【勝手気ままに映画日記+山ある記】2025年3月
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浅間山外輪山 槍ヶ鞘からのぞむ右 浅間山と左はトーミの頭に登っていく急坂 3・10 |
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浅間山頂上付近には噴煙も… |
【3月の山ある記】
3月10日 黒斑山(浅間山外輪山)
車坂峠(11:00)➡車坂山(2055m)➡槍ヶ鞘(2294m)➡トーミの頭(2320m)➡黒斑山(2404m)➡(ほぼ往復の周遊ルート)➡車坂峠ホテル前P(15:00)
4h11m(休1h24m)5.1㎞ ↗492m↘491m 難易度10(やさしい) 90-110%(標準)(データ=ヤマップ)
Yツアー(参加者12名うちm2名 ガイドは昨秋大山でお世話になったKWさん、添乗員は同じく塔ノ岳縦走のTBさん)
今まで6本ツメの軽アイゼンで歩いていた(それで行けるレベルの山にしか行かない)が、昨シーズンあたりから6本ツメでの急坂下りなどが少ししんどく滑りやすくなったのを感じる(筋力の低下かも)ので、今シーズン大奮発で12本ツメを購入した。しかし1、2月はあまりの雪量に出番なし。ようやく車坂から黒斑山への雪中トレッキングの機会を得て、ツアー参加する。12本ツメ、だいぶ嵩張るし重いかもと心配したが、案じるほどのことはなく無事快適快調な山歩きができる。おりしも前後曇り日の間の1日だけの快晴で、山上の眺望も抜群。Yツアーのバス旅で現地まで行くが、その途中から車窓の上州の山並みも楽しめた。昼はシリアル1本・前回から加えたきびだんご(但し棒状)1本、それにポットのおでん(食べきれず、車坂ホテル前に戻りホテルで買った軽井沢ビール!とともに帰りバスのつまみとする)こちらもきわめて快調。暖かい日でメリルウールのセーターを着て行ったがその必要はなかった。長袖・半そでTシャツ重ねに薄手フリースで十分な気がした。
↓前から2人目が私©YAMAKARA /トーミの頭をのぞむ
3月18日 金剛山~葛木岳(大阪府・奈良県)
南海線・河内長野駅⇒金剛登山口➡千早本道➡金剛山(1125m)➡金剛葛木神社(1125m)・葛木岳➡登山口➡鯉釣場バス停⇒河内長野駅
4h(休43m)6.4㎞ ↗659m↘607m難易度13(ふつう) 110-130%(やや速い)(データ=ヤマップ) チェーンスパイク装着 ソロ登山
【山ある記】は【第20回大阪アジアン映画祭2025】ページに載せました。
3月26日 瑪瑙山~飯縄山(長野県)スノーシュートレッキング
戸隠スキー場(リフト利用)⇒瑪瑙山(1748m)➡飯縄山(1917m)➡飯縄神社(南峰1909m)➡西登山口➡神告げ温泉
6h57m(休1h40m)8.0㎞ ↗606m↘936m 難易度16(ふつう) 70-90%(ややゆっくり)(データ=ヤマップ) スノーシュー(一部アイゼンも)装着 ソロ登山
以前から是非とも登りたかった雪の飯縄山、それも瑪瑙山からのコース。2月にもそのつもりで準備をして出かけたのだけれど、あまりの豪雪深雪、それに悪天候もあって断念。登れる可能性が高いと聞いた3月末、いざリベンジ?というつもりで出かける。
↓まずは25日(前日)のスキー場からの戸隠・高妻山/ぐるりと目を転じてリフトで登った瑪瑙山からの飯縄山。左の尾根を登るのが飯縄山へのコースだ。
晴天、しかし黄砂で少し空気が淀んだ感じの朝8時半、リフトの運転開始時間を待ち、例によってM山荘の車でスキー場まで送ってもらう。リフト2本、間に約20分のゲレンデのスノーシュー歩きもはさみ、40分ほどで瑪瑙山山頂に上がる。山頂の道標は2月と同じく頭10cmくらいしか見えず、里はすっかり春めいて雪も大分消えてきたのに…とちょっと心配。
瑪瑙山からはまず、飯縄山との鞍部まてのかなり急な下り斜面を20分ほど。蛇行しているトレースを概ねたどるが、時に突っ切って下るとすでに汗ばむ暖かさ。ただ風はけっこう強くて立ち止まると寒い。
↓まずは瑪瑙山頂上から歩き出す/ここから瑪瑙山急な下りに/ようやく下りて後ろを見上げると…
↓飯縄山に向かう鞍部を進む/向こうに頂上が見える…/さらにどんどん登っていく
↓あと一息/とうとう到着、飯綱山頂上。道標は雪に埋もれて15センチくらい?しか見えず。北アルプス方面は黄砂に霞んで山はあまり見えない。ここまで概ね2時間(11時20分に到着した)
↓頂上より妙高・黒姫・高妻山方面(瑪瑙山方面への下山口)頂上までの急斜面は、だいぶ陽射しもあって緩んできたとはいえ、まだカリカリでスノーシューの爪が引っかからないようなところも少し…



↓山頂 夏の岩ごろごろの面影もないなだらかな丘状/頂上から飯縄神社のある南峰方面をのぞむ。このあと南峰へ。
本峰頂上には南登山口から上がってきたと思しき人々が出たり入ったりで20人くらい、スノーシューの人は数人で、ほとんどはアイゼンを履いている。
