【勝手気ままに映画日記】2019年5月

30年来の旧友たちと猛暑のもと、「クジラ山」下でピクニック。ひさかたの心晴れる日


①サンセット②女性の名前③私が神④ポー川のひかり⑤ルチアの恩寵⑥ある日突然に➆アガサ・クリスティ ねじれた家➇ビリーブ 未来への大逆転➈ザ・プレイス 運命の交差点➉RBG 最強の85歳⑪熱帯魚⑫馬皮⑬愛がなんだ⑭ある少年の告白⑮初恋 お父さんチビがいなくなりました⑯コンフィデンスマンJP⑰主戦場⑱希望の灯り⑲台北セブンラブ(相愛的七種設計)⑳嵐電㉑誰がために憲法はある㉒洗骨



①サンセット

監督:ネメシュ・ラースロー 出演:ユリ・ヤカブ ヴラド・イヴァノフ モーニカ・パルシャ   2018ハンガリー・仏     (ハンガリー語、ドイツ語)142分

ネメシュ・ラースローは印象深かった前作『サウルの息子』に続くこの大作でアカデミー賞外国映画賞を受賞している。
『サウル』ではナチスのユダヤ人収容所で死んだ少年を自分の息子に重ね合わせて、ユダヤ式に葬ろうとする一人の男をずっと追い、ある意味で単調な情景の中でクローズアップで写される表情の変化などを繊細に描き出して緊迫感のある画面を作っていたのが印象的だったが、こちらは1900年代初めのころのハンガリー、ブタペストの街、そこにある帽子屋、あるいは伯爵邸、また、行方不明で存在さえ初めて知った兄のいわばアジト?など、結構ドラマティックに変化していく場面の中で、『サウル』の場合と同じくヒロイン・イリスの表情と行動を逐一追っていくという感じで、物語も結構ミステリアス、ドラマティックなのにあいまって、なんかすごく粘着質な描き方という感じで、ウーン、「サウル」の時には生きた手法だと思うが、今回は少し疲れた。その上というか、だからか、最終的にはドラマ部分は観客の想像にゆだねて結論を出さないという描き方の142分。見ごたえはあるが、ちょっと長すぎる感じ。これは腰から沈むような感じのアップリンク・スクリーン3の座席のせいもあるかもしれないが。背中が痛くて参った。(5月2日 渋谷アップリンク)


②女性の名前

監督:マルコ・トウッリオ・ジョルダーナ 出演:クリスティアーナ・カポトンディ ヴァレリオ・ビナスコ ステファノ・スカンダレッティ 2018イタリア 92分

シングルマザーのニーナは家具修復の職場が倒産閉鎖、ミラノから近郊ロンバルディアに職を求め高級老人介護施設のヘルパーになる。ところがある夜施設長のトッリに呼ばれセクハラを受ける。抵抗して逃げ出すが、職を失うのではないかと恐れ、また同僚たちに言うも、皆覚えはあるが事を荒立てず、むしろニーナを退けるような態度に出るのでショックを受ける、と、このあたりの職場や同僚の描き方は、ミラノに住む恋人が自分が養うから仕事をやめないかと持ち掛けるとか、施設長が次の日初対面を装うとかも含めて、なかなかありそうなリアリティだなと思う。悩むニーナを励ます組合の関係者とか、施設利用の元女優?とかもいて、彼女は施設長を訴えることにする。で、施設長側も女性弁護士、ニーナ側ももちろんということで、後半は法廷劇になるわけだが、ウーン、ここの描き方がヤッパリハリウッドのようにはいかないかなあ。途中までは施設長側が優勢なのだけれど、いつの間にか逆転して彼や、理事会を援護する牧師は有罪判決を受けるんのだが、いつの間に逆転したのかが多分セリフでしか説明しないのでドラマティックでもなく、ん、ん、ん?と言う感じで終わってしまった。私が寝ていたのかなあ?いや、そんなことはないと思うのだが。で、すごく真面目なドキュメンタリー風(実話風?)要素もある映画だと思うが、今一つその枠を飛び出してほしいという感じは否めない。
(5月3日 イタリア映画祭2019 有楽町朝日ホール)



③私が神

監督:アレッサンドロ・アロナディーオ 出演:エドアルド・レオ マルゲリータ・ブイ ジュゼッペ・バディストン 2018 イタリア

笑いどころがいっぱいある喜劇で、実際に笑って見たのだが、その割に皮肉っぽさ優勢というか楽しめるという感じではないテーマ設定で、しかもこれもけっこう理屈っぽいセリフ劇なのではるか遠くの縦書き字幕を見るのに疲れ、途中意識がふっとなってしま凧とも何回か…。ローマで簡易宿泊施設B&Bの経営に苦しむマッシモ(怒れる教授たちの主演、エドアルド・レオ)が、宗教施設には税金がかからないなどの特典を知り、新しい宗教を立ち上げ節税・経営の改善をはかろうとする。彼自身には自分の宗教に埋没するなどという意識はさらさらないが、新興宗教の立ち上げは思いの外うまく行き、姉や、恋人までもがはまって行き、自分では今さらどうにもならないところで主人公があたふたするという話。しかもこの宗教、まさに「私が神」で信じるものは自分だけという教義を持っているという、笑っていいのかオソロシク思ったほうがいいのか…着想的にはなーるほどだけれど、オウムやさまざまな新興宗教を見る目からはやはり、心からは楽しめない映画だと思った。ま、もちろんそれがねらい目だろうけど。
(5月3日 イタリア映画祭2019 有楽町朝日ホール)


