【勝手気ままに映画日記】2019年8月

    山歩きもけっこうできるようになりましたが、それにしても天気にめぐまれず。眺望を求めて2度の高尾山、でもこんなものです…。
そして名物とろろそばと牛タンと生ビール、やれやれ

で、すっかり温泉に入り浸り…


①リラの門②旅のおわり 世界のはじまり③レイバー映画祭2019(『外国人収容所の闇』『植民地支配に抗って~3.1朝鮮独立運動』『ユニクロ払え~インドネシア縫製労働者のたたかい』『フランス・黄色いベスト運動』『沖縄・宮古島ではいま~自衛隊がやってきた』『自販機ユニオンのストライキ―8時間で暮らせる賃金を!』『ユナイテッド乗務員のたたかい~首切り自由は許さない』『連帯がこなければよかったのに』『アリ地獄天国』)④世界の果ての鼓動⑤存在のない子どもたち⑥アルキメデスの大戦➆夏少女➇煉瓦女工➈凪待ち⑩ブラック・クランズマン⑪台北メトロ淡水河の奇跡⑫サウダーヂ⑬15マレーシア⑭ラブン⑮隣の影⑯ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス⑰イソップの思うツボ⑱ダンス ウイズ ミー⑱影SHADOW 影武者⑲作兵衛さんと日本を掘る⑳おっさんずラブ㉑さらば愛しきアウトロー(THE OLD MAN &THE GUN)㉒トールキン 旅のはじまり㉓ワンス・ア・ポン・ア・タイム・イン・ハリウッド

 印象に残った映画に久しぶりに★をつけてみました。あくまで個人的な趣味ですけど。

①リラの門(4Kデジタル・リマスター版)

監督:ルネ・クレール 出演:ピエール・ブラッスール ジョルジュ・ブラッサンス アンリ・ヴィダル ダニー・カレル  1957仏 99分

映画文法にしっかり従って作られた古典的名画という感じ。出だしのカフェ、カメラの移動に従って、それまで顔を見せなかった登場人物が順次主人公ジュジュの背中から顔を見せていくところとか、ジョルジュ・ブラッサンスの甘いが哀愁に満ちた歌による語りとか。貧乏でぐうたらなジュジュとギター弾きの友情―ワインのやり取りでつなげていく構成、そして匿ったイケメン強盗犯の身勝手さとそれに翻弄されてしまうカフェの娘(現代にいそうもないような、でも一昔前のフランス的容貌)、自分の気持ちに気づいてももらえず振られるジュジュの悲しさ。省略話法で100倍語るクライマックスとか。それにしても登場人物たちの風貌、現代の感覚でみると年齢不詳な感じだな…人間が成熟しなくなった現代? 調べてみるとピエール・ブラッスール当時52歳(え?まあ、風貌はその通り)ジョルジュ・ブラッサンス36歳、アンリ・ヴィダル38歳(この映画の1年後にはなくなっている)ダニー・カレル25歳(今も存命)ウーン。やはりこの時代のフランス人の年齢は測りがたい…。(8月2日 川崎市アートセンター アルテリオ映像館)



②旅のおわり 世界のはじまり

監督:黒沢清 出演:前田敦子 染谷将太 柄本時生 アディス・ラジャボフ 加瀬亮 2019日本 120分

黒沢清が、前田敦子・ウズベキスタン・旅(おわりとはじまり)を3題噺として、言っちゃあ悪いがでっち上げたという感じがする。
ウズベキスタンという異郷に放り込まれた前田が不安と「私は危険なところにはいかないから」と言いながら我を忘れてけっこう無鉄砲な行動をとる、その状況はとても分かるように描かれる。ウズベキスタンは何十年も前、まだ個人的な旅行などしにくかった旧ソ連時代、シルクロードにあこがれて最初に行った海外だが、そのときの印象に比べるとさすがの時の流れで近代化して街も人もディープな印象は薄れている感じだったが、でも前田=ヒロイン葉子が迷い込む夜の街のたたずまいに潜む不安と未知などは国柄を越えて知らないところに紛れ込んだという感じがよく出ていて、ヒロインの心情にもそれが投影される。
テレビレポーターとしての彼女は実際の大変さとは裏腹にニコニコとウズベキスタンのさまざまなものの魅力を語るわけだが、実際に取材が難航するので特に染谷扮するディレクターなどはイライラを募らせていく。イライラは彼以上に感じながら表面は笑顔を作らなければならない葉子のつらさ…、しかし彼女が提案する取材の打開策、囲われたヤギの解放とか、日本人捕虜が描いたモザイク画のある劇場での一コマなども、結局のところ日本人の外からの視点で他国をのぞき見したのに過ぎないよな…と思ううちに、映画的事件は一大展開、クルーの半分は日本に一時帰国し、カメラマンと残った彼女が歌手になりたい夢をウズベキスタンの山中で花開かせる、というわけで『愛の賛歌』の絶唱となるわけだが…この『愛の賛歌』の日本語訳の歌詞の強引さ(あなたさえいれば他は何もいらない、祖国も捨てる、と、しかも女ことば!)と裏腹に不安げで不安定な感じさえする前田の歌唱でウーン?まあ、不安に逡巡しながら彼女の旅は終わり、世界がはじまっていくというコンセプトなんでしょうが…。広がるウズベキスタンの山や冠雪した山の絶景も解放感というより、その中にポツンといるヤギの孤独のほうがなんだか目立ってしまい…。
(8月2日 川崎市アートセンター アルテリオ映像館)


③レイバー映画祭2019

レイバーネット主催の「レイバー映画祭2019」に参加(午前中の1本目だけはとてももたないかなとパス)昼過ぎから5時までに、短編2本、10分程度のショートプログラムを7本、そして98分のプロの作った『アリ地獄天国』を見た。短編2本は言いたいことのある「素人?」が講座などに通って映画撮影の実習をして作ったというもの。ショートプログラムの7本もいずれも映像などに芸術性を求めるというよりはそれぞれの現場での争議の状況や訴えを広く伝えたいということに主眼がある作品。いずれも上映後制作者や描かれた運動に携わる人たちが登壇し、状況を語り支援を求めるという報に主眼があった、が、もちろんそれはそれで大いに勉強になったのではあるが。
(8月3日 田町交通ビルホール)