だだっ広い雪原ではお昼を食べるのもままならず、南峰方面を目指して鞍部の木立で昼食(もらっていったお湯で甘酒と鮭雑炊=いずれもフリーズドライ)、私も持参の今回2回目の12本爪を試してみようと、スノーシューからアイゼンにはき替える。スノーシューについてはネットでいろいろ研究、ザックに固定する専用のストレッチ・ストラップがあるという石井スポーツに行って聞いて見たら売り切れで、確認すると富山店!に2組残っているので取り寄せましょうかといわれて仰天!フツウのストラップだけ2本買い、自転車用のゴムロープと一緒に持参したのだがそれで充分だった。で、それも試したく、けっこう山上で遊び、12時40分ごろに下山開始。南峰にあがり神社の前を通ってから中社方面に向けてアイゼンで歩き出
す。
↓雪に埋もれた飯縄神社/南峰頂上の道標もこんな。中社方面と南登山道の分岐もまったくわからず、地図を見て一歩一歩確かめながら。
↓ようやく方向が定まって中社方面に下り始める。
↓本日のルート図(山名入り・拡大してみてください)/緑:迷いやすい西と南の登山道分岐、赤:実際にトレースがルートをずれていったん踏み込んでしまったところ:実際はただの雪原で等高線も道標も見えません。
長い長い雪の斜面を下る。あまりの深雪にアイゼン疲れ、スノーシューに再度はき替える。ようやく登山道中間の菅ノ宮の鳥居にたどり着く/あとはこんな感じ林間歩き
15時30分西登山口入り口に到着。さらに20分歩いて神告げ温泉がゴールに…。
夏に下りても長く感じる中社への道、今回は一人ということもあり緊張していたせいかさらに長い長い迷いそうな道に感じられた。幸い後半はしっかりしたスノーシューのトレースがあって、それを見失わないように、しかもトレースが間違っていたら困ると地図で確認もしながら歩く。そのため普通よりは少し時間がかかったけれど、ともかく日のあるうちに(もちろんか)神告げ温泉に到着(木曜定休のはずだがなぜか本日休業=水曜だけど)、M山荘に電話して迎えに来てもらい、無事帰還。 ↓神告げ温泉(ここはもう完全除雪)

【3月の映画日記】
①ファイアブランド ヘンリー8世最後の妻 ②あの歌を憶えている ③銀幕の友 ④TATAMI ⑤石門 ⑥春江水暖 ⑦西湖畔に生きる ⑧雨の中の欲情 ⑨名もなき者A Complete Unknown
㉟サラーム・シネマ ㊱ワンス・アポン・ア・タイム、シネマ ㊲BAUS 映画から船出した映画館 ㊳パンと植木鉢 ㊴スイート・イースト不思議の国のリリアン ㊵白夜㊶フォー・ドーターズ㊷アノーラ
大阪アジアン映画祭以外16本中 日本映画⑧㊲ 中国語圏映画③⑤⑥⑦ イスラム・アラブ圏④㉟㊱㊳㊵ とこんな具合。 例によって★はナルホド! ★★はイイね! ★★★はおススメ!の個人的感想です。 文末三ケタの番号は今年映画館で見た映画の累計数。 なお本文中赤字の映画題名・映画祭名などは、その映画についての記述のあるページへのリンクになっています。
①ファイアブランド ヘンリー8世最後の妻
監督:カリン・アイヌーズ 出演:アリシア・ビカンダ― ジュード・ロウ エディ・マーサン サム・ライリー サイモン・ラッセル・ヒール エリン・ドハティ 2023イギリス 120分 ★
『Firebrand(松明)』は「扇動者」「情熱家」ということで、英国教会の神の代理を自認するヘンリー8世に対して、ラテン語でなく英語で聖書を読もうというプロテスタントを信奉し、夫の遠征中には摂政として政治を仕切ったという6人目の妻キャサリンをまさにそういう「扇動者=むしろ先導者?」に例えている題名なのかな、と。ブラジル人の監督が初めて作った英語映画だそうだが、テュダー朝イギリス王室の王夫婦の愛というよりはむしろ闘いを王の亡き元妻(何しろ5人の妻の内2人は追放、一人は出産時の死亡、あと2人は斬首というすさまじさ。キャサリンももちろん?望んで妻になったわけではない)の娘、のちのエリザベス1世の視点で描いたという点でも、イギリスの王朝を描きながらかなりジェンダー的な視点が強く、ヘンリー8世も単なる強権の王というだけでなく、足の病気に悩み、妻の反逆の疑惑に悩みつつ妻を求めるというようなわりち複雑な造形にしているよう。ちなみにジュード・ロー演じるこの王は、画像でみるヘンリー8世(偉丈夫だったという)になかなかよく似ている。キャサリン・バーはプロテスタントのまさに扇動者として処刑されるアン・アスキューの幼馴染で蔭の支援者として、王の側近である主教に無理やりに罪を背負わされるという設定で、物語は投獄されたキャサリンと病の床に臥せる王のどちらが先に死ぬかというような緊迫した後半を見せるのだが、解決はえー?ほんとかな、そして王宮から放たれて歩み出すキャサリン・バー、ジェンダー視点から言えばハッピー・エンド???ウーンという感じ。(3月4日 新宿武蔵野館 045)
②あの歌を憶えている
監督:ミシェル・フランコ 出演:ジェシカ・チャスティン ピーター・サースガード ブルック・ティンバー メリット・ウィーバー ジョシュ・チャールズ エルシー・フィッシャー 2023アメリカ・メキシコ 103分
