【勝手気ままに映画日記】2020年1月

お正月、くっきりはっきり高尾山からの富士山に満足


こちらは沼津アルプスから…低山?に登って富士山を探すのが最近の趣味です

①エセルとアーネスト②スペインは呼んでいる(THE TRIP TO SPAIN)③サイゴン・クチュール④パラサイト半地下の家族⑤エクストリーム・ジョブ
➅さよならテレビ➆読まれなかった小説➇リチャード・ジュエル➈ジョジョ・ラビット⑩ガーンジー島の読書会⑪ホテル・ムンバイ⑫ガリー・ボーイ⑬オルジャスの白い馬⑭音楽⑮マリッジ・ストーリー⑯イーディ、初めての山登り⑰家族を想うとき⑱私のちいさなお葬式⑲キャッツ⑳最初の晩餐㉑国家が破産する日㉒テリー・ギリアムのドン・キホーテ㉓パリの恋人たち(L'homme fidele)㉔エッシャー 視覚の魔術師




①エセルとアーネスト
監督:ロジャー・メイウッド 原作:レイモンド・ブリックス 出演(声):ブレンダ・ブレッシン ジム・ブロードベント ルーク・トレッダウェイ 2016英・ルクセンブルク 94分

『スノウマン』のレイモンド・ブリックスが第1次大戦後のロンドン、若い牛乳配達人アーネストとメイドのエセルが知り合い家庭をもって、第2次大戦、ナチスの侵攻脅威の中一人息子のレイモンドを育て、彼がパブリックスクールをやめて美術学校に進学、結婚し、エセルが認知症になり亡くなる1971年、後を追うように一人暮らしのアーネストも亡くなるまでを淡々と、でも一つ一つの場面の美しさに幸福感があふれるような描き方をしたアニメーション。最初に実際のレイモンド・ブリックスが二人の肖像を描き出す場面から始まり、エンドロールは一家の写真でつづるというサービスまで含め、実在の無名の人物が日々の幸福と平穏を求めて、戦争や社会階層に対する感じ方(アーネストは戦争の動向を気にかけ、エセルは特に自分たちは「労働者階層ではない」ということに固執する)をも含めて、このような人物がどこにでもいて社会を作り、子どもを育て生き抜いてきたことが心に沁みるという映画だった。 
(1月5日 川崎市アートセンター・アルテリオ映像館)


②スペインは呼んでいる(THE TRIP TO SPAIN)
監督:マイケル・ウインターボトム 出演:スティーブ・クーガン ロブ・ブライドン レベッカ・ジョンソン クレア・キーランス 2017英 108分

2015年7月の『イタリアは呼んでいる』のシリーズ。今回はスペイン旅行をする二人。なんだけれどスペインの風光・観光名所とかはごくあっさりと背景に、彼らがするはずのグルメ紀行についてはさらにあっさり?レストランで食べる場面は出てくるが料理に関する言及などはあまりない。セリフでは「イベリコなんちゃら」とか言っているので字幕の問題かもしれないが…。で、物語としては旅行中にエージェントがやめて交代、自分の書いた脚本が宙に浮きそうで焦る中、旅の後半合流するはずだった息子が、ガールフレンドの妊娠で来れなくなったという事件、おまけに相談し同行を頼もうとした息子の母である元妻までもが他の男性の子を妊娠したという事件に言葉もないスティーブと、家庭を持ち二人の子供ににも恵まれて、スティーブを振ったエイジェントからの出演依頼まで受けるロブということで、スティーブのイライラ不安に焦点が当たっている感じ。そしてあとは全編二人のけっこうペダンティックな薀蓄や物まね(マーロン・ブランド、ロバート・デニーロ、アンソニー・ホプキンス、ミック・ジャガー デビッド・ボウイなど繰り出す繰り出す。エピソードなども含めてでどこまでが本当かわからないが、観客にはなるほどという話。シェイクスピアの芝居のセリフとかも盛りだくさんに)が繰り出されていくというのは前作と同じというかむしろパワーアップの感じで、楽しめるが、知らない人や興味のない人にはよくわからない(私にもそういう部分はある)ということになる。スティーブとロブ実名で境遇もそれらしい人物として出てくるが、実は家族や周辺人物は実際どおりではなく、役者が演じていて、彼らの性格なども誇張というか実在通りではないとか?? でもこの映画の中でスティーブ・クーガンはひたすらに『あなたを抱きしめる日まで』でオスカーを獲ったということにこだわり自分の新脚本を売り込もうとするし、かの作品の主演女優ジュディ・デンチへの言及もあったりして、あの真面目な感動作を種になんかおちゃらけているというか彼自身が道化になっている感じもあって、虚実皮膜に生きる役者の大変さ面白さを感じさせられる。
(1月5日 川崎市アートセンター・アルテリオ映像館)


③サイゴン・クチュール
監督:グエン・ケイ/チャン・ビュー・ロック  出演:ニン・ズーン・ラン・ゴック ホン・ヴァン ジエム・ミー ゴーン・タイン・パン(製作総指揮)2017ベトナム 100分

