【勝手気ままに映画日記+山ある記】2024年9月
![]() |
結局登れなかった塩見岳(鳥倉駐車場から 9・7) |
【9月の山ある記】
9月7日~8日 長野県大鹿村鳥倉登山口……三伏峠・三伏小屋2615m (往復)
ヤマカラのツアーで新宿から渋滞の中央道経由バスで鳥倉ゲートまで。そこから歩きだしたのがすでに午後!猛暑の中、長時間のバスですでにかなり疲れていたせいもあり体調がイマイチで、2439m付近で猛烈な山酔い症状を発症、やっとの思いで三伏小屋へ(三伏峠は日本で一番高い「峠」だそう。ほんとかな…)。登りは4時間20分もかかってしまった。
夕飯は出された蕎麦以外はほとんど喉を通らず、眠りにもつけず…私としては珍しく、翌日の塩見往復はやめた方がいいかななどと思い出したところ、夜半、なんと母危篤の知らせ。
ある意味ではそれをいいことに翌朝早々にツアー離脱、往路を下山してタクシー電車を乗り継いで東京に戻る。思えばあの調子の悪さ、「虫の知らせ」だったのかも…。
下山を決めたとたんに食事は喉を通り、下り始めると体調の悪さはどこへやら、気をつけてゆっくりゆっくりと念じながら下りたのにも関わらず、3時間と言われた下り道を3時間10分(間で結構休んで時間調整もした)で、下りられたので、「山」的にはまあ、満足のうちで、高山病対策をしたうえで来シーズンは再チャレンジできたらいいなと思っているところ。
↓豪華な三伏小屋のご飯だったが食べたのは右下の蕎麦と、パイナップルだけ/唯一撮ったのはゴゼンタチバナ
8日下山、9日から母が入院中の病院に通って3日、妹が交替してくれた12日に母は亡くなりました。あと1ヵ月で誕生日の96歳、あと2ヵ月で入院10年になる闘病生活でした。10年前脳出血で倒れ、意識がなくもちろん話もできないような10年でしたから、よく頑張ってくれたという思いこそあれ、意外に喪失感も少なく、無事に葬儀も終わって母を見送れたことにほっとしています。いろいろお気にかけてくださった皆様に厚くお礼を申し上げます。
さて、そんなこんなで山歩きもほとんどせず9月は過ぎて行っていますが、22日から30日までギリシャ・オリンポス山に登る予定です。母の危篤中はキャンセルも覚悟したのですが、娘孝行?の母のおかげでで、なんとかキャンセルせずに間に合いました。
詳細については、次号(多分皆さまご期待の?特別号?)でご報告します。
【9月の映画日記】
①ソウルの春 ➁慶州ヒョンとユニ ③違国日記 ④エターナル・メモリー ⑤助産師たちの夜が明ける ⑥香港、裏切られた約束(因為愛所以革命)⑦熱烈⑧幸せのイタリアーノ ⑨顔さんの仕事 ⑩ナミビアの砂漠 ⑪リリー・マルレーン ⑫夜の外側 イタリアを震撼させた55日間 前編 ⑬スオミの話をしよう ⑭夜の外側 イタリアを震撼させた55日間 後編 ⑮ラストマイル ⑯愛は乱暴 ⑰希望の樹 ⑱懺悔 ⑲祈り
中国語圏映画⑥⑦⑨ 日本映画③⑨⑩⑬⑮⑯ と日本映画が多めでした。⑨は台湾を舞台とした日本映画のドキュメンタリーです。★はナルホド! ★★はいいネ! ★★★はおススメ! のあくまでも個人的感想です。各映画末尾の数字は今年になって映画館で見た作品の通し番号。それではお楽しみください。
少し早いのですが、このあと月末までギリシャに行く予定で、映画は多分見ません(飛行機内の鑑賞くらい?)ですので、まだ上映している作品もある今のうちにアップしますね。
①ソウルの春
監督:キム・ソンス 出演:ファン・ジョンミン チョン・ウソン パク・ヘジュン 2023韓国 148分 ★★
