【勝手気ままに映画日記】2021年9月

 

久しぶりに会いました!天狗岳に半分隠れてはいるけれど端正にたたずむ富士山(9・19八ヶ岳・硫黄岳山頂より…硫黄岳は7月雨模様のリベンジ。しっかり果たせて大満足です)

根石岳山荘前からのご来光

①シュシュシュの娘②シャン・チー テン・リングスの伝説③ホロコーストの罪人④その日、カレーライスができるまで⑤オールド・ドッグ⑥華のスミカ⑦ブライズ・スピリット 夫をシェアしたくはありません➇いまはむかし 父・ジャワ・幻のフィルム⑨アナザーラウンド(Druk)⑩サマーフィルムにのって⑪浜の朝日の嘘つきどもと⑫スイング・ステート⑬ムーンライト・シャドウ⑭MINAMATA⑮ちょっと北朝鮮に行ってくるけん⑯由宇子の天秤⑰クーリエ:最高機密の運び屋⑱総理の夫⑲マイ・ダディ⑳ミッドナイトトラベラー


前半は「9月の多忙」でなかなか映画も、山にも行けませんでしたが、一段落した後半から頑張って映画館通いで20本。日本映画①④⑥➇⑩⑪⑬⑮⑯⑱⑲ー珍しく多かったー中で⑥➇⑮と、それに10月に入って観た⑳はドキュメンタリー。中国語圏というか中国絡みの映画は②(アメリカ)⑥(日本)⑤(チベット)で、何かなあ…という感じです。
 ★…なるほど! ★★…力作! ★★★…おススメ!! (もちろん、あくまで個人的感想ですけど)というところでしょうか(各映画最後の数字は、今年になって劇場で見た映画の通し番号)。


①シュシュシュの娘

監督:入江悠 出演:福田沙紀 井浦新 吉岡睦雄 根谷涼香 宇野祥平 2021日本 88分

ウーン。コロナ禍で仕事を失ったスタッフ・俳優、支援する全国のサポーターン協力でミニシアター上映を目指して作られ自主映画、ということで何はともあれ見なくっちゃというところで日曜の午後劇場へ。しかしスタンダードサイズの画面は一貫して暗く最初は台詞も聞き取りにくく若向けに作られた映画なのかなと…。
物語は深谷市ならぬフクヤ市、市長派が「移民防止条例」をはかる中、条例に反対する市役所員間野が公文書改ざんを強いられ、抵抗ができなかったことを恥じ悔いて自殺する(評判になった?ワンシーンちょっとだが井浦新の泣きの演技)。同じ市役所勤めのヒロイン未宇、間野がよく訪ねてきていた同じ反対派で寝たきりであと数日の命と言われた祖父から、忍者の末裔であると知らされ、間野の残したはずの改ざんの証拠データ(USB)を探し出しすように言われ、愛する(父の友人だそう)間野の仇を取るために忍者装束で立ち上がる。毎朝一人元気に体操はするものの猫背気味、市役所内でも孤立して暗い感じの未宇だが忍者スタイルになるとがぜん元気に。というわけで後半は暗躍する市長派―間野の自宅を訪ねて家探しをしたり、同じそろいのジャンパースタイルで反対派を恫喝したり、挙句未宇の留守に自宅にやってきて家を荒らし祖父にケガをさせたり―これに対して警察は「民事不介入」と知らん顔ー嘘でしょう?という感じだが、まあ、マンガのごとく非現実などものともせずに攻防が続く。まあ戯画化されてるんだから仕方がないと笑い半分苦笑も半分というところか。最後は条例が通って居酒屋で盛り上がる市長派の市職員たちを一人一人、キノコ毒の吹き矢で狙い撃ちするに忍者未宇と、まあ、これって暴力には対暴力で、ってテロの思想じゃない?笑っていいのか憂いていいのか福田の好演だけにいささか悩ましい。
公文書改ざんも、移民(外国人)排撃という思想も極めて今日的な問題だと思うが、それについて祖父が孫娘に語る活動の根拠が、関東大震災時、朝鮮人虐殺の北限がこの街だったので忘れないためというのも、いささか古すぎるーまあ古くても解決していないと言いたいのか?、だって現に入管での殺人まがいの収監者死亡とか、このあたりにだって現に排撃されつつ難民申請も通らず苦しむ外国人はいっぱいいるわけだしな…なんか焦点がぼけてしまうような展開もありで、ウーン。がんばって作った素人映画という感じがする―入江監督決して素人ではないのだが。   (9月5日 渋谷ユーロスペース 192)


②シャン・チー テン・リングスの伝説

監督:デスティン・ダニエル・クレットン  出演:シム・リウ  メンガー・チャン トニー・レオン ミッシェル・ヨウ オークワフィナ 2021米 英語・中国語 132分 ★