1969年、サイゴンの伝統あるアオザイ仕立て店の娘ニュイはアオザイ嫌いでファッション・デザイナーを目指し母(製作総指揮をしていてベロニカ・グォクの名でハリウッドでも活躍)と対立。ひょんなことから伝統的な店のアオザイ姿で2017年にタイムスリップ。そこで、今や落ちぶれた自分(!)に出会うという物語。何とか自分の人生を立て直したいと、彼女は元母の弟子だったアオザイ店主の娘でベトナムのトップデザイナーになっているヘレンの下で「レトロ」なセンスを生かしつつデザイナーとして働くことに…ま、予定調和的に彼女がアオザイを現代に生かしたデザインの製作を要求され、現代の自分(中年になり落ちぶれた)の協力も得て成功、という流れに目新しさはないようにも思うが、テンポがいいし、カラフルなファッションやアオザイ(現代風な超おしゃれな)も楽しめるし、まあ安心して見ていられるという点でも、最後にちょっとライバルになったヘレンがいい人ぶりを発揮するという人情もの的?展開も含めてまあ、楽しい映画。でも、ちょっと待って、成功して無事に過去に戻り母と和解したニュイが歩む新たな未来は、要は前に行った未来とは違うパラレルワールド?っていうことよね???そう考えるとなんか不安というか虚無?的な気分にもさせられる2017年の世界だった。
(1月9日 新宿Ksシネマ)


④パラサイト半地下の家族
監督:ポン・ジュノ 出演:ソン・ガンホ イ・ソンキュン チョ・ヨジョン チェ・ウシク ハク・ソダム 2019韓国 132分  ★★

すごいわ!さすがのポン・ジュノ映画!予告編を見ているだけではこういう展開になるとは全然思わなかった。去年のパルムドール『万引き家族』も格差社会の中での貧しい家族を描いていたわけだが、それとはもう、まったく違うアプローチ。繊細さという意味では是枝ほどではない?―というより繊細さの方向が違う感じがする―が、リアルをこえた事件のおどろおどろしい迫力は、これぞ韓国映画の醍醐味という感じだろうか。予告編でわからなかったのは、キム一家の住む半地下が富豪の家の地下室ではないということ、さらに富豪の家には奥深い秘密の地下室(というより地下壕という感じ)があって、そこに住んでいるのは実は…ってこのへんはなんか江戸川乱歩的でもあり、そこからフラフラ出てきたいわば幽鬼が起こす事件の血なまぐささはウーン、趣味がよくないけどまあ映画的(家の地下にバアサンを埋める『万引き家族』の比ではない)、そして「匂い」が事件の引き金になったり、モールス信号がキーになるというのもなんか日本映画には決して出てきそうもないアニメ的展開でもあり…でそこに貧富の格差の大きい社会への啓発(しかも格差が階段とソウルらしい坂道によって見事視覚的に示されるの)を込めてしまうというのもすごいよなあ。大洪水で半地下の住民たちがトイレからあふれる下水に飲み込まれ避難所で一夜を明かす翌朝富豪の家では客をたくさん招き幼い息子の誕生日を祝ってガーデンパーティ、その脳天気さにはこの映画、パラサイトはいったいどっちと思わされてしまうのだった。ちなみにこの映画の原題(韓国語)はまさに『寄生虫』だった。
(1月12日 府中TOHOシネマズ)


⑤エクストリーム・ジョブ
監督:イ・ビョンホン 出演:イ・ハニ リュ・スンリョン チン・ソンギュ イ・ドンフィ シン・ハギュン  コンミョン 2019韓国 111分  ★★

すごーく格好良く勇ましいー「紅一点(なんだけどね、あいかわらず)」のチョン刑事(イ・ハニ)の俊足、ムエタイの格好よさ!しかし捕り物は失敗し、班長は後輩にも先を越されナサケナイこの班。麻薬取引をするやくざのアジトの向かいにあるさびれたフライドチキンショップを根城に張り込みをするが、店主は売れないから店じまいするという。班長は退職金を前借しこの店を購入、引き続き張り込みをしようとするが、なんと!新たに開店した店は大繁盛、張り込みどころではなくなり大騒動…とこのあたりが喜劇的展開で描かれるわけだ。それでも最後取引の情報が入りアジトに駆け付けるとすでに引っ越したあと!しかし麻薬取引の情報をつかみ最後はカーチェイスから夜の波止場での取引現場を抑えての大捕り物ということに…。この場面ドンパチはやくざの親分(しばらく私の見る韓国映画には出ていなかったシン・ハギュンが懐かしく、インテリヤクザ風の貫録も身に着けてきている)だけで、すでに失態によって停職になっている刑事の面々も銃は持たず、全体総て殴り合い、けり合いという感じの大乱闘。そして終わるころにパトカーがやってくるとそこにはやくざ連中をガムテープでぐるぐる巻きにした刑事メンバーが並んで腰かけ、そこに流れるのが『男たちの挽歌』の主題曲レスリー・チャン歌唱の『當年情』の1節、というわけで笑いつつ、懐かしさに涙?というサービスも。ま、それにしてもあれほどにはドンパチやらないのは時代のせいかね…そしてこの映画、今や「人民の敵」的な扱いをされるようになった香港警察の向うをはってずっこけつつも頑張る韓国警察の姿をわざわざ描くことによって、香港やその警察状況を笑い込めつつ批判している??とタダものではない感も読み取ることができる。後ろの席に韓流ファン?の女性6人、最初から最後まで笑いっぱなしで見ていた。(1月16日 シネマート新宿)




