【勝手気ままに映画日記】2020年7月



コロナ第2波?長い長い梅雨の7月でもあり、全然遠出もできず
近くの映画館でくすぶっていました。チラシもなくて、でも印象的だったポスターから…
それにしてもなんか暗い画面です。









































①マザー②ロニートとエスティ③その手に触れるまで (Le jeune Ahmed)④コリー二事件⑤マルモイ・ことばあつめ⑥イップ・マン4完結⑦ダンサーそして私たちは踊った⑧うたのはじまり⑨なぜ君は総理大臣になれないのか⑩さらばわが愛、北朝鮮⑪スキン⑫スキン短編⑬最高の花婿アンコール⑭お名前はアドルフ⑮17歳のウィーン―フロイト教授の人生レッスンー⑯プラド美術館ー驚異のコレクションー⑰追龍⑱シークレット・ジョブ⑲一度も撃ってません⑳カセットテープ・ダイアリーズ㉑コンフィデンスマンJPプリンセス編㉒ウエイブス

中国語圏映画は2本のみ、韓国映画は3本、日本映画も3本 今回はあくまで私にとって吸引力があったという意味で★をつけてみました。最高3個。
最後の( )の中の数字は、1月から劇場で見た映画の通し番号です。


①マザー
監督:大森立嗣 出演:長澤まさみ 奥平大兼 郡司翔 阿部サダヲ 夏帆 皆川猿時 木野花 2020日本 126分 ★

うーん、126分、これでもかこれでもかと、長澤まさみ演じる母のダメっぷりを見せられて、その母大好きな少年がこれでもかこれでもかと追い詰められていくのを見せられて、決して後味がよくはないが、母も子(15から17歳ぐらいは奥平大兼、幼年期―郡司翔…こちらはあまり誰も言わないようだが、奥平にも勝るとも劣らぬ好演だと思う)も、そろって熱の入ったというか入らないように演じながらの熱演でその世界から見ている方も抜け出せない苦しさというか息詰まるような感じの映画。ちらりとだけれど、「まとも」な妹に比べられ、学校でもいじめられ自尊心を持てずにパチンコ屋、元ホストのダメ男や、幼い息子に依存し、福祉課の市役所職員や、投宿するラブホの若いオーナーや、息子の雇い主までも篭絡する母のカナシイふてぶてしさやたるみ、既にそこから抜け出せなく、抜け出そうともしなくなっている姿を演じて特に長澤は今までにない境地を見せている。
最後に少年が言う「お母さんが好き」ということばに集約されているのがこの映画のテーマだが、うーん、現実的にあそこまでやられてまだ好きってあり得るんだろうか。それとこの映画の中で5年後としてすっ飛ばしている部分が少年にとっても母にとっても描かれている部分に比べてさらに過酷な、想像もしにくいような境遇だったと思われるので、ちょっとそこを飛ばすのは逃げかもね…とも思えてしまった。
(7月3日 TOHOシネマズ府中 109)

②ロニートとエスティ
監督:セバスティアン・レリオ 出演:レイチェル・ワイズ レイチェル・マクアダムズ アレッサンドラ・二ヴィラ  2017英 114分

映画はシナゴーグで「自由と選択」を説く老ラビが倒れるところから。
NYで写真家をするロニートが、イギリスに一時帰国するのは、父の死の知らせを受けてだが、戻ってみると彼女を歓迎する気配はまったくなくて、彼女の離郷になんらかのわけがあったのだろうと察せられる。実は厳格な正統派ユダヤ・コミュニティで育ったロニートとエスティは互いにひかれあっていたが、このような社会で同性愛が許されるはずもなく、ロニートはNYに去り、エスティは、幼馴染でロニートの父ラビの弟子筋にあたるドヴィッドと結婚し、ユダヤ教学校の教師として平穏・敬虔に暮らしていた。
ロニートの父の死はエスティがひそかにロニートに知らせ彼女は帰郷したのであった…というわけで、このあとロニートの滞在中の何日かの間、互いに違った生き方を選んだ二人の、それにもかかわらず再会すると再び心が近づいたり、かと言えばおもにエスティの方からだが相手を遠ざけようとしたり、父の追悼会にも出ようとせず帰りかけるロニート、いなくなるエスティ、ドヴィッドの懇願で戻ってエスティを探すロニート、そして追悼式で、後継者指名を受けて「自由の選択」として後継者を辞退するドヴィッド―終わりの方は彼の独壇場という感じで、妻の裏切りを受けつつ、それをいかに受け入れるかに苦悩し、そのことによって妻を取り戻す?男を熱演―英国インディペンダント映画祭で最優秀助演男優賞受賞とチラシにあったーしている。
表情などで繊細に見せるマクアダムズと硬質でぐんぐん突き進んでいく感じのワイズ、持ち味を生かした感じの二人のレイチェルもそれぞれに熱演だが、なんか二人のパートは心理の間接描写的なところも多くて前半はあまりドラマティクには展開しないし案外単調。こちらの体調もあってかところどころ眠気も…。選択も二人の選択というよりドヴィッドの選択かなあ。二人にとっては相手の生き方の自由を認めるという選択だろう。正統派ユダヤ教会では正式な場では女性は女性は髪を切りヘアウィッグを被り、毎週金曜日がセックスデイなのだとか。これはさりげないけれど、そういう宗教社会の非人間性を訴えるドラマでもある。(7月6日 下高井戸シネマ 110)

