秋の映画祭から 2020/10~11

今年もやってきました秋の映画祭シーズン!なぜか、いつもはひと月くらいずれていた、東京国際映画祭と、東京フィルメックスがほぼ重なっての開催。六本木と有楽町を行ったり来たりの日もありましたが、フィルメックスは残念ながら見落としも多かった…。日本橋での中国映画週間も合わせて、たくさんの中国語圏映画を見ました。


2020東京 中国映画週間(c)

 C①若者たちの賛歌(老師・好)C②京劇映画‐大暴れ孫悟空 C③THE CROSSING ~香港と大陸をまたぐ少女 C④陰謀の渦(铤而走脸)C⑤香山の春1949(決勝時刻)C⑦誤殺~迷える羊の向かう先〜 C⑧はじめてのお別れ C⑨愛しの故郷 C⑩リメイン・サイレントC ⑪ロスト・イン・ロシア (10本 すべて竜のマーク付き中国映画です)

第21回 東京フィルメックス(F)

F⑥無聲 F⑬日子 F⑮七人楽隊 F㉑デニス・ホー:ビカミング・ザ・ソング F㉒平静(台湾・香港中心に中国語または中国語圏映画)

第33回 東京国際映画祭 TIFF(T)

T⑫アラヤT⑭チャンケーよそ者T⑯恋唄1980T⑰愛で家族に~同性婚への道のり(同愛一家)T⑱悪の絵 T⑲ノー・チョイス T⑳兎たちの暴走 T㉓弱くて強い女たち(孤味)  T㉔おらおらでひとりいぐも T㉕足を探して (これも⑲㉔を除いて中国語圏映画中心でした)


映画につけた番号は3本の映画祭の通し番号、一番最後の番号は今年になって劇場で見た映画の通し番号です。イチ押し映画?だけ★つけています。あくまで個人的好みですが…。

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C①若者たちの賛歌(老師・好)
監督:張栾 主演:于謙 湯梦佳 王広源  2019中国112分   

1985年の高校生活、「南宿中学」は有数の進学校でしかも比較的裕福な家の子たちが多い感じなのか、生徒たちの来ている洋服が1985年の中国とは思えない小ぎれい、おしゃれさ。(でも体育着を着て体育を受けて入る生徒は例外で皆私服の普段着のまま)

そして現れた苗秋(この名で生徒たちが笑うのはよくわからない、女っぽい名前だというセリフはあり)という中年教師の造形の妙というか、とにかく上昇志向で、成績の特にいい生徒には後押しして(ほぼえこひいき)気に入らない生徒はいじめ?ことば使いから化粧その他もろもろ徹底的に摘発、立たせたり、叫ばせたりほぼ体罰、で生徒たちはもちろん反発したり批判したりするがそのやり方がなんかひと昔前風(には違いないが)。深刻ではなく、みんなでいたずらを仕掛けたり目を盗んで遊ぶというような感じで見ていてなんか、なんていうか上昇志向の詰め込み受験勉強的な学校生活の中でよくまあ、こんなに牧歌的に…と思いつつ、途中で老師の高校時代1965年の描写(おお、また『ウラルのぐみの木』?のハモニカ演奏とともに)がでてきて、なるほどこの衣装の小ぎれいさは対比のためかと思わせられる。

で、話としてはウーン、最後に優等生安静の思わぬ事故があったりしてちょっとアクシデントはあるものの、お約束通り生徒に慕われる教師はこの学校をやめて田舎の小学校の教師になって…そして30年後のちょっとなんかとってつけたような安静のその後と老いた老師の姿を置いて、うーん。上昇への競争と共産党への忠誠との受験勉強主義(まさにこの老師がそういう価値観であるのは最後まで変わらない)でこんなにも懐かしみに満ちた映画が作れるというのはどうなんだろう…ね。体育教師の役で出ていたのは胡軍。          (10月27日 日本橋TOHOシネマズ 東京・中国映画週間185 )


C②京劇映画‐大暴れ孫悟空
監督:程箓· 出演:王璐 李哲 魏学雷  2019中国 102分 

「大闹天宮」を映画で撮ったということで、演目とか展開に目新しさはないけれど、安心して画面の動きを楽しめる。映画ということで特撮?というかCGを使って例えば火あぶりになった孫悟空が窯から飛び出す場面を作ったり、ストップモーションやちょっとスローモションも使ったりして、単なる舞台の映像を撮ったのではないので、そこを楽しめばいいのかもしれない。エンドロールに映し出されたメーキング映像?それらの仕組みもある程度分かるような、一コマ一コマじっくりと撮っている様子が現れたのが一番面白かったと言えば面白かった。  (10月27日 日本橋TOHOシネマズ東京・中国映画週間186 )


C③THE CROSSING ~香港と大陸をまたぐ少女
監督:白雪 監製:田壮壮 出演:黄堯 孫陽 湯加文 江美儀 2019中国 99分

母親と深圳で暮らしながら香港の高校に通っている少女ペイ。友人のジョーと日本にクリスマス旅行に行きたいとお金を稼ごうとしているのが最初のシーン。ジョーの恋人ハオと知り合ったペイはハオがかかわっている違法の運び屋(アイフォンを香港から新鮮に密輸する―その前の場面でひょんなことから逃げる運び屋につかまされたアイフォンを返すところからこの組織とのつながりができる)の仕事を自分もするようになる―二つの町のはざまを泳ぎ回るという感じで行ったり来たりする少女の不安感と、こんな危なっかしい生活がどう帰結していくのかという緊迫感のあいだに女友達同士のきゃぴきゃぴとか、ハオとの間に芽生えてしまう恋?にもかかわらず、ジョーの存在ももあってそれもすごく危うい感じになってしまう不安感とかが繊細に描かれていて、今時の香港・中国の一つの姿かななんて思えてしまうのである。この映画すでに11月20日からの劇場公開が決まっている。  (10月27日 日本橋TOHOシネマズ東京・中国映画週間 187)