④ポー川のひかり

監督:エルマンノ・オルミ 出演:ラズ・デカン ルーナ・ペダンティ アミナ・シエド 2006イタリア 94分

読書・学問が本当に人に満足を与えるものなのか、それとも1杯のワインを友人と酌み交わすほうが幸せなのか…、自らの学問を否定し、図書館の古典に釘を打ち込んで失踪した大学教授、なんてすごくミステリアスな出だしで驚く守衛や、司祭、捜査に当たる警察の描き方もおどろおどろしいのだが、その割に失踪した教授は、住み着いたポー川の川べりに施設ができて不法に住み着いていた人々に立ち退きが迫られるというあたりまではきわめて穏やかで、人々にも好かれ慕われと、対比だからそうなんだろうけれどちょっと??という感じに描かれる。住民に課せられた罰金を払おうと自分の残してあったカード(すでに支払い停止になっている)を使おうとして所在発覚、つかまって司祭と問答というあたりがクライマックス? ウーン、読書こそ映画の中の人物ほどにはしていないけれど、PCとともに暮らす?映画ばかり見ているわが人生は?と思わず見ながら考え込む。なんだろう、わりとあっさりしていて、主張はセリフに込められているにもかかわらず「見せる」のは人々の暮らす川辺の景色、あるいは、最後まで現れない教授を待ち続ける人々の風貌のせい?        (5月4日 イタリア映画祭2019 有楽町朝日ホール)



⑤ルチアの恩寵

監督:ジャンニ・ザナージ 出演:アルバ・ロルヴァケル エリオ・ジェルマーノ ハダス・ヤロン ローザ・ヴァンタッチ 2018イタリア・ギリシャ・スペイン 110分

ルチアはシングルマザー(パートナーはいるが、ケンカして彼が家を出ていくシーンから始まる)の測量士。ある時測量を頼まれた土地が、過去の地形図とは食っていて、不審な状態であることに気づく。上司は取り合ってもくれず、悩む彼女の前に、青いベールをかぶった女性(難民かと間違えるような様子だが、どうもマリア様?)が現れ、この土地に予定のプロジェクトを進めてはならない、人々に告げよと彼女に言う。このマリア様、ルチア以外には誰の目にも見えず声もきこえないのだが、けっこうオテンバで、ルチアとつかみ合いをして彼女を突き飛ばしたり、噴水の池の中に叩き込んだりして、神出鬼没という感じで、彼女に問題を明らかにして、開発を中止させるように迫るのだ。困惑するルチアだが、他の人には分ってももらえず、宙ぶらりん。そのうち、ある日街には水があふれだし…?ウーン。女性が労働の場で軽んじられて意見も聞いてもらえない状況を描いているという意味では前日の『女性の名前』と通じるところもあるが、外で働く測量士という設定と言い、このマリア様の出現といい―神秘主義的なものとか宗教が、イタリアの世界に深く食い込んでいることを今さらながら感じる。外での測量シーンや、最後の地下洞窟?シーンなど、開放的、自然主義的な情景もなかなかの見ごたえで面白かった。それにしても『私が神』や『ポー川』などと合わせてみると、イタリアの社会でのキリスト教の位置づけの重さに今さらながら感銘を受ける。受けざるを得ない。
(5月4日 イタリア映画祭2019 有楽町朝日ホール)


⑥ある日突然に

監督:チーロ・デミリオ 出演:アンナ・フェリッタ ジャンピエロ・デ・コンチリオ マッシモ・デ・マッシオ       2018イタリア 88分

30代前半の若い監督のデヴュー作品は、精神的に不安定で、別れた夫や、息子に依存して生きる母とともに暮らしながら、午前中は母とともに小さな畑で仕事をして野菜を売り、午後はサッカー練習、夜はガソリンスタンドでバイトをして生活を支え、学校にも行けない17歳の息子を、徹底して息子の視線で、息子に寄り添うカメラ(クローズアップがここでも多用されている)で描く。母に甘えられ、別れた父からはスポイルされ、それでも母を支えて健気に生きる少年に、パルマのユースチームに入るチャンスが訪れる。母とともに街を離れ新しい生活を期待する少年はガールフレンドとの仲も清算して深入りしようとしないが、母のほうは暴力的に自分を拒む元夫のもとに復縁を迫りに行くことをやめられない。そして…。4月に見た『ナポリの隣人』(2018)でも直情的に悲劇的な結末へと突っ走り、残されたものを絶望に落とし込む家族が描かれたが、この映画もそうで、少年が最後に絶望のどん底で街をさまよう場面で終わり。彼は自由になって一人ユースチームに旅立てるのか、いや、孤児となり施設に入らなくてはならないのか…。見ながら一緒に悩んでしまうような映画だった。それにしてもイタリアの貧しいティーンエイジャーの暮らしぶりや、ことば遣い相当に荒れてる感じではあるなあ…。 
(5月4日 イタリア映画祭2019 有楽町朝日ホール)