③その手に触れるまで (Le jeune Ahmed)
監督:ジャン・ピエール・タルデンヌ リュック・タルデンヌ 出演:イディル・ベン・アディ ミリエム・アケディウ オリビエ・ボノー ビクトリア・ブルック 2019ベルギー・フランス 84分 ★

タルデンヌ兄弟の主人公は、社会の中で追いやられた人々ではあるものの、その圧迫の中で彼ら自身も何らかの問題を抱え反社会的な行動に走ったりするような人物であることが多い。この作品の主人公もイスラム原理主義に洗脳され、コーランだけでなく文化的な教材によってアラビア語を学ばせようと提唱する女性教師を殺そうとして、少年院に送られる13歳の少年。
女性教師との握手を拒みー「その手に触れるまで」という邦題はここからきているらしい(原題は単に『若いアフメッド』)。イスラム原理主義では妻以外の女性との接触は一切禁止だそうで、握手を拒むことが西欧社会では今まで差別の対象になってきた。しかしこのコロナ禍の中で、握手の自粛が叫ばれるという皮肉な現象も起きているとのこと。
で、13歳のこの子、今まではゲーム少年だったのに、浅はかなイスラム教のイマムに洗脳されて、母にも反抗、幼いころから世話になり識字障害を直してくれた?とされている女性教師も拒み、少年院の矯正プログラムで実習に行く農場の同年代の少女の積極的な求愛にも、彼女がムスリムに改宗するなら付き合うといって振られる、と、そんな状況が描かれ、少年院では面会に来た教師を再度殺そうと歯ブラシをタイルで削ってとがらせて武器にするというまあ、何というか…。
で、彼がそのような状況からどう抜け出せるのかどうかというところがこの物語の行きつく先になっていて…まあ、13、4歳だからあれで済むんだろうが大人だったらああいくかな、とちょっとその辺は設定そのものに逃げられたという感じもするのだが、今の欧州―ベルギーの移民の暮らしやそこでのムスリムの位置づけとか、イスラム原理主義が移民のすぐそばに存在する状況とか、そのあたりがよく描かれているーといってもそうなのか、という感じだがー勉強にもなる見ごたえの一作だった。(7月8日 新宿武蔵野館 111)

④コリー二事件
監督:マルコ・クロイツバーントナー 出演:エリアス・ムバレク アレクサンドラ・マリア・ララ ハイナー・ラウターバッハ フランコ・ネロ 2019ドイツ 123分  ★★

フェルディナンド・フォン・シーラッハの原作があまりにも有名で、どうしてもそれと比較してしまうが、さすがこれが映画化と思えるくらいに原作によって批判している実在の「秩序違反法に関する施行法」を生かしつつ、原作より、より物語性というか動きもあって、しかし実在のイタリアでのパルチザン処刑事件の流れは原作ほどエグイ感じではなく少年ファブリッツオの50年の怒りは納得できるように(これは演じたフランコ・ネロの渋い迫力による面も?)しかも情感を含めて処理してあって、面白かった。
というかネット上の宣伝かもしれないが原作者シーラッハ自身が映画作者は自分より物語作りがうまいと言ったとか、という出来あがり。ただ、そのためというか物語の重点が移動したからかなとも思うが、被害者が戦後「普通」の人としてではなく、移民であるトルコ人の少年をなぜそれほどにかわいがるのかというあたりは今いちわからない。殺人に使われた銃が普通に蚤の市とかで手に入らないと知って、主人公の若い弁護士が被害者の別荘に泊まった時に深夜家探しして、昔見た記憶のある被害者自身の古い銃を見つける、そこから話が展開していかなくてはならない必然性がわからない。
原作では妻と別れて息子を引き取り、狩猟狂い?みたいで弁護士とそりの合わない感じの父親が、映画では妻と別れて息子とはずっと別居、被害者の葬儀に突然現れて、主人公の代わりに公文書館の資料を速読検索する協力者になるというあたりのくだりがどうもご都合主義的展開に思われる。そして被害者の娘ヨハナが原作よりなんだかすごく偏狭かつ、みじめな感じがするのもちょっと気の毒?というところかな。そういう意味では映画と原作はやっぱり別物と見て楽しむべきなんでしょうね。(7月8日 新宿武蔵野館 112)

