秋の映画祭から【東京・中国映画週間】【東京国際映画祭】2024年10~11月
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ブナの黄葉の森から伯耆・大山(ダイセン)剣が峰方面(10月25日弥山に登頂) 登頂記録は【10月の山ある記に】 |
東京・中国映画週間(10月22日~29日)
④抓娃娃ー後継者養成計画ー⑤EPU~若き勇者たち~⑥アップストリーム~逆転人生~
⑦最高でも、最低でもない俺のグッドライフ(走走停停)⑧雲の上の売店 ⑨黙殺~沈黙が始まったあの日~
東京国際映画祭(37th)10月28日~11月6日
⑩陽光倶楽部 ⑪娘の娘 ⑫三匹の去勢された山羊 ⑬わが友アンドレ ⑭トラフィック
⑮シマの唄 ⑯黒の牛 ⑰幼子のためのパヴァーヌ ⑱海で泳げない鯨(不游海水的鯨 The Vessel's Isle)⑲ザ・ルーム・ネクスト・ドア ⑳春が来るまで ㉑怒りの河 ㉒赤いシュート
東京・中国映画週間
①スケッチ~彼女と描いた光~(灿烂的她)
監督:徐偉 出演:惠英紅 劉浩存 張子賢 劉歓 2024中国 116分
カラ・ワイ扮する漁港で働く祖母は幼い孫嘉怡をなめるようにかわいがっているが、ほんのちょっと目を離した隙に孫は姿を消す。それから11年、暴力によって悪い男の犯罪に巻き込まれた17歳の少女がようよう逃げ出し、偶然逃げ込んだ冷凍車に運ばれて祖母の住む漁港の街に戻ってくるところから話が始まる。単に長年会えなかった祖母と孫の邂逅としかし長い年月は二人の心をを引き裂いていた?みたいな話かと思いきや、思いがけない展開で、話は二転三転、間に少女が見出されて絵画の選抜クラスに入るところから、DNA鑑定、裁判での祖母の証言、児童虐待、最後は老いて認知症になった祖母と、少女ーというかもはや女性淇然の心の交流と盛りだくさんなテーマを繰り出し、嘉怡と淇然の描く絵ーイルカも一つのキーアイテムーによってつないで、寒色ばかりだった少女の絵に明るい温かい光が満ち溢れるまで。映画は終わりに至ってなかなか終わらず、何回も何回も涙をさそうような構造になっているのもすごい。祖母と少女がはまり役、というのもあるし…。とにかく二人を囲む祖母周囲の親戚とか近所の人とかがみんなびっくりするほどいい人ばかりなのも(逆に少女側は困った父母とか不良の男朋友?とか困ったやつばかり)嘘っぽいが心は温まる。少女と従弟が通う高校のスタジャン(下は普通の線入り、しかし太目ストレートは今風のジャージ)制服も今風(なのかな?今の中国は…)なのにびっくり。
(10月22日 TOHOシネマズ日本橋 228)
②校内探偵~隠された発明品~(校園神探)
監督:于飛 出演:林子燁 郭赫軒 于書瑶 庄則煕 裵佳欣 洪悦煕 2024中国 92分
こちらは「児童映画」と銘打っていて、舞台は実験小学校(字幕では「模範学校」となっていたよう)が舞台だというのだが、日本の普通の中学・高校のブレザー・スーツをちょっと凝った感じ?(襟の別布縁取りとか…どうみても効果的なデザインには思えないが、値段は高そう)にした制服を着こんだ少年・少女(特に少女)はとても小学生には見えない気もする。こちらは科学コンクールに出品する科学部の生徒の作品が忽然と消え、探偵部を設立したいのだがなかなかうまくいかない少年相里が、科学部中心に友人たちを巻き込み捜索をするという物語。少年の、痕跡に求める推理(シャーロック・ホームズばりの)とか、自分の夢よりも学生としての成績とか効率性を求めざるを得なかった生徒の蹉跌とか、丁寧に描かれていて、それなりに楽しめるが、先生の方はこういう映画の常か戯画化されていて影も薄いくせにえばっているというふうで、ま、これは仕方ないか。終わりにサービスのNGとかメイキングのシーンがあって、いろいろな才能をもつ子どもたちがカメオ出演しているらしいことがわかる。すでに続編も計画されているらしい。
①もそうだが、中国の学校では様々な才能をコンクールなどによって見出し、英才的教育をさずける仕組みに親も子も乗っているらしいこともわかる。ここではまだ、そういう才のない子、教育に順応できないような子の立場での描きはないみたい。(10月22日 TOHOシネマズ日本橋 229)
③デクリプト/解密
監督:陳思誠 出演:劉昊然 ジョン・キューザック 陳道明 呉彦祖 兪飛鴻 2024中国(中国語・英語)156分
これは、またまた…イケメン劉昊然、この映画では最初の少年期を除いて16歳から中年まで出ずっぱりだが、顔立ちは劉昊然のままながら抜け上がった広い広いおでこの上にしょぼしょぼと禿かかった髪の毛がくっついて、背を丸め、人付き合い苦手で、冗談らしきことを言うと女性がビックリというような天才暗号解読者金珍。しかもしばしば夢を見て―この夢のシーンはなかなかに(CGではあろうが)お金のかかった不思議世界を作っているーその夢判断によって暗号をも読み解いてしまうという神がかり的個性。彼が国共内戦末期?元ポーランド人で亡命者となっている天才的数学者に教えをうけるようになり、やがてアメリカ・中国と別れて師の作った暗号を解くことにより競争者になっていくというような人生を第三者の見た金珍(夫を回想する老いた妻を呉彦妹が演じている)という視点で描いていく。