1979年10月朴正煕大統領暗殺後に「ソウルの春」と呼ばれるた民主化の時期が来るが、戒厳令参謀総長の任命で合同捜査本部長になった国家保安部長のチョン・ドグァン(モデルはもちろん全斗煥)は権力を手中にすることをもくろみ盟友にして部下のノテゴン(こちらは盧泰愚・実物の盧泰愚によく似たパク・ヘジュンが演じている)らハナ会のメンバーとともに、参謀総長を拉致監禁して、反逆分子とされた人々の取り調べへの裁可を大統領に求めて、軍事クーデターを起こす。これに対して立ち向かうのは誘拐前の参謀総長に懇願されて首都警備司令官となったイ・テシン少将。こちらにも実在のモデルがいて張泰玩というその人は、全斗 煥政権により2年間投獄されるが後に復権、国会議員などもしたというが、大学生の息子は不審死、妻は投身自殺ということで、家族は悲劇的末路をたどったらしい。で、前半はクーデターを実行するまでのチョン・ドグァンらの立ちまわり、後半は首都攻防戦を防ごうとするイ・テシンの活躍やそれにもかかわらず結局首都に軍隊が入りイ・テシンが降伏するまでの、派手なドンパチの軍事シーンの戦争映画もどきなのだが「正義」よりも「悪]が勝ったというスタンスの描き方なので、映画としてはカタルシスはまったくなくて、後味もあまりよくないが、ここに現代韓国からみた当時の全斗煥とそれを引き継いだ盧泰愚政権への批判があるんだろうなあと思われる。ファンジョンミンは、見かけはファンジョンミンとはわからないような特殊メイクで禿頭の全斗煥を思わせるよな容貌を作り、行動も(本当の全斗煥あんなだっただろうかと思わせるような)軽薄で感情的、怒鳴り散らして人を従わせようとするような薄っぺらい人物として描いており、そこに映画の批判的姿勢を感じるとともに、そういう人物をあえて演じる役者の、なんというかどんなに浮薄なイヤなやつを演じても、それを観客は演技だと見てくれるというような自信を感じさせる。それに比べるとチョン・ウソンの方は正攻法だが、久しぶりにみてウーン何とも彼もしっかりオジサンになったなあ、というのも正直なところ(51歳だそうだ!)。
韓国では若者を中心に大ヒットしたそうだが、かの暗殺事件後戒厳令・クーデターというような時代を知らない人たちが、「学ぶ」ために押し寄せたのだという意見もどこかで見た。なるほど、なら、大成功ということかね…。やるなあ!韓国映画、と今回もまた思わされる。(9月1日 キノシネマ立川 188)
➁慶州ヒョンとユニ
監督:チャン・リュル(張律) 出演:パク・ヘイル シン・ミナ 2014韓国 145分
チャン・リュルは興味を持って見ている作家の一人で、2023年1月前年末からはじまった『柳川』⑥は見たが、『福岡』『群山』そしてこの『慶州(キョンジュ)』は見落としていて気になっていたところ、初めていく「下北沢駅前シネマK2」(2022年開館、駅からはチョウ近い、学生料金は細かく分かれているのだが、シニア料金の設定はない…これも一つの見識かとも思われるが…ウーン)で「アジアシネマ的感性」とかいう特集の1本としてあるのを見つけ、行ってみる。
この『慶州』、北京大学教授の韓国人ヒョンが、友人との思い出のゆかりの慶州を尋ね1日さまよい、7年前の旅で深い印象を残した茶店を尋ね、そこの女主人ユニ(シン・ミナで、ヒョンに何枚も同じ服を持っているのかなどと言われるような、白シャツとベージュのコットンパンツの立ち姿がなんとも格好いい)と出会い、その友人たちの飲み会に誘われ、夜の慶州の古墳に登り(この景色何とも美しくしかも特異な感じ。行ってみたくなる)彼女の家に行って泊り、明日の朝まで…という…。
彼は尊敬される北東アジア政治の権威という設定なのだが、まあ、そうは見えないのはいいとしても(ヘタレ役だからね)、劇中でももしそれがなければ変態とまで言われ、流されてフラフラしているのがどうしようもない男だし、その彼が過去の秘密に立ち向かうでもなく向き合い(7年前にみた春画をもう一度みたいという執念?だけはすごいが)対する女たちの秘密に行ってみれば呆然とするっていうのは、ウーン結構疲れる。ホン・サンス①の映画を見ているみたいだが、いかんせん145分延々は長い。慶州の景色は美しく、楽しめるのだが…。そしてふかふかの椅子で見心地は悪くないが冷房効き過ぎの映画館にもいささか疲れた夜だった。(9月2日 シモキタエキマエシネマK2 189)