間もなく使用期限がくるピカデリーのポイント鑑賞券(6本見たら1本タダ)があったので、ちょうど時間が合ったこの映画を見ることに。ニューヨークを舞台とする中年の恋物語だが、男ソールは認知症で弟の家に厄介になっていて、出かけた同窓会で見かけたヒロイン・シルヴィアを追って彼女の家の前まで行き帰れなくなってしまうというところから話が始まる。シルヴィアは介護施設で働くが、彼女自身断酒会に入ってアルコール中毒から立ち直ったという経験があり、さらにいえばその飲酒癖の奥には消し難い若い頃のつらい記憶があるが、それを母からは「ウソつき」と断じられ、母との間に深い確執もあるという…、なんか世の中というより周りの家族からは持て余されているようなハンパ者的立場にあるものがひかれあうというのはちょっとイヤな設定のような気もするのだが…若い娘たちは別にして、大人の家族たちはどちらの家族も悪気はないのだが、やはり二人をそれぞれ困った存在として親切に使用とし、心配したりしながら結果として抑圧してしまうという描き方で、先月の『どうすればよかったか』⑤の「父」を思い出してしまった。
終わりはシルヴィアの娘アナの「英断」(映画は若者に希望を託している?)でハッピーエンド?ぽいのだが、この後の多難苦労は消えてなくならないだろうと思わずにはいられない。また、アナよりは少し年上のソールの姪サラ(伯父を心配してよく面倒を見ている)の描き方がちょっと中途半端で、大人たちとアナら子供たちの中間にありながらおとなによりつつある?という描き方の微妙さも気になりつつ、ナルホドね、という感じもした。(3月4日 新宿ピカデリー 046)
③銀幕の友(我的朋友)
監督:張大磊 出演:周迅 王一博 張晨 2022中国 24分 ★
1996年アジア大会閉幕の日、閉会式に流れる曲を口ずさむ小周はあまり話もしない母の介護をしながらの暮し。翌日彼女が勤める映画製作会社(らしい)ではアジア大会マスコットだったパンダ像の撤去などが行われる。一方小周は今夜行われる映画会のチケットを社員やその家族に配布している。昼食を食べようとしているところに一人の物静かな青年李黙が友人を訪ねてやってくる。友人張晨はちょうど昼食に自宅に帰っているところで、小周のデスクのある入り口のところで待つ李黙。会話はちょっとだけ(小周が口ずさむ歌を、李黙がそれは何の歌かと聞く)で、二人ともほとんど無口、やがて友人張晨が戻ってくる。その夜、映画会会場の入り口でモギリをする小周。李黙が友人とやってきて入る。しばらくして新しい客も途絶え会場に入り李黙と友人の後ろの席に小周は座る。振り向いて「張晨にチケットをもらった」と小周に言い、隣に座る友人に後ろに座ったのは誰かと聞かれ「我的朋友」と答える。と、ただそれだけなのだが、この「我的朋友」が孤独な小周の心をいかに溶かし、詩人だという李黙の人間性というか詩心というかを感じさせ見ている側もなんか心がほどけるような不思議な瞬間。この長さで特別料金1300円も取るから?か、客はシネマート2(7F小劇場)に2人だけという寂しさではあるが、映画としては画面の奥深くくっきりした陰影も含めけっこう豊かな感じがして満足。(3月5日 シネマート新宿 047)
④TATAMI
監督:ガイ・ナッティブ ザーラ・アミール 出演:アリエンヌ・マッディル ザーラ・アミール ジェイミー・レイ・ニューマン 2023アメリカ・ジョージア モノクロ103分★★★
ジョージアで行われた柔道の世界選手権、イラン代表選手のホメイニはコーチのガンバリ(イランにはホントにこんな名前があるんだね)の指導の下順調に勝ち進み、彼女のイランの自宅では親戚・知人が集まってテレビの実況中継を見ながら応援に盛り上がっている。ところが、突然に彼女に試合を棄権させるように、コーチに政府からの指示が下りる…。このまま勝ち進むとイスラエルの選手と対戦することになるので避けよというわけである。その指示に怒りながらも選手には爾後の試合を棄権するようにいうコーチ。しかしホメイニは断固として試合に出ると言い張る。一方イランの留守宅には秘密警察の手がのび、ホメイニの両親やガンバリの親も拘束?ホメイニの夫は幼い息子を抱きかかえて国外への脱出をはかる。試合の行方(「柔道映画」としてもなかなか迫力)、試合に出続けようとするホメイニの決意と闘い、自らの恐怖を抱え政府と選手の間に立って悩むコーチの態度ー矛盾に満ちていて難しい役柄だ。そして父子の逃避行と緊迫した画面が続き息もつけない。結果的には1年後、パリで息子の寝顔を見、難民チームで再び国際試合に出場するホメイニとガンバリの姿に一応ハッピーエンドということになるのだが、もちろんこの映画はそのような表面的なハッピーエンドが解決されない体制の幾多の問題を内包していることを強く訴えている。自らも選手としてかつて「ケガ」を理由に試合を棄権し引退し、今コーチとして自らの選手を同じ状況に立たせるという難しい立場で、複雑な心情と行動を表すコーチ・ガンバリを演じたザーラ・アミール(『蜘蛛は聖地に巣を張る』③の主演女優だ)は、この映画で昨秋東京国際映画祭・最高女優賞を獲得。この映画自体も審査員特別賞を獲ったが、イランの出演者人はそろって国外亡命し、国に戻れないでいるという。またこの映画はイスラエル出身のガイ・ナッティブとイラン出身のザーラ・アミールが共同監督をしたという点でも話題になった。映画が国境を越え、世界を変える?という期待を抱きたい作品だが、社会状況を考えると苦い思いも禁じ得ないイラン・イスラエル関係である。(3月5日 新宿ピカデリー 048)
⑤石門
監督:黄驥 大塚竜治 出演:姚紅貴 リウ・ロン シャオ・ズーロン 2022日本(中国語) 148分
すでに2022年東京フィルメックス⑤での公開で見ている作品だが、「よくわからなかった」という思いもあり、現代中国の拝金主義的な傾向の一面を表しているのではないかと確認もしたく、再鑑賞。
