【勝手気ままに映画日記】2022年1月

毎月どこかで富士山に会って、このブログにアップしたいと思っているのですが、なかなかうまくいきません。1月晴天富士山はまあ見えるのですが、山際の空には雲…というのが最近。青空にそびえたつ富士山には会えない…今月は15日、高和田峠~蓮行峠~藤山~熊倉山縦走途中、ようやく会えた富士山です。

 
①キングスマン・ファースト・エイジェント②ダ・ヴィンチは誰に微笑む(The Savior For Sale)③裁かるるジャンヌ④英雄本色⑤男たちの挽歌(4K修復版)➅弟とアンドロイドと僕⑦レイジング・ファイア(怒火・重案)➇ジギー・スターダスト⑨蝶影紅梨記⑩董夫人⑪クナシリ⑫クライ・マッチョ⑬寒い夜(寒夜)⑭女性之光⑮ブラッド・ブラザーズ 刺馬⑯忠烈圖(4K修復版)⑰銚灰 ジャンピング・アッシュ⑱父子情⑲梁山伯と祝英台⑳秘めたる思い(張相思)㉑コンフィデンシャルJP英雄編㉒黄飛鴻正伝 鞭風滅燭の巻(修復版)㉓野バラの恋㉔モンスーン㉕北京オペラブルース(刀馬旦)

今月はおもに「香港映画発展史探求」(国立映画アーカイブ)に。新旧の香港映画が上映されましたが、1930年代から80年代くらいまでのところを中心に見ました。④⑤⑨⑩⑬⑭⑮⑯⑰⑱⑲⑳㉒㉓㉕ なんと15本!その他⑦が中国語圏映画、➅㉑が一応日本映画ですが、いずれにしても国際的な舞台で作られた映画が増えている気がします。★は1つから3つまで、まあ、個人的なお気に入り度というところでしょうか。


①キングスマン・ファースト・エイジェント

監督:マシュー・ボーン 出演:レイフ・ファインズ ハリー・ディキンソン ジャイモン・フンスー ジェマ・アタートン リス・エヴァンス マシュー・グード ダニエル・ブリュール トム・ホランダ―2021アメリカ 131分 ★

寒い雪の日、授業帰りに新宿で映画というのも気が重く、早く早くと府中に帰り、しかし寒い家の中で凍まっているのもなあ…と本年最初の映画。
アメリカ・ディズニー社の英国舞台英国人紳士のスパイ映画??ってのもフーン。しかも時は1902年のアフリカでの妻の死から。次は1914年で残され18歳になった息子が第1次大戦に志願したくて志願したくてしかし断固として反対するオーランド・オクスフォード公。彼は仕える執事ショーラ(抜群に有能だが高所恐怖症)とナニーのポリー(情報能力抜群、度胸も銃の腕前も)と隠し部屋で諜報活動し大戦の収束を計ろうとしている。ロシアではラスプーチンが力を持ちやがてロマノフ王朝が倒れ、ドイツ皇帝ウィルヘルムはワガママ押し通し、英王ジョージは平和を望むが動けず(このいとこ同士?という3人の皇帝をトム・ホランダ―が一人で演じているみたいだが、背丈が全然違うのは特殊撮影?)みたいな状況の中で、暗躍するのは「羊飼い」が組織する影の組織。というわけで一応歴史も踏まえて(戯画化もして)スケールの大きなドラマ。中盤では徴兵され念願かなって前線に出たコンラッドの活躍と戦死!いったんは意気消沈するがポリーの厳しい励ましで立ち直ったオーランドが、後半はその山上の崖の上のアジトにパラシュートでおりて中年貴族の危なっかしい崖上のヒツジとの攻防?から始まる大アクションというわけで見せ場もたっぷり。しかし話としては結構陰惨というか悲惨(何しろ妻も子も死ぬし…)そして最後に紳士服店キングスマンを拠点として諜報組織を立ち上げる対する暗躍組織側はレーニンの左に対して新人の右が登場するという終わり方。でもこんな形で世界を動かしていいもんかね…と楽しみつつ思わぬでもないが。(1月6日府中TOHOシネマズ 001)


②ダ・ヴィンチは誰に微笑む(The Savior For Sale)

監督:アントワーヌ・ヴィトキーヌ 2022 フランス 100分

2017年クリスティーズの競売で4億5000万ドル(510億円)で落札された「サルバトール・ムンディ(世界の救世主)」をめぐる真贋と売買のドキュメンタリー。2005年ニューオリンズの民家で処分される遺産として見つかり、競売で13万円で落札されタ1枚の絵が長く行方の分からなかった「サルバトール・ムンディ」ではないのか、というところから始まり、傷んだ絵の大幅な修復、その間に果たしてレオナルドの作か、工房の弟子たちの作なのかとか、修復によって原作の価値が失われたのかどうか、とか、その後の変遷、専門家たちの鑑定では判定が分かれたが、ロンドン・ナショナルギャラリーでダ・ヴィンチ展に出品されたことー正しかったのかどうか?、2013年ロシア人の買われ、彼が手放した阿智17年の競売でとうとうその値が付くが、買った人物がわからず今の持ち主も?サウジアラビアの王子らしい。というような流れが、関わった美術商、鑑定の専門家、キュレーター、買った富豪、そしてこれら一連の話を『最後のダ・ヴィンチの真実 510億円の「傑作」に群がった欲望』(集英社インターナショナル・上杉隼人訳)という本にまとめたーこの本が、映画のの原作というか下敷きになっているらしい)ベン・ルイスという作家まで、大勢の人々のインタヴューで綴り、イギリスからシンガポールへさらにサウジアラビアへと絵の行き先が地図で示され、そこには資金洗浄の気配もあって所有者は明らかではないがサウジアラビアに建設されているルーブル級の美術館で将来展示されるかも?という思わせぶりな結末まで、ウーン。単に絵を見るのは好きなのだが、こういう世界はどうにも魑魅魍魎っぽくてわからん、というのが正直な感想。それにしてもちゃんとオークションに出品され誰かが高額で買ったものが今どこにあるのかわからんとはどういうこと?まあ、映画の作り手が結局突き止められなかったということか、突き止めたけれど持ち主があくまでもしらを切っているということか…ウーン。わからん!難しい世界!(1月7日 川崎市アートセンターアルテリオ映像館 002)


