【勝手気ままに映画日記】2019年6月

脚はだいぶ良くなった、なのに梅雨に入った6月は山歩きもままならずー「職場」の大隈庭園の晴れ間に。ウーン、外に遊びにいきたいよ~




①ともしび(Hannah)➁ルンタ③長いお別れ④池谷薫演出NHKスペシャルプログラム『西方に黄金の夢ありー中国脱出、モスクワ新華僑』『黄土の民はいま―中国革命の聖地・延安』⑤ヒトラーVSピカソ 奪われた名画のゆくえ⑥魂のゆくえ➆さよなら、くちびる➇ザ・クロッシング(太平輪 乱世浮生)part1➈幸福なラザロ➉ビル・エヴァンス~タイム・リメンバード⑪リアム16歳 はじめての学校⑫亡命⑬バーニング・劇場版⑭ザ・クロッシング(太平輪 彼岸)part2 ⑮12か月の未来図(Les Grands Esprits)⑯パパは奮闘中⑰山猫⑱沖縄(1部 一坪たりともわたすまい 2部怒りの島)⑲家族にサルーテ―イスキア島は大騒動―⑳スノー・ロワイヤル㉑岡本太郎の沖縄㉒僕たちは希望という名の列車に乗った


①ともしび(Hannah)

監督:アンドレア・パラオロ 出演:シャーロット・ランブリング アンドレ・ウィルム 2017仏・伊・ベルギー 93分

『まぼろし』『さざなみ』ときて、邦題はひらがな4文字の『ともしび』というわけで、題名がなんか暗示をしているというふうだが、そうなんだろうか。原題は『アンナ』でヒロインの名前。出だしは演劇教室で絶叫するアンナの顔が画面半分、それにこたえる同じ教室の仲間のおなじく叫び声。次は家で夜夫と食事の場面、電球が突然切れ、夫が立ち上がって新しい電球に替えるが、この間彼女は一言もなし。冷め切った夫婦なのかしらんと思うと、次の朝二人は連れ立って出かけ、夫はそのまま収監されてしまう。あとは彼女の孤独な日常が延々と続く。盲目の子がいる家庭での家政婦の仕事、週に一度の演劇教室、夫との面会、その行き来の地下鉄の中。階上に住む子供のいたずら?で寝室に水漏れが起ったり、孫の誕生祝いをしたくて息子に電話、ケーキを作って持っていくが冷たく門前払いされたり。水漏れの修理を頼んで業者が来てドレッサーを動かすと後ろから封筒が出てきたり、通っていたジムのプールからは会員権がなくなっていると締め出され、そして彼女は夫とともにかわいがっていた犬(子供に冷たくされて、犬に依存するようすまで見せる)を手放し、最後は家政婦の仕事を早退し、孫の学校に様子を見に行き、そして演劇教室でも自分の演技の途中に「外の空気を吸ってくる」と出て行く。長い長い地下鉄の階段をおり、最後は目の前を行き過ぎる電車を見ながらホームにたたずむところまで。外から見れば映画らしいドラマティックな展開があるわけでなく、なぜ夫は収監されたのか(しかも絶望感が強い)、息子はなぜにそれほどまでに酷薄な態度をとるのか(これは夫の側もそうで、妻の孫の話は聞くが、息子に関しては決して許さないという)、ドレッサーの裏の封筒は何なのか、謎は謎として出されたまま物語として解決するわけでなく、ただヒロインが次から次へと、一つ一つは世間的に言えば大事件ではないのだが彼女にとっては孤独感を増すようなトラブルの中で追い詰められ人生から締め出されていくような感じを、ただシャーロット・ランブリングのほとんど無言の演技によって見せるという、けっこうすごい作品だ。人によっては、こんなの見ていられないと思うかもしれないな…と思いつつ、最初から最後まで目を離せない。カメラアングルとか、見せない場面での出来事のとらえ方がめっぽううまい。「ともしび」という邦題は、彼女がそれまでの(演劇教室に代表されるような?)虚偽的な生き方から脱却して新しいところに進むというふうに見ているのかもしれないが、犬を手放したり、夫に次の面会はいつ来るかわからないと言ったり、海辺に打ち上げられたクジラの死体を見に行ったりという行為はこの女性の行く先に死があるような暗示にもみえるし、これも見る人によるのかもしれない。その意味では大変にスリリングな映画でもある。最初の公開時にみられず、川崎アートセンター上映も入院中で見逃し、ようやくの鑑賞。土曜の朝10時回だったんだが前後は中高年男性多し。裸体場面もあるシャーロット・ランブリングの威力?でもこういうヒロインの生き方って日本のオジサンに理解できるのかな…と。ちょっと差別的でしたね。すみません!   (6月1日 下高井戸シネマ)


➁ルンタ

監督:池谷薫 出演:中原一博 2015日本 111分

2015年公開のこの映画、自分の映画記録によれば見損なっている…と思って見に行ったが、見覚えのある場面多々??いや他の映画と混乱して見た気がしているだけ?ともあれインパクトの強い映画だったのは確か。中国弾圧の続くチベットでは次から次へと焼身抗議があとを絶たない。それをblogで記録し発信し続けているインド・ダラムラサ在住の建築家中原一博氏を中心に、抗議によって捕らえられ拷問を受けたりした経験を持つ活動家(といっても僧侶だったり、食堂の経営者だったり、普通の若い人たち)へのインタヴューなどをまじえて、焼身抗議した若者たちに迫る前半、さらにチベットに潜入し、非暴力の闘いを続ける人たちや土地の若者たちと話し、自然や文化を感じながら、その独自性や重要性が中国政府によって蹂躙されている、それでも慈悲とか、内省による行動として自らを貫こうとする人々を描く。天安門30周年企画としての上映。 映画の中で127人とされた焼身者名がエンドロールでは延々と流れるが3列47行(141名?)あったが、上映後挨拶に立った池谷監督によれば現在164名。2008年以来の拷問死も100人を超えるとか。習近平体制を否定するが、それでも中国や中国人が好きだと言い切る監督の格好よさ!    (6月1日 ポレポレ東中野)