➅さよならテレビ
監督:土方宏史 出演:福島智之 澤村慎太郎 渡辺智史  2019日本109分


話題の東海テレビドキュメンタリー班が自らの内部?を描いた作品で、なぜ仕事中の自分たちが撮られねばならないのかとごねる局員たち、結構おたおたしてたどたどしい説明しかできない監督や撮影班自身の姿から始まり、約1年にわたり、メインキャスターだった福島智之アナウンサー(6年前の福島原発にかかわるテロップミス、今回の顔出しに関する問題自分のミスとは言えないけれど代表として謝らなくてはならない立場、一方で地元の祭りの取材その他を通し自分をどこまで出すべきなのかを悩み続け、最後はテレビ視聴者の高齢化に伴いメインキャスターも視聴者の年齢に合わせるということで、メインキャスターの座をおろされ、リポーターとして町へ出る)、25年とかの経歴があり報道の理想を追う?契約社員の澤村氏(理想は高く自分の方法でニュースを取り、監督にはこの映画の意義を厳しく問うが、後のほうで、あるインタヴュー場面が、この映画のプロデューサのおぜん立てによるものであったことを言う)そして番組に最初のほうでスカウトされて1年契約で記者をするが実績があげられず1年後には契約を切られてしまう若い契約社員の渡辺(アイドル系のオタクで見るからに頼りなくて、こんなやつにTVの取材が任されるオソロシサは観客の立場でも見えてしまう。彼は顔出しをしないということで撮ったインタヴューの顔を出してしまったということで失敗・叱責を受ける)となんだか大変な人々中心に、悩み苦しむスタッフを追いながら、テレビの今の衰退状況が今後どうなっていくのかを問うドキュメンタリーということかなあ…。働く人間の立場としては身につまされるところもあり、TVニュース界の裏側もちょっと垣間見ることができた気はするが、あくまでも前線で使い捨て?にされながら働く立場だね。  (1月16日ポレポレ東中野)


➆読まれなかった小説
監督:ヌリ・ビルゲ・ジェイラン 出演:アイドゥン・ドゥ・デミルコル ムラト・ジェムジュル ベンヌ・ユルドゥルムラ― 2018トルコ・仏・独・ブルガリア・マケドニア・スェーデン・カタール 189分

いや、まあたくさんの国の資本?が乗り入れていることといい、その長さといい、セリフの量?というか対話で綴られているかの感がある構成といいさすが堂々の貫録だけど、でもウーン、要は父の生き方を受け入れられないというか父をバカにしている息子が自らをつづった小説の執筆とその出版までの挫折や、なんとか出版にこぎつけて、自分の小説になど価値がないと思っていると思っていた父(あ、わかりにくくてスミマセン)の評価を得て和解するというまあ、話で要は父子の相克とその解決という映画の流れはそんなに目新しいとも思えないが、とにかくしゃべるしゃべる…父とは最後のほうまで全然対話しないのが不自然なほどに友人、元カノ?、原稿を読んでほしいと訪ねる作家、導師と呼ばれる男たち、そして母と、ほぼ対話で綴られるのだが原語はもちろんわからず字数制限もある字幕での観念的?な会話は追うだけでなんか疲れてマイッタ。3人の男がカフェに行き「チャイ3つ」とか注文をする。会話は途切れず続いているのにいつの間にかテーブルの上にお茶のカップ(というかグラス)がある…というのはまさに映画的描法なのかもしれないがどんなふうに会話が構成されどこが切られているのかわからない居心地の悪さもあって、ウーン、やっぱり疲れた。トロイの馬の内部映像が出てきたのはちょっと面白かったが…初めて見た!?気がする。
(1月17日川崎市アートセンター・アルテリオ映像館)


➇リチャード・ジュエル
監督:クリント・イーストウッド 出演:ポール・ウォルター・ハウザー サム・ロックウェル キャシー・ベイツ オリビア・ワイルド ジョン・ハム 2019米 113分 ★★

1996年アトランタでの実話ベースの物語。法務執行官であることにあこがれ続けるおデブのリチャードが、アトランタ五輪のイベント会場で見つけた爆弾の仕込まれたリュック―爆発はするが、リチャードの発見で観客たちは退避を開始していたので被害は比較的少なくて済んだー第一発見者として英雄の扱いから、FBIの不用意なマスコミへの情報漏らしで突如加害者として報道され、FBIの捜査もその方向に進んで生活を破壊されるリチャードと彼を助けた昔の知り合い(最初に二人の知り合ったいきさつが結構丁寧に描かれ、この映画事件が起きるまでがけっこう長い)の弁護士・ワトソンの闘いが描かれる。事件までの長さは主人公リチャードの法執行官としての正義を求めると言いつつ卑小な、小市民的な、ちょっとマザコンぽくさえある暮らしぶりを描くためだと思うが、ここが結構くたびれる。ワトソンのほうも正義の味方というよりはいささかくたびれた風貌で、頼りなさげなのだがそれがともに負けない、そしてすごく立派な格好いい風貌の(キャシー・ベイツ 今までの中でも見かけのよさは一番かも)母が涙するということで見どころたっぷり、そしてなんだか頼りなさそうな、しょぼい主人公にも弁護士にもどんどん共感させられてしまうという娯楽映画でもあり、さすがのクリント・イーストウッドの健在ぶり!(1月18日 府中TOHOシネマズ)


➈ジョジョ・ラビット
監督:タイカ・ワイティティ 出演:ローマン・グリフィン・デイビス スカーレット・ヨハンソン トーマシン・マッケンジー サム・ロックウェル タイカ・ワイティティ 2019米 109分 ★★