③裁かるるジャンヌ

監督:カール・テオドア・ドライヤー 出演:ルネ・ファルコネッテイ アントナン・アルトー 1928フランス97分

1928年のモノクロ無声映画を、デジタル修復し、あらたに伴奏音楽をつけたもの。字幕は入るのだが、ほとんどは登場人物のクローズアップ映像、ジャンヌを異端審問に導く聖職者たちはあくまで俗っぽく意地悪気な表情で、ジャンヌは黙って涙を流しという感じでこういう表情でのいわば裁判映画というのはどういうとり方をしたのだろうと思わせられる。ウーンしかし、ど迫力、ではあり圧倒され少々疲れる。(1月8日 渋谷イメージフォーラム 003)


④英雄本色

監督:龍剛 出演:謝賢 石堅 麥基 王偉 嘉玲 龍剛 1967香港・広東語 124分 ★★

86年徐克版のもとになった作品。犯罪アクション的な要素ももちろん含みつつ、出所者支援協会にも取材して作ったという社会派的な要素も含み、徐克・呉宇森映画ではぐっと後退してしまったような女性の位置というか描き方も案外しっかりしていて(女が結構みんな自立しているし、映画的にもチョイ役の行商の女なども含め重要な働きをしている)そして私などの知らないあの頃の香港(上映後のトーク宇田川幸洋氏によればセットが多いらしいが)もちらちらとみられて、そのうえでここは86年版がオマージュしたなという部分も見えてとても面白かった。最初の場面で主人公李卓雄の恋人で今や悪役の女になっているベティが踊るシーンは『ルパンの娘』の深田恭子風で、これもえ??知らなかった…。
主演、謝賢(パトリック・ツェ―)はニコラス・ツェ―の父だが、ニコラスよりもむしろ貴乃花風でおっとりした上品な風貌。基本的には弟をかばう兄と理解しない弟ということで86年版と同じテイストだが、社会派ドラマだし、アクションが激しくないし、女性はドライに強いし、あまりお涙ちょうだいっぽくない。(1月9日 国立映画アーカイブ 香港映画発展史探求 004)

付記:と、思ったのだが、この映画実はもう一度細部確認もしたく、月末にもう一度見に行く。特に終わりの方、兄の罪がばれて会社を首になりやけになった弟が悪の道に引きずり込まれ、強盗に入る。そこに兄が駆け付け、撃ち合い(ここは一回目の印象より、ちゃんとアクションやっている感じ)みんな死んでしまった後、残った兄弟、兄が弟の罪をかぶり、一緒に建物から出てきた捕まるー弟も、家族や周囲もみな兄が罪をかぶったと知っていて感謝、っていうのは、何だろうな…、つまり家族愛称揚かと一回目にはあまり思わなかったのだが…。ウーン。

     
香港映画発展史探求劇場入り口
ロビーには懐かしいポスター

『英雄本色』宇田川幸洋氏トーク

⑤男たちの挽歌(4K修復版)

監督:呉宇森 出演:狄龍 周潤發 張國曳 朱寶意 李子雄 1986香港 96分 香港電影資料館蔵

何回見たかわからないけれど、④と並べてみると?というところ。この映画から振り返るとオリジナルの『英雄本色』のどこがここに影響したのかわかる感じ。しかし、マークという新人物の登場もさることながら、兄弟の造形は全然違い、それでも兄は共通するところがあるが、弟に関しては兄の立場を最初から知っていて恨むとか、あるいはオリジナルで母だった家族が、こちらでは父で、兄がらみで殺されてしまうとかそのあたりは全くのクライム・アクション映画の面持ちが強くなっていて、撃ち合いも含め見せ場はたっぷりというジョン・ウー映画だなあ。
ジョン・ウーは刑事役(若い!)、徐克はオーディションの審査員として出演しているが、こっちはあまり年を取っていない(というか当時から老けていた?)というのが今更ながらの感想。あと悪役・李子雄がのし上がる兄の元手下だが、これってもしかしてオリジナルでは悪役(片眼がつぶれ、杖を突いて足を引きずっているが、これは最初に殺される李卓雄の手下と同じ傷。しかしどうもこちらの悪役は手下とは別人のようなのだが、この映画の唯一わからないところだった。それを手下で顔もまあまあ甘いマスクといってもいい李子雄に演じさせたのはつながりつつ別の映画に仕立てた面白さ?とも思う)あと、ジョン・ウーには女性は描けない?とも思わされた一作でもあった。
(1月9日 国立映画アーカイブ 香港映画発展史探求 005)


➅弟とアンドロイドと僕

監督:阪本順治 出演:豊川悦司 安藤政信 風祭ゆき 片山友希 本田博太郎 田村泰二郎 2020年 94分

主人公桐生薫は天才と言われた大学教師、母の残した古い医院の洋館に一人住み、右足が自分のものではないという感覚に悩まされながら、家では秘かに自分にそっくりのアンドロイドを作り、ひそかに心が通うことを喜ぶ、という相当なオタク。風貌も黒ぶちメガネ常にフードを深くかぶったレインコート姿というわけで、かぎりなく鬱陶しい感じ。ーなにしろこの映画、全編(最後の一場面の雪を除いては)雨、それもけっこう豪雨という感じで、一応映画のヒロイン格?の少女もフードを常にかぶっているーそこに登場するのは彼の異母弟求(もとむ)。寝たきり闘病中の父を再婚した自身の母とみている求はしばしば金の無心にやってくるわけだ。また、意識不明の父もパジャマ姿の幻影?として時々屋敷に現われるというわけで、ウーン、なんとも全体に重苦しいとも無残とも、そしてそれでいて阪本-豊川流?という感じの暗めのユーモアも幽かに漂いつつ、最後はぎょっとするような暴力的展開もあり、なるほどね!(1月11日  立川キノシネマ 006)


⑦レイジング・ファイア(怒火・重案)