なにしろ途中には香港での要人暗殺とか、アメリカだけでなく台湾でのゴタゴタとかが描かかれ、最後の方は金珍のアメリカの暗号解読が成功して、中国の原爆実験も成功ーちゃんと1964年のキノコ雲の映像も出てくるーもちろん政治に疎く数学バカみたいな金珍にはそれを称揚する意識はないのだろうが、彼を取り囲み秘密組織701に半ば監禁―幽閉?のようにして暗号を解かせる機関(トップが陳道明)はじめ機関側の面々には当然このようにして伸びた中国の(原爆さえもつ)力の称揚はあるわけで、ウーン、これは新手の中国プロバカンダ映画なのかもとも思わされる。役者としての劉昊然にとってはもちろん魅力的な配役ではあったろうとは思うのだが…。(10月22日 TOHOシネマズ日本橋 230)
④抓娃娃ー後継者養成計画ー
監督:閆非・彭大魔 出演: 沈騰 馬麗 史彭元 薩日娜 肖帛辰 2024中国 133分
金持ちの金持ちたる所以は、単にストイックに暮らさせるわけでなく、古い陋屋の地下?に秘密のオフィスを設け、祖母や隣人を装った大勢のスタッフが息子にそれと知られぬように四六時中見守り、息子の行動を制御しようとすることで、そこでジタバタする両親や家族のドタバタがコメディとしてのこの映画の眼目というわけなんだろうが…
しかしあまり笑えないんだよね〜。ここでも良き後継者になるために息子に要求され、用意もされるのは「北清大学」への入学で、言うまでもなく北京大学+清華大学が想定されている。車も自転車も使わぬ暮らしで毎日学校まで走った結果、息子は陸上競技のコーチに見出されてスカウトされるが、父は息子の足に麻酔剤を塗ってまで足が動かないことにして道を閉ざす。
ここにあるのは北清大学のみを成功とする価値観だが、最後に独立する息子は北清大学は拒否するものの体育大学に進み長距離選手になる。走りながらも、かつてスタジアムを借り切って父が仕向けたペットボトル拾いをするというのは、なんか笑いよりも先に痛々しさを感じさせられてしまうのだ。(10月23日 TOHOシネマズ日本橋 231)
⑤EPU~若き勇者たち~(維和防暴隊)
監督: 李達超 出演:黄景瑜 王一博 鐘楚曦 欧豪 朱亜文 2024中国 101分
これも、ウーン、いかにも今の中国映画というか中国勢力誇示映画?アフリカで内戦の起っているさる国に国連の要請を受けて出向き平和維持を行う中国の特別選抜警察チーム(FORMED POLICE UNIT)の活躍を描くーわけだがこれがなんともまあイケメンぞろいのなかに通訳兼保健・介護担当?みたいな紅一点。かたやアフリカは道端に手足のちぎれた死体がゴロゴロ、爆薬いっぱい。ドンパチドンパチと半端でない火薬とCGを使って、まあ話はわかったようなわからんような回収されない伏線(ともいえない)展開も何のその、途中で見せ場たっぷりに命を落とす女性隊員の献身的活躍ぶりや、隊長命令をきかずに飛び出す憂い顔の、超身体能力の二世隊員(王一博が演じていて、殉職した父の部下だった隊長に親しみと憎しみを抱いている?)、一方幼い息子に自分の仕事を理解させられずに悩む隊長(こっちは黄景瑜)とかちょっぴり私生活的要素もいれつつ、要はアフリカの「平和を守る」ために武力行使も自己犠牲もいとわぬ中国警察という笑えぬ娯楽映画。若い女性もいっぱい来ていて中国語も飛び交う客席は大会場だけれど満席(但し私の隣の客は最後まで来なかった)。(10月26日 TOHOシネマズ日本橋 232)
⑥アップストリーム~逆転人生~(逆行人生)
監督:徐崢 出演:徐崢 辛芷蕾 王驍 賈冰 馮兵 2024中国 121分
自らはエンジニアで管理職、専業主婦の妻と、国際学校に入学することになった娘、それに店を営んでいる両親と、順調に暮らしていたはずの男高志塁(徐崢)が、リストラの憂き目にあい、デリバリーの配達員になる話。いわばエリート社員から「転落」して、バカにしていたような仕事なのにまったくうまくいかず、そこに父が倒れて闘病という状況も加わって身も心もボロボロ、家のローンが払えず家も追い出されそうになるという前半から、妻の支えもあって一念発起、配達のための情報を引き出せるアプリを開発して仲間にも共有し、自身も成績をupして報奨金を得るも、自身は家族とともに身の丈に合った家に引っ越し、父も自力でリハビリに励むというようなハッピーエンドまで、デリバリー配達員の搾取されている状況から、仲間とともに自力回復までを娯楽映画として手堅くまとめた職人仕事みたいな映画であまり批評精神は感じられない。さすが徐崢とも思うが、徐崢にしちゃあ、今一つとも思えるような…。 (10月26日 TOHOシネマズ日本橋 233)
⑦最高でも、最低でもない俺のグッドライフ(走走停停)
監督:龍飛 出演: 胡歌 高圓圓 岳紅 周野芒 金靖 2024中国 103分
