【勝手気ままに映画日記】2018年11月

①恋とボルバキア②29+1(劇場版)③十年④日々是好日⑤名前⑥1918劉以鬯⑦東西 BOUNDARY 也斯⑧無名之輩⑨你好,之华·⑩ゲンボとタシの夢見るブータン ⑪エンジェル、見えない恋人 




①恋とボルバキア

監督:小野さやか 出演:王子 あゆ 樹梨杏 蓮見はずみ 井上魅夜 相沢一子 井戸隆明 2017日本 94分

そもそもはTVの『僕たち女の子』と題された深夜ドキュメンタリーで女装する男性を描いたのがきっかけで劇用作品に発展した映画ということのよう。若い女性監督は自らカメラを担ぎ、自費で5年近くにわたってあちこちを飛び回り彼ら(彼女ら)を追ったとのことで、時間も長いし、全体の雰囲気としても劇映画のような統一的な物語の流れがあるわけではないが、その混沌が納得という感じのドキュメンタリー。表記出演者たちは、身体的に両性具有的な要素を持った人、性同一障害として自身の男性という性に違和感を持って生きてきた人、女装はするが性認識は男性だという人、また、女性性を生きようとする元男性だが自身がレズビアン(女性を愛してしまう)であることに気づく人などさまざまで、トランスジェンダーとかクロスジェンダーとか、あるいはクロスドレッサーとかいってもそれぞれが違うひとくくりにはできない存在である(年齢もさまざまだし)ことを強く感じさせられるとともに、どんな存在であっても自らの愛や感情を貫こうとするものすごく真面目な意識の持ち主たちであるのだなということは強く感じさせられる。性的には一応「ストレート」だと思っている自分はそういう意味では実に不真面目で「性愛」なんて信じてないところもあるしなあ…。ともやもやも残りながら…。
川崎市の「しんゆり映画祭」でみた1本。新百合ヶ丘は「日本映画学校」の拠点で、小野監督もその卒業生。しかし内輪こじんまりの映画祭なのでトークショーがやたらと長く内輪話みたいなのと、監督へのプレゼント贈呈とか、悪いけど余計な儀式?が多くて疲れる。映画だけで勝負しようよ、語ろうよというところ。「ボルバキア」は雄雌変異するというバクテリアの一種だとか。なるほど!の題名。
(11月2日 川崎市アートセンター・小劇場 しんゆり映画祭)


②29+1(劇場版)
脚本・演出・出演 キーレン・パン(彭秀慧) 出演:ベン・ヨン(楊尚斌)ラム・ザーックアン(林澤群)2018(2013)香港 2時間30分

映画『29+1』(邦題『29歳問題』)のヒットで、急遽上映が決まったという2013年の劇場版。キーレン・バンの2役ほぼ一人芝居で、どんなふうに演じるのかなと思ったが、その芸達者ぶり、心情を表すダンスというか身体パフォーマンスや、観客を引き込んでの化粧品プレゼンテーションの皮肉たっぷりの場面とか、あ、こんなふうに料理しているんだと見入ってしまう。ピカデリーのけっこう大きな劇場がほぼ満員。8割は映画を見ているという人だったが、映画は知らないはじめて見たという人も30人くらい?はいたように思う(後のトークショーでキーレン・パン自身が観客に問いかけた)映画は『由零開始』のレスリー・チャンの印象が強かったが、こちらはビヨンドとか8~90年代の香港サブカルチャー満載という感じでそれもなるほど…。30歳を目前にした女性の生き方の物語だが,舞台ということで映画より抽象化されているせいか、年齢を越えて生き方や人生を考えさせられるという感じは強く、楽しみつつ身にもつまされた2時間半だった。
(11月4日 新宿ピカデリー特別上映)


③十年
エグゼクティブ・プロデューサー:是枝裕和   2018日本 99分 

『PLAN75』

監督:早川千絵 出演:川口覚 山田キヌヲ 牧口元美 美谷和枝
75歳以上の低所得層高齢者に「プラン75」として安楽死を推奨する社会。勧誘にあたる公務員と出産間近な妻、認知症で徘徊するその母…