監督:陳木勝(ベニー・チャン) 出演:瓢子丹(ドニー・イェン) 謝 霆鋒(ニコラス・ツェ―) 陳嵐 2021香港・中国 126分 

特集「香港映画発展史探求」9日の宇田川幸洋氏の話の中で絶賛されていて、そういえばまだ見ていない。ニコラス・ツェ―は『英雄本色』のパトリック・ツェ―の息子だし、そのつながりでも見なくてはと。調べるとそろそろ上映期間も終わりのようで、久しぶりに夕方立川の回に。
香港の街並みの中で香港警察(元も含め)の面々が描かれるという作品で、描き方も風景も香港らしいのだが、中国合作(陳嵐は大陸出身の女優だし)作品。だからここでは香港警察の不正というか陰謀も描かれる。4年前に上司にはめられるがごとく、犯人に通じる目撃者に暴力で自白をさせ罪に問われた若い刑事とその部下が、出所後(元警察官の囚人は捕まえた犯人たちからひどい目にあうニコラスがつぶやく、なるほど)恨みに固まり警察を手玉に取るような極悪犯罪をし、元同僚の主人公チョンが対決するということで、過去の因縁とはいっても香港映画にしては情や縁の絡まない仕事がらみでわりと乾いた印象。全面的に繰り広げられるアクション、カー・チェイスその他もろもろのバトルシーンを楽しむべきか?
特に最後のドニ―・イェンとニコラス・ツェ―のナイフ決戦は見ごたえあり。この映画、最後に悪役のニコラス(ンゴウ)は自滅的に滅び、もし4年前立場が入れ替わっていたら(証人の摘発に行ったのがチョンだったら)結果は逆になったのだろうかとチョンが自問するので締めくくられるのが香港映画っぽいが…、しかし、ドニー・イェンはアクション場面以外ではいい人すぎて(もうすぐ子どもが生まれる夫で、妻役は陳嵐。葛藤がいかにもなさそうな感じかいつもする…)決然としすぎていて、ウーンそれがいいのかもとは思いつつ、もうちょっと陰影がほしいような…最後に「懐念在天堂的陳木勝導演」のテロップが入り、香港映画お決まりの撮影シーンは主にベニー・チャン監督の映像オンパレード。まだ58歳、惜しい人が亡くなった。(1月11日  立川キノシネマ 007)


➇ジギー・スターダスト

監督:D.Aベネベイガー 出演:デヴィッド・ボウイ ミック・ロンソン トレヴァー・ボーダー ウッディ・ウッドマンジー(スパイダー・フローム・マーズ) 1973 サウンドリミックス、デジタルレストア2002 イギリス 90分

1972年発売から50年を記念してサウンドリミックスされた1973年、ワールドツアー最後のイギリスでの公演の映像。ルシネマではなぜか特別料金(1500円ー一般には安め、シニアには高めの不思議な設定。平日昼の回は満席とはいかないが、けっこうな入りで若い人もまあまあいる)これを機にデヴィッド・ボウイは「ジギー」であることをやめ、次のステップに進んだというコンサート。衣装は山本寛斉中心でなんて言うか異様だし、倒錯との境目という感じだし、その割に音楽はワイルドで歌詞はウーン、哲学的というより宇宙物語という感じ?でもそこが何ともまあ、あの頃魅力的だったし、今見て古いとかは思わないけれど、若い人から見るとどうなんだろう。この映画に関わった人の多くが故人となったーそして実は私も40年ぐらい付き合いのあった友を亡くし、その葬儀はこの状況下家族葬ということで、お別れにだけ行ったその帰りに見た、ということで何とも感慨にふけるコンサートシーンであった。(1月12日渋谷文化村ル・シネマ008)


⑨蝶影紅梨記

監督:李鐵 脚本:唐滌生 出演:任劍輝 白雪仙 梁醒夜 1959香港(広東語) モノクロ145分 香港電影資料館蔵

いわゆる広東オペラの映画版で3本の古いフィルムから再構成デジタル修復と音声の修復も行ったとか、香港電影資料館の長い説明が最初に入った。59年当時の粤劇スターを起用して作られている。まあ物語は書生と妓女の恋に悪徳宰相の横やりが入り、引き裂かれ殺された(実は助かった)妓女が彼が科挙に合格させるために身を引かされ、幽霊に化けて書生と契る。そして合格して役人となった書生と最終的には悪徳宰相を排して結ばれるという、まあなんか典型的な「おとぎ話」的構造で、当時のスターとはいえ、男役はなんかなよやかすぎて声もあまりいい感じではないし、女性の方は健康美という感じでウーン、当時の粤劇好みってこうなのかとは思いつつ、封建社会の男を立てる人生観もまあ予想通りとはいえ、でもまあ資料的にはなかなか面白い力作として、歌と踊りを楽しんだ。(1月13日 国立映画アーカイブ 香港映画発展史探求 009)


⑩董夫人

監督・脚本・出演:唐書璇 出演:盧燕 喬宏 周萱 李影 文秀 1970香港(北京語)モノクロ96分 香港電影資料館蔵 ★★★

明代中国西南部、読書人を輩出する一家の未亡人董夫人と董老夫人(姑)、娘維玲の一家。董夫人が地元の子どもたちを教える書堂を、村に駐屯することになった官軍の隊長の宿舎として貸してほしいと村の顔役?が訪ねてくるところから。女三人で使用人も出かけているのに男性は泊められないと、やたらにこだわる家族の描写が前奏曲に。琴の調べが全編に流れゆったりして雅な感じなのだが、ウーン。若い隊長は節度を持って一家と付き合おうとするが、夫人に対して心惹かれ、夫人もだが、彼女には「貞節牌坊」(すごいなあ、死んだ夫に仕え続ける貞淑な女性=古代では殉死したときに作られたらしい=を政府が表彰し、村内に大きな門を建てて顕彰するという、女性にとってはなんとも残酷な制度があって、董夫人はそれに推薦されているわけだ)の縛りもあって、相手に心も身もゆだねるわけにはいかず、娘は彼を好きになってしまい、夫人は隊長と娘を結婚させ、彼らは村を去る。この家には長年使える張二叔という男がいて、この人もひそかに董夫人に心を寄せていたみたいなのだが、これを機に去り、夫人は孤独の中に…というわけで、これって美しくおっとり描き、雨が降るにつれて動くカメラ、黒い洗濯物を干すことによるフェードアウト、森の光景、中秋の月とかビジュアルもとーっても美しくおしゃれでモノクロだが色さえ感じさせるが、内容的にはアメリカで学んだ女性監督、渾身の封建制度ジェンダー問題の告発映画という感じで、なかなか迫力がある。若いロイ・チャオが偉丈夫だが朴念仁という感じをよく出して隊長を演じている。(1月13日 国立映画アーカイブ 香港映画発展史探求 010)


