【勝手気ままに映画日記】2021年7月

快晴の八ヶ岳(天狗岳への展望台)から赤岳方面(7.17)

双耳峰天狗岳・東天狗から西天狗を見る。下は西天狗岳頂上から東を…


北アルプス方面 


①Arcアーク②脳天パラダイス③唐人街探偵 東京ミッション(日本語吹き替え版)④アジアの天使⑤デュー・あの時の君とボク➅スーパーノヴァ⑦ブラック・ウィドウ➇サムジン・カンパニー1995⑨唐人街探偵 東京ミッション(字幕版)⑩プロミッシング・ヤング・ウーマン⑪シャイニー・シュリンプス⑫17歳の瞳に映る世界⑬走れロム⑭復讐者たち(PLAN A)⑮ライトハウス⑯親愛なる君へ(親愛的房客)⑰てなもんやコネクション⑱83歳のやさしいスパイ(El agente topo)⑲夕霧花園⑳返校 言葉が消えた日㉑イン・ザ・ハイツ 

中国語圏映画③⑨⑯⑳(ちょっとだけ関連して⑤⑰⑲も??)韓国関連映画④➇ 日本映画は①②④⑰(③⑨⑲も日本人俳優活躍)でなんか境界が見えなくなってきている??
★はなるほど! ★★いいね!(好みはあろうが) ★★★おススメ
各映画最後の劇場名のあとの番号は、今年になって劇場で見た映画の通し番号です。


①Arcアーク
監督:石川慶 出演:芳根京子 寺島しのぶ 岡田将生 小林薫 風吹ジュン 中村ゆり 倍賞千恵子 2021日本 127分 ★

ケン・リュウ原作の『円弧』。プロデュースもケン・リュウ自らしているとのことで、そこにまあ興味を持って見に行ったというところ。17歳から135歳までのリナを演ずる芳根京子。出だしはなんかおどろおどろしくあらあらしいダンスというかパフォーマンスシーンからで、それを寺島しのぶ演ずる師・エマが見て自分の手元に彼女を呼び寄せることになるわけだが、ウーンなんというか普通の枠にはまらないような、同時に世に受け入れられないような少女の表象ということなのだろうか?
生まれたばかりの赤ん坊を捨て、師のもとで死者を生きたままの姿で保存する技術を身に着け、師の弟がその保存技術を応用して開発した不老不死の施術を施されて135歳までを生きる姿を描く。しかし不老不死は初期には高額でもあり誰にでもできるものではないとして世間の批判にもさらされ、やがてそれでも普及していくが、遺伝子の問題で成功せずに死が訪れる人、40歳以上は成功率が低いとか、またあえて施術を望まない人もいて、施術を考案したリナの夫も亡くなる。
後半は(ここから最後近くまでモノクローリナの不死の象徴?)彼女が創設した「天音の園」―死ぬべき人々の家ーでの彼女の姿ー精子保存で授かった亡き夫との子、その遺伝子が不老不死に問題ないとわかって喜ぶとか、17歳で捨てた息子が老いて不老不死は選ばないとして目の前に現れるとか、なるほどなるほどの事件がいくつかある89歳を経て最後は見かけ40代くらい?の娘、芳根が演じる孫に囲まれた135歳の白髪の老女(倍賞千恵子、きれい!)となって死を選ぶという、前半の結構怪しげなおどろおどろしさと、後半の穏やかながら生とは死とは何かを考えさせるような人の営みの描写とがちょっとミスマッチな感じもなくはないが、たっぷりたっぷり丁寧に描かれていて見ごたえがあった。
(7月2日府中TOHOシネマズ 155)


②脳天パラダイス
監督:山本政志 脚本:山本政志・金子鈴幸 出演:南果歩 いとうせいこう 田本清嵐 小川未祐 玄理 古田新太 村上淳柄本明 2020日本 95分

「あらゆる厄吹き飛ばす脳天直下のパラダイス」というチラシの文句と、何回か見たトレーラー映像にひかれて、この鬱陶しい世間状況の中、大いに笑って気分が変えられるかなと楽しみに行ったのだが…。トレーラーに出てこない部分は意外と暗く、意外とマジメで映画の中でその暗さ鬱陶しさを振り払おうと笑いのシーンを作るわけだが、「くすっと」笑いが多くて「あははは」と行かないのは私の心理状況?いや、会場も意外と笑いがわくということはなくむしろ、ブラック・ユーモア満載っぽいテーマの暗さかもね…と思えてしまう。
終わって山本監督と大森立嗣監督のトークがあったが、こちらも軽妙で観客サービスの意識はあるようだが話題にちょいちょい出てくるのが大森監督父の麿赤児の変わり者性とか、ちらりと新井浩文、唐突にアップリンクの浅井氏話題とかなんかブラックに振っている感じがする。そのトークによれば「笑わせる」シーンは山本監督自身の脚本で、その芯になるような家族構成やそこでの事件などは金子鈴幸氏の作ということでそのバランスが良かったというのだが、確かにブラックギャグ的な笑いだけでは見ていられないから暗いドラマ部分がなければこの映画成り立たないのだろうなと…その中で夫を捨てて家出し、この家の最後のパーティに(後からバレる)新しい、しかしすでに別れた男とともに現れ、息子には泣き、他には一見脈略なくそれこそ能天気にふるまう南果歩、なかなか好演で明るさ暗さのバランスがすごくよく、この映画の彼女を見ると確かに「あらゆる厄を吹き飛ばす」感はあった。
(7月8日 新宿K'Sシネマ 156)


7・10曇天 八ヶ岳(硫黄岳)見るべきは花ぐらい

ハクサンシャクナゲ

シオガマキク


③唐人街探偵 東京ミッション(日本語吹き替え版)
監督:陳思誠 出演:王宝強 劉昊然 妻夫木聡 トニー・ジャー 長澤まさみ 三浦友和 浅野忠信 鈴木保奈美  2021中国 138分 