●『外国人収容所の闇』制作:山村淳平 2019 40分

山村氏は医師で、クルド人の支援を長らくしてきている方だそう。難民として日本に逃れてきたクルド人(に限らないのだが)が入管の外国人収容所に入れられ、無期限で人権を剥奪され追い詰められ、病死したり自殺したりするものも多いという状況を、あるクルド人家族を中心に焦点を当てて、インタヴューや獄中の絵などで構成している。息子を収容され、同じく収容されて仮放免された後自殺してしまった夫をもつクルド難民の女性が「入管以外の日本人は優しい」という場面が出てくるが、後で登壇した山村氏によれば、彼女に優しくというか普通に接した商店主などは在日コリアンだったとか…。ヤレヤレ。このところ入管問題に絡む外国人の状況からすこし遠くなっていた、と今さらながら反省。関心をもつことが必要だ。

●『植民地支配に抗って~3.1朝鮮独立運動』制作:尾澤邦子 2019 25分

こちらの尾澤氏も、自ら関心をもち訴えたいと思った3.1独立運動を映画化するために川崎市の講座に通いビデオ撮影を学んでこの映画を作ったとのこと。つぎはぎ映像という感もあるが、コンパクトにしかし歴史の問題を網羅して朝鮮独立運動への視点や慰安婦問題なども網羅してちょうどいい感じの朝鮮問題入門書という感じ仕上げている。

●ショートプログラム

『ユニクロ払え~インドネシア縫製労働者のたたかい』制作:前田健司 2019 12分

ユニクロがインドネシアに作った下請けの縫製工場。厳しい品質管理・労働管理が行われるが数年後にユニクロが撤退し、4000人とかの縫製労働者が解雇される。あくまでユニクロ側の都合なわけだが、下請けのことは知らぬ存ぜぬという態度のユニクロに抗議してインドネシアから来日した縫製労働者の闘いを記録する。

『フランス・黄色いベスト運動』制作:根岸恵子 2019 10分

パリの黄色いベスト運動のデモを10分間、日本人2人?が歩きながら見て話すのが語りになるという形で淡々と描かれる。ま、ホームムービーというような趣もなくはないが、報道と、実際に一日本人(旅行者?)のみた実態との落差を言いたかったよう。ただし、それが全実像であるかどうかは、また判断が難しいところだけれど。

『沖縄・宮古島ではいま~自衛隊がやってきた』制作:見雪恵美 2019 10分

コピーライトフリーのユーチューブ映像は地球への爆撃?と崩壊みたいなすごいインパクトがいかにもというアニメで、これを前後に、もし再び宮古島に基地が来て、アジア侵略の拠点化すればこういうことになるという脅かしの、こちらは素朴というよりはかなり作意満々?の意欲作だが、それだけの間に挟まれた子どもや女性たちの語りや生活場面が浮き上がっている感じもなきにしもあらず。ウーン。

『自販機ユニオンのストライキ―8時間で暮らせる賃金を!』制作:総合サポートユニオン 2019 10分

これは勉強になった。想像はしていたものの、自販機に飲み物を補給する担当の過酷な労働状況、その中で大蔵屋商事とジャパンヴィバレッジの社員たちが組合を作ってストライキに突入するまでが描かれる。登壇したのも大蔵屋で実際に働き組合を作った若者。こういう映画をもっと身近日常にTVとかで見られるといいが、なかなか難しいんだろうな。

『ユナイテッド乗務員のたたかい~首切り自由は許さない』制作:松原明 2019 10分

コンチネンタル航空との合併によりユナイテッド航空はアメリカではあらたに4000人?の新規採用をし、羽田への乗り入れ便も増やす一方、成田ベースは閉鎖され日本採用の客室乗務員20人が解雇された。この映画は解雇された客室乗務員が不当解雇を提訴しつつ、成田空港などで人々に訴える姿を中心に構成されている。さすがの航空会社、サービス業の職員らしく自販機業者などに比べると1人ひとりが弁が立ち迫力もあり、訴えてくるものがある。会場には彼らが来て小豆島そうめんを販売していた。大変だなあ!ガンバレ!

『連帯がこなければよかったのに』制作:全日本建設運輸連帯労働組合 2019 5分

はじまったかと思うとあっという間に終わるのだが、要は関西でさまざまな建設現場にコンプライアンスに入った連帯の組合員が、現場労働者にも疎まれる様子が訴えられている。厳しい内容なのだけれども、超短い映画としてはなかなか迫力。知ってよかったという感じ。題名の皮肉もユーモアがあるし。

●『アリ地獄天国』監督:土屋トカチ 2019日本 98分 ★★★

アリさんマークの引越社の4000人の社員の1人、結婚を機に安定した収入を求めて転職入社し、厳しい労働条件をこなしながら管理職にまでなったものの、(過労から?)営業車で起こした交通事故の賠償48万円を会社から求められ、疑問に思った青年社員西村さん(仮名)がプレカリアートユニオンという、1人でも加入できる組合に助けを求めるところからの4年間の歩み。賠償に異議を申し立てた西村さんを、会社は降格しシュレッダー係を命ずる。給料ももちろん半分以下に。来る日も来る日も廃資料をシュレッダーにかけ、組合の迫力ある女性委員長のバックアップを受けながら、会社を訴え続け、会社の前での街宣にも立つようになる彼を、会社は暴力団まがいの恫喝をしていったんは懲戒解雇、彼の「罪状」を全車に知らしめるというようないやがらせもするが、そこからの地位回復、和解まで。淡々と描かれる感じではあるが彼自身の孤独や苦しみの中での最後は組合専従活動家にまで育っていく歩みが、ちょっと目を見張るような描かれ方をするし、それを支えるユニオンの委員長はじめ支援をしてともに戦う人々の姿は感動的…というか、会社の表立った人々のあまりの品のない言動に毅然と立ち向かう姿など思わず共感してしまうのだが…。彼が自分を貶められたと感じるシュレッダー業務、彼がそこから解放されたあとも誰かがやっている?毎日毎日彼がもの置き場に運ぶシュレッダー袋の大きさからみると、いくら大企業としても本社でそんなに紙ごみが出るものなのかしらんという素朴な?疑問、
身を挺して働くユニオンの人々はどうやって食べているのか、組合員170人というこのユニオンの活動費はどのように作られているのか(これって貧しいNPОにかかわっている立場としてはいつも思うが、聞くのがはばかられる感じ。そして、西村氏の勝訴、地位復活後、ユニオンのほうは組合員が倍増するが、会社は大勢を解雇し規模が縮小されたと、最後に字幕で示されるのだが、このとき解雇された多くの社員の地位はどのように守られたのだろうか、あるいは見捨てられたのだろうか…と、最初に比べると演説がすごくうまくなって、会社の地位は保全復旧し営業にもしばらく戻ったものの、結局退社してユニオンの専従職員に転身したらしい西村氏の姿を見ながら思うことしきり。こういうあたりも見える映画も見たい。