⑪クナシリ

監督・脚本:ウラジミール・コズロフ 2019フランス 74分

監督は旧ソ連(現ベラルーシ)出身で今はフランスを拠点として活動しているという。その視点から見たクナシリ(「国後」は今更ながら日本語なのだ…)の現在を描く。1947~8年にかけて日本人は強制退去となり、無人になった町の、今や草原(というより荒地?)から遺物を掘り出すロシア人住民、捨てられた家屋に住み着いてトイレもない暮らしを続けてきたという老女、ロシア政府はこの地のインフラ整備も福利厚生もしないということで厳しい生活をしている人々は、日本人とともにいた暮らしを懐かしみ、もし日本が戻ってくれば雇用が生まれてこの地も豊かになると期待する。一方、領土問題はすでに終わった(片付いた)ことであると明言する官僚も映し出され、この問題へのロシア側のある種の複雑さ、またそれを外から見る目の位置というのも見えてくるような映画ではあった。ただしさらっと見るにはあまりに単調な画面構成で、いささか長く感じたのも事実。(1月14日 川崎市アートセンター・アルテリオ映像館 011)

1月15日陽射しいっぱい穏やかな山



⑫クライ・マッチョ

監督・製作:クリント・イーストウッド 出演:クリント・イーストウッド エドヴァルド・ミネット ナタリア・トーべン ドワイト・ヨーカム 2021米(英語・スペイン語)104分

1930年生まれというから間もなく92歳(まあ、撮影時は90歳ぐらい?)の監督50周年、日本公開40本目の作品だということで、まあ、見ないわけにはいかないか…。前作よりさらに背は丸まりよぼよぼした感じなんだが、何でしょ、この色っぽさという感じでささやかな濡れ場というか美女に襲われかけたり?心を寄せた女性との粋な感じのダンスシーンなどもあり、ウーン。昔のイーストウッド(の演じたマッチョ)からはあまり想像もつかない老後だなあ。
で、話そのものはそういうところが目立つだけのわりと安直なつくりで、落ちぶれたカウボーイ(ロデオの名手だった)マイクが恩ある元雇い主(とはいえ、冒頭で彼に冷たく首を切られるのだが)の頼みでメキシコに母親と共に去り虐待されているという13歳の息子を誘拐まがいに母の手元から連れ去りテキサスへ連れ戻る役を引き受けるていう話。で、まあ後は、母親が予想外の金持ち美女の悪役だったり、息子が意外に素直に言うことを聞き旅の途上では機転をきかせ主人公を救ったり、車を盗まれ、少年の手引きで車を盗んで逃げても、そのことでは特には追手がかかる様子もなく、母親のさし向けた追手は来るが、これは意外にも撃退。旅の途上入った田舎のカフェの女主人には気に入られて、彼女の聾唖の孫たちも含め交流が生まれ、馬に詳しい主人公はこの地で荒馬を馴らし少年には乗馬を教えるというわけで、ステュエ―ションからみるとなんとも穏やかというか、まあうまくいってしまう道行なのである。もっとも主人公が自分をマッチョに見せたがった過去を振り返り「老いとともに無知な自分を知る」云々は老いたイーストウッドが名言を少年に語るという構成で、少年がメキシコ人とのダブルである(米白人でない)ところからも『グラントリノ』をちょっと彷彿とさせる自動車映画でもあり、少年が通訳をつとめて現地の人々と交流するが、なぜか主人公が手話を知っていて聾唖の少女と話せるというあたり、そして礼拝堂での少年との宗教についての会話などの異文化交流というかその接触に関する長年の経験を覆させるような異文化との接触がちょっとだけ描かれているのは、さすが…とは思わせられた。
(1月16日 府中TOHOシネマズ 012) 


⑬寒い夜(寒夜)

監督:李晨風 原作:巴金 出演:呉楚帆 白燕 李清 黄曼梨 1955香港 モノクロ・広東語 136分 香港電影資料館蔵

1940年ごろの重慶が舞台の広東語映画。大学の同級生として教育を学び、教師となるも戦争が勃発。その中で結婚式を挙げることもできず夫婦になり、職も失い、生まれた息子を連れ、新たな職を探して重慶の母のもとに帰った汪と妻樹生。しかし結婚式もせず勝手に夫婦になったということで樹生は汪の母にいびりぬかれる。しかも新たに見つけた仕事は樹生(銀行員)の方が、汪(校正係)より収入もよく、家計を支えるのは妻。にもかかわらず姑に出て行けと言われ、もう耐えられないと妻が家を出るところからー妻を探して汪は町をさまようがそこに空襲。妻は愛想をつかして帰らず、汪は胸を病む。仕事もうまくいかない。やけになって飲もうと店に入ると学生時代からの友人が妻が空襲下の早産で亡くなったとのこと。ますますボロボロで倒れる汪を見つけて家に連れ帰る樹生。ここで汪の嘆きと愛の告白(ここだけなぜか「ウォアイニー」と北京語。他の場面では「ンゴイネイ」なのだけれど)で樹生は戻ってくるが、汪は職を失い、一方上司に気に入られてしまった樹生は疎開する銀行に引き抜かれ異動・昇進、家族手当も出すと言われ心が揺らぐ…そして彼女は上司を警戒、家族への思いを心に残し戦争が終われば必ず戻ってこられると家族を説得して単身赴任を選ぶ。やがて戦争が終わったが…妻は最後は戻るにだがその時には汪はすでに亡くなり、姑と息子は田舎に去っていたが…。
ウーン、この映画は基本的に汪の視点で描かれていて、彼にとってあくまで樹生はまぶしい妻なのだが、母の期待にもこたえなくてはならない板挟み状態は見ているのがつらくなるとともに、ウーンこんな男とはやっぱり一緒にはいたくないよなと思えてしまう。そしてしっかり者の妻は最後に姑とも和解して田舎にともに去るというのもなんか、男目線の希望みたいな気もしないでもなく、女の勇ましさ、決然とした格好良さが中途半端な感じもしてしまうが、まあ時代の制約としては仕方がないのだろうな…(実は84年に北京で作られた同じ原作の『寒夜』(闕文監督・潘虹主演)を20年ほど前に見ていたのだが、見ているうちはあまり思い出さなかったほどにテイストは違う?感じかも。(1月18日 国立映画アーカイブ 香港映画発展史探求013)