➆アガサ・クリスティ ねじれた家

監督:ジル・バケ=ブレーネル 出演:グレン・クローズ テレンス・スタンプ ステェファニー・マティーニ オナー・ニープレイ ジュリア・サンズ 2017英 115分

雰囲気としては1950年頃のイギリスの旧家大邸宅の人間模様を、現代の私たちの目から見たら、かなりそれなりに端正に映しだしているように思う。大富豪の死、他殺が疑われ孫娘が元カレの視点人物チャールズ・ヘイズワード(いかにもイギリスの古典的探偵みたいな名)に捜査を頼む。ほんとかどうかわからないが、この時代のイギリスには警察が踏み込む前にその依頼を受けて捜査をする探偵がいた?そういう感じで彼はその旧家に乗り込む。そこには死んだ富豪の若い妻、先妻の姉?、と二人の息子の一家が暮し、それぞれが思惑を持ち、それを探偵が聞き出す。ウロチョロするのが長男の末娘ジョセフィン(2004年生まれのオナー・ニープレイ『マイ・ブック・ショップ』(これも4月。2017)でもうまいなあ、と思ったが、ここでもかわいいけれどエキセントリックな少女を印象的に演じる)そして、何かわけありげな、モグラを撃ち殺すような暴力的?な雰囲気も持つ先妻の姉(グレン・クローズ)と、この二人がキーとなると、話の展開は読めてしまうが、まあその通りに話は進む。もともと原作を読んでいる人ににはネタばれだから、まあいいのか…。ただ、例えば『Yの悲劇』(エラリー・クイーン)だったら13歳の子どもには「instrument」を鈍器でなく楽器としか解釈できなかったとかそういう必然性があるのだが、この映画ではそういうところがなく、少女はいかにも用意周到で破綻もなく、大伯母だけが見破る?のもなぜかよくわからない展開。物語が少女のモンスター性だけに依拠している感じがある。探偵役はなんだか情けなく。このあたり原作通りかな…大伯母の解決も予想はつくものの、ハラハラドキドキはさせる。(5月6日 川崎市アートセンター・アルテリオ映像館)


➇ビリーブ 未来への大逆転

監督:ミミ・レダ― 出演:フェリシティ・ジョーンズ アーミー・ハマー ジャスティン・セロー キャシー・ベイツ    2018米 120分 

1956年ハーバード法科大学院に入学したミセス・キンズバーグ(すでに結婚していた)は同じ法科大学院の先輩である夫が病に倒れると看病・子育てしながら、夫の代わりに授業に出、自分の勉強もし、夫が回復してニューヨークに職を得るとコロンビア大への転学を求め、得られないとやめて?コロンビア大に入り直して首席卒業。しかし女性ゆえの弁護士の職は得られず、大学で法学部の教授になる。その彼女が、70年代男性の介護費用控除が認められないという法律に対抗して訴訟を起こし男女平等の法的権利を勝ち取るという話。最高裁判事にまで上り詰め活躍している女性の実話で、女性が置かれた被差別的環境の描写とか、その中での超人的なガンバリとか、それでもうまくいかない法廷技術とか、なかなかリアリティがあって173もあった差別的(もちろん保護の名のもとに、ほとんどは女性の側に不利な)法律が変わっていく礎になったという映画なんだけど。小柄で可愛らしい雰囲気のフェリシティ・ジョーンズ演じるルースが、料理は下手とはされているものの、夫を支え子育ても頑張るスーパーレディに設定され、大柄なアーミー・ハマーがあくまでも妻をバックアップする同業者であるとか、また、映画で違憲とされる法律が「女性の残業禁止」だったりするところは、ウーン70年代だったから無理はないんだが、やっぱりなんか努力はもちろんしているけれど恵まれた人の話でもあり、「これでいいの?」という感じがしなくもない。法廷場面で、最初押され気味のルースが静かに過去を振り返り、女性に果たせなかったことをあげて社会の変化に法も変わっていくべきだと述べるシーンは、静かで、しかし説得力があってよかった。
(5月6日 川崎市アートセンター・アルテリオ映像館)