③長いお別れ

監督:中野量太 出演:山崎努 松原智恵子 蒼井優 竹内結子 北村有起哉 中村倫也 2019日本 127分

中島京子原作の映画化、中野量太監督作。おまけに?超豪華メンバーの家族だし…というわけで期待しつつ見る。で、結果的にはウーン。過不足なく原作をもりこみ落ち着いた作りだし、ワンシーンごとにみると笑いを誘ったり、じんわりしたりうまく作ったなと思える場面が多いし、7年の時間の流れに従ってしっかり老けていく山崎努はじめ、演技もなるほど!なんだが、イマイチまとまらないというか、まあ7年間という時間を描いているので、姉妹の抱える生活、母の網膜剥離などをもりこむとそれぞれはちょこちょこ「場面」で見せるという感じになってしまうのは仕方がないかも。それと、ことばではいろいろと大変さは語られるが、ユーモアまぶしにしたことも含め、介護の中での実際の苦労とか、その中で介護者の側のエゴ?―娘たちはそれぞれ自分の生活の苦しみの中で、緊急に呼ばれて父の介護や母のフォローにかけつけるが、それが彼女たちの救いになる面は描かれる(それはいいのだが)が、そこで彼女たちの苦しみが増加?される部分はほとんど描かれない、または暗示的?(次女の恋人との別離とか)なので、やっぱり少しきれいごとすぎるんではないの?と思わないでもなく。 (6月4日 府中TOHOシネマズ)


④池谷薫演出NHKスペシャルプログラム

『西方に黄金の夢ありー中国脱出、モスクワ新華僑―』構成:池谷薫 1993 44分

『黄土の民はいま―中国革命の聖地・延安』構成:池谷薫 1994 49分

「天安門事件30年企画」として行われた池谷薫特集プログラムの1本。過去に見たかどうかは定かではないが、制作の93~94年は私は中国で仕事をしていた頃なので、多分見ていないと思われる。ちょうど自分が瀋陽に滞在して北京、大連あたりの発展ぶり(それはそれは高いファストフードとか、香港資本のブランドの洋服が屋台の10倍くらいの値段で結構売れるようになっていたとか、そんな記憶に結びつくような)と同じころに、福建の田舎からモスクワを経てヨーロッパに出稼ぎに行こうとする人々とか、延安の村の驚くべき貧富の格差の発生とかそういうことが起っていたのだと今さらながら、目で見て確認させられるという体験映像(私にとっては)。25年ぐらいたった今、この人々はどうなっていて、どんな思いで中国社会を見ているのだろうか―まあ、成功した人々については想像はつくけれど…。一人っ子政策に反して生まれた赤ちゃんは無事に育ったのか、今はどんな生活をしているのか、見てみたい。
池谷薫特集は最新作『ルンタ』(2015)まで、90年代~2000年代まで中国やそこにかかわる人を着実に追ってきているが、人々も映画もほとんど発言できなくなっているように感じられる習近平体制の今、彼はこれから中国では何を撮ろうとしているのか見ていきたいし、聞きたい。 (6月6日 ポレポレ東中野)


⑤ヒトラーVSピカソ 奪われた名画のゆくえ

監督:クラウディオ・ポリ 原案:ディディ・ニョッキ 出演:トニ・セルヴィッロ 2018伊・仏・独 97分

ナチスによって、総統美術館への収蔵や、ゲーリングの個人所蔵?などを目的に持ち去られた多数の名画、芸術作品を探し取り戻し、持ち主に戻したり、しかるべきところに収蔵したりという戦中・戦後の動きを、イタリアの名優トニ・セルヴィッロ(最近では『修道士は沈黙する』かな)を水先案内人に、さまざまな関係者や遺産相続人などのインタヴューや、ナチス時代の映像なども含めて綴っていく。かなり複雑というかさまざまな探索やその結果などが交錯しているので、事情が分からなかったり興味のない人にはわかりにくいのかなという気もしたが、映画館は満員で、みんなすごいなあ…。ナチスでは絵画の没収をめぐり、どちらも「美術品好き」のヒトラーとゲーリングが対立したとか、退廃美術展というのが、アーリア人の描いた伝統的なナチスが賛美するような作品展と同時並行で行われたとか、また映画『ミケランジェロ・プロジェクト』(ジョージ・クルーニー2014)にも描かれたモニュメント・メンの活動とか、ナチスの画商グルリッとの息子の秘蔵していた作品の発掘(これもTVドキュメンタリ―化された)など知っている話もなじみ深い感じの映像で盛り込まれ、それなりにサービス意識のある映画ではあった。
(6月7日川崎市アートセンター・アルテリオ映像館)