『いたずら同盟』

監督:木下雄介 出演:國村隼 大川星哉 辻村羽来 中野龍 
子どもたちが耳脇に遠隔操作される器具をつけて管理される小学校。学校で飼われる老馬に愛着を示す子どもたち。ある日病気のその馬に殺処分の命令が下されると子どもたちは馬を逃がし、森に駆け込んでいく…

『DATA』

監督:津野愛 出演:杉咲花 田中哲司 前田旺志郎  三浦誠己
まもなく再婚しようとしている父と暮らす女子高校生が、覚えていないほど幼いころに死んだ母の生前データの入った『デジタル遺産』を父には内緒でボーイフレンドの手を借りて入手する。するとそこには思いもかけなかった母の姿と、自分の出生に関する秘密?が隠されていた…

『その空気は見えない』

監督:藤村明世 出演:池脇千鶴 三田りりや 田畑志真
放射能による大気汚染を心配しかたくななまでに子どもともども地下に住もうとする母親。しかし子どもは友達の影響もあって外の世界にあこがれ、とうとうある日外に歩みだす…

『美しい国』

監督:石川慶 出演:太賀 木野花
若い広告代理店社員は地下道に貼られる大きな徴兵制のポスターの貼り方に細かい文句をつける。文句をつけられた金髪の若い男・中村は、子どもが病気?で早く家に帰りたいが…。会社に戻った社員は、今貼られているポスターに国からクレームがつき、新しい図柄に変更するということで、以前のポスターを描いたベテランデザイナーにそのことを告げ、謝る役割を押し付けられ、しぶしぶ出かける。デザイナーは彼を歓待、仕事を手伝わせ夕飯をふるまい、ポスターに込めた思い(先の戦争で戦史した父にまつわる「反戦の想い」)を語り、若い人に思いを託すという。次の場面、マンガっぽい図柄の新しいポスターに張り替えられれている地下道、やってきた社員が姿の見えない中村について聞くと、ことばを濁し彼は徴兵されたことが示唆される…


というわけで、香港版、タイ版と違うのはすべてに子どもがからんでいること、そして若い世代や子どもたちへの期待や希望が込められていることだろうか…、その点でとってもまとまりの良い、きれいな作品群に仕上がっていてごつごつ、おどろおどろした感じや、アートっぽい感じはあまりない。それは日本という社会の甘さなのか、それとも成熟なのかはわからないけれど。見やすい作品に仕上がっているのは確か。でも、ほんとにそれでいいのかという感じもしなくはないし、香港版をはじめて見たときの衝撃も、タイ版のやりすぎ?果たして『十年』にふさわしい?という感じももちろんない。
(11月8日 テアトル新宿)


④日々是好日
監督:大森立嗣 出演:黒木華 樹木希林 多部未華子 鶴見辰悟 鶴田真由 2018日本

大学生で20歳の典子(原作者森下典子がモデル?)と従姉美智子(多部未華子のほうが黒木華より1歳くらい?年上らしい。多部は子役の印象が強いからすごく若く思っていたのだが)、お辞儀のすばらしい武田先生(樹木希林)にお茶を習い始めてからの、なんと24年間を、お茶の稽古のシーンを中心に淡々と描く。淡々ととはいってもそこで描かれるのは大学を出、就職、やがて結婚退職し田舎に戻ってお茶もやめる美智子、就職試験に失敗し、ライターとしてバイトをしながら、結婚を約束した人に裏切られる失意、1年後の新しい恋、一人暮らし、就職試験の失敗、そしてダイスキながらいつでも会えると思い、誘いを断っていた父の突然の死などで、二人の若い女性の背景には描かれなかった部分が大量にあるのだろうと思われるきわめて抑制された、ドラマというよりエッセイのような作風で、武田先生の謎の過去にさえ触れられる。まあ、ドラマを見るというよりは、そのときそのときに見せる女優達の表情に感じ入り、ことばはちょっと思わせぶりというか臭いところもあるが、それはそれで味わい、お茶の作法も丁寧に描かれている。武田先生のお茶室は、昔々学生時代通っていたお茶の先生のお宅にそっくりなたたずまい(この先生は、私の就職1年目に亡くなった。まだ60代だったと思うのだけれど。品はよくて着物が似合い、でも気さくでユーモアもある、武田先生を見ていると思い出されるような…。あ、でも袱紗の扱い方とかが私が習ったのと違うなと思って見ていたら、こちらは表千家の作法だったよう。懐かしさも感じさせられる自然の美しい映画だった。
(11月9日 立川シネマシティ)