⑤マルモイ・ことばあつめ
監督:オム・ユナ 出演:ユ・へジン ユン・ゲサン 2019韓国 135分 ★★★

大阪アジアン映画祭での話題作だったが、すでにその時点で公開が決まっているとのことだったので時間がない中、見送った一作。
1940年代、日本支配の中で日本語使用や日本名への改名を迫られていた朝鮮で、朝鮮語の辞書を作り朝鮮語を絶やさないようにしようとするリュ・ジョンファンとその仲間の朝鮮学会のメンバー、文字が読めないが映画館のモギリを仕事とするキム・パンスは息子の学費に困り、仲間とジョンファンのカバンを持ち逃げするーそれが縁で無学で粗雑なこの男が、朝鮮学会の雑用係に雇われ、文字を覚え、弾圧厳しい中インテリには考えつかないような方法で辞書つくりのメンバーを支え、最後には大切な辞書原稿を官憲の手から守って隠して命を失う、と壮絶でもあり、社会意識の強い、しかも『タクシー・ドライバー』(2017チャン・フン監督 この映画の監督オム・ユナが脚本をかいていて、主演のユ・ヘジンも主人公を助ける光州の運転手として活躍していた)や『1987ある戦いの真実』(2017チャン・ジュナン監督)などなどのように貧しくて無学な庶民の目線から物語を紡いでいるのが魅力的。
そしてパンス役のユ・へジン、イケメンというにはほど遠い「庶民顔」だが、ぴったりはまり喜怒哀楽の表現が最高でひきつけられる。大阪アジアンの時には、韓国版『辞書を編む』だという話もあったが、どうしてどうして、通っている筋は硬質で、それなのに娯楽作品としての笑いとかアクション性とかハラハラ・ドキドキもたっぷりで、さすが韓流?のうまさだ。日本人役を含め、韓国の俳優が日本語をしゃべって演じている。単なる映画鑑賞者から見ると、イマイチの日本語だなあとも思うが、日本語教師的立場で見ると、すごいわ!韓国の役者の語学力!という感じ。(7月10日 シネマート新宿 113)


⑥イップ・マン4完結
監督:ウィルソン・イップ 出演:ドニー・イェン ウー・ユエ ヴァネス・ウー スコット・アトキンス チャン・クィックワン 2019中国・香港 105分

1960年代、人生終盤にさしかかりガンの宣告を受けた葉問。息子は度重なるケンカで学校を退学になり、葉問はサンフランシスコの愛弟子ブルース・リーからの武術大会への招待を受けて渡米、ついでに息子の留学先を探す。サンフランシスコでは中華街の「中華協会」の師父たちの敵意のこもった出迎えー弟子のブルースがアメリカ人の弟子を取り本なども出して詠春拳を広めているのが気に食わんというまあ、偏狭なおっさん、おばさんたちーを受け、紹介状がもらえないので息子の転校はなかなか受け入れられず、香港に残っている息子は留学などしたくない、武術を学びたいと反抗的で、毎夜10時の定時連絡電話にも出ようともしないという、ブルースの試合が終わったあとはなんだか可哀そうな状態の葉問。そこにブルース・リー(思ったより控えめだがそっくりさんのチャン・クィックワン)と空手の連中との闘い、葉問と中華協会長の太極拳の師父の戦い、その娘も父親とはギクシャク、学校では白人の同級生にいじめられーそれを助けて娘と縁ができる葉問というような話が続く。
一方ブルース・リーの弟子の海兵隊員は海兵隊でカンフーの訓練を取り入れようとして上官と激しく対立というか上官のパワハラ的対決を受ける。そして中秋節の唐人街のイベントに乗り込んで師父たちを倒す海兵隊の空手師範?コリンを葉問が倒したことから、二つの流れが交わっていく。ブルースの弟子の若い海兵隊員を演じているのがバネス・ウーでずいぶん若いな、別人かしらと思ったらやはりバネス。もう40歳を超えたはずだけどとてもそうは見えない。さて中華協会側は全員普通話、葉問側の人々はみな広東語というのもなんか、中国人社会の広さというよりは出身地別仲の悪さの象徴になっているみたいだし、アメリカ人はほぼすべて狂犬のように暴力を振り回す人々という設定で、そのなかでちょっと前よりは老いて(というほどではないが硬質さよりはまろやかさがますます目立ってきたようなドニー・イェン)いるんだけれど老練という感じよりもむしろ清純さ?が目立つ黒い中国服姿でたたずむ葉問の清潔が目立つという感じかな…。カンフーの戦いもしかりで端正、入り乱れず、狂犬のごときアメリカ人にを正しく打ち負かすという感じが強い。(7月10日 新宿武蔵野館 114)

⑦ダンサー そして私たちは踊った
監督:レヴァン・アキン 出演:レヴァン・ケルバヒアニ バチ・バリシュヴィリ アナ・シャヴァヒシュヴィリ2019ジョージア・スェーデン・フランス 113分

ジョージア映画というとわりと素朴・がっちりした田舎の生活が舞台という気がしていたが、これは都市の国立民族舞踊団の若いダンサーの閉塞的な生活とその中で、ライバルの青年に出会い心惹かれつつ、いろいろな障害の中ですれ違うがごとく別れるという過程を繊細に描く。なんか舞踊団の青年たち、若い女性たち、街をうろつくダンスホールで踊る若者たち、それに町にたむろすLGBTの街娼(とエンドロールには出ていた)の青年たちがそれぞれに似たタイプの集団で、グループ内での区別がつきにくい。ただしその中で主人公だけが特異な繊細な異彩を放っている感じーなんか将来は貧相な爺さんになりそうな細身細面の青年なんだけど―話の進み具合もドラマティクというより繊細なエピソードの積み重ねみたいな感じで途中少し中だるみの眠気もあったが、最後の彼が彼らしく生きていくということで踊るシーンはさすがの見ごたえ十分。(7月11日 下高井戸シネマ 115)