⑥魂のゆくえ

監督:ポール・シュレイダー 出演:イーサン・ホーク アマンダ・セイフライト 2017米113分

主人公エルンスト・トラーは46歳で、ファースト・リフォームド教会の牧師。父に続いて軍医として従軍し、息子も軍隊に入るが半年後イラクで戦死、これを契機に軍隊を退き、妻とも別れ、不調な体を抱えながらアルコール浸りでちょっと抜け殻のような、禁欲的というか自虐的というか孤独な生活を送っている。映画はそんな彼が内面を記すノートの記述とともに進んでいく。この映画今どき珍しくスタンダードサイズ。ワイド画面に慣れた目には昔の映画を見ているみたいな閉塞感がある。途中CGで、自然にあふれた森や川?から荒れた工場地帯、タイヤの廃棄処理場などの上空を主人公たちが飛ぶ場面もあるが、その背景の妙な狭苦しさも含めて主人公の内面にのみ視点を合わせていくようで効果をあげている。
間もなく創立250年を迎え記念式典をしなくてはならないということで上部組織であるアバンダントライフ教会を通じて教会の大口支援者バルクの支援も受けている。そんなときメアリーという女性が夫と話してくれとやって来る。彼女は妊娠しているが、熱心な環境保全活動家である夫は、未来への展望が持てない世界に子どもを産むことに反対しているのだという。牧師として夫を説得しようとするエルンスト。夫がガレージに隠した自爆ベストを見つけて驚き、牧師に相談するメアリー。牧師はこのベストを夫には内緒で預かる。すると…夫に呼び出されたエルンストは夫が自殺しているのを見つける。そこから、メアリーを助けながら環境や未来への不安などより世俗的な伝統や格式を重んじて記念式典をしようとする上部の教会の前でメアリー夫妻に共感せざるを得ない方向や、自らの体の不安の中で追い詰められていくエルンストの心象が、彼が最後に取る衝撃的な行動まで、これでもかこれでもかという感じで突き詰められていく。エルンストがノートに綴る手記とともに、イーサン・ホークのほとんど出ずっぱりの息詰まるような描写で進んでいくので暗くて地味なんだけれど、見ごたえはあって目が離せず。  (6月7日川崎市アートセンター・アルテリオ映像館)


➆さよなら、くちびる

監督:塩田明彦 出演:小松菜奈 門脇麦 成田凌 篠山輝信 マキタスポーツ 篠原ゆき子 2019日本

半月ほどの公開であっという間に最終日1日前。うーん、結構悩んだが、音楽映画?のつもりで見に行く。「ハルレオ」というユニットを組んだ2人の女性とローディの男、三角関係?というのでもなく、三つ巴?互いに互いを好きだと思いつつ言えない言わないみたいな、しかも静かに控えめに。今どきの若い人たちの遠慮というか、草食系のイメージ。歌詞や歌には思いを込めつつ実生活では互いにそっぽを向きあうみたいな…若くて未来がいっぱいある(と思っているが現実はそうでもないことにも気づきつつある)人の恋だね。そういう状況で東京から浜松、大阪、北上して新潟、北海道までのロードムービー。しかし女二人タバコをよく吸い(男もか)、男には過去のバンドがらみのいきさつもあるらしいが、いずれも直接的な描き方はほとんどなく、ドラマというよりは雰囲気で見る映画?なのかな。曲提供は秦基博とあみょん、ということでそういう意味ではまあ、豪華な映画だ。(6月12日府中TOHOシネマズ)


➇ザ・クロッシング(太平輪 乱世浮生)part1

監督:呉宇森 出演;黄暁明 佟大為 金城武 章子怡 ソン・ヘギョ 長澤まさみ 黒木瞳 2014中国

2014年の映画が今日本に公開?って? 1集だけは当時中国版のDVDで見ていた(章子怡のパートだけがとても印象に残っていた。今回見てやはりそう…)が、こんな戦闘場面が2/3もあってしかもすごい活劇だったけ??その意味ではDVDの小さい画面や、シネマートもスクリーン➁の公開回もあるようだが、そちらで見ないで大画面にして正解?。火薬をどっさり使い、馮小剛映画みたいに手足が飛んだりはしないのだが、さらに大迫力で死体の山が築かれていく光景にちょっと辟易しつつ、あ、ジョン・ウ―は『赤壁』の現代版を作りたかったのかなと思う。
日中戦争から国共内戦の時代の中国3組の男女の関係が描かれるが、1集の範囲では国共内戦中で妻を台湾に避難させる国民党軍の雷将軍(黄暁明、妻は韓国女優のソン・ヘギョ)、家族手当をもらうために行きずりの相手に頼み全家福を撮る兵士(佟大為)と、夫を兵士として送りひとり生活にあえぐ行きずりの女である妻(このpartが章子怡で丁寧に描かれる)。あとは雷と兵士が参加する東北の対共産軍との戦いがほぼ全体を占め、台湾人として日本軍の軍医になり、捕虜となったあと、解放されて?台湾に戻る医師(金城)と、その台湾時代の相手、今は日本に帰ってしまった女性(長澤)の関係はちょっと暗示される程度で、これからこの話にどうかかわっていくのかはイマイチわからない…。実際に上海基隆間で起こった「太平」号の沈没に題材を得て中国の「タイタニック号」とも言われた映画だが、そこにこの3組がどうかかわっていくのかも…雷将軍は1集の終わりで戦死してしまうみたいだし…台湾では受けたが、中国では大コケだったとかのこの映画、そうだろうなあ…。戦争場面もどちらかというと視点は国民党軍寄りで共産軍はあまりかっこうよくないし。もう一つ、チラリチラリとワンシーン出演で高捷とか楊佑寧とか尤勇、それに楊貴媚とかがチラリチラリとでてくるのもさすがジョン・ウー?
(6月13日 シネマート新宿)

