【勝手気ままに映画日記】2018年5月

①チャンブラにて②僕はナポリタン③環状線の猫のように④イタリアの父⑤地中海⑥ロング,ロングバケーション(The Leisure Seeker)➆オー、ルーシー⑧いぬやしき⑨光陰的故事⑩あの頃、この時⑪残酷ドラゴン 血斗竜門の宿(龍門客棧)⑫ニッポン国VS泉南石綿村⑬ラッキー⑭蚤とり侍 ⑮29歳問題⑯ラジオ・コバニ⑰ウインストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男⑱BPM ビート・パー・ミニット ⑲友罪 ⑳大英博物館プレゼンツ 北斎㉑ラブレス ㉒君への距離、1万キロ ㉓妻よ薔薇のように。家族はつらいよⅢ 

     

①~⑤イタリア映画祭2018  ⑨⑩⑪台湾巨匠傑作選2018  ⑦⑧⑫⑭⑲㉓日本映画 ⑨⑩⑪⑮中国語圏映画



①チャンブラにて
監督:ジョナス・カルビニャーノ 出演:ピオ・アマート イオラインダ・アマート ダミアーノ・アマート コジモ・アマート クドゥ・セイオン 2017伊・米・仏・スェーデン 120分

イタリアの南部、カラブリア州ジョイア・タウロという町のはずれにあるチャンブラ通りはロマの人々の街であるらしい。そこに入った監督は実在の町民たちを起用して本人をモデルにした?人物を演じさせこの作品を撮ったらしい。窃盗や詐欺などを生業とするアマート家の末っ子、14歳のピオという少年が主人公でその兄、父母、兄姉や甥姪など一族総出演で多くが実名で演じている。ただしピオの兄コジモは双子の兄のダミアーノとコジモのダブルキャスト?とか。だからまったくの実人物として演じているわけではないのだろうが、しかしそれにしてもよくもまあ、この泥棒一家、父と兄は犯罪で手錠をかけられ収監というような物語を素人たちが演じたものと、そこが感心といえば感心、不可解といえば不可解。14歳のピオはもちろん、4~5歳の甥っ子に至るまでタバコをふかしワインを飲み、かわいい顔をしていっぱしにすごむというのもなんか衝撃。イタリアだなあ…兄に教えられ生活術(つまり小犯罪)を手先として学ぶというような生活をしていたピオは兄と父の収監によって、自ら一家の生活を支えるべく犯罪(列車内での置き引きとか)をしていく様子がこれでもかこれでもかという感じで丁寧?に描かれる。彼と仲良くなり犯罪に落ちていくのを少しでも防ぐようにかばってくれるのはセネガルからのボートピープルとして流れ着いた青年アイヴァ(監督の前作=デビュー作の『地中海』の主人公)。やがて祖父が亡くなりなぜか恩赦?(身内が死ぬと釈放されるらしい)兄が帰ってくる。兄は黒人に対して差別意識丸出しで、アイヴァを陥れるような犯罪をピオにもちかけ、ピオのうちに葛藤が生まれる。少年が犯罪に邁進しても、迷い悩んでも痛々しさはつきまとい、暗く、しんどく、重く、長く感じられる映画だった。ピオの祖父も母も姉たちも、そしてピオ自身も風格さえ感じられるようないい顔をしているのでなおさら・・・・(5月1日 有楽町朝日ホール イタリア映画祭2018)

②僕はナポリタン
監督:マネッティ・ブラザーズ 出演:アレッサンドロ・ロイア ジャン・パオロ・モレッリ 2013イタリア 114分

こちらは喜劇。ピアニストへの道を断念し元教師のコネで警察官になった(自分はナポリ嫌いだと思い込んでいる)男パオロが2年後、ピアノの腕を買われてマフィアの娘の結婚式に雇われた地元ナポリ歌謡のアイドル、ロッロ・ラブのグループのキー・ボード奏者(身代わりを送り込むために無実なのに収監されてしまう)として潜入し、その結婚式に出席するという誰も顔を知らない凶悪殺人犯の大物セラッカーネを逮捕しようとする話。完璧なクラッシック愛好家の主人公が、強引な潜入捜査を強いる上司に抗いながらも従わざるを得ず、それらしく髪型スタイルを固め、グループ仲間とかみ合わないながらも溶け込もうとし、アタフバタバタするおかしみと、一大決心の結婚式シーンでの人間違いからロッロ・ラブといわばペアのようになって犯人追跡、ヒョウタンから駒、みたいな捕り物の成功、そしていつの間にやらナポリへの愛に目覚めていたという終わりまで、ナポリの警察社会とマフィアのコメディカルなすさまじさに驚きつつも、まあよくできていて楽しく見られる。ナポリ弁はすべて関西弁で字幕が作られていて(「京都ドーナッツクラブ」が字幕作成とか)まあ、軽妙、おおらかで地元愛の強いナポリ人の雰囲気をよく出しているのかも。主人公がしゃべることばを「標準語を使うな」というようなセリフもあって、イタリア語は残念ながら方言差なんてとても分からないけれど、ふーん、なるほど‥‥というところ。この映画のスチュエーションは、ロッロ・ラブを演じたジャン・パオロ・モレッリが出した原案によるらしく、彼自身がパオロを演じたかったのだそう(ちょっとハンサムすぎる?)。その彼は監督の次作『愛と銃弾』(映画祭上映、今秋劇場公開とか)では主人公を演じている。(監督兄弟のQAあり。無実の罪で収監されたキー・ボード奏者はどうなったのかという質問あり。早々、それは私も見ながら思った。という感じでけっこう突っ込みどころはあり、それがイタリア映画だ、と監督も居直っていたみたい)5月1日 有楽町朝日ホール イタリア映画祭2018)