⑧うたのはじまり
監督:河合宏樹 出演:齋藤陽道 盛山樹 盛山麻奈美 七尾旅人 齋藤美津子 2020日本 86分 ★★

耳の聞こえないカメラマン齋藤陽道は子どものころから聞こえないゆえに音楽が大嫌いだったそうだが、聴者の息子を持ち育てることになり、子守歌を歌い始める―それが「歌の発見であり、始まりである」というドキュメンタリー。彼の一家の生活に密着して3年くらい?息子樹の出産シーンや同じ聾者のカメラマンの妻との子育てなど、そこでの意見は齋藤の数少ないことばと饒舌な筆談で身近な感じのものとして伝わってくる。私もなんか歌―音楽のない生活をしているなあと思わずわが身を振り返り、私ってそんなに音楽好きではないというか音楽がなくても生きていける(展覧会にはよく行くがコンサートにはほとんど行っていないこの10年)かなと思っていたのだが、そういうわが身は文化的ではないなといささかの反省もする。ま、これは予期しなかった舞台挨拶トークがあって監督河合(私ももらった関西小劇場支援のTシャツ)と齋藤の生の声を聞いたせいもあるけれど…(7月11日 下高井戸シネマ116)

⑨なぜ君は総理大臣になれないのか
監督:大島新 出演:小川淳也 玉木雄一郎 田崎史郎 2020日本 119分  ★★★

衆議院議員小川淳也氏の2003年初出馬以来16年間を追った話題作。ようやく見た。「迷う人」「悩む人」ゆえ総理大臣にはなれない、どころか政治家に向いていないのではないかと家族も本人も言うようなボヤキをちりばめつつ、青年代議士としての歩みを追い、終盤は民主党解散希望の党結成時、前原誠司の側近だったゆえに悩みに悩んだすえ小池百合子に合流してしまった苦悩とか、その後小池不信の中でそれまでの支持者にもなぜそういう選択かと批判されつつ選挙戦を戦い地方選挙区(香川1区)で敗退、比例区で当選という苦悩を味わうところまで、なるほどなあ、確かに小池とか安部とか政策や国民・都民を思うというよりはオペレーションや宣伝でのし上がり居座り続けているのが今を時めく政治家という、そのイメージには当てはまらない政治家もいるのだと、ほんとは皆こっちでいてほしいよなと感心するーというかさせられるのがそもそも情報操作なのかもしれないが。それにしてもトランプ、プーチン、習近平、金正恩と右も左も右傾の世界で、安部本人が右翼として今の日本の右翼に片足をかけてそちらを抑えてオペレーションをしているがゆえの長期安定政権なのだというのは説得力があった。(7月12日 ヒューマントラストシネマ有楽町 117)

⑩さらばわが愛、北朝鮮
監督:キム・ソヨン カン・ジンソク 2017韓国・ロシア 80分

朝鮮戦争で功績をあげ、戦後ソ連の映画大学に留学した8真と呼ばれる北朝鮮の8人の青年たち。彼らは北朝鮮で金日成が延安派など中国で戦ってきた抗日英雄を粛正した宗派運動に反対し、彼ら自身も退学・帰国命令が出たことを機に亡命をする。その後70年以上、ソ連―ロシアの各地で暮らし作家になったり映画監督や撮影監督として映画を作ったりカザフスタン中心に活動してきた4人ほどを中心に、特にこの映画の制作時に存命だった映画館監督チェ・グソクと撮影監督キム・ジョンフン、そして作家ハン・ジン(デヨン=8真はみな「真(ジン)」と名乗ったとか))と結婚したロシア人の妻(妻はこの人だけ。ほかの人は結婚しなかったのかな)などのインタヴューをつづりながら、この8真の故郷から遠く離れた人生の足跡を、情感たっぷりなロシアの風景や音楽とともにたどっている。映画の出来というよりもこういう人生のありよう自体が興味深い。まあ、主に描かれる人々を中心にどの人も選ばれた優秀な人だったのだろう.異境でもそれなりの活躍や実績を残したからこそできた映画なのだとも思うが。昨年の山形の出品作だったようだが見逃していた。
(7月15日 新宿K'sシネマ 118)

⑪スキン
監督:ガイ・ナティーブ 出演:ジェイミー・ベル ダニエル・マクドナルド ビル・キャンプ マイク・コルター
ベラ・ファーミガ 2019米 118分 ★★

⑩を見る前に少し時間があったのでスマホで時間が合う映画があるか検索。この映画チラシのジェイミー・ベルの顔のすさまじいタトゥにちょっと腰が引けて、私の趣味じゃないかしらんとノーチェックだったが、時間も合うしネット情報がなかなか興味深くもあり、急遽見ることに。話は実話に基づく、ネオナチの青年が、恋愛によって活動をやめて組織から抜け出そうと苦悩し、FBIにつながりを持つ反ヘイトグループの力を借りて顔を中心に全身のタトゥの除去を16か月25回の手術を経て更生するという話で、インパクトはあるが実話ゆえのインパクト?興味深かったのは家庭を失い路上生活者だった少年時代に彼を救い衣食を与えて育てネオナチの白人至上主義の組織に引っ張り込む夫婦(一応養父母)で、見かけはナチというよりヒッピーのなれの果てみたいな新市民運動の担い手みたいな雰囲気でありながら家のない少年たちを連れてきて頭を丸刈りにし(冒頭は、主人公が髪を刈られるシーン。黒髪だが、これは伴映の短編と同じ。)暴力を仕込んでレイシストに育て上げる宗教運動みたいなものかな、こういう人々ってアメリカには結構いるのだろうか…という感じ。あとはやはりジェイミー・ベルと、それにもまして迫力があっていかにもこの女性なら主人公が彼女といるために更生したいと願うだろうと思わせるシングルマザー役のダニエル・マクドナルド(短編の方でも母親役で出演)の魅力というか吸引力、迫力。そして彼女の3人の娘たちもなかなかいい。役者の熱演がとにかく引っ張ってくれる映画だ。(7月15日 新宿シネマカリテ119)

