【勝手気ままに映画日記+山ある記】2024年11月+東京フィルメックス
布引山ハーブ園からの神戸の夜景(11月3日夕18時半)
【11月の山ある記】
11月3~4日 六甲山全山縦走(2分割)
3日:須磨浦公園…鉢伏山…旗振山…鉄拐山…高倉山…(高倉台)…栂尾山274m…横尾山312m…東山…(町中)…高取山328m…(町中~鵯越駅)…石井ダム登山口…菊水山458m…鍋蓋山486m…再度越…再度東谷…布引ハーブ園山頂駅
12時間11分(5:40~18:00) 19.9㎞ ↗1884m↘1507m
4日:見晴展望台…布引雄滝…稲妻坂…摩耶山698.6m…掬星台…摩耶別山…六甲ガイドハウス…六甲ガーデンテラス…展望ポイント…西おたふく登山道入り口…六甲山931m…後鉢巻山…水無山…船坂峠…大平山681m…大谷乗越…譲葉山514m…岩倉山488m…塩尾(えんぺい)寺…宝塚駅
12時間7分(3:55~16:00) 25.5㎞ ↗1650m↘1761m
2日間合計 24時間18分 45.8㎞ ↗3535m 3595m コース定数88(きつい) 平均ペース90~110%(ヤマップ)
実は3分割3日かけてゆっくり歩くツアーに参加するつもりで11月2日早朝東京を発った。ところが当日は山陽~関西にかけて大雨、乗った新幹線のぞみは新大阪駅に1時間も止まり集合地の新神戸には間に合わず。結局この日の山歩きは中止となって、翌3日、4日の2分割で予定通りのコースをこなすことになる。ともにまだ真っ暗な早朝3時~4時台に神戸元町のホテルを出発し、4時~5時台に歩き出し、12時間(休憩は1日目は1時間21分、2日目はなんと45分!)の長丁場、山道だけでなく町中にいったん下って再度山に入るという繰り返しでもあり、アスファルト道歩きも多くて、なかなかにハードな道のりといえば道のりだった。六甲山全山縦走レースはもちろんだし、これを1日で歩くツアーもあるのだが、もはや私にはムリムリ!だ。
もっとも自販機もけっこう道々あるので水を補給したり、途中ドリンク剤やコーラなどを買って疲れを癒したりもできてけっこう楽しんだ。
このコース、須磨浦公園から東山のあたり、馬の背の岩場などは昨年の春に歩いたところ。また六甲山には今春芦屋川駅~有馬温泉のルートで歩いているが、その他は初めてで、ようやく六甲山もちょっとわかった!という気分になっている。今春の六甲山頂上はガスでなにも見えなかったが、今回は晴天、沢山の人々が頂上で楽しんでいるのに遭遇する。
1日目須磨アルプス~
わりとキノコが目立った。
六甲山方面をのぞんで歩く→山頂到着(六甲・最高 の写真)
アスファルト道路歩きもけっこう多い・キノコ?・宝塚の街がようやく見えた!
大雨の2日の午後、ひょいと空いた半日は神戸市立博物館で『デ・キリコ展』を見ました。
東京で見損なっていたのでちょうどよかった。土曜は8時まで開館、学芸員のレクチャータイムもあって大満足でした。
次号に特別号として掲載します。
【11月の映画日記】
①まる②最後の乗客③ゴンドラ④動物界⑤本心⑥ルート29⑦劇場版アナウンサーたちの戦争⑧ボレロ永遠の旋律
⑨以下は後掲「東京フィルメックス」に…10月全半は①②⑤⑥⑦と日本映画をたくさん見ました。★はナルホド ★★はいいね ★★★はおススメの個人的意見です。(日にち・上映館の次の数字は、今年劇場で見た映画の通し番号 今年は300本は達成できそうもありません)
①まる
監督:荻上直子 出演:堂本剛 綾野剛 森崎ウィン 吉岡里帆 小林聡美 柄本明 片桐はいり 2024日本 117分
久しぶりの荻上映画の今回の主人公は、傲慢な有名現代美術家のアシスタントを務めるマジメだけれど、あんまり気力が充溢しているとは言えないような青年サワダ(堂本)。いつも「祇園精舎の鐘の声諸行無常?の響きあり…」と平家物語の冒頭を唱えている。自転車の事故で腕を骨折、あっという間に解雇され無職になってしまいコンビニでアルバイトをすることに。ミャンマー人の同僚の片言の日本語(実はこれも「フリ」の気がある。森崎ウィンが演じているのでなおもそう見えるのかも)に叱咤されながら働く。ボロアパートの隣室には暴力的な雰囲気の漫画家志望青年(綾野)がいてサワダに共感と敵意を燃やしながら自らの不遇(売れないこと、世に出られないこと)を嘆く…この3人の関係ないながらトリプル感があるところが何とも妙。サワダの元同僚の闘争的な女性(吉岡里帆)が戯画的に描かれているのはどうなんだろうなあ、熱演ではあると思うけれど…。