C④陰謀の渦(铤而走脸)
監督:甘剣宇 出演:大鵬 欧豪 李夢 2019中国103分 ★

重慶の河、ロープウェイ、その上下差を生かしたロケーションの中で、ばくちで借金を作って金策に苦しむ自動車修理工が、それがもとで誘拐事件に巻き込まれ幼い少女を守りながら、犯人の兄弟、なかでも身体能力抜群でしかも残忍酷薄な弟と追いつ追われつや荒っぽいカーチェイスを繰り広げ、そこに叔父の刑事もからみ、なかなかに荒っぽいアクション・ミステリー。

誘拐された少女に慕われてしまったりはお決まりだが、その子を探し200万元払うという女性が実は母親ではなかったりーここはひっかけなんだろうな、でも実母いったいどうしているのよとという感じが後からしてしまう―終わりに主人公と悪役の大乱闘だが、あわやというところで警察の狙撃者が…というのにはいささかご都合主義っぽくもあり唖然とはしたが、そういうことはありつつも、脚本の構成がわりあいしっかりしている感じで、最近の中国愛国路線映画や、フランス合作の少し格好つけた感じの映画やインディペンデントを見てきた目には商業映画もなかなかやるじゃん!という感じがした。

悪役の欧豪のとにかく身軽な強靭さ、それと誘拐される少女役(5歳と役では言っている)の演技力の目覚ましさに舌をまく。この少女の名前ぜひ知りたいという気にさせられ、字幕担当者の加藤浩志氏が来ていたので伺ってみたが???(なんか5文字もある難しい?名前らしい。このあと『香山の春』では毛沢東の娘役)。字幕も省略部分も含めなかなか出色の出来栄えに思われた。  (10月29日 日本橋TOHOシネマズ東京・中国映画週間 189)


C⑤香山の春1949(決勝時刻)
監督:黄建新・寧海強 主演:唐国強 劉勁 黄景瑜 張涵予 2019中国 140分

1949年春、北平に入った毛沢東一行が、新中国建設のための要綱を作り、国民党との和平会談をするが決裂、長江渡江作戦の戦争場面も盛り込みという愛国映画。黄建新がこういう映画作るのは?と思いつつその興味と、決して日本劇場公開はないだろうということで。それにわりと私のお気に入りの席が空いていたので、140分の長尺に耐えられるかどうか心配しつつ当日券購入だったが、うーん。

なんか毛沢東がなんか政治的に動く場面は全然なく、兵士や子どもたちを思いやるよきオジサンぶりが強調されている感じ。政治活動はおもに周恩来とかがやるわけだが、この周恩来役の人、ホンモノに比べてシャープさがない感じで腹黒そうに見えるのが難?若い兵士役とか、毛沢東の近くにいる兵士の黄景瑜の帥(イケメン)ぶりにまあ、なんとか眠くもならずもったという感じ?毛沢東の幼い娘役で『陰謀の渦』に出ていた子役の少女がここでも泣きの演技も含めて大活躍の天才子役ぶり。(10月29日 日本橋TOHOシネマズ東京・中国映画週間 190)


F⑥無聲
監督:柯貞年 出演:劉子詮 陳妍霏 金玄彬 2020台湾 104分

台湾の学校劇は暗い、というより陰湿な感じだな~、それは無力・無視を決め込む教師や学校体制を描くからかなあ…。舞台は聾学校で、転校生の張が財布を掏った老人を追いかけて駅の跨線橋を走る―いかにも台湾的景色ー場面から。老人に殴りかかって警察に捕まった張を引き取りに来た青年教師がわざわざ手話通訳を正しくせず、ことを荒立てないように収めるのは後の話の中での教師の姿勢の象徴?とはいえこの教師、学校の中で唯一生徒たちの理解者として問題解決をしようとするのではあるが―映画自体のミステリーじたてっぽさからこの先生が実は「犯人?」なんて最初は思ったのだがそうではなく、彼は最後まで非力ではあるがいい人っていうのが、ウーン。映画の面白さになっているとは思えない。

転校生張がスクールバスの中での集団レイプに遭遇しショックを受けるところから。被害者の貝貝という少女からは「ただの遊びだ、内緒にしてくれ」と懇願されるが、貝貝にひかれ、正義感の強い張はだまっていられず先生に告げる。そこから集団レイプが過去何年にもわたり127件も校内にあったことが明らかになる。実行犯たちは允光という少年の指示に従ったと言い、允光は「自分はやっていない」と嘯くのであるが、その後は「チクった」張への性的暴行とか、允光の貝貝強姦とか、秘密のありそうな感じで悩みリストカットをする允光とか延々と続き、間に創立記念式典とかがわけありげに挟み込まれ、友人の盗撮から允光の秘密が明らかになり…。

ここにあるのは性的暴行を受けたことが被害者の恥であると少年も校長などの教師も考え隠蔽しようとする姿と、それゆえなのか実行犯であれ教唆者であれ、加害者が(映画では処置したと校長は言うのだが)全然問題にもされず野放しになっているのが、当たり前?みたい?なのは舞台が聾学校で子どもたちが世間から閉ざされていることによるという描き方だろうか。普通だったらあり得ない設定だと思うのだが。視点も張、貝貝、允光、教師も?と変わっていく感じで、事件の流れはたどれるものの、なんか散漫な感じもして、これでもかこれでもかという感じもあって結構疲れたし、オーラのあるような少年少女が出てくるわけでもないので、いささか、というところ。『父の初七日』のなくなる父を演じた太保が貝貝の祖父役ででている。(10月30日 TOHOシネマズシャンテ 東京フィルメックス 191)


C⑦誤殺~迷える羊の向かう先〜
監督:柯汶利(サム・クワー) 出演:肖央 譚卓 陳冲 フィリップ・キョン 秦沛 2019中国 112分 ★★

学校のキャンプに出掛けた娘が、警察局長の息子にレイプされ写真を撮られ、さらに帰ったあとも写真をネタに付きまとわれ、父親が出張で留守中にやってきた息子に襲われ母親と二人抵抗する。そしてはずみでその息子を殴り殺してしまう。