2016年の1はバンコク舞台、王宝強のキンキン声と劉昊然演じる頼りない警察学校受験失敗の秦風のコンビ初登場は女子高校生が事件の黒幕という終わり方も含めて中途半端にシリアスでヘヴィであまり楽しめなかった。
2はニューヨークが舞台で、今回3でも登場してくる世界探偵ランキングを競うパーティを舞台に勢いもあり深刻さもなくて娯楽作品としての勢い全開、そして今度は??ウーン。家の近くでは字幕版でなく吹き替え版しかやってなくて、やむなくそれを見る。
王宝強の吹き替えは声質は似せていて違和感がないが多分原版よりは少しおとなしめ。それだけに聞きにくさはなかった。しかし中国の二人のやりとりが案外多いというか話の中心で日本人役者はたくさん出ているが意外にそれぞれの出番は少ない感じで日本語でしゃべっていて違和感はない(本人が吹き替えているみたい)が、ウーン。2でベらベラ中国語や英語もしゃべっていたと思う妻夫木も日本語オンリー。彼のキンキラ度肝を抜くような華やかな衣装でのきざっプリと、相変わらずの王宝強のエネルギーに挟まれて秦風がなんか普通の人に見えてしまう。タイから参戦した探偵という役回りのトニー・ジャーも前半どんなふうに活躍してい行くのかと思うと途中姿を消し、最後の法廷場面で重要な役回り―中国東北地方に調査に行って、三浦・長澤が扮する残留孤児親子のことを調べてきたというのだが、え?そりゃ無理というか、もったいないでしょう?そういう役回りじゃないんじゃないの?と思えてしまう。
話はドタバタとコミカルな場面をまじえて東京中の観光案内の体。しかし横浜中華街はワンシーン?で「唐人街」探偵という題名にはやや偽りアリの感も。そして今回後半では法廷シーンで三浦友和扮するヤクザの親分ミッションの依頼人と殺された敵方の秘書嬢(長澤まさみ)の因縁の親子関係が示されそこに事件の犯人を明らかにする過程が絡むというわけでまあ、バンコク編ほどエグイ感じはないが、ウーン、ま、この監督作者の日本・日本人感の表象なんだろうなあ。とにかくお金はすごくかかっていそうな豪華感のある映画ではある。
(7月9日 府中TOHOシネマズ 157)


④アジアの天使
監督:石井裕也 出演:池松壮亮 オダギリ・ジョー チェ・ヒソ キム・ミンジェ キム・イェウン 佐藤凌  2021日本 128分 ★★

池松壮亮扮する青木剛と息子学(佐藤凌、セリフはほとんどなくてまん丸い顔に口をとがらせて雰囲気で演じている感じだが、これが何ともうまくて、困った父を黙って見つめ追い詰めてさえいる感じをよく出している)は不機嫌なタクシー運転手や、暴力的な兄の同居人に困惑しつつ、日本の家をたたんでソウルの兄を頼り(というか呼び寄せられて)移住してくる。剛はあまり売れない小説家で執筆の場所を選ばない―PC抱えて結構頑張って仕事をするーが息子の学校もあるし、こんなの可能なのかなとも思えるが。
兄の方はふらふらと国際ブローカーを気取ってはいるが実際のところはフリーターに近い感じで呼び寄せたはいいが全然頼りにならず、ただ口は達者で人当たりはまあまあ、女性と見れば言い寄るよううな感じもあるという人物。全編を通じて剛の、ことばも通じず、周りから怒りをぶつけられても理解できず、兄は頼りにならず、こちらでの収入の道や住処さえも得られない閉塞感というか頭をおさえられえ散るような感じがよく伝わってくる。
一方ソウルで売れない元アイドルのソル(『金子文子と朴烈』(2017イ・ジュンイク韓国)で金子文子を演じたチェ・ヒソ。先の映画では日本語を上手にしゃべっていたが今回はハングルと片言の英語のみ)も落ち目で社長には裏切られで閉塞感一杯。兄の強硬な誘いで、公務員試験受験中の妹も含め3人で田舎の両親の墓参りに行くことに。
同居人に逃げられ住処も失った兄に、昆布を売る当てがあると誘われてこちらもやむなく旅に出る3人。鈍行の列車の中で子どもを介して二組が出会い、旅を共にするというロードムービー仕立てになるわけだ。閉塞感は消えず、ことばもなかなか通じず、頼りない兄と片言の英語だけが彼らを繋ぐ糸になるわけだし、楽しいことは何も起こらず、トラブルもあり、しかし一行はともに墓参りをしてそれまで墓の世話をしてくれていた叔母の家に立ち寄り歓待される・・・ま、そんなに劇的なことは起こらないのだがそれぞれが旅の中で少しずつ他の人々を見る目が変わり(というほどにこれも劇的に変わるわけではないが)閉塞感はそのままかもしれないが、それでもそこに空いた小さな穴みたいな互いとのつながりができていくー頼りない兄の至言「それが愛だよ」という感じで不思議な風合いのハッピー・エンドなのかなあ?しかしなあ?という終わり方をする。ちょっとかったるい感じもあるがいい映画だとも思える。(7月12日 テアトル新宿 158)


⑤デュー・あの時の君とボク
監督:マシュー・チューキアット・サックヴィーラクル 出演:パワット・チットサワンディ、サダノン・ドゥーロンカウェロー、スコラワット・カナロット ヤリンダー・ブンナーク 2019タイ123分 タイ語(一部中国語)