③違国日記
監督:瀬田なつき 出演:新垣結衣 早瀬憩 夏帆 銀粉蝶 瀬戸康文 染谷将太
2024日本 139分
これも長らく我が家近くの映画館でも上映していたヒット作品だが、どうも観ず嫌い?というわけでもないのだが、マンガ(ヤマシタトモコ)原作ということもあって?足が向かなかったが、下高井戸で上映?なら見にいかずばならない(すごい偏見だけど)と出かける。
長期上映作品だったにもかかわらず昼間・雨の映画館に結構人が入っているのは??私みたいな人が多い?あるいは何回目か?と期待して見たのだが…。カット割りとかセリフとかが多分マンガのママと思われるところが(原作は読んでないが、っぽい感じがする)あって、なんか静的冗長に感じられるのは、これも139分の長さで事件よりも心理の綾を描こうとする作風だから?高校生とか若い時に見たら感動したかもしれないなあとも思いつつ、イマイチ世界に入っていけないのはこちらの老化のせいばかりとも思えず。新垣結衣とか夏帆とか、それに高校生役の少女たちはなかなかの魅力個性を発揮しているが、男性陣はやさし気で女に寄り添うようには描かれているのだが、なんか見かけがイケメン過ぎるというか、役者たち自身の個性にしか感じられないのは役者も気の毒?姉と妹の確執とか、妹の発達障害気味の個性(部屋の散らかりとか対人関係の苦手さ)というのもわりと書き方が浅い感じで、まあ高校生が悩むのにちょうどいい具合という感じもしないではない。(9月3日 下高井戸シネマ 190)
④エターナル・メモリー
監督:マイテ・アルベルディ 出演:パウリナ・ウルティア アウグスト・ゴンゴラ
2023チリ 85分 ★
チリの著名なジャーナリスト、アウグスト・ゴンゴラと女優で文化大臣もつとめた妻のパウリナは90年代の末期に出会い20数年を共に暮らしてきた夫婦。二人で作った家で暮らしてきたが、夫は老いアルツハイマーを発症する。この夫婦の過去現役時代―それはおおぜいが政府によって拉致・行方不明になったままという政変の時代でもある―の映像をまじえつつ、また90年代元気な二人がともに暮らし始めたころにもさかのぼりながら、夫の認知症の姿とそれに向き合い支え合っていく妻の生活を丹念に追っていく。二人とも著名人でカメラの前で長く仕事をしてきた人々だからだろうか、生活の実像と言ってもあたかも演技としてカメラの前にいるのではないかと思えるほど(いや、多分実際にそうなんだろうと思う)。こういう人たちだから過去の壮年期の映像もたくさんあるし、なんか被写体として手慣れているという感じもするのだが、不安をそれぞれが持ちつつもあんな風に穏やかな老後を送るためにはどうすればいいんだ?とわが身を振り返らされもする。なにしろ2023年に亡くなった夫アウグストは1952年生まれ!え?まだ70代の初頭じゃん、なのだから…(9月4日 川崎市アートセンター・アルテリオ映像館 191)
⑤助産師たちの夜が明ける
監督:レア・フェネール 出演:エロイーズ・ジャンジョー ガディジャ・クヤテ ミリエム・アケディウ 2023フランス 100分