脚本家を目指しながら自らのネタを他の作家に使われたその映画を面白がってGFに怒られるような言ってみればお人よし?とも言えるような中年男(と映画内では区分けされている30代後半?)の呉迪(ウーディ)は夢破れ北京から故郷に戻る。家には折り合いの悪い父、舞踊の道をあきらめた息子の理解者の母、タクシードライバー10年の妹がいるが、故郷での呉迪の暮らしはやはり閉塞状況。そんな中で旧友の馮柳柳に再会し、ドキュメンタリー映画を取ろうとしている彼女の申し出もあり、呉迪が昔描いた自分の脚本で映画を取り、その彼の状況を彼女がドキュメンタリー化するというプロジェクトを行うことになるーというちょっと込み入った映画作りの映画になっている(なんか全然色合いは違うのだがプロットというかそのあたり、ホンサンスの映画を思い起こさせた)。呉迪の老人の不倫を描く映画に出るのはプロの役者だった男と、呉迪自身の母で、実家を舞台として使うことになり、そこでは呉迪の父がウロウロと怒りまたすねという感じで居場所を失っていったり…なんか行き場のない中年息子の物語と、かつて失った夢や恋にあきらめてもいたのに今一度みたいな感じになっていく高齢者(映画の中では老人と言っているが見かけはそれほどでもない。けどネタバレすれば母は映画中で亡くなり、取り残した映画を取る最後に驚きの?どんでん返しもあるのだが)の生き方がときに交差しつつも概ねは平行な流れとしてあるような映画で、それもホンサンスっぽい気もした。もっとも映画内の呉迪や、一緒に映画を取るカメラマンは小津安二郎ファンのようでもあり、映画好きの映画という感じはなかなか楽しめる。
(10月26日 TOHOシネマズ日本橋 234)
⑧雲の上の売店(雲辺有個小売部)
監督: 張嘉佳 出演: 彭昱暢 周也 艾麗婭 陳賢恩 孔連順 2024中国131分
タイトルが出るまでの主人公の男女の幼い日はアニメ。実写になって一生懸命努力はしたものの保険会社に勤務しても実績の上がらない劉十三という青年が、会社の飲み会でやけになって大酒をあおり人事不省になった夜、いつの間にか祖母の住む田舎に帰りーこの祖母が「小売店」を開いているというのが題名の由来になるわけだが、帰った彼がブラブラしていると、アニメの気の強い転校生だった少女程霜がやはり大人になって現れて、彼に祖母の知人の多い田舎で保険の営業をしてはどうかと勧める。町の人々のプロフィールがちょこちょこと描かれるが、まあ、とにかく人事的事件の多い街で、十三と霜をパパ、ママと呼ぶ少女が現れて離れなかったり、祖母が病気になり、やがてなくなるがそのときに十三の帰郷の謎が解け、祖母の死後、実は(とてもそうは見えないのだが)程霜も重病におかされていて手術を受けることがわかったり、1年後、3年後とかいう感じで映画の終わり、これでもかこれでもかという感じで出てきた人のその後が映し出されたり、なんかこれも盛りだくさんでここまで言わないと観客は納得しないのかなあ…。ま、これは台湾流というよりは韓流という感じかもしれない。(10月27日 tOHOシネマズ日本橋 235)
⑨黙殺~沈黙が始まったあの日~
監督: 柯汶利 出演: 王伝君(エリック・ワン) 張鈞甯 呉鎮宇(フランシス・ン)王聖迪 蔡明 沈浩 2024中国 119分
いや、まあなんともはや…出だしはある島?(中国大陸っぽくない。台湾かマレーシアかその周辺の?)の女子高校で、3人の女生徒が聾唖(手話は出来ないが、手に文字を書いて意思疎通しているから、やはり耳は聞こえない?)の一人を壮絶にいじめるー壁に接着剤で貼り付けて身動きできないようにして罵詈雑言ーうち一人は校長の娘?だからか教師や学校関係者も見て見ぬふりというか…、シングルマザーの母が学校に清掃員として勤めて娘の面倒を見ている。この母はアパートの屋上で金柑を育て皆に配っているーこれが怖ーい伏線の一つーさて、そうこうしているうちにいじめた側の女生徒が一人一人襲われ行方不明に。またもう一人特殊学級で聾唖の娘と仲の良かった少女の父親(在福)が不穏な動きを見せ…これを捜査するボスがすっかりふてぶてしく中年ぶりを発揮する呉鎮宇で、この男の息子はなんとストーカー、部下たちはなんかマレーシア系の顔つきをしている(監督がそもそもマレーシア出身)。で途中もう一つのいじめ(在福の娘が例の3人にいじめられ、こちらは命さえも失う)ーその復讐をする父という構図と併行して聾唖の娘の母子の6年前?ー夫の妻子虐待、娘の反撃とその罪を隠す母子というような事件と、行方不明になっていたいじめっ子たちの発見、元学校教師の監禁、警察の長官(と字幕にはある)は母を疑うが、実は…というような誰が犯人かで見ていくと二転三転、そして最後はカーチェイスと車横転側転の壮絶な事故(但しこの事故ではだれも死なない?)というように細かく論理的に見ようとすると????でちょっとついていけないところもあり、あまりに激しい少女たちの少女に対するいじめには、出演者たちがトラウマを抱えてしまわないかと心配になるほどだが…ウーン。最後海に浮かぶ小舟の父娘、母の庇護を離れて旅立つ娘の解放感を包む景色など、映像ビジュアルの落差も大きく、なかなかに「すごい」映画ではあった。台湾版があるそうでこちらはもう少し短いらしい。監督はマレーシア出身、主演の張鈞甯は「中国台湾」、呉鎮宇は「中国香港」のクレジットで、スタッフにも中国台湾、中国香港の文字が散見されて、そういう時代になっているのだなあとまたもや思わされる。(10月27日 TOHOシネマズ日本橋236)
東京国際映画祭
⑩陽光倶楽部
監督:魏書鈞 出演:黄暁明 陸小芬 賈樟柯 祖峰 2024中国【中国語・英語) 96分