で、サワダがひょんなことから自室にいた蟻に導かれるように描いた「まる」(「円相」柄本明扮する茶の湯の宗匠が「無限の輪?」を説くシーンあり。わかりやすいが、ちょっと仏教や茶道の境地に偏り過ぎて抹香臭い気もしないでもない)が彼自身の知らないところで売れて、彼は思ってもみなかった境地に…という話。終わりもなく最期はまたまた??事故の音で終わるが、なんか今までの荻上作品と並べてみると茫洋としたとりとめもない感じが強くて、そういうなんか悪く言えば受身、状況を受け容れてゆったり飄々という人物に特徴があった映画が、今回は少しというかかなり生々しさを伴う取り留めなさになってしまっているのは、画商や、絵画ブローカーみたいな人物が絡んでいるからか?おまけにエンドロールには堂本を中心にするメイキング映像までついていて、え??アイドル映画か…
(11月7日 府中TOHOシネマズ 249)
②最後の乗客
監督:堀江貴 出演:岩田華玲 冨家ノリマサ 長尾純子 畠山心 谷田真吾 2023日本55分
東日本大震災後10年、アメリカ在住の監督がクラウドファンディングによって作り上げた55分のこの映画、徐々に世界の映画祭で評価されて、ユーロスペース(多分都内ではこの1館?)でロングラン。その最後の1日をやっと見に行った。
ある夜のタクシー運転手、深夜浜町までという黒づくめの若い女性を乗せる。都会に出ていったまま戻らない娘を愚痴っていると、突然飛び出す親子、救急車を呼ぶという運転手を拒みこの親子もまた浜町までというので相乗りをさせて送ることにするが…。
55分の中に、東日本大震災で親しい人を失った喪失感ともに失われた命のこの世に残した思いを特に親子の視点で描いて一幕の舞台劇のような感じにしあげている。ただそれゆえか、全体に演技過剰というか、わざとらしい感じもあって、映画としてはすこし興ざめ?にも思われた。(11月8日 渋谷ユーロスペース 250)
③ゴンドラ
監督:ファイト・ヘルマー 出演:マチルデ・イルマン ニニ・ソセリア ズカ・パプアシビリ 2023ドイツ・ジョージア85分 ★
監督はドイツ人で、映画の舞台はジョージアの田舎に実在し、ジョージアで最も長いゴンドラとして知られているゴンドラで(もっとも飾り付けたり、船やロケットにまで変身させたゴンドラ、まさかホンモノとは思えないけれど…)そこに勤務する二人の女性がすれ違いながら上下に行き交うゴンドラに乗りながら互いに気持ちを交わし、駅長に邪魔されながら交互にチェスを楽しんだり、網で取ったザクロ(かな?)などを受け渡したり、ゴンドラをそれぞれに飾り立てたり、果てはゴンドラ内の演奏を下に住む人々のさまざまな日用品を使った楽器とともに演奏をしたり。一つ一つはちょっと現実にはあり得ないような設定ながら小さな童話的情景になっていて、ジョージアの山や森の美しい風景の中で二人の乗務員女性や、下に住む人々のいかにも楽しい心の触れ合いが見られるという至福のおとぎ話的時間を過ごすことができる。予告編も何回か見て、けっこう予告編のまんまかなとも思えるが、ただゴンドラ下に住む村人たち、ちょっと不思議な雰囲気の未亡人とか、車いすの老人とか、大工(樵?)とか、男女の子どもとかは予告編以上。
実はジョージア映画(だったと思うが)に、やはりすれちがって行き交うゴンドラを舞台にこちらは男女の恋物語を描いた作品があった気がして、過去に見た映画を一生懸命検索してみたのだがわからない。なんか雰囲気としてはとっても似ている映画だった気がするのだが…。どなたかご存じの方がいたら教えてください。あちらももう一回見直したくなった。
(11月8日 新宿シネマカリテ 251)
④動物界
監督:トマ・カイエ 出演:ロマン・デュリス ポール・キルシェ アデル・エグザルコプロス トム・メルシェ 2023フランス・ベルギー 128分 ★★