⑫スキン短編
監督:ガイ・ナティーブ 出演:ジョナサン・タッカー ジャクソン・ロバート・スコット ダニエル・マクドナルド 2018米 21分 ★★★

⑪に伴映。こちらも白人と黒人の少年の顔が半分に割られた印象的なポスターとともに、かなりインパクトのある作品。長編と同じく髪を短く刈られる少年からで、こちらはブロンド。子煩悩な父母と楽しい夏の日を過ごす少年。まあ、湖の岸で銃の練習をしたり、ビールを飲ませようとして父が母に怒られたり、車の後ろにつけたソファーで「サーフィン」を楽しんだりとかなり荒っぽい遊び方。ある日スーパーでの買い物中少年に持っていたフィギュアを見せて笑いかけた黒人に対して父とその仲間がガンを飛ばしたとか言って袋叩きにする。そして数日後、黒人たちに拉致された父は全身にタトゥといっても模様ではなく全身真っ黒に刺青を入れられ放り出される。深夜家に帰りついた父を、最初は不審者だと思い、短銃を持ち出す母。母は少年に隠れているように言うが、少年は父に教わった銃を持ち出し…というわけでコンパクトながら構成がきちんとしていて、終わりの予想はできるもののハラハラ感は単にアクション的な興味ではなくレイシズムへの告発になっているところは長編の前駆作品として納得。この映画を自主製作して評判になったことにより、長編『スキン』は資金を得て実現にこぎつけたのだそうだ。映画コムの星評価も長編よりも上だった。
(7月15日 新宿シネマカリテ120)

⑬最高の花婿アンコール
監督:フィリップ・ドゥ・ショーヴロン 出演:クリスチャン・クラヴィエ シャンタル・ロビー メディ・サドゥアン アリ・アビタン フレデリック・チョウ ヌーム・ディアワラ 2018仏 98分

フランス・ロワール地方の裕福な一家ヴェルヌイユ夫妻の4人の娘婿(アラブ人、ユダヤ人、中国人、コートジボワール人)のドタバタ騒動第2弾。前作は異文化・異宗教の3人の婿を得て末娘にはカソリックの娘婿をと願う夫婦のもとに現れたカソリックの男が実はコートジボワール出身の黒人だったといこうことで婿の父母夫妻も巻き込んでの物語だったが、今回は彼の妹の結婚をサイドストーリーに、4人の娘婿が不遇だったり、迫害を感じたりして夫婦でフランスを去って移住するという決断をしたところから、娘や孫かわいさからヴェルヌヌイユ夫妻(夫は経営していた会社を定年退職し、地域の詩人の伝記を書いている)が婿たちをロワール地方の古城を巡る旅に連れ出し地域のワイナリー、銀行、工場、劇場などのつてをたどり、あれこれ画策し婿たちに海外移住をやめさせ、この土地に定住させようとする大騒動に、娘の結婚相手が同性とは知らずに、結婚式と息子夫婦に生まれる子どもの誕生に合わせて渡仏してくる末娘婿の両親がまたまた絡む。娘婿たちをフランスにとどめようとする夫妻の気持ちはわからないではないが、やり方があまりに非現実的に金にあかせ伝手をたどりその人々に支払って娘婿たちの翻意をさせようというあたり、ちょっとやはり感じが悪く、喜劇仕立てだがそれほど笑えない感じも。
でも、娘や婿それぞれの夫婦が移民をたくさん受け入れつつ寛容ではないフランスの世相を反映するような「いやなこと」をチラチラ描いているあたり(アラブ人弁護士にはアラブ系の客しかつかず、中国人の婿は常に狙われる心配にびくびく。コートジボワール出身の役者の婿には黒人ゆえの限られた役柄の少ない役しか付かず、オセロさえも白人が演じるのを横目で見る、ユダヤ人だが金儲けのへたな起業家の婿はバカにされっぱなしとか)は、なるほどそうなんだと笑えて、しかも共感?納得できる。笑いに込めて非寛容なフランス社会を皮肉っているようでもある。(7月17日 下高井戸シネマ招待券121)

⑭お名前はアドルフ
監督:フロリアン・ダーヴィド・フィッツ 出演:クリストフ=マリア・ヘルプスト ユストゥス・フォン・ドホナーニ カロリーネ・ペータース 2018ドイツ 91分

ドイツの大学教授シュテファンと高校教師エリザベートの夫婦、二人は幼馴染で、妻の弟トーマスー学校は苦手だったが実業で成功ー、姉弟の一家に7歳で引き取られた、今はオーケストラのクラリネット奏者のレネが、シュテファン夫妻の家に集まったところで、トーマスが間もなく生まれてくる子にアドルフと名付けると宣言したところから揉め始める議論の様子を描くセリフ劇。ヒトラーの名を子どもにつけるのかということで大紛糾するがトーマスの妻アンナが登場して実は「アドルフ」はトーマスの冗談だったことが分かるが、そこから先も、会話の中で一人一人の秘密?や、隠された心情などが吐露されて行ってすれ違いもあり解釈違いもありということで…ということで割とよくある映画のステュエ―ションではあるが、この映画はトーマスに「えせインテリ」と評されるシュテファンのまさにペダンティクな俗物性と、一方実行力と見かけのとっつきやすさ?で洗練を演出しているかのようなトーマスの造形の面白さそのぶつかり合いに思わず笑いがわくというのが楽しめるところだろうか。意外性は観客も登場人物もゲイだと思い込まされていたレネが実は意外な女性と恋仲だったことが分かり一家大紛糾というところと、最後にアンナの子が産まれ皆がブルー系のプレゼント(ドイツもやっぱりそうなのね)をもって病院に駆けつけると、実は生まれたのは…という予想のつくオチも含め、もっとシリアスな話なのかと思ったら知的刺激系のコメディだった。(7月24日 立川シネマ・シティ122)