黄暁明が15キロほど体重を増やし、知的障害のある息子を演じて上海映画祭最優秀男優賞をとったというこの作品。母親役が陸小芬で、この配役は私たちの中国映画鑑賞グループのラインで夏ごろちょっと話題になり、なぜ彼女の復帰第2作がこの大陸作品なのか、中国には他にこの年頃の母親役を演じられる女優はいないのかなどとの声もあったのだけれど、見てみるといやいや、『本日公休』の理容師役にもまして、明るく息子を支えつつもガンに倒れて亡くなるこの母の初々しい感じは復帰第2作がふさわしいとも思える。話そのものは健康や環境についての活動をする「陽光倶楽部」(首領って感じの賈樟柯が黒メガネで怪演)、その影響もあって?英語習得に励み家族に英名をつけ母を「ジェシカ」と呼ぶ息子とか、吸引どころ?はあるものの、母の死を見送り明るく自立していく息子を描いてあまり目新しい感じはしないが達者な黄暁明はじめとする役者たちのけれん味も含め楽しめる作品ではある。
⑪娘の娘
監督:黄熙 出演:シルビア・チャン(張艾嘉) カリーナ・ラム(林嘉欣)ユージェニー・リウ(劉奕兒) 2024台湾【中国語・英語) 96分 ★
『台北暮色』⑩後にアメリカにわたった黄熙が、現地で知った人工授精のことや、異国での事故を心配する台湾の母との関係などをもとに脚本を書いたという作品。元気もいいし、けっこううるさい母(シルビア・チャン)、そのなぜかアメリカで暮らしていたが認知症になり帰国するその母、付き添ってくる若い時にシングルで産んで手放した娘エマ、そしてその後の結婚で生まれたもう一人の娘祖児とその女性のパートナーが映画の最初の方で勢ぞろいし、そこから彼女たちのそれぞれの物語が紡がれていく。
祖児とパートナーはアメリカに渡り人工授精で子どもを持とうとするが、凍結した胚胎を残して一緒に交通事故死してしまう。後半は、後始末に渡米する母と、幼い時アメリカの中華街でレストラン経営をする夫婦に養子に出した上の娘エマの物語になり、前半影の薄い感じだったエマが母にとって存在感を増し、母のその後の生き方にも大きく影響を与えることになる。してみると、これは元気はいいが自らの生き方の枠を超えられなかった高齢者?の人生探求映画ということかな?(10月29日 丸の内TOEI 238)
⑫3匹の去勢された山羊(三個羯子)
監督:叶星宇 出演:フイ・ワンジュン フー・ビンアイ ドゥ・ホアンロン
2024アメリカ(中国語)80分 ★★
コロナ禍下の陝西省の山村、両親が飼っている羊の注文を受けて村に帰ってきた男(ホンフェイ)が、村の入り口でボランティアの自警団(感染防止の白マスク装束が物々しい)に止められ、感染源と疑われ自宅で七日間の待機を命じられ家は封鎖されて身動きできなくなってしまう。ボランティアの1人は主人公の大学生の息子で、このボランティアが、公務員試験を受けるための実績として評価されるとかで、父に対しても厳しく官僚的に対する姿がけっこうコメディカルにえがかれる。封鎖した羊小屋から羊が逃げだし、自警団員が追いかける様子や、フェイの両親ーちょっと攻撃的・積極的で、コロナ退散のまじない?をしたりもする母と結構長い物には巻かれるしかないと思っている父の掛け合いも面白いし、最後にフェイが羊を売ろうと抵抗する羊を縄で引っ張ったり抱いたりして暗い山越えをする場面のちょっと哀切な冒険シーンとか、また大学生の息子がドローンを使って村人を監視しする現代機器の活用のコワさとか、なかなかに見どころ多く、農村にまで浸透している監視システムや異文化?の排除が垣間見られるところもあって、ソフトながら骨がある感じの作品だ。監督は29歳の新鋭、映画は中国舞台の中国語映画ながら米国作品。(10月29日 TOHOシネマズシャンテ 239)
⑬わが友アンドレ(我的朋友安徳烈)
監督:董子健 出演:劉昊然 董子健 2024中国 110分 ★
『山河ノスタルジア』(2016賈樟柯)以後も役者として大活躍してきた董子健の監督デヴュー作ということで主演は、この秋出ずっぱりという様相の劉昊然(『デクリプト』③、『国境ナイトクルージング』㉑どの映画でもなかなかに違った演じ方をしていて意外に?うまい!)が正面からがっちりタグを組んだという感じ。二人が瀋陽に向かう(はずの)飛行機に乗り合わせ、雪で他空港に降ろされてしまい車を借りて瀋陽にむかうというロードムービー編の合間は主人公リーモーの回想の中の子役の二人と取り巻く家族の物語なのだが、現在編の方は、何処までが本当の出来事でどこからがリーモーの幻想なのかがわからないような作り方で、全体に暗く無機質な感じの映像とともに観客を不安に誘い込むような、それでいて結構リリカルさもあるような、印象的な仕上がりになっている。
父の葬儀に瀋陽に帰省する飛行機の中で偶然リーモーに隣り合った席にいたのは小学時代の親友アンドレ、だが彼は最初は自身がリーモーの友人アンドレであることを否定、次はアンドレであることを認めるが、自身も友人リーモー(飛行機であったのとは別人?という言い方)の父の葬儀に行くのだといい、しかしリーモーを自身の友人リーモーとは認めない。そんなふうに観客を不安に巻き込みつつ二人は旅を続けるが、実はそれらはすべてリーモーの心の中だけに起こったことだったのか…。監督自身はリーモーではなく特異な個性の持ち主としてリーモーに強い影響を与えるアンドレとして出演している。別の日のQ&A付きの回の回には二人とも登壇するらしいが、今回はQ&Aなしで、それがちょっと残念!