マーベルが作り、ディズニーが配給の武侠片ということになると、こうなるんだね!
『グリーン・ディスティニー』など顔負けのCG満載で主人公と妹は竜の頭に乗って天をめぐり、封印を破られた怪物=魔物?はその異様な大きな姿でこれも天をめぐって飛び交う火矢と戦う。一方悪の元凶、千年生き続けたテン・リングスの首領(これはそもそもマーベル映画のアイアンマンシリーズに名前が登場した犯罪組織だそう)とターロー(桃源郷?)の娘の恋模様は脚で地に円を描くようにして始まる格闘シーンから、白雪姫の森のような美しい森の中での男女の語らいへと目くるめく世界が広まる。
その前にサンフランシスコ市街のバスの中での格闘とカーチェイスというよりかバス暴走シーンは都市ものアクションだし、あれこれ満載目くるめく世界の中で、1000年権力を志向して生き続ける魔物のような父に武闘を仕込まれ、そこから脱出しようとする兄と妹、兄に付き添うガールフレンド(普通の人?とはいっても運転の腕は並外れ、弓矢も一日でマスター)のびっくり顔を演じてオークワフィナ大活躍というところ。支えるミッシェル・ヨウに意外性はないが、悪の権化のはずのトニーレオンはどう見ても悪い魔物には見えず、恋愛シーンや父の情愛(これもイマイチかな)の方にばかり目が行く。
そのトニー(テン・リングズ)は死んで、エンドロールの後の長い長い付け足しシーンによればこの映画残りの人物でシリーズ化される模様。兄と力を合わせて父と戦った妹がどうも次のテン・リングスの首領として中国奥地?の秘密基地で君臨を始めているのも不穏。それにしても主演のシム・リウはその辺にいそうな兄ちゃんだし、妹のメンガー・チャンはゲームキャラクターみたいな東洋風人工美人だし、そのあたりの吸引力はどこまでもつのか心配な感じも…(9月6日府中TOHOシネマズ 193)


③ホロコーストの罪人

監督:エイリーク・スヴェンソン 出演:ヤーコブ・オフテブロ クリスティン・クヤトウ・ソープ シルエ・ストルスティン 2020ノルウェイ 126分 ノルゥエイ語 ドイツ語

予告編では主役の青年がナチスのユダヤ人迫害の中で、「自分はユダヤ人ではない、ノルウェイ人だ」と言って父に打たれるシーンが印象にあって、そういうユダヤ人でありたくないという青年の葛藤が「罪」として描かれるのかなと思ってみたら、全然。
ユダヤ教こそ強い信仰はしていないと本人は言うものの、リトアニアから亡命してノルゥェイに住み着いたユダヤ系の一家の求心力にちゃんと従って誇り高き青年チャールズと父・兄弟のベルグでの収容所生活、残された母(これがもっとも誇り高い人)はナチスに捕まえられドナウ号に乗せられアウシュビッツに送られる。船中チャールズをのぞく一家が再会し一緒にアウシュビッツに送られる一方、有名なボクシング選手だったチャールズはひとりベルグに残されて…というような顛末が他の人々も含み戦後まで経歴として語られる。
つまりドイツ占領下のノルウェイでは700人以上が虐殺され、1200人あまりがスェーデンに亡命して助かったという史実と、虐殺を行ったのはナチスだが、収容所に送るについてはノルゥエイ政府が積極的に関与したことを罪とし、それを2012年ノルゥエイ政府が公式に表明したことに基づいて、ある家族に焦点を当てて描いた歴史映画ということかな…。そうなると一家の住むマンションの隣人として警察に勤め、隣人たちのアウシュビッツ輸送を仕切るロッドという男こそがこの映画の主人公ということになるのかもしれない。(9月7日 キノシネマ立川 194)


④その日、カレーライスができるまで

監督:清水康彦 企画・プロデュース:斎藤工 出演:リリー・フランキー 神野三鈴(声)2021日本 52分 ★

前半は土砂降り雷でときに停電も起こる夜の1DKという感じのアパートの一室。リリー・フランキー扮する男はいかにもしょぼくれた感じで、幼い息子を病で失い、今は同じ病気の子どものための募金活動などをしつつ成果が上がるわけでもなく、息子のために何もしてやれなかったという慚愧の念の中に。妻とは「いろいろあって、今はひとり」だが、妻の誕生日の3日前材料を買いカレーを煮込む。誕生日カレーは毎年の恒例とのことで野菜の仕込みも肉もなかなか立派でさまざまなスパイス・香草なども入れたりしているみたいだが、なぜかカレー自体は固形のカレールーというアンバランスがなんかこの映画の雰囲気自体をあらわしている。
敷きっぱなしらしい布団や、ぶら下がる洗濯物、散らかった机の上とか、ごちゃごちゃモノの入った押し入れから息子を撮ったビデオを引っ張り出して見入るとかの主人公の服装もいかにもだらしないシャツという感じで、なんか見ている方がかったるくなる感じだったのだが、後半カレーが出来上がるとパッと画面が変わり外は雨上がりの緑がガラスに透ける窓、部屋は片づけられて布団もしまわれ、男はこざっぱりしたシャツに着がえ…、そこにこの映画のもう一つの重要なアイテムであるラジオのリスナー投稿に妻のカレーに関するマル秘テクニックメールが読み上げられ,そして当の妻からも優し気な声の電話がかかってくる…。
なんかとってもささやかながら希望が感じられるような後味のよさで、前半との対比の中でこれも人生?と思わせられるような作品であった。