出張先から電話をかけても通じないので慌てて戻ってきた父親は、娘と妻を守るため、殺しを隠し通すことに決め、殺された少年の車や携帯を処分し、Wi-Fi設定の職を利用し、一家で父親の出張先に出かけてムエタイを見ることを計画し目撃者を作ったり、監視映像を利用してニセアリバイを作り、一家はあくまでしらを切りとおそうとするが…。

ドラ息子に甘い警察局長がジョアン・チェンで、その夫で市長選にでている候補がフィリップ・キョンというなかなかおどろくべき豪華キャスティングだが、特にジョアン・チェンの愚かな母にして悪役?ぶりはさすが!面白いというかさすがこれも中国と思うのは、この物語の舞台がタイ(ただし華人社会なのだが)に設定されていることで、警察の不正や横暴がたっぷり書かれ、市民は全然警察を信じないのだが、こんなのはやはり国内では作りえないのだろうなあと思わされる。そして観客も、映画の中の主人公一家の周りの人々も市民もみな、彼が告発されずに済むことを内心願うのだろうが、そう作っておいて最後は主人公一家が出頭懺悔するというような展開も、なるほどね、当局の検閲を潜り抜けるにはこういう構成にせざるを得ないのね。

最後のところがそういう意味で残念ながら痛快さを欠くが、一家を演じる役者の好演やワル警官の憎々し気な演技や、息子の死体を掘り返そうとする緊迫場面でのあっと驚く肩透かしや、なかなかうまくできていて飽きない映画であったのは確か。(10月30日 日本橋TOHOシネマズ 東京・中国映画週間 192)


C⑧はじめてのお別れ
監督:王麗娜 主演:アイサ・ヤセン カリビヌール・ラハマティ アリナズ・ラハマテ 2018中国 87分  ★

2018年東京国際映画祭で監督も招かれた上映作。チケットを買ってから気がついたが印象深いいい映画だったなあと思いつつ見る。ただし会場はそのせいかがら空き。印象としては前回は新疆ウイグルにしっかりと敷かれた中国化政策―中国語ができることが、学校でも非常に重要とされる。その中国語レベルは私たちが学ぶ初級?みたいで、あ、これはウイグル族の子にとって至難の勉強なのかなと、20.5点で叱られ親子ともども立たされて教師から糾弾される姿はやはりかわいそうーだが、今回は移り行く自然の美しい季節感とか、少年少女のいかにも自然なかわいらしさに心が洗われるような思いが全回よりも強く残った気がしたのは、私の変化(老化)? (10月30日 日本橋 TOHOシネマズ 東京・中国映画週間 193)


C⑨愛しの故郷
製作総指揮:張芸謀 総監督:寧浩 総企画:張一白  2020中国 152分 
1:北京好人 監督:寧浩 出演:葛優 劉敏涛 
2:天下掉下个UFO 監督:陳思誠 出演:黄渤 王宝強 劉昊然 董子健 
3:最後一課 監督:徐崢  出演:範偉 張訳 張毅 徐崢
4:回郷之路 監督:鄧超・兪白眉 出演:鄧超 閻妮
5;新筆馬亮 監督:閻非 彭大魔 出演:沈騰 馬麗

張芸謀製作総指揮の5本のオムニバス大作は、70周年記念の『我和我的故国』の続編第二弾。いや、しかしこれも総豪華メンバーによる、お金も人手もかかったなっかなかの、中国映画の底力を感じさせる出来栄え。1本1本展開がスピーディでコメディカルでもあり、そこに中国の地域起こしとか産業発展への希望みたいなものを一本芯が通る感じに盛り込んでいる。

1:北京という名の、北京に住むタクシー運転手のところに保険証をもたず、甲状腺腫瘍の手術費を用立ててくれと伯父がやってくる。車を買って独立しようとしていた北京がやっと作った車の購入費と手術代はほぼ同じ。さてどうするか。自分の保険証を伯父に貸して自分になりすましてもらおうと画策する北京だが、なかなかうまくはいかずのドタバタ…さてどうなるか。葛優があいかわらずの活躍ぶりで印象的だ。

2:貴州の山村の発明家( 黄渤)と村のUFO騒ぎを映画に撮ろうとやってきたTVスタッフの監督(王宝強)の掛け合いの妙。そこに若手の劉昊然・董子健がからみという豪華キャストで、ちょっとスケール大きな「器械」ドタバタで楽しく最後はちょっとロマンティクに…。

3:海外の大学で教える老父が脳梗塞で倒れ認知症が進む。彼の記憶の中に残る90年代中国の山村の教師時代の子どもたちとの思い出を再現すべく、息子の要請を受けた山村で今は立派に成長し、豊かになった村の中核にいるかつての子ども連がなんとか老師のいた貧しい学校を再現しようと慌てふためく。そして帰ってきた老師は…。これは前半コメディ、後半はかなりのヒューマン(涙)ドラマというところか。

4:西域、かつて砂嵐の中にあった貧しい村も今はすっかり様変わり。そこで行われる母校創立記念祝典に帰ってきた著名なインフルエンサーの女性とその秘書。一方その二人に絡むうさん臭げな男は??これも前半いかにも胡散臭げな鄧超が、最後に至って皆の涙や感激を誘うような展開をするっていうのは、ちょっとどうかな。物語前半後半が少し乖離している感じがないでもない。砂漠の景色は圧巻。

5:もっとも非現実的にして中国ならばさもありなんというようなコメディ。中国レスリング界の著名コーチである身重の妻の叱咤激励でロシアの美術大学に留学することになった男馬亮に近くの過疎の村の村越をするための書記になる任務が言い渡される。大反対の妻の言に従い、ロシアに留学すると見せかけ実はその田舎の村に赴任してしまった馬亮はさあ、どうするか。オンラインで姿を見ながら会話ができる現代の状況をうまく取り入れ、馬亮のなかなかに愛すべき性格や、彼が描く村中の塀や壁に描く絵で彼の画家としての生き方まで照らすようななかなか面白いこれもコメディにして感動を誘うという物語だ。