➈ザ・プレイス 運命の交差点

監督:パオロ・ジェノヴェーゼ 出演:バレリオ・マスタンドリア マルコ・ジャリ―二 アルバ・ロルヴァケル サブリーナ・フェッリ 2017イタリア 101分 

ローマにある「ザ・プレイス」(この映画ができてから舞台となったカフェは「ザ・プレイス」と名を改めて実際に営業をしているとか)という名のカフェの奥まった片隅に陣取って、分厚い1冊のノートを手に客の相談に応じる男。客の希望を聞き、それをかなえるための課題(他人を殺せとか、爆弾を仕掛けろとか、結構無理難題も)を出す。訪ねてきて課題を与えられる客9人。それぞれの希望と課題が彼ら自身は知らないところで絡み合い、結果としては課題を果たし希望が成就する人もあれば、課題を果たせず希望をあきらめる人もでてくるという、それとは知らずペアとなった課題と希望の中で片方は課題をはたし希望を得るが、片方は課題として他者の希望を満たすことにより自らの希望は果たせないが、自分の希望を見直す契機となるとか。ほとんどはこのカフェでの客との対面シーンで話しが進む、舞台劇仕様のドラマで、終わってみると仕掛けはすごく面白く、希望と課題の絡み合いになるほどとも思えるが、体力がない状態で見るとすべてセリフ劇なので、途中はちょっと疲れてしまった。どういう映画か予習をして、体調も整えじっくり見るべき映画かも。2018年イタリア映画祭上映作。 (5月9日 ヒューマントラストシネマ有楽町)  


➉RBG 最強の85歳

監督:ジュリー・コーエン ベッツイ・ウエスト 出演;ルース・ベイダー・ギンズバーグ ビル・クリントン    2018米 98分 

➇『ビリーブ 未来への大逆転』のヒロイン、ルース・ベイダー・ギレンバーグの、こちらは本人を追ったドキュメンタリー・フィルム。85歳の彼女の筋トレシーンから始まるのだが、とにかくこれが相当ハードで迫力満点。ご本人も、今はカリスマアイコンになるほどのかっこいい「老婦人」ではあるが、昔はフェリシティ・ジョーンズのような可愛らしい系というよりは、人目をひくようなきりっとした美人であった…。人生の流れとしてはドラマが結構忠実に(まあ、生きている人だから)描いていること、ただしドラマのほうが介護問題で男性の権利を訴えて男女平等を主張したのに対して、このドキュメンタリーでは男性への育児手当の主張であったことが描かれ、これはドラマのほうが現代の社会状況に合わせて万人に訴えるテーマ(高齢化社会の介護問題)にシフトしたということだろう。70年代、確かに育児問題は私たちにとって大きな問題だった。今だってそれは変わらないのだが…、時代は我が世代から上?の老化に従って進んでいるのだなという気もし、その意味では女性の軍事大学への入学の権利について争った彼女の「時代性」、ドラマでは感じた、これでいいの?感は、時代の中で克服されていくベき、つまりその時代においては主張されるべき意義があったとも考えられる。実映像やがそれだけの迫力をもって迫ってきたということだろう。老いたヒロインが今なおヒロインとして称揚されている社会的現実に暗澹とするところもあるにはあるのだが…。
(5月10日 新宿シネマカリテ)


⑪熱帯魚

監督:陳玉勲 執行監制:王童 出演:林嘉宏 席敬倫 林正盛 文英 阿匹婆 1995台湾 108分

久しぶりに見たのだが、やはり面白く、よくできている。同じように考える人が多いのか、台湾巨匠傑作選のK`sシネマ84名は満員札止め(私は3時間半くらい前に切符を買いに行き41番だった。この映画館はどの席でも比較的見心地?が変わらないのがうれしい)。受験と誘拐を絡めて、コメディタッチで、当時(今も?)の格差社会のありようをそれとなく批判。映画の中では蛇女の見世物をしている叔母さんはじめ、誘拐犯(主犯はあっという間に死んでしまって取り残され、困り果てる従犯)一家の造形(人の好さ)がなかなかで、誘拐された中学生の少年の「受験のチャンス」に白熱する街の声、声のむなしさ、その子の受験指導に励む誘拐犯一家(置き去りにされている一家の少女も)など嘉義近くの東石港の、この貧しい大家族に紛れ込んだ台北の都会っ子の二人の紛れ込み具合の描き方そのものの皮肉性と、ぐんぐん引っ張られる感じ。後の台湾ロードムービー(『ゴッド・スピード』『大仏+』陳玉勲自身の『祝宴シェフ』も、『あなたなしでは生きていけない』とか)のさきがけでもあるのかなと思われるが、それらの映画にあった一種の影のようなものがこの映画でもしっかりありながら、あまり感じさせないところもいいかも…。
(5月10日 新宿K`sシネマ 台湾巨匠傑作選2019)