③環状線の猫のように
監督:リカルド・ミラーニ 出演:パオラ・コルテッレージ アントニオ・アルパネーゼ 2017 イタリア 98分

こちらもコメディ。ただし➁に比べると視点は少し真面目というか、イタリアの今日的な問題に触れている?シンクタンクに勤め郊外に住む低所得層や移民の社会統合を進めるプロジェクトを率いているジョパン二に娘が紹介したボーイフレンドは郊外の問題地域に住む母子家庭の息子。心配で彼らの乗ったバスを追いかけたジョパン二の車に突然幅寄せをして難癖をつけ、フロントウインドウをバットでたたき割った女性は少年の母モニカ、訪ねて行ったそのアパートには万引き常習の双子の叔母、父は服役中、アパートの住人はバングラデシュ人やルーマニア人などで、モニカは彼らとののしりあいながらも異文化交流の中で生きている。あとはお定まりで、娘の付き合いを厳しくやめさせることなどはできない父と、息子たちを面白がって見ているかのような母の意見の口違い、感覚の差、すれ違いがまあ定番通りに面白おかしく、そのスノブな別れた妻や刑務所から出てきた夫も絡んで描かれて行き、この話最後は何らかの形でうまくいくはずと思わせておいて、子どもたちは最後にはしっかり別れてしまうという意外な(というか年齢から言えば当然かもしれないが、その後、子どもたちはやはりそれぞれ同じような境遇の美少年・美少女と付き合っているようなのがどうもな…)結末、そして・・・まあ、互いに(特に自分を上流と思い込んでいる男の)変化と寛容というか、そのあたりの結末はまあ、当然のさりげない終わり方でうまくできている。(5月2日 有楽町朝日ホール イタリア映画祭2018)


④イタリアの父
監督:ファビオ・モッロ 出演;ルカ・マリネッリ イザベッラ・ラゴネーゼ 2017イタリア 93分

けっこうまじめに描かれた、これも寛容を目指す人情劇? 家族は持ちたくないということで8年も付き合った男が別の人と付き合いだし捨てられたゲイの青年パオロは、失意で訪れたクラブで倒れた妊娠中の女性ミアを助ける。金も携帯もなくしたというミアを、いわば強いられて、職場の配達車を借りてバンド仲間のボーイフレンドに送り届けるも、すでの彼には新しい女が・・・・図々しさ満開という妊娠中の美女を見捨てることもできず、言うがままに押し切られトリノからローマへローマから南部の彼女の故郷まで、仕事も放りだし配達車のままで、しかもそれも途中で故障して乗り捨てて二人が動き回っていく旅の途上を描く。なんだかなあ、いやいやだし、女性にひかれるわけでもないし、気弱な男にイライラ、図々しい女にもイライラしながら見ていくと、故郷ではミアの家族が最初は歓迎の風で迎え、彼らも海で遊んだりしてちょっと楽しいひと時が・・・しかし、実はミアと母の間には相いれない確執があり、実は母に捨てられ孤児院育ちのパオロには母の後ろ姿を追い求める?さびしさもあり、実はこれが一種の母子もの(母恋い)映画なのかと思わせられる。母に行き方を厳しく糾弾されたミアは姿を消し、パオロは一人トリノに戻るが・・ある日病院から電話が来て「父として」かつてミアとふたりイタリアと名付けようとした胎児が生まれて、その父がパオロとされていることを知る。さ、どうするかパオロ・・・・というわけで。うーん、テーマは分かりやすいけど。なんかな・・・イタリア南部の家族主義社会の意外な冷たさというのも感じた・・・・
5月2日 有楽町朝日ホール イタリア映画祭2018)



⑤地中海
監督:ジョナス・カルビニャーノ 出演:クドゥ・セイオン ピオ・アマート 2015イタリア 107分 

①『チャンブラにて』の前作。話題になった監督デビュー作。『チャンブラ』にも出てきたプルキナファソの青年(といっても7歳の娘がアフリカにいる父)アイヴァのイタリアへの旅―アルジェリア~リビアを経て…とたどり着いたイタリアでの、働いて周囲には認められるものの、定住許可は得られずなかなか定着のできない暮らしを描く。おとなの暮らしなので『チャンブラ』に比べるとやや動きはあって、イタリア人現場監督やその娘、一家の好意とズレのような劇的要素もあって、暗さ重さは同じだけれど、引き込まれて見た。この映画では12歳のピオ・アマートが古物商の卵としていっぱしの顔をして、イタリアに来たばかりのアフリカ青年に生意気な口をききながら好意を示す場面もあって、『チャンブラ』ではこの関係が逆転していく。つまり、アイヴァはこの映画のイタリアに受け入れられず、しかし帰るに帰れず娘とPCで話して泣くというようなところから、仲間を集めて古物の売り買いで生計を立てて定着(法律的にはわからないが)していくわけで、ちょっと安心したり…そうなることを示唆するような終わり方ではないのだけれど。5月4日 有楽町朝日ホール イタリア映画祭2018)