(10月30日 日本橋TOHOシネマズ 東京・中国映画週間 194)


C⑩リメイン・サイレント
監督:周可  出演:周迅 呉鎮宇(フランシス・ン)孫睿 祖峰 2019中国 96分 

周迅は元歌手志望の貧しい若い母からスターになりあがった女性と、敏腕の弁護士の二役で大活躍の、まあ行ってみれば周迅鑑賞映画かな。配するはすっかり中年の風貌になったフランシス・ンの検事と若きアメリカ帰りの犯人で、どちらも周迅に配するにぴったりのイケメンではあるけれど、ちょっと一癖ありそうな風貌の男たちで、スター殺人事件は、かつて孤児院に捨てられた息子の母殺しと犯行の思いきや、周迅の名弁護(ここは法廷劇なのだがいささか安直で法廷劇というほどのハラハラの醍醐味はないかも)で彼はあっという間に無罪となる。が、それでめでたしというよりそこから延々と事件が続き、なんか最後は家族の愛情物?みたいになっていく。

香港で事件は起こり、なぜか北京に。周迅扮する弁護士は香港人だが大陸を選んだという設定。元カレ、今ライバルのフランシス・ンとは広東語のシーンも少しあるものの、香港の法廷も含めセリフは基本的に普通話(これって現実?ならば普通話不得意な被疑者とかは困るだろうなあ、とつい勘繰ってしまう香港情勢)。

最後は元恋人どうしは再び?という雰囲気で、エンドロールは孤独な人が人とつながるという感じの一般人?の集合写真群で、こういうのって最近の中国映画では本当に多いけど、香港を舞台にした(あ、でも北京との行ったり来たりで、スターはかつての『如果愛』を思わせるところも。周迅もすっかり中年というか熟女かしらね…。話は…、まあ普通にはよくできているんだろうけど、実は私はあまり好きではない。孫塁金鶴賞 新人俳優賞受賞(11月1日 日本橋TOHOシネマズ 東京・中国映画週間 195)


C⑪ロスト・イン・ロシア
監督:徐崢 黄梅瑩 袁泉 黄渤  2020中国 126分 ★ 

なるほどね!母子物(というよりかひねたマザコン男の、率直さへの自立の物語というか)、妻との行き違いと現代風和解、母や妻の自立の物語、ロードムービーというか寝台車物語(北京~モスクワ)したがって雪と氷に閉ざされたロシアの風景、その中で熊に襲われ大騒ぎ。助けられた村での、赤い民族衣装で踊る人々、結婚式、気球旅行(あ、80日間世界一周母子物みたいな感じも)遅刻常習の母の合唱団での感動的な『おお咲いたカリーナ…』の公演とそこでの息子の献身、そしてアメリカビジネスの世界もちらりと、とにかく盛りだくさんに詰め込んで、そこに喜劇性も持たせつつ最後はじわりと…徐崢の非凡さを感じさせる一作。

徐崢は今作では髪型ちゃんとあるばかりか髭まではやし、しかし雪の中で列車の屋根の吹き曝しにしがみついたり、走る列車に振り落とされそうになったり、熊とたたかい?女性といい感じになったり大騒ぎの八面六臂的全身創痍的活躍で息もつかせない感じ。髪があると普通に兄ちゃんで、ジャッキー・チェンほどには動かないけれど結構それに近く、最近のジャッキーのような大御所的イヤミもなく、エンドロールのNG場面集ではそれを意識している感もある。長い長いエンドロールで、全国の?親子写真が延々と続き、さらに芝居もちょっと入り、そのうえ黄渤がワンシーン、列車の乗客として徐崢との掛け合い。ま、なんというかなかなか終わらない。そうそう、この映画祭で活躍中の黄景瑜は徐の運転手役で超絶運転を見せる1シーン出演。結構贅沢な人の使い方をしている映画だ。

中国・東京映画週間の閉幕式特別上映。閉会式とこの映画が最優秀賞だった金鶴賞授賞式で延々1時間(AKB48も京劇のアトラクションもあり、お土産付きだったが、中国勢の受賞者は来日できず皆オンラインであいさつ)いささかくたびれた。(11月1日 有楽町・朝日ホール 東京・中国映画週間 196)

閉幕式で歌い踊るAKB48

『アラヤ』ポスターここからいよいよTIFF

T⑫アラヤ(無生)

監督:石梦 出演:ホウ・インジュエ ジャン・シューシェン シャお・シャオドン 2020中国 150分

惹句は「中国から驚愕の新人監督登場」というのだが、うーん、確かに。暗く重い風景、ただ時々切り取られる山影とか、壁で区切られた空の灰青というか灰白に近い明るさ(亮という感じかな)がほっとさせるみたいな、山の村の重い物語。最初は2003年柴に火をつけたき火をする息子(間もなく8歳)と父、父は息子に火の晩を任せて夜の山に、そして息子を失う。多分同じころ市場に店を出した帰りに送りオオカミになった知り合いに襲われる女。彼女を助けるように現れるもう一つの人影の思わせぶり。暗闇画面で全く顔は見えないが…そして2016年に時間が飛び、思わぬ妊娠に受診する少女から現代の物語が展開する。
少女は出産するが、彼女の相手の青年が心臓病だという赤ん坊を捨てる。拾って育てようとするのはかつて息子を山で失い、隠遁生活を送る男。彼は赤ん坊の心臓病の薬を求めて村の薬局へ。そこに妻子とともに帰省し薬剤師をする男は、かつて襲われた女の息子来生(なんとも、これも意味ありげな命名)。赤ん坊の母である少女は来生の妹(襲われたときにできた子ども?私生児と、祖母に疎まれる)。母を失い兄妹肩を寄せ合い生きてきた感じがわかる。ここに夜押し入るようにやってきた赤ん坊を育てる隠遁者。もみ合いのすえ火事になり…。
ここからは兄、妹それぞれの心のうちにある幻影が繰り返される感じで、火事で失われた家族の人生と、兄から離れて一人で歩き始めるだろう妹と、赤ん坊、隠遁者、少女の恋人(といえるのかどうか)とその仲間が入り乱れる。というような話で、山村の暗い自然の中での因果めぐるめぐるというような…。印象としては『象は静かに座っている』+『47KM』シリーズ(章夢奇)の山村の暗さ?でもあるが、なんか両作品ほどには見て心が晴れないのは、物語が未来よりは過去に向き、村の外に飛び出すよりは閉塞されて向かう先が死の世界?という感じだからかもしれない。(11月3日 六本木TOHOシネマズ TIFF 197) 