➈幸福なラザロ

 監督:アリーチェ・ロルヴァケル 出演:アドリアーノ・タルディオーロ アルヴァ・ロルヴァケル ルカ・チコヴァ―二 二コレッタ・ブラスキ 2018イタリア 127分

「幸福な」というよりはやはり「よみがえりのラザロ」かな?とはいうものの、そういう題をつけるとネタバレになってしまいそうな内容か…。1980年代外から隔絶されたインヴィオラータ村(「汚れなき村」の意)で、すでに小作の法律がなくなっていることも知らず領主のデ・ルーナ侯爵夫人に搾取される村人たち。そこに暮らす孤児のラザロ。よく働き、疑いを知らず、少し皆に軽んじられている。村にやってきた公爵夫人の息子タンクレディは母への反抗意識もあり自らの誘拐事件を演出する。人里離れたラザロの隠れ家でラザロの差し入れなどの助けを借りて山籠もりするが…ラザロの発熱、その後山に行き崖からの転落、一方村はタンクレディの捜索に入った官憲の手で、公爵夫人の不正も発覚、村人たちは村の外に保護されることになる…そして転落した崖下で狼によって目覚めさせられる?ラザロ、村に戻ると今や村は無人、なぜか侯爵邸も荒れ果て…ラザロの時を置いた復活というか、浦島太郎劇みたいになる。あ、やはりイタリア映画の宗教性を感じさせられる。ラザロ役は高校生から抜擢されたせいで、天使が青年期を迎えたような風貌の美少年だけどなんか胸毛がシャツからはみ出して生々しく、将来どうなるかと思うとちょっと辛いものがありそう…。
80年代の村娘アントーニャとその幼い息子、そしてタンクレディが後半20年?を越えて別の役者(監督の姉、様々な映画への露出度きわめて高いアルヴァ・ロルヴァケルら)によって演じられ、時を超えたラザロの無垢とそれに伴う事件ーとそして奇跡が語られる。とはいっても現代のこと、必ずしもすべてが至福の体験になるわけではないが、なるほどねえ。実際の詐欺事件(80年代)をベースにしているが、そこにキリスト教がからむというのはさすがにイタリア映画の感を強くする。71回カンヌの脚本賞。前半後半少し味わいが断絶している感じだが、長さは感じない。(6月14日川崎市アートセンター・アルテリオ映像館)


➉ビル・エヴァンス~タイム・リメンバード

監督:ブルース・スピーケル 出演:ビル・エヴァンス ハリー・エヴァンス ジム・ホール ポール・モチアン  ジョン・ヘンドリクス 2015米 84分

名ジャズピアニスト、ビル・エヴァンスの記憶を彼と付き合いがあったり、家族(おもに兄の妻や子供)が語り、それぞれの時期の彼の演奏やトリオの姿などを見せる、要は伝記映画? ビル・エヴァンスやジャズ好きの人にはたまらない映画なんだろうなあと思う。ドラッグ中毒だった天才の破滅的な映画?と思ったらそうでもなくて、最後も中毒治療に向かう車の中での急変による死、そして演奏活動は最後まで乱れなかったとすれば、すごい人ではあるし…、たくさん挟まれる演奏も楽しめるけど…(6月14日川崎市アートセンター・アルテリオ映像館)


⑪リアム16歳 はじめての学校

監督:カイル・ライドアウト 出演:ダニエル・ドエニー ジュディ・グリア シオバーン・ウイリアムズ アンドリュー・マックニー 2017カナダ 86分

全体に喜劇仕立てになっているのでなんとか耐えられるのだが、学校に行かず母の家庭教育で育った16歳の少年リアムが、高卒認定試験を受けに行った高校で義足の少女に一目ぼれ、認定試験をあえて不合格になって少女のいる公立高校に入るという話。宣伝ではピュアな少年とされるが、言ってみればピュアにマザコンで、恋する少女が義足という必然性も感じられないし、おまけに彼が高校に入るには、長期欠席中の別の少女マリア・サンチェスの枠でなら認めるとかいう、で、授業中もマリアと呼ばれたり、この少女がいわゆる白人?でなく多文化クラブの一員だが、リアムは白人なので入会を認められないとか、途中で彼女が死んだということで、正規の在籍が認められるとか(この辺は映画的ひっかけで、マリアは死ぬわけではなく、最後はここだけはなるほどね、という展開で終わる)なんかごちゃごちゃ彼を囲む要素がいかにも現代風を装いつつ、なんとなく差別感も漂うという感じで、なんか最後まで、どこかキモイキモイと思いながら見ていた。ホームスクールで育った少年を皮肉っているのか、その順応性を称揚しているのかわからず、なんか中途半端なのよね…。ま、そういう映画かもしれないとは思いつつ時間が合ったので見たのだが。(6月14日川崎市アートセンター・アルテリオ映像館)


⑫亡命

監督:翰光 企画・制作:山上徹二郎(シグロ)編集・制作:ジャン・ユンカーマン

出演:鄭義 高行健 王丹 胡平 張伯笠 楊建利 王克平 馬德昇 2010日本 118分

2011年に見たときには、「亡命成功者」の映画?と思ったのだが、その後10年近く、習近平の独裁政治・言論統制が進み、中国人が口を閉ざしてしまっているような現況では、亡命して外で自分の望郷の思いを封じながら発言を続けているような人々の世界への働きかけは意味を持つ。したがって天安門30年のこの時期にこの映画が再上映されることの意義が大きいと感じる。この映画の中で08宣言や劉曉波の存在が希望として語られ、王丹が経済化の進む中国状況について「市民社会」が生まれ、民主化は進んでいくはずと楽観的なのが印象的で、彼は10年後の今、どういうふうに中国社会を見、どういう方向に進もうとしているのか気になるところだ。    (6月15日 ポレポレ東中野)