ニュージランド(マオリ?)出身の監督がアメリカで撮ったドイツ舞台の英語版ナチス映画…で確かにドイツ製?に比べるとえっ?英語というところも妙な明るさに満ちているところもあり、深刻な恐ろしい状況(なにしろ街角にハンギングされている市民とか、空襲シーンとかもしっかり入っているし)をユーモアに包んで―だからナチスがみんなマヌケ?なオトボケ人間みたいな描き方ーヒトラーユーゲントのナチス信奉者の少年の心の中に育っていく愛と自由への希求とそれにかかわったユダヤ人少女を描くという一種の離れ業を成功させ、しかも娯楽映画に仕上げたすごさ!少年の母役のスカーレット・ヨハンソンのぶっ飛んだ自由人としてのレジスタンスぶり、監督自ら演じるアドルフ―少年の不在の心の父であり、彼の信念を支えたり裏切ったりする存在として少年の前に現れ消え、最後は少年に蹴りだされる喜劇的ヒトラーぶり、そして昨日の『リチャード・ジョエル』に引き続き、すっかり違った変人?だけど最後は身を挺して少年を助けるドイツ人将校、片目のサム・ロックウェルとか、おとなたちがやっぱり印象的な好演なのだと思う。
(1月19日 府中TOHOシネマズ)


⑩ガーンジー島の読書会
監督:マイク・ニューウェル 出演:リリー・ジェイムズ ミキール・ハーズマン グレン・パウエル ジェシカ・ブラウン 2018仏・英 124分 ★★

1946年、読書会をやっているというガーンジー島の青年?からの手紙を受け取った売れっ子ライターのジュリエットはガーンジー島に赴く。この読書会は戦時中のナチスに目を盗んで屠った豚を食べたりジャガイモのパイや自家製のワインを分け合っていた島民のグループが名目上は読書会ということで開いた集まりであり、その中心人物であったエリザベスという女性が行方不明になっていることをジュリエットは知る。後はその女性の秘密と、行方探しとその過程で様々にかかわりあったグループのメンバーや、ジュリエット自身の婚約者とのあれこれ(彼女はこの婚約者のもつ軍関係の情報網でエリザベスの行方を明らかにする)と最後は、島民で彼女に最初に手紙をくれた男性とのロマンス、と美しい若い女性をヒロインにする伝統的な?描き方で、厳しい戦争下の抵抗や、その中での人々の思いを上手にオブラートに包んで娯楽ミステリー?としても楽しませてくれるというわけだ。(1月21日 下高井戸シネマ)


⑪ホテル・ムンバイ
監督:アンソニー・サマス 出演:デヴ・パテル アーミー・ハマー ナザニン・ボニアディ  ティルダ・コブハム=ハーベイ アヌパム・カー
2018豪・米・インド 123分 ★★

2008年インドでおきた同時多発テロ。襲われた5つ星ホテル・ムンバイの客たち、従業員たちの群像パニック劇。デヴ・パテル扮するシーク教徒のアルジュンは普段は少し頼りなく、遅刻や靴の紛失などで料理長に怒られようなキャラだが、一大事が起きたときヒーロータイプの活躍をするのでなく、自分を励ましつつ心の優しさでなんとかできるをしていくみたいな、むしろ語り手視点で描かれていて、そこがとてもリアリティがある。ヒーローは従業員にホテルに残るかどうかの選択権を与えつつ、観客を安全な場所に誘導しようとする瑋料理長。また、乳児をナニーに預けてレストランで食事中のアメリカ人とインド人(イスラム教徒)の夫婦の夫はなんとか子どもと乳母を救うべく必死の大脱出を試みるし、そのインド人イスラム教徒の妻はイスラムの祈りで危機を切り抜け、セレブだが女性にだらしなく女をあげて遊ぶ?風を見せた男は妻に言い寄りつつ、最後は自己犠牲の行為と、それぞれに普通の人間がするかもしれない範囲(超人的ではない)で頑張るところもリアリティ。そしてテロ犯人側があたかも少年、家族への褒賞や心境を餌に携帯で遠隔操作されている姿の悲しさ(もちろん未だつかまっていない黒幕の声だけの出演による卑劣さの恐ろしさの効果も)も余さず書くという感じで、息も切らせず疾走の2時間!(1月21日 下高井戸シネマ)


⑫ガリー・ボーイ
監督:ゾーヤー・アクタル 出演:ランヴィール・シン アーリーア・バット シンダート・チャトゥルヴェーディー 2019インド 154分


インドの貧しい大学生がラップスターになる話。昨年12月に見た『シークレット・スーパースター』(2017インド/アドヴェイド・チャンダン)も女の子がユーチューブで売り出してスターになるということで、インドではそういう世への出方というのがまだ夢物語として信じられているのかなとも思う。がこちらはラップということもあってか、結構背景の社会性が強調されているよう。主人公ムラドの父は貧しい?お抱え運転手だが、第2夫人を迎えて母や子どもたちと同居させる。ムラドの恋人は医者の娘で医大生だが、母には勉強よりも結婚と迫られ、また、大学を出て伯父のコネで会社に入れてもらったムラドも下級の使用人扱いされて切れるとか、そういう伝統衣的な価値観やジェンダー問題に縛られる人々が抑圧解放の手段としてラップを選ぶというのは、いとうせいこうのラップのなかなかの名訳による字幕のせいか、よくわかる。ただし、ラップ合戦というのが相手を貶めるようなものすごい悪口の応酬になって詰まったほうが負けっみたいなのはどうなんだろう…とにかくそのあたりはTVでは放映できないようなすごい字幕戦でウーン、社会や体制に対してでなくラップ仲間の相手に対してこういう攻撃をするというのは、イマイチわからん。というところもあり…。(1月21日 下高井戸シネマ)