2023年度セザール賞で最多12部門ノミネートを果たし、フランスで観客動員100万人越えのスマッシュヒットを記録した話題作、とはいってもアニマル・スリラーとか、予告編のなんかすごくおどろおどろしいエグそうな印象からはあまり見に行く気がしなかったのだけれど、「週刊金曜日」の映画欄で紹介されているのを見て、ナルホド!突然変異により動物化(鳥・虫・カエル・猛獣…さまざまな種に)し、狂暴化する人々が現れた近未来パンデミックというのはありえそうもないが、それゆえにそれを封じるために動く人々、あるいはあたかも他人事のように排除していく人びと、自ら「感染(はしないのか…変異だし)」する少年の他人事から怖れ、目をそらす、やがて自らも排除されて排除された変異者(新生物)と心を交わしていくような過程と、それをあくまでも排除しようとする多くの人々、排除は出来ず彼の自立を支えようとする父など、このあたりはリアル?に現代のパンデミック下、あるいは移民や、戦争難民、少数者を抱える社会のありようを描き出していて、現代的にところを得た、みごたえのある1本。
クレジットは父親役のロマン・デュリスがトップだが、映画自体の主役はむしろ息子役のポール・キルシェの感あり。2023年末日本公開だったウインター・ボーイ㉜の主人公としても印象に残る美形の少年である。鳥に変異して異形ながら空も飛ぶトム・メルシェがなんか格好良くて気持ちよさそうでいながら哀しい。公開2日め、土曜午後の映画館はほぼ満席だった。(11月9日 新宿ピカデリー 252)
⑤本心
監督:石井裕也 出演:池松壮亮 三吉彩花 水上恒司 仲野太賀 田中泯 綾野剛 妻夫木聡 田中裕子 2024日本 122分
平野啓一郎原作だが、残念ながら未読で、母を失った青年が母のVF(バーチャルフィギュア)を作ってもらい対話を試みるが母の本心は結局わからず、という映画なのかなと思っていたら、いやいやもっと複雑(怪奇?)な近未来?映画であった。主人公の朔也は大雨の川にたたずむ母を助けようとして自ら溺れ?1年間も人事不省になったのちに目を覚ます。母はすでに「自由死」(あの雨の夜に死んだのか、その後なのかはわからないが)、この死に方だと制度的にはいろいろ保証されているらしく、朔也は元の家に戻るが、勤めていた工場はAI化?の影響ですでになく、友人の世話でリアル・アバターという仕事につく。依頼を受けて依頼人の代わりに行動し依頼人に疑似体験を味あわせるという仕事だが、朔也にはなかなかうまくいかない。一方母のVFを作る過程で、母が親しかったという女性三好と知り合い、母のVFを含めて「3人」で同居するようになる。仕事中?の人助けが知らぬ間に撮影されてSNSで拡散され、一躍有名になった朔也はAIデザイナー?のイヴィと名乗る(三好は知っていた有名人)と知り合い、その仕事を手伝うようになるが…というわけでリアル・ヴァーチャルの境界が崩れていく社会とその中で翻弄されて母のどころか自分の本心も見失いそうになる男?ということだろうか。見ているとその静かな雑駁さというか雑然とした感じというか、それに自分もなんか浸食されて行きそうーというのが映画のねらいなのかもねーで怖くなる。(11月11日 府中TOHOシネマズ 253)
⑥ルート29
監督:森井勇佑 出演:綾瀬はるか 大沢一菜 伊佐山ひろ子 高良健吾 河井青葉 渡辺美佐子 市川実日子 2024日本 120分
『こちらあみ子』⑧ の森井勇佑監督が、再びあみ子の大沢一菜を起用して、綾瀬はるかとの組み合わせで作ったロードムービー、で『あみ子』の切なさにほろりとした身としては大いに期待して見に行ったのだが…。ウーン悪くはないんだろうけれど。
大沢と綾瀬どちらもエキセントリックな要素をもつ存在として周りから超越して生きているような二人としてあえて組み合わせて設定した意図があまり生きているようには思えない。姫路から母を訪ねて鳥取まで、いかに怖いもの知らずのふうを見せるとはいえ中学生に交通手段もなく一人を旅をさせるわけにはいかなかったのだろうし、綾瀬演じるのり子については、行動力もありつつあまり人の気持ちがわからないというか、わかることを恐れるような資質が中学生ハルとの旅により(ハル以外の人とかかわることにより)変わっていくというテーマは、納得して受け入れるにはあまりにありきたり?しかも二人が道々出会う人々ー車を盗む犬連れの婦人、森を旅する親子連れ、時計屋の老女主人などなど、ハルの母やのり子の姉も含め、が結構みんな主人公2人に負けないエキセントリックさなので、2人が普通の人に見えてしまうのかもしれない。ウーン映画って難しいものだ…
(11月11日 府中TOHOシネマズ 254)
⑦劇場版アナウンサーたちの戦争
演出:一木正恵 出演:森田剛 橋本愛 高良健吾 浜野健太 安田顕 古舘寛治 2023日本113分