日本映画であるが、舞台は完全に中国で、妊娠して学校をやめ故郷に戻るホンクイのちょっと自堕落っぽい風情(体形が目立つ前のほうが強い感じがする)やおなかが大きくなってからの意外なガンバリは初回鑑賞とそれほど大きく印象が変わったわけではないが、今回強く感じたのは理解・無干渉を装いつつ女性を支配するような感覚から逃れられない男たち(ホンクイの恋人も、また父の母や娘に対する対し方もそうで、知らんふりの圧力という感じがする。もっとも顕著なのが彼女が子どもを渡そうとするシルビアという女性と介在をする従兄の関係かも知れない)が、女の孤独とガンバリを促しているのかなという雰囲気。頭をそり上げかつらをかぶってオシャレなオバサン風俗で活力クリームを売り、集会で自身の行動を宣伝する母もそうみると単にバケモノ的・滑稽というだけでない孤独を抱えているように、その遠景のみのカメラアングルからも思われる。おなかが小さいうちはきれいな衣装で客引き、立ち売りの販売もし、おなかが大きくなってからはコロナ禍のもと人を押し分けるようにマスクを仕入れて売る(最初は1枚5元が後の方では1枚25元に値上げ。しかも計算間違えで4枚200元とか言っているので、まだ値上げの意向もある?)ホングイのガンバリぶりもあいかわらずなんか痛々しくもたくましいという感じ。出産場面のほか数場面しか彼女のアップショットはないのだが、それが非常に印象に残るように配置されているのと、また、陰影のくっきりした故郷の街の冬景色などの美しさは撮影監督も兼ねた大塚竜治のセンスであろう。シルビアはまったく子供を育てる気などはなく、子どもの将来どうなるの?という最後でもある。(3月7日 新宿武蔵野館 049)
⑥春江水暖(Dwelling in the Fuchun Mountains)
監督:顧暁剛 出演:銭有法 王風娟 孫章建 章仁良 2019中国 154分 ★★★
⑤に引き続き旧作中国映画のチェック。2本立て上映というキネカ大森に15年以上ぶりに見に行く。入り口は記憶にあったけれど館内はリニューアルされたのか印象が違い、今回上映の「名画シネマ2本立て」の劇場は40人くらいの小ホール。1時間以上前に到着し、15番という整理券をGetしたが、始まってみると満席で驚く。『西湖畔に生きる』の顧暁剛作品2本立てで、こちらの印象は前回鑑賞(東京フィルメックス2019⑰)と大きく変わるところはなかった。ただ景色の中でも富春江の背景にいかにも現代的な高層ビル群の街が影のように映っているところにあらためてこの映画の主張を確認した気がする。この映画はフィルメックスでは審査員特別賞を受賞した。以下前回鑑賞時を再掲。
監督の故郷富陽(孫権、郁達夫の出生地でもある)の景色・陽光古来から残る自然と、今や近代化の進む街をあたかも絵巻物のごとく、長回し、ロングショットで―もう、なんというか絵にも言われぬ美しさというか…、監督によれば「冨春山居図」や「清明上河図」のイメージで撮影されたらしい―を背景に中年の4人兄弟、顧家の家族を描く。この顧家の面々は監督自身の親族や知り合い、つまり素人が演じているとのことで、アップシーンの演技などはあまりないのだが、やはりロングショットを生かしてドキュメンタリーのような雰囲気でリアリティがある。兄弟の母の90歳?の誕生祝いの席上、その母が「軽い卒中」で倒れる。そこからレストランを営む長男夫婦の介護問題に関する葛藤や愛、母の反対を押し切って小学教師の恋人と結婚したい娘、30年暮らした家を立ち退くことになり持ち船で仮住まい中の、漁師の次男夫婦とその息子の結婚、離婚してダウン症の息子を育てながらあちこちに借金、賭場を開いて稼ぐ(ちょっと一家にとっては持て余し者、でもまわりを思いやり理解しようとする優しい男でもある)三男、そして何をしているのかわからないが、母の意を受け?見合いをし結婚しようとする末息子など、葛藤やいさかいはありつつも最後のほうで三男の借金を返せとやくざ?が長男の店に殴り込みをかけるとか、賭博がバレて三男が警察につかまる以外は一家人々の身上にかかわる問題に終始するのだが、これがけっこうリアリティもあり(お金の額がいろいろ出てくるのがおもしろい。教師の月給は4000元とか。兄弟間の万単位の貸し借りとか)派手ではないのだが風景の美しさに包まれている感じもあって、最後まで引っ張る。三男問題について、さる友人が「他人事とは思えなかった」と感想を述べていたが、そう、どこにでもいそうなどこにでもありそうな話なのだが、街が近代化する前の中国の地方都市の、まあ旧家の暮らしぶりとは明らかに変わっている部分もはっきり見えて興味深い映画だった。終わりに「巻1終わり」と出て、この映画、2巻、3巻も監督として10年、20年、50年単位で計画したいというような話だった。なるほどね!ユニークな面白い、そしてそれこそ50年後に振り返ったら近代史ものになるのだろうな。若い監督の長編第1作の志(古典も踏まえているところもユニークだし、若者だけの映画にしていない)に敬服。(2019年11月24日 有楽町・朝日ホール 東京フィルメックス・コンペティション)(3月8日 キネカ大森 050)
⑦西湖畔に生きる(草木人間)
監督:顧曉剛 出演:蔣勤勤 呉磊 張建斌 王佳佳 閆楠 王宏偉 2023中国 115分