人手不足が叫ばれ、助産師たちが忙しく駆け回る産院に研修を終えて配属された助産師ルイーズとソフィア。二人は同じアパートをシェアして暮らす研修所時代からの友人どうしだ。ルイーズは化粧を注意され、研修担当の先輩にできることはないかと聞いて「邪魔にならないように」と言われるような出だしでおどおどしている。ソフィアのほうはやる気十分で産前教室の担当を言い渡されたのが不満で分娩室での勤務を希望する。この二人を軸に様々な分娩が行われる分娩室のようすがドキュメンタリーのように描かれる(産婦がどうかはわからないけれど生まれてくる赤ちゃんたちは明らかにホンモノ?だろう)。ソフィアはいくつもの分娩を同時進行するような成果を上げていくが、勇み足?もあって赤ん坊が命の危険にさらされるような事例にも遭遇し精神的に追い詰められていく。一方で出だしは不安げだったルイーズの方は着実に分娩介助も上達し、一人前の助産師として頼られるようになっていく。ソフィアが誘い二人の部屋に住み着くのが、研修中の男性助産師の卵(気はいいがちょっとというかかなり軽薄。なかなか出産の場に立ち会わせてもらえない)バレンティノで、彼は病院内にいた分娩後行き場がなく院内にいた移民の母子を見つけ、自宅(つまりルイーズとソフィアが住む)に連れ帰ってしまう。頼られ見捨てられないソフィア、一方のルイーズは責任をとれないとして拒否する。というようなさざまな事例をとおして二人がそれぞれに成長していくまでを映画は描くが、いかにもフランス映画だなあと思われるのは、最初の方で人手不足に関する職場討議でストライキの提案と否決があるが、最後はそのストを否定したベテラン助産師がべネが病院をやめ、病院を超えた助産師たちが待遇改善を求めてデモに立ち上がるところ。いかにもフランス人らしい行動で、社会意識に満ちた映画であると思われる。(9月4日 川崎市アートセンター・アルテリオ映像館 192)
⑥香港、裏切られた約束(因為愛所以革命)
監督:トゥインクル・ンアン(顔志昇) 2022香港 116分 ★★
8月末試写会に行くはずだったが吉祥寺の夜8時近くの開始(我が家から吉祥寺は意外に遠い)にあきらめて公開に。6時開始だが満席。F1というのが予備席というか売らない席なので、その隣のF2を買ったら、F1にきたのが本日トークショウ―出演のジャーナリスト中村航氏であった…というのはどうでもまあいいのだが、この映画、若い監督がパティシエをしながら機材を買い、2019年の香港での天安門事件追悼の集会から撮影をはじめ、6人の一般市民のインタヴューとともに民主化運動、特に若い勇武派と言われた人々の命がけの戦いを傍に寄り添うカメラで記録している。勇武派(武装過激派)の活動については香港市民の中でも賛否があり、監督自身も最初は同調する気はなかったと言っていたが、行動の中で催涙弾を浴びた時に助けられたりしたそういう彼らの活動や立場から共感を持ったとのことだった。彼らは香港理工大の立てこもりの中で多くが検挙されて収監されたり、今や海外に亡命してしまった者もおり、監督自身もこの映画を作ったことで香港にはいられなくなり、今は英国に亡命、今回の映画公開は難民としての来日だそうで、連日映画後のトークに出ている。で、今日は中村氏との対談というわけである。
香港の状況についてはすでに『時代革命』(2019キウイ・チョウ)F㉑、『理大囲城』(2020香港ドキュメンタリー映画工作者)⑨などで見たものと基本的には同じだけれど、この映画はまさに当事者に近い若者が無名の一般市民に寄り添い、誰かのための、または香港のための愛のために撮ったとする気負いもあるが、その客観性のなさというか主観的なところが若さと魅力を感じさせ、人々に訴える作品に仕上がっていると思った。ちなみに監督はキウイ・チョウの「教え子」とか。もう一つ、この映画もちろん香港では上映できず、外国向けにつくっているということか、画面中の説明のテロップなどを含め日本語・英語併記されている。なんにせよ、香港の置かれた絶望的?状況にまたもや思いをはせる。
(9月5日 アップリンク吉祥寺 193)
左から中村航氏・顔志昇監督(右(下)両端は通訳と、日本在住の民主活動家李氏)
⑦熱烈
監督:大鵬 出演:黄渤 王一博 小沈陽 劉敏涛 2023中国124分 ★