⑥ロング,ロングバケーション(The Leisure Seeker)
監督:パオロ・ピルツィ 出演:ヘレン・ミレン ドナルド・サザーランド 2017イタリア 112分

イギリス人のヘレン・ミレンとカナダ生まれのドナルド・サザーランドがアメリカ人の夫婦でアメリカ国内を旅するというロード・ムービー。作ったのはイタリア人の監督で映画もイタリア映画というきわめて今日的な、しかし内容は老いた夫婦の終末をどう閉めるかというきわめて普遍的なテーマで、それがヘミングウェイの生家を求めてアメリカ大陸をキャンピングカーで南下するという、背景的には陽光きらびやかという感じの明るい景色の中で描かれていく。監督の『喜びのトスカーナ』や『人間の値打ち』と内容的には同じように深刻さを持ちながらイタリアの陽光とアメリカの陽光の違いか、わりと明るい感じに仕上がっていてそれが救いかなという感じ。認知症の夫と、末期がんの妻がドライブ旅行をするという話なので、なんか途中も終わりも想像がつくというか、思った通りの進行(イタリア映画っぽい)というところもあるが、主演のベテラン二人の名演技で老いたれども現役の愛しあう二人の「若々しさ」に打たれる。原題の「The Leisure Seeker」は二人が乗るポンコツキャンピング・カーの愛称。この車を処分しなかったことを悔い、二人を何とか連れ戻そうとイラつく息子は自らの生活もどうもうまく行っていないらしく、それが両親への制限的な無理解につながっていることが無理なく描かれている。(5月9日 下高井戸シネマ)



⑦オー、ルーシー
監督:平栁敦子 出演:寺島しのぶ 南果歩 忽那汐里 ジョシュ・ハートネット 2017日・米 98分

メイドカフェ勤めの姪っ子の懇願で彼女が払い込んでキャンセルしたいができない英会話教室(前払いで60万円!)の無料体験教室に行くことになった節子。そこで講師のジョンのハグ・メソットにひっかかり受講を決意するが、次の回ジョンは講師を辞し、なんと姪っ子と一緒にアメリカに戻ってしまったということになる。節子は不仲(節子の彼氏を奪って姉が結婚)の姉とともに彼らを追ってアメリカへ。OLとしてあまり面白くもない、期待もされない(職場でも浮いている)生活を送り、一人暮らしのマンションはゴミ屋敷化している節子が、ジョンを追ってだんだんと自らの行動を変えていく(というより、ちょっとエキセントリックな性格が解放されていくという感じ)様子が、日本ではそれなりだがアメリカに帰ってみると完全ダメ男のジョン、お調子者で軽はずみな姪(忽那汐里好演)、頑固で常識的な意識を持ちつつ行動面ではけっこう思い切った感じで動ける姉とともに描かれるのだが、登場人物が皆一見普通だけれどヘンな人。映画の「良心」(とどこかに書いてあった)役所広司の英語教室のクラスメートもやっぱりかなりヘンな人だし。彼らに囲まれて節子があまり解放される雰囲気にならないし、寺島しのぶの非凡さの先入観もちょっと邪魔して(なかなか熱演とは思うのだが)今いち、なんかなあという感じが残る。ジーパン姿の寺島しのぶの脚の長さにちょっとびっくり。(5月10日渋谷ユーロスペース)



⑧いぬやしき
監督:佐藤信介 出演:木梨憲武 佐藤健 三吉彩花 本郷奏多 二階堂ふみ 濱田マリ 2017日本 127分

木梨演じる犬屋敷の中年というかちょっと老けた初老の男が秀逸というか身につまされそうなナサケナサでうまい。会社では無能社員、家ではローンを払うための稼ぎ手としてしか期待されず妻からも子どもたちからさえも軽んじられ、その上、健康診断でステージ4のガンが発見。家に迷い込んだ捨て犬を捨てて来いと妻に迫られ、しょんぼり散歩に行った公園で突然に空から降ってきた光で大変身を遂げる。このとき偶然傍にいて、同じように変身してしまうのが娘の同級生(といっても親しいわけではない)高校生のヒロ。父が浮気して新しい家庭を作り、そこではそれなりに歓迎されているものの、女手一つで育ててくれた母の苦労と、おまけにこちらもガン発見ということで鬱屈したヒロは、手にした超能力で破壊行動に走り、幸せそうな一家に押し入り惨殺してしまう。そこから警察に追われ、ネット画面を通じた大量殺人やビル破壊に走る彼と、なんとか悪を食い止め人々を救い、冷たい娘を助けて家族にも見直されたい犬屋敷との戦いが、娘やその同級生を絡めて起こるという、マンガ原作なので、完全にマンガ的展開でバタバタ人は死ぬし、都庁をはじめ新宿高僧ビル群が爆破・破壊と見るも無残な状況に、犬屋敷とヒロは空を飛び、まあ、なんというか荒唐無稽といえば荒唐無稽、CG頼りといえばその通りで迫力はあるが、決してスカッとはしないんだけれど、でもなるほどねという感じがする面白さだった。犬屋敷が都庁の廃虚から娘を救い出す場面は主人公がたくさんの死傷者の中で娘にばかり目が行って終わるのはどうなのと思って見ていたら、そこで終わりでなくそれなりの終わり方(しかも続編さえ予想?させるような)をしていてちょっと舌を巻く。
5月11日 府中TOHOシネマズ)