④世界の果ての鼓動

監督:ヴィム・ベンダース 出演:ジェームズ・マカヴォイ アリシア・ヴィキャンデル 2017英 (英語・アラビア語)112分

ドーンとインパクトがあって見ごたえたっぷり。とはいっても話は意外と単純で、時系列が行ったり来たりなので惑わされないでもないが、まあわからないということもない(効果があるのかどうかはよくわからなっかった)ノルマンディの海辺のホテルで知り合う生物数学者のダニーとMI-6の諜報員のジェームス。5日間で恋に落ちた2人は、しかしそれぞれのミッションをかかえ、女はグリーンランドの深海に潜水艇で潜り地球上の生命の起源を解明する任務が、男は水道指導をする風をして南ソマリアに潜入して爆弾テロを阻止する任務に就く。というか、そもそもほとんどはじまりから男はイスラム国のジハードに拘束され地下牢のようなところに放り込まれ、女はミッションを前にして男からの連絡が途絶えてしまったことに悩む…という図式でこれは意外と古い冒険する男、待つ女の図式にはからずもあてはまってしまっている。男は全編これ、状況は少しずつ変化するが捕らえられている状態で、やせてやつれ、しかし意志だけは強く持っているという姿を刻一刻のようにとらえて演じたジェームズ・マカボイの迫力ある好演が印象的。女性のほうは、ウーンそうでもないかなあ。彼女を支える同僚の男たちとのやり取りとか、恋人からの連絡が途絶え、大事なミッションを前にして情緒不安定になる様子とか、繊細に演じてはいるのだが…力のある役者によって、わりと極端な状況下での恋を演じるのだから、どうして役者の達者さに支えられる感じになるのだろうなあとは思うが、「水」をキーワードに最後に思い切った(伏線はちゃんとある)策略で窮地を逃れる男の潜る海、女のミッションそのものの海の重なり具合がなんとも美しいのはさすがに特筆に値する。この映画どうも恋愛映画というよりは、地球に生きる人間の幸福を男も女もそれぞれ考えるという視点から見るべき映画なんでしょうね…(8月4日 立川キノシネマ)


⑤存在のない子どもたち

監督:ナディーン・ラバキー 出演:ゼイン・アル=ラフィーア ヨルダノス・シュフェラウ ボルワティス・トルジャー・バンコレ 2018レバノン・フランス 125分 ★★★

産みっぱなしの親にねぐらと仕事だけを与えられるレバノンの子どもたちの群れ!がまず何とも衝撃的。境遇の似た人々を出演者として、自ら目撃したり経験した事象を織り込んで監督が作り上げたという世界は、貧困と暴力やまあ親のそう意識もしない虐待はびこる世界で、このような世界に育ったとすれば主人公ゼインを演じた少年も、またその妹やシリア人の女友達を演じた少女、そして何より赤ちゃんを演じた赤ちゃんの名演にもうびっくりというところ。親はそれこそ産みっぱなしで、教育など全く考えないばかりか、女の子が11歳になり初潮を迎えると(その世話をするのが12歳の少年=兄というのが泣ける)大人の男に売るような結婚をさせてしまい、少女が妊娠して死んでしまっても、次の子が祝福として生まれて来るから同じ名前をつけようと言い放つような―なのに、その息子が妹を思い、幼い結婚をさせる親に抗議して家出し、面倒を見てくれた女性の子どもをひょんなことから1人で面倒を見ることになり、もてあまし困惑し困窮しながらも最後まで放り出さない(結果としては放り出すが、決して捨てるようなやりかたではない)そのなんというか倫理意識と責任感がこの少年の知性を支えて、「自分を生んだ罪」で親を訴えるというある意味センセーショナルな行動に出る彼のその行動に説得力を与えている。ちょっとずるいというか生きるための悪?みたいに傾斜する表情と同居する無垢・純真な瞳の雰囲気の混ざり具合も心に響く。大人は子どもを幸せにする義務があるよね…たださりげなくではあるが、親以外の市場などで少年を見る大人たちはエゴはありつつ、案外親切に描かれ、虐待されている子どもの泣き声を気にしつつ他人の家の問題、思いやっている風を見せながら介入はしない日本の大人のほうが冷たいのかなとも思わされてしまう。(8月4日 立川キノシネマ))

⑥アルキメデスの大戦

監督:山崎貢 出演:菅田将暉 柄本佑 浜辺美波 舘ひろし 田中泯 橋爪功 國村隼 笑福亭鶴瓶 2019日本 130分

出だし、空からの猛攻撃を受けて、3000人とともに戦艦大和が沈むまでの大スペクタクルをCGで見せるのだが、多分すごく計算された画面を作っているフェテイシッシュさを感じさせつつ、これがなんとも「絵にかいたような」CGとしては嘘っぽい?感じもする(美しすぎるというか)で、『三丁目の夕日』の東京タワーとおんなじだ)えっ?と思うが、なるほど話の流れからすると、わざとこういう作りにしたんだな、と終わって納得。とにかく大和が沈んだことは分っていて、そこまでに主人公が戦艦建造に反対する行動をどう具現化し、それが勝ちつつどうひっくり返るのかという話を見ていくことになるわけだから。
大戦艦の建造よりも航空母艦を作るべきだと考え、海軍の会議にそれを通したい山本五十六の命を受け、民間から海軍少佐に任官した、菅田将暉演ずる櫂直(かいただし)がいかに計算能力(というか、実測から戦艦の設計図を描き起こし、それに従って元戦艦を作っていたという大阪の工場主に頼み込んで材料の見積もり計算をする。その過程で使用する鉄の重量から総工費を導き出すという方程式を考え出し、2週間後とされた決定会議で大戦艦建造を主張する相手方の平山造船中将案をつぶし、にもかかわらずさらにその後の皮肉な展開(平山演じる田中泯の見せ場!)によって大和は建造浸水していくいう、なるほどね…な展開で、反戦映画+戦争娯楽映画という命題を果たしたわけだが…。でも戦艦長門の設計図をこっそりみるというスリリングな幕開けの比べると、巻き尺で船をはかるとか、情報を追って夜行で大阪へ行き戻りつつひたすら計算をするとか、黒板に書かれた方程式もなんかとても普通の人が理解できないような数字の羅列なわけだし、ビジュアル的には今イチの見せ場のなさ?
櫂の部下を演じる柄本佑が、最初は櫂に不信を抱き次第に心酔していく年上の少尉を好演。亡くなった彼の母角替和枝もワンシーン出演で、エンドロールで献辞が送られている。大分単純化されてわかりやすい作りなので、原作漫画を愛する人には物足りないかも。(8月5日 府中TOHOSシネマズ)