⑬オルジャスの白い馬

監督:竹葉リサ エルハン・ヌルムハンべトフ 出演:森山未來 サマル・イェスリャーモア マディ・メナイダーロフ 2019日本・カザフスタン(カザフ語・ロシア語)81分★★


馬泥棒の強盗団に殺されるオルジャスの父、葬儀の日に村の女性たちに排斥され引っ越しを余儀なくされる母(『アイカ』でカンヌ主演女優になったサマル。母がなぜ排斥されるのかはよくわからなかった)、そこに現れる母の昔の男―息子の実父カイルート(これが森山未來。カザフ人の役)、父亡き後の一家の馬を追う役を得て引っ越しに同行するカイルート、途中草原で故障しトラックが立ち往生し、オルジャスはカイルートとともに救援を頼みに20キロ先の電話があるカフェまで馬で先行する。その途中でオルジャスの好きな絵、カイルートの木彫と2人のアート性によって心の交流が生まれる場面が見どころ?そしてカフェで、オルジャスは父の腕時計をはめた男―つまり強盗の一味と遭遇する。そこからは彼らを追うカイルートとの撃ち合いに…そして強盗を撃ったカイルートも撃たれて血まみれの落馬と、結構ドラマティックな話なのだが描き方は淡々としている感じで、セリフも少なくて全体に感情も抑え気味。物語を取り巻くカザフスタンの草原の景色もなんか日本画を見ているような柔らかな淡い色合いで、草原の厳しさとか荒々しさは感じられない。とってもアジア的というかむしろ日本的かもしれず、そこがこの映画のよさでもあり、一種物足りなさ?かも。子供たちが部屋で折り重なるように眠っているシーンとか、目覚めたオルジャスが多分夜じゅう話し合っていたのだろう母とカイルートの向き合った姿だけを見るとか、省略話法も効いていて穏やかな優しい雰囲気が全編に漂い、森山扮するカイルートもちょっとニヒルっぽいのではあるが、目の奥に優しさが漂っているという感じでなのだ。 (1月23日 新宿シネマ・カリテ)


⑭音楽

原作:大橋裕之 監督:岩井澤健治 出演(声):坂本慎太郎 駒井蓮 芹澤興人 前野朋哉 平岩紙 竹中直人 2019年日本71分


アニメーション映画祭でグランプリもとったという、なかなかの評判作みたいなので見たが、ウーン。紙のマンガをそのまま画面にした静止画みたいなアニメで、音楽だけはさすが「音楽」という題だけあって印象的というか面白いし、皆々無表情で怖い顔をしている登場人物たちがぶっきらぼうでありながらうらはらに協調性を発揮するというのもちょっと面白いなとは思ったが、2度みたいなという気分にはあんまりならないかも。
(1月23日 新宿シネマ・カリテ)

⑮マリッジ・ストーリー

監督:ノア・バームバック 出演:スカーレット・ヨハンソン アダム・ドライヴァー ローラ・ダ―ン アラン・アルダ 2019米(Netflixオリジナル映画)136分 ★★


夫はNYで劇団を運営する演出家、妻は映画女優からその劇団の主演女優として引き抜かれともに10年間を過ごしてきた女優、という設定はウーン一般庶民とはちょっとかけ離れていて、むしろ主演の役者に近いという感じもするが、ともに自分のやり方で自己実現を果たそうとする夫婦という意味では設定の妙でもあるかもしれない。ともに互いの仕事を認め家事や育児などにも理想的な?協業を果たしているような夫婦の最初の亀裂は、夫の劇団でのみ活動している状況を夫の思うように動かされていると感じる妻の不満―ちょうど出身地のロスからのTVドラマのオファーがあった妻は小学生の息子を連れてロスの実家に帰り住み、そのまま離婚を要求する。妻の帰郷を仕事のための一時のものと、理解し認めていたつもりの夫は妻の不満や主張が理解できない―というところから二人や、それぞれ敏腕の弁護士を巻き込んでの延々泥仕合。基本的には子どもの親権・養育権の問題に終着していくわけだが最後はUCLAに職を得た夫がロスにも拠点を持つことになり二人は別れながらもともに共同の子育てはつづけて行くと、話の展開としては多分夫の困惑に同情する人が多いのかもしれないが、妻の悩みの微妙さもよくわかるという感じで、それをときに弁護士が代弁し、時に妻の家族が代弁し、ときには二人が大げんか(ここは迫力のある悪口的セリフの応酬で日本映画ではちょっと見られないような長さのインパクト)し、泣いて抱き合いといことでその流れに引き込まれ飽きることがないという意味ではものすごく見ごたえのある、よくできた映画だ。とはいえ夫婦をのぞき見しているみたいと思ってしまったら引いてしまうんだろうけれど。(1月23日下高井戸シネマ)


