第19回 東京フィルメックス 2018/11月

①期待②象は静かに座っている③幻土④幸福城市幸福城市⑤轢き殺した羊⑥8人の女と1つの舞台⑦シベル⑧夜明け














ああ忙しい、忙しいといいながら、仕事の合間を縫って駆け回り、時間が合うことを優先に?(でも中国映画はやっぱり押さえておきたいし…)ということで、なんとか8本押さえました!
前半が終わったところで、中国へ旅行、帰ってきたらすぐ仕事においまくられ、でアップが遅くなりすみません。


①期待

監督:アミール・ナデリ 出演:ハサン・ヘイダリ ソフレ・ガフレマ二  1976イラン 43分

初期作品として特集上映。イラン南岸の小さな町で祖父母と暮らす少年。パンツ1枚の裸で駆け回り祖母に言いつけられて水くみや買い物などの用事をする。家の棚に陽ざしを浴びて輝くガラスの鉢。少年の歓びは祖母の「氷をもらっておいで」ということば(セリフはこれが2階と、「氷をもらってきてもいい?」と祖母に聞く1回のみ)従ってガラスの鉢をもち氷を買いに行く。大きなドアからは手のひらをヘナで赤く染めた手がでてきて鉢を受け取り氷を入れて返してよこす、その氷の溶けた水を大事そうに飲むのも歓び、それらを通して赤い掌でしか会ったことのない女性への若い少年の性的な憧れみたいなものも描かれる。繰り返し繰り返し描かれるのがナデル映画らしさだが、それはすでにこの映画にもたっぷり。間に男たちの宗教的な祭り?や家の中での女たちの狂ったような祈りの儀式も描かれ、一つ一つの意味については実のところよくわからないのだが、自然光だけで描かれた美しいというよりくっきり印象的な、現実とも夢ともつかないような街全体をつつむ渇望の世界に引き込まれて行く。
(11月18日 有楽町・朝日ホール)


②象は静かに座っている

監督:胡波 出演:章宇 彭昱暢 王玉雯 李从喜 2018中国 234分

暗い!長い!重ーい!ただきわめて力のある、というか力の入った映画であるのは確か。それが長所でもあり、ここまで書き込む必要があるかと思わせるような「短所」?でもあるのかなと思う。4人の登場人物、携帯が盗まれたの盗まれないのという争いから友人と争い、はずみで友人が階段から落ちて大怪我?した高校生、その級友の女子高校生は副主任の教師と不倫。2人の写真がSNSでばらまかれ窮地に。高校生と街で偶然会い、家出して金がほしい高校生に付きまとわれる老人は、狭い家から引っ越したい同居の娘夫婦に老人ホームに入ることを勧められている。また階段から落ちた高校生の兄は、その朝友人の妻とあいびき中に戻った友人に飛び降り自殺されてしまう。というわけで窮地に陥った4人のたった1日を交互に延々と描き4時間弱。しかも各場面の丁寧さというか長さも半端でなくこれでもかこれでもかと畳みかけながら追い詰められた人々のもがきというかあがきを描いていく。最後に4人のうち老人と高校生2人は石家荘の駅に(偶然)?集まるが列車が運休ということで瀋陽をめざす夜行バスに乗り込み、「座っている象」をみるために満州里をめざす。ここもウーン、高校生はともかく老人が孫娘を連れてまで満州里を目指すのはなぜ?必然性が感じられない(電車が運休というとき、いったんは「現実を受け入れよう」というような大演説?をして帰りかけるのだが、高校生のことばに簡単に翻意する)し、もう一人の男はどうなるの?最後の場面で前のほうに出てきた「羽根けり」なるゲームに興ずるバスの乗客たちが遠景で示されるけれど、このあたりのきわめて丁寧な描き方もなんかかったるく、この映画せめて2時間半くらいにまとめてほしかった気がする。作者の胡波は弱冠30歳?でこの映画完成後に自死したというのだが、この映画で最後にするために書き込めるだけ書き込んだという感じかな。もったいない。この映画は半分の長さで2本にして、さらなる作品を見たかった…。 (11月18日 有楽町・朝日ホール)