こちらは2023年東京国際映画祭10-㊺で見たものだが、⑥と違って初見の印象とは全く違うのに我ながらいささか驚いた。 物語が展開する舞台の背景となる自然の緑や水辺などの美しさ、みずみずしさはあいかわらず目を見張るようであり、西湖の遠景にビル群が並ぶ街というような画面の置き方も変わらぬ自然と変わりゆく街―人の対比を表すという点では⑥と変わらず、映画のタイトルバックにも『山水図巻2』というような表示が出てくるのだが…。
不在の父を恋う息子の目を通して、貧しさの中でいまや夫を求めず、新しい恋を得るものの勤める茶工場の持ち主である恋人の母(家父長的態度をとる)に工場から放逐され、マルチ商法に救いを求め狂乱する母は、夫の目を持つ息子からは愛する(共依存の気配もあるにはあるのだが)母というよりはただ弱い助けたい存在として扱われている感じ(息子はマザコンの気配もあり)で、映画後半息子に負われ山林に息子が「父の木」「(息子)自身の木」を求めて入っていくシーンでもたた負われているだけで、なんなんだこりゃ。終盤今度は息子が気を失い、現れた虎!(まあ。幻影的な描き方だが)に息子を守って立ちむかうところでようやく母の自立が果たされた?とみるべきか。「自立」した母は恋人とよりを戻すようなのだが、この恋人社長(母の狂乱中もいつも陰ひなたで彼女を見守り助けようとするーが、しかし彼女を追い出した母には立ち向かえなかった、その意味ではこの男もウーン、マザコンぽい)なんかすっきりしない男たちの間で、たとえ犯罪がらみであろうと母(や、同じように苦しむ人々)を解放してくれるのが唯一マルチ商法だったんじゃん、となんか現代中国の人の心の暗部?を覗いたような気にもさせられた。こちらは⑥と違い有名俳優が並ぶ。⑥の静謐さではガマンができなかった若い監督の意欲があふれたというかぶち込まれた作品であるのは確かだと思われた。(3月8日 キネカ大森 051)
⑧雨の中の欲情
監督:片山慎三 出演:成田凌 中村江里子 森田剛 竹中直人 2024日本・台湾 132分★
昨秋TIFF日本作品として目玉だったことは知っていたが、日台合作であることも、台湾(嘉義)で多くのシーンが撮影されたことも意識情報としては抜け落ちていた。それらを知ったのでいわばあわてて見に行った一作。つげ義春の原作で、最初の雨中のバス停での鮮烈な言い寄りと落雷、そこから逃げ出した男女の全裸になってのセックスシーンと、なんかもうなあ…という不条理劇?みたいな細かく区分けされた断片的なシークエンスは4コマ漫画?の連続みたいでシークエンスごとにオチもある感じで、売れないマンガ家「ツゲ義男」と先輩というか年上の友人井守、また彼のあるいは義男自身の恋人?ともなるファムファタル福子の関係を軸に進んでいくのかと思いきや、途中から軍艦マーチを歌いながら進軍する兵士たちの戦場風景に。手足を失ってベッドで呻吟する義男…どうも前半(後半でもたびたびそこに戻る)は彼のイメージの中の失われた未来らしいことがわかってくるという、そうなるといわばこれは反戦映画なのか…マンガの登場人物のような無表情+表情変化の妙(驚きの目をまんまる、口も開いた表情とか)+ちょっと背を丸めた立ち姿の雄弁に感心。不条理さに笑えるというシーンもあり体当たりのセックスシーンも含め意外に見ごたえのある主張もありそうな、そういう意味でつげの思想を表している映画のように思えた。(3月10日 下高井戸シネマ 052)
⑨名もなき者 A Complete Unknown
監督:ジェームス・マンゴールド 出演:ティモシー・シャラメ エドワード・ノートン エル・ファニング モニカ・バルバロ スクート・マクネイリー ボイド・ホルブルック 2024アメリカ 140分 ★
10ドルだけ持ってニューヨークに出てきた1961年の19歳無名のボブ・ディラン、病床のウッディ・ガスリーを見舞い、そこでピート・シーガーに出会う。彼らの前で歌ったことから、ステージに立つようになり売れっ子のジョーン・バエズにも出会う。一方で恋人シルビアとの出会い、二人の女性の間にはそれとない葛藤もあるが、ディラン本人は気にすることもなくひたすら曲を作り歌う…そして1965年売れっ子になったディランがフォークに飽き足らず、ロックに踏み出すニュー・ポート・フォークフェスティバルまでを、描いていく。
伝記だし、有名な話だし展開としては意外性があるというわけではないけれど、やはり主演ティモシー・シャラメの(ボブ・ディランとは本来全然違うタイプだと思うのだが)ホンモノほどの野性味はないが、もっとつやっぽく、歌もうまくて、いかにも天才アーティストという感じも漂わせてなかなかの「なりきり」。もう一人ピート・シーガーのエドワード・ノートンもすごいいい感じでそれらしく、懐かしささえ感じた。バエズやその他の歌手も含め懐かしいフォークナンバーがたくさん聞けるのもうれしい。ちなみに私が初めて自分で買ったレコードはジョーン・バエズの『花はどこに行った』だと記憶している。ピート・シーガーはボブ・ディランのロック化に怒ったという伝説?もあるが、この映画では決してそのようには描かれていない。(3月13日 府中TOHOシネマズ 053)
⑩~㉞は大阪アジアン映画祭特集へ