2023年8月にNHKで放映された『アナウンサーたちの戦争』(残念ながら多分未見)の劇場版ということで「監督」はいなくて「演出」になっているのはそういうこと?戦争中に戦意高揚をプロバガンダを担わされ、また占領地の外国向けには偽情報を流すことで戦況を混乱させるような役目も負わされたアナウンサーたち、とくに「虫眼鏡で見て、望遠鏡で語る」と実況放送に取り組み人々の心のひだや生活を生き生きと伝えようとした和田信賢の苦悩、逆に放送によって日本を勝利に導く一端を担おうという意識でフィリピンなどに派遣され、戦争そのものに巻き込まれ死ぬような苦しみを味わった同僚アナウンサー、女性ゆえに戦時中の仕事の場を奪われた和田の妻美枝子やその同僚女性(空襲で命を落とす)などのありようをわかりやすく、 丁寧に、さらに早稲田出身の特攻兵なども含めて一つのいわば群像劇として描き、「ことば」というものの恐ろしさというか威力を今更ながら確認もするような作品になっている。いつも紫の和服を見につけた和田美枝子(昭和の終わりまでアナウンサーをつとめた)を演じている橋本愛は少し存在感がありすぎで意志の強さは感じられるものも、どうなのかなあ。和田を演じているのは森田剛(戦前、戦後を通じていささかおしゃれすぎ?決まったスーツ姿に真っ白なワイシャツ)で、非常な熱演。
(11月13日 下高井戸シネマ 255)
⑧ボレロ永遠の旋律
監督:アンヌ・フォンテーヌ 出演:ラファエル・ペルソナ ドリア・ティリエ ジャンヌ・バリバール エマニュエル・ドボス ソフィー・ギルマン 2024フランス121分
最初は母に励まされてピアノコンクールに行くも予選落ちとなり2階の窓から落下?する若き日のラベル。才能と技能は抜群で美男なんだけれど、なんか神経的に細いというか自己のうちのみを見つめている青年ラベルを取り囲むのは夫がいて「不倫」まではいかないけれど心の友とも言うべき支えになってくれるような彼のミューズ・ミシア、彼に官能的な楽曲を依頼するダンサーのイダ、自らもピアニストで辛口の批評も含めやはり彼を母的?に見守るマルグリット、そして献身的な家政婦のルヴロも含め、いずれも存在感のある年上で彼を引っ張ったり支えたりするような女性たち、というのがなんともなあ、あまり好きとはいえない世界だ。その女性たちに囲まれ励まされ、何かとインスパイアされながらー家政婦の流行歌「バレンシア」の歌唱によって励まされるというあたりはなかなかにいい感じに描いているが…ースランプのラベルは、過去を思い出し悩みつつ「ボレロ」を完成させるが、イダがその曲によって官能的なバレエ―を作り上げ公演を成功させる、それも彼には気に入らず、「ボレロ」嫌いを広言し、そのうちに体を壊し最後は死して夢の中で「ボレロ」の指揮棒を振るという、なんともすっきりもしないし、なんか見ていて疲れる映画だった。ただ15分に1回世界のどこかで演奏されているというボレロ(そういえば数日前、ユーフォニウムを吹く孫娘が「ボレロ」のソロ演奏の動画を送ってきたっけ。そういうのも含まれているのかな)だそうで、タイトルロールではそのさまざま演奏・ダンスシーンが繋げられ、エンドロールではたくましい黒人の男性ダンサーのソロ演舞で、ここはどちらも見ごたえがあってよかったんだけど…。
(11月13日 下高井戸シネマ 256)
【東京フィルメックス報告】
⑨-①雪解けのあと ⑩-②ソクチョの冬 ⑪-③ポルポトとの会合 ⑫-④ベトとナム
⑬-⑤白衣蒼狗(モングレル)⑭-⑥未完成の映画 ⑮-⑦ハッピー・ホリデーズ ⑯-⑧ブル―・サン・パレス ⑰ー⑨四月 ⑱ー⑩スユチョン ⑲-⑪何処 ⑳-⑫無所住
⑨-①雪解けの後
監督:ルオ・イーシャン 2024台湾・日本 110分
監督の友人ユエが恋人のチュンとネパールにトレッキングに行き遭難して、ユエは助かるがチュンは亡くなった。「生き残った者は自分の体験を語らなければならないというチュンのことばに触発され、実はともにネパールに行くはずだったルオ・イーシャンは、チュンが残したノートや、ユエに対するインタヴュー、また彼女自身が二人の足跡をたどってネパールに行くなどしながら失ったものについて考え意味を探っていくという非常に若々しい?ドキュメンタリーだった。ちょっと盛りだくさんに詰め込んでいる気もしなくはないが、何しろ私自身がネパールから帰った翌日、ということで懐かしく美しいネパールの山々や、また彼らの出身地台湾の景色を楽しんでしまい、かつ込み入った心情吐露の場面などは目の方がすっ飛ばしてしまった(何しろカトマンズから成田まで機内泊のあと、一応寝たんだが寝たりないという状態)ところも否めず。スミマセンだ。終わって監督のQAあり。(11月27日 丸の内TOEI 257)