⑬バーニング・劇場版

監督:イ・チャンドン 出演:ユ・アイン スティーブン・ユアン チョン・ジョンソ  2018韓国 148分

昨年暮れ?にNHKで放映したTV版を見ていたが、今一つピンとこない感じだったし、と思い劇場版を見る。前半はほぼTVで覚えていた通り。でも後半、ヘミ(女性)が消え、ベンの不穏な雰囲気、翻弄される主人公ジョンスというあたりはTVとは格段に違っておどろおどろしく美しくという感じで最後まで突っ走った。衝撃的な最終場面まで、どうしてこうなるのかが腑に落ちる。とはいえもちろんヘミの行方は最後までわからないが…。またTVでは見落としたのか、あるいは意図的に強調されなかったのか、ジョンスの家が38度線近くのパジェで、北朝鮮の宣伝放送が聞こえてくるという設定も、北と南(というか北に対置する南)、農村と都市(どちらも共同体は崩壊している感じ)、貧しく職もないジョンスと、同じような状況なのだけれどなんかフワフワしているヘミ、そして何をしているのかわからないが豊かな暮らしを享受しているらしいベンのミステリアス(彼は唯一新しい人間関係を求めているようにも見えるが、それは旧来的な共同体ではもちろんない)との逮捕とか、それらが存在する中で不安に漂うジョンスとか、村上春樹の原作を現代の韓国のなかに置くという試みの効果で、長い映画だが(おまけにヘミの行方不明と結末のほかにさしたる物語の展開があるわけでもなく、むしろビニールハウスを焼く焼かないかというのも心理的な展開)長いとも感じず148分を引っ張っていかれた感じ。(6月16日 下高井戸シネマ)


⑭ザ・クロッシング(太平輪 彼岸)part2

監督:呉宇森 出演;黄暁明 佟大為 金城武 章子怡 ソン・ヘギョ 長澤まさみ 楊佑寧 楊貴媚 エンジェルス・ウー 2014(5?)中国

シネマートではpart1,2の連続上映プログラムになっていて、2を見に行くと、1の終了後狭いロビーにわらわらと中高年女子とその連れ?みたいな男性があふれ、驚く。1週間前に1を見たときにはけっこうスカスカだったのに、今日は広い会場にそこそこ人の入り。ふーん。が、この映画、2は前半は1のダイジェスト?1で見た場面の繰り返しが多く、連続で見ると退屈してしまうかも・・・言い方を変えれば延々と2時間半の長尺2本にする必要があったのかどうか。3時間ぐらいでもう少しきっちり締めてまとめてもよかったのでは?しかも、1部主役の黄曉明は1の終わりで死んだ?とされて回想場面のみ。1でちょっぴりの出演で2での展開が期待された長澤まさみも、やはり回想(なかでもキスシーンの分量がやたらと多い)と、金城武扮する医師の想像の中で海に沈んで自殺?(これは、でも海運事故とその中での主人公の不慮の死を描くという意味では、なかなか情感のある伏線になっている)だけで、章小怡の于真とその探し求めている恋人、および彼女と夫婦写真をとる国民党の通信兵佟大平(佟大為)だけがあまりに偶然な出会いの中で物語的展開を遂げ、物語としては台湾の旧家の漢方医一家の兄弟の変転のほうが中心になり、このパートではジョン・ウーの娘エンジェルス・ウーがむしろヒロイン的キーパーソン?として活躍をするというわけで、なんだかどうなんでしょう。そして彼らのうち3人が偶然にも居合わせた1月27日過積載なのに春節(この年、は早かったのかな?)で浮かれて、ろくろく船の面倒も見ない船員たちとタイタニック映画みたいに上部の一等船室でも、人が詰め込まれた船倉の部屋でも踊り歌いの中、太平輪が他の船と衝突をして沈没する場面になだれ込む。タイタニックと違うのは乗組員がまったく描かれず、人々は海に放り出され、そこでは浮き輪や救命や浮かぶ板切れを子どもからも奪って助かろうとする成金的な男たちと、それに抗する主人公たちの抗争みたいな場面が中心であること。だから、金城扮する医師・厳の死は実は溺れたり、力尽きたわけでなく…となる。彼は血を流しながら恋人マサコ(長澤)の面影を見つめつつ海に沈むという、何というかまあ、ここだけはドラマチック!(笑)なジョン・ウー映画的展開!ま、ジョン・ウー、戦争も、恋愛と離別も、反政府運動やデモや弾圧も、台風も、それの大海運事故のパニックも、その中での暴力も全部全部描きたかったんだろうなあと思わされる盛りだくさんにして展開なく?まとまりなく?ま、でもお金のかかった映像は美しさも含めなかなかの見ごたえ・迫力という映画。医師厳が日本軍の軍医でありながら、国民党軍の治療をし、将軍雷の脚の怪我を見る、その上で捕虜となり(これは共産党軍のかな??)奉天に送られ、数年後には釈放されて台湾に戻るが、当局に目をつけられているという展開もよくわからないのだが、その弟が、共産党に傾倒して上海にわたり(ま、これはわかる。長兄は国民党側に殺されているのだろうし)上海では、大規模なデモに加わっているというのがあまりよくわからない。この時期1949年初頭すでに国民党は共産党に押され、南京国民政府もほぼ有名無実状態?になっていたはずで、そこに大きなデモを起こして打倒を叫ぶって?それともそういう市民運動が国民政府を追い込んで中華人民共和国が成立したということ?なんか、この頃の中国の歴史的状況大まかには知っていたつもりなんだが、何にもわかっていないらしい自分に愕然!でも、中国ではこれが娯楽なんだからみんな経緯はわかるということよね…。(6月20日 シネマート新宿)


⑮12か月の未来図(Les Grands Esprits)