➆夏少女

監督:森川時久 脚本:早坂曉 出演:桃井かおり 間寛平 矢崎朝子 藤岡貴志 影山仁美 坂田明 1996日本 91分

なかなかそうそうたるメンバーによって作られた作品なのだが、広島・長崎などの学校とか市民会館レベルの上映は行われてきたものの、一般的な劇場公開は初めて(23年目!)ということに驚く。
瀬戸内海の小さな島で郵便船を営む母と、体が弱いというが息子から見ると怠けているとしか見えない、家族て営む雑貨屋の店番と配達くらいしかしない父の息子マモルの一夏。原爆が落ちたときに助けを求められたのに助けられなかった「しゅうちゃん」という少女に心を残す父、自らは被爆未経験の2世だが、子どもに障害が出ることを心配して最初の子を中絶してしまった過去に悔いを残す母、そしてマモルだけに見える赤い服をきた少女が一家の前に現れて彼らの心を乱すという一種のオカルト・ミステリーっぽい構成をとるのだが、それに最初のほうで兵隊として遺体処理をした少女に心を残しその母親を訪ねて来る老人とか、マモルが太田川で老女から渡される原爆瓦とか、その原爆瓦をモチーフに、教師として生徒を助けて死んだ祖母の後を継ごうと子どもたちと一緒に合唱祭を目指す女性教師とか、また、広島から戻り海の中で宝さがし?をする男と、幻のようなその恋人とか、いろいろなエピソードが脈略泣く詰め込まれすべtの謎は解明されるわけでなく、マモルの父は亡くなり…と情に訴えるようなドラマがてんこ盛りかつ、それゆえにいささか散漫な感じで疲れもする。原爆の世代が代替わりし、若い世代がどのように受け継いでいくのかという話なんだろうな? まぼろしかもしれない少女が現実に初潮を迎えてしまうとかというところも。(8月8日ポレポレ東中野)


➇煉瓦女工

監督:千葉泰樹 出演:矢口陽子 椿澄枝 三島雅夫 宇野重吉 滝沢修 徳川夢声 1940日本 63分

『煉瓦女工』は野澤富美子の原作・連作小説集の名らしく、映画化されたこの作品では『煉瓦』も『女工』もほとんど出てこない。長屋で小さな商売を営む一家の娘みさの視点で、この長屋のいくつかの一家や、通う学校(週3回、学費はかからず、生徒はほとんど男の子。一番後ろの席に少し年長のみさが座り、その隣に短期間学んではやめていく女子の級友が入れ替わりで座るという教室風景)の友達などとの交流が描かれる。病弱だが学校をやめて工場に働きに行く少女がこの映画題名の由来?、また転入してくる朝鮮人一家の少女(両親を演じるのが滝沢修と原泉)との交流などが描かれる。少女の長屋は月家賃6円日銭20銭で払うという貧乏長屋だが、ここでは夜逃げがあったり、父出奔で苦労する母が死んだ子だくさんの一家とか、みさの家も腕のいい大工でありながら酒におぼれて働かない父とかと働き産みつつ苦労する母という図式だが、一方ゴミ集めを仕事とする朝鮮人一家のすむ長屋はさらに貧しいあばら家だが、そこに住む一家はいつも笑いが絶えず、遊びに来るみさを歓待してくれる。そんな中で長女は工場に勤める職工と結婚し学校をやめることになるが、その朝鮮式の結婚式にみさも呼ばれごちそうをお土産に帰って来るというシーンで終わる。この映画が作られたころの状況を考えたらずいぶん脳天気な…という感じもするが、差別意識の強い社会の中で、貧しいながらも差別せず、むしろさらに貧しい朝鮮人一家に頼り、またおおらかに抱えられる主人公の設定により差別を糾弾している?…。この映画制作時には検閲により上映が許可されず、公開されたのは戦後の46年だそうなので。
(8月9日 川崎市アートセンター・アルテリオ映像館 映画タイムマシン特集)


⑨凪待ち

監督:白石和彌 出演:香取慎吾 恒松佑里 吉沢健 西田尚美 リリー・フランキー 音尾琢磨 2019日124分

チラシの香取慎吾の禍々しい感じの大写しがなんかなあ、という感じ?トレーラーの暴力シーンも、という感じで、家のそばのTOHOシネマズでもやっていたのだが、結局見逃し、しかしアルテリオの上映作品になるなら、それなりの見どころがあるのかなと、ようやく見に行く。ウーン、どうでしょう。香取慎吾はチラシやトレーラーよりもずっと真面目?繊細な男で、前半恋人の実家に行って仕事に就くまでは思ったよりずっと穏やかな映画。どうなるのかなとみていると、恋人が殺されたあと、自分の責任だと思い、一時は犯人と疑われ、仕事も失い、いったんはやめていた、というか軽くなっていた競輪の賭けにものめり込みと、どんどん自暴自棄的な行動に走っていく、その迫力はナルほどの白石作品。だが、彼がいくらめちゃめちゃになっても恋人の娘も、恋人の父も、また隣人たちも案外親切で気にかけ、お金を援助さえしてくれ、それをことごとく主人公が裏切るような行為をしていくというのがどうなんだろう、どうなっていくのだろうとハラハラ先が見えないわけだ。まあ周囲がこれだけ優しいというのは、結局殺された恋人(西田尚美)と周囲の人間関係がよかった?その意味ではこれはあるいは彼女を描いた映画であり、ずっと主人公の支援者であり最も理解者であった?(しかし実は…)という隣人の男(リリー・フランキー)を描いた?映画でもあるのかもしれない。賭博で買ったものの、胴元のやくざに踏み倒された主人公が切れる場面でやくざの親分(麿赤児)に漁師をしていた恋人の父が立ち向かって主人公を取り戻す(伏線的にはこの親分が恋人の葬儀にやって来るところが描かれるが)のも、なんだか何があったのか?意外と大胆な省略話法も使い、ウーン、結局はハッピーエンドというのが、なんか居心地のいいようなご都合主義のようなところも感じさせる。(8月9日 川崎市アートセンター・アルテリオ映像館)


⑩ブラック・クランズマン

監督:スパイク・リー 出演:ジョン・デヴィッド・ワシントン アダム・ドライヴァー  ローラ・ハリアー トファー・グレイス ヤスペル・ぺーコネン  ポール・ウォルター・ハウザー  アレック・ボールドウィン2018米 135分  ★★

