【勝手気ままに映画日記】2020年8月


富士山が見えるはずなんだけれど…正面辺り…でも見えない。快晴ですがやはり、まだ夏空で雲が沸き立っているのです。8月末日ようやく、都外への山歩き!はるばる京急田浦~神武寺の鷹取山(190mくらいなのだけれど、鎖場まであって、なかなか楽しい「丘歩き」ができます)。8月は24日高尾山隣の草戸山に続いて二回目の野歩きでした。
双子の峰の右側が鷹取山。富士山を探したところです。

富士山は残念だったけれど、海はばっちり、はるかかなた、東京湾の対岸?まで見えた!



①日本人の忘れ物②誰がハマーショルドを殺したか③パブリック 図書館の奇跡④剣の舞 我が心の旋律⑤海辺の映画館 キネマの玉手箱⑥ジョーンの秘密⑦ボヤンシー 眼差しの向こうに⑧グレース・オブ・ゴッド告発の時⑨ポルトガル夏の終わり⑩吠える犬はかまない⑪糸⑫ザ・ピーナツバター・ファルコン⑬スウィング・キッズ

猛暑と相変わらず鎮まらないコロナ禍のせい?というわけでもないのだけれど、8月まで食い込んだ大学・高校の学期、長引く採点・成績登録(それにまつわるゴタゴタ)、終わるとすぐに秋からのオンライン授業+対面授業両方の準備などと、どこにも行かないのに追われ追われて、あまり映画館に足が向かない8月でした。手近に見られる映画を見ていたという感じですが、でもやはりそれなり、素敵な映画はあるものです。
★は1つから3つまであくまでも「個人的意見として」、各映画最後の番号は今年に入ってから映画館で見た映画の通し番号です)



①日本人の忘れ物
監督:小原浩靖 ナレーター:加賀美幸子 2020日本 98分 ★★

98分にフィリピン日系人遺児(戦前移住した日本人男性と現地女性の間に生まれ、戦争中は父は徴用・その後の強制日本帰還、母とともに日本人の子であることを隠して山中を逃げ回り、無国籍で教育の機会も得られず現在も貧困である人が多い)の日本国籍就籍の調査・運動と中国残留孤児の就籍・国家賠償法訴訟・そして現在は彼らのための高齢者介護施設づくりなどの運動と、盛りだくさんに詰め込んでいるが、企業弁護士?として稼ぎながら、フィリピン・中国両方の活動に日本に置き去りにされたものの就籍運動をきっかけにかかわって、そのいわば社会に訴える手段の一つとしてこの映画のプロデュースもしている河合弘之氏(原発問題にもかかわり、こちらでも映画をつくっている)が、その両方を繋ぐ橋というか一本筋を通しているからか、雑多なイメージはあまりない。
ただ、この運動レベルが中国とフィリピンで結構落差もあり、目標とするところの差もあるのだなという知識と、あと、特に残留孤児問題に関しては、彼らの運動に応じて理解を示し動いたのが与党国会議員であり第1次安倍内閣であったというあたり―まあ、その通りなんだが、野党って結局役に立たない?そんな感じも抱かせられたのである。
孤児たちの心情や、支えるNPOの熱意だけではことは解決せず、政府は当事者の死による問題の消滅を静観し、実務上役に立つのは弁護士とかのストラテジーなんだなと思わせられるような映画でもあった。(8月5日 ポレポレ東中野131)

②誰がハマーショルドを殺したか
監督・脚本:マッツ・ブリュガー 出演:マッツ・ブリュガー ヨーラン・ビョーグダール 2019デンマーク・ノルウェー・スウェーデン・ベルギー 123分

国連のハマーショルド事務局長がアフリカで墜落死した、というのは幼い日(小学生)の私がはじめて「国連」という組織があることを知った事件だったなあ。その後、国連について学んだりいろいろなニュースで耳に目にするとき、いつも無意識化にはこの事件が張り付いていたような気がする…ということで、興味を持って見に行く。
1961年9月(ケネディ暗殺より前だ)コンゴに動乱調停のために向かう途上、ローデシアでチャーター機が墜落、原因不明とされ調査もされなかった事故に、この映画の監督と、国連職員の父の代からこの事故を追い続けるという調査員ヨーラン・ビョークダールが解明を挑む中で、ついにサイマーという秘密組織が関与していた?ことを突き止め、しかもこの組織はアフリカでのエイズウィルスの蔓延による黒人絶滅を狙っていた?という陰謀にたどり着くという恐ろしいドキュメンタリー。…なのだが、監督が二人の黒人女性秘書に経過を口述筆記させるくだりといい、劇的な展開で様々な証言者にたどり着き、最後に事件のカギを握る元サイマー隊員の暴露インタビューが出てきたり、とても劇的意図的な作者の構成が行き届いていて、ハラハラドキドキのサスペンスドラマのように作ってあるところが、面白くもあり、ちょっと眉唾?-とまではいわなくても、裏どりとかはしてないわけだから「あくまでも一つの見方」であることは心して見なくてはいけないかなと思わせるような作品でもあり、しかし見ごたえは抜群だ。
(8月5日 渋谷イメージフォーラム132)

