【勝手に気ままに映画日記】2021年10月

今月は「木曽駒」富士(10/2〜3)乗鞍岳・木曽駒が岳2座登頂!

乗鞍岳直下の紅葉

この上まで登った乗鞍

木曽駒が岳千畳敷カールの秋です

チングルマ綿毛…


 ①ミッドナイトトラベラー②人数の町③空白④護られなかった者たちへ⑤コレクティブ国家の嘘➅ミス・マルクス⑦恐るべき子供たち 4Kレストア版➇マスカレード・ナイト⑨NO TIME TO DIE⑩草の響き⑪アイダよ、何処へ⑫かそけきサンカヨウ⑬スターダスト⑭茜色に焼かれる⑮人生の運転手(ドライヴァー) 阿索的故事⑯わたしはダフネ⑰幸せの答え合わせ

10月23日中国・東京映画週間から、秋の映画祭シーズンが始まりました。今年は山形国際ドキュメンタリー映画祭の年でもありましたが、オンライン開催。となるとバタバタの秋に家で座ってPCで映画祭というのは私にはどうもなじまず結局見られずじまい。で、今回は映画祭以外の10月に見た映画です。日本映画が多くて7本でした。中国映画は映画祭回しで、⑮の香港映画1本だけ…。アップがおそくなって、もうだいぶ前という気がしますが読んでください。  
★うん!うん! ★★よかった! ★★★おススメ! 最後の番号は今年劇場で見た映画通し番号です。


①ミッドナイトトラベラー
監督:ハッサン・ファジリ出演:ナルギス・ファジリ サフラ・ファジリ ファティマ・フサイニ ハッサン・ファジリ 2019米・カタール・カナダ・イギリス 82分 ★★★

2019年山形YDFでのコンペ優秀賞受賞の話題作だったが、時間の関係でこの時は見られず、イメージフォーラムでの公開も年間多忙の9月ゆえにズルズル遅れ、とうとう明日からはレイトのみという最終日、台風の雨をついての駆け込み鑑賞ーの甲斐があった。
すごい500日のスマホ映像(3台。妻も映画監督、娘=小学生年代も映像教育を受けているとか)。タリバンの映画を撮ったことでタリバンの怒りをかい主演俳優は処刑、自身も死刑を宣告された監督が妻と二人の幼い娘とともにタジキスタン、トルコ、ブルガリア、セルビアを経てハンガリーに難民として受け入れられる(ところまではこの映画の終わりの時点では行っていないようだが)までを撮影し続けたもの。
途中では野中の道を延々と歩いてあり、野宿をしたり、難民キャンプに空きがなく廊下で寝たり、警察に門前払いにされたりさまざまな苦境があるのだが、それにもかかわらず、非常に聡明・機知に富みタフに両親の支えにもなる長女や、愛らしい幼児という雰囲気から髪も伸び少女になっていく次女の健気さ、また厳しい状況の中で夫と同志的に支えあおうとする妻ー夫が難民キャンプの中で近所の少女に「かわいい、きれいにいなった」とお世辞?軽口を言う場面がある。その場で黙っていた妻は少女が去った後、夫の「言い方」を厳しく批判する(厳しくとはいっても起こるのでなく笑顔ではあるのだが)、ここで夫は自らも自由を奪われつついる存在であるにもかかわらず女性を抑圧する心情から自由ではないことが暴露されてしまう。ただ褒めただけ、君だって映画の中では…という夫の反論に、映画人として他の男と夫婦役を演じたり着替えを手伝ったりするのとは全く違うのだという妻の明晰な反論が印象的で、こんな追い詰められた生活の中でもこの夫婦が理念を重んじ、流されてはいかないことを、妻が1年以上いた最後の難民キャンプで自転車の練習をして乗れるようになる場面とともにきわめて印象に残った。
スマホで撮った映像はいかにもスマホらしいのだが、それでもこんなにきれいに生き生きと撮れるのだなという出来栄えで、台風を押して見てよかったと思わせられた。(10月1日 渋谷イメージフォーラム211) 