⑫馬皮

監督:徐辛(2017山形:『長江の眺め』) 2002中国

中国江蘇省の祭礼を描いたインディペンデント・ドキュメンタリー。馬皮は職業的?な祭祀者(シャーマン)で、半裸に赤や青のズボン、赤いリボンを垂らして、手には金属の杖を持って地面を叩き、村中を踊りながら練り歩く。何よりすごいのは右頬に穴をあけて通した金串を(長いものでは身長ぐらい?)をくわえていること。痛そう!実際に痛いはずで、酒で消毒とか言っているのが痛々しい。ほかに祭りの主催者?である金氏を中心に彼らの祭り遂行にかんする言い争い、祭りに協力はしないが規制はする?鎮政府(共産党)への不満やグチ、そんな感じの祭りの裏側も延々と。そして「神」としてまつられる毛沢東像や斉公とか要は伝統と政治?の矛盾に満ちた祭りの記録で、その題材そのものが興味深い。筑波大・松本氏の解説付き。だがこれは主に、同じように血を流して祭りを盛り上げる?台湾のタンキ―の話。
監督徐辛は山形で2年前に見た『長江の眺め』の監督。また、2007年には新彊ウイグルのカラマイの大火(1994年12月、劇場が火事になり、主催者や保安係ら担当者が先に逃げ出して300人近い小中学生が取り残されて犠牲になった)の遺族・関係者にインタヴューをして事件をあきらかにした『克拉玛依』があるそうだが、こちらは未見。『長江』もそうだが、中国における体制や政治の問題点に対する批判の姿勢が濃厚な監督で、『馬皮』にも、党と祭り主催者の軋轢が描かれ最後に金氏が「次の祭りの委員は民主的に選ばれてほしい」みたいなことを言うあたりに、その片鱗はあるものの、主には祭りの妙を追ったという感じではある。(5月11日 専修大学土屋研究室主催映画会)


⑬愛がなんだ

監督:今泉力哉 出演:岸井ゆきの 成田凌 深川麻衣 若葉竜也 片岡礼子 筒井真理子 江口のりこ 2019日本

この映画、今若い女性(2~30代)に人気で上映館も増えつつあるらしい。普段お子様プログラムが中心の我が家の傍のTOHOシネマズでも上映中とういうので見に行く。平日夜だったせいか、そんなに女子に人気という入りでもなかったが。恋愛至上主義なのに報われない女性と身勝手な相手の男を描いたみたいな映画?と思って、がっくりして帰らなくてはいけないかしらん…と思いつつ行ったが、案外見ごたえもあっていい意味で期待が裏切られた。まあ、そういう映画と言えばそうだし、そういうヒロインの在り方を映画中で批判する目もあるのだが、ヒロインがどうしても相手を好きになってしまい、軽く冷たく扱われても思いきれない自分を案外に客観視し、その結果「愛がなんだ!」という(つきあわないのではない)境地に至る?というのが案外面白く、なんとか終わりまで、彼女を批判一方で見て嫌になってしまうということがなかったのかもしれない。まあ、ヒロイン以外の男女はほとんど、身勝手なまわりを見ようともしないヤツで、そのくせなんか生活が成り立ってカタカナ職業に着いたりしているらしいところがヤな感じではあり、その中で最もイタい女の子と言われているヒロインが一番心理的に現実感があるのだ。原作の力?と思って、未読の角田光代の小説を探しに行くが、我が家近くの本屋はもちろん新宿の紀伊国屋にもなぜか、置いていない(その後アップリンクのショップに置いているのを買って読んだ)。   (5月14日 府中TOHOシネマズ)


⑭ある少年の告白

監督:ジョエル・エガ―トン 出演:ルーカス・ヘッジズ ニコ―ル・キッドマン ラッセル・クロウ ジョエル・エガ―トン グザヴィエ・ドラン トロイ・シヴァーン 2018米 115分

同性愛矯正セラピーの恐るべき「治療」を描いたカラルド・コンリーの実話ベースの原作映画化話題作(こういう題材の映画は予告編も結構センセーショナルな感じに作ってあって)だが、意外に地味?な作りで、同性愛を自覚する主人公主人公ジャレッドも大学の同級生に誘い込まれ恐る恐るという感じだし、いい子で悩みとして両親に告白すると宗教家の父があっという間に手立てして矯正施設に送り込まれ、宗教がらみで狂信的なインストラクターのもと、そこではプログラムに乗っかって演じるのだとうそぶく青年とか、逆にどうしてもプログラムになじめず制裁される青年とかがチラチラ出て来るが、ジャレッド自身はいつ終わるとも知れないプログラムにイライラしつつ、嘘でも同性愛体験を告白しろと迫る指導員に抵抗し、付き添ってきて(施設には入れないが)ホテルで朝から夕方までは彼を世話する(これもなんとも過保護な感じ)母に電話して施設から逃げ出す。母は父が友人とはかり息子を施設に入れたことに抵抗は感じつつ、黙って付き添っていた(これ、ジェンダー問題がらみの映画なのだということもここでわかる)のが、ここで断固息子を救い出し、後は4年後の物語という、なんともうーん、ちょっと安直、お手軽じゃない?とj感じさせられるのもむしろ実話ベースだからかも。施設の同僚青年たちのあっさりているが悩み深げな描き方や、監督自ら演じる狂信的な指導員の優し気な口調かつ不気味なコワさはなかなか。単なる教育過誤というより、宗教による信念として描かれるところがさすが西欧・キリスト教世界である。(5月16日 新宿シネマカリテ)