★コンペティション芸術貢献賞受賞 (10月30日 TOHOシネマズシャンテ 240)
⑭トラフィック
監督:テオドラ・アナ・ミハイ 出演:アナマリア・バルトロイ イオヌツ・ニクラエ ラレシュ・アンドリッチ 2024ルーマニア・ベルギー・オランダ(ルーマニア語 オランダ語英語)119分 ★★
『母の聖戦(原題『市民』)』㉔(2021)のテオドラ・アナ・ミハイが、『あのこと』⑪(2021オードレイ・ディバン)のアナマリア・バルトロイを主演に、監督自身の父祖の地であるルーマニアからオランダへの出稼ぎ者夫婦の絵画窃盗犯罪を描く。実際に2012年に移民の若者たちによってオランダの美術館から絵画が盗まれたという事件にインスパイアされたそうだが、事件そのものを描いたわけではないというのがQ&Aでの監督の話(このQ&A、監督自身と2人の男性主演俳優が登壇したが、3人の英語きわめてわかりやすく=母語でないということだろう=通訳不要なほど)。監督は前作はメキシコを舞台に娘を誘拐された母の物語を撮っているし、全世界方向で移民や貧困者の問題に目を向けて発言する気持ちが強いのだと感じられる。この映画の脚本は『4か月、3週間と2日』(2007ルーマニア)のクリスティアン・ムンジウで共同プロデューサーもつとめている。というわけで若いけれど、ものすごい顔の広さというか活動力を持ったこの女性監督にまずは脱帽(ちなみに『母の聖戦』はムンジウのほかにタルデンヌ兄弟なども共同製作者に名を連ねていた)。映画内容は前作のアクティブな激しさは影をひそめ、暗い画面、夫婦や友人間のセリフによって進んでいく前半のおとなしさは少々眠気を誘われたが(時間も悪かった)絵画を手に入れたあと故郷に帰り、やがて摘発の手がのびるという後半、特に夫の追い詰められた、しかし妻や家族に前では強気にふるまうしかない切なさ、妻のすべてを受け容れつつ毅然という表情の強さに打たれる。人として扱われない貧しい移民の立場を静かに訴えて気迫十分な感じ。
監督を挟んで二人の主演俳優・映画の子役で出演した監督のお嬢さんも会場に
⑮シマの唄
監督:ロヤ・サダト 出演:モジュデー・ジャマルサダー ニルファル・クーガニ アジズ・ディルダール 2024スペイン・オランダ・フランス・台湾・ギリシャ・アフガニスタン(ペルシャ語)97分 ★★★
1978年、共和制から社会主義に移行する時期のアフガニスタン。亡くなった将軍の娘で裕福・進歩的な家庭の娘スラヤと、その家の使用人であるムスリムの父娘。娘のシマは伝統音楽の歌い手で、スラヤと同じ大学で音楽を学ぶ。互いに影響し合い仲のよいシマとスラヤだったが、この政変の中でいわば敵味方に別れ、スラヤは国外への脱出を求められ、シマのほうは父を殺され、結婚した相手とともにゲリラ軍に加わり狙撃手となる。母とともに国外に出ようとして捕まったスラヤはシマに自白させることにより無罪を証明するように迫られる。というような50年近く前の出来事を語りつつ、今もシマの追憶に生きる老いたスラヤと孫娘シマ(友人の名をもらった)が現代のタリバン支配に直面するまでを描く。主張と迫力に合わせて、シマ役(イラン在住でアフガニスタンの楽器と歌は映画のために学んだそう)の強いが抒情的な歌が流れ、目も耳も離せないみごとな仕上がりの映画になっている。監督は女性や子供の権利を描く作品を専門としているとかで、タリバン政権以後国を出て、この映画もギリシャで、出演者もそれぞれ国外に住むアフガニスタン人、イラン人などとともに撮影されたものだそう。上映後のQ&Aでも会場からの質問は日本に亡命中の方などアフガニスタンの方からのコメントや、監督からの女性が牢獄に入れられているかのようなアフガニスタンの現状などが語られる。(10月31日 TOHOシネマズシャンテ 242)
⑯黒の牛
監督:蔦哲一朗 出演:李康生 田中泯 ふくよ(牛) 2024日本・台湾・アメリカ 114分 ★