②人数の町
監督・脚本:荒木伸二 出演:中村倫也 石橋静河 立花恵理 山中聡 2020日本111分★★ 

ちょうど1年前(正確には1年1ヶ月前)の公開から気にはなりつつ、当時売り出し出ずっぱり?の中村倫也主演というのも時流に乗りすぎだしなあというへそマガリもあって結局見損ない、1年後キノシネマのキノフィルム特集というので今日しかない!という日にやっと見た!
借金に追われた蒼山(中村)という男が、借金取りに殴られるシーンから。黄色いつなぎの男(チューター)に助けられ、バスに乗せられて「人数の町」につれていかれる。頭の後ろに何かチップ?を埋め込まれ、チューターの管理なしに外に出ると頭の中に強烈な騒音・雑音が流れ動けなくなるという設定。食事はネットへの絶賛や反論などの書き込み(数を保障するわけね)によって供され、だれのものともわからない選挙通知で決まった候補者に投票するというあたりが極めて今風だ。そのほかの時はそこそこの個室も、プールなどでの社交や、セックスの自由(ただし結婚と出産は禁止で各部屋には大量の避妊薬)も保証され、誰もが個別の名前はなく部屋番号で交流するという、まあものを考えなければそこそこ楽に生きられるデストピアというのが舞台だ。なぜ自分がここに来たのかもわからずおどおどしながら先輩?たちの様子見をする蒼山に、多くの男性をいわば侍らすような感じで享楽的に生きる女性を配し、しかしその女性実は…というわけで、外の世界で夫のDVから逃げて行方不明になった妹をさがす紅子(石橋)の姿を描くところから彼女のこの街への潜入(とはいっても正式に入ってしまうわけだが)妹緑との再会ーと、物語の後半はこの姉妹と、その姉を助けとする蒼山の脱走事件へと進む。
ここまではあまり予想外の展開というのはないが、最後にいたってえ?と思いつつ、ウーンこういう終わり方か、イマイチすっきりしないような、と黄色いつなぎで語調も今までとは違う主人公の姿と、こちらはもっとわからない姪っ子または自分の子?なのかどうかわからない子どもと、蒼山のようでもありそうでもないような夫と暮す紅子の姿に悩むのだった。しかしちょっとコワーイ意欲作であることは確か。 (10月5日 キノシネマ立川 212)


③空白
監督・脚本:吉田恵輔 出演:古田新太 松坂桃李 田畑智子 藤原季節 趣里 伊東蒼 片岡礼子 寺島しのぶ
2021日本 107分 ★★

え?107分の映画なの?とおもうほど中身のつまった展開に感じられたのは、鬼気迫る鬼父演技から、自らの内面を振り返り周りを見回す余裕もできた?あたりに至るまでの迫力に満ちた古田新太か、ちょっと不愛想で真面目なスーパー店長が、万引き犯を捕まえようとして思いがけなく相手を惨死に追い詰めてしまい、その父の恨みに押されて崩れていく様をリアリティをもって演じる松坂桃李か、正義を信じて押しつけがましいことに気づかず善意の困ったさんに徹して最後に崩れる寺島しのぶの熱演か、なにより父にも母にも教師にも受け入れられず孤独に万引きに走る少女を演じた伊東蒼のリアリティか。
それにしてもまあ、故意の悪事や未必の故意か絡まないから?引き金を引いた店長、2台の車の運転手、だれもが賠償責任は問われないわけで、父の怒りも別にお金の話にならないのは映画の純粋性なのか、きれいごとなのか、普通はそうはならないような気もする。そこでいじめがあったのではないかと父親に突き付けられ逃げる学校関係者(若い女性教師だけが悩むのだが)の描き方への悪意がちょっと目立って染むことにもなるのかな…。終わりがほとんどの登場人物に「癒し」の時間が訪れるような描き方も悪意に徹さず娯楽映画としてまとめた監督手腕化と思われた。世武裕子の音楽が印象的。(10月5日 立川シネマシティ 213)