伴映は10分くらいの、伊藤紗莉、大水洋介が兄妹で家庭内でリモート通話をしているという設定の『HOME FIGHT』。コロナ禍の暮らしの妹の愚痴からはじまり引きこもりの兄の「一般論」的説教に妹が混乱からイライラ、やがて兄の暴言?に妹は…というわけでいかにもありそうで、しかしあり得ないだろうなという設定がおもしろく、最後に二人の住む親も同居する一戸建てが画面に映って、そこに伊藤の怒りの怒鳴り声(これもなかなか迫力あってよかった)が重なるという終わり方もうまい!というかコロナ―オンライン状況でなければ決して生まれなかっただろう、斎藤工の企画への意欲が一目でわかるという映画だった。(9月7日キノシネマ立川 195)


⑤オールド・ドッグ

監督:ペマ・ツェテン 出演:ロチ ドルマキャブ タムディンツオ 2011中国(チベット) 88分 ★★

2011年東京フィルメックスグランプリだが、このときは見落とした。その後劇場未公開で、この春岩波ホールであった現代チベット映画特集でかかるも、やはり時間的に合わずに見に行けず、このときの特集上映作品の中では唯一未見で残っていた作品。コロナ禍で予定がずれた下高井戸で1週間の特集上映の1日にようやく見に行く。
広々としたチベットの草原でヒツジを飼う一家。自然光の画面は開放感という感じよりも少し暗くレトロさも感じさせるが、これは私の眼のせいもある??ただ物語も都市開発・近代化の進むこの草原に伝統的に近い暮らしをしつつ、現代化の波が押し寄せ、周辺が順応していく中で主人公の老人、その息子のそれぞれの抗い方のようなものが対比的で興味深い。
それにしても牧羊に使われてきたチベット犬が都市でペットとして需要があり、草原での業者の犬の買いあさりや犬泥棒が横行する状況とか、後継ぎがほしい伝統と現代の人口調節・不妊治療が絡み合いつつ人々の気持ちが進んでいく、ドラマティクというのではないが(でも最後はとてもドラマティックで衝撃的な終わり方。しかもそれを老人の演技だけで見せている!)含蓄のある、小説家としてのペマ・ツェテンの本領発揮という感じの作品だ。
飼い主というか人間の都合でバイクにつながれ引っ張りまわされ、売られ、盗まれ、最後は…という犬がなんかとてもかわいそう。老人にとっては甥、息子にとっては従兄に当たる警察官が、犬の売り買い問題で頼る親子の力になるが、その権力というか悪徳犬業者も頭をさげているようすにハハアー(中国っぽい?)しかも彼は勤務時間中に伯父と飲み食いにでかけ、小学教師をしている息子の妻の姉も、妹の突然の来訪と頼みに応じて勤務中なのに妹の病院受診に付き添うって、なんかこんな緩やかな勤務をしている公務員ってあり?とは完全に「現代」に毒された都市人の感想か??(9月9日 下高井戸シネマ196)


⑥華のスミカ

監督:林隆太 プロデューサー:直井祐樹 出演:林隆太 林学文 林愛子 林学銀 費龍禄 魏倫慶 潘宏生 2020日本 98分 ★★

華僑四世(但し父は結婚を機に日本に帰化、本人は15歳まで父が中国人であることを知らなかったという)林監督が自らインタビュアーとして家族や、横浜中華街に住む関係者を取材し出演して、かつての横浜中華街の台湾系と大陸系の華僑の対立とそこから起こった「学校事件」の顛末とその後に迫っている。父学文が横浜山手中華学校時代紅衛兵まがいの格好で撮られた写真を見つけそこから父の足跡、中華学校で文革を指揮した教師、同じ学校にいたものの、そのような風潮に反対して「反中国」と糾弾された伯父学銀、そして中華街の福建同郷会会長(台湾派、共産主義嫌い)などとインタビュアーというより自身の問題として話を聞くというような監督の立場で、だれもの話が興味深く、当時の社会(華僑社会のみならず日本と中国の関係も)を映しだしながら、今共存へと向かおうとしている「おとな」になった人々の姿や、中華学校で学ぶ小学生の屈託ない姿をも映し、林は福建の曾祖母の墓にまで詣でその地で子孫(父の従弟になる人?)の話も聞き、自らのルーツも深めていくというなかなか重層的な構造で、過去から未来まで見通しているような、高齢者への敬意と、若さ溢れる作品で好感をもった。監督と、プロデュース、撮影、編集などを担った直井祐樹は日本映画学校の同級生だとか。(9月10日 新宿K’sシネマ 197)


⑦ブライズ・スピリット 夫をシェアしたくはありません

監督:エドワード・ホール 原案:ノエル・カワード『陽気な幽霊』出演:ダン・スティーブンス レスリー・マンアイラ・フィッシャー ジュディ・デンチ 2020英 100分