1⑩鬼才の道 2⑪私たちの話し方 3⑫我が家の事 4⑬All Shall Be Well(従今以後) 5⑭サラバ、さらんへ、サラバ 6⑮「愛に代わってお仕置きよ」7⑯寂しい猫とカップケーキ(寂寞貓蛋糕)8⑰春二十三 9⑱天使の集まる島 10⑲ヘンゼル:2枚のスカート 11⑳晩風 12㉑6時間後に君は死ぬ 13㉒破浪男女 14㉓蒙古馬を殺す 15㉔サイレント・シティ・ドライバー 16㉕そして大黒柱は… 17㉖いばらの楽園 18㉗愛の兵士 19㉘この場所 20㉙ブラインド・ラブ(失明)21㉚ラストソング・フォァ・ユウ 22㉛バウンド・イン・ヘブン(捆綁上天堂)23㉜バイク・チェス 24㉝朝の海、カモメは 25㉞イェンとアイリ―(小雁與吳愛麗)
㉟サラーム・シネマ
監督:モフセン・マフバルバフ 1995イラン・フランス 82分 ★
マフバルマフ監督が映画生誕100年を記念して新作映画を作ると発表すると5000人ほどの人がオーディションに詰めかけた。出だしはその群衆と間をかき分けるかのように車のフロントに腰掛け撮影をはじめているカメラマンの熱気にあふれたシーンから。オーディションは100人に絞りそこから出演者を決定するということでエントリーシートが配られ、監督自身の前で演技をする人々の姿で綴られる。盲目であると嘘をついて演技をする青年とか、監督自身と昔の刑務所(政治犯)仲間とか、男女、それぞれ監督に厳しい注文をつけられ応じたり応じられなかったり。「泣け、涙を流せなければ不合格」という監督指示が繰り返され、中にはそのことに抵抗するものもあれば、若い女性二人組は監督のかわりに面接官席に座らされることによって今まで自分たちが言われてきた厳しい注文を受験者に出す。実際ともフィクションともつかない半ドキュメンタリー映像で、さまざまな出演者の姿、思惑などがはがされていく趣向。マフバルマフ(本当に様々な趣向の映画をさまざまな国で作る人だ)らしい実験映画という感じも。上映後、企画者、本作日本語字幕監修もしたというショーㇾ・ゴルバリアンさんのマフマルバフ紹介トークつき。(3月23日 下高井戸シネマ マフマルバフ・ファミリー特集 079)
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ショーㇾさん |
㊱ワンス・アポン・ア・タイム、シネマ
監督:モフセン・マフマルバフ 1992イラン 92分モノクロ
ウーン。出だしチャプリンによく似た作りの「写真屋」が王宮や王の撮影中につかまりギロチンにかけられるところから。昔の映画のヒロインに一目ぼれした王がスクリーンから彼女を呼び出す?のに「写真屋」を許し…あとはなんとも…繰り返される何本かのイランの旧作映画のシーン、逆回しがあったり、王宮の登場人物が映画の中に入って行ったり、繰り返されつつ、多分映画の持つ意味というようなものが主張されているのだろうが、ゴメンナサイ、私のイラン映画の知識では今一つ映画の内容というか流れについて行けない。ただ、眠るということは(ほとんどだけど)なかったので、それなりにというか極上の?吸引力は持つ、今回マフバルマフは何をしてくれるの?というような感覚は持たせてくれる映画だった。(3月27日 下高井戸シネマ マフマルバフ・ファミリー特集 080)
㊲BAUS 映画から船出した映画館
監督:甫木元空 出演:染谷将太 峯田和伸 夏帆 とよた真帆 光石研 橋本愛 鈴木慶一 川瀬陽太 2024日本 116分
2014年に閉館した吉祥寺のバウスシアターには中央線沿線に住んでいたころは、もっともよくいく映画館の一つとしてしょっちゅう行っていた。その映画館の1927年?から閉館までの歴史を経営していた家族の物語として書いた原作「吉祥寺に育てられた映画館イノカン・MEG・バウス吉祥寺っ子映画館三代記」(本田拓夫・文芸春秋社)を亡くなった青山真治が脚色し映画化を進めていたものを受け継いで甫木監督が仕上げたという作品。これは何としても見に行かなくてはというわけで出かける。映画の中のおもな舞台は戦前期からの井の頭公園と思しき公園の?中にある無声映画の上映館(当時は井の頭会館)を青森から出てきた本田ハジメ・サネオ兄弟が受け継ぐところからで、私が覚えているバウス・シアターの姿はエンドロールにチラリと出てくるくらい。間に挟まれるモノクロの映画館や吉祥寺・井の頭公園・家族の写真(役者が演じてるんだが)はそれぞれの時の雰囲気を表していて興味深い。
物語も前半、戦中くらいまでのハジメ・サネオに、サネオの妻となるハマとその母あたりが中心の時には有機的にドラマが動いているという感じするのだが、その後は最初に出てくる高齢になったサネオの息子タクオ(最後の社長)の回想もしくは幻想?という形で描かれるせいか、なんか観念的な感じでイマイチしまりもないーサネオもハマもその母や従業員たちがずーっと同じ役者によって演じられている?(みたいなんだが、ちがうのかなあ)のが、特に従業員とかだと時系列の区別もつきにくい感じで、なんか集中しにくい。上映される映画も出てくるのだが、映画館を経営する人物のいわば「映画を描いた映画」である?はずなんだけれど、その割に出てくる映画の印象も薄い感じでンンン?娘のハナエが死んで映画館は閉じることになったらしいのだが、このタクオとハナエの親子関係や娘の死もとても観念的な描き方で、要は一人の映画好きな男の娘喪失の心情をビジュアル化した?ということ?