⑯イーディ、初めての山登り

監督:サイモン・ハンター 出演:シーラ・ハンコック ケヴィン・ガスリー 2017イギリス 102分


脳梗塞に倒れ30年間歩けず口もきけない夫の介護を続けて見送った83歳のイーデイ。3年たって娘は彼女を老人ホームにいれ、家を処分しようとする。その過程で、30年間の頑固でわがままな夫への忍従から逃れたいという気持ちを記した母の日記を見つけた娘は激怒し、母を勝手と責めるーというのがこの物語の出だしで、多分あんなに娘が怒るのは自分の母への奉仕?我慢をしている自分に母の姿を投影するから?とも思えるのだが、その昔、父から誘われたが夫に阻まれ実現することのできなかったスコットランドインバネス近くのスイルペン山に登ろうと、大決心をしたイーディがキャリーバックに古いザック(なかには骨とう品みたいなコンロやヤカン)を担いで出かけていくところから…イーディ自身は過去の自分の暮らしに大いに不満だが、やはりその暮らしは彼女を頑固というより意固地な老女に仕立て上げているところがあって、この女性少しも可愛げがない。ともあれインバネスに到着したとたん、ホームを描けてくる若い男女に突き当られて彼女は転倒。女を送ってきた男に助けられ、目的地の村まで車で送られることに(これも雨も降り、次のバスは4時間後というのでいやいやの男の車に乗る)彼らは偶然にも村のキャンプ用品店の経営者で、しかも予約ミスで1日目の宿が取れなかったイーディは彼の家に一夜の宿をかりることに…と偶然の要素に運ばれつつ、イーディスがその男ジョニーの指導を受けスイルペン山に登るまでを描くが、ことはそう簡単でなくこの後もおもにイーディに意固地さに起因するようなさまざまな出来事が起こり―言ってみれば山登りの話にかこつけた老女イーディの成長譚(人に頼り助け合うことを知る?―考えてみれば夫の介護も自分一人で背負わなければならなかったからこその苦痛だったわけで)なのだという気がする。山登りのシーンはちょっと嘘っぽくはあるけれど、景色の美しさ、雄大さはは目を見張る。(1月24日 シネスイッチ銀座)

⑰家族を想うとき

監督:ケン・ローチ 出演:クリス・ヒッチェン デビー・ハニーウッド リス・ストーン ケイテ・ブロクター 2019英・仏・ベルギー 100分

見た人見た人がみな、「終わって気分が重くなる、暗くなる」というのでケン・ローチ作品だし、まあそうだろうなあと思いつつ見てやはりそう。一生懸命稼いで子供を教育し家を持ち、という普通の暮らしを求めるところからどんどん家族の歯車が絡み合わなくなっていく過程がさすが!の演出でなんかやりきれないなあと思いながら没頭させられてしまう。楽しい気分にさせられる映画ではないが、楽しい気分にさせず問題を考えさせるというのがこの映画の意図で、4人の家族とほぼその人々を囲む狭い世界に限って描いたというところにもそれは効果的にあらわれている?それにしても介護士をしている妻の必須のアイテムである車を奪うかのように売ってその金を元手にして夫の商売用の車を買うって、なんか日本より日本的に内助の功的に妻が抑圧されている―これってイギリスの実態?それとも作者の切り取ったイギリス社会への目による誇張なんだろうか。
(1月25日川崎市アートセンター・アルテリオ映像館)


⑱私のちいさなお葬式

監督:ウラジミール・コット 出演:マリーナ・ネヨローフ アリーサ・フレイッドリフ エヴゲーニー・ミローノフ ナタリヤ・スルコフ  2017年ロシア 100分 ★★


『イーディ』も『家族を想うとき』も登場人物の心の動きや行動はとても論理的でわかりやすい。それに比べてこのロシア的?外し感、ユーモア感はなんだろうか。ヒロイン、エレーナが、教え子の医者に心臓に病気を抱えていていつ心不全を起こしても不思議ではないという宣告を受けての帰り道、同じく教え子の男から釣った大きな鯉を押し付けられ、この鯉が物語の展開にちょっととぼけた大きな意味を持つ、というのも、宣告を受けたエレーナが、では自分で自分の後始末をしようと葬儀の準備―遺体検案書や死亡証明、埋葬許可証から話を始めるのがまた飛躍的でおかしい。これも具体的には教え子の役人をたらしこむわけで、村で一つの学校で勤め上げた教師としてのエレーナの生き方がしのばれるところー棺桶の準備のほうは中国では当たり前みたいだが―をはじめるのも。葬式用の料理を作り、死亡証明の日時に合わせて死のうとするところに、隣人から連絡を受けた息子が到着。息子の生き方と母の人生の相克?ということに―ただしこれもユーモアたっぷり。かつての息子の彼女は今や飲んだくれの浮浪者みたいになっていたり、いろいろ深刻な問題がからんでいて、終わり方もちょっと不穏な雰囲気でどうなるの?という観客に想像させるような終わり方で帰り道楽しくほのぼのにはならない形に放り出されるところも手が込んでいる。それにしてもエレーナと息子役の役者の顔が本当の親子と言っても通りそうな同系統の顔立ちであること、死に化粧をしたとたんにエレーナがなかなかの美女に変身?(役者としてのマリーナ・ネヨーロフってこんな美女なのね?という感じ。つまりエレーナ役のほうが作られた退職元教師顔っていうことなんだろうね)してしまうなどビジュアル的な見どころもあるゾ!(1月25日川崎市アートセンター・アルテリオ映像館)