⑮初恋 お父さんチビがいなくなりました

監督:小林聖太郎 出演:倍賞千恵子 藤竜也 市川実日子 星由里子 2019日本 105分

要は会話のない、愛もあるのかないのかもはやわからないが、互いに孤独や不安をそれぞれに抱えている老夫婦の、まあ和解までを描くということで、そこに妻の飼いネコの行方不明とか、かつて妻の同僚だった女性と夫がこっそり会っている(この辺はちょっと嘘っぽいよな…。いくら好きだった女性でもありえないのではない?)とか、その女性にひそかにライバル意識?を燃やして、偶然に好きな人に見合いで出会ったという僥倖を利用して、いわば彼女を裏切ったという妻の過去とかは、なんかありそうというよりも夫婦をなんとか着地させるための道具立てして設定されている感じで、必然性もなくむしろ無理があるという気も。とはいえ、過去は過去として今、心が通じず、互いに孤独な二人暮らしをしているような老夫婦はいっぱいいるだろうし、過程はともかく和解にいたって会話を取り戻す二人の姿はそういう人々の琴線に触れるわけで、その点ではなかなかに演技達者なさすがベテランの映画という気がした。倍賞千恵子の歩き姿が脚をひきずりすごく老けているのは演技なのか?実際なのか(演技と信じたいが)?ちょっとショックなほど。その点、藤竜也のほうはさささと歩いている。(5月17日 川崎市アートセンター・アルテリオ映像館・招待券鑑賞)


⑯コンフィデンスマンJP

監督:田中亮 脚本:古沢良太 出演:長澤まさみ 東出昌大 小日向文世 小手伸也 織田梨沙 三浦春馬 竹内結子  江口洋介   2019日本 116分

日本のテレビには珍しい題材というか描き方として楽しんだ(とはいっても全回見たわけではないのだが)TVドラマの劇場版。単発でのテレビのSPもあって乗せられた…で見に行く。こういう題材は結末はわかっているわけだから、どこからどんでん返しが起きるかというところがキモなんだろうが、さすが、なるほど、ウーンと思わせるようには作られているかな。どんでん返しの後にさらにもう一回のどんでん返し?もあって楽しめました!香港を舞台にする必然性はないような気もするが、日本の現実社会から一つ離れて非現実っぽくバタバタできるという意味では日本からそれほど遠くもなく、住み心地?もかけ離れてもいない現実社会として香港を舞台にした意味はあるのだろう。それゆえ、登場人物たちはむしろ嘘っぽいけど生き生きと動けたのだとも思う。『インファナル・アフェア』ばりの屋上対決シーンとか、『ゴーストニューヨークの幻』へのオマージュ?みたいなシーンもあったし、ブルース・リーばりのカンフースーツとか、街の風景の撮り方も含め、ここに描かれているのは一昔前の香港という感じで郷愁?もさそわれたし。
(5月21日 府中TOHOシネマズ)  


⑰主戦場

監督・脚本・撮影・編集・ナレーター:ミキ・デザキ 出演:トニ―・マラーノ(テキサス親父) 藤木俊一

杉田水脈 藤岡信勝 ケント・ギルバート 櫻井よしこ 吉見義明 林博史 渡辺美奈 中野晃一 イ・ナヨン パク・ユハ 松本栄好  日砂恵・ケネディ加瀬英明 他   2018米 122分

韓国を中心とする慰安婦問題について日系アメリカ2世の若い(35歳?)作家がデヴュー作として撮ったドキュメンタリー。出演者名の羅列からもわかるように、この問題について「なかった」とする右派・修正主義者・否定論者と、問題視し慰安婦を支持する側とのインタヴューを交互に並べてあたかも議論しているように作られている。慰安婦問題について否定論者が問題とする「20万人と言われるのは真実か」「強制連行はあったのか」「性奴隷だったのか」そして「慰安婦問題に関する歴史教育の意義」などについてそれぞれが語る。
右派・修正論者の勢いの良さは、この撮影が議論としてではなく好きなことを語らせるだけ語らせているからだろう。ただ、その主張の根拠はやはりずさんだし、都合が悪いことには答えたくありませんなどと逃げるし、さらにそのあとに一々反論的に語られる対立学者や運動者たちの論理的な語りを対置すると、この映画の立場ははっきり見えてくるように思う。また、元日本軍兵士95歳の松本氏の経験談や、元ナショナリストとして右派陣営の先頭に立ち櫻井よしこの後継者とまで言われたが、過ちに気づき転向したのだというケネディ日砂恵氏の話などは、やはり修正論者の荒っぽさを浮き彫りにし、この映画の立場を明確にするものだった。まあ、「修正主義」と名付ける時点でそのことは明確とも言えるのだが。
とにかく、自分の立場を明確にして議論を持ち掛けるのではなく、一応中立的な立場として修正主義やたちにも心を開かせ覚えきれないほど多くの対立陣営の話を引き出す、その作者の行動力のすごさというか、今までのなかったような描き方に脱帽。
実際に2006年安倍の教育基本法改悪、教科書検定改悪以来の若者たちが「慰安婦問題って何?」というとか、「日本は特別、アジアの他の民族はだますよりだまされるほうが悪いと思っている」という乱暴な杉田水脈発言の後「騙すのは悪いことです。だまされるほうが悪いとは言えない」と断言する韓国の若者たち(複数)の映像を入れたり、あざといほどだけど小気味よい描き方にも…。
刺激的で面白くて、そして今後の日本の進む道を思うととてもとても怖くなる。自分の立場を明確にしておかなくてはと思わされる映画だった。こういうセンセーショナルな部分ゆえか、トレーラーは右派がいきいきという場面で構成されていて作者は中正の立場だ、みたいなことが強調されているので、わたしも見に行くまで結構、決心が必要で、そういう意味ではなんかトレーラーでひっぱったのか、損しているのかわからないような映画ではある。   (5月23日 渋谷イメージフォーラム)