⑤名前
監督:戸田彬弘 出演:津田寛治 駒井蓮 勧修寺保都 松本穂香 筒井真理子 西山繭子 2018日本 114分

3月の大阪アジアン映画祭のクロージング作品だったが見ることができず気になりつつ、そのまま忘れていたが、下高井戸シネマでようやく見る。偶然時間が合って見に行ったら監督、津田寛治、勧修寺保都のトークショーあり、ちょっとびっくり得した気分?だが、映画そのものはどうなんだろう…道尾秀介原案の一応ミステリー仕立てになっていて、いくつもの名前をもって自分を偽って生きている一人暮らしの男のもとに、娘だと名乗る高校生が現れ…要はその高校生(駒井蓮がこれはなかなかの好演)の「本当の?」自分探しというかそれに中年男が巻き込まれていくというわけだが、演劇部に所属し演劇仕立てで劇中劇を演じるように本当の私ではない私を自認しながら生きていく少女は、青臭いかなと思いつつまあ納得できるのだが、一方の中年男の方は自分が作った会社をつぶし、離婚もしたとはいえ、なぜ名前をいくつも使い分けて「偽の自分」を演じながら生きていかなくてはならないのか、その必然性が見えない。娘と名乗る少女を知って生き方が変わる?必然性もあまり感じられないままに同窓会に出席し元妻に復縁を迫るとか、ウーン。なんか名前をいくつも使いいろいろな自分で生きるというシュチュエーションが先にあって、それに合わせて物語が無理くり動いている感じがするのである。画面全体もなんかぼやけた色合い(意図したものだろうけれど)、長回しで引っ張る感じも何かもったいぶった感じだし、ウーン。力も入り各場面の役者も頑張っている感じではあるんだけれど、空回りっぽい??演劇部の上級生が下級生に「お前はほんとの自分を出していない」「(私に)敬語を使え」と迫るのが、なんかとても感じ悪くエラソーにという感じで、この映画から浮いているようでもあり、まさにこの映画という感じもするのであった。
(11月15日 下高井戸シネマ)


⑥1918 劉以鬯       
⑦東西 BOUNDARY 也斯  
監督:黄勁輝(ベン・ウォン) 2015香港・台湾 95分・140分

ジョニー・トーの脚本家だったというベン・ウォン監督は2本の映画を同時進行で撮影したのだそう。いずれも近年亡くなった(劉以鬯 はこの映画の完成後2018年に100歳で亡くなった)香港在住の著名な文学者のいわば「伝記」ドキュメンタリーだが、その色合いはもちろん大きく違い、それぞれの主人公である作家の姿を映しだし描き出しているのだろうというふうに思われる。同じよう香港に住まい年齢は親子ほどに違うのだが映画に中でも対談場面もあった劉以鬯と也斯だが境遇も資質も大きく違い、それが作品にも映画にも反映している。『1918 劉以鬯 』は『花様年華』の世界。ウォン・カーワイの映画映像もあり、作者の人生を描く部分ではトニー・レオンと劉以鬯を意識したと思われるような俳優が演じるドキュ・ドラマになっていて上海から香港、シンガポールへといわば「孤独」漂泊者だった劉以鬯の足跡が丹念に積み重ねられている。いっぽう、『東西』の方はチューリッヒの也斯の姿から始まるが、香港を拠点に香港人として様々な世界を見、食や舞踊や歌やそういった世界まで多面的総合的に見ていた也斯という人の魅力が余さず描かれているという感じ(2013年亡くなった後の大量の追悼?のことばも含めて)で、その盛沢山さにいささじかたじろぎくところもないではないが、作者の?「也斯愛」があふれているという感じ。也斯のほうは基本的に広東語、劉以鬯のほうは上海語、国語(普通話)もあり広東語もあり英語もありという複合語で描かれていて、字幕は英語(劉以鬯のほうは作品の朗読には中文字幕あり)で、いささか理解に手間取るが、それを越えて印象に訴える2作。慶応大学で佐藤元状氏が主宰した上映会で、総合プロデュースをした香港・嶺南大学黄淑嫻メアリー・ウォン)、四方田犬彦、林少陽(東京大学)各氏のトーク付という豪華な陣容。メアリーさんの製作過程の話が面白かった。とはいえ、当日は風邪で、もう今日はやめようかと思うほどの頭痛、熱はなさそうだけど熱っぽく、理解力がいつもの半分という悪コンディションと、そんなわけで中座早めの退席をしてしまい、旧知のメアリーさんにもご挨拶もせず失礼したのが申し訳なし…。
(11月17日慶応大学日吉・来往舎)