F⑬日子
監督:蔡明亮 出演:李康生 アノン・ホウヒョアンシー 2020台湾・仏 127分

ウーン、2時間余り、シーンにして20くらい?最初は部屋で椅子に座っている中年の小康、次は同じような場面をアングルを変えて、そのあと窓の外?の景色という感じで1シーン5分?とも感じられるぐらいの長回しの連続。出演者は小康ともうひとりラオス人の若者で、間でホテルの一室横になる小康をマッサージし、やがて口づけをする若者、ことが終わってシャワー、そして小康が若者にライムライトのオルゴールを与えるという、いわばここだけが少し物語じみていて、あとはウーン。蔡明亮作品だからみんな見に来るけれど…李康生が病気で4年間もかかって撮ったのだそうだが、顔にも体にも肉がついて厚みの出た中年の小康は見たくなかったという気も。最後の場面喧騒の町の片隅で若者がオルゴールを聞いて去っていくシーンは印象的ではあった。(11月4日 日比谷シャンテTOHOシネマズ フィルメックス198)


T⑭チャンケーよそ者
監督:張智瑋 出演:ホウ・イエウェン キム・イエウン イ・ハンナ ジョーイ・ユー 2020台湾 107分  ★★

韓国に住む韓国生まれの在韓華人(祖先は山東省出身で、台湾に住んだこともないのに台湾の外国人パスポートを持っている父子と韓国人の母という一家。息子は華人学校から韓国人学校に転校し優等生の学級委員長だが、先生からは同級生の非行を密告するように迫られ、仲間からは「醤狗(チャンケ)」と排斥を受けている中で、同じく家庭環境や態度で仲間外れ的になる韓国人の少女と親しくなる。

中国系であることをつらく思い、韓国籍を取りたいと母に訴えるが、母は父が受け入れるわけがないと…最初の方で父はかたくなに中国語をしゃべり、妻や子に目を向けようともしない冷たい男として描かれるが、やがてガンになり倒れる。看病をしていく中で少年と父の和解というか少年の理解が描かれ、やがて父の死、最後は台湾の、かつて留学時代に父が立った岬に立って韓国のガールフレンドと電話で話す、少し青年になった主人公というわけで、なかなか微妙に難しいテーマの映画でありつつ、案外さわやかというか、後味の良い仕上がりである。監督は台湾人、韓国人の母は韓国の女優だけれど、少年や父はどうなのだろうか。中国語もかなり達者に使いつつ、母語はあくまで韓国語という感じの設定だが。  (11月4日 六本木TOHOシネマズ TIFF 199) 


T⑮七人楽隊
製作:ジョニー・トー(杜棋峯) 2020香港 113分 ★★

久しぶりに純粋?香港製の商業映画?を見た。香港の大御所的7人(それぞれに共同監督もいるが)作ったオムニバス映画。時間的にいうと1本15分くらいのはずだが、話のまとまりとか展開とかがうまくてコンパクト版という感じがしないのはさすが。今の香港情勢の中で映画を作るとこうなってしまうのだろうなとも思わされたが、1950年代~80年代、97年頃、2000年代初頭というふうに、作者が見た香港の各時代の故事を繋ぎ、それぞれに懐かしい(これからの香港にはあり得ない=失われた?)時代回顧の感じが満ちてしまっているという感じ?変わってしまった町の中で移住前の香港を懐かしむ主人公の老人(サイモン・ヤム)が死んで香港の海に散骨されるという6話は、それを象徴している感じだ。ただ最後は近未来の、虚実の境目(患者と医者、男性と女性など)もわからないような精神病院での治療の一コマを映画の話題がらみでコメディとして描き、さらにそれを見守るツイ・ハークとアン・ホイ(それぞれ自身)の掛け合いで終わるという、相当に冒険的というか、この映画のスタンスを示しっつ現代の香港(というか中国支配の進んでしまった)情勢への批判・皮肉を込めたところが(出来栄えはちょっとともかくという感じもしないではない=あまりに「典型的」近未来病院の情景っぽくて)うれしく見た。フィルメックス観客賞受賞


1:練功 監督:サモ・ハン(洪金寶) 出演:ティミー・ハン(洪天明)
2:校長 監督:アン・ホイ(許鞍華) 出演:フランシス・ン(呉鐘宇) 馬賽
3:別離 監督:パトリック・タム(譚家明) 出演:ジェニファー・ユー(余香凝) イアン・ゴウ
4:回帰 監督:袁和平 出演:元華 アシュリー・ラム
5:遍地黄金 監督:ジョニー・トー(杜棋峯) 出演:伍詠詩 胡子彤 エリック・ツイ(徐浩昌)
6:迷路  監督:リンゴ・ラム(林嶺東) 出演:サイモン・ヤム(任達華)ミミ・コン 林宇軒
7:深度対話 監督:徐克 出演:張達明 張錦程  林雪 劉國昌 