⑨光陰的故事
『恐竜君(小龍頭)』監督:陶德辰 出演:藍聖文 

『希望(指望)』監督:楊德昌 出演:石安妮·劉明

『跳蛙(跳ねるカエル)』監督:柯一正 出演:李国修 

『報上名來(名を名乗れ)監督:張毅 出演:李立群 張艾嘉
1982台湾 106分 

『小龍頭』は60年代?の小学生。「牯嶺街少年殺人事件』にも出てきた感じで、夜には近所の友人宅に一家で出かけTVを見たりレコードを聞かせてもらったりが一種のレジャーになっている(いかにも台湾っぽいという感じがするのだがどうなんだろう)一家の小学生の息子はなんとなく親に疎んじられていると感じていて、恐竜のフィギュア(今とは違って多分子どもにとってはすごく価値が高い)を愛しているが、それを親に捨てられてしまう・・・『指望』では母子家庭の一家の離れに下宿した大学生にひそかな恋心を抱くものの、姉と彼の付き合いを知り落ち込む中学生と、そのチビで背が高くなりバスケの代表選手になることを切望する同級生のBF。このあたりまでは子どもの世界なので夢や希望がかなわない切なさがヒシヒシ、その中でも頑張ろうとする健気さも胸を打つという感じ。『跳蛙』も『指望』の少年が大学生になったみたいなチビでさえない大学生が、留学生との交流会?のために比賽を企画しようとして困難をものともせずに頑張り、最後にはピンチヒッターとして水泳の教義に出て勝ってしまうというまあ、一生懸命さが報われる話、最後はシルビア・チャンの若々しい妻ぶりが印象的な『報上名來』で、新居に越したもののいろいろ問題が起きてギクシャクの中で会社に行ってしまった妻と、家に残ったもののひょんなことから鍵を持たずに外へ出て締め出されてしまった夫が家に入ろうとして悪戦苦闘する話で、頑張るが報われるわけではないというより、たとえ報われなくても頑張らざるを得ない人々の群れを描いたという感じ? 心すっきり楽しく帰るという感じでもなく、かといって観念に走って小難しいわけでもなく、今の若い人に受けるかどうかはわからないし、同世代?ゆえの共感かもとは思いつつ大変面白く見た。『坊やの人形』のほうは見ているのだが、台湾ニューシネマを代表する若手のオムニバス映画として作られたこの作品、多分見ていないなあ(名前はもちろん知っていたけど)と思いつつ見て、やはり見てなかった・・という気がする。(それだけ新鮮だったということ?)
5月14日 新宿K'sシネマ 台湾巨匠傑作選2018)

 

⑩あの頃、この時
監督:ヤン・リーチョウ 2014台湾 113分 

台湾金馬奬はもともとは政府主導で、蒋介石の誕生日の10月31日に行われたローカルなものだったというところから、やがて台湾のみならず中国語映画全体を対象にして与えられる、いわば中国語圏(製作で言えば欧米のものも含め)になっていったという過程を、受賞作や、かかわった人々のインタヴュー、それに背景としての台湾の社会状況や、台湾映画界の盛衰なども含めて丁寧に描いたドキュメンタリー。懐かしい台湾映画群(古いものの中にはもちろん見ていないものもあるが)や、映画愛にあふれた人々の話や、その背景にあった社会事情など、勉強にもなり、思わず心がじわりと熱くなったりもし、わが中国語圏映画愛を再確認させられたリ・・侯孝賢、スタンリー・クァン、シルビア・チャン、趙薇、姜文、ピーター・チャン・魏德聖ら監督も、映画画面や、インタヴューに答える役者たちも総出演(金馬奬関係者として?蔡明亮とかジョニー・トウとかが出てこなかったのは、だから??)。レスリー・チャンもプレゼンターなどの場面で2回ほど出てきた!
5月17日 新宿K'sシネマ 台湾巨匠傑作選2018)