③パブリック 図書館の奇跡
監督・脚本:エミリオ・エステべス 出演:エミリオ・エステべス アレックス・ボールドウィン クリスチャン・スレーター ジェフリー・ライト ジェナ・マローン テイラー・シリング 2018米 119分 ★★★ 

オハイオ州シンシナティ。大寒波が襲来して、シェルターにあぶれたホームレスたちが一夜の宿を求めて閉館間際の公共図書館に立てこもる。主人公はこの映画の監督でもあるエミリオ・エステべス演じるステュアート。前半まじめそうではあるが、何となく気力にも欠け、警備員とともに体臭の強いホームレスに館内退去を求めて訴えられ、検察官が乗り込んできての事情聴取を受けたりしている。
その夜の出来事、大勢のホームレスに取り囲まれ、彼らとともに館内に残らざるを得ず。面倒を見る中でいつの間にかこの館内占拠の首謀者となってしまう気弱な図書館員が、この一夜の事件をどう乗り切るか…。悪役検察官はクリスチャン・スレーターでいかにも酷薄な雰囲気を演じ、アレックス・ボールドウインは薬中の息子が行方不明になり心配して休暇を取って別れた妻と街中を探し回っているところを呼び出される警察官(ネゴシェータ)。そしてその息子も図書館占拠の一団の中にいたということで、お話としてもよくできている。館内占拠のホームレスには女性は一人もいないのはなぜ?と思ったが、解決策の描き方を見てなるほど。この解決には図書館長(ジェフリー・ライト)もいつの間にやら巻き込まれた形で占拠側の一員になるのもうまい!一方の女性は、ステュアートの部下で文学部門への転勤を希望するマイラ(ジェナ・マローン、この映画では前髪垂らして貫地谷しほり風)、ステュアートのアパートの管理人をしているアンジェラ(テイラ・シリング、元アル中という設定)らが外からステュアートを支援する側として大活躍というのも楽しめる。「怒りのブドウ」が一つの物語のネックになっているが、これを知らずに野心的な報道をしようとしてマイラにバカにされるレポーター(ガブリエル・ユニオン)と三者三様の活躍ぶりだ。実はステュアートも犯罪歴のある元ホームレスという設定で、そういう人々に対するやさしさというか共感に満ちた映画になっている。(8月6日 新宿武蔵野館 133)

④剣の舞 我が心の旋律
監督・脚本:ユスブ・ラジコフ 出演:アムバルツム・カバニアン アレクサンドル・グズネツォフ アレクサンドル・イリン ベロニカ・クズネツォーヴァ  2018ロシア・アルメニア 92分

1942年、レニングラード国立オペラ・バレエ団はモロトフに疎開、その寒冷地でホテル住まいや、寮に入って『ガイーヌ』の練習中の団員たち。劇団の音楽担当のハチャトリアンは、たびたび書き直しを命ぜられ、重圧に苦しんでとうとう入院。訪れた友人のショスターコヴィッチらに励まされる。
作曲に横やりを入れているのは音楽に挫折して共産党に傾倒、文化省の役人となったプシュコフ。36年、ハチャトリアンがスターリン賞をとった席上での、彼のトルコのアルメニア人弾圧・虐殺への怒りを笑い飛ばし、謝罪をしたという経緯もあって確執があるわけだが、映画で描かれるのは、今回の横やりが、どうもハチャトリアンを愛している主役のバレリーナ・サーシェンカへの横恋慕というか、にあるらしい。
そこに曲の中にサックスのパートがほしい(兵役忌避のため)と望む音楽家もからみ、役人の権力と画策?の中でサーシェンカは不本意にもプシュコフに犯され、サックス奏者は収監されて縊死というような経過の中で、ハチャトリアンはプシュコフに迫られた『ガイーヌ』最後に物語を改変して士気のあがるバレー曲を作れという、強引な要求に『剣の舞』で応える。
他の登場人物よりも肩一つ抜きんでた偉丈夫のハチャトリアン(実在のハチャトリアンもものすごく偉丈夫という顔立ち体つきだったが)が、周りの人物の苦悩の中で、苦しそうな表情は見せるものの、結局のところそのような苦しみにおぼれることもなく、敵役プシュコフの言に応じて、求め以上の名曲を作曲し、その後再びスターリン賞を獲得、世界的な活躍をしていくところまでをこれは実写のフィルムで見せられると、その強さというかのし上がり?のたくましさには驚嘆するものの、どうにも共感は抱けず。まあ、彼の才能を尊重して身をささげて犠牲になった人が多かったということ? そこに圧政下にあったアルメニア人の抵抗を見るとすれば、「革命」のためには「才能のないものは」犠牲になるもやむなしというメッセージさえ潜む気がして、どうにも後味はよくない。(8月6日 新宿武蔵野館 134)