2001年韓国の話題作『バンジー・ジャンプする』(キム・デスン)のリメークというのだが、あちらは女性との恋愛のあと別れ20年近く後に高校教師になった主人公は男子生徒に元の恋人の面影を見るのだがーこちらは96~97年の高校時代、恋に落ちるのが男子生徒どうし、小さな田舎町では噂にもなり学校での非難や、その中でのそれぞれの逡巡などのはてに主人公ポップはバンコクにと出ていく。
20年後に戻って高校教師になるところは一緒だが、そこで出会うのは女子生徒というわけで、後半はそれぞれの妻や、ちょっと支配的なボーイフレンドとの軋轢などはありつつも、まあ同性どうしという葛藤はないわけでハッピー・エンド?の様相を呈するが、ウーンそこがやはり何と言ってもつまらないところで、まあこの映画前半のボーイズラブの悲恋を描くというところに主眼がある?のだろうか。
タイの学校が舞台でことばもタイ語ということになるが、ポップの父は華人ということか、セリフ基本的に中国語。これがとんでもない支配的な親父で息子は勘当されて家を出る設定だがーまあよく大学を出て教師の資格も取れたなあとも思うがー、一方再来の少女のちょっと支配的なボーイフレンドもちょっと中国語だった気もする。タイにおける華人系の位置づけに何か特別なものがあるのかなあ、などとも思えた。
初っ端、96年の高校での集会で「エイズが流行している。同性愛男子に特に発病が多い。研修をするので性的に逸脱している生徒は(申し出て)受講するように」というアナウンスによってちょっとそれっぽくなよっとした感じの男の子たちが申し込みの列に並んでいる映像に驚く。もちろん主人公の二人はこの段階ではその列を遠くから見ているだけだが…。これってタイだから?ほんとにこんなすさまじいことが行われたの?それとも映画的誇張?と悩ましいところ。後からは「矯正キャンプ」もでてきて、これは物語の筋にも大きくかかわるし本当にあったのだろうなと思われるのだが…。
(7月12日 シネマート新宿 159)



➅スーパーノヴァ
監督:ハリー・マックイーン 出演:コリン・ファース スタンリー・トゥイッチ 2020英 95分

前半キャンピングカーでイギリスの田舎を旅するサムとタスカーのちょっと調子のずれるような掛け合いや甲斐甲斐しくタスカ―の世話をやこうとするサムの様子からタスカ―の冒された病気が見えてくる。やがて車はサムの姉一家の住む家につき、そこでパーティが行われる。外に止めた車の中でサムはタスカ―の秘した決意を知る。そして姉一家に別れを告げた二人はさらに旅をし、二人の終の住処?と定めた一軒に到着、そこでの未来への暗示で映画は終わる。ということでタスカ―が認知症であるとわかった時から観客もタスカ―の決意とサムの心情がわかってしまい、そこにどう到達するのかしないのかという談話劇になってしまうので、ロードムービー仕立てにして美しいしかし厳しさも感じられるような自然の景色やタスカ―の愛する星空なども見せながらでないと、ちょっとつきあいきれないかなという感じもある。
二人は20年来の恋人(同居人ー結婚しているのかも。姉一家はじめ家族も認めている)という設定で、出会い・偏見や迫害・別れるか続くかみたいなことがテーマになりがちだった20年前以前のゲイ・ムービー(例えば『ブエノスアイレス』(1997王家衛・香港)とか)を思い起こすと隔世の感がある。ただ、ではこれが男女の夫婦・恋人どうしだったらどうなるかなと考えると、やはりこうはいかない?ー先月見た『ブラック・バード』(2019ロジャー・ミシェル・米英)のように女には守るべき?家族が付きまとう??ーこの映画の家族はサムを守ってくれるような姉一家だーのかな。ピアニストのサムは一度もピアノを弾かず、最後のシーンでタスカ―の決意を受け容れて?はじめてピアノを弾き、その音の中で映画が閉じていくのが印象的だ。   (7月15日 キノシネマ立川 160)


⑦ブラック・ウィドウ
監督:ケイト・ショートランド 出演:スカーレット・ヨハンソン フローレンス・ビュー レイチェル・ワイズ デヴィッド・ハーバー ウィリアム・ハート 2021米 134分

言わずと知れた(私でも知っている)マーベル製作の「アベンジャー」シリーズのヒロイン「ブラック・ウィドウ」。ドラマは全然見ていない(『アイアンマン』は見た)が、まあ女性中心のアクション劇がどんなふうに作られるのかという興味で見に行った。あと「ウィドウ」とはいったいどういう命名よ、と(常々)思っていたこともあり。
で、出だしは1995年ごろの少女の姉妹―ブランコ遊び、蛍の飛ぶ庭優しい母、みたいなホームドラマから一転して銃撃戦とカーアクション、さらにはハラハラ飛行まで息をつかせぬダークな世界に飛び込み、少女たちの訓練?シーンを挟んで20年後のさらにダークな女性暗殺者集団の闘いへと。その中で暗殺者の一人として育てられ背信的行為から今は組織に狙われているヒロイン、ナターシャ・ロマノフと妹エレーナが再会し、暗殺者集団を指揮する黒幕レッド・ルームを倒すことを目的に、かつて3年共に暮らしたものの一夜にして瓦解させられた「家族」ー刑務所にいる父、科学者としてレッド・ルームの内側にいる母を再び集合させて(この間に真の家族ではない家族の互いにそっぽを向くような心情とか逆に心が通い合う部分とがハラハラに描かれる心理劇的な要素もあってうまい)黒幕(これはやっぱり?男)を倒し洗脳されている女性暗殺者集団とたたかいながら洗脳を解き(この鍵を握っているのが妹エレーナ)そして最後は空に浮かぶレッド・ルームを爆破・破壊しながらそこから決死の脱出をする…という展開。
これでもかこれでもかというほどに女たちの乱闘を見せるが(これ女性監督だけど)体にぴったりのボディスーツで乱舞する感じでそれがちょっと男目線な感じがするのが気になる。題材のためのメイクだとは思うのだがスカーレット・ヨハンソンも母役のレイチェル・ワイズもなんか疲れ切ったようなごつごつしたりやせ細った顔の印象だし、歩きも特にナターシャは重い感じだしでエレーナ役のフローレンス・ビューのみがキリリ。これってどういう意味なのかな…。製作陣自身が疲れている?ウーン。(7月15日 キノシネマ立川161)


➇サムジン・カンパニー1995
監督:イ・ジョンピル 出演:コ・アソン パク・ヘス イ・ソム 2020韓国 120分 ★★

95年韓国をの実話をもとにサムジンカンパニーという会社の3人の高卒OLの会社の公害(工場のフェノール垂れ流し)を告発する奮闘ぶりをコミカルにーいわゆるお茶くみや補助作業で昇進も望めず男どものセクハラ・パワハラ設けているといえば深刻なドラマにもできるかもしれないが、3人の個性的なキャラクターも含めコミカルに仕上げつつ、まじめに社会問題の告発もなしとげ、しかも最後では彼女たちの処遇の変化により一種のカタルシスをもたらす作りになっているのはさすが、韓国映画の真骨頂!(7月16日 シネマート新宿 162)