丸の内ピカデリーの前から4番目。一つ前に座った人がカメラで上映画面をパシャパシャとり、携帯で話し、ピロピンとメールの着信音を鳴らすのに閉口した(どうも映画の関係者だったらしい。エンドロールに「名前が出ていたか」なんやか騒いでいたので、エキストラかなんかで?)が、映画自体は大画面の迫力で意外に面白く見た。最初は全裸の李康生が「山人」?という設定でさまよい、里に下りて老婆の死をみとりその家に住み着き、原野?で黒牛を見つけて飼う。牛と一体になって暮らし耕し、そして祭り?かなにかに牛を貸してくれと言われて貸し出すのだが、その牛が死んだという報せが来て茫然の大アップ長回し…場所の設定は日本(四国)であるらしいが、李康生にはセリフはなくすべて顔や体の表情で…監督自身がそれをねらってプロデューサーの市山尚三氏を介してオファーしたらしい。
8年かけて作った映画で、最初に京都フィルムメイキングプランニングマーケットに10分間のデモテープを作って出品し本編の出資者などを募ったらしい。その過程でデモテープをみた坂本龍一が「タルベーラの映画みたいだ」ということから音楽に参加してもらったという話も…。そういう監督の話がなかなか興味深いQ&Aだった。
全体は白黒35㎜で、「十牛図」に従って9章にわかれて題名がついて里におりるところから牛との出会いや別れまでが語られる。白黒だが木々や草の葉だけかすかにグリーンになったり、季節の変わり目にちょっと緑が濃くなったりいろいろに工夫されているみたい。大雨の中の牛とのシーンは雨の迫力の割に人物の髪や着物が全然ぬれないのでCGも駆使しているのかしらん…。そして最後に人がいなくて牛だけが5,6頭現れる場面は70㎜(65㎜)で雰囲気が変わるが、これは作者によれば「人のいなくなった世界」の表象らしい。ま、作りたい映画をひたすら作り、観客を強引にも話さず引き込む力はすごいなあと思う。(11月1日丸の内ピカデリー243)
⑰幼子のためのパヴァーヌ
監督:張吉安 出演:フィッシュ・リウ ナタリー・ウー ベン・ユエン 2023マレーシア 117分
マレーシアの複雑な民族、宗教、言語状況を反映して、なかなかに理解が難しいというか、文化状況をもう少し分かっていればより理解が深まったかなという印象。説明的な描写は抜きで、ヒロインの麗心(ラムサム)が、実は6年前に自ら子を赤ちゃんポストに入れたとか、悩みを持ってエセ宗教の犯罪祈祷に引っかかったとみせて、実は…とかはある程度話が進んでから観客には種明かしされるという構成なので、前半はいろいろ出てくる宗教的、民族的行事や風習もわかっていないとどのように映画の筋にかかわってくるのかがわかりにくく、そのわかりにくさが、複雑な社会ゆえの意図されたことなのだろうとは思いつつも、見ていて少々悩ましい。
(11月1日 TOHOシネマズシャンテ 243)
⑱海で泳げない鯨(不游海水的鯨 The Vessel's Isle)
監督:汪迪 出演:朱丛冉 野兆月 韓三明(共同プロデューサー)2024米【中国語)180分 ★
Q&Aは制作陣4人が並ぶ。ユニークな髪形の監督(右)ととーっても美人な美術監督(女性)ら…
客席には主演俳優二人(左)と監督のパートナーでもあるというプロデューサー
これはまた、なんとも美しい画面(光、色、風合い、夜の海のシーンも、昼間のカーテンから差し込む青っぽい光も、それに合わせた出演者の衣服の色合いの取り合わせも。それにホテルや、女性の住む部屋?のある建物の位置、向こうから男が小さく表れいったん消えて階段に姿を現すとかいうふうに凝った計算された画面構成も…)の中で、物語的には、特に大きな事件があるわけではなく、あるホテルに部屋をとった若い男と、同じ建物に住む?(知り合うのはダンスホールだが)若い女性写真家のつながっているようないないような物語と、並行して韓三明らがウロウロ(あるものは片手に煙草、韓三明はいつも酒瓶らしきものを持って赤いタンクトップ)するダンスホール周辺の男女(暴力沙汰があった?散らかった部屋とくたびれた人々のショットも出てくるが、色合い的にはこれも丁寧に計算されてグリーンのきいた「美しさ」)そしてベンチに座る老婦人とまあ、そんなものが交互に現れて青年の無為?と女性の実態が何だかわからない悲しみとが、ウーン、なんとも言えない雰囲気を作りだしたセルフドキュメンタリーならぬセルフフィクションという感じかな。若い監督らしい自分のみつめ方と同時に23歳でこれだけの美術、撮影監督、音楽担当、それ韓三明まで巻き込んだ若者(プロデュース担当のそのパートナー女性)のエネルギーというか人材集めの能力にかなり驚かされる。ともかく長回し、物語抜き、しかし(というかだから)180分の長尺というのがすごい!