1:なつかしい?50年代サモハンが生徒のリーダーだった武術班の生徒と師匠の攻防?-サモハンの「正統派いい人ぶり」が感じられる。

2:練達のアン・ホイ。80年代?小学校の校長が若い女性教師に秘かに感じたかすかな好意・恋情。40年後?のクラス会で、老いた校長が教え子の導きでなくなった女性教師の墓参りをする。フランシス・ンの実直そうな中年ぶり、老人ぶりがなかなか。

3:97年返還前に一家でイギリスに移住することになった家の娘と、ボーイフレンドの最後の一夜。ウーン。ま、仕方ない気もするが(映画の構成としては是非ほしい物語だろう)、ちょっと積極的な娘に対して腰の引けたのボーイフレンドがかったるい。

4:元華が移住した家族に一人取り残されたカンフー好きの老人。学校の試験の関係でしばらく老人の家の居候することになった孫娘と老人の食い違いのある関係から、カンフーと英語が繋いで親しみが生まれ、移住後3年、一家が香港に戻ってくる?あたりまで。物語としてのまとまりも、登場人物二人のキャラクターも好感が持てて後味の良い一作だった。

5:世界につながる香港の金融市場の中で、投機をもくろむ3人組の数年間。それぞれファストフード店や、レストランなどでの会話劇でつなぎ、最後はレストランの注文番号と株を買う会社の番号が入違って…損したかと思うと…という感じでうまい作劇!

6:こちらもサイモン・ヤムが老いてイギリスから帰国し、変貌した香港にイラつきつつも、ここを終の住処と定める老人を好演。

7:これは先に述べた通り。映画人総出演っぽく、楽しみつつ批判や皮肉を込めて、香港の未来を憂いているように思われる。

(11月4日 9時20分開始、終わりが11時10分の有楽町ヒューマントラストシネマは満席! フィルメックス 200)


T⑯恋唄1980
監督:梅峰 出演:李現 ジェシー・リー 麦子 中国2020 127分

35ミリサイズの画面の中に沈んで落ち着いた感じながら美しい中国の光景がぴたっとはめ込まれた文芸作品的映画はロウ・イエ映画の脚本家だった監督の作品で8年くらいの時の流れを淡々と追っていく感じはそういえば『スプリング・フィーバー』などの味わいを思わせるところも。

出だしは二人の青年のやたらと美しい水泳シーンから。同性愛物語とも見まがうばかりだけれどこの二人は兄弟。つまり早くに死んでしまい、あまり描かれることのない兄が物語に大きくかかわっているのだという暗喩かも。物語はひとりの青年の、兄、兄の恋人?、兄の溺死と残された彼女との縁というような付き合い、自らも大学生になり、付き合いの始まる女性力力(リリ、ただし、杏似?の彼女には最初から付き合っている男性もいるらしく)やがて、就職するが言ってみれば二人の女性への失恋的状況(元兄の恋人は別の男性と結婚)から内モンゴルでの職場を求めていく主人公。

そこへ訪ねてくる力力と、その後まもなくの彼女の突然の死、兄の突然の死にも何かありそうだし、その後の二人の女性もたっぷりのドラマの中で生きているように見えるが、それらはあくまでも何もしない、動かない主人公の視点でしか描かれず、主人公はといえば見るからに好青年なのだが、傍観者的で流されていく感じで、なんだ、これ?という感じがしないでもない、淡く美しい?かな、恋物語ということで終わってしまっているような…。(11月5日 六本木TOHOシネマズ 201)


T⑰愛で家族に~同性婚への道のり(同愛一家)
監督:ソフィア・イェン(顔劭璇) 台湾2020 85分

2019年5月台湾で同性婚の権利を認める特別法が可決されるまでの運動を描きつつ、その中で暮らす3組のカップルー30年以上ともに暮らす老いた男性、娘を育てる30代の女性、高雄で暮らす若いマレーシア人男性と台湾・高雄人―の対話や生活ぶり、意見を描いていく。意外性はなく、どのカップルも同性ゆえの喜びも悩みもあり、普通に暮らす人々であることがいわば淡々と描かれている。意外性はないのだが、こういう考えや生活が普通であることを知っていてもいいんだよな、と思わせる完成度だろうか。(11月5日 六本木TOHOシネマズ TIFF 202)


T⑱悪の絵
監督:陳永棋 出演:イーストン・ドン 黄河(リバー・ホアン)エスター・リウ 2020台湾 82分

刑務所に絵を教えに行く耳が少し不自由な画家が、主人公。受刑者の中に素晴らしい絵を描く若者がいて、画家は自らもその青年(たち)の肖像を描き、彼らの絵と、彼らを描いた自分の絵を合わせて展覧会を開きたいと願う。若い女性画商がその話に乗りバックアップを申し出るが…

実は素晴らしい絵を描いた青年は無差別殺人を起こした非道な若者で、受刑中の今も全く反省とかの色はない。展覧会には被害者の遺族やけがをさせられ障害に苦しむ人々が現れ開催した画家を非難し、すぐに展覧会をやめるようにと示威行動を起こす。そんな中で画家は画商にひかれて言い寄りこっぴどく拒絶されたばかりか訴えられてしまう。受刑青年の父は自殺、その葬儀に出かけた画家は、弟に案内されて兄弟が幼い時に秘密基地にしたという森の中?の廃屋(どうも家畜の屠殺場になっているらしい)に行く。そこで見たものが画家に衝撃を与え…。という感じで暗い話がこれも35㎜サイズの画面の中で進んでいく。

台湾映画だが、途中青年の故郷の台中?または南部?の風景はともかく、それ以外はあまり台湾という感じでなく、最初は大陸の映画かと思ってみていたほどの沈潜。画家は才能を見込んだ画商に長期契約をすれば訴訟を取り下げると言われ斯界に返り咲くわけだが―うん何とも言えない感じの悪さ。そのパーティに現れたのは青年の被害に遭って足を悪くした女性で、彼女は画家にワインを浴びせ許さないとして消えるのだが、最後の場面で駅?に飾られた死刑囚青年の絵画に見入る―つまり行為の悪とその人の持つ芸術の際や仕上がった作品は別物だということなのだろうが…、映画作家もアーティストには違いなく、これって自己弁護的メッセージ?と思わないでもなく、となるとアート的な才のない凡人にはウーン。