⑨唐人街探偵 東京ミッション(字幕版)
監督:陳思誠 出演:王宝強 劉昊然 妻夫木聡 トニー・ジャー 長澤まさみ 三浦友和 浅野忠信 鈴木保奈美  2021中国 138分 

字幕版に再挑戦。で、そうだそうだ、この映画では甥が叔父を「小唐」と呼び叔父は「老秦」と甥を呼ぶという逆転がおこっていたのだった。こういうのが吹き替えだとみな消えてしまい、しょっちゅう出てくる呼びかけ、あれ?吹き替えではどう言っていたんだっけ?
それと字幕版では案外「通訳」にこだわっていることがわかった。
にしても38歳で中国人妻子付きで残留孤児にした息子を探し出して呼び戻し、しかも連れてきた妻子を捨ててやくざ?の婿になることを強制する父親(演じているのは奥田暎二)ってなによ?それがしかも88年くらいの設定で、ま、ギリギリ年は合わないでもないが、ちょっと??な…。このあたりと秘密結社にして探偵ランキング1位のQ(こちらはアンディ・ラウ、出てくるのはワンシーンだが、次回作の主役悪役?かな。いかにも悪そうで、おどろおどろしい)や二人が日本に降り立った途端の乱闘とかコミック的非現実の絶妙具合がウーン、いいのか悪いのか。次回作の舞台も示され、終わりは登場人物そろい踏み(ただし三浦友和や長澤まさみはさすがにいない)の「酷你吉娃(コンニチハ)TOKYO」そして20年春節映画ということで主役二人にアンディ・ラウも加えた『恭喜発財2020』までの大サービス。
(7月16日 新宿TOHOシネマズ163)

久しぶりにゴジラのぞく新宿TOHOシネマズ


⑩プロミッシング・ヤング・ウーマン
監督:エメラルド・フェネル 出演:キャリー・マリガン ポー・バーナム アリソン・ブリー 2020米113分 ★★★

これはなかなかにすごい見ごたえ。表題は『前途有望な若い女性』だが、「前途有望な若者(男性)」がセクハラまがいやスキャンダルを起こしても「前途有望」ゆえに傷をつけないようにと許されるのに対して、その標的・餌食になったがゆえに前途を閉ざされた女性(正確には同性の友人が傷つけられその結果身を滅ぼし、ともに医大をやめることになって今やバイト・ウェイトレスとして30前の身で親の家に同居している)カサンドラ(キャシー)が、かつて女性を踏みにじったのにも関わらず有望な前途を歩み、結婚を目前にした男の独身最後のパーティに乗り込み自らの身を滅ぼしつつ復讐をはかるというーどうしようもない救いようのない男(たち)の姿とともに決して溜飲が下がるというのではないエグサも暗さも残して、むしろかわいらしい容姿のキャリー・マリガンの凄みも「くずれ」も満載で、さすがにうまい!
家では保守的で型にはまった意見で娘を苦しめる母よりも、物分かりよさそうな父の、娘が失踪したときの反応があ、やっぱり男!というのがちょっと怖い。それと前半の少々えげつない無差別的プチ復讐行動から、本格的にターゲットを定める後半へのきっかけが医大時代の共通の友である友人男性ライアンの出現と彼に対するキャシーの恋心、それにもかかわらずかつての旧悪にライアンも無関係ではないことを、別の女性の友人(こちらはうまく立ち回り男を許すことにより、キャシーたちへの差別的立場にたっている)から知らされて…というのが、復讐さえも破滅への道へ進んでしまうということでなんとも切ない。(7月19日 キノシネマ立川164)

(追記)テーマに触発されて、上野千鶴子の東大祝辞にも引用された『彼女は頭が悪いから』(姫野カオルコ2018)を読み直す。エリート男のダメさ加減は共通だけど、欧米の復讐はさすがスゴイ!


⑪シャイニー・シュリンプス
監督・脚本:セドリック・ギャロ マキシム・コヴァール 出演:二コラ・ゴブ アルバン・ルノワール ミカエル・アビブル デヴィッド・バイオット ロマン・ランクリー ローランド・メノウ ジェフリー・クエット ロマン・ブロー
フェリックス・マルティネス 2019仏 103分

切れっぽい元オリンピック銀メダリスト・マチアス、しつこい記者に思わず「このホモ野郎!」みたいな発言をして問題となり、次の世界大会に出るには懲罰としてアマチュア・ゲイの水球チームのコーチをしてクロアチアで行われるゲイゲイムズ(LGBTQ五輪)に出場させることを課せられる。家庭的にも別れた妻と娘の養育をめぐってもめているらしい33歳、この苦虫かみつぶしたような男と、さまざまな個性、自ら「弱小」と称するゲイ+トランスジェンダーの水球チームのかかわりと、クロアチアへの道中記、そしてすったもんだの挙句の勝利と、マチアスの変化といえばなんというか常套的予定調和みたいな展開ではある。
ちょっと意表をつくのはこの映画の終わり方。骨肉腫(もはやエイズではないのが現代的だ)を患っていることを隠してチームを率いるキャプテン・ジャンとその元恋人アレックスも絡めて、単なる外したスポコンドラマにしなかったところがこの映画の個性か。
マチアスが思春期鳥羽口くらいの年頃の娘を連れて子連れで練習に参加、彼女が水球仲間のなかで成長していくようであるのも好ましい感じで見た。(7月19日 キノシネマ立川165)


⑫17歳の瞳に映る世界
監督:エリザ・ヒットマン 出演:シドニー・フラニガン タリア・ライター セオドア・べレリン シャロン・ヴァン・エッテン 2020米 101分 ★★★