④護られなかった者たちへ
監督:瀬々敬久 出演:佐藤健 清原果耶 林遣都 永山瑛太 緒方直人 吉岡秀隆 倍賞美津子 阿部寛 2021日本134分

清原果耶を迎えての原作大改編(性別を入れ替えただけだから大改編ともいえないか、清原はテレビで見る時とは全然違う表情で新境地?これは佐藤健もそうかもしれない)、震災で妻子を失った刑事の喪失感をたっぷりと書き込み、黄色いジャンパーつながりで最後に人間のつながりのようなところでちょっと心を和ませる(この場面での阿部寛の表情の微細な変化にも感心。何をやっても個性たっぷりしかも大げさなほどの演技力の彼にこんな微妙な表情の演技があったとは、という感じ)ー話そのものは中山七里の原作をかなり丁寧になぞっている感じだし、事前や予告編での予想からも大きくずれたところはないが、さすが瀬々の演出力?見ごたえある一作に。ただやはり犯人像というのは原作でも感じた違和感というか、こういう人があんな風に知人の被害者を廃屋に動けないように拘束して殺してしまうってありかなとは思わぬわけではない―その感じは原作よりさらに強いという感じが(当然だけど)する。(10月6日府中TOHOシネマズ 214)


⑤コレクティブ国家の嘘
監督:アレクサンダー・ナナウ  2019年ルーマニア・ルクセンブルク・ドイツ 109分

2015年ルーマニアのライブハウスで起きた火災。当日亡くなった人々以外に病院に運ばれ治療を受けた人々も次から次へと、火災による火傷によるのでは必ずしもなく、院内感染によって命を落としたということから、病院にはびこる賄賂ー医療汚職の存在が明らかになる。それに立ち向かう前半はジャーナリストの視点から、後半は「患者を守る立場から」就任した若い保健相の健闘と敗北(とまではいかないのかもしれないが、決して成果を上げえていない状況で映画は終わる)を様々な記者会見や会議などの映像、傷にウジの湧いた患者の映像とか、火災で大きな被害を受けた美しいモデル?女性の姿とかも交えながら描いていく。説明もナレーションも全くなく、登場する人々のことばだけで綴っていくので、ついていくのに骨が折れるところも(少々体調の悪さや仕事帰りの昼食後ということもあって)あったが、ウーン。やはりこれは見るべき映画、まさか日本でそこまでの病院汚職はないと信じたいが、国家が国民を欺く(ま、真実を述べないという意味では)遠いよその国の話他人事ではないという感じが強くある。(10月7日 渋谷イメージフォーラム 215) 


➅ミス・マルクス
監督:スザンナ・ニッキャレッリ 出演:ロモーラ・ガライ パトリック・ケネディ ジョン・ゴードン・シンクレア   2020イタリア・ベルギー(ドイツ語・英語)107分

カール・マルクスの娘(6女?)エリノア・マルクスはその生涯を労働者の権利向上,児童労働禁止、女性の権利拡大運動などに捧げ、43歳で自死したーっていうのはつまり挫折した?ーというが、映画の中でロモーラ・ガライ演じるエリノアの演説は勇ましいが「父によれば」が必ず出てくる。そして愛した男劇作家のエドワード・エイヴリングも、行ってみれば男権社会主義者で、エリノアや女性に対しては勝手なふるまいで甘え続け、信奉した父さえもその点では大きな裏切りもありという感じでずいぶん孤独な人生を歩んだのだなあと、息苦しくなるような19世紀後半のファッションスタイルも含め、なーんかな。
工夫はそこここに挟まれるモノクロの(多分当時のも使っている)19世紀労働者の姿やパリコミューンのバリケードなんかを映した動画・静止画にかぶさるロック調の自己主張をするかのような音楽(ロック調のインターナショナルなんかもあって)。このあたりで元気さと新しさとを出す工夫をしているのは面白いとは思ったのだけれど。(10月8日 渋谷イメージフォーラム216)


⑦恐るべき子供たち 4Kレストア版
監督・脚本:ジャン=ピエール・メルヴィル 出演:ニコール・ステファーヌ エドワード・デルミット ルネー・コジマ ジャック・ベルナール ジャン・コクトー(ナレーション)1950仏 105分