なかなかに待ちに待った?王一博主演のブレイキンダンサーを描く見せ場たっぷり映画。黄渤が元ダンサーで、「感嘆符」というチームを率いる教練(コーチ)、そこの花形ダンサーにしてスポンサーの社長の息子ケビンはワガママで練習にも出てこないーが試合ではなかなかにワイルドにそれこそ花形ぶりを見せる、というわけで練習用の代役に雇われた陳燦(王一博)の努力と、頑張りと、チームメイトとの友情やコーチとの関係、また、ダンサーだった父の死後その経営していた食堂を引き継ぎ、フランス留学したものの親を失い心を病み今は蝋人形作りに打ち込んでいる叔父の面倒を見ながら頑張る美しい母を支えという好青年ぶりをたっぷりとみせる。試合には出られない、しかし経済的な苦境に陥ったチームを支えるアトラクション(ゴミ箱ダンス)にはでることになり、それがSNS炎上で、またまたチームとを追い出されそうになったり、外国からダンサーを集めたケビンにチームを乗っ取られそうになったりしてすったもんだしながら最後はすばらしい「感嘆符」のトップとして全国制覇もしていくという、なんか予定調和的ではあるが、安心して王一博のイケメンぶり(『無名』④⑨とはまた違った素朴さもあるかわいい青年)とダンスぶり、おまけに黄渤のダンスの才まで見ることができて、なんとも楽しめる120分あまり!(9月9日府中TOHOシネマズ 194)
⑧幸せのイタリアーノ
監督:リッカルド・ミラー二 出演:ピエールフランチェスコ・ファヴィーノ ミリアム・レオーネ ピエトロ・セルモンティ ヴァネッサ・スカレ―ラ ピラール・フォリアティ アンドレア・ペンナッキ カルロ・デ・ルッシェーリ ジュリオ・ヴァ―ゼ ピエラ・デッリ・エスポスティ 2022イタリア 113分
スポーツシューズメーカーの社長(スポーツシューズはアスリートのためのもので足に障がいのあるものは靴を履かないから商売のターゲットではないと明言し、バリアフリーの宣伝を提案する若い契約社員をクビにするような)49歳だが若さを誇示?ジョギングに励み、女性はとっかえひっかえ名乗る名前を変えてのベッドシーンのオンパレードという、この困った男ジャンニを、まあいやなヤツなんだけれど、それほど憎めないような戯画として描くというのが出だし。
母が亡くなり残された車椅子に何げなく座って観たところからはじまる、彼を障がい者と思う女性たちとの関係、介護の仕事をするアレクシアと偶然知り合い気をひこうとするのだが、彼女に車椅子の姉キアラを紹介される。キアラはバイオリニストで、車いすテニスのプレーヤーでもある超美人、でジャンニは心惹かれる。車椅子に乗ったまま自身を障がい者と偽って付き合い始めるが…その部分の展開というか顛末もだが、ジャンニがキアラを招く自宅のトンでもないプール型居室(金持ち丸出し、こんなのさすがに初めて見た)、や困った社長を困りつつ面倒を見る秘書ルチアーナ(この人のカラオケ熱唱シーンが抜群におもしろい)、それに最後のウソがばれる展開がルルドへの巡礼のツアー旅行である(さすがにキリスト教の国だわ)など、なかなか興味惹かれる面白い場面が満載で、さすがにうまい!イタリア映画、と思ったが、実はこれ『パリ、嘘つきな恋』(2018フランク・デュポスク監督・主演)のリメイク。日本でも19年5月に公開されたらしいが、残念ながら私は未見。(9月11日 川崎市アートセンター・アルテリオ映像館 195)
⑨顔さんの仕事
監督:今関あきよし 出演:顔振発 三留まゆみ 柏豪 2024日本64分
台南の映画館「全美劇院」専属の看板絵描き顔振発を、イラストライターと称する三留まゆみと台湾の役者柏豪(通訳も兼ねて)訪ねた4日間を描く。なんといっても興味深いのは、その間に『スパイダーマン』の看板を上塗りして描かれていく『スラムダンク』の看板の製作過程の職人技が目の前で展開していくところだが、下営の実家、一村みな顔姓という村を一行が訪ね、この顔村が、孔子の弟子顔回の子孫たちの村だというくだり。中国ではよくある話だけれど、なんとまあ、顔回とは。このあたりは家族ミステリー?としても楽しめるかも。知人杉山亮一さんが制作にかかわり、当日のロビー、今関氏、杉山氏らの姿も見えて(タイトな時間の中で見ているのでご挨拶はせず)大賑わい。(9月12日新宿K’sシネマ196)