⑭女性之光 

 監督:高梨痕 出演:李綺年 鄭山笑 梁添添 梁翠薇 黄楚山 1937香港 モノクロ・広東語 84分 香港電影資料館蔵

ヒロイン陸慕貞の兄は父母亡きあと彼女を育ててきたが、暴力的で、自分が監督する工場のオーナー(妻と3人の妾がいる)の4人目の妾として妹を嫁がせ、見返りとして得た金で慕貞の親友を妻にしようとしている。ともに結婚を嫌がり逃げようと相談する二人の娘。しかし友人は母を思って逃げられず、慕貞は叔母を頼って家出逃亡。叔母の世話で、女性の教育をする学校に入ることができる。3年後、二人の妻を広州と香港に持つという金持ち男が、学校を支援しつつ彼女に結婚を申し込む(その前になぜか王昭君を描く粤劇?の舞台が延々とーこれって慕貞の境遇の象徴?)が、彼女はそれを拒み、彼女を慕う男の娘4歳を引き取り学校で育てる。そして15年後、この学校の教師になっている慕貞と成長した娘、そこにまた今度は娘を求める男が現れて…。要は金のため?何かの利益のために女を得ようとする男の支配を嫌い自由を求めて逃げる逃げるー最後は娘と二人学校を捨て船にのるー香港に逃げた?ー姿を描く。ウーン。まあ、この時代においては、「逃げる」=自由という選択肢しかなかったのだろうとは思うのだが、自分が築いたものを捨てて逃げるしかないとすればこれはこれでとても悲しい。37年の映画で、舞台設定は多分上海?しかし、これと比べて例えば『馬路天使』『十字路』とかの完成度がどれほど高いか…、単にフィルムの劣化(音も画面も相当荒れて結構見るのがしんどい)というだけではなく、ウーン、ちょっと悩ましく考えさせられる。(1月18日 国立映画アーカイブ 香港映画発展史探求014)


⑮ブラッド・ブラザーズ 刺馬

監督:張徹 出演:姜大衛 狄龍 陳観泰 井莉 1973香港(北京語)118分 

清朝末期の馬新貽総督殺人事件を描くー『投名状』(07陳可辛 ウォーロード・男たちの誓い)と同じ題材のオリジナル??殺人者として捕まった張文祥が裁判官の前で手記を書き経過を語るという形で話が進む。出だしは山賊の張と兄貴分の黄縦が網を張っているところにやってくる馬ー20代の狄龍がやたらと凛々しく格好いいーこれが後半ちゃんと悪役というか裏切り者になり黄縦を殺して張に復讐されるという―出世欲と自己愛にかたまった男をなかなかリアル?に演じている。一度は信頼しその部下として頑張ったのに、兄貴分黄縦の妻を奪われたばかりか、陥れて殺されたことに怒る男気の張もなかなか格好良くまあヒロイズムとしてはよく書けているのかな?しかし、馬に惹かれて夫を裏切り、馬を殺す張、そして処刑される張を黙って見ているしかない黄の妻って、なんなんだ…という感じではあり、主たる登場人物がすべて死ぬというこの陰惨な物語にさらなる陰惨を加えている。3人のクンフー、切り合いのシーンはさすがに様式美的でもあり見ごたえあり、ワイド画面総天然色映画は、今回モノクロばかりを見てきた目にはなんか懐かしい近代映画の夜明け?という感じもした。(1月19日 国立映画アーカイブ 香港映画発展史探求015)

⑯忠烈圖(4K修復版)

監督:胡金詮 出演:喬宏 白鷹 徐楓 韓英傑 朱元龍(=洪金寶)1975香港(北京語)107分 香港電影資料館蔵

明代、総督から命じられ倭寇相手に闘う将軍(喬宏)を中心に、7人の精鋭がそれぞれに闘い、最後はともに滅びるが、倭寇は滅びず…という、まあそれだけなのだが、裏切りや、潜入や、日本人(なんと下っ端は浴衣姿、サモハン扮する日本側首領の博多津は白塗り化粧で一応紋付袴、このあたりはなんともチープな感じもするが、サモハンって目鼻立ち自体はきりりとした「美形」なのだなと、いまさらながら)との闘いそれぞれに見せ場があって、午馬は弓の名人の和尚、ユンピョウはかわいい下っ端と懐かしい顔もちらほら、徐楓演じる紅一点の女性(これも弓の名人)はなんとも格好良くという、海と島の風景描写とそこで繰り広げられる様式美に満ちた闘い場面を堪能すればいいんだろうなあ、そして最後は墓が並ぶこの戦いのむなしさ?と。⑮は同じころ作られカラー・ワイド画面なのは同じだがちょっと古臭い感じがしたが、こちらは画面構成のせいか、妙にキッチュというか日本場面では琴などで日本風の音楽が流れたり、洋楽が入ったりという音も含めて、意外に現代的な感じもして面白かった。監督自身から贈られたオリジナルネガをもとに、イタリアで修復した版だそう。(1月20日 国立映画アーカイブ 香港映画発展史探求016)