ジャン・コクトーの原作は昔読んだが、映画は未見。70年ぶりの4Kレストア版ーウーン、70年前のヌーヴェル・バーグ前夜の風俗や人物ってなんか、それ以前の人間模様とも現代に続くそれ以後ともずいぶん違う気がする。なにより姉弟の戯れというよりかケンカ言い合いの激しさ、うるささというのがこの時代特有なのか、ラテン民族のもの?なのかー全編ぞろぞろとガウンというかバスローブの若い姉弟、16歳の弟(その友人も)はとても16には見えないオジサンぶりに短パン姿というのがいかにも??だし、姉のほうはガミガミバンバン弟に支配力を発揮してオバサンっぽいし、まあ70年前の若者たちだから今の基準ではみられないということか?
話としては友人たちを巻き込み姉の独占欲と陰謀で悲劇的結末を迎えるわけだが、そういう強さ激しさが前面に出て陰湿さはあまり感じられない。弟のひ弱な空疎さみたいなものは大いに感じられるが。いずれにしてもそれまでにはない若者(子供)の姿を描いたということになる、という意味で当時としてはおおいに新しく、現代にはあまりない行動様式ということで、時代の流れの中でも一種のエポックになったということだろう。フー、疲れた!(10月8日 渋谷イメージフォーラム217)


➇マスカレード・ナイト
監督:鈴木雅之 出演:木村拓哉 長澤まさみ 小日向文世 麻生久美子 木村佳乃 高岡早紀 沢村一樹 梶原善 泉澤祐希 中村アン 石黒賢  2021日本 129分

東野圭吾原作小説をもとにした『マスカレード・ホテル』シリーズ第2弾。テレビや映画で主役を張っているような面々がお客やホテル従業員、警察官として入り乱れちょこっとずつ見せ場があって、それがそれなり伏線になって事件の経緯が明らかになっていき、最後近くはカウントダウンパーティーの仮装舞踏会ーそこでキムタク扮する刑事新田とファントムの仮装をした犯人がタンゴを踊るー映画の出だしもタンゴで、こちらはキムタクと中村アンがたっぷりと踊るシーンを見せる。
ホテル従業員の制服で最初から最後までの長澤も、エンドロールにいたって、ロサンゼルス支店に転勤する旅支度のおしゃれなファッションでパリッと決めてー次はロサンゼルス編?ーなぜかこのシリーズはキムタク・長澤コンビに対抗してか、犯人や周辺人物に女性を配する傾向?今回も麻生・木村・高岡のトリオがその意味ではなかなかの大活躍(ネタバレごめん!)。絶対に見ておかなくては…というような映画ではないが娯楽作品としては構成も含めなかなかうまくできているなあと思われる。(10月10日 府中TOHOシネマズ 218)

⑨NO TIME TO DIE
監督:キャリー・ジョージ・フクナガ 出演:ダニエル・クレイグ レア・セドゥ ラミ・マレック ラシャ―ナ・リンチ ベン・ウィショー ナオミ・ハリス ジェフリー・ライト クリストファ・ヴァルツ レイフ・ファインズ 2021米 164分 ★

出だしはボンドの恋人マドレーヌ・スワンの幼時の恐ろしい記憶から。これをボンドに打ち明ける前にボンドは命を狙われ、それがマドレーヌに関わるものと思ったボンドは彼女と決別する。そこから5年後?引退して悠々自適を決め込んでいたボンド元CIAの旧友から助けてほしいとの依頼がくる。ミッションは拉致された科学者を救い出すことというのだが、恐ろしい遺伝子兵器?を開発する島の頭領、悪の化身?サフィンを追い、兵器を世に出さないため、自らを犠牲にするようなボンドの働き。
別れていた間に生まれたマドレーヌとの娘、新007の出現(黒人女性)、新しいミッションに共同で立ち向かうパロマという女性などなど、女性の活躍も目立つ中で最後はミサイルによる兵器の島攻撃と、サフィンとの一騎打ちというまあなんというか酸鼻を極める物語展開。
クレイグはこれが最後のボンド?らしいがエンドロールには「ジェームズ・ボンドwill retern」と出ていたけどね。ボンドのお定まり、爆破シーンやカーチェイス、もちろん乱闘?一騎討、恋愛シーンも含め、なんというか、すべてを放り込めば164分でも足りないぐらいかもしれないが、いささか長さには辟易というところも。 (10月15日 府中TOHOシネマズ 219)

蓼科山:天空に続くかのような登り道

天狗の露地は快晴だったが…(10・16)まだまだあります。山の写真下にも…


⑨NO TIME TO DIE
監督:キャリー・ジョージ・フクナガ 出演:ダニエル・クレイグ レア・セドゥ ラミ・マレック ラシャ―ナ・リンチ ベン・ウィショー ナオミ・ハリス ジェフリー・ライト クリストファ・ヴァルツ レイフ・ファインズ 2021米 164分 ★