⑩ナミビアの砂漠
監督:山中瑤子 出演:河合優実 金子大地 寛一郎 新谷ゆづみ 唐田えりか 堀部圭亮 渡辺真起子 2024日本 137分 ★
チラシによれば「日本映画で決して見たことのない女性像(Liberation)だそうだけど、確かに。それでいてそこらへんにいそうな存在感も感じさせるところに、この映画も河合優実の「ただものではない」感も漂う。
言ってみれば二股かけて、どこまでも優しくて、先に自分が謝るような、家事も面倒も見てくれる―でもすごくつまらない男(寛一郎が好演)からちょっとは骨はありそうだが芽の出ない?クリエーター気取りの男(こちらは金子大地)との丁々発止バトル的生活に乗り換え、美容脱毛サロンの仕事を淡々とつまらなそうにして(途中でやめてしまうが)、男とケンカして家を飛び出し階段を転げ落ちて(エンドロールによればさすがにここはスタントが演じているみたい)けがをしたり、診療内科に通ったり、隣人の女性と生き方論?をしたり、そっぽ向きつつなかなか真摯だったり、情けなかったりという女性像は確かにあまり映画で見たことがないかも。
しかしな…かったるいなあ、いずれ137分は長いんじゃない?ドラマらしいところはあまりないが、むしろ一場面一場面河合はじめ出演者の微妙な表情とか態度とか、その変化の過程などを見るべきかも。 (9月12日 新宿シネマカリテ197)
⑪リリー・マルレーン 4Kデジタル・リマスター版
監督:ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー 出演:ハンナ・シグラ ジャンカルロ・ジャン二 メル・ファーラー ウド・キア 1980西ドイツ 120分 ★★
去年あたりからファスビンダー監督の映画は何本か(何本も)上映されるようになり、面白く見てきたが、今年の文化村での特集の1本、きわめてタイトなスケジュールの中で見逃すといつみられるかわからない…というわけで土曜朝、ちょっと無理してガンバル。
ドイツ「純粋アーリア系」人の歌手ビリー(実在)は、ユダヤ系名門の音楽家ロバート(ドイツからのユダヤ人の救出にかかわっている)と恋仲だが、ロバートの親の画策もあり、ロバートとともにドイツからスイスに出国しようとするが国境で阻まれ、恋人とは離れ離れとなってしまう。その後「リリー・マルレーン」を歌い、これが戦場の兵士たちを慰め、鼓舞したのは有名なエピソードだが、ナチスではゲッペルスに嫌われ胡散臭げに扱われるものの、ヒトラーの好みには合い重用されるスターへの道を歩く。しかし、彼女はナチスに与する気持ちは毛頭なくて、常に離れ離れのロバートを思い、実はひそかにスパイまがいの活動もあって彼を助け、しかし国内で再会するもドイツで検挙中のロバートの身のために知らん顔をするなどというハラハラドキドキの悲しいシーンもあったり。当局ににらまれたビリーのピアニストが戦場に送られてしまったりするが、彼女自身はなんとか戦中を泳ぎきり、戦後になって指揮者として成功しているロバートを尋ねていくが…と、悲劇的な最後までいかにもファスビンダーらしい美しく凝った場面構成、ぽっちゃりイメージだが骨のある美しいハンナ・シグラ、目くるめく絢爛ささえ感じさせる、そして間に戦場の激しい戦闘場面などが挟まっていく、若々しいのだが完成されて豪華なこの映画を大いに楽しむ。
ファスビンダーは37歳までしか生きなかったのだけれど生涯に作った映画は40本以上というのに驚く。(9月14日 渋谷文化村ル・シネマ宮下町198)