それって、なんか「この映画」に観客が求めているものとはだいぶずれている気もするのである。(3月28日 テアトル新宿 081)
㊳パンと植木鉢
監督:モフセン・マフマルバフ 出演:ミルハディ・タイエビ、アリ・バクシ
1996イラン・フランス78分 ★★
これも映画作りの映画。17歳で警官を刺し収監されたマフマルバフ自身の体験を、マフバルバフが映画化するという構想でオーデションが行われるが、そこにやってきたのはかつて彼に刺された警官で、それを機に退職して今は別の仕事をしているというごつい風貌の男。彼は自分でかつての自分自身を演じたがるが、20年前の若い自分を演じることはできないとして監督は青年を募集してオーデションをする。元警官は監督の選んだちょっとごつい風貌の青年ではなく、よりイケメンの青年に自身を演じさせたがるというのがおかしい。しかし、それならお前は必要ないと監督に言われ、それでも映画に出たいと監督が選んだ青年の演技指導を買って出る。こうして後半は若い時代の監督を演じる青年、彼の従妹で、監督とともに警官を刺す行動に出た少女、そして警官役の若者の、あたかもリハーサルのように当時を再現する行動をとる、その中で演者たちが単に役者として監督たちの過去を演じるにとどまらず自身の内面を吐露していく様子が描かれる。「パンと植木鉢」の題名そのままのラストシーンがまさに二人の若者の内面の象徴のような感じで、納得!2000年?の最初の日本での劇場公開を多分見ていたはずと思って、なかなか中身を思い出せなかったのだが最後にシーンはあ、そうだった!とたちまちに記憶によみがえる(苦笑)。(3月28日 下高井戸シネマ マフマルバフ・ファミリー特集 082)
㊴スイート・イースト 不思議の国のリリアン
監督:ショーン・ブライス・ウイリアムズ 出演:タリア・ライダー アール・ケイブ サイモン・レックス アヨ・エデビリ ジェレミー・O・ハリス ジェイコブ・エロルディ2023米 104分 ★★
サウスカロライナの高校生リリアンは修学旅行でワシントンDCへ。はしゃぎまわるクラスメートたちと対照的にあまり気分が乗っていない雰囲気に描かれる。それでも友人たちと出かけたカラオケバー(カフェ?)に突然陰謀論に取りつかれた若い男(いかにもオタク的風貌)が現れ銃乱射事件を起こす。パンクロッカー風の若者(「アンティファ」とかいって、トランプ第1次政権のときに反ファシズムを唱えトランプを批判した人々)に導かれ、トイレの鏡から地下道へ、そして夜の町から社会運動をするアーティストグループの根城に導かれる。そこから転々、ネオナチの大学教授に囲われ、というか無理に居座り彼に洋服などを買ってもらい、D・Wグリフィスの映画を見たり(この教授が愛好家ーリリアン・ギッシュとこの映画の主人公リリアンのつながりもここに込められているみたい。また、この映画、クローズアップの多用などグリフィスの映画技術などを沢山取り入れたオマージュにもなっている)教授のニューヨーク出張について行き、彼の運動資金?を持ち逃げ、ニューヨークの街ではアフロヘア(以下にも作り物っぽい)の二人の黒人監督(これはこの映画の作品チームを模しているとか)にスカウトされて、映画出演をすることになるが…、次は逃げ出してイスラム主義者の青年に拾われ、さらにカソリック修道士たちに助けられ説教を受け(この修道士を演じているのは「エロ・クソおバカロックバンド」のボーカルだそうで、説教を聞いたリリアンは笑い出す。これはまさにローカルネタ?で、見ても全然意味がわからなかった)そして最後は家に戻るリリアン、帰ると家の女体はみな妊娠している??。『鏡の国のアリス』とリリアン・ギッシュを重ねて、トランプ政権下のアメリカのさまざまな「思想」「風俗」をたどるリリアンの旅を通して現代のアメリカを批判したということだろうが、実はよくわからないネタがいっぱいで、終わりに付いた町山智浩氏が監督にZoomでインタビューして得たという解説つきの上映を見て、ナルホドねと納得した。本文中( )内については概ねこの解説による。リリアンの中身空っぽ(受容性が高い)しかしけっこうシニカルな反応を示す意識のありようの現代性が面白い。(3月29日 新宿武蔵野館 083)
㊵白夜
監督:ロベール・ブレッソン 出演:イザベル・ベンガルデン ギョーム・デ・フォレ ジャン・モーリス・モノワイレ 1971フランス・イタリア 83分
ペテルスブルクを舞台に、文字通り「白夜」の出来事を描いたドストエフスキーの短編原作の舞台をパリ、ポン・ヌフに移したロベール・ブレッソン作品の4Kレストア版。パリの4夜にわたる夜中心の映画は、暗い画面が多いが、なんとも美しく、ときにきらびやかな夜景も含めて煽情的といってもいい美しさではある。そこにたたずむヒロイン、マルト(当時20歳くらいのイサベル・ベンガルテンは2020年70歳で亡くなっている。嗚呼!)の楚々として強い感じの立ち姿(身を投げようとしている場面も含め)は目を引くが、ウーン。日がたつにつれ自分を捨てた男を思いつつ、助けてくれた青年ジャックに気持ちを寄せていく様子、最後にドンデン返し的に身をひるがえし立ち去る身勝手は、とてもじゃないが71年にも日本初公開の78年にも受け入れられるものであるはずなく、ま、そもそも19世紀の話だものなあ、仕方ない派とも思いつつ、Zoomも携帯も世界中にネットが張り巡らされた現代にはあり得ない「美しい」青年の立場から言えば「悲しい」話で、世界の変化も感じさせられる一作ではある。(3月29日 渋谷ユーロスペース 084)
㊶フォー・ドーターズ
監督:カウテール・ベン・ハニア 出演:オルファ・ハムルーニ エヤ・シカウイ ティシール・シカウイ ヘンド・サブリ ヌール・カルイ イシュラク・マタル マージ・マストゥラ 2023チュニジア・フランス・ドイツ・サウジアラビア107分 ★★★