冒頭は若者たちの演芸大会?というか学芸会。瞼を銀色に染めた舞台化粧のオータムは「愛」によって束縛される自由をテーマにした曲を弾き語りするが客席から「メス犬!」というヤジがとび絶句。しかし一瞬こらえて最後まで歌いきり喝采を浴びるも、同じく客席で聞く父は苦い表情を崩さず、そのあと家族で行った夕食の席上でも母に促され投げつけるように「最高だったよ」と皮肉っぽく言いはなち、オータムは思わず席を立つ。ーこれほぼ唯一の激情シーンでオータムと家族の関係を描き切っているうまさ。この後彼女が鼻ピアスをあけるシーンも静かに痛みを感じつつ決意を示す描き方でなるほど。
高校に通いながらスーパーでレジを打つバイトをしている彼女が思わぬ妊娠。親には打ち明けられないまま、同級生でバイト仲間でもある従妹のスカイラーの助けを得て、親の同意なしには中絶手術を受けられないペンシルヴァニア州からニューヨークを目指し、2日間の都会の野宿まがいの滞在を経、中絶手術を終えて帰宅の長距離バスに乗るまでの17歳にしては、というか大人だったとしても精神的にも身体的にも壮絶であるはずの体験を、淡々と時系列でドキュメンタリーみたいに描いていく。
オータムはじっと感情をこらえているような表情で一つ一つのハードルをこなしていくのだが、時に母に電話をしてしまって切ったり、思いのほかかかった中絶の予約費用に、勤め先のレジから持ち出した金がなくなり、帰りの旅費を調達するためにスカイラーが「かわいらしさ」を武器に、バスで知り合った青年を「ひっかける」ような行為をする、その最初にATMをさがすと消えた二人に不安になり駅から街へと駆け回り、見つけた柱の陰の二人に近づいてそっとスカイラーに指を絡めるシーンとかにこぼれる表情の表出が抜群。
スカイラーも単に「いい子」というのでなく、多分自分がその立場になることもありうるというような共感に裏付けられた行動をしていることがわかる。それにしてもひっかけた「男の子」が悪いヤツでなくてよかったが…。
映画評の中にはカウンセラーが「性的暴力を受けたか」「強要されたか」というような質問を4択で繰り返し行い、オータムが絶句するというシーンをカウンセラーの執拗さ横暴のように批判的に見ているものもあったが、逆に未成年が中絶を行おうというときにこのくらいの質問は仕方がないんじゃない?という感じも…。親の同意なしで手術ができることは全面的に肯定されている。親はこの映画では(特に父親は抑圧的な障害だし)本当に無力だし、無力でいいのだ当然だと言っている?そして妊娠が、かかわる男とは無関係なものと位置づけられているようでも。と、すればカウンセラーの質問は手術のためにはやむを得ないのではないのかな?そして17歳、そのような執拗な追及を受け容れ、盗みも辞さず、野宿に耐え、体調不良にも耐え、さびしさにもつらさにも耐え、友のためには自分を危険にさらすのもいとわず、二人とも仏頂面になるのは当然だが、たくましい(素敵だ!)。
(7月21日 キノシネマ立川166)


⑬走れロム
監督:チャン・タン・フイ 製作:トラン・アン・ユン 出演:チャン・アン・コア アン・トゥー・ウイルソン 2019ベトナム 79分 ★★

最初の斜めに傾いた主人公14歳のラムの居住地域の不安定ながら不思議なスタイル感に始まり、あとは終わりまで目くるめく疾走感。
ごみごみ汚い下町で物売りをしながら一人暮らし、追われる家を救いたいと闇くじに掛け財産を失って縊死する老婆のあまりに品よき容貌、たたずまい、書物?の積み重ねられた室内と窓辺の色とりどりの花からこの地での暮らしの盛衰が感じられるし、子役としてはかわいげもないラムとライバルのフックも親なく浮浪児・不良少年として暮らしながら数字をあれこれし、計算も金勘定にも長けるこの教養?というか読み書き算盤能力ってどうやって身に着けたのだろうと思うと、そのアンバランスが救いのようでもあり哀しみにも感じられる。が、見ている最中はそんな感慨よりも、殴り合いあり、疾走あり、死あり、火事あり、あわやの列車事故も、喧噪もありで目くるめく画面にただただ引っ張られていた感じ。
主人公を演じるのは若き監督の弟だそうで、数年前から撮影していたのだろうか、まだ幼い面影の彼のシーンががところどころに挿入される。それが生き別れた(というか捨てられた?)両親を探し求める少年の心情と重なり一つの情感を与えているようだ。
しかしこのベトナムのデーという闇くじ、政府の嫌いな社会の暗部だそうで検閲を受けたカット版の上映だと最初に知らされる。なんかな~アジアの映画にかかる暗雲の一つという気もする。 (7月22日 アップリンク吉祥寺167)


⑭復讐者たち(PLAN A)
監督・脚本:ドロン・バズ、ヨアヴ・バズ 出演:アウグスト・ディール シルヴィア・フークス 2020ドイツ・イスラエル(英語)110分 ★★

暗い映画2本立ての1本目…最初はちょっと和む気もするが、田舎の台所で料理をする女。息子が「誰か来たよ」と叫ぶ.窓から透かしてかなり遠くにたたずむ人影にあわてて「お父さんを呼んで」と叫ぶ母。実はこの一家が密告したユダヤ人の男(主人公マックス)が収容所で生き別れた妻子をさがして戻ってきたのだった…という不穏な始まりに一変。この一家は映画の後の方で過激な暗殺者組織によって木につるされる。
一家の主人に殴られたマックスは、彷徨いイギリス軍のユダヤ旅団に拾われ、ここで妻子が殺されたことを知る。パレスチナへの移住を示唆されるが断り、ユダヤ旅団に参加、さらに過激なドイツ人皆殺しを計画するナカㇺ(復讐)というグループに接触して、その行動に(ユダヤ旅団のいわばスパイとして)参加することになる。そこでの息子を殺されて参加した女性アンナと出会い、彼女たちを追い、またその助けも得てベルリンの地下浄水場の仕事に潜り込み、仲間の一人がパレスチナ(イスラエル)から持ち帰る毒薬を上水道に撒くという「プランA」が実行されるかされないか、そこで彼がどんなふうに働くのかというようなスパイ映画まがいのサスペンス的展開に目が離せない。
毒薬をまいた彼が水に沈むシーンは映画の冒頭シーンの繰り返しで、そこで「妻子や親しい人を殺されたらあなたはどうするか」というような問いかけがされていた。終わりでは一変して実際のマックスの選択が描かれ、最後に故郷に戻って「普通に幸せに暮らす=復讐」を選んだ彼の姿と同じような老人男女の顔が写されて、先の選択への問いが繰り返されるという、実話ベースだという、ちょっとドキュメンタリー風味もある非常にうまい終わり方をしている。(7月23日 キノシネマ・立川168)