ウーン。1937年(ってヨーロッパ、まだこんなに能天気な世相?とまずひっかかり)豪邸に暮らす著名作家チャールズは書けなくて悩み苦しみ、そんな中で霊媒師マダム・アカルティを知り、自宅で降霊の催しを頼む。で、降りてきたのは7年前に亡くなった妻エルヴィラ。実はチャールズは生前のエルヴィラの語るアイディアを書き留めたものだった。そんなこととはつゆ知らぬ今の妻との前妻とのさや当てがあったり、そこにインチキ?霊媒師アカルティと50年前?に亡くなった夫との恋バナ?などもからみ、今から見ればちょっとレトロな、でもとーてもおしゃれでゴージャスでもある雰囲気の中で話は進むが、結局元妻の怒りに?により現妻は死亡、その直後にチャールズ自身もたたり?で亡くなり、この世で幽霊三人のそろい踏みみたいな、おまけに亡き妻の小説のアイディアが実は…という大秘密が暴露されてしまいチャールズの小説家としての評判も地に落ち、霊媒師の元には死んだ夫が現れ彼女だけはシアワセという、考えようによってはひどく陰惨な物語をしゃれた雰囲気とまあユーモアもまじえ見せるという趣向だが、ウーン。残念ながら、きれいで部分部分は面白いのだが、その筋立ての陰惨さが気になってついていけず… (9月16日 府中TOHOシネマズ 198) 


      【閑話休題】ここで今シーズン2回目の硫黄岳へ(9・18~19)

硫黄岳頂上から
 
爆裂火口
     
赤岩の頭からの硫黄岳


➇いまはむかし 父・ジャワ・幻のフィルム

監督:伊勢真一 出演:伊勢長之助 伊勢真一 伊勢佳世 1921日本88分 ★

監督の父伊勢長之助(1912~1973)は戦争中インドネシアに派遣され国策映画作りに従事した製作者だった。ということで息子(とその息子のカメラマンも)が父の足跡を追い、インドネシアの、当時子どもたちだった老人たちや、映画関係者たちに話を聞き、アーカイブに保存された父の撮った国策映画を見てそれをこの映画に織り込みながら、父の行動の意味をたどっていく…。非常に端正で、ことに現代版の街や、昔の建物や、また咲き乱れる南国の花などを組み込んだ映像の奥深くくっきりした美しさは、ーセピア色にかすむかつての映像写真との対比とおしてみてもただものではない。父はその時代に大きな絵の中では間違った道を(これは現地のジャーナリストのことば)をインドネシアの人々にとって正しい道だと信じて誠実に歩いた(映画の中にはインドネシアの当時の子どもたちが独立を叫びその後国歌となったという独立歌を歌うものさえある)―その歩みは同じ映画の世界に身を置く息子にとっても他人事でないというのもわかるし、何より私がショックに感じたのは戦後、工作映画を撮るのと同じ流れの中でような姿勢で「世紀の判決」という戦犯裁判を「新しい時代を作る」ものとして描き、さらに死の前年までたゆまず、題名から言うとかなり高度成長期っぽかったり逆に環境問題などにせまっている?感もあるドキュメンタリーを作り続けたことで、となると戦中も戦後もこの人の中では「ただ誠実に映画を作る」という姿勢のみが一貫していて、とすればそれはだれもが同じような道を歩んでしまうだろう怖さだとも思えるのだった。(9月21日 新宿K’sシネマ 199)


⑨アナザーラウンド(Druk)

監督:トマス・ヴィンターベア  出演」マッツ・ミケルセン トマス・ポー・ラーセン マグナス・ミラン ラース・ランゼ マリア・ポネヴィ 2020デンマーク・スェーデン・オランダ 117分 ★★

冴えない4人の高校教師(とはいっても、そのうちの一人体育教師のトミーがコーチしているのはどう見ても小学生のサッカーチームなんだが)が、血中アルコール濃度を0.05%に保つという実験を開始。言い出しっぺの心理学教師ニコライがPCを抱え報告論文を書きながらという設定がなかなか。で、常に体内にアルコールがある状況は最初は授業を魅力的にし、生徒との関係を改善しと、なかなか効果を発揮するのだが…やがてお定まりのとおり血中アルコールは常に上昇し続け、主人公マーティンはもともとよくなかった夫婦仲が一時は改善したかとも見えたのだが決定的な破局に。トミーは職員会議に酩酊状態で現れるというミスから悲劇的な結末に…。という感じでなかなか苦さも残る酒の効果なのだが、それでも映画は「酒への賛歌」の立場を崩さず、映画の最初は高校生たちが飲んで騒ぎまわるシーンからだが終わりも卒業の日、港の野外?に繰り出して飲んで騒ぐ卒業生たちと、そこに交じって飲み、踊るマーティンまで息もつかせないところが魅力的ーちなみにデンマークでは16歳から飲酒は許されているとかーそれと、4人の(うち二人は家庭ももった)中年教師の付き合い方が互いの家に行ったり、放課後校内でも一緒に過ごしてだべったり、そろって食事に行き飲んだりと、若者みたいでなんか日本の学校にはまず見られない光景だなあと、全体に国柄や文化の差異を感じさせられるのも面白かった。(9月21日 新宿武蔵野館 200)