同じく今この映画館で上映中の『グリーン・ブック』のアカデミー賞受賞にスパイク・リーは席を蹴ったというような話を聞いた気がするが、そうだろうなあ、この映画の先鋭さを見るとそう思う。
出だしは1970年代の「アメリカ・ファースト」の演説。あ、今のトランプ政権の批判?と思っていると最後には実物のトランプの「アメリカ・ファースト」演説やあちらこちらのデモの光景を織り込んで、まさにメッセージ映画の様相である。間には逆に70年代のKKKの首領デヴィッド・デュークの長い演説もあるし、クワメ・トーレとか黒人の側の演説や談話のシーンもあるものの、どちらかと言えばレイシスト側の演説の迫力がすごくて、しかもそれが映画姿勢としては否定される側というのが、らしいと言えばらしいが、ちょっと不思議な映画。
主題テーマは黒人警官のロン・ストルワースが電話でKKKへの潜入に成功し、身代わりの白人(ユダヤ系)警官フィリップを立てて、2人が協力して、KKKのたくらんだ黒人活動家に対するテロを阻止するという、これは実話だそうな…。隠した身分がいつばれるかというハラハラ・ドキドキミステリーに仕上がっているし、ちょっとだけカー・チェイスもあったりして娯楽作品にちゃんと仕上がっているところも、スパイク・リーらしい。
デンゼル・ワシントンの息子が主役で、これは父のスッキリ系と違って、アフロヘアにしていることもあってかどっしり貫録系という感じもするが、演技はまあなかなか軽妙。対するアダム・ドライヴァーはどうかな…。こちらも面長とはいえどっしり系なので、もう少しすっきりしたイケメンがほしかった気もするが。一方のKKKのメンバーはよくも悪くも「悪そうではない」「けっこうイケメン」でも底知ない悪さの感じも醸し出して、なるほど!学生の活動家でロンの恋人にもなるパトリス、KKK側の「実行犯」になる幹部の妻とか、女性も迫力はあるがあくまで副登場人物の域におさまっているのはないものねだりとは言いながらイマイチかな…。  (8月10日 下高井戸シネマ)


⑪台北メトロ淡水河の奇跡

監督:ガオ・ピンチュアン 出演:ウー・カンレン ホウ・イェンシー ミャオ・カーリー 2016台湾 109分

今回ユジクのこの傑作選で上映されるメトロシリーズのうち、この作品のみが府中のTSUTAYAのDVDにはないみたいなので、ではともかく見に行こうということで。ちょうど10日からユジク阿佐ヶ谷はネット予約も取り入れたので、早速予約してみていくことにした。行くと、おお、おお50人の劇場、休日とはいえ、昼の会満席で、30分前についた私の次の人は39番とか言っていたので予約(昨夜して12番)は正解だった。
で、内容はと言えば過去からタイムスリップしてきた若い父に、ろくでなしの息子が出会う話で、父のほうは若い時アイドル歌手(チーズ)としてデヴューしたのに、25年前妻と4歳の息子を残して突然失踪したという話。父もまあ若気のいたりで浅はかな青年なのだが、アイドル当時のユニットの相棒(バター)が中年になっていて、まあ彼が支えたり、またこれも2人も子どもを育てて魚団子の店をやってきた中年の母ともすったもんだあって、要は父の失踪の謎が説かれ、友人のおかげで財産をすってしまいつつある息子を助けるためにも父は「やりなおす」ために過去に戻ろうとするという話なわけだが…『バック・ツーザフューチャー』(ロバート・ゼメキス1985米)『月夜の願い』(陳可辛1993香港)『乗風波浪~あの頃のあなたを今想う』(韓寒2017中国)などを要はひっくり返したような話なのだが、彼が過去に戻ってやり直すことに成功すれば現代の子どもたちの世界は変わってしまうのだろうし、ウーン、これはちょっと無理があるような気が。そもそも未来から過去に戻る話では過去を現代に影響があるように変えるということが禁忌とされるはずだが、これはそもそも逆転の発想だものね…。で、そう言うこともあって終わりは明るく作ってはあるが、かなり悲観的はアンチハッピーエンドにならざるをえない??そんな映画で、凝った設定のわりにはすごく面白いという感じではなかった。最後はバター&チーズの歌で、あ、これこういう「歌謡」映画か。(8月12日 ユジク阿佐ヶ谷 台北巨匠傑作選2019~恋する台湾)


⑫サウダーヂ

監督:冨田克也 出演:鷹野毅 伊藤仁 田我流 川瀬陽太 2011日本 167分

全体に白っぽくて白内障?みたいな画面は、そんなふうに疲弊した地方都市を表しているのか…。舞台は甲府、甲州弁(なんかなつかしい。私は甲州弁話者ではないけれど山梨生まれなので、昔赴任してくる小学校の先生とかの甲州弁を聞いた…)をしゃべる登場人物たちが集まる工事現場から。タイ帰りの新入りとか、彼に妙に興味を示し妻がありながらタイ人の女性とタイに住むことにあこがれる男、同じく同僚でラッっパ―として地元ではちょっと知られた男や、東京から戻ってきて意気盛ん?なその女友達、周辺の女性たち、ブラジルやタイから出稼ぎに来ている男女、国政に進出しようとしている政治家などが入り乱れ、細かく脈略がない感じの場面が続いていって、話の筋をつかむのはすごく難しいのだが、東京から少し離れていて文化的にはその傘下というか亜流っぽいところもありながら、海外からの文化を独自に取りこんで独自の雰囲気をもつ地方文化の雰囲気で、なんか切ない感じで眠くもさせず、最後まで引っ張っていってしまう。ドキュメンタリーっぽいのだが、フィクションでもあり、その意味でもよく言えば中間文化的な、悪く言えば中途半端な?感じもするのだが。(8月12日 新宿Ksシネマ)


⑬15マレーシア

監督:ヤスミン・アフマドほか プロデューサー:ピート・テオ 2009マレーシア 80分★★★

出だし、ピート・テオのそれぞれ4分のミュージック・ビデオ2本が上映され、マレーシアという国が非常に多様な人々の集まりであることが示される。その後80分で15人の作品オムニバス。間8本目ぐらいにヤスミン・アフマドの3分間の『チョコレート』という作品とそのメイキング映像も挟まって16本。おおむね1本5分ずつの作品が入っている。これだけあると1本1本を詳しく追うのは難しいのだが、マレー人・先住民65%、華人25%、インド系8%、その他1%という人口構成を反映し、それぞれ民族も言葉も入り乱れという感じで、また、そのような人々が集まって文化的な行き違い?などもあるマレーシア社会を反映しているのであろうと思われるようなメッセージを含む映画がほとんどで、なかなか見ごたえのある15本だったと思う。ヤスミンの映画は、マレーシア社会の中で息子に教育をと考える母と抗う息子、その経営する小さな店にやって来るイスラム系の女性だが、『バッテリー』と『ボトル』の聞き違いや、頭への被り物とか、チョコレートの買い物などの気持ちの行き違いとそれをどうかわして生きるのかまで含め、なかなかに情報量の多い映画だった。出演はシャフリ・アマニほか。今回の特集上映には来日したようだが、もちろん私はその日に行くというような贅沢は望めず。(8月14日 渋谷イメージフォーラム ヤスミン・アフマド トリビュート)