23日~27日、魯迅の故郷・紹興に-ところが帰国後すぐにスマホが故障、スマホで撮った大量写真は全部飛んでしまいました!(今復元をこころみているところ)な、わけで予備カメラに残ったわずかな画像から…

紹興酒の工場に保存された甕

紹興の水辺


➇無名之輩  
監督:銭暁志 出演:陳建斌 任華汐 章宇 潘龍斌  2018 中国 

夜22時10分少し眠気をこらえてみた話題作。館内に出ている表示は70元1張、請求されたのは39元、もらったチケットに打たれた値段は30元??
要はネット料金?。どこから来たのか聞くので日本人だというとにこり。ともかく買うと「送的」と言ってポップコーンのカップをくれる。結構大きいので、同行の友人と2人に2つくれるというのを1つでいいと断るとコーラを2つ持ってきてくれた。「送的」というので気をよくしたが、後で考えると差額9元分を買わされたのかな?と??。とはいえ、ポップコーン+コーラで9元ということはないようにも思うが……外国での映画鑑賞はこういううれしいのだか騙されたのわからないような経験もたまにある。
さて、映画は『象は静かに座っている』(フィルメックス)の章宇扮するモヒカン刈りのチンピラ強盗(『象…』と同一人物とは思えぬ軽さ)と相棒が銀行に押し入るがバイク故障で逃げ出せずバイクは木にひっかかかり、彼は負傷。かろうじて逃げ込んだ家には事故で首から下が動かなくなった、しかしいかにも気が強く、毒舌かつユーモラス?な女性が車椅子に座って1人いる…。脅かしつつ逆に脅かされ自分の怪我の手当てを相棒にさせながら、この家にかくまわれ、だんだん彼女との関係ができていく。さて一方で主人公は陳建斌扮する、はみ出し者?の刑事。そして女子高生、モヒカン刈りの相棒のチンピラこれらが1丁の拳銃とをめぐりごちゃごちゃと入り乱れ関係が交錯しそして最後にドーン、という感じ?真夜中近い(何しろ旅行中とて朝も早い)ときどきふわりと眠くなると周りの笑い声でハッと戻るみたいな鑑賞で、細かいあらすじは見落としたところもありそうなんだが、全体としては笑いもまぶしながら落ち着くところに落ち着くという、それなりのまとまりのある作品で楽しめた。(11月24日 紹興国際影示城)