⑰銚灰 ジャンピング・アッシュ

監督:梁普智・蕭芳芳 出演:嘉倫 陳星 林偉棋 蕭芳芳 1976香港(広東語)85分 デジタルベータカム カラー香港電影資料館蔵

香港ニューウェーブの幕開けとなった作品だそう。カラーとはいえ、退色してモノクロに近い中に赤系だけが残っているよいうような場面もあり、時の流れの残酷さも感じさせられるが、ああ、私の知ってる「香港映画」の画面の動き、音楽(登場人物ごとに違ったファンファーレ?が鳴り響いたりしておもしろいし、画面にはあまり合わない情緒的な「歌」が入ったり。ジョセフィーヌ・シャオの弾き語りもある)、画面展開・テンポの速さ、コメディカルさなどなどだと。話の細かい中身がよくわからないところもあり、跳灰(コカイン)があまり強調されているわけでもないのだが総体としてはまあ楽しめる?感じ。嘉倫は中国系のサイトで白髪の老人になって同じくいかにも老人のレオン・ポーチとのツーショットを見たが、ウーン。ここでは若い。ジョセフィーヌ・シャオはこの映画では30歳くらいのとき?共同監督、脚本、出演(嘉倫の恋人役。自宅でワルモノに襲われ抵抗するがメチャメチャやられて入院!という…)弾き語りと才を発揮して活躍している。(1月20日 国立映画アーカイブ 香港映画発展史探求017)


⑱父子情

監督:方育平 出演:石磊 朱紅 鄭裕柯 李羽田 容惠雯 盧大偉 1981香港(広東語)96分 福岡市総合図書館蔵

香港ニューウェーブの監督方育平の監督デヴュー作、第1回香港電影金象奨作品賞・監督賞受賞作品だそうで…。話の中身は自ら学歴も英語能力も足りず(とはいっても息子に一生懸命英語を教えているシーンが出てくるが)職場でうだつが上がらない父が、4人?(なにしろぞろぞろいる)の娘を差し置いて、あまりできのいいとは言えないー子供のころは映画館の案内係、大人になっては役者志望の映画好きではあるが、父には許しがたい)一人息子を何とかいい大学に入れて学問で身を立てさせたいとひたすらに画策、抑圧する父ー反発しながらも結局逆らえない息子と、彼のために大学進学試験に受かるものの進学をやめ看護師になる妹、弟の留学資金のために望まない相手との結婚をする姉の一家を含めて描く―まあ、80年頃の話だから仕方がないとはいえ、見ていて気分が悪くなるようなステュエーションの家庭劇。ただ、出だし息子から送られてきたサンフランシスコ市立大学?の卒業証書を見て狂喜した父が郵便局から家に駆け戻り集合住宅の5階くらいまで駆け上がったところで心臓発作に襲われ亡くなるというシーンから描かれるので、まあ許せる?というか、その父の営為の一生懸命さと、むなしさが強調される仕組みになっているわけだ。多分、この時代の男たちはこんな父に反発しつつ彼の身上を受け継いで生きるのだろうなあと、自分と近い息子世代の男たちを思い浮かべてしまった…。息子役は少年期・青年期ともに見た顔だなあと思うし、描き方も今回見た映画群の中でも80年代に入ると(見た見ないにかかわらず)覚えのある映像・描かれたエピソードという感じになってくる。(1月21日国立映画アーカイブ 香港映画発展史探求018)
 

⑲梁山伯と祝英台

監督:李翰祥 撮影:賀蘭山(西本正) 出演:凌波 樂帯 1963香港 126分(北京語)福岡市総合図書館蔵

前に見たのはいつだったか…検索してみると2004年国際交流基金フォーラム(香港映画の黄金時代Ⅱ)特集で見ていた。以下は当時の映画日記(まだBlogをしていないかったので、一応ここで公開(笑))
黄梅調と呼ばれる歌謡古典劇、要するにミュージカル映画である。なかなかに楽しい。
梁山伯も女性が演じるので宝塚みたいなものですかね。祝英台が男装してもぐり込む学問所の学生たちも半分以上は女性が演じているので、男装がばれないという点については違和感がなく、なるほどね、というところ。女性が女性演じる男性と男性を装って恋に落ち、女性演じる男性がそれと知らず女性を男性として愛し・・・とジェンダー的にはずいぶん複雑な絡みようだが、そういうことを考えた中国の昔の人の脱ジェンダー感覚に敬服する。なにしろ物語の舞台は1600年前東晋の時代なのだそうだから。(以下略)

ウーン。しかし今回見て、この祝英台、何のため親に背き、男装してまで男子ばかりの学塾に潜り込んで学ぶのかが今一つ…最初の方で男女平等を説くシーンがあるが、学問研究をして世に役立てるとか、出世するとか、単に学びに喜びを見出し真理探究をしようというのでもないようだし、花婿探し?に行ったようにも見え…。一方の梁山伯も彼女に心惹かれ見送りがてらの延々の道行はいいとして、親に結婚を反対されたらばあまりにあっさりと引きさがり嘆き死んでしまうなんてなあ…。前回なんであんなに感心できたのかわからない。我が老化のせいかしらん?ーこらえ性がなくなった?当時はまだあまりこういう中国古典ミュージカルを見る機会が少なくて物珍しかったからか??
(1月21日 国立映画アーカイブ 香港映画発展史探求019)


⑳秘めたる思い(張相思)