出だしはボンドの恋人マドレーヌ・スワンの幼時の恐ろしい記憶から。これをボンドに打ち明ける前にボンドは命を狙われ、それがマドレーヌに関わるものと思ったボンドは彼女と決別する。そこから5年後?引退して悠々自適を決め込んでいたボンド元CIAの旧友から助けてほしいとの依頼がくる。ミッションは拉致された科学者を救い出すことというのだが、恐ろしい遺伝子兵器?を開発する島の頭領、悪の化身?サフィンを追い、兵器を世に出さないため、自らを犠牲にするようなボンドの働き。
別れていた間に生まれたマドレーヌとの娘、新007の出現(黒人女性)、新しいミッションに共同で立ち向かうパロマという女性などなど、女性の活躍も目立つ中で最後はミサイルによる兵器の島攻撃と、サフィンとの一騎打ちというまあなんというか酸鼻を極める物語展開。
クレイグはこれが最後のボンド?らしいがエンドロールには「ジェームズ・ボンドwill retern」と出ていたけどね。ボンドのお定まり、爆破シーンやカーチェイス、もちろん乱闘?一騎討、恋愛シーンも含め、なんというか、すべてを放り込めば164分でも足りないぐらいかもしれないが、いささか長さには辟易というところも。 (10月15日 府中TOHOシネマズ 220)


⑩草の響き
監督:斉藤久志 出演:東出昌大 奈緒 大東駿介 Kaya 林裕太 三根有葵 室井滋 2021日本116分 ★

佐藤泰志原作小説の5本目の映画化。多分過去4本もすべて見ているはずだが、今までの中では一番に穏やかにして繊細、すれ違い的な人の行動の中にも希望を感じられるような、その意味では佐藤の作風からは少し離れているのかもしれないが、見て、センセーショナルというよりは充足感を感じられるような作品。これって主人公の妻を演じた奈緒の力や雰囲気によるところが大きいかも。『マイダディ』でも思ったが、一見内助の功的なかわいい女性風なのだが、その中にある揺らぎや、隠したいような秘密の存在を演じられるなかなかすごい女優さん、という感じだ。すごい遠景でえがかれる『君の鳥はうたえる』に続くような若者3人組の、こちらはショッキングな事件もあるがそれが主人公に影響を与えつつ遠い距離にあることも感じさせるような描き方も、この映画のそういう雰囲気を作り出しているのかなと。大東駿介、東出昌大についても成熟を感じさせる作品であった。(10月19日 新宿武蔵野館 221)


⑪アイダよ、何処へ
監督:ヤスミラ・ジョパニッチ 出演:ヤスナ・ジュリチッチ イズディン・バイロヴィッチ 2020ボスニア・ヘルツィゴビナ オーストリア ルーマニア オランダ ドイツ ポーランド フランス ノルゥエイ トルコ(ボスニア語 セルビア語 英語)101分 ★

ボスニア紛争末期1995年、ボスニア東部のスレプレニツァという町にセルビア勢力が侵攻、住民二万人が保護を求めて町はずれの国連施設に殺到した。ヒロイン・アイダはこの施設で国連側と住民側の意思疎通のための通訳として働く。国連はセルビア側の要請に従い住民代表3人を出し、セルビア側と交渉(形ばかり。セルビアの要求を受け入れるだけだが)住民たちはセルビア側が用意したバスやトラックで安全地域まで移送されることになる。しかし…実はセルビアは男性たち8000人余りについては、女性と分けて移送するとして虐殺していた…。
この映画はアイダが夫や二人の息子を助けようと、施設の門外に取り残された彼らを、夫を住民代表にするということで無理やり施設内に入れたり、施設からの移送を拒んで彼らを隠し、自分と同じく国連職員としてのIDの発行を要求したり、なりふり構わず、周りの知人たちの命乞いをも無視し、安全のためとして夫が3年半書き綴った日記・記録を破いて燃やしたりと、その厳しいいかめしい表情とも合わせ、彼らが彼女の心配通り虐殺されてしまったという事実を知らなければ、なんとも強引な横車というか、家族思いではあっても自己中心的な行為にさえ見えてしまうのだが、結局家族があっというまに虐殺(この映画、殺されるシーンは音や、壁の陰で姿見えずというふうに処理、そこは好感)されてしまい彼女の必死の行動も報われることはない。
それでも生きていく戦後の彼女の姿や、教師に戻って教える彼女の生徒たちの姿ーボスニア系もセルビア系もいるわけだ―実は戦争真っ最中の国連前でもセルビア兵士が彼女に「先生」と呼びかけ息子とも同級生だったというようなシーンもあり、内紛・内乱のすさまじさとともにそれをこれからも乗り越えていくしかないという絶望的な希望への予感さえも感じさせられる、印象に残る最終章だった。(10月19日 新宿武蔵野館 222)