⑬スオミの話をしよう
監督・脚本:三谷幸喜 出演:長澤まさみ 西島秀俊 遠藤憲一 松坂桃李 瀬戸康文 小林隆 坂東弥十郎 戸塚純貴 宮澤エマ 2014日本 119分
詩人寒川の妻スオミの失踪に私的に駆けつける元夫(二人目)の刑事とそのバディ、次々現れる最初の夫(スオミの中学時代の恩師)、三番目(スオミを中国人だと思っていた)、四番目(YouTuber、セスナ機を所有!)らによって次々に相手によって違うスオミの姿が明らかになるわけだが、その内容も展開も三谷劇としてはそれほど意表をつくわけでなく、長澤まさみの演技もビックリするほどものでもなく、まあ類型的?な感じもするし、それよりは彼女の中学時代からの親友でそれぞれの相手によって全く違ったキャラクターを見せる宮澤エマの方が面白かった(長澤は一人のスオミの違った側面を見せなくてはならないが、宮澤は最後に種明かしされるまでは別人演技でもいいわけだからちょっと楽?かもしれないが)。宮澤のほかにも瀬戸康文や戸塚純貴などはさすが旬の役者という感じで、いい雰囲気を出している。西島はじめ夫たちの役者はウーン…まあ予想通りの域をでないというところか。それに「スオミ」という名と、最後に「ヘルシンキ」を連呼する歌とダンスでこの映画のフィンランド愛もわかるのだが、私の理解不足なのだろうか?その意味がさっぱりわからない。(9月15日府中TOHOシネマズ199)
⑫夜の外側 イタリアを震撼させた55日間 前編/⑭夜の外側 後編
監督:マルコ・ベロッキオ 出演:ファブリッツオ・ジオーニ マルゲリータ・ブイ トニ・セルビッツロ ファウスト・ルッソ・アレシ ダニエーラ・マッラ
2022イタリア(イタリア語・英語)340分(170分・170分) ★★
1978年イタリアでキリスト教民主党党首アルド・モーロが誘拐・殺害された事件の顛末55日間を、1誘拐さるまでのモーロと誘拐事件 2内務大臣コッシーガ(モーロを父と慕い誘拐捜査の陣頭指揮をする)の苦悩 3ローマ教皇パウロ六世(モーロと親しい)身代金でモーロを救おうして失敗する 4誘拐犯「赤い旅団」の一員として狂熱から苦悩へと移行していく女性5モーロの妻(首相アンドレオッティがモーロを見捨てたと怒る)6事件の終結(モーロ救出と、殺害の二つの場面で描き、最後はドキュメンタリーアーカイブでまとめている)の6部構成で人もいっぱい出てくるし、関係もなかなかわかりにくいところも(今の私たち日本人にとっては…)あるが、なるほどなあさすがというまとめ方で見どころのある作品になっている。一部一部が違った視点から同じことを見ているのが結構面白く長さもあまり苦にはならないが、それにしても長いには長い。夜中の11時近くまで340分続けてみる(料金としては2本分)気にはとてもなれず、前後別の日にわけてみた。(9月14日・16日 川崎市アートセンター・アルテリオ映像館 200・201)
⑮ラストマイル
監督:塚原あゆ子 脚本:野木亜紀子 出演:満島ひかり 岡田将生 ディーン・フジオカ
大倉孝二 酒向芳 宇野祥平 日野正平 阿部サダヲ 安藤玉恵 石原さとみ 井浦新 市川実日子 竜星涼 星野源 綾野剛 橋本じゅん 前田旺志郎 麻生久美子 2024日本(日本語・英語) 128分 ★
テレビドラマ『アンナチュラル』『MIU404』の監督と脚本家があらためてタグを組み、両ドラマの出演者も同じ役で集めて、つまりはその二つの世界で起こった事件を描く、というわけで今回の舞台は巨大な物流センター(アマゾンか…)から配送された品物が次々と爆発する無差別?殺人。