青年の隠れ家のシーンや死刑シーンが幻想世界のように描かれているのもどうなんだろう。非難する被害者たちがなんか芸術が分からない人みたいに描かれているのも、そういう側面はあるということは理解しつつもあまりいい感じではないという作品だった。死刑囚黄河の帥ぶりがまあ、見どころか。(11月6日 六本木TOHOシネマズ TIFF 203)


T⑲ノー・チョイス
監督:レザ・ドルミシャン 出演:ファテメ・モタメダリア ネガール・ジャワへリアン バルティス・アーマディエ モジタバ・ビルサデ  2020イラン 108分

壮絶にして救いようがない。まずはイランの街角にマグロのごとく並んで横になる路上生活者の群れから…。路上生活をしながら、11,2歳から妊娠出産した子どもの売買にかかわらされ、事故に遭って流産、このときに無断で(但し乳児売買の道具にされることを回避するための「善意」で行われた?)卵管結索され不妊になっていることを、これも子どものない夫婦の代理母を夫が請け負ったことから知ることになった16歳の女性。

彼女の相談を受けることになった女性弁護士は、無断で手術をした女性医師を告発しようとして証拠集めに走るが…。固い病院側のガードや、依頼人の女性の夫の暴力的な妨害などで追い詰められつつ頑張る姿がりりしいのだが、脅迫をしたとして弁護資格を停止すると脅され、代理のベテラン弁護士に頼んでようやく法廷審議が行われる日、とんでもない事件が起きる…そして少女は髪を売り、再び路上生活に戻っていく…?ウーン、イラン。こんな状況やっぱりあるのか。しかしイケメンと言ってもいい偉丈夫な夫の暴力性、迫真の演技でコワかった。(11月6日 六本木TOHOシネマズ TIFF 204)


T⑳兎たちの暴走
監督:申瑜 出演:ワン・チェン リー・ゲンシ― ホアン・ジュエ パン・ピンロン 2020中国 104分

これもなんか救いのないつらい映画。最初の場面は狂言誘拐で警察に駆け込む車、泣き叫ぶ女性、しかし誘拐された少女は成都に行ったとかいう連絡が入りほっとしたところから一転という、かなり不穏な事件から。

物語は継母に疎外され孤独な高校生のもとに幼い時に出奔した母が帰ってくる。ダンサーの母は、少女の級友にダンスを教えたりして(これがなかなか上手い!)人気を博し少女も幸せだが、実は母は大きな借金を抱え男に返済を迫られていた、ということから偽?の誘拐事件を画策するという、なんか母と娘が、娘の同級生を殺害したという実話ベースの話らしく、いやまあ、重くて辛くて見ていてくたびれることこの上ない。(っていうかこの日は3本連続で重い映画だったので)  (11月6日 六本木TOHOシネマズ TIFF 205)


F㉑デニス・ホー:ビカミング・ザ・ソング
監督:スー・ウイリアムズ 出演:デニス・ホー 2020米 83分 ★★★

いやー、もうなんと格好いいデニス・ホー(何韻詩)。今進みゆく香港の非民主化の中で体を張って闘いつつ歌っている姿にしびれ、希望を感じる。彼女自身は立場表明と活動の結果、中国大陸での市場を失い収入は90%減で、香港でのスタジアムコンサートなどもできないのだそうだ。そこでワールドツアーをしたり、新しい曲を作ったりしているそうだが、頑張れがんばれだ。

映画自体は2017ごろまでを中心に昨夏の逃亡犯条例のデモの時期までを収録。監督自身は香港に来れなかったそうだがデニス自身のスタッフも含めた香港の撮影クルーが体を張って、デモの光景やそこでのデニスの姿を映像化している。撮影自体への当局の介入や妨害はなかったというが、デニスの友人や関係者が、彼女と関係を持っていると知られると仕事を失うということでなかなかインタヴューに応じてくれなくて苦労したとアメリカ人の監督(リモートQ&A)。本当にこれからの香港―ひいては中国と世界の関係でもあるが不安に感じられる今、とても有意義なそして楽しめるドキュメンタリー映画だった。なつかしいアニタ・ムイの映像も…(11月7日 有楽町朝日ホール フィルメックス 206)

QAスー・ウイリアムズ監督と司会の市山尚三氏


F㉒平静
監督:宋方 出演:斉渓 葉渝珠 宋迪進 渡辺真起子 市山尚三 2020中国 89分

恋人(夫?)と別れたばかりの映画監督リンが日本に自作映画のプロモーション?にくる。.市山尚三扮する宮崎氏と日本庭園を歩き、庭園を見ながらお茶をする、そのあとはやはり自然の中にある料亭?での渡辺真起子もまじえた会食(言葉はすべて英語)タクシーに乗る場面、列車に乗る場面が入って越後湯沢の雪景色、そこから故郷南京にもどり寝たきりの父を介護する母との穏やかに落ち着いた家事場面、香港に行き映画に関するQAを受ける場面とか、常に緑のある自然の落ち着いたたたずまい―穏やかな風が吹いてくるような雰囲気の中で淡々と過ごし、友人や家族と会話をする―ドラマのある会話でなくどちらかと言えばとりとめのない…。そんな中でヒロインが心を癒し解放されていく、らしいのだが…ウーン、申し訳ないけれど、ちょいちょい寝てしまったようであとでQA?で言っていた「オペラの場面」すっ飛んで記憶なし。ただなんというか、穏やかな気持ちになって癒されるような雰囲気を持った時間であったのは確か。(11月7日有楽町朝日ホール 207)

リモートによるQA 中央が宋方監督@中国


T㉓弱くて強い女たち(孤味)
監督:許承傑 出演:陳淑芳 ビビアン・スー(徐若瑄) 謝盈萱 スン・コーファン ディン・ニン 張翰 陳妍霏  2020台湾 123分