監督:何兆璋(張石川)出演:周璇 舒適 顔碧君 黄宛蘇 白沉 1947香港 モノクロ・北京語 101分 香港電影資料館蔵

国共内戦のため上海から香港に逃れた映画人によって1947年に作られた映画だが、描かれるのは1941~45年の上海。その前になぜか台湾の海辺で一人レコードを聴く男の姿から始まるのだが。誕生祝の席上で「花様的年華」を歌う湘梅(周璇 『馬路天使』から10年余りですっかり大人の女性という雰囲気に)、夫とこの映画の主人公の志堅(舒適)がともに同じ蓄音機を彼女に贈るというシーンから物語が始まる。かち合った贈り物に友人が、志堅からのものを受け取り、代わりに夫からのものを志堅に贈ったらどうかという提案。まあ、これがなんというか物語の行く末を暗示するメロドラマ構造だ。その直後日本が攻めてきて、夫・志明は妻と盲目の母を残して抗日戦線へ(上からの命令と言っているが??)その留守を志堅は支えることになる。貧乏な友人宅のために志堅は自分の冬物を質に入れてお金を貸したり何やかや、けっこう大変なのだが、そのうち歌の上手な湘梅はクラブの歌手の口を見つけて歌うようになる(ここで周璇がその歌声を披露するというのが映画のしくみ…)。すると、志堅はふしだらだと怒り狂うーというわけで、なんだ…やはりこの時代のどうしようもない男の独占欲じゃん、さて湘梅はどうするか…。怒って席を立った彼女だが、次のシーンではなぜか小学校の音楽教師の代用教員となって子どもたちに中国の建国をたたえる歌を教えているーまあ、中華民國の歌ではあろうがー日本に勝ったシーンでも出てくるのは蒋介石と、中華民国旗ーのでいうことを聞いた?ということか。やがて旧友が志明の行方不明と形見のカギを届けてくる。二人は心惹かれつつも付き合いを深めないが、友人の勧めもあり付き合う?感じになったところへ夫・志明がもどり…そして最初のシーンの続きに戻るという、いわばまあ節度ある悲劇的展開を周璇の歌が彩るという上海+香港調映画。
(1月23日 国立映画アーカイブ 香港映画発展史探求020)


㉑コンフィデンシャルJP英雄編

監督:田中亮 出演:長澤まさみ 東出昌大 小日向文世 小手伸也 瀬戸康文 城田優 江口洋介 角野卓造松重豊 2022日本 127分 

ストーリーは??追っていればわかるが復元はできない…シロモノ。前作の登場人物に新しい登場人物も入り乱れ、今回のターゲットは狙われていたかと思われるインターポールの捜査官マルセル真莉邑こと瀬戸康文、きざったらしいダンディ(でも童顔だから美少年ぼい)から殴られぐちゃぐちゃの終演までの大力演。ほかのメンバーもそれぞれに大活躍で、話は荒っぽいところはもちろん多々あるが、まあ楽しめる。それにしてもパリやマルタ島が舞台で登場人物はほぼ日本人(か日本在住の外国人。厚切りジェイソンとあ、ダンテ・カーヴァーら)だが、離すことばはフランス語(英語も)で字幕付きというのは、いかにも現代の映画だなあ。役者も国際化して外国語のセリフもしゃべれなければ今ややっていけない時代なのでと、最近よく感じるのだが、またもや感慨。あ、そう字幕も読めないと映画見られない時代なんだなとも。(1月24日 府中TOHOシネマズ 021)


㉒黄飛鴻正伝 鞭風滅燭の巻(修復版)

監督:胡鵬 出演:關徳興 曹達華 李蘭 陳露華 劉湛 何山 石堅 1949香港(モノクロ・広東語)77分 香港電影委資料館蔵

35mフィルムから複写した16ミリ版を2本つなぎ合わせて復元版としたが、完全なものにはならなかったという香港電影資料館の説明がまず最初に。
で、有名な黄飛鴻役者の關徳興演ずる初期の黄飛鴻映画ということだが、当時40代半ばくらいの關徳興、背は高く、さすがに貫禄?はあるがあまり活躍はなくてクンフーももっぱら弟子役が披露、前半では、仏山滞在中に、さらわれた友人の妻を助けるべく悪党の本拠地に乗り込むが、ケガをして女性に助けられ、言い寄られるが(双方学芸会というかちょっと大時代的な大げさ演技)きっぱりと広州に帰るまで。後半は、招待された同郷会の席上強力なライバル武術家が現れ張り合いになり、特に弟子梁寛の軽はずみな行動もあって、さらわれた彼を取り戻すべく決闘が始まる、というところで「これ以後は次作をお楽しみに」みたいな字幕が入って終わり、というわけで笑うべきか?(会場からは結構笑い)。なんか情けないところの方が多い、ちょっと喜劇要素も強調された感じで、フーン。
90年以後の格好いい『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ』(92徐克)などを見た目にはへー、迫力のない武闘シーンで、2階からの転落のたびにトンボを切る(黄飛鴻はしないが)とか、きれいな女とみれば人妻でも構わず蛇のいる落とし穴に落とし、両手を壁に縛り付けて監禁とか、まあなんというか歌舞伎とか古典劇の伝統を受け継いだままに作っているのも稚拙というよりはせいぜい励んだ当時レベルの笑劇なのだと感じられる。
(1月25日国立映画アーカイブ 香港映画発展史探求 022)


㉓野バラの恋

監督:王天林 出演:葛蘭 張楊 蘇鳳 王莱 欧陽莎菲 作曲:服部良一 1960香港 モノクロ・北京語 134分 香港電影委資料館蔵

ウーン。香港が舞台ではあるが、ことばは北京語、ほとんどの場面が夜総会か、家の中という感じで香港らしさなどは感じさせない無国籍的むしろアメリカ風?映画ということのようだが…話の内容はもう全然共感できない男女の共感できない愛情表現とその破局という感じだが、なんといっても葛蘭(グレース・チャン)が歌い踊る楽曲ー「フィガロの結婚」「マダムバタフライ」「カルメン」等々オペラアリアも含むというかそれが多い―を堪能するための映画ということなのかな…。
前半はファム・ファタール的な自信に満ちたふうのヒロインが、10日の期限で新しく来たピアニストの男を落とすという、いわばゲーム的に始まる恋の果てに相手を本気で愛して男に翻弄される。男の方は元教師で真面目、純情で、婚約者と愛しあう男として現れるがいつの間にやら恋に落ち、そうなると独占欲丸出しで母も婚約者も捨て、ヒロインが彼から離れようとする(元夫が現れゴタゴタする女は自分が身を引かないと彼を殺すと脅される)と、仕事も捨て酒に溺れ、というわけでヒロインが身を立てるために再びナイトクラブの歌手に戻ると、そこに乗り込んでヒロインの首を絞めるという、まあなというかとんでもないバカ男という感じだし…。60年のこの映画の男は、まあ『寒夜』のつっころばしから真面目さを抜いた感じで、67年の『英雄本色』の侠気と比べると、ウーン、全然違うのだが、あ、でも『英雄本色』の弟ならこうなる可能性はあるかなあ。ナイトクラブの歌手と純情な男の恋という点では『キャバレー』なんかを思わせるところもあるが、あの社会性も共感の喚起も悲劇性さえもない感じだし。(1月27日国立映画アーカイブ 香港映画発展史探求023)