これはまた、なんとも美しい画面(光、色、風合い、夜の海のシーンも、昼間のカーテンから差し込む青っぽい光も、それに合わせた出演者の衣服の色合いの取り合わせも。それにホテルや、女性の住む部屋?のある建物の位置、向こうから男が小さく表れいったん消えて階段に姿を現すとかいうふうに凝った計算された画面構成も…)の中で、物語的には、特に大きな事件があるわけではなく、あるホテルに部屋をとった若い男と、同じ建物に住む?(知り合うのはダンスホールだが)若い女性写真家のつながっているようないないような物語と、並行して韓三明らがウロウロ(あるものは片手に煙草、韓三明はいつも酒瓶らしきものを持って赤いタンクトップ)するダンスホール周辺の男女(暴力沙汰があった?散らかった部屋とくたびれた人々のショットも出てくるが、色合い的にはこれも丁寧に計算されてグリーンのきいた「美しさ」)そしてベンチに座る老婦人とまあ、そんなものが交互に現れて青年の無為?と女性の実態が何だかわからない悲しみとが、ウーン、なんとも言えない雰囲気を作りだしたセルフドキュメンタリーならぬセルフフィクションという感じかな。若い監督らしい自分のみつめ方と同時に23歳でこれだけの美術、撮影監督、音楽担当、それ韓三明まで巻き込んだ若者(プロデュース担当のそのパートナー女性)のエネルギーというか人材集めの能力にかなり驚かされる。ともかく長回し、物語抜き、しかし(というかだから)180分の長尺というのがすごい!
昨日一昨日と合計24時間!睡眠は6時間くらい?の山歩きの後で疲れてときどき睡魔に襲われるが意識が飛んで目覚めてもまだ同じ画面というのは安心感?があるような…(笑)
(11月5日 TOHOシネマズシャンテ 244)
⑲ザ・ルーム・ネクスト・ドア
監督:ぺドロ・アルモドバル 出演:ティルダ・スゥイントン ジュリアン・ムーア
ジョン・タトゥーロ 2024スペイン(英語) 107分 ★★
ベネチア映画祭’81(2024)金獅子賞受賞作でもあり、すでに2025年1月の日本劇場公開も決まっている作品だったが、やはり監督・主演2人のコンビネーションに心惹かれ、映画祭での1作とする。いかにもアルモドバルのスペイン風?カラフルな色彩の二人の衣装、什器それらが浮かび上がるような家具調度、そしてそれらのあるヒロイン・マーサの借りた家を包む自然の色、マーサの死装束となるレモン色のスーツと見送るイングリッドのグリーンや赤のセーター。死を語るにこういう色合いというのも死生観の一端を表しているのだろうなと思う。
物語は作家として成功しているイングリッドが、偶然知った元戦場記者として活躍した旧友マーサの病を知り見舞いに尋ねるところから。マーサはステージ3の子宮頸癌に冒され治療中だが、安楽死を望み、その際に傍にいてほしいとイングリッドに頼む。驚き困惑するが、やがて親友の気持ちを受け容れることを決意、マーサは「森の家」を最後の場として借り、二人はそこに移り住む。前半は病に疲れたマーサのティルダがリードしてジュリアン・ムーアは受けの芝居だが、後半決意を固めマーサを見守るイングリッドに話しの焦点が移っていき二人の女優の丁々発止のやり取りが見ものに。マーサは未婚で産んだ娘との確執を抱えているが、長年疎遠だった娘が終盤現れるが、これがティルダ・スゥイントンの二役で、ウーンそれも含めればこの二人のやりとりはティルダ勝ち? 合間に入る若きマーサとその相手のいきさつ部分は別の女優で結構「おとぎ話」的類型的な物語に仕上げているが、これもまあ二人を際立たせる効果を上げているのだと思う。多分来年1月にはまた劇場に見に行くのだろうな…という気になる見応え。(11月5日 TOHOシネマズシャンテ 245)
⑳春が来るまで
監督:ァシュカン・アシュカニ 出演:サハル・ソテュデー マヒン・サドリ サムランド・マールフィ マーディエ・ナッサジュ 2024イラン(ペルシア語)102分
夫との写真を撮ってもらった結婚写真家の友人や2人の子を育てるのに忙しい友人を訪ね彼女らの必ずしも上手くいっていない結婚生活の話を聞き、夫と上手くいっていることを羨ましがられながら、夫が仕事で単身赴任?中かつ、職業状況も危ういことが観客にも察せられるように描かれる。つぎにサマンは夫の勤務先へ。ここで夫がストに参加したことから解雇されそうになっていて心を病み休職中らしいこと、上司は夫に従順に仕事に戻れば「罪」は問わないというような言い方をし、彼女は夫の死は伏せたまま彼や同僚たちの待遇改善を叫んで、ほとんど暴力的につまみ出される。絶望的な雰囲気で街を歩くサマンの表情を繊細に演じる女優は、Q&Aに出てきた実物よりも何倍も美しい雰囲気にちょっと驚く。最後に彼女は実家へ。兄(姉?)夫婦は、夫が夫婦で経営している店を売り新しい事業を展開したいと考えているが妻は猛反対ー自分の働く場を奪われることにも拒否し、仲の良い両親もこの件については意見を異にしているようで、要はたとえ元気であっても度の夫婦も社会の渦の中で翻弄され問題を抱えているのではあるけれど、それでもサマンにとっては「夫がいるからこそ」の問題なのだろう。終わり方は幻想のなかでのサマン自身の自殺と、それに続く「春を待つ」イメージで、実にていねいにわかりやすく?構成されてサマン自身の心情と、それを取り巻く社会への問題への警鐘とがバランスよく主張されているという印象を受けた。