⑩サマーフィルムにのって

監督:松本壮史 出演:伊藤万理華 金子大地 河合優実 祷キララ 甲田まひる 板橋駿谷 2020日本 97分

時代劇大好きというちょっと半端ものの映画好きな女子高校生が、夏休み前から秋にかけて映画作りをするという、学校を舞台としたドラマだが…そもそも主演として選んだ男子が未来からやってきたタイムトラベラーだった(映画の中でも出てくるが、これって「時をかける少女」とかに触発されているわけね)という設定自体がリアリズム的にはあり得ないわけだから言ってもしかたがないことなんだろうとは思うのだが、どうも映画全体に流れるリアリズムの欠如が気になって仕方がないのが元学校教師のサガ?というべきか。
まずはこの女の子たち、河原に止めてある廃車のバンの中を基地のようにして、中で古い時代劇映画のビデオをみたり、周りにはレアものらしい「13人の刺客」とか「座頭市」のポスターなどを張り巡らしていたりするのだが、実際問題としてそんなバンが河原にずっと放置なんてありえないでしょ?
それからこの学園映画には教師が一人も出てこない(昔よくあったかなというパターン)で、普通は部活の文化祭出し物に顧問教師の影が見えないなんてありえないし、学校が終わった深夜に体育館で映画作りの生徒だけが集まってMeetingとか部室でPCを使ってこれも深夜まで編集作業とかがまったく治外法権的に生徒だけで…というのもウソっぽいなと、映画本筋よりもどうでもいいことが気になり、主演ハダシ役の伊藤はじめ25歳前後の役者(ダディ・ボーイ役板橋に至っては30代半ば!)がちゃんと高校生を演じて、それらしく見えるのにも驚嘆。ラストシーンの驚愕というか魅力を言っているレヴューが多かったけれど、これも先の視点からみるとちょっとな…。ハダシ,ビート板、ブルーハワイという女子高生3人組の命名は面白く、映画撮影シーンや悩む監督の姿などもとても面白く見たのだが…ちょっと点がからくなるのは、前の『アナザーラウンド』の共通する学校世界をまったく違った角度から見た作品だったがゆえかとも思われる(9月21日 新宿シネマカリテ201)


⑪浜の朝日の嘘つきどもと
監督:タナダユキ 出演:高畑充希 柳家喬太郎 大久保佳代子 甲本雅裕 佐野弘樹 光石研 吉行和子 2021日本114分 ★★

予告編は何回も見ていたし、あまり予想外の展開はないが、乱暴な物言いの中にかわいい?高畑充希と柳家喬太郎とのかけあいや、大久保佳代子扮する田中茉莉子先生(茂木莉子の「偽名」はモギリとそれに茉莉子先生の莉子から取ったものだった?という「感動」)の教師としてはちょっと型破りなぶっ跳びぶり、それでいながらちゃんと教師として教え子を導いている人間性がなかなか魅力的だし、え?どうなるの?と思わせておいてなるほどと着地するヒロイン浜野あさひと「浜野アサヒ交通」社長の父との関係も納得。
実在の南相馬朝日座を舞台に廃館にしたくないと奮闘するヒロインを描くが、これは新しい形の東日本大震災を描く映画でもあり新型コロナを描く映画でもあり、そして『東への道』『女の泣きどころ』から『台北暮色』(これはヒロインが初めて買い付けた映画として出てくる。映画作品についてはシネマ・ヴェーラが協力したとタイトルバックに)まで映画愛溢れじわりと泣かせるというより胸に迫る喜びという感じの映画でもあり、やはりタナダユキただものではないという感じだ。(9月23日 キノシネマ立川202)


⑫スイング・ステート

監督:ジョン・ステュワート 出演:スティーブ・カレル クリス・クーパー マッケンジー・デイビス ローズ・バーン ナターシャ・リオン 2019米 102分

ウーン。選挙についてこういう娯楽映画ができるというのは、なんだかんだ言ってもアメリカの政治社会の成熟を示すものなんだろうと思う。動きも早くセリフも連発、下ネタもけっこう満載でガチャガチャというイメージでけっこうついてい行くのが大変だった(疲労と老化?)けれど、なるほどな! ヒラリー陣営で大敗した民主党の選挙参謀が、農村部の票を獲得するために乗り込んだ田舎町で、YouTubeで話題になった男を町長選に立候補させる。共和党も対立候補現町長の応援に辣腕の女性選挙参謀を送り込み、民主党側の町長候補の娘もからんでの大選挙戦のすったもんだのあげく、えー、なるほど田舎町の選挙民をバカにしちゃいかんねという結末まで、一気に見せられた。翻って日本の政治を描いた映画もけっこう最近はいろいろあるが、ちょっと真面目に硬いかな。いよいよ公開の『総理の夫』に期待するかな。 (9月23日 キノシネマ立川 203)