③幻土

監督:ヨウ・シューホア 出演:ピーター・ユウ リュウ・シャオイー ルナ・クォック ジャック・タン 2018シンガポール・仏・オランダ95分

あちらこちらからの砂で埋め立てられるシンガポール、そこで働く移民の中の中国人とバングラデシュ人が失踪する。捜査に当たるシンガポール人刑事ロック(これがまたすさんだ感じ)が主人公。遡って中国青年が仕事中に腕の骨を折り、治るまで送迎車の運転手を任せられてバングラデシュの移民労働者アジットと知り合い、またギプスの下がかゆくて眠れないということで入り浸るようにになったネットカフェで店番の女性と付き合うようになる。そんな場面を描きながら殺されるバングラデシュ人の場面も出てくるのだが、後ろの方では彼がまた生きて現れたり、話の流れを追うと何が何かわからないのだけれど、要は雰囲気としての不安や不安定性や、幻のようにはかない都市(埋立地が25%とか。今も続いていて年々歳々姿を変えているのだそうな)シンガポール(ただし、これもシンガポールでは撮影許可が出なくてマレーシアとかで抜き打ちに未許可撮影をしたとかしないとか)を半ドキュメンタリー的に味わえばいいという感じかも。最初のくすんだ青空に傾く鉄塔に場面の不安定なシャープさ、海側から見た港の夜景や夕景の煌びやかな赤・黄、ネットカフェの真っ赤な内装、とにかく不安を書きたてるような鮮烈な美しさ!
(11月19日 有楽町・朝日ホール)


 

④幸福城市

監督:ホー・ウィディン(何蔚庭) 出演:高捷 李鴻其 ルイーズ・グリーンバーグ 丁寧 石頭 2018台湾・中国・アメリカ・フランス 107分 

パリのラボに大量に残っていた富士フィルムを使用して撮ったという作品。久しぶりにフィルム映画を見てそのソフト感、シャープすぎずに含蓄を含んだ感じの映像にちょっとしびれた!物語は2056年の近未来(その近未来的な微妙さがどうなんだという感じもする。美を与える注射薬とか、腕に埋め込んだICチップが生命管理をするとか…それでいて建物の風景はいかにも今?)議員として高齢者福祉をTVで語っている石頭、病院に忍び込み彼を殺す主人公張冬陵(高捷)が別れて暮らす娘に会いに行き、妻の愛人を殴り殺し、妻を殺し、自分もドローン状の探索・逮捕装置とあたかも心中するがごとく命を失う。そこからそのそもそもの元となった30年前の若い刑事時代の事件(石頭の悪役ぶり。冬陵のほうは年代ごとに役者を変えるが、石頭2世代を演じ切る)、さらに10数年さかのぼり90年代?の冬陵と母の出会いと別れ(完全なアクションメロドラマ)というわけで冬陵の悲劇を現代から逆にさかのぼるという構成になっているわけだ。逆だったらそうでもないんだろうけれど、これはなかなか効果的で、メロドラマ臭さもそれほど目立たない?描き方だった。(11月20日 有楽町・朝日ホール)