⑤海辺の映画館 キネマの玉手箱
監督・脚本:大林宜彦 出演:厚木拓郎 細山田隆人 細田善彦 吉田玲 成海璃子 山崎紘菜 常盤貴子 高橋幸宏 中江有里 小林稔侍 白石加代子 2020日本 179分  ★★

尾道で閉館迫る「海辺の映画館」で行われる最後の特集「日本の戦争映画」オールナイト上映、集まった観客の中の三人の若者が、映画の世界に飛び込み、登場人物になったり観客の立場に戻ったりしながら、の巌流島~新撰組、戊辰戦争~日中戦争~沖縄戦~広島の原爆投下の中で苦しみ死んでいく人々の姿を目の当たりにし、それぞれの映画の中のヒロインと恋に落ち、戦争での死から彼女たちを救おうとする。
その映画世界全体をくるむというか統括するような語り部的立場として時空を超えた存在?「ファンタ爺」とその娘、映写技師の杵馬(キネマ)、そしてモギリの女性館主、それに映画全体を通し現実と映画世界を行ったり来たりするヒロインとしての女学生、それに要所要所の中原中也の詩を配して、目くるめく映像世界―とにかくあえて「作り物」を感じさせるようなCG合成、コラージュのような画面、原色的色使い+ブルー系のモノクロ映像、ナレーション+伴奏音楽、無声映画を思わせるような字幕、とらゆる映画的実験を叩き込んだようなエネルギッシュ(ちょっと、黒沢明晩年の『夢』を思わされた。それと大林監督自身の『野のなななのか』(2014)、『花筐』(2017)』の世界がさらに熱量アップした感じ)で、しかも各映画の登場人物の豪華さも合わせ、大林的世界が全開している。死を前に下大林監督が、最後の力をこめて現代の社会への戦争への歩みに激しく警鐘をならすというメッセージも直接、間接に映画に叩き込んだという一作。
比較的無名に近い?若い役者たちが映画に飛び込む若者としてエネルギッシュに立ちまわって血を流し悩み叫ぶのに対し、対する女性陣は、映画のヒロインとして描かれるということもあって、何となく憧憬の女神的な描かれ方で、女性は客体化されているという感もあるが、それはまあ、言っても仕方がないことなんだろうなあと、思いつつ。
(8月9日 新宿TOHOシネマズ 135)

⑥ジョーンの秘密
監督:トレヴァー・ナン 出演:ジュディ・デンチ ソフィー・クァックソン スティーブン・キャンベル トム・ヒューズ ベン・マイルズ 2018英 101分 ★★