㉑怒りの河 (怒江)
監督:劉娟 出演:王碩輝 鄧恩熙 楊皓宇 王锵 呂星辰 2024中国 102分 ★★
これはまたなんかすごい迫力で、多民族の民俗文化を称揚する中国に対して、犯罪社会(もっともここで犯罪を仕切っているのも被害にあっているのも国境を越えてきた中国人ではあるが)であり、また政情不安から山岳国境地帯に横溢するゲリラの横暴をもってミャンマー批判もしている?と見えなくもない。
屠牛の伝統舞の継承者である男・胡登傑が、出稼ぎで行事を見せる仕事について4年、故郷に残し観光学校に通っていた一人娘天天の山からの転落死の報せを受けて故郷に戻る。娘の学友から季紅という同級生が娘を虐めていた動画を見せられ、登傑は紅を探し出して娘の死の真相を探ろうとする。金持ちの娘だが親に見捨てられているような紅は、BFの耗子(ハオズ)に誘われるままミャンマーに逃げる。そしてミャンマーまで追いかける登傑。
舞台はここからミャンマーの中国国境あたりの街に。登傑の弟分の義兄というのが、この街で麻薬密輸など犯罪組織の元締めになっている。紅はこの組織にとらえられ体内に麻薬を隠して密輸させられそうになっている。一方登傑は弟分の伝手でこの組織に職を得ながら紅の行方を追い、彼女が捕らえられ痛めつけられていることを知る。彼は彼はひそかに紅が換金されている部屋に忍び込み彼女を助け出し、ここからは中国へ向かって山道を息をのむような逃避行に。追いかけてきた耗子、や組織のものに追われ、山岳ゲリラの砲撃に会い、命からがらという見せ場になっていく。娘の死に紅がどうかかわったのかを知りたい登傑だが、紅が親からまったく見捨てられている(携帯で親に助けを求めても信じてさえもらえない)のに4年間娘を見捨てていた自分を思い知らされ、また親に見捨てられた級友どうしの紅と天天が親友だったーがハオズが紅から天天に気持ちを移したことにより二人の間に亀裂が入ったというようないきさつを知り、あたかもなくした娘の代わりに紅を助けようとする気持ちが登傑に沸き起こるのである。「怒りの河」は怒江。彼らが逃げていく山道を中国からミャンマーに向かって流れ、その川に撃たれたハオズの遺体が浮かぶ…紅は最後に、登傑から舞を習い、牛刀の梯子を渡る芸を身に着けて、この中国の山岳地で自立していくことが暗示される。なかなかに見どころ多くまとまりもいいのだが、CG場面はいささかお粗末、かな?
(11月6日 ヒューマントラストシネマ有楽町 247)
㉒赤いシュート
監督:ナンニ・モレッテイ 出演:ナンニ・モレッテイ マリエラ・バレンティー二 シルビオ・オルランド 1989フランス・イタリア 86分
少年時代水球選手であり、また共産党青年団員でもあったというナンニ・モレッテイが30代に作った水球選手ミケーレ(若い時代のモレッテイの自伝的主人公の名)の映画。最初のところで運転中に前の車の子どもたちに気を取られているうちに事故って、記憶喪失に陥ったミケーレはそれでも試合の場に出かけ出場することに。そのあとは概ねプールサイドと試合の水中シーンで、プールサイドではなぜか共産党について質問してくる女性記者とか、若い時代の共産主義の運動経験について語り共感を求める旧友とか、いろいろな人が取り囲んで彼に話しかける、なんとも観念的?な会話のの連続で、プール内シーンも含め、どうにも画面ビジュアルがきれいだけれども単調な感じで、申し訳ないながらついて行けずに半分くらいは寝ていたみたい(前々日まで2日間の山歩きの疲れはまだ癒えない⤵😓)。『ドクトル・ジバゴ』のエピソード部分などは残念ながらほとんど飛んでしまった。(11月6日 シネスイッチ銀座 248)
これで私の「東京国際映画祭」は全終了。家に帰ってからYouTubeでクロージングセレモニーを見ました。
コンペ・グランプリ:『敵』(吉田大八 日本2024)
最優秀男優賞:長塚京三(『敵』主演)
最優秀女優賞:アナマリア・バルトロイ(『トラフィック』⑭)
監督賞:吉田大八(『敵』)
審査員特別賞:『アディオス・アミーゴ』(イバン・D・ガオナ 2024コロンビア)
芸術貢献賞:『わが友アンドレ』(董子健 2024中国 ⑬)
観客賞:『小さな私』(ヤン・リーナ 2024中国)
アジアの未来作品賞:『昼のアポロン・夜のアテネ』(エミネ・ユルドゥルム 2024トルコ)
映画祭中に見たのは⑬⑭の2本だけ。あとは遠からず劇場公開があることを期待して待つというわけです。ともあれお疲れさまでした!
11月中にはまた「東京フルメックス」が始まりますが、これについては次号「11月の映画日記+山ある記」でご紹介していきたいと思っています。
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