⑩-②ソクチョの冬
監督:コウヤ・カムラ 出演:ベラ・キム ロシュディ・ゼム ★
原作はエリザ・スア・デュサバンというフランス・韓国の出自を持つ作家の自伝的?(主人公の名前がスアで、いっしょ)小説、監督は日本+フランスのダブ、カムラ氏ということで、異文化異民族混交的映画かと思いきや、むしろいかにも韓国の田舎町という雰囲気の強いソクチョンの街での届かない異文化への交流に悩むというか戸惑う若い女性の自己探求?受容の物語。異文化フランスの方を演じるのはフランス人俳優だがウーン、ヒロイン・スアは彼を通して異国の、自分を捨てた(母の妊娠も知らずに帰国した)父の面影を見るというわけだが、このフランス役者のなんかイマイチ品に欠けるというか自己中心的な面持ちはなるほど「求める父」像に合致してるんだわと納得。ベラ・キムの長身、すっきりした雰囲気のしかし、行き場わからずもだえるような行動・雰囲気とも相まって、このなんというか非現実?(私なんかから見れば遠い世界という意味で)をリアルに見せている。ところどころ挿入されたアニエス・パトロンのアニメーションはヒロインの心的状況を表すとにこと。この作品も監督の初監督作品であるらしいが、『雪解けのあと』のういういしさに比べると、本人も言っていたが啓発されたという是枝裕和作品に見られるような繊細な場面回しセリフ回しはむしろ老練?の感もあり。帰りの電車内で原作(キンドル版)を早速購入読み始めた。(11月27日 丸の内TOEI コンペ 258)
カムラ監督QA、彼は日本語も話すがQAは英語。通訳が滅茶苦茶でけっこう大変! |
⑪-③ポルポトとの会合
監督:リティ・パン 出演:イレーヌ・ジャヤコブ グレゴワール・コラン シリル・ゲイ
2024フランス・カンボジア・台湾・カタール・トルコ 112分 ★★
1978年ジャーナリストのエリザベス・ベッカーが学者のマルコム・コールドウェルとジャーナリストのリチャード・ダットマンとともにプノンペンを訪れポル・ポトとの独占インタヴューを申し込もうとしたときの経緯を描いた記録を、当時のアーカイブ映像や、リディ・バン作品にいつも出てくる土人形たちの映像を交えて、3人の探訪者やポル・ポト派の兵士たちは現代の役者が演じるという形で1本の半記録映像・半劇映画に仕上げたという興味深い作品だった。3人はなかば軟禁状態に閉じ込められ自由な取材も、また申し込んだ首脳部との会見も認められず、できる取材をしながらーというか3人のスタンスが微妙に違って面白い。ポル・ポト派の首脳とかつて留学先で友だったというアランは何となく心情的にポル・ポト派の理解者?たろうとするし、もう一人のカメラマンは取材ができないことにいら立ち一人歩き周り「惨劇」を目撃するも行方不明になってしまう。間でこの映画の視点人物として女性ジャーナリストがこの物語を語るという構成。何十年か経って過去の映像も交えながら、あらたにこんなことがあったのだという視点で発言をする、さすがのリディ・バンという作品かと思える。サポーター招待で無料鑑賞。ありがとう!(11月28日 丸の内TOEI 259)
⑫-④ベトとナム
監督:チューン・ミン・クイ 出演:Pham Thanh Hai Nguen Thi Nga 2024
ベトナム、フィリピン、シンガポール、仏、蘭、伊、独、米 129分
アメリカで同時多発テロがあった2001年のベトナムを舞台に、ベトナム戦争の記憶が人々の中にどう生きているかを、二人の青年(表向きには兄弟のような親友、実はクイアの恋人同士)の姿を通して描いている。カンヌで「ある視点」部門で上映された意欲作というのだが…。ラジオの尋ね人放送を通して知らされるベトナム戦争での死者の埋葬地を捜す声とか、ベトナム戦争で亡くなった父の遺骨を捜してナムの母と叔父、そしてベトが国境を目指して旅をするロードムービーとか、その合間にある二人の男の長い長いキスシーンとか、性交後に相手の性器を丹念にぬぐうシーンとか、なんかあまりにも盛りだくさんに詰め込んでいる感じで、これらを通して何らかの形でベトナム戦争の記憶について訴えたいのだとはわかるが、二人の若い男のクイアの恋人としての存在意味がイマイチ最後まで私にはわからず、自分の老い?も感じつつ、ウーン。もう少しすっきり描けぬものかと思ってしまう。二人の青年がわりと似たタイプでどちらがベトでどちらがナムかも実は最後まであまりよくわからず。Q&Aには監督ではなく主演の青年の一人が参加。(11月28日 丸の内TOEI コンペ 260)