⑭ラブン

監督:ヤスミン・アフマド  90分 2003マレーシア 

前回は2017年3月のイメージフォーラムの特集で見ていたが、なんかこの映画だけ印象が薄く、再度見たら、ああ、ああ。そして前回の映画日記を見てみると、ああ、私結構ちゃんと見ていたのだということで、以下は2017年の日記再録。

都市に住むマレー系の夫婦が退職後の年金生活を田舎で送ろうと、町と田舎を行き来しながら田舎の家をだんだんと整備して暮らし始める。ところが地元の工事人との間を取り持ってもらった遠縁の青年が間で工事費を上乗せしてだまし取っていたことがわかり、青年の結婚資金の借金を申し出てきた彼の母親にそのことを告げ、断ると結婚もうまくいかなくなった青年は次から次へと嫌がらせをしてくる。最後、ナイフを研いで夜中にしのんできた青年に対する夫婦の反撃は??というわけで、けっこうハラハラドキドキしながら、チープな嫌がらせや、べたべたに仲良しな夫婦(夫は糖尿病のせい?で目が悪い=「ラブン」(霞む目)の題名の由来?)は妻が夫を乗せて車を運転し、ふたりでシャワーを浴び、軽口をたたき合いながらいつも一緒にいる(この2人はのちの『細い目』『グブラ』でも同じ仲良し夫婦として登場する)夫婦は田舎でのトラブルも2人で乗り越え、最後は娘や友人たちも含め一家がそろってゲームに興ずるという幸せな場面で映画が終わる。結婚できない恋人の名前を鶏につけてかわいがり、友達にからかわれるような青年の鬱屈もよく描けているし、眼が悪いので妻に頼りながらも包容力のありそうな夫、活発で夫の悪口を言いながらも夫を心から愛している様子の妻の造形もおもしろく、人のつながりがトラブルを乗り越えていくというメッセージも押しつけがましくなく描かれていてさすが・・・。

それにしても死んだネズミとか鶏とか、ちとエグイ映像も。これが前回あまり印象に残らなかったのはなぜ? (8月14日 渋谷イメージフォーラム ヤスミン・アフマド トリビュート)

⑮隣の影

監督:ハーフシュテイン・クンナル・シーグルスソン 出演:スティンソウル・フロアル・スティンソウルソン エッダ・ビヨルグゥインズドッテル シグルソール・シーグルヨンソン ラウラ・ヨハナ・ヨンズドッテル 2017 アイスランド・デンマーク・ポーランド・ドイツ (アイスランド語)89分

とにかく、怖い。全体を覆う不穏な雰囲気にハラハラしながら画面が進んでいく。話は、結婚前の元恋人とのセックスビデオを見ているところを妻に見つかり家を追い出されるアトリ。彼は実家に転がり込むが、そこでは両親(特に母)が、庭木が隣家の庭に影を落として日光浴ができない(このあたり日本の感覚だったらちょうどいい木陰という気もするだが、さすが北欧)と、隣家の夫婦に苦情を言われ、こちらはことらで隣家の犬が庭に入り込んでフンをするということで言い返しという感じでトラブルになっている。アトリの幼い子を挟んでの夫婦間の問題と、両親と隣家とのトラブルが並行して進みアトリが苦しめられるというのが、流れだが、ここに失踪したままでその死を母が受け入れられないでいるアトリの兄の存在もからみ、実家にも今一つ受け入れられないアトリは隣家を見張るということで庭にテントを張って寝ることに。また隣家に飼い猫を連れ去られたと信じる母は、隣家の犬に対して思い切った行動に出る。そして…行きつく先の悲惨なすさまじさと、近くにいるのにそれぞれの苦しみを抱えて孤独な人間の姿を、最後のシーンの母がまざまざと感じさせる。いや、まあ、怖いし、暗いし、なんだか見て喜びを感じるというわけにいかないが、しかし目を離せないという映画だった。だれもかもが譲らない、こだわるという映画ではあるが、特に女性が譲らず、拘り男が振り回され、そして最後に死ぬような目に合うのは男、というのは何だろう、この作者の女性嫌悪?そこが気になる。(8月14日 渋谷ユーロスペース)


⑯ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス

監督:フレデリック・ワイズマン 2017米 205分 ★★★

ウヮーオ!長さも長さだけど、すごい見ごたえ! 88の地域分館と4つの研究図書館(黒人文化・舞台芸術・科学産業ビジネス・人文社会科学)を持つNYPLの活動を描くのだが、図書の貸し出しにかかわる業務とか、図書館研究員の資料の作製場面とかもあるものの、その割合は少しで、多くは図書館主催で行っている講演会とか朗読会・音楽会、読書会、また就職フェアとか、障碍者のための住宅手配サービス、ダンス教室や教師たちの研修(教科書についての話し合い)、手話通訳者のパフォーマンス、図書館ディナーそのた諸々の多岐にわたる活動が紹介され、その間には幹部たちの会議の光景も。それらは断片的ではなく、それぞれある1節についてはたっぷり見せる・聞かせる(著者トークであればあるテーマについてはきちん最初から最後まで、朗読や演奏であれば、ある詩、ある曲全部、手話のパフォーマンスも、同じ1節の怒りと懇願の朗読を実演しそれぞれをどう通訳するか見せるなど。とにかく全部見ると、図書館というにとどまらない文化の側面や、ものの見方などがしっかりわかる。その考え方の根底にあるのは、パブリックとプライベートの協業、マイノリティの文化や歴史の尊重、それに単に本の置き場ではなくネット関連の支援に対する熱心さということであろうか。幹部の会議の中ではそのような自分の考えや主張をいささか冗長なほどに繰り返す発言者もいたりするのだが―これ、「やらせ」とは思えないし、どうやって撮ったのだろうと思わせてしまうところも―そして、多分大きなこの組織が問題を抱えていないわけもなく(資金不足のことなどは多少語られるが)それよりも大都市ニューヨークにたくさんの拠点を置いて地域の人々を集結し、知的活動や、生活向上の拠点たらんとするその活動は、ただただすごい!と感動する。図書館ではネット弱者を作らないために貧困者にネット環境を貸しだすサービスなどが力点を入れて描かれるのが意外といえば意外、なるほどと言えばなるほどだが、ニューヨークにはそういう人たちが1/3もいるというのもちょっと驚く(日本・東京の場合はどうなんだろう…)。(8月16日 川崎市アートセンター・アルテリオ映像館)