㉔モンスーン

監督:ホン・カウ 出演:ヘンリー・ゴールディング パーカー・ソーヤーズ デヴィッド・トラン モリ―・ハリス2020イギリス・香港(英語・ベトナム語)★★★ 

2014年(見たのは2015年5月)の『追憶と、踊りながら』のホン・カウ作品。前作はイギリスの老人ホームにいる中国移民の老女と、彼女を世話する死んだ息子の恋人というステュエ―ションで、ことばのズレとか伝わらない感情の微妙さとか心にしみる作品であったが、今回はベトナムから幼い頃ボートピープルとしてイギリスにわたった難民の息子キットが、なくなった母の散骨をすべく、ベトナムを訪れるという話。この青年もゲイで、来る早々SNSで知り合っていた?アメリカ青年とのラブシーンとその後の逢瀬からはじまるのだが、その前にもちろん、キット一家と違い脱出に成功せずサイゴンに残った従兄弟リーとその母との再会(と微妙なズレ。すでにベトナム語をほとんど忘れているキット)があり、間にはハノイの故郷への列車の旅と、そこでの出会いー特に蓮茶生産の一家に生まれ育てられ、自らは外国人向け観光ツアーのコンダクターとして伝統と国を越えた異文化への「馴染み」の中で引き裂かれているような若い女性との出会い、彼女にもらったお茶をルイスと飲みながら聞く、米兵としてベトナムにいたルイスの父の死にまつわる話や、そのような体験でもベトナムに暮らし続ける彼の意志を聞いたり、従兄弟リーには、母が彼の店に資金を出していたことを知る(移民後も心を残す場所が個々にあったことを確認する)と、心に残るシーンの果てに、後から前に死んだ父の遺骨を持って合流する兄ヘンリーとその妻子の出迎え、そのあとこの場でルイスとともにいる最後シーンまで、キットはある意味悩みつつ、ベトナムを動き、人々に会うという、大きなドラマがあるわけではないが、キットという青年の心のひだに分け入るような描き方は秀逸に思える。
昔がいわば残骸的に残る現代都市サイゴンも心に残る。終盤キットの心の憂いを洗い流すのかもしくはいや増すのか激しく降る雨が、題名の由来か。いままでアクションドラマやちょっと脳天気気味はアメリカのリッチな移民を演じていた印象があるヘンリー・ゴールディングが普通の、不安な気配の残る青年を演じて印象を残すが、これも前作ベン・ウィショーの吸引力を引き出していた監督ホン・カウの手腕かも。(1月28日 キノシネマ立川024)

㉕北京オペラブルース(刀馬旦)

監督:徐克 出演:林青霞 葉蒨文 鍾楚紅 鄭浩南(マーク・チェン)曾江(ケネス・ツァン)午馬 1986香港(広東語)105分 ★★


1990年代にDVDで見ただけだが、辛亥革命後の時代、政治的ミッションと京劇劇団―登場人物勢ぞろいの京劇舞台から屋上アクションへという活劇シーンもあるーそこに若い女性3人が中心人物として描かれるというのはとっても印象的で心に残っていた作品の、今回私にとってはこの香港映画発展史探求中最終作品として金曜夜の鑑賞。
行ってみると満席いうほどではないが、けっこうな入りでそうだろうな…で、辛亥革命直後、二人の将軍が対立する北京。一方の将軍は25人の「妻」を侍らせながら、若い楽女(チェリー・チェン)を見初め妻にしようかという。一方京劇団では舞台に出たい団長の娘(サリー・イップ)と女は舞台に出すどころか、客席にも入れないとする団長や団の掟ーつまりこの時代のひどいジェンダー観というか女性蔑視的状況が映画の底に流れているのだと再確認。そこに一方の曹将軍の娘、留学帰り、男装の曹雲(ブリジット・リン)が現れる。父の愛情を感じつつも、新社会を目指してゲリラ活動に身を投じ、父の持つ袁世凱政権転覆につながる政府の密書を盗み出そうとするーの過程で二人の娘と知り合い巻き込み意気投合し、阻止しようと襲い掛かる秘密警察と戦うという展開。まあ、荒唐無稽ではあるが、女性たちの息吹が画面いっぱいに感じられ(特に京劇団のサリー・イップがいい)、当時の政治的にも、あるいは慣習的にも伝統的な男性社会的状況が一種戯画化されイキがいい作品。ただ、男装凛々しい曹雲というよりかブリジット・リンが捕まえられつるされて純白のシャツの背を真っ赤に染めて拷問されるシーン、これってなんか強く美しい女をいたぶる男目線を感じてちょっと演出のしかたに抵抗を感じた。まあ40年近くも前に描かれたそのさらに何十年も前の話ではあるのだが…。
終わり近くに前の席のオジサンが「ちっ、くだらない映画」と舌打ちして退場していく。ーなんかこの映画企画中、イライラしている男女に遭遇することが多かった(その前の映画でも始まる直前に「しゃべらないで!」と叫んだ人がいたし。終わってからのうるさい、うるさくないの言い合いも。間違った席に座り指摘されて文句を言っているらしいオバサンもいたし。なぜなんだろう…。コロナ禍の中、皆落ち着いて映画を見る気にもなれない?のかなと思えてしまう。(1月28日国立映画アーカイブ 香港映画発展史探求025)


1月29日矢倉沢峠~明神が岳(これは金時山)

これから目指す明神が岳方面

箱根・大涌谷の噴煙

はるかに海も見える?


書きました! 
    よりぬき【中国語圏】映画日記 場所なのか、人なのか〜香港映画の模索
      『時代革命』『わが心の香港』『リンボ』   
     TH(トーキングヘッヅ)89号(2月11日発行)アトリエサード

    映画を通して考える日本語と日本人・社会  『告白』にみる学校のことば
    https://miekobayashi02.blogspot.com/2022/01/blog-post.html
    (1月5日更新)

よろしくお願いします!
おまけは立川で見た柚木沙弥郎展
とーってもステキな元気の出る展覧会でした!


              

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