⑬-⑤白衣蒼狗(モングレル)
監督:チャン・ウェイリャン 共同監督:イン・ヨウチャオ 2024台湾、シンガポール、フランス 128分
長い長い、しんどいしんどい128分。病の老婆はあくまでも病の老婆で、障がいのある青年はまさに「障がい者」として生き、不法移民を使って出張介護センターを営む男はあくまでもその範囲の生き方しか見せず、そして主人公のタイからの不法移民で、丁寧な介護ぶりで今は主人と同僚たちのいわば仲介役にもなっている青年だけが抑え目ながら、自身の感情や、そのもてあましぶりなどを見せる。社会状況としての「不法移民」問題、その彼ら移民の暮らしぶりなどはなかなか生々しいというか描けているとは思うが、とにかくユーモアのかけらもない画面展開にただ茫然という感じも。移民仲間の一人が亡くなって捨てられたり、主人公の青年は障碍者の孫を抱えて自身も老い先短いと感じている老女性から、なかなかにしんどい願いを持ち出されたり、なかなかにドラマティックな展開になりそうな要素もあるのだが、カメラはいつも遠くから淡々としかし丁寧な長回しでこれらの行動を追っている感じである。力作というべきではあろうし、カンヌ監督週間で初監督作品を対象としたカメラドールのスペシャルメンションを授与されたという作品でもあるのだが…。体調不良?とはいえ、意外に眠ったシーンは少なかったようにも思うが、2度観る気にはとてもなれない。(11月28日丸の内TOEI コンペ 261)
Q&Aで語るチャン監督・イン共同監督 |
⑭-⑥未完成の映画
監督:婁 燁 出演:秦昊 毛暁瑞 斉渓 2024シンガポール・ドイツ 107分 ★★
ナルホドね!こんな描き方のコロナ禍映画、さすがのロウイエ!2019年、10年前のPCを立ち上げてその中に残されていた映画を完成させたいという監督の意向がスタッフに伝えられ当時の主演俳優が呼ばれる。これがロウイエではない人物が演じるロウイエ的監督と、秦昊演じる江(ジャン)という名の役者で、どちらもそれっぽく(本人ぽく?)演じているように見えるのが何ともおかしい。ところが20年に入って武漢からコロナ禍がはじまり、ジャンはホテルに缶詰めになり、配給される食糧で暮らしながら自宅の妻子と携帯でつながるだけというその様子が延々、さらに映画撮影のためのオンライン会議とかそんな様子ーこれらは皆スマホ画面のサイズでーもうつされて未完成の映画がなかなか完成への道を踏み出せない様子が描かれる。少し前、コロナの時期に私たちも多かれ少なかれ経験した状況であり、秦昊が役者を演じているということではドキュメンタリー的に見てしまうが、実は(多分)もちろんこの時期が去った後の演技映像として取られているわけで、未完成なのはどの映画?と幻惑されてしまうところもロウイエ作品かな?面白い試みと見た。(11月29日 丸の内TOEI 262)
⑮-⑦ハッピー・ホリデーズ
監督:スカンダル・コプティ 2024パレスチナ、ドイツ、フランス、イタリア、カタール 123分 ★★
イスラエル・ハイファに住むパレスチナ人一家。序章は事故に遭い保険請求のために過去の医療記録を必要とするが、その中に「避妊」をしているという項目があることに困惑、隠したい学生のフィフィ。フィフィの兄ラヒは恋人の妊娠と主張する出産に困惑。友人のユダヤ人医師に相談。また、父親の犯罪まがいの負債を背負った事実に付き合い、住居を売る相談に立ち会ったりしている。母親はそのような経済状況は知らずにもう一人の娘の迫りくる結婚に備えてでいるだけ豪華に立派な支度をしたいと張り切っていて、それに乗り気にならない父親(夫)に不満や不信を抱く。フィフィの高校生の姪っ子?ー多分母の妹の娘?は学校がうまくいかず鬱的な傾向があるとのことでカウンセリングの受信を勧められる。看護師をしている母親は彼女を心配し受診させるが、その結果適応障害ではなく、徴兵忌避の志向を母親にも学校にも言えなかったのだということがわかり、娘に対して激怒するー徴兵を嫌がるとは何事だ!って…。ラヒの友の医師はフィフィに好意を抱くが、フィフィが避妊をしていた=婚前性交をしていた=と知り別れを告げる。