⑫かそけきサンカヨウ
監督:今泉力哉 出演:志田彩良 井浦新 鈴鹿央士 菊池亜希子 西田尚美 石田ひかり 2020日本 115分

窪美澄の原作小説の映画化だそうだが、場面転換の妙などはあまりない、学校、家庭、その周辺を舞台にしたセリフ劇で、小説で読むならまだしも映画で見るのはちとくたびれるという感じ。父娘で住む家で、父が「好きな人ができたから結婚する」結婚生活が始まると再婚相手の幼い娘がワガママを振りかざし親たちはそれに気を使い主人公の娘は苛立つというのがトレーラー映像で、なかなかにインパクトがあったが、実際の話はそれはごくごく一部だった。穏やかで娘とよく話す父、物分かりの良い娘、そしてその彼女のことも気に掛ける若い再婚相手など良い人ばかりの中、その問題は紛糾することもなく、娘と別れた実母との再会とか、ボーイフレンドの心臓手術とか、小説的にはなかなかインパクトのある展開になりそうなのだが、そうもならず、雨に濡れると透明になるというサンカヨウの儚さ、かそけさのままにきわめて品よく、率直だけど物分かりのいい登場人物が入り乱れ、悪意などはかけらもなく毒も絶望もその果ての希望というような展開もなく、穏やかで品のよい、ちょっととりとめない世界に仕上がったのはどうなんだろう…ウーン。(10月20日 キノシネマ立川 223)


⑬スターダスト
監督:ガブリエル・レンジ 出演:ジョニー・フリン ジェナ・マローン デレク・モラン マーク・マロン 2020英・カナダ 109分

デビューするまでのデヴィッド・ボウイの話というから見たのだけれど…。話としては兄の統合失調症を間近に、それが家族に伝わる遺伝的?形質で、次は自分かもということで分岐点に立つ兄や自分の幻影に悩まされつつ、アメリカにプロモーションに行くも成功しない、そしてイギリスに戻った途端妊娠中の妻との別れ、そこからイギリスでの新しいスタイルでの成功まで、とまあ過不足なく描く。特にアメリカで認められないボウイの焦燥やそれでも自分は違うのだという誇り、文句を言いつつ支えて彼をアメリカ中つれまわってインタヴューや小さな舞台を設定するマーシャル・レコードのロブ・オバーマン(マーク・マロン)の姿などを描いていくのだが、ウーン、なんかジョニー・フリンはデヴィッド・ボウイを演じるには少したくましすぎる感じだしあまり顔も似てないし、この点でははフレディ・マーキュリーを演じたレミ・マレックの勝利ではないでしょうか、という感じ。今イチ、ボウイの世界に浸れるという感じには最後までならなかったのが残念!(10月20日 キノシネマ立川 224)