⑪残酷ドラゴン 血斗竜門の宿(龍門客棧)
監督:胡金銓 出演:シャンカン・リンホー 石雋 バイ・イン 1967台湾111分

台湾武侠映画の名作。名前と部分映像(蔡明亮の『楽日』に出てきた)などでは知っていたが、全編鑑賞は多分初めてだと思う。まあ、話は?? 明代、処刑された忠臣の遺族が流刑となり、彼らの命を狙う刺客(これが役人というのがなんとも、まあ)と守って闘う兄妹、舞台となる竜門の宿屋の主(これが処刑された忠臣の友人)とその友チャオという腕の立つ4人が、刺客側の大勢と戦い、最後はトップの滅法強い宦官と切りあうという、まあなんか要は石ころだらけの荒野の中での武闘を見せるという映画なんだが、うーん。眠くはならなかったので、理屈っぽかったり、武闘の理由付けがなく、いい側も悪い側もどちらもあんまり人好きのしない風貌だったりするのがかえっていいのかも。それにしても最後は別れの場面なのだが、これで遺族たちはもう襲われる心配はないのかなとちと、不安にもなる幕切れ。(5月17日 新宿K'sシネマ 台湾巨匠傑作選2018)



⑫ニッポン国VS泉南石綿村
監督:原一男 2017日本  215分 

2006年、大阪・泉南地区の石綿工場の密集していた地帯の60名の元労働者やその子供、地域住民などで石綿による健康被害を受けた人々が原告として国の対策を告発し損害賠償を求めた訴訟の経過を描くドキュメンタリー。前半は鼻にチューブを入れた高齢な人々が語る仕事の記憶や病気の状況やなどの話が中心で進んでいくが、2時間半のところで約10分の休憩が入り、その後は監督の原一男と原告団の人々の対話とか、原告団の中でも闘い方の姿勢の違いなどが現れたり、事務局を支える柚岡が弁護士や他の原告の反対を押し切って内閣や厚生省に談じ込んでいく姿とか、また、原告の死がさらに七マしく描かれ、10年近くの裁判で3回の勝訴(上告)1回の敗訴を繰り返し最後に最高裁判決を勝ち取るまでの、あるいは勝ち取った後も続く紆余曲折のようすが克明に描かれた迫力映像。10年の間に21人が亡くなり、前半からある死者の報告は、後半に入ってますます生々しく病床や葬儀までも切り取る。生きている人々もみな老いていくそのようすもなまなましい。最高裁で勝った後もさらなる交渉を繰り返し(厚労省側が出席させる担当者のなんと若く、官僚と言えども発言権があるわけでもなかう、こういう人を前面に立てる官のひどさと、出される人々のしんどさも感じてしまうほど)最後は一応時の厚労大臣塩崎氏の泉南訪問(死んだ一人の弔問もかねて)集会での謝罪なども勝ち取るわけだが、それに慕って障害が回復されるわけでなく。しかし誰かが作らなければならなかった映画ではあろう。山形でも、フィルメックスでも上映され賞も取ったが、あまりの長さゆえに後回しになっていた作品をようやく見た。長いけれども長さはまったく感じさせない。(5月18日川崎市アートセンター・アルテリオ映像館) 


⑬ラッキー
監督:ジョン・キャロル・リンチ  出演:ハリー・ディーン・スタントン デヴィッド・リンチ ロン・リビングストン
2017米 88分   

この映画の撮影後92歳?で亡くなったハリー・ディーン・スタントン演じるラッキーの晩年の生活と思想を描く。ラッキーはテキサスのサボテン生える砂漠っぽい郊外の一軒家に一人暮らし。朝起きて体をふき鬚をそり21種のヨガのポーズをとって体操し、ミルクを飲み、着替えて出かけて毎日街のカフェへ。決まった席でコーヒーを飲んでクロスワードをし、カフェの店主、大きな黒人のジョーと軽口をたたき、帰りには決まった通りを歩いて小さなマーケットによってミルクを買い・・・帰ってまたまたクロスワード(わからないことがあったりすると電話をして「ハイ・マム」なんて言っているから女性が相手のよう。これってちょっと救われる)夜はまたまた街に出かけバーでセロリをさしたブラッディ・マリー(マリアといっている)を飲み、居合わせる常連の話に耳を傾ける、というような繰り返しをカメラは老いながら、50年も同棲しているバーの女主人とその相手、200年も生きるという、ペットのリクガメ・ルーズベルトが逃げてしまったと嘆く友人(これがデヴィッド・リンチ)、そのファイナンシャル・プランを立てようと現れる弁護士、息子の誕生日に招待してくれるマーケットの女主人。その誕生パーティで突然に歌いだし、なかなかの喉を披露するラッキー自身(ラッキーにはハモニカ独創シーンもあって、ハリー・ディーン・スタントンの90歳の多芸というか、みずみずしい芸達者ぶりはさすが)などの印象的なエピソードを挟み込む。ある朝突然倒れたラッキーは精密検査を受けるが加齢以外にどこも悪いところはないと医師に言われる。それでも徐々に近づく終わりはラッキーを恐れさせる。その気持ちを、姿を見せないことを心配してやってきたカフェの店員に思わず吐露して、抱き合ったり・・そんなラッキーの特に衰えるのではないが徐々に近づく老いや死の受容の姿として描く。「一人だが孤独ではない」という名言もあり。そうだよな・・自立しつつ(自分の生き方を貫きつつ)立ち入らずにあっさりと付き合い時に心を通わせ合う友人知人のいる、ある意味理想の生き方なのだが、その中でいかに老いというより死を受容してくのか「The man in the moon shine」けっこう哲学的なセリフも多くて、映画1回鑑賞だとなかなかそれをかみ砕き理解するまではいかないのだが、ムード・雰囲気だけでも彼のそんな気持ちが伝わって、共感できる(ただしそれはこちら年のせいかも)。最初と最後にリクガメ・ルーズベルトの名演あり。映画を引き締めている。
(5月18日川崎市アートセンター・アルテリオ映像館)