⑰イソップの思うツボ

監督:浅沼直也 上田慎一郎 中泉裕矢 出演:石川瑠華 井桁弘恵 紅甘 斉藤陽一郎 藤田健彦 髙橋雄祐 桐生コウジ  川瀬陽太 渡辺真起子 佐伯日菜子    2019日本 87分

「『カメラを止めるな!』のクリエーター再結集!」というのが惹句で、期待しつつ…。が、ウーン。意外性とか、話がどこに飛んでいくのわからとかいうところとか、半分終わって実はこういうことよという種明かし的な展開になるところとかは、『カメラ』の踏襲?と思えるところもあり、まあ楽しめるけれど…。ただ今回はだまし合いがテーマで、人も死ぬ?し、兎草一家の今後なんてかなり悲惨?と思えるところもあり、皮肉というか陰惨な雰囲気もなくはなく…。こちらが先の公開だったら『カメラ』のように思いがけないヒットになるとも思えない。柳の下にドジョウは二匹はいない??
(8月18日 府中TOHOシネマズ)


⑱ダンス ウイズ ミー

監督:矢口史靖 出演:三吉彩花 やしろ優 Chay 三浦貴大 ムロツヨシ 宝田明  2019日本  103分 

トレーラーを見たり、TVでの矢口監督のトークを見たりしたせいか、まあ、予想通りの展開で予想通りの範囲に楽しめた!という感じ?三吉彩花の好演は話題になっているようだが、やしろ優が印象的な健闘。。宝田明85歳にしてインチキ催眠術師?兼マジジャンという胡散臭い役柄で検討しているが、往年のイメージからするとやっぱり限界?あーあ、こういうことを考える自分が老いたということ?最後の最後の展開(せっかく戻った仕事をやめて、ダンススタジオにというのはどうなんだろうなあ。お手軽には満足感を得られるが、やはりヒロインにはかっこいい?キャリアウーマンを続けてほしい気も…。
(8月19日 府中TOHOシネマズ)


⑱影SHADOW 影武者

監督:張藝謀 出演:鄧超 孫麗 陳凱 胡軍  2018中国 116分

春ごろから前評判の高かった「色彩の魔術師」(?どれかのポスターにあった…)張藝謀の新作試写会、久しぶりに試写会に行ったが開場の30分前にはすでに7Fホールから3Fまでの階段にぎっしり4列に待つ人の列。よみうりホールも満席で無料とはいえ、すごいなあー。で、映画はほぼモノクロに近いような濃いグリーン系?の沈んだ画面で、全体の6割?ぐらいは大雨シーン、3割ぐらいは地下宮のような穴倉(ここにポスターなどでよく出て来る陰陽のマークが大きく作られ、その上で影武者とその主人たる「人」そしてその妻の闘い(訓練だけど)が美的に行われる。というわけだが決してモノクロではないのはそこに浮かび上がる人の顔や血(鮮血の印象ではない、押さえた赤、しかし血みどろ)そして浮かび上がる白い衣装や、刃物の銀のきらめきと、まあ暗いのだが目を見張るような色合いの連続で確かに目の離せない「美」の世界だった。音楽も全編箏の古風だけれど現代アレンジ的な音曲が流れ、主人公の都督・小虞夫妻の合奏競演?もあったりして、戦闘は様式美的(でも雨・泥・血みどろではあるのだが)でリアルさというよりは舞曲的な方向?
物語も抑えめで王の妹の縁談がらみの敵国(というか領土の一部境州が楊蒼将軍によって押さえられている状態。そのままの状態を維持しようとする荊国王と、なんとしても取り返したいと考え、行動に出る都督・小虞(とその影武者)には』さまざまな陰謀やドラマがあるのだがそれらはあっさりと描かれつつ最後の場面で伏線として開かれていくという構造。鄧超は20キロも減量して都督を、そして血みどろ傷だらけの勇者影子・境州を演じるが、結構見直した。彼の実の妻孫麗が妻役だが、これもこの映画では一番難しい役柄だと思うが頑張っている感がある。CGを使わない、近代兵器みたいな傘のお化けみたいな刃物戦とか、絵か舞のように描かれつつ結構ユーモラスなところもあり、まあ見飽きない、見ごたえのさすが、貫録の1本というところ。
(8月22日 有楽町よみうりホール 一般試写会)


⑲作兵衛さんと日本を掘る 炭鉱画家山本作兵衛

監督:熊谷博子 出演:井上冨美 井上忠俊 菊畑茂久馬 上野朱 橋上カヤノ 森崎和江 渡辺為雄 2018日本 111分

5月ごろからずっと、いつ見るいつ見る?のロングラン様子見。配給のポレポレ東中野では原画展も、上野英信展も、熊谷監督トークの一部をロビーで聞きさえしたのに、結局見るのは最後の最後、川崎になったのは、ウーン大事にとっておいた感じかな?さて、それで予想にはたがわず、今はなき筑豊の往年の絵だけではなく写真とか、当時働いていた人の語りとか、ゴットン節とか、そういったものを知り、それを日本の経済史の中で考えるという点では納得し満足できる作品だった。予告などに言われていた「原発への転換」については、ちょっと取ってつけた感じで一場面だけ(筑豊に原発がないから?)、また作兵衛さんの子や孫、上野英信の息子の朱氏らが、炭鉱に対する「差別」をこもごもに語っていたのが印象的だった。作家の森崎和江の談話にもそれはあったが、逆に実際に働いていた人や、作兵衛の絵に魅入られたという立場での菊畑氏らの話にはそれは出てこない。それって、つまり当事者はそういうことを感じることもないほどに厳しく余裕のない暮らしだったということか…、あるいはすでに過去のこととして今が一番恵まれているというような人々にはそういうことも「忘れられて」しまったということか…。ちょっと見ていてアンバランスというか不思議な感じがした。(8月23日川崎市アートセンターアルテリオ映像館)


⑳おっさんずラブ

監督:璃東東一郎 出演:田中圭 林遣都 吉田鋼太郎 志尊淳 沢村一樹 大塚寧々 内田理央 2019日本   114分

出だしは香港下町でのオートバイを走って追うアクション?シーンからでコメディ的要素もあり、後に続く伏線もありあっという間に引き込まれるなかなかの作り。その後日本に舞台が移るとうん?ちょっとダレルが、後半倉庫の大爆発火災場面(それにしては中にいる登場人物が汚れもせず傷つきはするものの大きなダメージを受けることもなく助かるのが嘘っぽいといえば嘘っぽいのだが)とそこで助け合いながら脱出する恋人どうしというわけで、アクション的見せ場をしっかり盛り込んでいるところが、テレビドラマの映画化の意味かなと思わせる。男どうしの恋人は男女間と同様行き違いやトラブルもあるが、全体としては職場の理解とか、親兄弟を含む社会の理解とかも十分で明るく楽しくというところが、こういう映画の脳天気だけれど社会的な意義のあるところかもしれないと思わせる。(こういう書き方をするとまたまた、差別的?というコメントをいただいてしまうかもしれないが、でも現実的にイタリアのコメディにしても中国の同志映画であってもここまでたのしげに男どうしの恋愛を肯定している作品は珍しいと思うので)
(8月28日 府中TOHOシネマズ)