⑭茜色に焼かれる
監督:石井裕也 出演:尾野真千子 和田庵 片山友希 オダギリ・ジョー 永瀬正敏 泉澤祐希 2021日本144分 ★★

尾野真千子渾身の一作という感じだろうか。コロナ禍の中7年前に夫を高齢者のアクセル・ブレーキ踏み間違え事故で理不尽に亡くし、「夫を愛してしまった」ということと、加害者の老人から謝罪が一言もなかった(聞いたような話)ということから補償金も受け取らず、脳梗塞で倒れた亡夫の父の施設入居費を負担し、夫が愛人との間に成した子どもの養育費を夫の死後も払い続けるヒロイン良子(りょうこ)は、コロナ禍で経営していたカフェが破綻、昼のホームセンターパートと夜の風俗の仕事で家計を維持し中学生の一人息子を育てているシングルマザー。息子はいじめにあい―まったくもってどうしようもないいじめっ子中学生、最後は2人が住む市営住宅のベランダに放火までー、学校はそれを認めようともせず、彼女自身も取引先の関係者とかいう若い女子学生アルバイト(いかにも無能そう、おまけに良子の元上司はその若いアルバイトにセクハラ三昧)にはじき出されるように失業、あれもこれもと踏んだり蹴ったり。その中で「ルールは守らなくては」「まあ、頑張りましょう」のことばが支えになっているわけだが、見ていてなんだかすごく意固地な感じさえして前半は、むしろつらくイライラする。
風俗の店の同僚のケイちゃん(片山友希)は幼い時から父にレイプされ、今は暴力的な同居者に支配され、彼の強要で妊娠中絶するがその際に子宮がんを発見されということでもっと踏んだり蹴ったり、その彼女(存在感がある好演)と良子の息子の交流や、読書好きの息子のテスト成績全国上位というのが、非現実っぽくはあるが、映画の一種の清涼感になっていて救われる。昔の同級生と再会し、離婚したという相手の男にちょっと心をひかれ、例によって一生懸命誠実につきあおうとして、相手の遊びにバカにされ、息子やケイ、そして風俗店の店長を巻き込んでの復讐劇?が痛快というよりはカナシイ感じも…。良子が結審して演じる彼女と夫を描く一人芝居というのも面白いが、取ってつけたようなところもあって息子がちょっと距離を置いた感じで見ているのも面白い。題名『茜色の焼かれる』は夕焼けの中自転車に相乗りして母子が行く場面に寄るのだと思うが、これが見るからにグリーン幕の前で演じられている?CGの夕焼けで…あらをさがせばいくつかは出てくるのだけれど、でも全体としては淡々と描きつつインパクトがある映画ではあった。(10月21日 下高井戸シネマ 225)


⑮人生の運転手(ドライヴァー) 阿索的故事
監督:パトリック・コン(葉念琛) 出演:イヴァナ・ウォン(王菀之)フィリップ・キョン(姜皓文)エドモンド・リョン(梁漢文)ジャッキー・ツァイ(蔡潔)スーザン・ショウ(邵音音)2020 香港

珍しく純粋?香港庶民派(人情)コメディ。恋人の働くチリソース店「陳三益」で彼を支えてというかリードしていた堅実派のソック(見かけは天童よしみをちょっとすっきりさせたような顔立ちで、母役祖母役の目パッチリからこんな娘が生まれる?という感じなのだけれど。香港では有名なシンガーソングライターだ)がその恋人の結婚式に招待され乗り込む場面から。恋人志高は、大陸から提携を求めてきたケイケイという女性に誘われ大陸との商売を始め、出張の中でやがてケイケイと仲良くなる…というわけで捨てられたソックは(もともと店の配達のために大型免許も取っていた)路線バスに運転手になる…といっても邦題のように運転手としてのドラマが展開するわけでなく、あくまでも恋人を取られた女と、彼と一緒になったその大陸女性の元カレ・レイザンマン(李振民、これはフィリップ・キョンでぶっ飛んでいる)の復讐劇に、サックの別居中の両親と絡む母方の祖母(これがスーザン・ショウですごいインパクトの要望で大迫力)がからみ、ケイケイに乗っ取られるがごとくリストラされて陳三益の老従業員たちが職を失ったり、ソックの乗るバスの運転手と妻の逸話とか、レイ・ザンマンとシンガポールに去る元妻とか、ソック周辺のいろいろの物語がそれこそとりとめのない感じで混在しつつ、ソックとレイザンマンの復讐劇が進むというわけだ。
ケイケイを演じる蔡潔はもともと広東省の人らしいが、流暢な広東語から大陸人の設定で、結婚資金場面で上から目線でソックに迫る場面では普通話、最後に逆上すると広東語という感じで両語をいったりきたりの美人悪役。香港を舞台にした香港人の映画とは言っても中国をこういうふうに描くのね、というところがちょっと興味深い。大陸に侵略されている香港人の反骨?がこんな感じで出ているのだろうか。
ジーコウとケイケイの住む家にレイザンマンがコンドームや、女ものの赤い下着などを隠し置き、二人の間をかく乱させようとするシーンがあるが、ソックにだれの下着?と問われ「トレイシーの」と答えるレイザンマンならぬフィリップ・キョン。『トレイシー』が香港では誰でも知っている?人物なんだろうが、日本でこれ、まあ香港映画をかなり趣味的に見ている人でなければわからないんじゃなかろうか。話が盛りだくさんなうえ、時系列も行ったり来たり?みたいなところがあり、見ている間は少し散漫な印象があったが、最後にバスドライバ―の仕事の中で特別出演のアレックス・フォン(オジサン化してるが)中学時代の同級生にあってデートの約束をするところで閉める手腕はなかなかで後味はまあまあーというか基本的にマジメスタンスの香港コメディ健在という感じだ。(10月22日 新宿シネマカリテ 226)