⑭蚤とり侍
監督:鶴橋康夫 出演:阿部寛 寺島しのぶ 豊川悦司 前田敦子 風間壮夫 大竹しのぶ 2018 日本

「明日からは猫の蚤取りになって無様に暮らせ!」という殿様の一言(予告編で何回も見てすっかり頭に沁みついてしまった)で「女性を喜ばせる」蚤取り家業になった、亡き妻を恋う真面目で堅物の男というのが事前の知識、でなかなかアクロバティックな(?)春画まがいのシーンもあるのだが(役者ってほんとに大変な仕事・・・けっこうコミカルにまじめに演じなくてはならないし)基本は政治のありようを批判するけっこうまじめな、ちょっと言えばユーモアまぶしではあるけれど案外暗い話。くすぐっているところ(特に豊川・前田コンビはなかなか)はあるものの案外おかしみは少ない。阿部寛演ずる小林広之進が「女性を慰める」その慰めるシーンの相手役も寺島しのぶだけだし。ま、勝手に惹句(トレーラー)に踊らされただけだが。(5月22日 府中TOHOシネマズ)



⑮29歳問題
監督:彭秀慧(キーレン・パン) 出演:周秀娜(クリッシー・チャウ) 鄭欣宜(ジョイス・チェン) 軟硬天師

昨年の大阪国際で見た作品。秋の愛知女性映画祭を経て、今回恵比寿ガーデンシネマでの公開。朝10時20分の回でみたが、そこそこに人も来ていて、こんなものかというところ。女性が圧倒的に多い。前回見落としたり忘れたりはあまりなく、まとまりがいいのですっきりと話しもわかるが、レスリー・チャンの『由零開始』は歌だけでなく、前の方から何回か「ゼロから出発する」と登場人物が言っている。つまりこの映画のテーマともなっている言葉なのだと再認識。となると邦題『20歳問題』はちょっと違うのかも。つまり原題『29+1』=30というのはけっこう重要なんだなと、つまりこれは30歳の映画ということね。そんなふうに考えながら見ていたら、前回じわーとするほど感情が入ったレスリーの詩や『落日のパリ』のエッフェル塔場面がそれ(前回)ほどには心に響かず、これはザンネン。それとエンドロールに出てくる彼女が書いた同名の一人芝居の主演も彼女(監督)自身とは。前に見たときは監督の顔を多分知らなかったので、やむなきこととは言いながら、今回の新発見。出だしの朝起きてから出発までのシーンはなんかすごくリアリティがある。(5月23日 恵比寿ガーデンシネマ) 



⑯ラジオ・コバニ
監督:ラベー・ドスキー 出演:ディロバン・キコ  2016オランダ(クルド語) 69分

2014年~、ISに攻撃され瓦礫化したシリア北部の町コバニでラジオ局を立ち上げた大学生を追うドキュメンタリー。映画は戦闘中から、ようやく解放されるまでの3年間を追うが、まさに戦闘場面(女性兵士たちが戦っている)や、殺されて瓦礫に埋もれたクルド人の遺体(ぐちゃぐちゃバラバラ)が、ブルドーザーで掘り起こされ収容される、そこを子どもが歩いて通り過ぎていくというような酸鼻をきわめる場面も見据えているという感じで、見てつらいが、そこで生まれてくるはずの未来の子どもたちに語りかける若い女性たちのラジオ開局がりりしく、がんばれという思いが湧き上がってくる。彼女は映画の最後に結婚、放送は一緒にやっていた友人が受け継ぐというところで終わる。映画の中では戦争のためにせっかく入ったアレッポ大学での学業を中断しているのだが、その後学業を続け今は志望していた教師になっているとか。励まされる。(5月24日 ポレポレ東中野)



⑰ウインストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男
監督:ジョー・ライト 出演:ゲイリー・オールドマン クリスティン・スコット・トーマス リリー・ジェームス  スティーブン・ディレイン  ベン・メンデルスゾーン 2017英 125分

ゲイリー・オールドマンが主演男優賞をとり、彼の特殊メイクを担当した日本人辻一弘がメイク&ヘアスタイリング賞をとった、というわけで眼だけはオールドマンという化けっぷりはさすが。ヒトラーがフランスを攻め、ダンケルク(なんか最近すごく流行っていない?)でイギリス艦隊が苦戦している状況下の第2次大戦初期、野党の支持を得られる人が他にいないということで連立内閣の首班に担ぎだされたチャーチルの苦難の1ヶ月余りを描く。退陣を迫られた前首相チェンバレンはガンでやる気なく、外相ハリファックスはムソリーニの仲介によるヒトラーとの和睦交渉を主張する。その中で断固フランスを支援しヒトラーと戦うことを主張するチャーチルは非現実的として内閣の中での支持を失っていく・・・・当時の議会や内閣の様子とか、戦火におびえるイギリスの街の雰囲気(暗さ)などはよく出ている(と思う)が、彼がその窮地の中でそれまでハリファックスの「友人」だったジョージ6世の支持を得、彼の助言によって、自分の立場の固める経過などはまあ、いかにも「オハナシ」という感じではある。結果論的に言えばその後5年かかっても連合軍としてヒトラーに勝ったゆえにこの選択は支持されハリファックスは左遷ということになるのだろうが、映画の進行を見ている限りでは、まだヒトラーもムソリーニも評価が定まらなかったこの時期だとハリファックスの和平交渉のほうが現実的かつ、国民に犠牲を強いない選択だったのではないかと思えてしまうのは、私が凡人だから??(5月25日 川崎市アートセンターアルテリオ映像館)