⑨你好,之華
監督:岩井俊二 出演:周迅 秦昊 杜江、张子枫、邓恩熙、边天扬、吴彦姝、谭卓 2018 中国 114分

岩井俊二と言えば『花とアリス』『スワローテイル』を越えるものができていないような気がする(私見です、もちろん)のだが、では今度はどう来るか。ウーン。なかなかにキレイな映画だが、彼は何を言いたいのかイマイチわからん。周迅は題名の「之華」という名を背負っているが、映画の主人公はむしろ死んだ姉「之南」だったり、之南と之華の娘たちだったり、尹川だったり(この秦昊が長髪でもさっとしてボーっという感じで、全然らしくない)彼の書いた初恋?の想い出『之南』だったりで、最初に姉が亡くなった之華が、姉の同窓会に姉を装って出かけていき、尹川に再会するが、実は姉でなく、子どもの頃尹川を慕っていた妹の方だったのが、どう回収されて行ったのかわからない(もしかして、そのあたり寝てしまった?のかも)。そして子供のころ姉からの尹川への手紙を渡さないなどして、尹川への自分の気持ちをつらぬこうとした?之華が大人になるとなんだか控えめ?で優しい母、みたいになって尹川に接近するなど考えもしないのも性格的な懸崖がどこに敷かれたのかが見えない。1つ1つのセリフの意味は分かるが、その意味で私は中国語の作品の裏の意味までは理解できないのだろうかと見ながら少し悩む。之華の夫が、尹川から来たメールが来た彼女の携帯に逆上して携帯にシャワーを浴びせて壊してしまうのも、この物語がメール時代に手紙でのやり取りを成り立たせるための設定とはわかるが、その後の夫の性格とか夫婦関係から見るとあまりに取ってつけた感じでもあり、つまりはステュエーションと人物の絡み具合がどうもイマイチで雰囲気優先の映画かな。登場人物も中国人ぽくないし、かといって日本人らしくもなくウーン。ただ、最初の方、姉の葬儀から帰って家に入るシーンでのドローン撮影?天空から採った家のシーンは美しいし、ちょっと意表を突かれる珍しい、私的なアングルで心がひかれた(あとのほうにそのようなビジュアルが引き継がれていくわけでもないが)。
(11月26日 上海百麗宮影城長寧来福士店)



你好,之華上映館の入口

⑩ゲンボとタシの夢見るブータン
監督:アルム・バッタライ トロッチャ・ズルボー 2017ブータン・ハンガリー 74分

ブータンの寺の跡取り息子の16歳の兄ゲンボと15歳の妹-ではあるが自己認識としては男の子のタシの、将来を見定めなくてはならない年ごろの日常はそれぞれに厳しい選択に向かわなくてはならない。自分の寺を持つ父はゲンボを後継ぎとして僧院学校にいれたいが、決して強圧的に迫ったりはしない、しかしこんこんと自分が跡継ぎを必要としているかを述べ、あ、これは息子としてはたまらないかなあ、とも思わされる。タシに対しても彼-彼女の自己認識が男性であることを受け入れながら、同時に女としての生活のありようを説く。サッカーの選抜チームの養成合宿に選ばれながら、結局選抜チームには入れないタシの悲しみも描かれるが、どちらも穏やかに淡々と、状況に立ち向かっているとも思えないようなさりげなさで描かれる。ブータンは世界一人々が幸せな国だというが、ある種の苦しみの受容のしかたを人々が知っているということなのだろうか。これから結構苦難の時を歩みそうな二人が、故郷で両親や家族に囲まれながら最後の安穏の時を過ごしているというようなはかなさも感じさせられる。ブータンとハンガリーの若い監督の共同制作。(11月29日 下高井戸シネマ)


⑪エンジェル、見えない恋人
監督:ハリー・クレフェン 出演:フルール・ジフリエ マヤ・ドリー エリナ・レーヴェンソン 2016ベルギー(フランス語) 79分

生まれながらに誰にも姿が見えない透明人間「エンジェル」(スプーンで食事をしたり、字を書いたり、水に飛び込み水しぶきをあげたり、また布を被って形が表れる場面もあるが、透明人間、洋服とかは着てないのかな…とまあ無粋なことを考えてもしょうがないけど)と目が見えないゆえに彼の存在を匂いや食間で感じてくれる隣家の少女の「恋」。金髪できれいな色とりどりのサンドレスの少女が一人、緑の中で遊ぶ姿のなんとも美しく、カメラワークが駆使されているわけだろうが、姿の見えない少年の、姿が見えないままに寄り添う姿の優しさが感じられるような「雰囲気」抜群の映画。少女はやがて眼の手術のために去り、数年をへて美しい女性に育ち、晴眼者として元に家に戻ってくる。青年となったエンジェルは相変わらず彼女の身近に寄り添うが、なかなかに少女の眼にはとまらず、しかし…。結ばれる二人の恋と、自分の姿が見えないことへの青年エンジェルの絶望、そして思いもかけない至福の展開と、まあファンタジー、というよりかおとぎ話かもしれないのだが気分がほんわかしつつ案外眠くもならず、一篇の詩を読んだようなステキにおしゃれな映画だ。(11月30日 川崎市アートセンター・アルテリオ映像館)

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