⑯わたしはダフネ
監督:フェデリコ・ポンティ 出演:カロリーナ・ラスバンティ アントニオ・ピオヴァネッリ ステェファニア・カッシアー二 2019イタリア 94分

何と言ってもこの映画は主役のカロリーナ・ラスパンティの自然でしかも役をよく理解した共感を呼ぶ演技のおかげで、1場面1場面が生きていると思える。仲のよかった母が突然何くなり打ちのめされる娘ダフネの動揺や、主張ぶり、障がいがある娘とともに取り残され彼女の未来を考えると動揺し精神的にも不安定になって、認知症の兆候?さえも見せる老いた父。二人の淡々としつつ不安と息詰まるような状況の中でダフネは父と違い職場の仲間に励まされたり、障碍者支援の仲間たちとダンスを楽しんだりというような中で自立の力を発揮する。そして後半、母を葬ったトスカーナの田舎(別荘がある)に向かって徒歩の旅に出る親子のロードムービーに。ここでもダフネは疲れたり、足が痛いと適度に父に甘えつつも対外交渉的なことは一手に引き受け、SNSの腕を発揮したりなどもしてトスカーナにたどり着き、父に思いもかけないプレゼントをするという…日常は意外と淡々ともし閉鎖的な感じも強いのではあるが終わってみるとほっと励まされるようなステキな映画に仕上がっている。(10月29日 下高井戸シネマ 234)


⑰幸せの答え合わせ
監督:ウィリアム・ニコルソン 出演:アネット・ベニング ビル・ナイ ジョシュ・オコナー 2018英 100分

キノシネマの上映作品なので何度も予告編を見る機会があって、なんかうざそうな世界に、ちょっと辟易する感じもあって観なかったのだが、下高井戸シネマの『ダフネ』との並びに、なら観るか、という感じ。見てみるとウーン、ウザイはうざいがなかなかによく描けた?意外にいい映画だった。
結婚29年、妻は夫と話しわかりあって打ち解けて暮らすことを望んでいるが、行為はまあモラハラっぽく、夫はお茶を入れろと言われば入れ、朝食の準備などもしてくれるが心はここにあらざるという感じで妻としては不満で仕方がない(殴るシーンまであるからな、この妻の心情は20年くらい前の私にはすごく理解できるもの。しかし日本の夫はどちらかというと彼もモラハラで妻のためにお茶を入れるなぞはとんでもなく、作ったごはんさえも横目でプイとかが多かったなあ)耐えかねた夫は1年前から愛人を作り(学校教師の男が、生徒の母と関係を持ち?ーこれはダメでしょう、犯罪と紙一重とも思ってしまうがイギリスではそうでもない?)堪忍袋の緒が切れたという感じで家を出てしまう。打ちのめされる妻。慰めるのは都会で一人暮らしをしている息子。父の出ていった家で母を慰め週末ごとに帰宅するようになるーけど父と母の板挟みのようになり、この息子大丈夫?と思えるほど繊細なのだ。(私も我が息子に同じような思いをさせた?いやいや彼が中立に一歩距離を置いてくれたことによって私は救われたのだよなと思う。おかげで息子は30代後半に入り、家族から一人離れて独身の大阪暮らしであるんだが)この映画では息子は海辺ホース・ギャップ(原題)と言われる入江の自然の中で母と向き合い、母は持ち前のタフさのなかで立ち直っていきという過程が結構丁寧に描かれて説得力はある。しかしやっぱり結婚って難しいと思わされるような映画ではあった。(10月29日 下高井戸シネマ 235)

1週間前はまだなかった雪!の槍・穂高方面@美ヶ原10/24

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