⑱BPM ビート・パー・ミニット
監督:ロハン・カンピョ 出演:オウエル・ベレーズ・ビスカヤード アルノ―・ヴァロス アデル・エステル
2017仏 143分 

90年代初頭、HIV感染者やエイズ患者への差別や不当な扱いに抗議し、製薬会社に新薬の開発や治験を迫る運動をした「ACT UP Paris」の活動や議論をドキュメンタリー風に描き、その中で感染しながら積極的に活動するショーンの生き方と死、非感染者だが運動に参加し彼と恋に落ち、その死を看取る(というか・・ネタバレだがこの描き方は少し疑問も残るな…犯罪じゃないの??)ナタンを中心に彼らを取り巻く若者たちの姿を描く。会議場面での議論の激しさ、ベッドシーンの切実さ、ときに過激な行為とも思われるような(血をまき散らすとか)、デモの明るい激しさなどなどエネルギーに満ち溢れているが、悲しみが裏側に張り付いているのでもあり、少々疲れた。ちょっと長すぎる?カンヌではグランプリ(2位)と国際批評家連盟賞も受賞している。(5月25日  川崎市アートセンターアルテリオ映像館)



⑲友罪
監督:瀬々敬久 出演:生田斗真 瑛太 夏帆 富田靖子 佐藤浩市 2018日本 128分

原作は一つの工場に偶然集まった元少年A、語り手の元編集者の青年、事務の女性、寮で一緒に暮らす山内などの関係が濃密というか求心的に丁寧に描かれていたが、映画では女性や山内などは工場から離し、特に山内に関しては別れた妻やその実家の人々、事故を起こした息子とその作ろうとしている家族まで書き込んで別の物語を描き出している。一つ一つのエピソードについてはあっさり目になっていて、断片的に現れてくるのが少しゆったり目なせいもあって、ちょっとばらけた印象もあり、テンポが遅い感じがつかれもしたが、むしろ一種の群像劇として訴えかけてくる構造。映画観客の共感を得やすいものになっているのかと思う。映画っていうのはなるほどこういうふうに作るのかという感じもした。終わりも場所はまったく違うものの緑の草原の中にたたずむ主人公2人を映し出して視覚的に人を引き付けつつ、観客にそれぞれの未来を予想させるような、ちょっと「明るい」作りになっているところがやはり映画らしい。(5月26日 府中TOHOシネマズ)


⑳大英博物館プレゼンツ 北斎
監督:パトリシア・ウィートレイ ナレーション:アンディ・サーキス 出演:デヴィッド・ホックニー ティム・クラーク 出口雄樹 2017英 87分 

2017年5~8月に大英博物館で開催された北斎展をフィーチャーし、大英博物館・NHKそれにBCCが作ったドキュメンタリー。若い時期から最後の作品までを丁寧に並べ、北斎に没頭する研究者や、アーティストたちがこもごもに語る北斎のすごさと北斎愛のオンパレード。けっこう言うことは皆同じ?なので中盤以後少し眠い。でも、たとえば「赤富士」が本来初版は「ピンク富士」ともいうべきあっさりした色合いで、麓の木々の影や、雲の城辺は直線だが,下辺はぼかしをいれているとかが、NHKの新しい高性能カメラでの撮影によって明らかになったというような辺りは大変に興味深く、グレートウエーブより、赤富士が好きな、私も日本人?なんて思わせられてしまった。(5月27日 川崎市アートセンター・アルテリオ映像館)