ユダヤ人の戒律でも女性の婚前交渉は許されないというわけで、物語は、そのような男への気持ちを断ち切って自立していく姿で幕を閉じる。この物語はパレスチナ人はがたくさん残っているイスラエルの地域を舞台にしているということでパレスチナ人とユダヤ人がまじりあって住み、教育を生部大学生フィフィは実習でユダヤ人ばかりの保育園に行ったり、パレスチナ人だけの大学というのはないそうで、大学でも両者が混淆して学んでいるという状況。その中でそれぞれの民族の家父長制というより伝統的な習慣や価値観が軋轢をおこす姿を描いて若者が底からどう旅立てるのか旅立てないのか―まあ、男はダメというのは定石かーを描いて興味深い。役者はすべて素人でワークショップを経て医師は医師、学生は学生という感じで自身に近い役を演じるというメソッドで脚本も定まったものはないらしいが、仕上がり完成度はなかなかで今回、今までの中では一番面白く見た。(11月29日 丸の内TOEI コンペ 263)
監督Q&A |
⑯-⑧ブルー・サン・パレス
監督:コンスタン・ツァン(曾佩裕) 出演:呉可熙 李康生 2024アメリカ 116分
冒頭は鶏料理をおいしそうに食べるディディ(中国式マッサージ店の店員)、見守るチュン(台湾に妻子をおいて仕送りをする出稼ぎ労働者)の、言ってみれば互いに決して恵まれない厳しい移民生活の中で楽しみや夢を見出そうとする男女の姿。一方映画のヒロイン、ディディの同僚で料理好きのエイミーはマジメ一方という感じで、ものの見方もあまり明るいとは言えず、映画の中盤、思いがけないディディの死後、すっかり気が抜けたようなチュンと前にもまして暗く沈むエイミーの間に付き合いも生まれるものの、映画のトーンはどんどん暗く…。エイミーはマッサージ店の仕事で客にセクハラまがいの嫌がらせや暴力を受け、とうとうこの店をやめて親戚?の食堂で働くようになる。訪ねて行ったチュンは彼女に会うことはせず海辺への道を聞いて一人海を見つめて煙草を吹かす。エンドロール5分以上はこのチュンのアップの表情で、李康生の面目躍如というところか。全般にワンシーンワンシーンが長くて、それによって幸福感も不幸の感じも増幅されているのだろうとは思うが、見ていてちょっとイライラ疲れるのはこちらの体調と老いのせいか。(11月30日 丸の内TOEI 264)
⑰ー⑨四月
監督:デア・クルムベガスヴィリ 出演:イヤ・スキタシュブリ カカ・キンツラシュブリ
メラーブ・二ニッゼ 2024フランス・イタリア・ジョージア 134分
冒頭は、丸々裸の女性が仰向きに横たわる俯瞰で撮影された出産シーン。ウーン。意欲的とは思うがこれだけで映画の楽しみとしてはひいてしまうというほどに生々しい。あとに男の丸裸シーンも、帝王切開シーンもあるが、これらを取り囲むのはストップモーションと言っていいほどに動きのない長回しの風景、室内、男女の抱き合いシーンなどで、映画で見るより写真集かなんかでもいいのではないのと思ってしまうほどの長い長い一光景が続く。未登録・未受診の妊婦から生まれた子の死の責任を問われ、そこから合法ではあるが社会的政治的な力によって認められない中絶手術(姉の夫の性的虐待で妊娠したとかいうような話が出てくる)を続けてきたことへの責任をも問われる産科医二ナの歩みといっても心の?を描くのだけれど、超現実的というか抽象的な描き方なのでウーン。意欲はわかるがこの描き方しかできないのという感じ。私は必死で目をこらしていたものの、映画祭にもかかわらず私の周辺では寝息のオンパレードだった。今年のフィルメックス、プログラミングディレクターの嗜好なのだろうか、長回し、動かぬ場面の繰り返しで「間接的」に語るというような作品ばかり見ている気がして、すごく疲れる。(11月30日 丸の内TOEI コンペ 265)
⑱-⑩スユチョン
監督:ホン・サンス 出演:キム・ミニ クォン・ヘヒョ チョ・ユニ 2024韓国 111分