『パンと植木鉢』㊳で、マフバルマフは実際の経験を役者を使って演じさせる映画作りそのものを題材として映画を作ったが、こちらはその映画作りを実際に行ったといえるような作品。イスラム過激派となり失踪してしまった二人の娘の妹たち2人は本人が語り演じ、失踪した姉たちはそれぞれ似た雰囲気という女優たちが、そして母親は本人と、彼女を演じる女優ヘンド・サブリが並んで、ときには別々に登場し、母の再現しにくいつらい場面などは女優が演じつつ、この一家の母の若い時からの軌跡を演じあるいは語りながら、娘たちが家を出て過激派組織の一員となり収監されている2021年時点までを描くという、込み入ってはいるがとても興味がひかれる構成をもった作品でである。夫からの虐待受け、年に一度といってもよい、お金がない時のみの性生活で4人の娘を授かるが、離婚、再婚して母は幸せを得るも養父の性的虐待を受ける娘たち、掃除婦をして4人の娘を育てるが、娘にも折檻を加えるような厳しい母の倫理・宗教観、やがてヒジャブをかぶり母に反抗を始める娘たちというような流れで母への抵抗というか家庭からの脱出をもそこに求めた娘たちの姿が、生々しい下の娘たちの経験談も含めてあらわになっていく。実際の娘たちは長女と末娘では8歳くらいの年の差があるが、今や姉たちが失踪した年齢に達し、あらたに姉二人を概ね失踪当時の年齢に模した?女優達を迎えた4人姉妹は、失踪当時の実際とはかけ離れてもいるのだろうが、思春期に達し下の娘たちは思い出として過去を語り、姉役はその過去を演じるというような構成でむしろ対等に娘たちの心情を表しているように思える。政治や宗教的な問題としてというより家族間の、特に実父や養父を含む男たちとの関係がこのような母子の不幸というか苦悩を導いているという描き方。その男たちは一人の男優マージ・マストゥラによって演じられているそうだが、まったくのドラマとして演じられる母オルファとの初夜(役者同士のドラマだが、実際のオルファが彼女の姉役を演じたり)、実際の娘エヤの語りを聞く養父(これは途中で撮影に耐えられないとして父役が中座することなどから、ドキュメンタリーかと思ったがメイクなどはかえているもののやはりドラマとして演じられたもののよう)それにしてもプロの役者にひけをとらない家族たちの語りの迫力に驚いてしまう。この監督は40代のチュニジア人女性で、『皮膚を売った男』㉘(2021)でも強い印象を残している。(3月30日 新宿シネマカリテ 085)
㊷アノーラ
監督:ショーン・ベイカー 出演:マイキー・マディソン マイク・エイデルシュティン
ユーリ・ボリソフ カレン・カラグリアン バチェ・トブマシアン 2024米 139分 ★★
2024年カンヌではパルムドール受賞、25年に入って97年アカデミー賞では6部門ノミネートで作品、監督、主演女優、脚本、編集の5部門受賞をしたという今年随一の話題作ということで、しかもシンデレラストーリーの形をとりながら、シンデレラストーリーを超えている?という惹句もあって、ともかく鑑賞。
なるほど。頭はほぼ裸体のストリップガールたちの客接待場面が続いて、うん?なんじゃこれって男向け映画?という感じなんだが、その中で軽ーい、若ーい(21歳という設定。対するアノーラは23歳)ロシア富豪の御曹司に気に入られ、彼の帰国までの1週間、1万5千ドルで買われることになったロシア人のストリッパー アニー(本名アノーラ)はその1週間のうちにラスベガスで彼イヴァン(バーニャ)と結婚する。イヴァン(の親の)の豪邸で文字通りルンルンの新婚生活を過ごしているところに、乗り込んできたのは噂を聞いたロシアの親のアメリカ在住の代理人?から送り込まれた二人の強面の男。二人の結婚を無効にし息子をロシアに連れ帰るための任務を負ってくる。徹底抵抗で男たちに立ち向かい彼らに噛みつきとばしケガまでさせるアニーと、現場からすたこらサッサ一人逃げ出すイヴァン(アニーも言うように本当にヘタレで顔だけは可愛いどうしようもない少年じみた男として設定されていてけっこう笑える)。子供の洗礼式に参加していた(このあたりはロシア系の家族観を風刺している?)代理人のトロスもあわてて駆け付け、アニーはイヴァンと話すため、男たちは彼をつかまえ結婚を無効にさせる署名をアニーにさせるため4人は車でイヴァンを探して街に出る。このあたりの4人の、特にどうしようもなく権威主義的だが行動下手に描かれる男たちや、彼らが街で出会うロシア人コミュニティの人々の描き方からは、この映画のロシア人への固定的な見方を若干感じないでもないのだが…。
やがて酔いつぶれたイヴァンは元のアニーの勤め先であっけなく「捕獲」され二人は婚姻無効のため役所に連れて行かれるが、ベガスでの結婚はベガスでしか無効にできなということで舞台はラスベガスへ。ロシアから専用機でイヴァンの両親も到着し、息子をたぶらかしたあばずれ女としての糾弾をアノーラは受けることになるが…。
富豪の息子と結婚しても相手のだらしなさはとてもシンデレラストーリーではないし、「弁護士を雇い、半分の財産分与を請求して離婚する」と突っ張るアニーを鼻先で笑い「すべてを奪ってやる」と脅す富豪の妻(息子の母)、雇主の権力を傘に着て強引な態度をとりつつも、何となく搾取される側の雰囲気があってアニーにも真に強引・強欲には立ち向かえない男たちと、中でも比較的若いスキンヘッドで怖い顔のイーゴルのマザコンならぬ「祖母コン」みたいな言葉の端々とアニーへのやさしさ(結構彼の行動がこの映画の行く末を予感させてしまうところがある)。そしてこれらが集約されるのがアノーラからイヴァンの母への「あんたの息子はアンタが嫌いだから、あんたが嫌いな私と結婚したのだ!」という捨て台詞?かな。まさにそうだね。アノーラは「光、明るさ」という意味で、イゴールが「お前はアニーよりアノーラの方が似合う」というちょっとロマンチックなシーンもあり。
煽情的?なシーンの多い出だしのイメージとは違う意外にマジメというか地道な感じもする映画で、なかなか面白かった。(3月31日 新宿ピカデリー 086)
以上、今月もお付き合いありがとうございました。
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