⑬ムーンライト・シャドウ

監督:エドモンド・ヨウ 出演:小松奈菜 宮沢氷魚 佐藤緋美 中原ナナ 吉倉あおい 中野誠也 臼田あさ美 2020日本 92分 ★

小松奈菜・宮沢氷魚主演の恋愛ドラマ?というだけでは見に行こうとも思わなかったが、吉本ばなな初期作品が原作、エドモンド・ヨウが作るとなれば一応…。というところで見に行く土曜の夜。チケットを買うときも、15分前に劇場についたときも1人だけで、これは珍しい1人鑑賞?と思ったら、直前に、5~6名、皆一人鑑賞で、しかも私の座る最後列にずらりと席をとったのには驚いたー老若男女さまざまだったが、嗜好が近い人なのかな?で、エドモンド・ヨウは2017年の『ヤスミンさん』、『アラキット・ロヒンギャの祈り』、それに昨秋『MALU夢路』と見ているが、アフマド・ヤスミン監督のドキュメンタリーである『ヤスミンさん』は別として來世とか幻想世界と現実の分かれ目を描きつつ、話としてはサスペンスタッチでけっこうごちゃごちゃもしていてという印象だったが、今作は吉本ばなな原作の味わいの方が強いということか、内心をのぞき込むようなクローズアップの顔、顔、顔と長い橋を中心に川辺の景色とか、その微妙な混合のビジュアルがなかなか美しく、臼田あさ美演じるレイ周辺の人物模様や情景にエドモンド風は少し感じられつつも、わりと幻想的、すっきり、詩的に仕上がっていて、画面の美しさ、ちょっとおどろおどろしくバックを流れる音楽が重層構造を作っている(これはエドモンド風、かな)のにも引き込まれる。
小松奈菜は美しくかわいい女優というのではないザラザラ・ごつごつ感も出しつつクローズアップの表情にものを言わせて、見直した。それに比べると宮沢氷魚はウーン、お人形さんみたいだな。弟・柊もなんか変なもみあげが気になってイマイチ、よかったのはユミコを演じた中原ナナで、小松と対比されるようなビジュアルで初っ端縮れ毛のアフロ丸メガネにちょっとぎょっとしたが、意外に内面をにじませつつちょっとエキセントリックではあるが可愛げもある少女というのがぴったりはまっていてすてきだった。(9月24日 府中TOHOシネマズ 204)


⑭MINAMATA

監督:アンドリュース・レヴィタス 出演:ジョニー・デップ 美波 真田広之 加瀬亮 浅野忠信 岩瀬晶子 国村隼 ビル・ナイ 2020米(英語・日本語)115分 ★★

いまや映画は世界をかけめぐる?この水俣というローカルな地はセルビア・モンテネグロで撮影されたのだとか。陰影のくっきりした美しい水俣の海岸の風景、ま、確かに日本の田舎というよりは幻想の地みたいな感じもしないではなく、それも演出と思っていたのだが…。自らプロデュースもしているジョニー・デップは『シザーハンド』以来幾多の変身的映像を見せてきたが、ここでもいかにもユージン・スミスという不安定さと風格をにじませつつそこからジョニーの面影もにじむという化け方=演技で、いかにもユージン・スミスという世界をつくりあげている。アイリーン役の美波(顔は知っていたが詳しくは知らない人だったが)にもひきつけられる。真田広之、加瀬亮、浅野忠信、国村隼ら、いってみれば日本の国際的役者とも言える人々が人によっては英語も駆使しつつ頑張っている。後、どういう人をどういうふうに演技して撮ったのかっわからないが水俣の入院患者たち、ユージン・スミスにカメラを与えられて写真を撮る手足の不自由な患者の少年、そして母と入浴する有名な写真のモデルとなった少女役とか露出場面を多くしすぎず、それでいてある程度のリアリティを感じさせるような役作りをしていて、そのあたりもなかなかすごい?ともかく志を感じさせる映画でもあり、ジャ―ナリスティクを感じさせる映画でもあり…(9月25日 府中TOHOシネマズ205)


⑮ちょっと北朝鮮に行ってくるけん

監督:島田陽磨 出演:林恵子 中本愛子 2021日本 115分 ★

1960年帰国事業で、在日朝鮮人の夫と北朝鮮に渡った姉(88歳?)を訪ねて妹(67~70歳)が北朝鮮に渡るまでと、わたっている間の姉との再会、帰って姉の友人である同じ日本人妻たちの縁者を訪ねてともに北朝鮮を訪ねようと誘うが冷たく断られる場面までーそして最後はコロナ禍の中、国境を閉じ国際郵便もシャットアウトした北朝鮮の姉との連絡がまたとれなくなってしまったところまで。
「北朝鮮」は怖い国、渡っている縁者からは金や物の無心しかこないとして最初は北に姉がいることも周りには隠していたところから、渡航を決意して周りに反対されるところ、北朝鮮では政府機関の通訳付きで姉の自宅への訪問などは許されず、「祖国を捨てて夫について渡ってきた女性への厚遇」を強調する役人、血縁との再会を喜びながら党への忠誠を誓う歌を披露する若い縁者たち、そして帰国後の経験など、やはり、北朝鮮と日本の間の政治断絶はもちろん、人々の交流という意味でも断絶を感じさせられざるを得ない状況が一場面一場面に表れる。日々の生活の中で血縁とはいえ遠い昔にわかれたまま音信不通になっていたような親族との縁ってなんなのだろうーとは日々血族に苦しめられている?(というほどではないが、どうもスムーズに行っているとはいいがたく妥協や心を押し隠すという行を強いられ続けている気がする)個人的な感想?だが、いろいろと考えさせられながら見たのだった。それにしても北朝鮮にわたって60年の姉・中本愛子さんの今も美貌を残している容貌や、頭脳の明晰さには脱帽。年下の日本人妻仲間の中でも断然しゃきっとしているのであった。(9月27日 ポレポレ東中野206)