㉑さらば愛しきアウトロー(THE OLD MAN &THE GUN)

監督:デヴィッド・ロウリー 出演:ロバート・レッドフォード ケイシー・アフレック ダニー・クローヴァー  シシー・スペイセク 2018米 93分

1980年代に実在したという希代の?銀行強盗、当時74歳のフォレスト・タッカーを演じるのはこれが引退作品としてプロデュースも兼ねた82歳のロバート・レッドフォード。数日前にはちょうどTVで『スティング』をやっていて小粋な若い彼を久しぶりに見たところだったので、ちょっと見るのが怖く、たしかに82歳のしわの刻まれた顔とちょっとおぼつかなげな足元?はウーンとも思えないでもないが、映画の題材は「スズメ百まで」という感じで若い時代からの銀行強盗(ガンは持っているが人は殺したことはない)と脱獄を懲りずに続けるという「老けない男」の話でしかもわりに軽妙だし、機知の働かせ方も、車の運転も格好良く、しかも軽く品よくまとめられている感じで、印象が悪くない。『運び屋』は残念ながら見損なっているが、最近のクリント・イーストウッド映画は「老いさらばえて」引き時を狙いつつこだわっているという感じで軽妙さにかける感じで、見ていてつらいこともあった。蓮實重彦氏が『さらば…』のチラシで、この映画が『運び屋』を越えた、と言っているのはそういうこと? 蓮實氏は「年老いたシシー・スペイセクの魅力」にも言及しているが、実はレッドフォードとスペイセクは実年齢では 10歳以上の年の差があって、彼女はまだ70になるかならないという年。見た感じレッド・フォードよりすごく若くて、同年代でも男と女では年の取り方が違うの?とも思ったが、これは勘違い。並べて魅力を言うのでは少し気の毒かも。映画で彼を追う子煩悩な警察官の普通の人っぽさもなかなか良かった。
(8月29日 川崎市アートセンターアルテリオ映像館)


㉒トールキン 旅のはじまり

監督:ドメ・カルコスキ 出演:ニコラス・ホルト リリー・コリンズ コルム・ミーニー デレク・ジャコビ  2019米 112分  ★★

ニコラス・ホルト(私のお気に入り)は先般サリンジャーを演じたばかりで、まあ違うタイプとはいえ、文学者づいていてどうなのかなとも思ったが、今回のは正統的?な英国青年で、物語もどちらかというと孤児の少年が友情と愛に恵まれつつも一時は挫折しそうになり、そこから言語学の才と興味でドラマティクに立ち直るが、第1次大戦のはじまりとともに友人たちとともに戦場に…。映画の出だしは戦場で病み泥まみれになりながら行方不明の友人を探すというシーンから、過去にフラッシュバックしていくという見ごたえのある展開で、最後まで(これ、トールキンだとわかっているから先がどうなるのか引きずられるのかな?とも思わないでもないが)ぐんぐんと青春の友情と愛が、先に行って「果てしない物語」に結実していくのだなという楽しみな予感とともに(でもそこは描き方はあっさりだが)描かれる。ニコラス・ホルトはじめ、少年時代を演じる若い人たちも含め役者たちがみな端正かつ瑞々しく、しかもなかなか品があるのがいい。わりとエキセントリックにあれこれの役にふり幅が大きくて、そこがお気に入りのニコラス・ホルトなのだが、普通に青春を、ちょっと軽薄に楽しみ、優秀でありながら失敗もし、恋にも夢中というような青年も演じられる彼を初めて見て、ますますお気に入り度深まる(笑)
(8月30日 立川キノシネマ)


㉓ワンス・ア・ポン・ア・タイム・イン・ハリウッド

監督:クエンティン・タランティーノ 出演:レオナルド・ディカプリオ ブラッド・ピッド マーゴット・ロビー アル・パチーノ 2019米 161分 ★★

1969年2月の2日間ー少し落ち目の役者リック・ダルトンの「うまくいかないぶり」-ディカプリオが、情緒不安定ですぐに涙目になったり、キレっぽくなるハリウッドスター。貫録ある風貌だがいとも可愛らしい感じ。そのスタントマン、クリア・ブースは頼りがいがありそうだがちょっと何を考えているのかという「影武者的」陰影も?-の1日と、トラブルの中で郊外で共同生活をするマンソン・ファミリーの面々を知るまで。そしてリックの隣家に越してきたポランスキーとシャロン・テート。この前半はすごく丁寧に描かれて微細には面白いんだけれど、全体としては少し退屈なほど冗長な感じもなくはない。60年代のハリウッドと映画とか、音楽とかを懐かしめる人にとっては楽しいんだが…。ブラピのクリア・ブースがブルース・リー(のそっくりさん)と対決するとかね…。そして落ち目のリックは、いやいやながらクリアとともにイタリアにわたり4本のマカロニ・ウエスタンを撮って半年後8月に帰国する。その帰国日の1日が、ビックリ的展開で描かれている様子は、ひょっとしてタランティーノの願望?なのかもしれないと思わせられる。クリアの活劇、リックは家のプールで音楽を聴いている夜中ののんびりから、最初のほうで撮影で苦労した火炎放射器を持ち出してのアクションまで、ここはなるほど!とはいっても豪邸の中での3対3ぐらいの対決なので、ウーン、ま最近の火炎ごうごう、自然の中の大アクションとかになれた目には少しこじんまりで血なまぐささも、タランティーノものにしてはおとなしいかも。そしてめでたしめでたしで、とにかく作者の映画愛を感じさせられた1本。特に、エンドロールでタバコのコマーシャルフィルムを撮るリックの姿が60年代っぽいモノクロで楽しませてくれた。この時代のことやシャロン・テートの事件のことを知らないと何を言っているのかわからないかも。という内輪ものではあるし、タランティーノのテンポとかハチャメチャっぽい展開とかを期待すると裏切られるかも。彼も高齢になった?ということ?
(8月31日 府中TOHOシネマズ)



次回多摩中電影倶楽部は9月14日に行います。詳細は以下のblogで。ご参加歓迎します。

        https://tamachu-huayingtiandi.blogspot.com/




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