⑮17歳のウィーン―フロイト教授の人生レッスンー
監督:ニコラウス・ライトナー 出演:ジーモン・モルシェ ブルーノ・ガンツ エマ・ドログノヴァ ヨハネス・クリシュ 2018独・オーストラリア 113分

ナチスが勢力を拡大しオーストリア併合をした1938年前後。アッター湖のほとりで母と暮すが、母の愛人の急死により母の収入が経たれ、母の昔の恋人?の伝手をたどりウィーンのキオスク(タバコ屋)に奉公する17歳のフランツ。リベラルで反ナチの店主オットーに加えられる迫害、店を訪れるフロイトとの交流、その中でボヘミア出身の踊り子?への恋、そしてオットーが捕まえられフランツは一人店を守るが、やがて彼の死の知らせが届き、ユダヤ人であるフロイトも危険を逃れてロンドンに去って…・青年の夢とか、夢想がところどころ挿入される画面は印象的で、当時のオーストリアのくすんだ風景の色合いも合わせて重厚な感じもある。ブルーノ・ガンツの遺作となったフロイトはさすが、だが、フランツ役はちょっと素朴な田舎の青年性を残した、しかしそれを武器に?けっこう女の子に言い寄ったり、女の子の家を探して訪ねて行ったり、劇場に張り込んで彼女の恋人?にガンを飛ばしたりというあたりが、いくらフロイトの助言があったにしても、その妙に積極的な押し付けがましいバランスはなんか妙…、それに彼の田舎の母の、素朴な感じでシングルマザーとして息子を育てながら次々と愛人を作ってそこからも収入を得るみたいな娼婦性?の同居するアンバランスもなんか異様で、これがフロイト的世界?それとも1900年代半ば近くのオーストリアの文化の特異性なのかしらんと、そこは不思議な映画ではあった。
(7月24日 キノシネマ立川 123)

⑯プラド美術館―驚異のコレクションー
監督:ヴァレリア・パリシ 出演:ナビゲーター ジェレミー・アイアンズ 2019イタリア・スペイン(英語・スペイン語) 92分

世界有名どころ美術館制覇?を夢見ているのだが、3月に見に行くつもりだったエルミタージュはコロナ禍で結局渡航できず。これから先も予定が立たず、美術館映画を見るのが大好きな私としては、コロナ禍をはさんで4月公開が延期になったこの映画、とーっても楽しみに、はるばる有楽町まで見に行った。プラド美術館は実際に行った数少ない海外美術館の一つだし。ところが、大期待のナビゲーター、ジェレミー・アイアンズのビジュアル、ちょっと癖のある思い入れたっぷりのナレーションが意外に鬱陶しく、たくさんの次から次へと出てくる絵画アートが歴史事象の中に埋もれて、散漫と言うか集中しにくい印象。英語はわかりやすい(ま、もちろんだけど)のだが、それでも、それだからこそ字幕からも目が離せず、これが美術映画を見る時には案外邪魔だなあとも。絵画そのものはうっとり至福の時間なので、時間がとれればどこかで吹き替え版を見てみようかなと思っている。(7月26日 ヒューマントラストシネマ有楽町 124)

⑰追龍
監督:バリー・ウォン(王晶) ジェイソン・クワン 出演:ドニー・イェン アンディ・ラウ コニー・ロング 2017香港・中国 128分

1960~70年代「悪徳警官」リー・ロックとその配下格として、九龍城を仕切った麻薬密売人ホウの物語。ともに潮州人で、潮州から移住して1年半、九龍城ではちょっとした移住者グループの兄貴分になっていたホウがケンカで拘留されロックと知り合い助けられ、同郷ということで付き合いができる。九龍城を管轄する偵長としてのロックのもとで麻薬を売りさばき、ともに利権を得てのし上がっていくが、あるとき、単身で九龍城に乗り込み対立勢力と抗争になって襲われたロックを助けて重傷を負うホウ。ホウはロックに忠義を尽くすが、その中で密売人としての生活ゆえに家族に危機が起きたり、ロックの命でタイに行き、ひどい目にあったり…、そんな中で今まで間に立った香港人警察官を手先として汚職がらみで利権を得ていた英国が、突然に香港人の汚職に対して厳しい取り締まりをすることになり、ロックは海外に逃亡するとしてホウを誘うが…。ここでは香港人の悪の背後に常に英国がいて、勝手にふるまい香港人に弾圧を加える。完全な悪者として描かれた英国が、かつての植民地支配を糾弾する「中国的立場」でありながら、同時に現在の中国の香港支配をメタファーとして想起させるというような、両面を向いて非常に凝った政治色彩の映画になっている感じ。「映画」が生き残るために巧妙に仕組まれたという感じもするのだが、でも言い方をかえれば、中国政府にもおもねり(大陸では5.8億元のヒットだそう)、同時に香港市民の気持ちも慰撫するような、つまり二股膏薬みたいな映画でもあるということなのかなあ。今この時代に植民地時代を舞台にする「現代映画」が作られるということも含め複雑な思いで劇場を出る。ただ、再現された?という、かの九龍城、頭の上を飛行機の胴体が横切るシーンも含め、あの臭いがするような猥雑さ汚さも画面に漂うビジュアルはすごい。若い時代から演じるアンディ・ラウ(ロック)、ドニー・イェン(ホウ)の60年代の若者とはいえ、実年齢(二人とももうすぐ60歳)と比べて、あまり違和感のない若さにもびっくり。
(7月26日 新宿武蔵野館 125)