2000年、80代女性がソ連のスパイとしてMI5(軍情報部第5課)に捕らえられたという事件をもとに作られた物語。ケンブリッジ大で物理学を学ぶ学生が、コミュニズムに傾倒する(ソ連出身で亡命しているとかいう設定がさすがこの時代のヨーロッパだが)友人たちとの付き合いや恋の中で、やがてイギリスの原爆を研究する機関に雇われ、まじめに勤務しつつもソ連側にいる恋人との関係、彼の死、彼女を愛しながら原爆が完成すると「使える」と喜ぶ上司、やがてその上司がスパイと疑われ収監されて離婚が成立、面会に行った彼女の告白に思いもかけない反応をし、などスリリングな若い日の物語が、老いて夫とも死に別れ息子は初老の有力な弁護士となっている老女への取り調べで回想される形で明かされていく。
核の抑止力こそが世界を平和に導くとして、広島の惨禍を見た後、確信をもって原爆情報をソ連に流した、それがその後の50年の核戦争防止につながったという老女の自信というか、その強さ?彼女は若いころにも男性に引きずられず、不倫に引きずられず(これはのちに結婚する上司もだが)「ジョジョ」とか「かわいい同志」とか呼ばれ、もっとあからさまなセクハラっぽい行為をかわしつつ、泣いたり迷ったりしつつもコミュニストにも与せず、独自の立場でスパイ的行為をしたのだということが印象的。それは彼女に最初に接触をもって友だちになるケンブリッジ学寮の年上の女友達ソフィアもそうで、出てくるそうそうたる男性陣の陰にあって実は最もしたたかに生き抜いているという、ある種皮肉っぽい女性参加とも取れるような映画で、そこがとても面白い。さすがのジュディ・デンチだが、彼女の若い時を彷彿させると言っても過言ではないソフィー・クァックソンもよかった。  (8月12日 キノシネマ立川 136 )

⑦ボヤンシー 眼差しの向こうに
監督・脚本:ロッド・ラスジェン 出演:サーム・ヘン タナウット・カスロ モニー・ロス 2019オーストラリア83分 ★

カンボジアの貧しい環境の中で、兄と差別され無償の労働力としてしか期待されていない少年が家出同然に出奔し、ブローカーにだまされてタイに売り飛ばされ漁船に放り込まれて他のカンボジア人やミャンマー人とともに奴隷労働をすることになる。ことばの通じない船長以下雇い主(タイ人?)は弱った働き手や歯向かったものは拷問して海に放り込み殺してしまう。唯一一緒に売り飛ばされ、子どもがいるとして少年にも親切だった中年男も殺されてしまう。少年ゆえの従順さや適応力で多少船長に目をかけられ船の操作などに携われるようにもなるが、その地位もあとから来たミャンマー人に奪われそうになり、少年は夜、舷側で用便中のその男を殴り海に突き落とす…過酷な状況の中で目の色が変わり、常に海の向こうの遠くを見つめているようでありながら、かわいらしさがなくなっていく少年の表情が怖いー淡々と描いているのだが、その表現は秀逸だ。最後に!少年は船長以下の雇い主側の男たちを順番に殺し、船を抜け出し、バスやトラック(ヒッチハイクではないが、こんなふうにトラックが一種のバス的な走り方wしているらしい)を乗り継いで故郷に戻っていく。故郷の畑では父が働いていて、遠く歩いてくる少年を見つけたようなのだが…と、ハッピーエンドには決してならないところも厳しいこの映画の視線だろう。海や、農村の「美しさ」も印象的な哀しさだ(完全ネタバレしました。ゴメン!)。(8月12日 キノシネマ立川 137)

⑧グレース・オブ・ゴッド告発の時
監督・脚本フランソワ・オゾン 出演:メルヴィル・ブポー ドゥニ・メノーシェ スワン・アルロウ
ジョシュア―ヌ・ハラスコ 2019仏 137分 ★★★

カトリックの街リヨンで、神父が少年たちに長年にわたり性的虐待(小児性愛)を働いていたという実際の事件を題材に、そのことに傷ついた少年たちが30年後に神父の罪を知りながら見過ごしてきた教会を告発するという話で、教会が色濃く人々の生活や心に根を下ろしているヨーロッパならではの題材?とちょっと敬遠していたところがあって、しばらく見に行かなかったのだが、時間もちょうど合い、フランソワ・オゾンがこういう題材をどう料理するのかなとも思い、見る。で結論的には、さすが!だ。
当の神父は最初から「自分の性的傾向」と悩みつつ少年への手出しを認めているのだが、一般的な性的犯罪と同じく?襲われた側が口に出せない、罪を感じるというのはここでも同じようにあって、少年たちは20年もたってからこのことを公にする。その中のおもに3人の男をリレー式につなぐような形で彼らを含む男たちやその家族が被害者の会を結成し、教会の告発と時効の撤廃(何しろと被害者当事者であるうちはなかなか告発ができない)運動をするのだが、その男たちもそれぞれの抱える環境や、教会―信仰への意識の違い、家族状況、また本人たちのいわば社会的位置などにも差があることを映画はとてもとても丁寧に描いている。彼らが事件を背負って現在を築きその中で告発にようやくたどり着いたということに説得力があるし、彼らの運動の中での温度差や、最後にそれぞれの道に進んで別れていくところもきちんと描かれている。
一方の神父がいまだ神父の地位で司祭し、かつての被害者に対面して「tu」と呼びかけるー字幕では女性の弁護士が繰り返し「敬語を使って話しなさい」と注意しているのが印象的ー、また枢機卿が告発を受けての記者会見で「神の恩寵で時効になった(これが題名になっている)」と口を滑らせ、つるし上げを食らうという、まあその教会の無神経さの描き方といい、この映画が重苦しい宗教的原罪みたいな描き方をせず、わりと軽い感じに好意や親しみのもとであろうとしながら無神経な宗教、という描き方なのも、あ、なかなかオゾンっぽい。重苦しいテーマなのだが重苦しくなく、しかしきちんと問題のありかは感じさせるというのはさすがの手法と思った。(8月12日 キノシネマ立川 138)