監督・脚本:オリヴィエ・アヤシュ=ヴィダル 出演:ドゥニ・ホダリデス レア・ドリュケール 2017フランス107分

国民的な作家を父に持つ、自身はエリート校の教師が、父の出版記念会の席上で、それと知らずに文科省?関係者の女性に教育改革案を述べる。その結果自分の言葉通りにエリート校から郊外の公立中学校に(まあ、底辺校)1年間の派遣教師として飛ばされてしまう。そこには力で生徒を屈服させようという教師とか、まあ多々悩める教師がいて、生徒のほうは人種民族様々な要は移民の子たちが圧倒的。主人公は生徒の名前が難しい,聞いたこともないような発音で、読めず、当然今までのようには自分の思い通りにはならない生徒たちを前に途方に暮れ、生徒がおやつ会で仕込んだ大麻入りクッキーに倒れるなどという」ハップニングや、カンニング事件も描かれる、ここはまあ定番通り?の展開(カンニングを見ないふりをする教師にあれ?とも思わせられるが、ここが次への展開につながるうまさ)だが、この教師のエライところは、まあ、1年間の期限付きだからともいえるが、アーティストの妹の助言も得たり、一生懸命授業のやり方を考えて『レ・ミゼラブル』を題材に生徒を上手に引き込み、地歴の女性教師をも巻き込んで総合授業?を発案構築(この過程が案外リアルに描かれていてなかなか興味深い)なんとか生徒を乗せていくところ。頭の禿げた眼鏡の堅物そうな、エリート校では厳しい一方というようなこの先生の柔軟性がだんだん、魅力的に見えてくる。そして、権威で生徒をおさえ来年には夫婦で学校を辞めると広言する男性教師と恋仲の、この女性教師との間にうっすらと好意らしきものも芽生え…という中で、もっともてこずらせていたが、ちょっと話が分かるようになってきたかなと思えていた男子生徒がガールフレンドとともに、校外学習で言ったルーブル宮で大問題を起こす(といっても悪気のある非行ではなく、向学心、好奇心が芽生えたからこその事件とも言えるが)。学校評議会はこの生徒に退学を勧告、驚いた教師は校則をくまなく研究、法の穴をつく形で校長に彼の退学を取り消させる(このあたりの展開は普通の教師ドラマとは一味違う?姑息な、という感じもするが、さすが超エリート校から来た先生という感じもする、なかなかのユーモア?のある、解決法ではあった。が校長はそれで篭絡?されるものの、生徒本人は戻ってこようとはせず最後ハラハラ…。
いや、定番的な教師ものとはいえ、教室での悩み解決ルートが具体的でこれほどうまくいくかなとは思わされつつ、いかにも教師が考えるというリアリティがあるし、ユーモアもあり、終わり方も品よくあっさりしながらクスリと笑わせるようなところもあり。よくできた映画でした!原題のほうが、やっぱりぐんと合っているという感じだなあ。
(6月22日 川崎市アートセンター・アルテリオ映像館)

⑯パパは奮闘中

監督:ギヨーム・セネズ  出演:ロマン・デュリ レティシア・ドッシュ ロール・カラミ ルーシー・ドゥベイ  2018ベルギー・フランス 99分

こちらは『クレイマークレイマーの感動から今―』というのが惹句で、突然妻に家出された夫が二人の子どもを抱え、仕事では人事課と首を切られそうな部下との間に立って悩む班長という立場で奮闘するという話。でも『クレイマークレイマー』と違うのは、妻がなんで家出したのかということについては妻自身の立場から語られる場面はまったくなく、子どもには「命より愛している」ということばを残したまま、最後まで妻は姿を現さない。その中で母を恋い慕う子どもに悩み、自分の母や妹の手を借り、職場では部下を切って人事課に昇進するか、それとも異動して組合の専任の仕事をするかという岐路に立たされ、結局子どもたちとともに旅立つ(組合の仕事を選ぶ)までが描かれる。主人公オリヴィエの苦労や苦痛はなかなかに真に迫って身につまされる、父とともに母が帰って来るかもしれない家を離れ(入口に大きく移動先の住所を書いていく)旅立つ子どもたちの健気さもなかなかだが、それだけにわけも知らさず消えた妻の真意というものが不信とともに浮き上がってくるのが否めない。もっとも、じつは結構セリフのやり取りだけで話しが展開していくところもあって、とちゅうで時々ふぁあと眠気が襲い、妻の不在の意味がその間に明かされた可能性もなきにしもあらずではあるが。それにしても男手一つの子育てって『クレーマー』以来と言われるほど珍しいのかなあ…。それと組合がからむところは今の日本では考えられないような欧米的というよりヨーロッパ的展開だなあとも思わさる。(6月22日 川崎市アートセンター・アルテリオ映像館)


