失恋して妹と同じ学校に異動してきた姉と同居する楊佳玲というわけで二人の不如意な日常が絡んでいるところもいわゆる同性愛を描いたというよりは、当時の窮屈でつらい社会環境や教育の場でのものの見方を描いたという感じで、こういうふうに当時はモノを見ていた、見られていたのだという意味ではとても面白い歴史の記録みたい。このあと台湾ニューウェーブへと進んでいくのだろうが、この時点ではまだ全編にリリカルな感じで音楽が流れたり、割と古風なメロドラマ風に作られている。(3月19日 シネリーブル梅田4台湾電影ルネサンス2022 080)


⑯縁起よき時 [良辰吉時]
監督:ホアン・シー(黃熙) 製作総指揮:侯孝賢 出演:李康生 マイケル・ホアン(黃仲崑)デヴィット・ウー(吳大維)周采詩  ケニー・イェン(顏毓麟)シルビア・チャン(張艾華)2022 台湾・シンガポール 54分

架空の「太平市」を舞台に、街で起こる7日間の不思議な出来事を描いていくHBO制作によるブラックファンタジードラマの第1話ということ。太平市の葬儀場を舞台に、亡くなった父をめぐる二人の息子と末娘のそれぞれの思惑や性格のぶつかり合い、そこに葬儀屋(納棺師)の唐(李康生)が絡み、骨上げもすまさずに3人が去った後彼が取る行動とあっさり語られる種明かし。一方死んだはずの父が生き返り?、狂言回しの従業員シルビア・チャンと語るとか、ウーン。現実にありそうな場面とシュールな非現実的場面が入り混じり、いささかの困惑を伴うユーモア?にまぶされた映画というところ?テレビの連続ドラマにするのはちょっともったいないかも。膨らませてわかりやすくすれば1時間半の映画になりそうな。 (3月19日 ABCホール 台湾電影ルネサンス2022 081)

一瞬晴れた?帰り新幹線の車中から。富士山には会えず。

3月1日~14日までの「映画日記」は、20日以後の作品とともに、月末~4月初めにご報告します!

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