ソウル市内?の大学で教えるジョンイム(もう40歳になった)は学生の演劇(寸劇)の演出をしていた学生が同時に3人の女子と付き合ったということでクビになった後、自身の叔父で元有名な劇作家、今は本屋を営むといういうチュ・シオンに助けを求め、シオンがジョンイムの大学をたずねるところから。話としてはシオンが無事に学生の指導を引き受け、ジョンイムは叔父を、自身の師事するチュン教授(50代くらいの女性)に引き合わせる。あとはホン・サンス映画の常で、3人が学校近くのスユ川のほとりのうなぎ屋でうなぎを食べ、飲みかわし、深夜シオンは酔ってジョンイの家に行き一夜を明かし、そしてまた次の日の飲み食いシーン。学生たちの演劇のシーンも飲み食い場面、打ち上げでシオンはジョンイムと学生たちを連れ出しまたまた宴会、その席上演じられた劇はどうも学長の意に沿わなかったようでチョン教授、続いてジョンイムも学長室に呼び出され…というような事件が起こるのだが、概ねは飲み食い場面での会話で話が進んでいく、いずれにせよなんというかホン・サンス作品だ。間でクビになった元演出の学生がジョンイムに再任を求めてねじ込み口論になったりする場面もあるにはあるのだが…。また最初、途中、最後にうららかな晩秋?の日差しの中、スユ川のほとりに座ったジョンイムがスケッチをする場面がなんかこの映画の印象を決定する感じで、ホン監督の役者キム・ミニへの愛情?を感じさせるのも興味深い。(11月30日 丸の内TOEI 266)
⑲-⑪何処
監督:蔡明亮 出演:李康生 亜儂弘尚希 2022台湾 91分
出だしはシャワーを浴びる青年アノン、印象的な深い青のタイルを張った浴室で後ろ姿ながら全身を丁寧に丁寧に1カットの長回し。そのあと今度は顔のアップでまたまた丁寧に丁寧にクリームを塗りこみ、最後になぜか緑のドーラン化粧(この意味はわからない)。その後は例によって赤い衣を身にまとった僧形?の李康生が裸足の片足を高く上げる不思議なスローモーションの歩きで町のさまざまな景色の中を歩き、あいまに普通の今風青年の日常的ワンカットシーンが挟まれ、最後まで続く。多分途中で寝ているのかもしれないがどこかを飛ばしたからと言って意味が分からなくなることもなくーていうか凡人には最初から意味がよくわからん。が、しかし見ながらいろいろ取り留めなく思考が走るのは確かで、その意味ではなかなか面白い映像体験。セリフはほぼなく、若い亜儂弘尚希(原住民族かしらん?)の行動はまだ意味が分かりやすいけれど、李康生のほうは無表情、同一動作のみなのでむしろ背景のほうを楽しむ?感じになる。それに耐えうる役者李康生のすごさを今更感じたというところか。途中この男の歩く姿に目を止めるパリの人々が珍しく画面に介入している。蔡明亮の極みだな、といっている人がいた。行者シリーズ第9作。(12月1日 丸の内TOEI 267)
⑳ー⑫ 無所住
監督:蔡明亮 出演:李康生 亜儂弘尚希 2024台湾・アメリカ 79分
こちらも『何処』と同じコンセプトだが、出だしが川のほとりをあるく行者、続いて緑の美しい森の中、というわけで『何処』の街が舞台というのとは違って自然の中を彼は歩くのかなと思ったが、そうでもなくやはり、街あるいは大きな建築構造物ののようなものの中を歩いたり、レンガの壁が続く道を歩いたり、いずれも僧衣の鮮やかな赤とさらにそれに退避するようなさまざまな原色、また自然の色の美しさなどが際立って視覚的に訴える作品になっている。特に真っ赤に塗られた大きな自動ドア?のような上下扉の構造物から真っ赤な衣装の李康生が浮かび上がり現れて、外に出ると赤い上下扉が閉まっていくという真っ赤なシーンの鮮やかさが印象的。アノンのほうは今回はラーメンを作り食べるシーンの一部始終など。しかし半分寝ていても目に入ってくる静かでスローで美しいシーンに揺蕩っていればいいという案外怠惰な気分が喚起されて、見て損をした?という気がしないところがすごいな…(12月1日 丸の内TOEI 268)
今年のフィルメックス受賞作品(観客賞以外は「コンペ」作品対象)
最優秀作品賞 『四月』 デア・クルムベガスヴィリ監督(ジョージア)
学生審査員賞・審査員特別賞 『サント―シュ』サンディヤ・スリ監督(インド系イギリス)
スペシャル・メンション『白衣蒼狗』チャン・ウェイリャン監督(シンガポール)
観客賞 『未完成の映画』ロウ・イエ監督(中国)
↓審査委員のメンバー(3人。審査委員長はロウ・イエ氏/受賞者たちの勢ぞろい
ですので、実際に選ばれた作品と私が面白く見た作品には相当にズレがある。また多分そういうタイプの長回し映画ではないと思われた『サント―シュ』は夜9時からの上映回しか見るチャンスがなく、結局買ったチケットを流して帰ってしまいました。残念。劇場公開を期待しています。
というわけで、少々情けないフィルメックス報告になりました。
長々お付き合いありがとうございました!
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