⑮ライトハウス
監督:ロバート・エーガス 出演: ロバート・パティンソン ウィレム・デフォー 2019米 110分

これは怪作?かも。孤島の灯台に4週間の当番勤務にやってきた二人の灯台守。ここで長年勤務しているらしい高齢のトーマスは若いイーフレムを「若造」と呼び、灯室は自分の領分として鍵をかけて入れず、彼をこき使う。イーフレムも最初のうちこそ「規則書によれば灯室勤務は交代制のはずだ」とか「名前を呼べ」とか要求を出したりするが、トーマスにはじき返され、映画の大半はトーマスの専制的な命令を受けながらひとりでさまざまな肉体労働に従事するイーフレムの映像でなんか息苦しくなってくる。
その息苦しさと不安を助長しているのは、昔の映画のように真四角に区切られた小さい画面と、それが時に右に、左に、あるいは両側にと伸びてワイド化する画面サイズ、モノクロで暗いくらい中で光が白くあふれるようなシーンの対照や、眼だけを大きくクローズアップするような切り取り方や、意表をつくような画面もありすごく卑猥?な人魚の実像もあったりして、なるほどアカデミー賞では撮影賞にノミネートされたというのにも納得。無言劇と長台詞シーンの対比も印象的。そして任務の期限間近の嵐で、二人が帰宅の期待を持ちながら協力して嵐に対処しようとするのもつかの間、嵐の中監視船はやってこず、食料もなくなり、特に若いイーフレム(実は彼も本名トーマスであることがあかされ秘密も明らかになっていく)がどんどん追い詰められていき、とうとう…というところで暗いままに終わった映画のエンドロールは妙にはしゃいだ感じの歌声で満たされるのである。あまり趣味に合うとは言えなかったがインパクトのある映画ではあった。老灯台守はウィレム・デフォーだが、画面は暗いしあまり面影がない感じ。(7月23日 キノシネマ・立川169)


⑯親愛なる君へ(親愛的房客)
監督:陳有傑 出演:莫子儀 陳淑芳 白潤音 呉朋奉 是元介 王可元 2020台湾 106分 ★★

出だしは台湾中部(というかちょっと北より)の合歓山の美しい山容。そして収監されて手錠をかけられる主人公林健一の姿から。基隆の町、同性のパートナー王立維がが亡くなり(この死にも、実は母親から「死なせた」と糾弾されるような秘密があったことが後半示されるが、この死の設定=山での遭難死そのものはそれほどに目新しいとは思えない)残された彼の家で、その病身の母秀玉と息子悠宇の面倒を見ながら暮す男=ピアノ教師が主人公。正月、借金の清算を死んだ兄にまかせ上海に行っていたこの家の次男が戻ってきて母には家を売れと迫り、食事を作り息子(甥っ子)悠宇の世話をする健一に不信の目を向ける。それから半年母が死去。戻ってきた次男は健一が悠宇を養子としており、母と孫が住んでいた家の名義が悠宇になっていることを発見して健一が母を殺したとして告発する。母の遺体からは劇毒の薬物が検出されたのである。
健一は、3人の同居を不審な関係とされると、自分が女性だったなら夫の死後婚家に残って母や残された子どもの世話することを誰も不審とは言わないはずだと反発するが、殺し自体はなぜか否認せず罰を受け容れようとする。不審に思った女性検察官がさらに調査すると…という話になるわけだが、ここからは一転?人情劇的展開になっていき、なーるほどということに。一種のミステリー仕立てだが陳有傑らしく人情部分の設定や描写は細やかで全体はソフトな雰囲気。したがってこの映画トレーラーではミステリー部分はほとんど出てこず、LGBT問題映画かと思うとそうでもなくー主人公が9歳の少年に自分と少年の父の関係を示せず少年の不信を買うところなどはまさにLGBT問題そのままではないかという気もするがーあと、夫をゲイと知り義弟の借金を背負った夫に愛想をつかし(たのはわかるが)乳幼児の息子を夫のもとに残して離婚した妻、その後夫が亡くなっても息子の元に姿を見せもしない元妻というのもなんだかなあ…私の感覚から見るとちょっと不可解。
最後に主人公は釈放されるが養子になっているはずの少年の持ち家は叔父が売り、少年は上海暮しということに多難な前途を思わせるがそれにも関わらず……という情感に満ちた終わり方にこりゃ、参った!
陳有傑は『シーディンの夏』(2001)『一年之初』(2006)『陽陽』(2009)とにみているはずだがなんか印象が薄いー品よく映画を作る人という感じ?『太陽の子』(2015)も題材の割には穏やかで品よき作品だった。
莫子儀は出だし「田中圭」?と思ったがちょっと違う(でも終わって出てきたら「そっくり」と話し合っている若い女性二人。やっぱりね)あと、レヴューで「若いころの児玉清」とか書いている人あり。こっちの方が納得かも。やっぱり品よき知性派しかも一昔前のというイメージ。この映画では。あとはやっぱり美しい合歓山の景色とちょっと嘘っぽい登山風景がなんともいい。劇場が冷房ききすぎで震えあがるほど寒かったのも臨場感を盛り上げていたかな。(7月27日 シネマート新宿170)


⑰てなもんやコネクション
監督:山本政志 出演:新井令子 ツェ・ワイ・キット 鈴木みちこ リ・チュオン 近藤等則 1990日本 119分

ウーン、だめだ、ついていけない。コロナワクチン2回目を打って2日め。ワクチンを打った左肩から骨折して固定中の左手首まで全体が重痛くてしかも頭もどろんとして眠気が襲う、というわけで映画途中で鎮痛剤を服用、ようやく後半はなんとか映画を追うことができたというありさま。「アホラシイほどに突き抜けた快作」というのがチラシの惹句だが、であればこそのとりとめのなさはしっかりした筋や伏線のあるものより体調不良時にはついていけないのだということを個人的な感想ではあるが思った。とはいっても体調いい時にもう一度見るか、というほどの魅力を感じなかったのも確かで、ウーン。目まぐるしく移動する大阪、香港、東京のそれらしく懐かしくもある背景は面白かったのは確かだが。
(7月27日 新宿K’sシネマ 171)