⑯由宇子の天秤

監督:春本雄二郎 出演:瀧内公美 河合優実 梅田誠弘 光石研 川瀬陽太 丘みつ子2020日本 153分 ★★

ドキュメンタリー監督の由宇子は3年前に起きた女子高校生の自殺(若い教師とのセックス関係をSNSで流され、学校からは退学を迫られたことによる)とその後の相手とされた男性教師の死(抗議自殺?しかもそこには当人たちの言い分を信じず糾弾した学校側と、それを興味本位に報道したメディアの問題)を追求し、女子高生の父や死んだ教師の母や姉に話を聞いて構成しメディアの対応を批判する内容も含むドキュメンタリーを作ろうとしているが、TV局側は学校糾弾はいいがメディア糾弾はすべきでない(自分に火の粉がふりかかる?)として、彼女の仕事はなかなか思うようには進まない。
彼女は一方で父が経営する学習塾を教師として支えてもいるのだが、そこの生徒の高校生メイがある日具合が悪くなり家に送っていくと、メイに自分が妊娠していること、相手は塾長である由宇子の父であることを告げられ仰天する。メイの家も由宇子と同じく父子家庭で、しかも仕事も安定しないらしい父にあまり顧られないメイの様子である。由宇子の父は娘の問いかけに謝罪して塾を閉じるというが、それは父ひとりのみならずメイにとっても自分にとっても、また塾の生徒たちにとっても将来が閉ざされるような大問題であるとして、父には秘匿するように言い、彼女自身がこの問題に対処しようとする。
同じ「身内」ではあってもメディアの糾弾はいとわない彼女だが、父の問題に関しては自らにかかる火の粉もあり正義は貫けない姿、さらにその行為が一見メイやその父にとってプラスに働き、また由宇子の父の犯罪を隠せるかに見えて、次の局面ではそれがひっくり返りさらに困難な局面が現れ、かと思うと実はメイは不特定の男性に体を売っていたのだというスキャンダラスな情報も現れ、仕事の面でも青年教師の姉の思いがけない事実に関する発言などにも翻弄されで、由宇子にとっての正義とか公正とかの価値がバランスを失っていく様子が緊迫感をもって、解決策のない最後まで描かれていく、その意味では真のサスペンスドラマ?153分という長尺だが全然長さを感じさせず由宇子の目線でハラハラとかつ苦しい時間を過ごすことになった。『サマーフィルム』にも出ていた河合優実が今どきの、環境的にも恵まれず、不安定な高校生というかの作品とは全く違ったキャラを好演している。(9月27日 渋谷ユーロスペース207)


⑰クーリエ:最高機密の運び屋

監督:ドミニク・クック 出演:ベネディクト・カンパ―パッチ メラーフ・二ニッゼ レイチェル・ブロズナン ジェシー・バックリー アンガス・ライト 2020英・米 112分

1962年冷戦時代、ソ連のキューバへの核兵器配備を阻止したアメリカの対ソ諜報戦に利用されスパイとしてソ連に送り込まれた普通のセールスマン、クレヴィル・ウインの実話にもとづたサスペンスドラマ。
最初はただセールスマンとしてソ連に商売に行き(というか振りをさせられ)、ソ連側でアメリカに通じた政府機関のペンコフスキー大佐と友情を結び、キューバ危機の中、ペンコフスキー一家を亡命させようとして発覚しソ連に拘束されてしまうーここで丸裸にされ髪を刈られ牢獄にいれられ1年半?やせ細り衰えた主人公を演じるカンパ―パッチの役者ぶりがすごい!そしてエンドロールでは実物のクレヴィル・ウィンも登場、ソ連からの帰還のインタヴュー映像を映し出すサービスぶり。
それにしてもここでは完全にソ連悪者の英米視線で、特にフルシチョフはじめソ連政府は化け物っぽくて、今この時代にこういう映画が作られる意味って何なんだろうか…、とちょっと考え込んでしまう。  (9月28日 府中TOHOシネマズ208)


⑱総理の夫

監督:河合勇人 出演:田中圭 中谷美紀 貫地谷しほり 島田久作 工藤阿須加 松井愛莉 余貴美子 岸部一徳 木下ほうか 片岡愛之助 2021日本 121分

原田マハ原作の映画化、原作にもあったりなかったり?だけれど護国寺の森に囲まれた豪邸での野鳥観察、飼っているオウム、リュック・山スタイルでの出張、帰って車の中から見上げる壁面画面の首相就任ニュース、総理の夫に集まってくる門前のおっかけ、などなどビジュアル的にも映画らしさをしっかりたたきこんで、中谷美紀の格好よさ、貫地谷しほりの頼りになるシングルマザーぶりとか、子どもを持つ働く女性が幸せになるような社会を求めてという基本的なスタンス(これは原作のもの?珍しく原作未読で、今、実は読んでいる最中でそこまでいかないのだが)を最後の田中圭の記者会見の場での「名演説」にこめてうまーくまとまっている。福祉法案を通すためには増税もいとわないという、現実政界(折からの自民党総裁選最中)よりも苦いというか厳しい政策もなんかリアルを追及しているのかなと思いつつ。(9月29日 府中TOHOシネマズ209)