⑨ポルトガル夏の終わり
監督:アイラ・サックス 出演:イサベル・ユペール ブレンダン・グリーソン マリサ・トメイ 2019フランス・ポルトガル 100分

ポルトガルのシントラ、女優フランキーが家族や友人を集めるーとはいっても一同が会する場面はほぼなく、街の中にやってきた人々がそれぞれの関係の中でごちゃごちゃ言い合ったり、プロポーズをしたり、くっついたり、離れたりという感じで、その中でのフランキーの思惑(全身に転移したがんで、年は越せそうもない、家は売却して寄付し、息子には結婚させたい相手を呼び寄せる…などなど)が明らかになりつつも、登場人物たちは現夫、最初の夫、その恋人らしい男、夫の娘シルヴィア一家(夫婦は不仲、ティーエイジャーの一人娘は夫の連れ子)、フランキーの息子と、フランキーがNYに住むという息子のために呼び寄せたNY在住のヘアーデザイナー、彼女に求婚してふられる映画監督と、入り乱れセリフをかわしつつ、各人の孤独が浮き彫りになってい行く仕組み。ポルトガルが舞台で仏葡合作だが、現地人はほとんど出てこないフランス風のセリフ劇。最後の丘の頂上に全員が集まるが、それもてんでバラバラ豆粒ほどの遠景で、最後まで「皮肉の目」が行き届いている感じ。(8月21日 渋谷文化村ル・シネマ 139)

⑨はりぼて
監督:五百旗頭幸男 砂川智史 語り:山根基世  2020日本 100分 ★

いやあ、いやあ、滑稽で情けなく、恐ろしい!2016年~富山市議会の議員報酬10万円アップ議決のあと、つぎつぎに発覚していく議員活動金の不正請求、昨日までは不正などしていないと言っていた議員が次から次へと「申し訳ありませんでした」と頭を下げ、中には土下座をする人も、不正をただして議会を正常化すると主張していた人も。最後には不法侵入罪で罪に問われて居直る若手議員まで現れて、しっちゃかめっちゃかという感じだが、これらが、監督でもある富山の新興のチューリップテレビのキャスターとディレクターの地道・執拗な取材の成果に暴かれていくという過程も丁寧に描かれ、そういう報道がない他の県や都市にも同じことがあるのではないかと恐ろしさも感じる仕組み。黒川問題、アベノマスク…、政府だってな…。しかも最後に「純粋に」人事異動でディレクターは社長室付き・メディア振興室とかに移動になって報道現場を離れ、キャスターの方は涙っぽい演説のもとこのチューリップテレビを去っていくのはどういうこと?圧力ではないとは言うのだが(この映画そのものはチューリップテレビの制作にだし)なんか気になる幕切れではある。 (8月21日 渋谷ユーロスペース 140)

⑩吠える犬はかまない
監督:ポン・ジュノ 出演:イ・ソンジエ ぺ・ドゥナ 2000韓国 110分

20年ぶり?に、『ポン・ジュノ特集』で。うんうん、20年ぶりだけど印象が強い映画だったからまあ、よく覚えていたかな…。20年後の『パラサイト』なんかに比べると整理がちと悪い?というか同じ場面の繰り返しが効果的というより雑多な感じ(1場面1場面はもちろんなかなか工夫された構成だとは思うのだが)がしたのは…?私の老化のせいか、ただ逆に整理のされないエネルギーも感じるかなあ。(8月21日 下高井戸シネマ 141)