実は…あの快晴の天狗岳、帰り近く「天狗の奥庭」の岩場で転んで左手をついて手首骨折、なんと!今こんな状況でお恥ずかしい。指はしっかり動くのですが、肘近くまで固定で3~5週間だそう…(当日は一応テーピングだけして普通に歩いて帰ってきました)しばらく山もアソビもお預けでおとなしくしているしかありません(トホホ)。




⑱83歳のやさしいスパイ(El agente topo)
監督:マイテ・アルベルティ 出演:セルヒオ・チャミ― ロムロ・エイトケン 2020チリ・アメリカ・ドイツ・オランダ・スペイン 89分 ★

ドキュメンタリーというのがびっくり、だが見てみればやはりドキュメンタリーかな。依頼人から老人ホームにいる母が虐待されているのではないかということで探偵社が老人ホームへの潜入捜査員として80~90歳の長期出張可能な老人を雇う場面から。なかなか元気そうなしっかり者の老人たちの面接シーンだが、主人公セルヒオも含め、必須のスマホ操作はイマイチ?という場面がすでにドキュメンタリーとして撮影されている。そして所長のロメロにレクチャーを受け老人ホームに潜入(入所)するセルヒオ。
ちょっと気になったのはスパイ候補は残らず男性、そしてホームは女性40人男性4人とかいう入所者構成で、目立つなと言われてもなかなかに魅力的?なセルヒオは目立ちすぎるしー認知症気味のおばあさんたちにモテモテ状態になっているー老いて孤独にぼけるのは女の老人ばかりという映像はちょっとなあ、見ていてたまらん。
しかしまさにやさしいセルヒオは女性たちのこもごもの愚痴や思いを聞いてやり、励ましなぐさめその間に真面目にスパイ活動にいそしむ。そして家族と会えない人のためにその写真を手に入れてあげたり、などとスパイ活動を利用もし、すっかり人気者になるが、依頼人である家族が全く面会に来ないのに気づき、むしろこのような調査は家族がすべきだろうとロムロに提言してホームを去っていくまで。
淡々と遠くもなく近くもなく、時にホーム付近の梢など自然を重ね合わせていく距離感は是枝家族映画のドキュメンタリー版という感じも。ただ高齢者にとって家族が何より大事という価値観は先のジェンダー観とも合わせて少し保守的という感じもしないではない(あ、でもこの保守性もまさに是枝風=伝統家族は描かずでも家族のつながりを肯定強調する、かも)。(7月29日新宿シネマカリテ172)


⑲夕霧花園
監督:トム・リン(林書宇)原作:タン・トゥアンエン 出演:李心潔 阿部寛 シルビア・チャン ジョン・ハナ― 2020マレーシア 120分  ★★

50年代のマレーシア、キャメロンハイランドの緑豊かな茶畑や高原の森、山の自然の中に忽然と現れる日本庭園(しかも映画の中ではほとんどいつも作りかけ)そこにいる目力強烈というかむしろバタ臭い雰囲気の漂う男女というのがなんともなあ…この男女たしかに劇中、愛を交わすシーンはあるのだけれど、そしていかにもミステリアスで居丈高な雰囲気さえもある(映画の中でその上から目線、押しつけがましい口調=英語を女に咎められている)男が実は贖罪意識と彼なりの愛し方で女を深く愛していたのはわかるのだが、それにしても30年後にそれが「わかる」かもしれない女へのメッセージとしてはあまりに迂遠(身近すぎて迂遠というパラドックスか)?で、もし女に伝わらず終わってしまえばそれはそれでいいということ?
女の方は女の方で、男が消えた後庭師修業から元の法曹界に戻り80年代には連邦裁判所判事を目指すまでに上りつめている切れ者、最後に男の正体がわかって「私は彼が誰でも愛し続けた」と口走り、長年近くで見続けていた友人フレデリックにたしなめられ自省するーそして最後「中村はスパイではなかった、として戦い連邦裁判事を目指す」というあたり李心潔の目力、シルビア・チャンのいかつさそのままの意志力の塊みたいな女で、まあなまじ普通に愛されても受け付けなかっただろうな、となればこの中村という男の人体をもてあそびつつちょっとゲームじみたところもある愛の伝達は女の情より知力を信じた正しい選択だったということになるのかも。
このある種のゲーム性はメロドラマの域を越えてきわめて現代的な愛の形という気もした。ウーン。で、物語前提にある女の妹の日本庭園への傾倒というのもそんな物語的作為を感じないでもないし、50年代物語以後のマレーシアでヒロインを取り囲む人々のほとんどが欧米系か、その人々とかかわりのある華人であるという「クローバル」性もそういう物語を支えている感じだし、マレーシアの収容所での山下財宝(山下財宝ってたしかフィリピンにあると言われたはずでは?)がらみの、日本軍の横暴暴虐は映画の要素として重要だしそこに製作者のアジア人としての眼も感じるが、そうみると50年代のマレーシアを跋扈していたのが共産主義者のテロ組織だという描写は現代の台湾人の眼で中国を見ている?と、そんな気もして、この美しい映像を楽しみつつ没頭できなかったのが残念(私の問題だ)。
(7月29日 渋谷ユーロスペース173)