そこに新しくこのセンターに赴任したセンター長の船戸エレナと2年前からの最古参マネージャー梨本孔がまあ挑むというわけで、5年前の転落事件以来意識不明で入院中の青年、離婚したばかりのシングルマザーと二人の娘なども伏線として絡みつつ、配送センターや、宅急便に運転手、また物流の日本センター、アメリカ本部の人々なども絡みつつ、事件が暴かれ解決され、一時滞った物流も回復というまあ、一応ハッピーエンドまで走るわけだが、その過程で大きな宅急便センターの厳しい労務管理から、働く人が精神的に追い詰められていくような構造などが明らかにされていくという意味ではなかなか骨太な社会派作品だし、その中で犯人は自ら爆死し、主役のセンター長は解決した後この職場を去っていくというようなかなりペシミスティクな作品でもある。『アンナチュラル』や『MIU404』のメンバー出演はまあ、サービスだし、主題歌がこれらと同じ米津玄師であるのも、…。(9月17日 府中TOHOシネマズ202)
⑯愛に乱暴
監督:森ガキ侑大 出演:江口のりこ 小泉孝太郎 風吹じゅん 馬場ふみか 2024日本 105分
吉田修一原作ということでちょっと気になっていた1本。ウーン。夫の実家の敷地内の離れ(といってもなかなか立派な戸建て住宅)住む桃子、話しかけてもあまり反応がよくない夫、関係が悪いわけではないが、付き合うには少しイラつく姑、子どもはいなくて週2回の手作り石鹸教室の講師としてこづかいを稼ぐという経済的にも環境的にもまあまあ恵まれた主婦・桃子の増幅していく日常の不安から話は始まる。彼女がいつも掃除しているごみ置き場のボヤ騒ぎ、飼い猫?ピーちゃんの不在、そして彼女がよく見ているSNSは不倫中の女性の日常報告で、これはどうも夫の不倫の相手らしい…というわけで、夫から愛人に子どもができた、別れたいと打ち明けられた時から、話が転がり出していくわけだが…。ウーン、小説で読んだら面白いのかもしれないが、桃子が心に鬱屈をかかえつついかにもオシャレな丁寧な、また周りに対して気遣いのある暮らしをしている様子を江口が丁寧に演じれば演じるほど、だってあんた自分で選んだ専業主婦の暮らしでしょうという冷たい?感慨が沸き上がってきてしまう。じつは自分で選んだ専業主婦暮らしという以上にショッキングな選択があって、桃子自身がかつて結婚していた夫の離婚によって今の暮らしを手に入れたとか、彼女が探す愛猫ピーちゃんが実は…とかはあるのだが、映画的画像としての面白さになっていない(桃子のセリフと、観客にはイマイチ意味がわからない行動からしか示されない)ところが、ミステリー的興味をかきたてようとする方策なのかもしれないが、イマイチ伝わってこない気がする。(9月20日 新宿ピカデリー203)
⑰「祈り」三部作
監督:テンギス・アブラゼ ★★★
今年も行われている「ジョージア映画祭2024」9月は猛烈に忙しくてなかなか渋谷までは出向けず、ようやく取れた1日、「祈り」三部作だけなんとか再鑑賞。いずれも2018年12月に下高井戸シネマでの上映を見ているが、『懺悔』はわりと細部までよく覚えていたのだが、『希望の樹』は色合いの鮮烈さと少女がラバに後ろ向けに括り付けられてさらし者にされる悲惨さとか、『祈り』もなんかイメージのみで強烈なのに話の細部が思い出せないというお粗末さ!それでももう一度見たいという吸引力だけはすごいアブラゼ映画だなあ、というわけで1本1本の紹介は、【勝手気ままに映画日記】2018年12月版にて失礼します(ゴメンナサイ!)。各題名の次の番号はこの版で各作品につけた番号です。
希望の樹⑧
監督:テンギス・アブラゼ 1976ジョージア 107分
懺悔⑪
監督:テンギス・アブラゼ 1987ジョージア 153分
祈り⑨
監督:テンギス・アブラゼ 1967ジョージア 78分
(9月20日 渋谷ユーロスペース 204・205・206)
ギリシャに行くというので、あわてて「仕事」片付け。このブログもとりあえずアップします。帰国は9月30日。今月は多分もう映画も見ないだろうし…帰ってきたらまた、改訂するつもりです。では、行ってきます!
コメント
コメントを投稿