⑪糸
監督:瀬々敬久 出演:菅田将暉 小松奈菜 成田凌 斎藤工 榮倉奈々 二階堂ふみ 高杉真宙 山本美月 倍賞美津子 2020 日本

平成元年生まれの蓮と葵の13歳の出会いと別れから、20代はじめの再会、二人それぞれのパートナーとの出会いや別れをはさみ、北海道のチーズ工房で世界につながるチーズつくりを目指す蓮と、ネイリストとしてシンガポールでの企業と敗退、そして新たな出発の前にふと見たネットニュースから北海道に戻り、劇的に再会し結ばれるまでを、中島みゆきの楽曲によって描くという、うーん、瀬々敬久がこういう恋愛ドラマをどう料理するのだろうという興味で見たのだけれど、なんかなあ、まあ細い糸で結ばれている(太くはない。どちらも幼い時の恋情をそのまま持ち続けるわけでは全然ないし)成り行き任せの愛?という感じかしらね…。北海道、東京、沖縄、シンガポールと目を引くような景色の観光映画としてみればいいかも。あとは小松菜奈の七変化的ファッション(チープもゴージャスもあり)ガンに冒される榮倉奈々のやせ具合、そして何より、失意の葵(小松)がシンガポールのフードコートでかつ丼を食べるシーンの表情(というかすさまじさ)は何よりも印象に残る。(8月23日 府中TOHOシネマズ142)

⑫ザ・ピーナツバター・ファルコン
監督・脚本:タイラー・二ルソン マイケル・シュワルツ 出演:シャイア・ラブーフ  ザック・ゴッツアーゲン ダコタ・ジョンソン 2019米 97分

ダウン症の若者ザックは身寄りがないゆえに老人介護施設に収容されていて、何度も脱走を繰り返す。同室の老人の助けも借りてとうとうパンツ1枚で逃げ出し、兄を喪って失意の中、他人の魚を盗んだとしてクビになり、港のものに火をつけ逃げ出す青年タイラーの船に隠れる。ということで二人が、ザックはプロレスラーになるべくあこがれの悪役レスラーの「学校」を目指し、タイラーはフロリダの港町を目指しともに旅をする。そこにザックの施設の職員で彼を探しに来る女性が最初はからみ途中からは同行して南を目指すという話。ダウン症の若者が機知や能力を発揮して青年を巻き込み、追手を追い払いという部分も、どうしようもない青年タイラーがザックの面倒を見る中で目を開かれ変わっていく様子などは、まあこういう映画のお約束どおり?で楽しみつつ安心してみていられるという感じ。主演のザック・ゴッツアーゲン自身が監督たちに主演と映画製作を希望してできたのだとか。 (8月28日 下高井戸シネマ 143)

⑬スウィング・キッズ
監督・脚本:カン・ヒョンチョル 出演:D.O ジャレッド・グライムズ パク・ヘス オ・ジョセ キム・ミンホ  2018韓国 133分 ★

1951年、朝鮮戦争中、朝鮮半島南端の巨済島にあった、アメリカ軍が管理する捕虜収容所で結成された寄せ集めのタップダンス・チームの物語。ここは北朝鮮軍の捕虜の収容所だが、アメリカのジャズやタップダンスに心惹かれ北に戻りたくないと考える兵士たち、一方でそのような風潮を苦々しく思い反乱を起こす兵士たちということで、単純な感動ドラマではではなく朝鮮民族同士の暴力的な抗争やアメリカ側の無理解・身勝手なども描かれ、最後はタップチームの全員(ちなみにタップのやたらにうまい北朝鮮軍の青年兵士、民間人なのに妻を探して捕虜になってしまった男、天才的な振付師であるが、栄養失調・肥満?で心臓が悪いという中国人、近隣に住み英・韓・日・中4か国語を操るという若い女性)が機銃掃射で撃ち殺され、チームを結成し指導をしたという黒人下士官(元ブロードウェイダンサー)は悲痛な面持ちで転属という非常にシビアで悲観的な(しかも実話?ならさらに)話なのだが、それを数々のジャズの名曲に乗せ、兄弟の邂逅とかちょっと涙の要素も入れて娯楽作品に仕上げるのはさすが韓国映画!
最初に字幕でこの当時の社会的背景がが語られるのだが、それが映画に描かれる「これから」まで含んでいるのが、分かりにくいというか、親切すぎてその仕組みが見えるまでなんか映画の世界にすごく入り込みにくかった。(8月28日 下高井戸シネマ 144)



8月は以上です。
多摩中国語講習会はまだまだ続くZoom授業、したがって中国映画上映会もまだまだオヤスミ状態。コロナよ早く去れ!です。



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