㉑ラブレス
監督:アンドレイ・ズビャギンツェフ 出演:マルヤーナ・ズビヴァク アレクセイ・ロズイン 2017露・仏・独・ベルギー(ロシア語) 127分 

それぞれに別の相手と付き合っていて、離婚を決め家も売りに出している夫婦が、子どもをどちらが引き取るかで口論をする。それを物陰で涙しながら聞いている孤独な息子。やがて彼は家を出たまま帰らない。夫婦はいがみ合いながらも息子を探し回る。警察が「家出」としてほとんど取り合ってくれず、市民のボランティア団体が熱心に子ども探しをしてくれるのが、お国柄?かもしれないが物珍しい感じ。最後の方で子どもの遺体を夫婦が見に行く場面があるが、妻はこれは息子ではないと言い、夫も同意してしかし泣き崩れる。この監督らしい描き方で、本当は息子だったのかそうでなかったのかはわからないような描き方。その後も街には息子探しのポスターが張られているがやがて時間はとび、夫はすでに新しいパートナーとの間に幼児がいて、一家は手狭になった住宅の移転を話し合い、妻の方も年上の新しいパートナーと豪邸に住んでいる。最後のシーンで元夫の家のラジオ?からはウクライナ問題の報道、元妻はロシアとロゴの入ったトレーニングウェアで雪の中家のテラスに置かれたトレッドミルの上を走る。(なんか無為な営みを象徴している?)それにしても新しいパートナーとの暮らしで上昇してしまうとか、息子の遺体ではないとはっきり主張するとか、また夫に子どもは母が育てたほうがいいと言われてはっきり拒否をするとか、また、妻の母親と夫婦との間にある確執の描き方とか、夫の気弱な無責任さに比べてはっきりした行動をとる妻に対して夫も、この映画の社会も、そして映画の作者自身もなんか男(夫)に対するのより厳しい目をもっているような気がしたのは私だけだろうか・・・・・。見て心地よくないが、こんなものかも人生は、と思わせられる凄みがあった。(5月27日 川崎市アートセンター・アルテリオ映像館)


㉒君への距離、1万キロ
監督:キム・グエン 出演:ジョー・コール リナ・エル=アラビ フェイサル・ジグラット 2017カナダ(英語・アラビア語)91分 

あまり期待していなかったのだけれど、設定が面白かった。こんなことあるの?という感じだが。アメリカ・デトロイトから北アフリカの石油パイプラインを監視するロボット(6本足で地面を這って歩く。監視カメラと、音声装置=翻訳機能付き)を操作する夜勤オペレーターのゴードン(失恋したばかり)が砂漠で泣く若い女性・ジャーニンを発見。監視カメラを通して彼女が親に意に沿わぬ結婚を強いられ、恋人と国外に逃げ出そうとしているとわかる。ところが旅費を稼ごうとした恋人はパイプラインから石油を盗もうとして引火、焼死。悲嘆にくれる彼女を助けようとゴードンは決意する。ということでよたよた歩く6本足ロボットを通してのハラハラするような展開後、まあハッピーエンドということで、まあまあ。ゴードンがなんか血の気の薄そうな、イケメンでもないし今一存在感のないような若者であるのがよかったかな。こんな監視装置本当にあるのかしらん。いかにもテクノロジー現代(そのわりにロボットもチープと言えばチープだがそこがかえっていいのかも。人間らしくて?)、という映画。いっぽうで親が決めた結婚を娘の幸せとして強いるというアラブ世界が並べて語られるのもうまいというか、オソロシクもあるが。(5月27日 川崎市アートセンター・アルテリオ映像館)


㉓妻よ薔薇のように。家族はつらいよⅢ
監督:山田洋次 出演:橋爪功 吉行和子 西村まさ彦 夏川結衣 中島朋子 林家正蔵 妻夫木聡 蒼井優 2018年日本123分

1年ごとに連作が出てくる86歳の山田監督のエネルギー、だが、さすがに貫く思想は古いというか、見ていてイライラ…平田家で妻史枝が家事の合間に疲れて2階でウトウト、その間に泥棒入られ冷蔵庫に隠してあったへそくり40万円ほどが盗まれる。香港出張から(あとでわかるが題名がらみの薔薇の花模様のスカーフ)土産を買って上機嫌で戻った夫の幸之助に「自分が稼いだ金をピンハネしてへそくりし、居眠りをしていて盗まれた」となじられた史枝はキレて家出する・・・あとは例によって家事の騒動とか家族会議とかで話が進み、その中で繰り返し「妻の家事労働」の重要さ、価値が語られ、最後は夫がそれを認めて妻を迎えに行き大団円となるが・・・史枝の専業主婦としての労働意義を盛んに述べるのが共働き主婦としての弟嫁の憲子や、むしろ家計を支えて働く専門職の妹だったりというのが、どうなんだ・・・そして男たちは末の弟庄太をのぞいてはそういう問題に気づきもせず(庄太はまた、調子よく姉嫁の家事労働を称揚する)主婦がいなくなった家庭で家事に追われ、彼女の価値に気づく(とはいえ、家政婦と称して行きつけの居酒屋の女将がちゃんと手伝いに来るのも、どうなんだ?)という‥まあ、50年ぐらい前に見たら「新しい」映画だったかも。もう一つ気になるのは、実家に事があるたびに呼ばれたり自ら来たりしてやってくる妹夫婦。「仕事を休んできたのよ」という文句は出てくるが、実家で夕食に特上鰻までごちそうになり夜9時とかまでいる。でも映画の前の方でこの夫婦には中学生ぐらいの娘がいることが示され、こうして両親が他家の妻が家出した問題でそこに入り浸っている間、あの娘は一体どうなっているんだろうと見ながらそちらのほうが大問題ではないかと悩ましくなってしまい、もう全然楽しめない。ことばも特に若い憲子や庄太のことばが、なんか教科書の書きことばのような台詞で、折り目は正しいんだが、嘘っぽくてキモチが悪い。ま、ある種夢のような≒90老人の「理想の家族」を描いたんだから仕方がないか・・と思いつつ。(5月29日府中TOHOシネマズ)

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