⑲マイ・ダディ

監督:金井純一  出演:ムロツヨシ 奈緒 中田乃愛 毎熊克哉 臼田あさ美 2021日本116分

最初の方で妻を8年前に亡くしガソリンスタンドでバイトをしながら牧師をする主人公と、ちょっと反抗的になった高校生の娘の映像の一方、ミュージシャンを目指し路上ライブをする青年と、彼を支えようとするその恋人(二人がクリスマスイブの夜主人公の教会の前を通る場面もあり)が交互に出てきて、この二つの物語がどう交錯していくのかなと、しばらくは宙ぶらりんで見ていた。やがて中盤なるほどの展開で、恋人の裏切りにあった女性は教会に駆け込みイースターの卵作りの手伝いをするところから主人公と結ばれることになる。そして生まれた娘が高校生になり白血病になる…骨髄移植の可能性を求めて検査した結果娘と自分に親子関係がないことを知った主人公は…というわけで妻の過去をたどって娘の実父探しをする父というのが、まあこの物語の骨子なんだけれど、難病ものと血縁ものにキリスト教の愛を絡めてというのはちょっとしつこいというか、なんかなあ泣けないし楽しめないし…。中途半端な感じもする。
私がむしろ気になりよく書けているかなと思えたのは、浮気中に恋人に踏み込まれ、怒った恋人が出ていったーその恋人には自分はおたふくになり子どもはできないと告げていたー元ミュージシャン志望(多分献身的な恋人が重荷だったのかもしれない)の青年と、そのときの浮気相手で、今や彼を支えて飲食店を経営し、高校生の娘も持つ女性=臼田あさ美が好演)のほうの過去を修復しつつ、15年後に発覚した事実に当惑しつつ対処をしようとする姿もけっこう印象的で、それの主人公の妻の死因もからみ、というあたりがなかなか単純ではない作劇で、ようやく見るに堪えるかなという気がした。やはりムロツヨシの「個性」が強すぎて他を圧倒していて、これに耐える物語はなかなか難しいという気もしたので。(9月30日府中TOHOシネマズ210)


⑳ミッドナイトトラベラー
監督:ハッサン・ファジリ出演:ナルギス・ファジリ サフラ・ファジリ ファティマ・フサイニ ハッサン・ファジリ 2019米・カタール・カナダ・イギリス 82分 ★★★

2019年山形YDFでのコンペ優秀賞受賞の話題作だったが、時間がなくてこの時は見られず、イメージフォーラムでの公開も年間多忙の9月ゆえにズルズル遅れ、とうとう明日からはレイトのみという最終日、台風の雨をついての駆け込み鑑賞ーの甲斐があった。すごい500日のスマホ映像(3台。妻も映画監督、娘=小学生年代も映像教育を受けているとか)。
タリバンの映画を撮ったことでタリバンの怒りを買い主演俳優は処刑、自身も死刑を宣告された監督が妻と二人の幼い娘とともにタジキスタン、トルコ、ブルガリア、セルビアを経てハンガリーに難民として受け入れられる(ところまではこの映画の終わりの時点では行っていないようだが)までを撮影し続けたもの。途中では野中の道を延々と歩いたり、野宿をしたり、難民キャンプに空きがなく廊下で寝たり、警察に門前払いにされたりさまざまな苦境があるのだが、それにもかかわらず、非常に聡明・機知に富みタフに両親の支えにもなる長女や、愛らしい幼児という雰囲気から髪も伸ば少女になっていく次女の健気さ、また厳しい状況の中で夫と同志的に支えあおうとする妻ー夫が難民キャンプの中で近所の少女に「かわいい、きれいにいなった」とお世辞?軽口を言う場面がある。その場で黙っていた妻は少女が去った後、夫の「言い方」を厳しく批判する(厳しくとはいっても起こるのでなく笑顔ではあるのだが)、ここで夫は自らも自由を奪われつついる存在であるにもかかわらず女性を抑圧する側から自由ではないことが暴露されてしまう。ただ褒めただけ、君だって映画の中では…という夫の反論に、映画人として他の男と夫婦役を演じたり着替えを手伝ったりするのとは全く違うのだという妻の明晰な反論が印象的で、こんな追い詰められた生活の中でもこの夫婦が理念を重んじ、流されてはいかないことを、妻が1年以上いた最後の難民キャンプで自転車の練習をして乗れるようになる場面とともにきわめて印象に残った。スマホで撮った映像はいかにもスマホらしいのだが、それでもこんなにきれいに生き生きと撮れるのだなという出来栄えで、台風を押して見てよかったと思わせられた。(10月1日 渋谷イメージフォーラム211) 


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