⑱希望の灯り

監督:トーマス・ステューバー 出演:フランツ・ロゴフスキー サンドラ・ヒューラー ペーター・カース    2018独 125分

旧東ドイツ・ライプツィヒ近郊の巨大スーパー。そこで働く東独時代はそろって長距離輸送の運転手だった中年メンバー。そこに無口で人慣れしない感じのクリスティアンが新人として入り暮らしていく日々を描く。話しかけられコーヒーをおごらされたことから好意を抱く女性マリオンは人妻でしかも夫から虐待を受けている?病休をとる彼女を訪ねて自宅へ行き、あいていた窓から入り込んで家の中を見て回り、入浴中の彼女に気づかれて慌てて逃げ出すというあたりの何か、寂しいストーカーじみた主人公はハラハラさせられつつ切ない。
厳しいが、包容力のありそうな中年の先輩が彼にフォークリフトの運転を叩き込み、自宅に飲みに誘って、戻ってきたマリオンを迎えてやれと意味深い?ことばを残すが、マリオンが出勤した朝、姿を現さない。とこう書くとけっこうドラマティックな感じもするのだが、むしろ地味に淡々と描かれてウーン、クリスティアンも無表情に近くてあまり感情移入できないのだが、まあつらい生を一生懸命生きていて、若いものにも励ましを与えるみたいな登場人物ばかりなので、暗いのだけれど後味は悪くない。
アキ・カウリスマキに比べている映画評を見た気がするが、確かに画面の雰囲気などは近いところもあるが、カウリスマキにあるような演歌っぽい?感情の動きなどはあまりなくて、もっと乾いたというか整った感じかな。何しろ使われている音楽も最初はクラシック(とはいってもポピュラーな「美しき青きドナウ」とか)そしてゴシック・フォークとか、ちょっと意表をつく印象だが、「若い」(よくも悪くも)という感じがする。   (5月24日川崎市アートセンター・アルテリオ映像館)


⑲台北セブンラブ(相愛的七種設計)

監督:陳宏一 出演:許瑋寗 莫子儀 王大陸 黄璐 邱彦翔 2014台湾 116分

台北のあるデザイン事務所を舞台に7人の男女の恋模様を描くというのだが、この映画の見どころはおもちゃ箱のように賑やか煌びやかなビジュアルデザインで、物語としてはどうなんでしょう…あまり重きは置かれていない気がする。
主人公はデザイナーなのだが仕事に関しては今一不本意な状況にあるバーズ(覇子)と彼の上海時代の同僚でその力を見込まれて引き抜かれてきたドロシー、そして顧客のホテル御曹司マイクのまあ、三角関係的恋のさや当てと、その周辺にいるデザイナーや見習いたち、またバーズの友人にしてこのデザイン事務所のオーナーであるアンドリューなどで、それぞれに「社会派詩人」とか「両性冒険家=つまりバイセクシュアル?」「喜劇役者」「少女病患者」などのレッテルが張られて、それぞれのパートが描かれるという形態はとっているのだが、主役の3人以外の物語は途中まで語られるものの、そのまま放置されて回収されない。たとえば初っ端の主役?「女王エマ」は四川出身で田舎から見合い話がきていて、タクシーの中で方言丸出しで故郷からの電話を受ける場面があるが、その物語はそれで終わり、若いアシスタントの阿強と琪子?の間に起こる盗作問題とか、アンドリューのモラハラ・セクハラ問題も提起されるだけで、話の中ではいつの間にやら立ち消え?回収されない感じで、物語が茫漠と広がっている感じ。
最初と最後に火事で大やけどを負うドロシーが出てきて、最後の場面ではバーズとマイクが彼女を挟んで文字通りさや当てをするが、これもビジュアル的には見せるが、なんでそうなるのかよくわからない。なんか登場人物が美しいコマのように動かされている感じなのだ。ま、監督の挨拶では台北を見てほしい、デザインを見てほしいということなので、物語自体には重きは置かれてはいないということは確かなのだろうけれど。変化のある絵画?(5月25日 アップリンク吉祥寺)