⑲キャッツ

監督:トム・フ―パ― 作曲:アンドリュー・ロイド=ウェーバー 出演:フランチェスカ・ヘイワード ロビー・フェアチャイルド ジェニファー・ハドソン ジュディ・デンチ ジェームス・コーデン イアン・マッケラン ローリー・デヴィッドソン レベル・ウィルソン 2019米 109分

言わずと知れた古典的ミュージカルで話の展開とかはともかく、今回は人間の俳優たちをCGによって猫に変身させ、まあ歌ったり踊ったりはいいとして、ネズミやゴキブリ(これも人間の顔のついたCG)を整列させたり。、食べたりという、まあなんというかちょっとエグイというか度肝を抜かれるような、そして、さまざまな猫ーマジック猫とか老いた猫とか、みょうにエロティックなデブ猫とか、鉄道猫とか??あれこれ出てきてそれぞれ見せ場のある小さなショウをするわけだが、猫でもなく人間でもなくリアルな半人間ぽくてちょっと気味が悪いーそれがいいというかねらいなのかもー感じで所作やショウのインパクトが強すぎて歌とかダンスとかのほうがあまり印象に残らない。ということは、それぞれの猫の抱える苦しみの物語みたいなものやビジュアル以外の個性はほとんどインパクトがないということでもあり、ジュディ・デンチ扮する、天井に行く猫を選ぶ長老猫もそれは例外ではない。というわけで109分のコンパクト版だがそれでちょうどいいという感じではあった。(1月27日府中TOHOシネマズ)


⑳最初の晩餐

監督:常盤司郎 出演:染谷将太 戸田恵梨香 窪塚洋介 斉藤由貴 永瀬正敏 2019日本 127分 ★


家族の「お葬式」映画と思って見に行ったら、これ、山用品屋が後援している山映画でもあった。山男だったが山をやめて再婚した父と小学生?の娘と息子、妻のほうには中学生?くらいの息子がいて5人が最初はぎくしゃくしながらもだんだん親しく家族らしくなっていき、子どもたちの成人後65歳の父が亡くなり、親族が集まってのお通夜の席を中心におもに末息子の視点から過去の想い出を絡ませながら話が進んでいく。通夜の客はなんか妙にうれし気ではしゃぎがち、母は通夜の仕出しを断り父の遺言であるとして父が昔作った目玉焼きはじめいくつかの料理を出していく。なぜか妻の連れ子であった長男は最初姿を見せず、弟妹は長年音信不通になっていると話しているのだが、やがて子連れであらわれ、彼が出すのは父が最後に食べたというすき焼き。そしてこれらの回想をつなげ、最後に母が「秘密」を二人の義理の子に語り―最後は何も言わなかったが、妻にも子どもたちにも愛情を注いだ父の姿があきらかになって、一家は父をそろって穏やかに送るとまあ、そんなふうな…。一家の一夜を中心に描きながら重層的な構造でしっかり物語を語り、途中ごたごたと不穏な空気などもありながら、最後はおだやかに亡くなった人をしっかりしのぶ葬式映画で後味が悪くない映画だったが、ただ一点。高校生?くらいで父母の秘密を知った長男が家を出て行くのはわかるが、その前中学生くらいで、母を深く愛している?実父の存在がありながら、母と一緒に家を出て新たな父を得た息子がその父や弟妹の一家になじんでいく過程というにはイマイチ、納得できない感じだなあ、と悩む。(1月28日下高井戸シネマ)


㉑国家が破産する日

監督:チェ・グクヒ 出演:キム・ヘス ユ・イアン ホ・ジュノ ヴァンサン・カッセル 2018韓国 114分 ★★


1997年通貨危機で国家が破産寸前に追い込まれた韓国で、その危機に直面した3人の人物を中心に描く。1人目は韓国銀行の通貨政策チーム長ハン。彼女は危機を国民に知らせ、国民のリスクを最小に抑えるべきだと早い時期から上司(国家レベルの人々)に訴えるが上司は最初は甘く見、いよいよとなるの自身の保身から危機の存在を隠蔽し秘密の対策チームを立ち上げてIMFに債務の肩代わりを頼もうとする。IMFの専務理事が韓国に乗り込んで交渉が始まるが、助けを得るということは大企業優先で中小企業をつぶし、雇用を制限して失業する人々が増大するということでもあり、一般の国民にとってはさらなる危機に直面することになるとハンは猛反対するが結局もちろん聞き入れられず、上司の女性差別的な発言も通ってしまい挫折する。いっぽう、この経済危機を察知して、銀行員としての立場を利用して協力する顧客を得ていち早くドル買いに走り、大儲けする若者ユン(ユ・イアン―『バーニング』ではフラフラ頼りなげだったけれどここは童顔ながら傲慢な面持ち)、また大手デパートからの発注を受けて喜んだものの約束手形での決済を迫られたため、無価値になってしまった手形を抱え倒産の危機の中で苦悩する町工場主ガプス(この人はハンの兄という設定で、最後のほうで一度だけ彼女に融資を受けられる銀行を紹介してくれと泣きつくが、ちょっとここは唐突かも。)この3人のストーリーはほぼ接点なく並行に語られるが、ハンの側の状況が、ユンのどのような行為を呼び起こし、ハンの心配する経済危機がガプスにどのような影響を及ぼすのかということが並行して語られていくので、複雑?な経済問題を扱いながらとても分かりやすい映画になっていて、別にアクションがあるわけではないが、ぐんぐん惹きつけられハラハラもさせられるサスペンスになっている。さすがの韓国映画。面白いのは20年後も描かれ、社会状況や政治家の考えは変わらないとしながら、3人がそれぞれに97年の経験を生かしてちゃんと生き抜いている姿を見せる娯楽性。「絶対に負けない」と自分を励ましていた3人が成功?しているという、その意味では明るい結末で娯楽映画として成立させているのも韓国映画的。(1月28日下高井戸シネマ)