⑱シークレット・ジョブ
監督:ソン・ジェゴン 出演:アン・ジェホン カン・ソラ パク・ヨンギュ キム・ソンオ チョン・ヨヒン 2020韓国 117分

とても面白かった『エクストリーム・ジョブ』(イ・ビョンホン)の制作陣が放つ、という惹句と、1日1回1週間限定上映というのと、ネットで検索してみると結構席が売れていてという、3拍子に浅はかにも引っ張られ?日曜夜鑑賞。この休日外出自粛の中、日曜夜にホントに列を作って入場する人々の群れに驚く。が、映画そのものは…楽しく作ってあるけれど…うーん。まあ、着想の勝利?つぶれかけた動物園というテーマはあちこちにあった気がするが、着ぐるみで職員が動物に化けるというのはね…現実的には、マンガ的ステュエ―ションを楽しむというお約束の中にしか成立しない世界でしょうね。最後に園長を任されてこのプロジェクトを仕切るも、やはり動物園の身売りを阻止できなかった若い弁護士である青年がとった起死回生プランーまあ、うまくいけば弁護士の仕事も生かしなるほどだが、描き方はあっさりなのでちょっと浮いた感じだし、一頭の残って精神的に病んだ北極熊を「楽園センター?」に連れていくというエピソードこそなんかとってつけたという感じもするし…。後ろの方でバカでかい声であははは、あはははと笑う女性たち(韓国人かな?ことばが分かっている感じの笑いだったから)楽しめていいなと思う反面、コロナ危機ーばらまかないで、映画館休館にしないで、と小心者の私は思いつつ見てましたー
(7月26日 シネマート新宿 126)

⑲一度も撃ってません
監督:坂本順治 出演:石橋蓮司 大楠道代 岸部一徳 桃井かおり 新崎人生 佐藤浩市 豊川悦司 妻夫木聡 江口洋介  2019日本 100分

レポート読みに追われているが、集中力が切れてしまった夕方から気になっていたこの映画を見に行く。うーん、売れない小説家が実は若いころからの友人二人と結託、ポパイという男の店を拠点に、若いヒットマンを仲間に引き入れ殺し屋稼業をやるという話。この小説家自身は引き金を引いたことがなく、ただターゲットの細かい細かい身辺調査をすることによって稼いでいる。石橋蓮司がしょぼくれた小説家とトレンチコートに目深に帽子をかぶった格好いい裏稼業スタイルで貫禄+笑い。でもその稼業がもとで妻とはギクシャク、若い有能な手先のヒットマンは子持ちの女性と恋に落ち、ポパイは郷里に帰ることになり、最後は長年の相棒だった友人・石田もガン?彼が頼んだ最後の仕事のターゲットである殺し屋から逆に狙われとまあ、そんな中で…という、なんかなあ、大楠道代が妻で、岸部一徳と桃井かおりが相棒というわけで、なんか華々しかった?70年代ごろの残照を見せられているみたいな映画で、セリフ回しなんかも結構そういう感じ(ちょっと古臭い?)豪華メンバーがちらりちらりとでてきて場を持たせているというような映画で、作者は思い付きで同窓会映画したかったんじゃないの?と思えてしまった。平日夕方6時過ぎから、なぜか中高年男女、特に一人で来ている女性が多かったのはなぜ?  (7月28日 新宿武蔵野館 127)

⑳カセットテープ・ダイアリーズ
監督:グリンダ・チャーダ 出演:ヴィヴェイク・カルラ クルヴィンター・ギール ミーラ・ガナトラ ネル・ウィリアムズ  2019英 117分

見るつもりはあまりなかった映画だったのだが、当日、前夜から眠れず朝4時から仕事開始、思いのほか予定が早く片付いた。では、というわけで我が家隣接?(歩いて1分)のTOHOシネマズのプログラムを確認して、時間がちょうどあった(しかもあと2日ほどで上映終了)のがこれ。というわけでそれほど期待しないで行ったのだが、まあ、見て損はなかったという感じ?
英国に移民したパキスタン人一家の息子(高校生~アメリカの大学に進学するまで)を、彼が魅入られたブルース・スプリングスティーンの曲にのせて描く。描かれるのはお定まり?のパキスタン移民に対する英国人の差別(といっても少年の心ないいたずらとして描かれていて、差別問題に深く踏み込むわけではない。理解者の大人もちゃんと出てくる)、保守的な家長であらんとするが失業で、家族の前で誇りが保てず荒れて、息子にはさらに抑圧的になる父親との確執―伝統や家族愛と自分の世界に羽ばたきたいと願う少年の葛藤というようなところで過不足なく描かれているが、ちょっと少年がいい子過ぎてしかも文才のある秀才で、まあ、安心感はあるがそれが物足りなさのような気も…と思ったらこの映画、映画と同じような境遇だったジャーナリスト・サルフランズ・マンズールの回顧録を、原作者と同じ境遇のグリンダ・チャーダ監督が映画化したものだそうで納得。
(7月29日 府中YOHOシネマズ 128)