⑳嵐電

監督:鈴木卓爾 出演:井浦新 大西礼芳 阿部聡子 金井浩人 窪瀬環      2019日本 114分

大阪アジアン映画祭の見損なった(というか全部今回は見損なったのだが)オープニング作品。製作には京都造形芸術大学の学生も含め参加しているということで、期待しつつ見に行った…トレーラーはそれなりにひきつけたし…。で、ウーン嵐電周辺の街の景色とか空気感とかは出ているんだろうし、8ミリ映像を組み込んだりした意欲的な映像造形も面白いんだが…。3組の男女とキツネとタヌキ?の物語展開がイマイチわからん…。いや、心情はわかるのだが、だから何?みたいな。江ノ電が出てきた妖怪・死神もの?『鎌倉物語』と通じるような怪への接近はあるものの、ホント?そうなの?心の中の問題?というレベルにとどまって、なんか消化が悪いし、3つの関係のうち8ミリを回す若者?と女子高校生?とその仲間の部分は、わたしには展開が理解もできず眠気のみ。井浦・阿部の「大人パート」と、太秦らしい映画がらみの若者パートはちょっと心を残すところもあるのでもう一回見てみようかとは思っているが、なんか結構くたびれた。若手役者は多く造形大の卒業生や学生たちらしく、知った顔がないだけでなく、幾分ぎこちない学芸会風演技のせいもあるかも。あ、でも、すごく真面目に一生懸命作った映画ではある。映画評の中にはすごく高評価のものもあるので、多分私の鑑賞力不足?7月にもう一度見ようと思っている。     (5月30日 テアトル新宿)


㉑誰がために憲法はある

監督:井上淳一 出演:渡辺美佐子 高田敏江 寺田路恵 大原ますみ 日色ともゑ 2019日本 69分

出だしと終わりは渡辺の独演する『憲法くん』、特に「理想」としての前文は前後で、渡辺の迫力ある朗読で強く印象付けられる。間は33年続いて19年に終わりを迎えるという女優たちの原爆朗読劇について、出演し製作する女優たちの話や、舞台での朗読の情景で綴る。渡辺美佐子は港区の笄(こうがい)小学校時代の同級生で初恋の相手(とはいってもことばを交わしたこともなかったとかだが)が広島に転校し、中学校から建物疎開の作業に動員中、原爆で全滅した一人だったということを、戦後何十年もたってからTVの対面番組に出演した際知ったという。その経験を二つを結ぶ軸にこの映画は語られる。
被爆経験者たちが高齢化して世を去り、女優たちも老いて舞台が続けられなくなるという状況の中で、経験の語りが風化していくことを恐れ、後につながるものを求める彼女たちの思いが切々と伝わってくる。久しぶりに自分を振り返って私は何をしているのだ、なにができるのだと考えさせられた映像だった。(5月30日 ポレポレ東中野)


㉒洗骨

監督:照屋年之 出演:奥田瑛二 筒井道隆 水崎綾女 大島蓉子 鈴木Q太郎 筒井真理子 2019日本 111分

50代で亡くなった母(筒井)の葬儀のシーンから映画ははじまる。美しい母の死に顔、棺から離れない長女、幼い子どもを抱えた長男夫婦。明日皆都会に帰るからと、残ったごちそうを隣人に与え、遠慮しながらもだんだん図々しく刺し身も、果物もと言い出す隣人に伯母(父の姉)が一喝する。父は呆けたようにただ妻の残した赤い櫛を握りしめるのみ…というところから4年後、「洗骨」のために再び兄妹が故郷沖縄に帰って来る。ここから映画はいよいよ本題に…。
妹は結婚せずに産もうとする子を妊娠しており、父は相変わらず妻の死から立ち直れない感じでボーっとしているのだが、長男は怒り狂う。しかし実は彼も離婚していることを家族には明かせないという状況だった。家族の不和・ギクシャクが、やがて太っ腹で優しい伯母やその一家の嫁と孫など女どうしの家族の輪の中で長女の妊娠が受け入れられ、そこに都会から長女の相手である(とぼけた)男がやってきたり、酒に酔った父の怪我、そして翌日小魚の群れが来て男たちが総出で網を引くシーンなどを経て、長男は自分の離婚を家族に告白し、一家は洗骨に向かうことになる… 
ということで展開そのものはあれこれありながらも予定調和的?だが、父の奥田瑛二がぼんやり呆けたような親父から、子どもたちの危機?に直面させられ、洗骨に立ち向かうまでの表情の変化、それを叱咤激励し、自分の家族も動員して一家を守り支える姉(伯母)役の大島蓉子の目を見張るような格好よさ、そしてすごく真面目深刻なテーマでもあるにもかかわらずそれをつつむ沖縄の陽光の明るさ、映画の端々にある、ガレッジセール・ゴリとしての?ユーモア感覚(最初の隣人シーンもそうだが、深刻な場面でも見ていて思わず笑えてしまうようなところがしばしばで楽しめる)、終わり方のシュールさ(設定も、最終場面の赤ん坊と母(祖母)の対面も)も特徴的な娯楽作品に仕上がっている。    (5月31日 下高井戸シネマ)







多摩中国語講習会創立50周年記念誌

『華影天地ー電影倶楽部の選んだ中国語圏映画100本』

小林美恵子・多摩中電影倶楽部編(2019・3)

過去15年100回にわたって行ってきた電影倶楽部例会でご紹介してきた映画100本について書いたエッセイ集です。ご希望の方には無料でお頒けしています。


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