⑰山猫

監督:ルキノ・ヴィスコンティ 出演:バート・ランカスター アラン・ドロン クラウディア・カルディナーレ  1963イタリア 186分 4K修復版

貴族社会と新興勢力が入れ替わるシチリア―イタリア社会で、今だ権勢は持ちながらも衰退の自覚を持つサリーナ公爵と、その甥で、革命軍に参加、機を見て、革命軍から国軍に鞍替えし、サリーナの娘の自分への思いを知りながらも、新しい勢力として土地の買い占めをはかっている新興ブルジョアの娘と結婚しようとする甥のタンクレディを描く…のだが、あ、なるほどと思ったのは7人もいる公爵の子ども、特に息子の影が薄いこと。彼らは残った父の財産の7分の1はもらえるが、才覚がなければそこから滅びていく側なのだ!、財産を叔父に頼れぬタンクレディだからこそ、えげつなくも見える身の処し方、そしてその甥を無条件に認める叔父の立場が同じ滅びの側として納得できる描き方になっているわけだ。それにしても田舎の別荘へのあたかも行幸という場面もあるが、土地に縛られ彼らに富をもたらしている小作民たちの姿はまったく描かれないし、滅びとはいってもまだまだ金もあり、力ももって新しい勢力もあるような貴族の姿は、そこで一人悶々としているかのようなサリーナ公爵(バート・ランカスターもみるからに壮年の風貌なので、それがいいとも言えるけれど、彼の悩みや自覚が見えるまでには時間がかかる気がする)何しろ186分、終盤は延々と続く舞踏会の一晩で、ビジュアル的にも音楽的にも貴族生活?なので、やはりテンポはタラタラ、せっかちな向きには少々長すぎる感じもして…。(DVDなどで何回か見ているが、劇場はもしかすると初めてかも…。DVDの時は中断したり途中飛ばししていたのかもしれない…ハズカシイが…というくらいの名作ですよね?)
(6月25日 下高井戸シネマ)


⑱沖縄(1部 一坪たりともわたすまい 2部怒りの島)

監督:武田敦 製作:山本薩夫 出演:地井武男 佐々木愛 加藤嘉 中村翫衛門 飯田蝶子 戸浦六宏    1969日本 195分

50年前、沖縄本土復帰の直前に作られた2部作。1部は1950年代、米軍に土地を奪われ平川部落に追われて、米軍物資を盗んで暮らす三郎、彼が知り合う黒人との混血児ワタル、その姉朋子。孫を育てる祖母カマド。米軍の平川集落への土地収奪も進む中、反対運動をする人、自分だけうまく立ち回って土地を失う代わりに米軍で儲けようと画策する人なども含めてさまざまな農民の姿が描かれる中、基地の外の畑を耕している最中に機銃掃射を受けて死ぬカマドを、米軍側が鉄条網の内側に運び、入り込んだことによる自業自得の死とする。それへの怒りと、彼女の墓を基地内に取り残された先祖代々の墓に葬ろうとする村人がクライマックス。2部はその10年後、米軍の恩恵で生きるような国際通りあたりのドキュメント映像も交えつつ、米軍の兵器工場で搾取されながら働く三郎やその昔からの仲間たち、海に落ちた砲弾などを集めてくず鉄として売って暮らしを立てる朋子を中心に、アメリカ留学の後英語教師になった友人や組合活動をする友人、ボリビア移民に行くが夢破れ親も失い帰ってくる幼なじみなどが群像的に描かれ、全島統一のストライキが行われるまで。というわけで、この時代だからすごく類型的な「運動映画」みたいな感じもあるし、ことばはイントネーションなど一部沖縄出身者のもの?と思われるもののほとんどは「正調標準語」だし、役者の演技も演劇っぽく(新劇出身者が多い)ちとクサイ?けど、いや、でも50年たって、この映画で叫ばれてる基地なし全面返還はいまだ果たされていないどころか、ますますきな臭い中で沖縄が頑張っていることを思うと暗澹としつつ、今この時期に改めてこの映画を見られたことに感謝すべきだし、自分ができることを改めて考えなくてはとも思う。悪役の加藤嘉とか戸浦六宏がもう、若々しくて憎々し気ですごい!   (6月25日 ポレポレ東中野)


⑲家族にサルーテ―イスキア島は大騒動―

監督:ガブリエル・ムッチーノ 出演:ステェファノ・アルコシ ピエルフランチェスコ・ファヴィーノ ステファニ・サンドレッリ イヴァノ・マレスコッティ 2018イタリア 107分

まずは、三々五々の登場人物がフェリーに乗り込むところから始まるこの映画、イスキア島に住む両親の金婚式に集まる二人の息子とその家族(なんと元妻・娘・そのボーイフレンド、現妻・娘がはちあわせ)、娘夫婦と息子、そして夫の姉とその二人の息子夫婦(息子の一人は認知症、もう一人は失業中のうえ妻は身重でこの一家が経営するレストランに雇ってくれと頼みに来たらしい)それに、もう一人遠縁の女性とその娘合計19名(金婚夫婦もいれて)が入り乱れる?群像劇。教会で50年の式をして、みんなでパーティをしてその日のうちに解散のはずが、強風でフェリーが欠航、全員が島に閉じ込められ、長男の現妻から元妻への攻撃、長女の浮気者の夫のパリに待つ恋人との板挟み状態、小説家になってはいるもののスランプ状態で離婚してしまった次男と、遠縁の女性との新たな恋の始まりとかその恋に絡まる障害とか、元妻の若い娘とボーイフレンドの付き合いの変容とかいろいろなことが起るが、それらのほとんどが恋愛がらみで、しかも皆元気に丁々発止のディスカッション、いやあ、黙って察するとかいうことがないのはさすがイタリアいいなとも思うが、こういう状況は疲れるよ…とも。最初は登場人物誰が誰やら関係もよくわからず不安で始まり、議論はけっこう理屈っぽい(イタリア映画って結構そうだ)のでちょっとふわっと眠くなったりもしたが、107分で関係もその進捗と結果までちゃんと観客に理解させ見せてしまうのはすごい力!喜劇と銘打っているが、喜劇っぽさはあまりない、結構泣いたりわめいたりで深刻です! (6月26日渋谷文化村ル・シネマ)