⑤轢き殺された羊

監督:ベマツェティン 出演:ジンバ(金巴)ゲンドゥオン・ブンツォク ソナム・ワンモ 2018中国 86分 フィルメックス審査員特別賞

こちらは35㎜の窮屈な画面。その中でココシリの道路は奥行きを持って走り、トラックの運転席で二人の登場人物は画面の左右で顔半分ずつ(これは2人の重なりー同一性を示しているらしく)そして食堂の女性は必要以上に客に引っ付くという感じになる。画面は概して暗くてあたかもモノクロ映像を見ているようなのだが、モノクロ場面はまたこれはこれであって、けっこう凝った映画なんだなと思わせられる。監督自身の『羊』ともう一編『人殺し』という2編の短編小説を原作に構成されているのだとか。路上で羊を轢き殺した長距離トラックの運転手はみるからに獰猛そうな雰囲気も漂うサングラス姿(何度もなぜサングラスをかけているのかと問われる)だが実は内心は羊をひき殺してしまったことに懺悔というか悔恨を感じている。そんな彼が乗せるのは「人を殺しに行く」という同名のジンバという男。20年前に父を殺された敵討ちだという。男を目的の村への分かれ道でおろし、自分の荷物を届けた運転手ジンバは羊の供養に500元、僧にお布施を払い,鳥葬後まで運ぶのを手伝ってもらう物乞いに200元、そして親しい女性への土産の肉を332元と払う(つまり結構稼いでいる男ということだ)が、女性とのベッドは今回うまくいかない。帰り道、「人殺し」の村に向かった運転手は、男を探して居酒屋へ。そこからが夢とも幻想ともつかぬ二重世界になっていき、どこからが運転手の夢なのか現実なのか、「人殺し」のジンバは、20年間懺悔の暮らしを続けているようであった敵の男を(幼い子供がいるゆえもあり?)殺さなかったみたいなのだが、ではどこに行ったのか、あたかも羊を殺したことを悔いる運転手の幻想世界にしかいなかった男なのかもしれず、ということで観客も不思議な夢の世界、もしくはゴーストストーリーを漂うことになる。パンクした車の修理後にタイヤにもたれてまどろむ最後に運転手の夢に現れるのはハゲタカのついばむ羊?の肉、自らが刀を振りかざし敵の雑貨屋を殺した?ともつかない夢・・・
(11月20日 有楽町・朝日ホール)


⑤マジック・ランタン

監督:アミール・ナデリ 出演:モンク・セレル・フリード ソフィー・レーン・カーディス 2018アメリカ 88分

上映前に登壇したアミール・ナデリ監督「これは、ナデリが作った映画だということを忘れて見てほしい」…確かに今までの(私が見た範囲ではあるけれど)ナデリ映画はこれでもかこれでもかという執拗な繰り返しが印象的だが、これは執拗さも繰り返しもないわけではないけれど、わりとすっきり?したファンタジー・ゴースト・ストーリー。溝口健二『雨月物語』にインスパイアされたというが、フランス映画『アンジェリカの微笑み』(2010マノエル・ド・オリヴィエラ)なんかも想起させるようなヨーロッパ風なミステリアスも感じさせられる。まもなくデジタル化されるということで最後のフィルム上映をしているさびれた映画館の映写技師ミッチが主人公。彼の上映する映画のスクリーンではビンテージショップの店員である彼自身(?)の登場する映画が映しだされる。店にやってくるのは美しい少女、そしておしゃれでステキな初老の女性。ある日少女は携帯で呼び出され店の前で男と会うがそのまま姿を消す。路上に残された携帯電話。拾った電話に少女からの着信があり、待ち合わせをするが、彼女は姿をあらわさない。彼女を探して携帯に登録された相手をたどるミッチ。やがて彼は、少女の母にたどり着くが彼女はいつも店に来ていた初老の婦人で、そこで彼は少女の意外な事実を知らされる。そこから映画はいわば映画の中のミッチの幻想?かもという三重の「夢」の場面に突入していく。美しい少年と少女の物語だが、二人が「天使のよう」というより、ちょっと生々しい雰囲気を漂わせているのがよく、一方の中高年(客である母と映画館・店のオーナー)男女はなかなかに品のある雰囲気で、そのキャスティングもなかなか…。(11月20日 有楽町・朝日ホール)



⑥8人の女と1つの舞台

監督:スタンリー・クァン 出演:鄭秀文(サミー・チェン) 梁詠琪(ジジ・リョン)バイ・バイホー(白百何)齊渓 キャサリン・チャウ(周家怡)甘國亮 2018香港・中国 100分

しばらくこういうタイプの香港映画をみていない。サミー・チェンの昔の映画と全然違う雰囲気、8人というがどの8人なのかよくわからず、2人のほかの香港女優、大陸の女優も入り乱れ、香港・中国人とか香港映画通の外国人にでないと面白さはわからない?気がする。内容はきわめて健全な「和解」もので、香港大会堂で行われる芝居に、夫の死後1年にして復帰を決めた元大女優秀霖(サミー・チェン)=香港大学教授の夫は浮気をしていた?とか、16歳の一人息子は親離れして留学中という私生活上の問題や出来事をかかえる=にライバル意識を燃やすストイックに芝居に打ち込んできたもう一人ユーゥエン(ジジ・リョン)の行き違いや対決に他のメンバーがからむが、2人が恩師と仰ぐ演出家の葬儀の席上で、ユーウェンが心を開いて昔の秀霖へのライバル意識を吐露することで二人の関係がほぐれていき芝居も無事成功という1週間のできごとを描く。女優たちがからみ様々な生き方も現れるスタンリー・クァンらしい作品ではあるが、とにかく人が入り乱れすぎて、予習なしに突然見た私は(老化したか心配になるが)ついていきにくく、とちゅう結構睡魔におそわれてしまった。(11月21日 有楽町・朝日ホール)