㉑コンフィデンスマンJPプリンセス編
監督:田中亮 出演:長澤まさみ 小日向文世 東出昌大 関水渚 柴田恭兵 ビビアン・スー 古川雄大 白浜亜嵐 江口洋介 竹内結子 小手伸也 織田梨沙 2020日本 124分

今回はマレーシア・ランカウイ島の大富豪胡家の当主の死後、3人の子どもがいるにもかかわらず遺言で、明らかにされていなかった子どもミッシェルを相続人するという指定があり、ダー子たちコンフィデンスマンの面々が、身寄りなく虐待されていた少女コックリをミッシェルに仕立て、母役のダー子とともに胡家の大邸宅に乗り込むという話。
対するは嫌味な3姉弟とともに胡家の存続繁栄を自らの使命とする執事(柴田恭兵)。これが見かけは穏やかにしてなかなかのタヌキ?というか詐欺師顔負けの裏工作も大得意というわけで、ダー子たちは大ピンチ、その中で日本からの詐欺師たちや宿敵赤星も乗り込み大騒動と言う映画で、テンポも速いし豪華な衣装や雰囲気もなかなかに楽しめるし、ドンデン返し、裏話にもびっくり楽しめる。最後がなかなか凝っていて前作香港場面でブルースリースーツ?を来たコンフィデンスマンたちが、隠し子の相続話に盛り上がっている隣にいて話を聞いてたのが亡くなった胡家の当主(北大路欣也)。ワンシーンながらさすがの迫力、なるほど!、でそのあとエンドロールのあとにさらに生瀬勝久が出演する意表を突いたシーンがあってという凝りようというか、しつこさ、サービス心は満点。ところでコックリ役の関水渚、全然知らなかった私は最後まで広瀬すずかと思って見ていた。そのコックリからミッシェル=プリンセスへの変身ぶりといい、なかなかのもの…久しぶりに見たビビアン・スーも若い。亡くなった三浦春馬がコミカルな感じの天才詐欺師で、赤いスーツを着込みお尻フリフリ軽妙なダンスなどを披露しているのもちょっとつらい…。(7月31日 府中TOHOシネマズ129)

㉒ウエイブス
監督:トレイ・エドワード・シュルツ 出演:ケルヴィン・ハリソン テイラー・ラッセル スターリング・K・ブラウン  レネ―・エリス・ゴールズベリー ルーカス・ヘッジズ アレクサ・デミ― 2019米 135分 ★

画面が伸び縮みするのとその底からボンボン響いてくるような音楽というより音響に乗って、色合い的にはむしろパステルに近いような不思議な美しさに満ちた映画。アメリカの黒人の一家ー『カセットテープダイアリー』㉑のイギリスのパキスタン人一家と同じような一種マイノリティとしてのー父は家父長主義というより父権主義かな?息子はレスリングのスター選手で優秀、父は医師の継母の事業を支え、息子のトレーニングも一緒にやり本人もストイックだが息子にも厳しい挑戦を求める。そんな中で息子は肩を痛め、すぐにレスリングをやめるよう医師には宣告されるが、父に言い出せず鎮痛剤で耐える。一方同時期恋人が妊娠。処置をめぐって彼女と対立し追い詰められていき、卒業パーティ?の日に悲劇的事件に突入、恋人を追ってケンカになり、はずみで殺してしまい30年の矯正施設収容ということになる。これが常に悲劇の予兆を持って語られる前半。ー『カセット…』の伝統的家族主義だと息子は踏みとどまって父と別れつつも心理的には和解するが、そういう伝統的価値観ではなく父の強固な息子への期待だけで支えあっている家族は崩壊に突き進む。後半はその事件によって傷つく家族、父と継母は不仲になり、妹娘は孤独に、その中で娘が声をかけてきた青年(でかいけど同級生だから少年か?)と付き合うなかで彼を支えてと幼いころに別れた父との確執をほどいていくことにより、自分と父の仲も、継母と父の仲も含んで家族の関係もほどかれていくという、いわば救い?の世界が描かれて、後半は前半とは打って変わった世界。妹を演じている少女がまた、なんかとても魅力的で、うーんこれはマリア様?父性と息子、父性と娘の関係が対照的に描かれて、アジア的世界とは全く違うキリスト教的世界が描かれたという気もする。『カセット…』の方にも妹がいて兄に理解や共感を示すという点では『ウェイブス』と共通するが、彼女は兄を見送って伝統的な生活を送っていくのだろうとしてしか描かれていない。(7月31日 府中TOHOシネマズ 130)


多摩中国語講習会はいまでオンライン授業中、電影倶楽部(中国映画上映会)も教室での授業が再開するまで休会ということに。コロナ禍がおさまり、来期10月からは教室が再開できるよう、電影倶楽部も再開できるよう、強く願っているのですが。
皆様、どうぞお大事に。


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