⑳スノー・ロワイヤル

監督:ハンス・ペテル・モランド 出演:リーアム・ニーソン ローラ・ダーン トム・べイトマン エミー・ロッサム 2019米 119分

見るかどうかずっと悩みつつ、最終日の最終回(といっても我が家傍のTOHOはすでに1日1回のレイト上映のみ)夕飯後時間を作って見に行く。観客は10人強、私ともう一人を除いては男性、それもほぼ中高年。夜の時間をしっかり一人楽しんでいるという感じ。で、まあ、見に行ってよかったが、バトルアクションを望んでいる向きには物足りないかも?リーアム・ニーソン扮する除雪作業員コックスマンははきわめて穏やか(でも殴ったりするシーンはそれなりに相手を血まみれにしたり、改造した銃でズドンと一発は一応ある)で息子を殺されて復讐を始めるが、それも最初だけで3人殺したところで手下を殺された彼らの黒幕マフィアには地域の麻薬がらみで拮抗する先住民の組織によって殺されたのではないかという誤情報がはいり、そこから二つの組織のにらみ合いになる。コックスマンは3人殺したあとのドン殺しには兄の助言によってプロの殺し屋を雇うが、彼が寝返ったあげく殺されたり、マフィアは殺し屋の情報からコックスマンの兄を誤殺、そこにやる気満々の地元の若い女性刑事がからみ、そこから後は誰が誰にというわけでもなく次から次へと殺しが起り、そのたびに頭に十字架や、先住民の鷲マークその他宗教・民族などを示すマークをつけた被害者の名前が黒バックの画面に白抜きで示されていく。先のコックスマンの復讐殺人シーン血みどろ屋、後には生首シーンなどもあるにはあるが、アクションや殺人の生シーンはほとんどなくて、むしろ一種のブラックユーモアというか不条理劇として、敵も味方もあちらもこちらも殺されていく。最後には雪のリゾート地でハンググライダー?で飛ぶ先住民やくざの墜落?死もあったりして、何かを言いたいというよりは、どんなふうにムダな死をみせるかというところに力点がありそう。そこに黒幕のなかなか優秀なかわいいいじめられっ子小学生の息子の誘拐もからみ、まあリーアム・ニーソン主演の復讐映画だといううたい文句から言えば意表をつくハチャメチャ殺人コミックみたいな感じだが、最初のほうで切実な苦しみだった息子の、誤認による不慮の殺人に対する主人公の怒りと悲しみはなんかどこかに行ってしまった感じがする。基本的に男性映画だが女性の描き方もなかなかに荒っぽく、いきがいい。監督自身のノルウェイでの作品のハリウッドリメイクだそう。ま、私的にはおもしろかった!(6月27日 府中TOHOシネマズ)


㉑岡本太郎の沖縄

監督:葛山喜久 出演(語り)井浦新 2018日本 121分

岡本太郎は1950年代、60年代2回にわたり沖縄に滞在し数百枚のすぐれた写真を撮影した。その写真に映っている風景を現代の同一場面と並べ、また被写体となった人の現在やあるいはその子孫の現在のインタヴューを並べ、70年近い時の流れの中で失われたもの、それにもかかわらず残っているものを示したドキュメンタリー。とにかくモノクロの60年前の写真の景色や人々の美しさ、それを受けつぐ現代の景色や人の美しさが印象的。ここには沖縄戦の影も基地問題もほとんど現れず、むしろそれらの向うにある習俗や生活に岡本太郎の眼は向いていたように感じられる。岡本太郎だけに撮影が許されたという久高ノロの写真とその子孫の語り、失われたイザイホーという神事(すべての女性が神女になる)のようすや、これも岡本一行に許されて撮影したものが週刊誌に流れたという風葬の習俗とかが描かれて、これはこれで興味深いが、ウーン、まあ沖縄のこれも一面?という感じかなあ。とにかく長くて長くてそのあたりはちょっとついていけない感じも。現代と過去のシーンで画面サイズが変わるのも効果的というよりは少し鬱陶しいかも…(6月28日川崎市アートセンター・アルテリオ映像館)


㉒僕たちは希望という名の列車に乗った

監督:ラース・クラウメ 原作:ディートリッヒ・ガルスカ 出演:レオナルド・シャイヒャー トム・グラメンツ ヨナス・ダスラー ロナルト・ツェアフェルト ブルクハルト・クラウスナー 2018ドイツ 111分

久しぶりに見た正攻法の映画。1956年、まだ壁で仕切られる前の東ドイツ。ソ連影響下の情報統制の中でハンガリーでの民衆蜂起に共感した高校生たちが軽い気持ちで授業中に行った黙とうが大問題になり、政府機関が学校に介入して調査が行われ、首謀者のあぶり出しが要求される中で、市の幹部の息子クルト、親友で53年蜂起で苦い目にあった労働者の息子テオを中心に、そのガールフレンドや、ひそかに西側のラジオ放送を高校生たちに聞かせてくれる伯父?を持つ生徒や、赤軍の勇士だった父を誇りに彼の死後母が再婚した義父を憎み、しかし実父の秘密が暴かれて暴挙に走るエリックなど、そして、秘密や本音を隠しながら何とか生き延び、子どもたちを不安に思いつつ守りたいと願い、しかし守れない親たちまで描いてぐいぐい引っ張る。全員退学、クラス閉鎖という中で、最後に彼ら1クラスのうち4人をのぞいた生徒は西ドイツに逃げ卒業試験を受けたという実話ベースの話だというが、ここでは壁がまだできる前で、厳しいチェックはありつつも青年たちは西の祖父(東の父は、妻の父をナチスと断じ、これも夫婦や、また父子のある種の断絶になっている)の墓参りに行ったり、なんとか西に逃げて試験を受けたりできたわけだ。若者たちがりりしく軽率だけれど骨はあるという感じで、どの生徒も印象に残る。
(6月28日 川崎市アートセンター・アルテリオ映像館)
遠出かなわず、展覧会三昧?の月末です。



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