㉒テリー・ギリアムのドン・キホーテ

監督:テリー・ギリアム 出演:ジョナサン・プライス アダム・ドライヴァー ステラン・スカルスガルド オルガ・キュリレンコ 2018スペイン・ベルギー・フランス・イギリス・ポルトガル 133分


テリー・ギリアムが20年にわたって制作に挑戦、挫折を続けてきた『ドン・キホーテを殺した男』がとうとう完成した。(『ロスト・イン・ラマンチャ』とか、失敗のメイキングなんていうのもあったし)ドン。キホーテはともかく主演というか狂言回し?のアダム・ドライヴァーというのもまあ、旬だし、適役で今まで見せなかった?ようなコメディアンぶりも真面目に見せていて、まあいい感じかな。物語はとにかくテリー・ギリアムっぽく現実と幻想の間を登場人物は行き来しながら息もつかずに見せるノン・ストップ・コメディムービー。ただしそこに時の流れの残酷さとか、それにもめげない人のエネルギーも感じさせて奥は深いかも。風車=巨人のCG映像とか、いかにも現代を感じさせるところもあって、20年は無駄ではなかったのかもとは思わせられる。(1月29日 キノシネマ立川)


㉓パリの恋人たち(L'homme fidele)

監督:ルイ・ガレル 出演:ルイ・ガレル レテェシア・カスタ リリー・ローズ=デップ 2018仏 75分


フィリップ・ガレルの息子が自ら主演しながら監督、しかも二人の女性に愛され、その間で揺れ動く…とは、まあなんとお調子者でナルシストなんて思いながら見ていた―実際に長身、濃いラテン系の面立ちのイケメンだし(わたしの趣味としては顎が少し太すぎて肉食系を感じさせるのが、ちょっとだが)だが、みていると、年上の女性マリアンヌ(実際にガレルのパートナーだというレテェシア・カスタ)にわけもわからぬうちに他の男の子どもを妊娠したとふられたり―実は彼女は確信を持っていたわけではないことが後からわかるー10年後、その男ポールの葬式後に寄りが戻ったり、かと思えばポールの妹(演じるのはジョニー・デップ/バネッサ・バラディの娘)から、ずっと好きだったとつきまとわれたり、マリアンヌの10歳になった息子(悪そうな美少年)にまで翻弄されてよろよろフラフラという体たらくでフランス風伊達男のこのだらしなさというか気弱ぶりがテーマだったのかと、となればルイ・ガレルは自分を道化にしたてた?ということになるのか。最初はちょっとアホクサという感じもなくはなかったが、結構引き込まれ、一定距離をおいてではあるけれど男にも女達にもそれぞれに共感できて楽しめた。18年の東京国際では『ある誠実な男』の題名で上映されたという(この時は未見)。ちょっと笑えるが…これが原題なわけだ。(1月31日 川崎市アートセンター・アルテリオ映像館)

㉔エッシャー 視覚の魔術師

監督:ロビン・ルッツ 出演:ジョージ・エッシャー ヤン・エッシャー リーベス・エッシャー グラハム・ナッツ 2018オランダ 80分

割と静かにタンタンとエッシャーの生涯ををたどっていく。もちろん間に順次出てくるたくさんの素描、版画作品、そしてエッシャー自身は嫌がっていたということばとともにエッシャー作品に蛍光色のような鮮やかな色合いで彩色したCG作品とかがたくさん挟み込まれるのも楽しめる。もう一つ亡命?してきていたロシア人一家の娘との恋、結婚、ともに暮らし子を育て、旅行をし、そして最後は精神を病んだ妻に心を痛める、自らの病気にも苦しむという姿までが順次撮られた家族写真や息子やその妻たち家族のインタヴュー証言とともに描かれ、この、少年時代、体は弱かったものの裕福な家庭の息子として経済的に苦しむこともなく版画の才を若くして見いだされその道を一筋に深々と淡々と歩いていたみたいな画家の姿が彷彿とされる。もっともそう見るのは観客(の一部?)だけかも。自らをアーティストではなく数学者なのだと自称し、色付けされたり無断で複写され世にはばかる自作に怒りを燃やし、晩年にいたって「失敗作ばかり、成功したものは一つもない」と言い切る画家は実際につき合ったら相当頑固で扱いにくい爺さんだったのかもな…とも思わされる。エッシャーでは「だまし絵」的なものが有名だが、そ映画の中での分量は案外少なかった。(1月31日 川崎市アートセンター・アルテリオ映像館)




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第112回多摩中電影倶楽部例会を以下とおりに行います。こちらもどうぞよろしく!

         『迫り来る嵐』(2017中国 董越 119分)


      とき:2月29日 午後1時15分~(会場12時45分)
      ところ:立川:多摩中教室(中国料理五十番4F)
      詳細は以下に
    
                華影天地
       https://tamachu-huayingtiandi.blogspot.com/2019/12/no111.html







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