⑦シベル

監督:チャーラ・ゼンジルジ ギョーム・ジョヴァネッティ 出演・ダムラ・ソンメズ エミン・ギュルソイ エルカン・コルチャック・キョステンディル 2018フランス・ドイツ・ルクセンブルク・トルコ 95分

トルコ北部の山岳地帯、人々は口笛言語でことばをかわす。幼い時の熱病で言葉を失い口笛だけで意志の疎通をするシベルは、村長の父の庇護のもとライフルを肩に山を駆けまわったり、村人たちに障害ゆえに半端もの扱いされ疎まれながらも畑仕事を手伝い、母のいない家の家事も担って忙しく暮らす。学校に通う妹はそんな姉を恥ずかしく思い、自分はおしゃれにを気にしながらのんきに暮らしている。父に後妻の縁談が来たり、妹にも縁談がおこるが、シベルはそんなことからは疎外されている。そんな中、山で狼を狩ろうとして出会った男と取っ組み合った拍子に男は怪我、シベルは山に隠れる彼をかくまうことになる。話の展開としてはあとは予想通りという感じもあるが、男・アリとシベルの気持ちの接近、村人に男の存在が知れテロリストとして危険視・迫害されて男が姿を消す(逃げたのか、殺されたのかは描かれないが…)。シベルも理解者と思っていた父にも村人たちにも厳しく批判され、妹の縁談は壊れる。最後が感動的で、ライフルを持つのをやめたシベルが、村人たちの冷たい目の中で昂然と頭をあげ、恥ずかしい渋る妹をスクールバスに送り届ける(すごくきりりと表情も変わったシベルが美しい)。彼女にとってライフルは村人たちからの疎外や迫害に自らをよろうものであったが、それを捨てた彼女は自らのありのままをありのままとして周りに認めさせ生きていく決意を固めたのである。それにしても武器を持たない怪我人を銃を担いだ村人たちがテロリストとして指弾するというのもなんか不思議な異様な光景であった。    (11月21日 有楽町・朝日ホール)


⑧夜明け

監督:広瀬奈々子 出演:柳楽優弥 小林薫 堀内敬子 2018日本113分 フィルメックス スペシャル・メンション(特別表彰)

是枝裕和の助監督だったという若い女性監督の第1作。過去の罪にとらわれ家出・人生に絶望し命を断とうとした青年と、彼を救う、妻と息子を事故で亡くして一人暮らしをする男の出会い。青年を助けて落ち着くまで自分の経営する木工所で働きながら今後の生き方を模索していけ、と勧めながら亡くした息子の面影を重ねて、息子も必ずしも木工所の仕事をつきたかったのではないのだとも知りながら、やがて青年に後継ぎとしての立場を期待していく男。青年の方も最初のうちは息子の身代わりのようにふるまう(息子と同じ茶髪に染めたり)が、ある時点からは男の好意や期待を束縛と感じるようになっていく姿が丁寧に描かれていく。男は妻と息子の死を悔いながらも、自分の工場に勤める女性との新しい愛を育てていくが、一方で青年をますます束縛していくその矛盾というか、人間感情の怖さが穏やかな小林薫の風貌によって演じられるのが、なかなかに見ごたえがあって眼が離せない。そして男の結婚を祝う日、とうとう爆発する青年・・・彼はどこに行くのか行けるのかわからないが、そして男の方もこれをどうとらえていくかと考えるとこのテーマの重さにつらくもなるが(映画全体の雰囲気も是枝映画の洒脱さみたいなものはなくて重く暗い。セリフ自体はたまにユーモアをこめたなとは分かるのだが)、でもいかにも嘘っぽくありながらリアルに感じさせるところはまさに是枝流というべきかもしれない。(11月21日有楽町・朝日ホール)



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