邦題がちょっとなあー英題は「Little Big Woomen」なのだけれど。台南で屋台からレストランを開き成功している70歳の当然超しっかり者の女性シュウイン。その70歳の誕生日、自ら仕切ってパーティを開こうという日に、音信不通行だった(ただし店を継ぐことになっている末娘は行方を知っていたらしい)夫が病院で息を引き取ったという連絡が入る。夫の最期をみとったのは台北で一緒に暮らしていたという女性蔡さん。

で誕生パーティは?、夫の葬儀はどうするかというわけでそこからの葬儀(台湾の道教の葬儀で1週間くらいかけて、『初七日』が葬式ということになるー)を、3人の娘(長女は恋多きダンサー?で親に心配されているが、実は乳がんの再発に悩む。次女は美容外科医で夫は腫瘍専門医。高校生の娘をアメリカに留学させるつもり。この夫婦を張翰、ビビアン・スー、そして『無聲』では耳の聞こえないレイプされてしまう少女を好演した陳妍霏がこちらではのびのびかわいがられて育った少女という面持ちで好演。二人の娘と言えば通りそうな親密な顔立ちでもあり。そして店を継ぎ、父にも理解を示す、実は父とはほとんど接点なく育った娘)のいろいろな思惑がぶつかり、母はいらいらそこへもともと養女にだした3番目の娘が弔問に現れたり、台北の夫の仲間?の仏教式の読経にきたり、蔡さんも…というわけでゴタゴタ悲喜劇の様相で、かつての苦労の時代の若いシュウインと夫や娘たちの階層場面などもまじえながら描かれ、最後はお約束通りだが、シュウインが家族や自分を縛っていたくびきから放たれて老いの自立をするという展開。

飽きさせず、テンポよく登場人物の想いにもそれぞれ共感できるように作られていて、若い男性監督のこれが長編デビュー作とはいえない達者さ。ただちょっとわかりにくかったのは編集のせいなのか、台南に本拠があるこの一家の、娘夫婦は台北で病院勤め?そして長女は妹の夫に病気を診てもらい、葬儀は台南だが、娘たちがどこに泊まってどこで話をし、いつ台北に移動し、いつ戻り、みたいな場所の移動がよくわからない。まあ、台北と台南、近いという表象であるのかもしれないが。それで少し混乱した。(11月7日 六本木TOHOシネマズ TIFF 208)


T㉔おらおらでひとりいぐも
監督:沖田修一 出演:田中裕子 蒼井優  濱田岳 青木崇高 宮藤官九郎 東出昌大 2020日本138分

六本木まで行ってみたわけではないのだが、映画祭の合間に見た「特別招待作品」なので、ここに…。現在の桃子さんの周辺に3人の彼女の「寂しさ」が徘徊し、過去の彼女、さらに少女期の彼女の回想までが入り乱れるのは、原作(若竹千佐子)の心理描写的なものを可視化した試みであろうし、それなりに目を引く仕上がりになっているが、原作とは似て非なる?もののような気もする。田中裕子の造形がちょっと「おばあさんすぎる」?のかも、その桃子が「クソ周造」と死んだ夫をカラオケで歌うシーンなどは、ばあさんはじける!という感じなのだが、原作では(確か)カラオケでは歌わず、はじけるのではなくしんしんと心の中で「クソ!、周造」と死んだ夫を想うわけで、やはりこのあたりも原作とは違う桃子像が表出されている。それはそれでいいとは思うのだが、ウーン。割と理屈っぽく、単独行動が好きな高年齢女性は、あんなふうな見かけの老婆にはならないよな…といつまでもそこにこだわるのは自分が老人である証左?ではあろう。でも、沖田ワールドでなかなかよくできた(でも長い、長すぎる)映画ではある。「とんでもない美しい」男で東北弁をしゃべる周造=東出昌大というのはなるほど(バタ臭くないから)というキャスティングだと思える。(11月8日 府中TOHOシネマズ 209)


T㉕足を探して
監督:張耀升 監製:鐘孟宏 撮影:中島長雄(鐘孟宏)出演:桂綸美 楊祐寧 2020台湾 115分 ★★

監督は鐘孟宏の『一つの太陽』の脚本家だそう。プロデュース、撮影も鐘孟宏が担当していて、映画の雰囲気としては題材のシュールなブラックさ加減といい、主人公が何かに巻き込まれて転々と移動していきながら何かがずれてえーっとなるストーリー展開といい鐘孟宏の世界全開という感じ。どうしようもないダメ夫が敗血症で命と引き換えにということで片足を切断する。が夫は死んでしまい(というところがすでにズレ的話の転開だが)妻が切断された足を返してほしいと病院に掛け合うがらちが明かず、あちらこちらにたらいまわし。その間に博打で財産を失い、妻と出場するはずだった社交ダンス競技会をすっぽかし、転売物件の購入トラブルの尻ぬぐいを妻にさせ、浮気がばれて別居するが、病気になって…というような夫のダメ男ぶりと、それに厳しくかかわり、また、彼の死後は必死の形相で足が戻るまでは葬儀もできないと駆け回り、強気交渉を重ねる妻(桂綸美が見たことがないような、それでいていかにも桂綸美という魅力?全開。格好良くはないのだが格好いいという)のコンビネーションが難とも言えずおかしいというか、しかしもちろんブラックコメディ的な一種「不気味さ」?もあって疲れるけれど引き込まれる。足は最後に無事にというか、(最初も出てくるのでペアになっている?これも鐘孟浩っぽい高速道路上のロードムービーで、ダンスナンバーとしての「美しき青きドナウ」とか「ムーンリバー」が流されて)大騒ぎののち返り化粧を施されて死者の足に継がれるというのはまあ、薄気味悪い光景だがハッピーエンドなんだろう。  (11月9日 六本木TOHOシネマズ TIFF 210)


というわけでなんとか25本。お疲れさまでした!



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