⑳返校 言葉が消えた日 
監督:ジョン・スー(徐漢強) 出演:王淨 曾敬驊 傅孟柏 蔡思韵 朱宏章 2019台湾 103分

ゲームを元にしたダークミステリー。2019年の台湾で大ヒットしたのは、「自由」の価値が危うくなっている台湾の社会不安の中で堅苦しくなくエンターテイメント性をもって白色テロ時代の恐怖を描いたことが現代の人々に受け入れられたのではないかというのが、ジョン・スー監督のインタヴューに基づいた7月17日BS1国際報道の分析ではあったのだが…。一応「共産主義の撲滅」とかは言ってはいるのだが、映画の中で阻まれている「自由」はもっと感覚的・文化的で思想や政治の問題ではない。学校に駐在する国民党の教官というのが入り口検査や持ち物検査をし、危険人物とされた教師を拉致して連れ去ったりする。そして密告が奨励される中で人々が互いにけん制し合ったり疑心暗鬼になったりという場面も描かれるのだが…教師二人と生徒たちの秘密の読書会で読まれる禁書はタゴールや厨川白村で別にマルクス・レーニンというわけでもなく、まあここで弾圧されているのは自由や恋愛至上主義なのかなと思うと理解はできるがーそしてこの読書会の教師・生徒が密告によって次々に捕まり犠牲になっていくわけだが、それも政治的・思想的に問題とされたというわけでなく実は女子生徒の青年教師に対する愛と、同僚女性教師への嫉妬的な感情とか、後輩高校生の先輩女生徒に対する秘かな思い(「先輩女子」のことを「小姐=シウチエ」って呼ぶのだとは初めて知った)とかがもとで、え?自由への抑圧というのがえらく感覚的で現代的?と思ったりもしたのだが、まあ、それゆえエンターテイメントということかな?
その「感覚」としては「鏡に映る己の姿」を顔とする憲兵的怪獣とか、女子生徒が校舎内をさまよいつつ鏡に映る己の姿に自分を振り返っていく過程とかその感じ方はなかなか上手に作られているなあとは思うのだが、上手であればあるほどこういう政治・歴史のエンタメ化って危険?じゃないかなあと思う気持ちが抜けない感じも…。
(7月30日 キノシネマ立川174)


㉑イン・ザ・ハイツ
監督:ジョン・Ⅿ・チュー 出演:アンソニー・ラモス コーリー・ホーキンズ レスリー・グレース メリッサ・バレラ オルガ・メレディス グレゴリー・ディアスⅣ ジミー・スミッツ 2021米 143分 ★★★

これは完成度が高い。老いた登場人物を含め若さがみなぎっている。
NYワシントンハイツのラティーナの街。主人公ウスナビ(この名は移民してきた父がニューヨーク港で見た軍艦のロゴマーク「US Navi」に由来しているというところもなんか泣かせる…)は父母が築いた食料品店を受け継ぎ甥っ子ソニーを使って商売をしている若者。ネイリストのバネッサに恋しているが、バネッサはファッションデザイナーとして独立してこの街を出ていくことばかりを考えていて、ウスナビはなかなか気持ちを言いだせず、甥っ子ソニーが仲を取り持ったりという感じ。
近くのタクシー会社の社長の娘ニーナはこの地域一の秀才(というより天才と言われている)で街の期待を一身に担いスタンフォード大学に進学するがそこでひどい差別的な扱いを受け自身の進むべき方向を見失って失意の中この街の戻ってくる。彼女を愛しているのが父のタクシー会社で配車を担当するベニーというわけでこの4人を中心に、ニューヨークの大停電(2003年?)前の3日間から停電後30日後~数年後まで描く。
移民としてアメリカに暮らすことの苦しみというか不自由さは全編を貫くテーマで、ウスナビはドミニカの故郷に帰ることを最初から終盤まで思い続け具体的に準備をし帰国にこぎつける男として描かれている。なら、この地でデザイナーになろうとするバネッサはどうなるの?と思いつつ冒頭から海岸で子どもたちに「ハイツ」の物語をするウスナビの幸せそうな姿に帰国を果たせたのかな、この子どもたちは(中に彼によく似た面持ちの少女がいて中盤から彼を「Dad」と呼びかけるのだ、なにしろ)だれよ…と思わせておいてのどんでん返しが終盤には予想はつくものの、バネッサの行動が意表をついて、描き方がうまく、ちょっとジワッとしてしまう。
大停電の夜、暑さの中でコミュニティで皆の世話役となっていたアブエラという高齢女性が亡くなる。その彼女が死の直前に故郷から移民としての人生を振り返りそして今新しい選択として死への道を進むというような内容を独唱するが、これがまた聞かせて印象深かった。彼女は96000ドルの宝くじの当たりくじをウスナビに残し、彼はそのお金を使ってトランプ政権の「若年移民に対する国外強制退去の延期措置撤廃」によって苦境に立たされたソニーに永住権を取らせようと弁護士に相談する(最初は、多分それゆえにソニーも連れてドミニカに帰ろうとしたのだが、本人も父である叔父もそれにはうんと言わなかった)。ニーナはソニーと行ったデモで、移民のための市民権運動を自分の使命とすると新たな進路を見出し大学に戻ることにする、というわけで彼らのおかれた位置を社会的に見つめそこから生き方を新たに模索していく姿もしっかり描いて主張がある。途中ウスナビが子どもたちに語るラティーノのロールモデルの女性たちの肖像などにも、その主張は表れている。
この映画はブロードウェイでヒットしたミュージカルの映画化で、舞台の原作者で主演もしたリン=マヌエル・ミランダが映画の制作にも参加している。監督は『クレージー・リッチ』を撮った中国系のジョン・M・チュー。ミュージカル仕立で多彩な歌とダンスがうまく調和していて楽しめるー台詞よりも歌中心で語られているのがいい。あ、あと壁面を舞台に踊り愛を語るニーナとベニーの場面も忘れがたい。ここでは旅立つのはニーナで、『ウエストサイド物語』を思わせるような外階段?のシーンから始まるのだが、明らかにそこを超え飛び出そうとしている感がある。(7月31日 府中TOHOシネマズ175)

書きました! よかったら読んでください!

よりぬき[中国語圏]映画日記 
 見直し「台湾ニューシネマ」ー『風櫃の少年』『冬冬の夏休み』『童年往事 時の流れ』『恋恋風塵』  
   TH(トーキングヘッズ叢書)NO.87 2021・8 アトリエサード/書苑新社



コメント

このブログの人気の投稿

スマホ写真で綴るアンナプルナ・ダウラギリ周遊シャクナゲの道 ある(歩)記 2024/3・30~4・7

【勝手気ままに映画日記+山ある記】2023年9月

【勝手気ままに映画日記+山ある記】2023年7月